新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A

NO.109  集金中に犬に噛まれてケガをしたのですが労災は出ますか?


投稿者 匿名希望 新聞販売店勤務 2005.6 3 PM 9:28


新聞の集金中、犬に噛まれてケガをしました。労災が降りないと所長が言うのですが、その理由は、集金中だからと言います。

私は、販売店で労働契約書を書いた時に労働時間は、7.5時間くらいだったんですよね。しかし、現実は、集金、営業等で一日15時間くらい拘束されている訳なんです。

所長の言うには、集金業務と営業業務は労働時間の内に入らないということです。

だから、その時間に起きたことは販売店に責任がないとのことです。

集金中の時間、営業の時間というのは、一体、業務の中でどういう位置づけになるのでしょうか?

普通にに考えれば、その時間は、残業扱いというか、そういう風になるのでは?と思ったもので・・・。もちろん、残業代などは出ません。

まあ、そんな扱いにしたら、販売店は、経営が立ちゆかなくなるでしょうが・・・。(販売店の経営が立ちゆかなくなったら、新聞社の側も困るだろうから、知らない振りをするような気がする)

ここいら辺は、思いっきりのグレーゾーンになるような気がする。思いっきりの勘違いなのかもしれないけど。ここら辺りの詳しいことを教えて下さい。


回答者 ゲン


あんたのように、仕事中に犬に噛まれてケガをしたというのは、販売店の従業員に限らずワシら拡張員にも多い。

大抵は客先でや。本来なら、そこに文句の一つでも言うて、治療費と慰謝料を貰うたらええようなもんやけど、そうはいかんことが多い。

そこで、契約でも貰うたら、販売店は客には文句は言わんといてくれとなる。契約を解除されたら困るというわけや。それなら、ケガは販売店持ちかというと、そうやない。自分持ちや。

この業界は、ケガと病気は自分持ちという考えが強い。ワシも長いことそれに慣らされて来たせいか、その販売店の言うことを特別、妙なことやと思わなんだ。

しかし、あんたの話でちょっと、分からんようになった。泣き寝入りというのも、あんたは納得出来んことやと思う。せやからこその相談やとも思う。

労災の件はどうやろ。やはり、犬の飼い主に請求せなあかんようにも思う。不確かなことで、あんたにええ加減なことを言うわけにはいかんから、ハカセが例によって当サイトの法律顧問 今村先生に、労働時間に関しても併せて意見をお願いした。

当たり前やけど、さすが専門家の先生は違う。先生の回答でワシもちょっと認識を変えなあかんと思うた。少なくとも、こういうことで人にアドバイスする時はな。

今回に関しては、今村先生の回答をそのまま、あんたへの回答にしてもええくらいやと思う。非常に分かりやすくて納得出来る。

まずは、ハカセの今村先生への質問メールから先に言う。ハカセもワシといろいろ話しとるから、いつの間にか、業界のしくみというか風潮に毒されとったようや。もちろん、それはワシも一緒やけどな。


ハカセです。
いつもお世話になっています

今回、労災保険の件、労働時間に関して、読者からの質問があったのですが、教えて頂けないでしょうか。相談者は新聞販売店従業員の方です。

(ここで、あんたからの質問内容を説明しとる)

という相談です。

当方の見解としましては、犬に噛まれてケガというのは、その状況にもよるでしょうが、飼い主に責任があるのではないかと思います。

労災というより、交通事故などと同じ事故災害になるのではないでしょうか。だから、損害賠償はその飼い主にするべきではないかと考えます。

但し、これが、野犬などの飼い主が特定されない場合は、私どもも分かりません。この場合は、労災が適用されてしかるべきではないかとは思いますが。

労働時間の件ですが、一般に販売店の業務は、午前2時頃から午前6時30分頃までの朝刊配達時と午後1時から午後4時頃までの夕刊配達時で、この相談者の言う7.5時間くらいというのは、その時間帯のことです。

その他に集金業務というのは月に10日ほど、その業務外の時間で行うことになります。

この場合、この相談者の言う通り、大半の販売店では集金手当といって、回収率により報償金を出しているので、労働時間による時給扱いにはしていません。

勧誘などの営業もそうで、1契約に付きいくらという補償金を出しているので、集金の際と同じ扱いです。

販売店サイドの言い分を言うと、それを、業務時間と認め、残業としての時給扱いにすると仕事してなくてもしたと言えばいくらでも残業時間の水増しが出来、店の経営は成り立たなくなるというのがあります。

下手をすると、新聞代の集金以上に、その残業代がかかることが予想されます。集金も一度で済めばいいのですが、客が都合が悪かったり持ち合わせがないということもあり、留守ということも考えられます。

そうすれば、必然的に何度も行くことになり、結果的に時間がかかるということです。

中には、夜遅くでないと会えない客もいてるでしょうし、そのための待ち時間まで残業の部類になるのかということも起きてきます。

従業員サイドはそう思うし、経営者側はとんでもないことだと考えるわけです。

営業に至っては、営業するだけで残業代が必要なのかということになります。成果がゼロでも、それを払うのはどうかというのがあります。

中には、不真面目な従業員もいて、残業代目当てに、仕事もせずしたというのは十分考えられることですからね。

ただ、反面、多くの販売所は、従業員に対して過酷とも言えるノルマを課しているということがあります。従業員側にしてみれば、強制的にそうさせられているという思いです。集金も同じです。

余談ですが、その過酷とも言えるノルマが、先日の勧誘事件を起こすことになる一因でもあるわけです。

ですから、こういう相談が出て来ると思うのです。法律的なアドバイスということになると、こういう問題は、私たちでは難しいと言わざるを得ません。

今村さんのお力をお借りしたいと思いますので、よろしくお願い致します。


これに対しての今村先生の返答や。


こんにちは。

犬の飼い主が誰であるかは関係ありません。労災が適用された場合、飼い主が特定され責任があるとしても一旦労災保険が給付され、国がその飼い主に求償すると思います。野良犬ならそれができないというだけです。

集金は業務外という理屈は、私には納得しかねます。100%歩合制だから労働じゃない・・・ここまでの理屈は分かります。

では労働じゃないんだから断る自由もなきゃおかしいです。私は労働である配達はしますが、請負の集金はしません。そんな自由が認められるとは到底思いません。

集金は業務に付随するどころか、業務そのものです。従業員の承諾なしにそれをやっているとしたら36協定違反や、残業代の未払いなども含め経営者サイドの責任は重いです。

労災を適用するか否かは最終的には国が決定することです。一つ一つのケースを慎重に取り扱うわけです。私はこのケースは適用される可能性が高いと思います。

労災じゃないよ。だめだよ。と言われても審査請求できます。それでもだめなら再審査請求できます。それでもまだダメなら処分取り消しの訴えを裁判所にします。

ただ今回は、適用されるんじゃないかと私は思うんです。

そもそもその販売店は労災に入っていない可能性もありますね。労災にちゃんと入っていれば労働基準監督署にとっては、配達と集金の業務上の取り扱いの違いなどどうでもいいですから労災として認定してくれると思います。

未加入がバレると困るから店側がおりないよ、などと適当なことを言っているんだと思います。

労災に入っていたとしても、事故があると監督署は警察権を行使して不正がないかどうかを調査しますから、やばいことにもなりかねません。

拡張が請負なのは100歩譲ってまだ納得できます。「オレはこれだけ稼げばいいから もうやらないよ」って主張ができるでしょ。

集金はどうですか? 集金の命令を拒めますか? 事実上強要されるでしょ?それは労働に他なりません。

集金を業務外にしているのは、業界全体が労働基準法に抵触している恐れありと私は判断します。

労災発生を皆無にすることはできません。心ある経営者は従業員が仕事で怪我をした場合、惜しみなく厚い保護をするはずですから労災適用だって喜んで協力するはずです。

社労士と顧問契約してたら、プロを使ってなんとか労災を認めさせようともしてくれるはずです。労災を使われてヤバいということは、まともな事業主にはありえないことです。

役所が出てくる事で本当にヤバいか、大丈夫なのにヤバいと勘違いしていることで販売員の権利が侵害されるならそれは大変残念なことですね。

私の見解では100%労災事故です。そして90%以上の確率で労災適用されるはずです。

犬に噛まれた怪我の重大性と販売店が当局の調査の対象になるリスク。販売店と従業員の良好な関係の維持。トータルに考えて対処されればよろしいかと思います。

労災隠しは重罪です。今回のようにグレーゾーンで事故が起きた場合でもこうした事故が起こったことを監督署に報告すべきです。労災かどうかは当事者が判断することじゃありません。国が決めることです。

「新聞拡張員ゲンさんの嘆き」HP法務顧問
行政書士・社会保険労務士  今村英治


以前、労災についてのアンケート依頼したQ&A NO.71では、圧倒的に業界の常識としてケガについては自分持ちという概念が強かったが、先生も言われる通り、心ある販売店はそういうこともちゃんとしとると思う。

もし、それらで、そういう労災問題、就業問題はちゃんとしとるという所があれば、サイトまで報告してほしい。ここで、その意見を取りあげたいと思う。

ワシも、改めて業界での常識というものについて考えることが出来たように思う。言うまでもないが、常識がすべて正しいということはない。多数決が必ずしも正義とは限らんということと一緒や。

ただ、世の中、正義だけを主張しても軋轢を招くということがある。それをいかにして、相手に知らせるかが、問題やと思う。

こういうことは、問題が起きた時に言うのやなく、普段の何気ない会話で交わしといたらええのやないかな。

例えば、あんたの店が今村先生の言われる通り、労災に加入してないと思われたら「労災に加入してないと大変なことになるらしいですよ」とでも世間話風に言うとけばええ。

「そんなことをどこで聞いた?」という話になったら、迷わず、このサイトの名前を挙げてくれて構わん。それで、分かる人間は分かるはずや。分からん人間は実際に、大事にならん限り、分からんやろと思う。

但し、相手が分からんと思うたら、それ以上は何も言わん方がええ。

忠告してこれを善道し、不可なれば即ち止む。

ということや。正義も押しつけは、言う人間にもええ結果として返って来んということがある。その時は、相手は所詮、その程度の人間として、付き合い方を決めた方がええという教えや。

尚、ここでの今村先生の回答は、そのまま『ゲンさんのお役立ち情報 その1 労災についての情報』でも、補足として付け加えとくつもりや。


追記

今村先生よりこの件に関して、追加情報を頂いた。


ハカセさんにメールした後に こんな記事をネットで見つけました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050603-00000004-yom-soci

最高裁の判決で裁判長は次のように言っております。
「研修医には教育的側面があるが、病院のため患者の医療行為に従事することも避けられず、労働者に当たる」

これを次のように類推できないでしょうか?
「販売店の店員の集金実務は請負契約との見方もあるが、販売店のため読者の購読料を徴収することも避けられず、集金業務は労働者としての業務である。」

労働者としての業務か否かは「販売店のため」「避けられず」というところにありそうです。

あくまでも私見です。


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