新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.1165 息子を辞めさせたいのですが、どうすればいいのでしょうか?
投稿者 匿名希望さん 投稿日時 2012. 9. 8 PM 8:51
どうしていいのかわからず、ネットを検索していたら、そちらのHPを知りました。
ご相談したいのは、借金のある新聞販売店を辞めさせることができるのかという事です。
現在、私たち夫婦には今年30歳になる独身の息子がいます。その息子が、ある新聞販売店で働いているのですが、「生活費が足りないから金を貸してくれ」と言って、毎月のように5、6万円ほど持っていきます。
私たちは現在年金暮らしで、それほど余裕がありませんので、いつまでもこんなことを続けるわけにはいきません。
息子には「そんな会社は辞めろ」と言っているのですが、「借金があるため辞めさせてもらえない」と言います。
その借金というのが、集金で支払ってもらえなかったお客の新聞代金を立て替えたり、営業のノルマが達成できないために自腹で新聞を買わされたりしたというものらしいのです。それがあるため給料は毎月赤字です。
何とか息子を辞めさせたいのですが、どうすればいいのでしょうか?
宜しくお願い致します。
回答者 ゲン
今回のような、相談は当事者、つまり息子さんがどうしたいのかによって、当方の回答、およびこの件に対しての対応がまったく違ったものになる。
『「借金があるため辞めさせてもらえない」と言います』ということからすると、息子さんには辞めたいという意志はあるように思えるが、それを確認して欲しい。
それも、このケースではかなり強い意志が必要になるから、息子さんにその気持ちがない限り難しいと言うしかない。
あんたの気持ちはワシも人の親やから良く分かるが、息子さんは未成年とは違うから、親の意思だけで強制的に辞めさせることはできんさかいな。
結論から言うと、息子さんが辞めたいということであれば、例え借金があろうと退職することはできる。
「辞めるのなら借金を払ってからにしろ」とは良く聞く台詞やが、就業の自由は借金のあるなしには関係がない。法律的にも、それを理由に自由を束縛することはできんと決められている。
借金は借金で別途返済すると言えば問題ない。その支払い方法も支払い可能なもので構わない。
それにその販売店の経営者が応じず揉めるようやったら、その詳しい状況と一緒に知らせてくれれば、いろいろな対処法があるので心配されることはないと言うとく。
「通常、退職するなら辞める1ヶ月前に言うもんや。いきなり辞めるやなんて認められへん。法律で決まってるんやで。それやったら訴えるぞ」と言うアホな新聞販売店の店主が稀にいとると聞くが、それは認められん。
法律で決まっているのは、解雇する場合、労働者に対して30日前に予告通知する義務が事業所にあるだけで、労働者には関係のない法律でそれを守る義務はない。嫌ならその日からでも辞めることはできる。
もっとも、新聞販売店の店主にしてみれば、人手不足による配達人の手配が難しいということで、そう言いたい気持ちは分からんでもないがな。また、法律云々とは別に数日前に辞める意志を伝えといた方がええのは確かや。それが常識というもんやと思う。
『集金で支払ってもらえなかったお客の新聞代金を立て替えたり』というのは、俗に「切り取り行為」と呼ばれているものや。
切り取り行為というのは、新聞講読料の集金には期日が決まっていて、それまでに回収できなかった場合、担当者が給料で一時立て替えするシステムのことを言う。
これは集金できないのは集金人の責任やという理屈から、そうなるらしい。
集金に使う証券は二枚構成になっていて、一枚が店に提出する控え、もう一枚が客への領収証になる。
給料精算時、店側の控えを切り放して渡すために「切り取り」と呼ばれ、その分は給料に含まれるとされる。ちなみに「切り取り」をした後で集金ができれば、その担当者のものになる。ただ、集金不能になるケースも多く、その場合は当然のように担当者の負担になるという。
もちろん、こんなことは違法や。
これについて当方の法律顧問を無料でして頂いている法律家の今村英治先生から、以前寄せられた見解があるので、それを知らせる。
お問い合わせにあった「切り取り行為」というものは、労働基準法に定められた「賃金全額払いの原則」に反し違法です。
たしか集金の仕事は、業務外の請負という形になっていることが多いのでしたよね。そもそも この制度そのものが違法性が高いとNo109でお返事したのですが・・
それはさておきまして、では「集金」が労働でなく「請負」であると仮定します。
集金という請負において、締め切りに間に合わなかった場合の切り取りというのは、販売店の集金人に対する債権譲渡に該当しましょう。
立て替えはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払です。これは労働の対価として支払う賃金とは本来全く無関係であるものです。
ですから、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し明らかに違法です。
そしてこれはあくまでも労働ではないですから「オレは集金しないよ」と言ったことでクビにされたりなんかしたら、根拠のない不当解雇になります。「集金」は「労災も残業代も出ないよ。労働じゃないんだから」という店側の理屈を前提にするなら、じゃあ給料から差っ引くのは明らかにおかしいよってことです。
ところがNo109でもお返事しましたが、契約上どのような取り決めになっていようと、外形上判断すると、集金業務は労働です。
多くの社会保険労務士及び労働基準監督官は、これを労働とみなすんじゃないでしょうか。
では労働とした場合、非常に苦しい詭弁なのですが、期日までに集金できなかったので、店側に損害を与えた。従って集金人たる労働者が店に対し損害賠償債務を背負ったという「ヘ理屈」を前提にしてみます。
期日に間に合わなかったとは言え、いずれ回収できそうな債権であるならば、その時点での損害賠償額を算出することは難しいと思いますし、そのようなあやふやな状態で給料から差っ引くというのはやはり「全額払いの原則」に抵触すると思います。
法律的にシロクロはっきりさせるためには、 そもそも集金業務が請負なのか労働なのか最初に明確に定義する必要がありそうですね。
労働である場合
労災保険が適用になる。時間外割増賃金が発生する。「集金してこい」は業務命令。労働契約の一部。サボったら当然懲戒の対象となる。
請負である場合
労災未適用。賃金ではなく請負代金。店と集金人の請負契約。集金や切り取りを拒んだことで給料を下げられた・解雇されたとなると、これは不当な理由による不利益処分となる。
店側にとって労働でも請負でもないグレーゾーンにすることで、双方のいいとこ取りをしているように以前から思っていました。
いずれにしても切り取りは債権譲渡という商取引ですから、労働契約とはなんら関係のないことです。商取引である以上、切り取りそのものには違法性はありませんが、労働条件・労働契約に密接に関連していたりすると途端にいかがわしさが増しますね。
こうしたことを条文では直接定めていないですし、判例もないので、私も様々な類推解釈をせざるを得ないのですが、新聞代金の集金業務は、購読契約や配達と密接に関連しており、事実上「集金してこい」という命令を拒めないのであれば、その集金業務だけを切り離して「請負」とし「労災の対象外」とすることは非常に無理があります。
ましてや半ば強制的に債権を譲受させられてしまうという状況は劣悪です。
「切り取り」を店側からオファーされた時は、法律的には「債権を買いませんか?」というセールスをされているだけなので、「いいえ、いりません」と言えなきゃおかしいです。
「いいえ、いりません」と言ったときに「じゃあ あんたクビね」と言われたら不当解雇です。少なくともこれだけはどんなお役人も認めてくれると思います。
ということや。
『営業のノルマが達成できないために自腹で新聞を買わされたりした』というのは、「背負い紙」の可能性が高い。
新聞業界に関心のある方やと「押し紙」というのを聞いたことがあると思う。また「積み紙」というのを知っている人もおられるかも知れん。
しかし、さすがに「背負(しょ)い紙」という言葉まで知っている人は、業界以外では少ないと思う。
その「背負い紙」について説明する前に、押し紙や積み紙のことにも少し触れとく。
それが、分からんと、この「背負い紙」を理解できんやろうと思うしな。
押し紙というのは、新聞社の販売目標に合わせて、専属の各新聞販売店に、その部数を強制的に買い取らせる行為のことをいう。
業界では悪質な新聞勧誘の実態と同様に、長くタブー視されてきたものや。触れることの許されないアンタッチャブルなものでもあった。
過去、この押し紙の存在に触れたがために、運営を休止に追いやられた販売店関係者のHPがいくつかあったと聞く。
「押し紙」は、公正取引委員会の新聞特殊指定において、禁止行為の一つにもなっとるものや。特に罰則規定はないが、法律違反には違いない。
その存在が明らかになれば、新聞特殊指定が外され、新聞業界は窮地に立たされることになる。
積み紙というのは、この押し紙とは逆で、新聞販売店自らの意志で余分な新聞を買う行為のことをいう。
大型店と思われたいという見栄や改廃(契約解除による強制廃業)逃れ、担当員の受け狙いなど理由も様々やが、こちらの積み紙については新聞社の積極的関与はあまり考えられんのやないかと思う。
その押し紙、積み紙があるために、「背負い紙」というのが存在する。
「背負い紙」の被害者は、押し紙、積み紙をさらに強制的に押しつけられている一部の販売店の従業員たちや。
世の中の仕組みすべてについて言えることやけど、理不尽なことというのは、常に、より立場の弱い者へ順繰りに押しつけられていくという現実がある。
新聞社から販売店へ。販売店からその従業員へ。そして、従業員の中でも、店長、主任クラスから一般従業員へと、より立場の弱い人間に、その負担がのしかかるという構図になっとるわけや。
専業と呼ばれる販売店の従業員にも勧誘のノルマがある。そのノルマが過酷な販売店も多い。それに加えて止め押しという担当地域の継続客の契約更新を100%要求される。
そのノルマがクリアーできたら問題はないが、なかなかそれが難しく、できん者の方が多い。きつい販売店やと、そのノルマが果たされへんかったら、かなり厳しく叱責されるということや。
その叱責を逃れる目的で「背負い紙」というのをする。また、それを強要する販売店もあるという。
つまり、「背負い紙」とはノルマの不足分の新聞を身銭切って買い取るというのを意味する言葉なわけや。
ポイントは、販売店が強制しているのか、自らの意志なのかということになる。
前者の場合は違法性が高く、後者の場合は販売店の違法性を問うのは難しい。
いずれにしても現在、殆どの新聞社では、そのような「切り取り行為」は禁止されているさかい、普通のまともな新聞販売店は、そういうことは一切ない。また従業員にもそんな真似はさせない。
ただ、新聞社から「切り取り行為禁止」の通達があったことを従業員に知らせてないケースが多いということではあるがな。
ノルマがクリアできたら問題はないが、できん場合、架空の客を作ってニセの契約をでっち上げる。その架空の部数分を負担する行為が「背負い紙」と呼ばれている。
「切り取り行為」や「背負い紙」による借金は法律上、従業員の借金とは言えない場合がある。実際に争われた裁判では従業員側の謝金とは認められないということで勝訴しているケースがあるという。
つまり息子さんの場合もそうなるかも知れんということや。もちろん、個々の事案で違いがあるさかい、それについても詳しい状況が分からんと何とも言えんがな。
息子さんのケースが、その「切り取り行為」や「背負い紙」に該当するのか、どうかを確認されることを勧める。上手くいけば、かなり借金が減額されるかも知れんさかいな。
そういった「切り取り行為」や「背負い紙」を強要する新聞販売店は業界では悪質な部類に該当するから、その場合は毎月の給料明細書の確認や雇用契約書、および就業規則の有無の再確認などをしておくのも後々有利になると言うとく。
息子さんが辞めたいと言われるのやったら、そういう販売店とはかなりの確率で争うことになるやろうから、その心づもりはしておいた方がええ。
これ以上のアドバイスは、詳しい状況が分かってからにしたいと思う。
結論として、本人さえ辞職の意思があれば借金の有無に関係なく辞めるのは可能やということや。
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