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NO.1261 ゲンさん、もし戦わば!


投稿者 Tさん  投稿日時 2014. 1. 1 AM 3:00 


空手有段者の宮下を倒した【サラブレッドのマサ】と、柔道有段者のゲンさんが殴り合いの喧嘩に発展した場合、どのような戦術で戦いますか?

またゲンさんの喧嘩術は、空手やボクシング等の打撃にも対応できますか?


回答者 ゲン


あけまして、おめでとう。

あんたはいつも意表をついた質問をして来られるが、今回のも面白いな。よくそんな発想が浮かぶものやと感心する。

『空手有段者の宮下を倒した【サラブレッドのマサ】』というのは、今から9年前の旧メルマガ『第37回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員列伝 その1 サラブレッドのマサ 前編』 および『第38回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員列伝 その1 サラブレッドのマサ 後編』で話した内容やと思うが、実際にはマサとワシは仲間やから殴り合いの喧嘩に発展するということなどは考えられん。

まあ、仮定の話ということやから、そのつもりで答えるしかないとは思うが。

『どのような戦術で戦いますか?』ということやが、喧嘩というのは突発的要素が強いさかい、スポーツや格闘技の試合のように事前に戦略を立ててやるようなものではない。たいていは、いきなり始まる。

それでもマサは小柄ながら俊敏な男で喧嘩慣れしていて気性も荒いということが分かっているので、そのつもりで戦う。

具体的には、数発程度の打撃は食らうものと覚悟して腕ないし、足の関節を取る戦法に徹する。組み付けば勝機が高いと信じてな。

『またゲンさんの喧嘩術は、空手やボクシング等の打撃にも対応できますか?』というのが、広義の意味での「喧嘩術」ならワシに限らず、誰にでもそれは可能や。

どんな相手にも勝つ方法は必ずある。少なくともワシは、そう信じている。

空手やボクシングというても軽量級から重量級までいろいろある。K1王者やったセーム・シュルトのような巨人空手家もいれば、ボクシングのヘビー級チャンピオンやったジョージ・フォアマンような68KO勝ちしたという化け物もいる。

彼らは巨体と怪力、格闘テクニックを備えているさかい、ワシのようなちょっと柔道がっただけの一般人が肉弾戦で挑んでも勝てるわけがない。

ただ、それはルールが存在する格闘競技の場合で、喧嘩は違う。喧嘩に反則はない。目つきもあれば金的蹴りもある。首を絞めてもええし、噛みついても構わん。何でもアリや。

すべての格闘競技で反則とされていることが喧嘩では必殺技になる。そういう喧嘩ならワシは得意や。何の自慢にもならんがな。

また、喧嘩ではセーム・シュルトやジョージ・フォアマンのような巨漢格闘家相手に素手で対抗する必要もない。そんな相手と知っていれば、さっさと逃げるが、どうしても戦わなければいけないのなら、それなりのやり方で対する。

例え卑怯やと言われようが、肉弾戦で勝てそうにない相手には勝てる武器を使うのも喧嘩ではアリやと思う。言えばハンデみたいなものやな。

一般的にヤクザの暴力がなぜ怖いのか。それは勝つためには手段を選ばんからや。

素手の相手には木刀などの武器を持ち、刃物を持った相手には拳銃を持って対する。常に相手より有利な得物を用意して対抗する。ヤクザの喧嘩とは、そういうもんや。

もちろん、ワシはそんな真似を推奨するつもりはないが、喧嘩ではどんな手を使っても、それはすべて戦法になると言いたかったわけや。

お互いがルールを決めてゲーム感覚でする以外は、喧嘩というのは殺し合いやさかいな。生き死にの戦いに卑怯もへったくれもない。そのつもりがないのなら、最初から喧嘩などせんことや。

少なくともワシはそう考えとるから、相手がどんなに屈強で強そうな男でも怖がることはないし、逆にどんなに貧弱で弱そうな者に対しても油断することはない。

自信満々な人間より、臆病な人間の方が却って怖い。強い者は相手を舐めてかかるが、弱い者は必死に工夫して戦おうとするさかいな。

旧メルマガで『第116回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■殺人をしない、ひとごろしの話』というのをしたことがある。

これは時代劇の映画『ひとごろし』の内容を紹介したものやが、これには剣と槍の達人、仁藤昂軒を双子六兵衛という藩内で希代の臆病者として有名な男が、上意討ちの名目で戦うというストーリーや。

まともに戦っては百に一つも勝機がないと考えた双子六兵衛は、徹底して斬り合いによる直接的な勝負を避けた。

双子六兵衛の取り柄は臆病者故の逃げ足の早さやった。仁藤昂軒をつけ狙うが、けっして手の届く距離には近づかない。ただ、仁藤昂軒の体力を奪うことだけを考えた。

昂軒が茶屋に入れば、六兵衛が近くで「ひとごろし」と叫ぶ。「その男は、福井で人を殺してきた。近寄ると危ないぞ用心しろ」と喚き立てると、まず、茶店にいた客たちが逃げ出し、店の者もいなくなる。

宿屋でも同様で、昂軒が入ろうとすると同じように叫ぶ。すると、たいていの宿は宿泊を断って来る。

昂軒は、一時の休憩も食事も取れなくなってしまった。もちろん、六兵衛にいつ寝首をかかれるか知れたものやないから、落ち着いて眠るわけにもいかん。

そして、徐々に体力を奪われた仁藤昂軒は、頬がこけ、不眠と神経衰弱のため眼が充血し、唇は乾き白くなっていた。そのため自ら限界を悟り負けを認める。

昂軒が、天を仰いで言う。

「俺は、都に出て人にも知られ、あっぱれ古今に希なる人物と世間に認められるような人間になりたかった。名を挙げるには武芸に限ると考え、数多くの名人達人のもとで、長年に渡り血のにじむような修行をして、その道を極めたと思った」

昂軒は、肩で大きく息をついて続けた。

「それらは、皆、間違いだと知った。どんな、剣の名人達人でも、おまえのようなやり方にかなう法、それを打ち砕く術はないだろう。俺はあきらめた。俺の負けだ。俺は、潔くここで腹を切る。だから、きさまは俺の首を持って越前に帰れ」と。

これには大きな教訓が含まれている。それは強い者が絶対に勝つとは限らんということや。どんなに弱くとも強い者を負かす方法は必ずあるということを示唆している。

戦いに必要なのは、ただ一つ。それは戦おうとする勇気だけや。勇気があって、あきらめなければ勝機は必ずある。どうにかなる。そう信じられるどうかで喧嘩の勝ち負けは決まると思うとる。

あんたが、どういうつもりで、こんな質問をしたのかは知らんが、できれば喧嘩などせん方がええと言うとく。勝っても負けてもロクなことがないしな。


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