新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A

NO.145新聞購読料金の切り取り行為は違法なのでしょうか?


投稿者 tamaran さん 新聞販売店従業員 投稿日時 2005.9 2 PM 5:02


いつも楽しく拝見させております。自分は販売店で専業として働いております。自分の店では切り取りがあるのですが法的には違法なのでしょうか?ちなみに今月は切り取りを済ませたら給料は八千円でした。

切り取りというのは、新聞講読料の集金には期日が決まっており、それまでに回収出来なかった分を区域担当者が給料で一時立て替えするシステムです。

集金に使う証券は二枚構成になっており一枚が店に提出する控え、もう一枚がお客様にお渡しする領収証になります。

給料精算の時に店側の控えを切り放しお客様への領収証をもらうため切り取りと言います。ちなみに切り取りをした後で集金が取れたらそれは自分のお金になります。

なぜこのようなシステムがあるかは自分の予想ですが、集金の遣い込みやサボリを防ぐためだと思われます。

私は遣い込みを一切しないで一ヶ月の給料が八千円だったため、他の従業員に聞いたら硬貨が一枚だけやマイナスになることも少なくないそうです。一ヶ月働いて給料がマイナスになることに法的な違法性が無いか、また立証するためには何が必要なのか知りたいです。

どうしても泣き寝入りしたくありません。ちなみに給与明細には立て替える前の額が載っており、店には弁護士と税理士がついております。

一つお願いがあるのですがハカセさんが行われているアンケートで全国の販売店のうち何件くらい切り取り制度を導入しているかお聞きいただけないでしょうか?

同じ怒りを持っている人がどれくらいいるのかを知りたいのです。ワガママを申してすいません。


回答者 ゲン


この切り取り行為というのは、間違いなく違法や。昔は、結構あったと聞くが、まだ、そういうことをしとる販売店もあるんやな。せやけど、ワシの出入りしとる販売店では、今はそういうのはあまり聞かん。

参考までに、ワシらの方では、専門の集金人というのがいとる所が多い。集金だけの請負業務や。集金の歩合で報酬が決まるようになっとる。

販売店の近所の主婦がしとる場合が多いようや。回収率はどことも結構高いと聞く。顔見知りが多いからやろうな。

従業員が集金する場合は、それで、なかなか回収できん所や難しい所だけのようや。せやから、この切り取り行為という自腹を切るようなシステムは、ワシらの方では少ないのやと思う。

あんたの希望ということで、このサイトに日頃から協力して頂いている全国の販売店関係者の方々に、アンケートでその実態を、教えて貰うことにした。

それと、最後の方になるが、このサイトの法律顧問で、こういう問題の専門でもある社会保険労務士もされておられる今村英治先生から、法律的な見解を寄せて頂いているのでそれも併せて紹介する。


アンケート依頼内容

@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい


いつもながら多くの意見が寄せられた。結果は、ワシの予想通り、寄せられた回答の中には、この切り取り行為をしとる販売所はほとんどなかった。正確に言えば、1件だけそれらしき回答が寄せられた。

この回答者については、その詳しい事情を明かすことはできんが、そういう店のやり方にがまんできずに辞めたということや。あんたの立場に一番、近いと思うから、その意見から伝える。

これは、あんたと同じ新聞社系列の関東の販売店従業員やった人や。


切り取りという言葉は、初めて聞きましたが、要は、自腹を切るという事ですね。私個人で、昔、これと似た相談をさせて貰った事がありましたが、その時の結果を報告していなかったです。

私の場合は、何とかウヤムヤにする事が出来ました。というのは、その時、区域が変わって集金する人間が変わったので押しつけたのです。押しつけられなかったらどうなったのかは、今では、解りませんが、自腹を切らされたと見ています。

1)
自腹を切るというケースは、ありました。それは、集金担当の人間が、集金出来ないで、客が引っ越しした場合に発生していました。

店長から「なら、君の自腹ね」と軽く言われていました。(例え、相手がバイトでも言っていました)ここで卑怯なのは、給料天引きとかでは、無くて、その場で財布からお金を出させるというやり方です。

それで、集金の明細を処理して、自腹を切った人に受け取り証みたいなものも渡しませんでした。これだと証拠は、残りません。言われた側も、それが「仕方ない」みたいに考えていたみたいです。私なら、猛反発しますが・・・。

2)
上で示したようなやり方の為、回収不能という事は、無いと思います。

3)
こんな事をやっているから、新聞屋は、底辺職だと言われるんだと思います。結局、弱いところに押しつけて、店として、ちゃんと対策を考えていないだけなんですから。(専業というのは、社員なのだから、社員のミスは、店のミスの筈なのに)

これで、「人材が欲しい」と言われても良い人材は、そんなバックアップの無い所なんて、いかないでしょう。失敗とかミスとかは、誰にだってあるんですからね。

私が思ったのは、自腹を切らせる所というのは、店が底辺職と言われるのを望んでいるのだと思います。 底辺職にいるお前等専業は、自腹切るのは、当然だよ。という風潮を作りたいのかもしれません。維持したいのかもしれません。

無論、このような卑怯極まりない事をしない店もあると思います。新聞屋として、地位向上に頑張っている所もあると思います。そういった所は、頑張って欲しいと思います。


これは、ほぼ、あんたと似たようなケースやと思う。ただ、こういう意見が寄せられたのはこの1件だけやった。せやからと言うて、それをもって、こういうことは希なことやと決めつけるつもりもない。

それに、このサイトに協力して頂いている新聞販売店の方々は、すべて真面目に取り組まれておられる所ばかりやから、そういう違法がらみのことはされておられんということもあるやろうからな。

どうも、このサイトは、世間一般で言う、えぐい行為をしとる人間からすると、敷居が高いようや。共感できんのやろな。

ただ、ここで、あんたに一つだけ言うておきたいことがある。

人は、現在、おかれた状況が、そのすべてやと思うことがある。あんたの場合で言えば、新聞販売店の世界はこんなもんやということや。しかし、それは、あんたの店だけの特異な場合ということもある。

ただ、その特異な状況におかれた者は、それが、その世界のすべてのように思い込んでしまう。これは、あんたを責めて言うてるのやない。

ほとんどの人間が、そういう考え、あるいは思考に陥るからな。悪く言えば、一を知って十を理解したと思い込むということや。

それは、ワシについても言える。正直言うて、ハカセに、このサイトに協力してもええと返事をしたときは、拡張の仕事を10年続けとるから、何でも知ってると自分で自惚れとった。

しかし、このサイトを初めて、いかに自分が狭い範囲でしか、それを知ってなかったかということを痛感したもんや。まだまだ知らんことというのは、本当に多かった。どんな世界でも、それに精通するというのは至難の業や。精通してると錯覚しとる者は多いがな。

つまり、ワシが言いたいのは、あんたがおかれとる状況が、この業界のすべてやないというのを分かっておいてほしいということなんや。

せやないと、これから知らせる、幾つかのアンケートの回答にも納得できんやろしな。

次の回答は、あんたにも役に立つかも知れん。四国のあんたと同じ全国紙の新聞社系列の販売店の店長さんから、寄せられたもんや。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

A. ありません。しているお店は知っています。しかし・・・本社禁止事項ですよ!切り取りは・・・。

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

A. 給料引きらしいですね。

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい

A. 私の知りうる限り、これは昔、集金の金を使い込んでしまう従業員がいたから始まった、あるいは販売店経営を目指す従業員の育成も兼ねてと聞いています。
  
現在はやっちゃダメですよ。集金が出来ない、納金が出来ない従業員は手当てのカットこそあれ・・・まだ、あるんだよなぁ…。こんなんじゃ、新聞屋の価値なんて上がる訳無いのに。


この人の意見で、役に立つかも知れんて言うたのは『本社禁止事項ですよ!切り取りは』とあるからや。そうやとしたら、これを楯に、あんた所の販売店にそれを止めさせることはできるのやないかな。

「ある所で、うちの新聞社では切り取り行為を禁止しているという話を聞いたんですが、そうなんですか?」と、店長あたりに言うてみたらどうかな。

上手くいけば、効果があるかも知れん。但し、販売店もいろいろやから、その保証はできんけどな。ただ、それを言うて知らん顔をするような所は、救いはないやろなとは思う。

また、この店長さんから、追加情報として、こういう話を教えて貰うた。


補足になるかはわかりませんが、30年以上、新聞販売店に勤められた方がいましたので、その方の話を送ります。

切り取りは経験した事があるというか、大きい範囲を持つ(特に田舎)販売店は、25年ぐらい前まで結構あったそうです。

それが・・・集金の残証を給料袋に入れるとか、今回の件のようにそういうものではなく・・・。新聞の管理部数を切り取る、今でいえば孫請けスタイルだったというのです。

新聞の仕入れ、バイク、自転車、店の家賃、光熱費、拡張費、そういうものを売り上げから引かれ、残りが自分の給料だというのです。

聞いてて・・・「なんじゃそりゃ??」って感じでした。オーナーと言ったほうがいいかもしれませんが、店主が請求書(?)ならぬ、いいかげんな紙で「これだけ渡せ」みたいな感じだったらしいのです。

真面目に勤められた方(本社から賞状もらった)なので、言われておられることに間違いないとは思うんですが、信じられないよなぁというのが正直な思いです。

真面目に業務をこなす人は損をするというので、チラシの直請けのお金を誤魔化したり、実部数を少なく報告したりして…うまく稼ぐ人もいたそうですが、そういう人は長続きはしなかったそうです。

いいかげんな請求して金稼ぎしたオーナー店主も淘汰されていったそうですが、なんかすごい話ですよね。


ワシも、この業界に入った頃は、やはり、古参の販売店の従業員から、こういう業界の裏話は良う聞いた。ほとんどは、それに対する愚痴みたいなもんやったがな。その頃は、ワシも、この業界はそんなもんやとしか考えとらんかった。

拡張団のえぐさも相当なもんやったから、それを聞かされても、そういうこともあるやろうなと妙に納得もしとったからな。もちろん、今はそういう時代やない。

次は、経営者の立場でこの問題をどう捉えておられるのか、興味深い回答が寄せられとるから、それを紹介する。九州の、これも、あんたと同じ新聞社系列や。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか
 
私の店ではしていませんが、経験はあります。以前働いていたところでは、区域の管理手当、増紙手当、集金完納給が支給されていました。どうしても遅れる分は立て替えていました。給料からのマイナスはありませんが、賞与なのでは査定されていたと思います。
 
Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

管理手当がでる以上は、もちろん自分の責任です。

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい
  
店側から言いますと、集金率を上げることは、経営していく上で一番大事なことです。やり方はいくつかあるでしょうが、未回収金が少なく、廃証も少なくするのは、経営上もっとも必要なことです。

給料は生活給なので、そのままだとかわいそうですね。


経営者としての正直な意見やと思う。あんたが、これをどう捉えるかは分からんがな。ただ、あんたの所の販売店は、この考えを間違って理解しとるのやと思う。それと、昔からの慣習からまだ抜け切れとらんということもあるのやろけどな。

次に、関西で販売店の事務をされとる方から、面白い見方の意見を寄せられたから紹介しとく。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

うちの店ではありません。詳しくはわかりませんが、期日までに回収出来なかった分は店で立て替えているようです。

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

切り取り行為そのものはありませんが、購読料を滞納している方で所長が悪質と判断した場合は新聞を止めて滞納していた購読料をいくらか支払ってもらうケース、購読者の収入によって(年金生活の方や無職)多少値引きしたりするケースがあります。

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい

回収出来なかったケースにもよりますが、切り取り行為自体、店の経営状況に不安があるか集金にある程度のノルマを課しているかと思います。

通常の集金でなら購読者へ購読料の電話確認や、購読者によっては夜勤や遅くに帰宅する方もおりますので、そういう方に口座振替を勧めたり請求書と振り込み用紙を届けたりと集金人や従業員からの切り取り行為まかせでなく、店の方でも集金を促す努力は必要だと思います。


『切り取り行為自体、店の経営状況に不安がある』のではないのかという見方が、事務をされている方ならではと思う。

今も、切り取り行為を続けている経営者でも、他の多くの店では、それはすでに止めとるということは知っとるはずや。もしかすると、本当は、そういうことまでしたくはないのかも知れん。

ちゃんとした集金ができるのやったら、誰かに負担を強いる必要はないからな。その地域の事情がそうさせるのか、単に、そうすることが新聞販売店やと思い込んどるだけなのかも知れんがな。

次は、東北の地方紙の販売店の方からやけど、地方紙ではまったくと言うてええほど、そういう行為はないようやな。回答は他にも寄せられとるが、同じような内容やったから、代表して知らせる。


まず1、の質問に対してお答えいたします。

私はやった事はありません。めったに集金はしませんので。他の人はこの行為はしてないようです。

3、無理して立て替えるなら、まず、責任者に相談するべきだと思います。


簡単な回答のようやけど、これが実態やと思う。ここも、ワシらの地域と同じく、専門の集金人がおるようや。個別に、集金に対してのトラブルについては、それぞれで言うておられたが、今回はこの問題とは関係ないと思うたので、省かせて頂いた。

次のケースは、あんたと同じ地域の販売店の方からやが、あんたの所よりかは、かなり改善されとると思う。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

うちの店では月末までに90%、翌月9日までに97%が締めになっています。締まらない場合義務ではありませんが、集金手当ても違ってくることもあり切り取りをして立て替えることはあります。

また期日までに締まらないと所長から戦犯みたいな扱いを受けるので義務でないにしろ切り取りをして立て替えざるを得ないこともあります。

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

無断転居のケースは廃証として認めてくれます。また不良カード等の場合は契約者の自腹になり、それが拡張員の場合は拡張団に請求が行きます。

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい

店の財源確保の面と従業員の集金手当ての絡みである程度は仕方ないかもしれませんが、限度はあると思います。

うちは高級住宅街がバンクですので支払いもよく、切り取りしてもせいぜい2〜3件ですが、例えば知人の下町のバンクですと回収が大変だそうです。

給料から9万円天引きされたなんて理不尽な話も…。これではやる気をなくしますよね。店としても従業員としても双方が納得できるスタイルでないと集金業務は成り立たないですね。


ワシの印象なんやが、これが、その辺りの一般的な販売店やないのかと思うがな。どうなんやろ。次もあんたと同じ地域、新聞社系列やけど、かなり、それを裏付けとる回答のように思う。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

年2回あります。

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

ボーナスで引かれます。給料では引かれません。

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい

少し前までは、前担当の残証の引継ぎありましたが、いまはありません。(不平等ですので)この慣習は、あまりいいものではありません 。


次に紹介するのは、全国紙経済新聞社系の経営者の方からや。ここは、他の新聞販売店とは事情がかなり違うところもあり、どこまで、あんたの参考になるのかは分からんが、念のために知らせておく。

もっとも、集金ということにかけての苦労には大差ないが、ここは、顧客に企業が多いようやから、個人レベルの切り取りの入り込む余地は少なそうやけどな。


@そちらのお店では、この切り取り行為はありますか

ありません。

Aある場合、回収不能金の扱いは、どうなっていますか

Bこの行為についての、ご意見をお聞かせ下さい
 
経営者の立場からすると違法かどうかは判りませんが、従業員が納得(しかたなしに?)していればこんなに安心のシステムは無いと思います。

いくらのんびりやさんの集金担当でも人のお金ではなく自分のお金に直結すれば必死になって回収するし、お店はぜんぜん未収があっても痛くないし。ただし!こんな行為がこの業界自体のイメージを悪くしている原因の一つだと思います。

残証が出たらすぐに原因を調べて、所長もみんな総出で昼夜再度集金にいけば切り取りなんかにしなくても大体取れますよ。それでも取れなければ事故!廃証にします。

当店では以前、給料プラスアルファで集金完納特特別手当を出してあげて、期日までに所定枚数を集金していれば通常の給料とは別に手当てを発生させて集金のモチベーションを高めていました。

その際に設定枚数に数枚足らず、その数枚で手当てがもらえないのがいやで、自分で仮払いをして穴埋め、手当てをもらっていた従業員も存在していたのは事実です。集金率は上がったが、特別手当なので給料の支払総額が増えて経営は大変でした(笑)。

理想と現実、各販売店での環境の違い、系統の違い、自分は恵まれた系統の販売店でしか修行、独立していないので始めの数行ははちょっと理想論過ぎるのかもしれませんが、自分が従業員だったら、皆様は切り取りのあるお店で一生働きたいですか・・・。


この方も、言わんとされとることは、他の方々とほぼ一緒や。アンケートの総括としては、この切り取り行為に関して、1件を除いては、すべて否定的な回答が多かった。ほとんどのところではしとらんという結果や。

もちろん、実際には、あんたと同じ環境の販売店は、他にもあると思う。回答の中にも、そういう所の存在は否定しとらんかったからな。

最後に、法律的にはどうかということを、法律家の今村英治先生から寄せられた見解を知らせる。


さてご質問の件ですが、労働基準法に定められた「賃金全額払いの原則」に反し違法です。

たしか集金の仕事は、業務外の請負という形になっていることが多いのでしたよね。
そもそも この制度そのものが違法性が高いとNo109でお返事したのですが・・

それはさておきまして、では「集金」が労働でなく「請負」であると仮定します。

集金という請負において、締め切りに間に合わなかった場合の切り取りというのは、販売店の集金人に対する債権譲渡に該当しましょう。

立て替えはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払です。これは労働の対価として支払う賃金とは本来全く無関係であるものです。

ですから、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し明らかに違法です。

そしてこれはあくまでも労働ではないですから「オレは集金しないよ」と言ったことでクビにされたりなんかしたら、根拠のない不当解雇になります。「集金」は「労災も残業代も出ないよ。労働じゃないんだから」という店側の理屈を前提にするなら、じゃあ給料から差っ引くのは明らかにおかしいよってことです。

ところがNo109でもお返事しましたが、契約上どのような取り決めになっていようと、外形上判断すると、集金業務は労働です。

多くの社会保険労務士及び労働基準監督官は、これを労働とみなすんじゃないでしょうか。

では労働とした場合、非常に苦しい詭弁なのですが、期日までに集金できなかったので、店側に損害を与えた。従って集金人たる労働者が店に対し損害賠償債務を背負ったという「ヘ理屈」を前提にしてみます。

期日に間に合わなかったとは言え、いずれ回収できそうな債権であるならば、その時点での損害賠償額を算出することは難しいと思いますし、そのようなあやふやな状態で給料から差っ引くというのはやはり「全額払いの原則」に抵触すると思います。

法律的にシロクロはっきりさせるためには、 そもそも集金業務が請負なのか労働なのか最初に明確に定義する必要がありそうですね。

労働である場合
労災保険が適用になる。時間外割増賃金が発生する。「集金してこい」は業務命令。労働契約の一部。サボったら当然懲戒の対象となる。

請負である場合
労災未適用。賃金ではなく請負代金。店と集金人の請負契約。集金や切り取りを拒んだことで給料を下げられた・解雇されたとなると、これは不当な理由による不利益処分となる。

店側にとって労働でも請負でもないグレーゾーンにすることで、双方のいいとこ取りをしているように以前から思っていました。

いずれにしても切り取りは債権譲渡という商取引ですから、労働契約とはなんら関係のないことです。商取引である以上、切り取りそのものには違法性はありませんが、労働条件・労働契約に密接に関連していたりすると途端にいかがわしさが増しますね。

こうしたことを条文では直接定めていないですし、判例もないので、私も様々な類推解釈をせざるを得ないのですが、新聞代金の集金業務は、購読契約や配達と密接に関連しており、事実上「集金してこい」という命令を拒めないのであれば、その集金業務だけを切り離して「請負」とし「労災の対象外」とすることは非常に無理があります。ましてや半ば強制的に債権を譲受させられてしまうという状況は劣悪です。

「切り取り」を店側からオファーされた時は、法律的には「債権を買いませんか?」というセールスをされているだけなので、「いいえ、いりません」と言えなきゃおかしいです。
「いいえ、いりません」と言ったときに「じゃあ あんたクビね」と言われたら不当解雇です。少なくともこれだけはどんなお役人も認めてくれると思います。


『店には弁護士と税理士がついております』ということやけど、税理士は別にしても、弁護士の顧問がついてて、こういうことを容認しとるというのは、問題がありそうやな。

もっとも、弁護士というてもすべての法律に精通しとるわけでもないし、顧問の程度にもよるやろうから、どこまで、店側の力になるのか分からんけどな。

少なくとも、こういう行為を昔のまま野放しにさせとるというのは、どうかなと思う。弁護士というても、それこそピンからキリまでいろいろおるからな。

それについて何かアドバイスをしてたにしても、顧客である販売店が、聞く耳を持ってなかったらそれまでやろうしな。

しかし、現在では、多くの販売店が、トラブル防止のため法律の専門家を交えて、法律の勉強会をしとるのが普通や。新聞社からの販売店従業員を対象とした研修会でも、それは必ず教えるからな。

販売店で常習化されとった、この切り取り行為が違法やというのは、法律の専門家なら、当然のことやが、皆、知っとるはずや。

せやからこそ、ワシらの方では、集金業務だけを個別の請負業務として、従業員の業務から切り離しとるのやないかと思う。これなら、その違法性は回避されそうやからな。

ただ、全国的に見ても、それは、まだ一部の地域だけのようや。Q&A NO.98の集金に関してのアンケートでもそのことに触れとる回答はなかったからな。

本当は、銀行の自動振り込みとかコンビニ払いなんかに完全移行すれば、こういう問題は一切、なくなるんやろうけど、それやと、地域と販売店のつながりも希薄になりそうやから、なかなか、それに踏み切るのも難しいかも知れんな。

この集金時に客と触れ合うというのも、営業面を考えると意義のあることやしな。ただ、あんたのように給料も満足に貰えんという状況に、働いとる者が甘んじなあかんというのは頂けんがな。

『どうしても泣き寝入りしたくありません』という、あんたの真意がどこにあるのかは良う分からんが、それで、実際に謂われもない金額を負担して損害を被っとるのやったら、法的にその金額の返還を求めることもできると思う。

従業員に押しつける切り取り行為の違法性を実証するのは、それほど難しいことやないからな。

『立証するためには何が必要なのか知りたいです』ということやけど、手に入る関連書類は、どんなものでも入手しとくことや。それと、後は、その状況を克明にメモしとくことやな。

これは、ワシが良く裁判所で、民事裁判なんかを立ち会ったときに痛感したことやが、裁判所というのは、書類がものを言う場所や。裁判官は、それだけで判断すると言うてもええ。

つまり、その書類を上手く仕上げた方が有利になるということや。そのためには、日頃から、そのことについては記録を克明に残しといた方がええ。あんたのことだけやなしに、他にそれで被害に遭うとる人がおるのなら、その状況と証言なんかもな。

訴えんまでも、通報という手もある。その新聞社に言うのも、ある程度、効果があるやろし、労働基準局に相談するのもええかも知れん。

ただ、その前に、この問題に関して、ここでの助言をもとに、あんたの所の経営者に提言したらどうかなと考えるがな。

先に言うたことと、重複するけど「切り取りのような違法な行為は、新聞社もうるさいですよ」という程度の言い方でな。せやけど、それを言うても、無視されるか聞き入れて貰えないようやと、それ以上は、法的手段に出る以外は、何もせんと言わん方が無難やと思う。

忠告してこれを善道し、不可なれば即ち止む。ということや。

相手が間違っていると思ったら、それを指摘してよい方向に導くようにする。聞いて貰えないようなら、しばらく黙って様子を見る。それでもだめな場合は放っておく。それを押しつけて、嫌な思いや立場が悪くなるのはつまらんという昔の人の教えや。

それが、我慢できんというのなら、そういう仕事場は辞めるしかない。理解のない経営者のもとでは、何をしてもしんどい結果しかないからな。もちろん、どうするかは、あんた次第や。

何でもそうやが、アドバイスは参考で、それに従うことやない。最終決断は、常に自分で下すしかないということやからな。


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