新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.221 民法761条の夫婦相互の代理権について
今回、偶然にも、お二人の方が同時に、同じような質問というか、指摘を頂いたので、それについて、お答えしたいと思う。変則的な回答になるけど、ご理解、頂きたい。まずは、その質問を順次、紹介する。
投稿者 sabiko さん 投稿日時 2006.2.22 AM 9:56
はじめまして。いつも楽しく読ませていただいております。
さて、Q&A No.216 のゲンさんの回答のなかで、「例え、夫婦関係があろうと法律は成人の代理契約を原則認めとらん」とおっしゃってますが、ここが気になってしまいます。
というのも、最高裁判所の判決で、「民法七六一条は、夫婦が相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定している」とあるからです。
ここにいう日常の家事とは、夫婦の生活レベルに見合った食料費・医療費・家賃・教育費などの支払いを指す、といわれています。
とすれば、日常家事のひとつである新聞購読についても、妻が夫の名義で勝手に契約して法律上問題ないはずです。代理権は夫婦になった時点で生じているのですから。
その点、いかがでしょうか?
投稿者 S.S さん 関東 新聞販売店主任 投稿日時 2006.2.22 PM 11:09
いつも大変ご苦労様です。
これだけのサイトを維持、運営していくのは大変だと思います。
私も、楽しみに拝見させて頂いています。私は現在、関東の某店で主任をしております。
突然メールさせていただき失礼かとは思いますが、2点ほど質問させて下さい。
法務的なことですが、奥さんが旦那名義で契約しても日常家事債務(民法761)に該当するかも知れないので、ゲンサンの主張(契約はあくまで個人)は必ずしも正しいとは思えません。
もう一つは、未成年の契約は無効と言うような解釈は、民法4に有りますが民法5の3(多分)にふれている判断が無いのが難しいです。
私は学もなくけちを付けるような事はしたくないのですが、このサイトは、すでに公共性を有するレベルなので、ご検討頂ければ幸いです。
大変失礼致しました。
このサイトは私たち業界側の人間にも、消費者のお客様側にも有用なサイトです。
今後も、ハカセさん、ゲンサンともに健康で正しいサイトを永続していただきたいと思います。
回答者 ゲン
お二人のご指摘には、本当に感謝する。ワシは、正直言うて、民法761条のことは知らなんだ。それについては、日頃、偉そうに法律論をぶっとる癖に恥ずかしい限りやと思う。
所詮、拡張員やからという逃げは利かんわな。『このサイトは、すでに公共性を有するレベルなので』というのは別にしても、公に言うてることは事実で、少なからずワシの意見を信用して、あるいは参考にされている読者の方も、おられるからな。
訂正すべき所、補足すべき所は、そうする責任があると思う。
それにしても、このサイトの読者は有り難いといつも思う。本当に勉強になることが多い。
第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責に任ずる。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
早速、サイト顧問の今村英治先生に、この件についてご意見を伺った。
民法761条の件ですが、私見ながら、新聞購読は日常家事債務に該当すると思います。
該当しないもの(贅沢品など)不動産、アクセサリー類、妻の高級外出服
該当するもの 妻の普段着
新聞購読費は残念ながら判例はありませんね。
ハカセとも話し合った結果、今後、サイトでは、こういう相談については民法761条の条文と最高裁の判決を参考にアドバイスしていきたいという結論になった。
但し、新聞購読費について、日常の家事に関する債務になるということには異論はないが、その判例がないので確定的やないから、あくまでも参考意見ということになる。
加えて「ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない」と条文にあるからには、その契約を奥さんがご主人名義でするためには、ご主人がそれについて知っとることが望ましいということも言うとく必要があると思う。
せやないと、第三者、この場合、新聞販売店に対して、ご主人が「責任を負わない旨を予告すること」は不可能やからな。
販売店が「ご主人には内緒に」と言うて、奥さんがご主人名義の契約をするのは、やはり問題があるように思う。
契約者への確認は、販売店としたら絶対にしとかなあかんことやないかと考える。そして、その確認は、たいていの販売店が契約終了後の監査電話でしとるということがある。せやからこそ、こういう問題で揉めることが比較的少ないのやないかと思うからな。
ワシも奥さんが、自分の名義でした契約をご主人が連帯責任を負わなあかんというところまでは知ってた。
サイトの回答でも、奥さんが契約する際は、奥さんの名前でして貰う方がええとは言うてたからな。ワシもなるべく、普段の仕事でもそうして貰うようにはしとるしな。
しかし、ご主人名義でということが、引っかかってたから、ああいう「例え、夫婦関係があろうと法律は成人の代理契約を原則認めとらん」という表現になったわけや。
早速、この表現は撤回して、Q&A No.216 の相談者の方にも、その訂正の旨、連絡することにする。
ワシも長い間、契約は本人名義ですることが原則やと思い込んどったからな。今でも、それが望ましいとは思うとるが、例外的な法律があれば、やはり、それは示しとかなあかんやろと考える。
幸いQ&A No.216 の相談のケースは、ご主人の死後のことやから、これは、いくら奥さんやからと言うても、その名前で契約しても有効とはならんと考える。
その意味で言えば、指摘のあった部分と関係する箇所を削除しても、回答の内容に大差はないと考える。
ただ、ワシの回答を見て、そう解釈された人がおられたとしたら、大変申し訳ないことや。この場で、お詫びする。他にも関連した回答がないか、至急、調べたいと思う。
この件を知らせて頂いた、お二方には、本当にお礼を言いたいと思う。
尚、S.S さんの言われる『未成年の契約は無効と言うような解釈は、民法4に有りますが民法5の3(多分)にふれている判断が無いのが難しいです』については、民法5条は、財産の随意処分の許可に関してのもので、契約についてのものやないと、ワシは考えるがな。
それに、ワシは未成年の契約自体が無効やと言うた覚えもないし、その記載もないと思うとる。未成年が、新聞購読をすること自体、別に悪いことでも違法でもない。良うあることや。
ただ、民法4条において『未成年者と契約するには、原則として法定代理人(親権者)の同意が必要で、同意のない行為は、取り消すことができる』とは言うてる。
このことの質問を受ければ、こう回答するしかない。そして、ワシの知る限り、この例外は『未成年の既婚者や本人が未成年やないと告知しとる場合は、この限りではないとなっている』という認識や。
例えば『NO.183 未成年の契約解除の仕組みを教えて下さい』 の中でも『あんたが、その例外に該当しない未成年者であれば、契約の解除は法的には問題ない。しかし、これをあんたが直接、その販売店に主張しても難しい。
保護者である親御さんから「うちの子供はまだ未成年で、私はその契約を認めるわけにはいかないから取り消しにする」と言うて貰うのが望ましい。
その契約の取消権はその親御さんにあるからな』と、言うてる。その親御さんからのアピールがなかったら、取り消し、つまり、最初から何もなかったことにはできんわけや。
せやから、これについては、せっかくのご意見やが、今まで通りのワシの見解として、読者にはアドバイスをするつもりや。
ただ、誤解せんといてほしいが、未成年やからと積極的にそうアドバイスするつもりもない。それで、簡単に事が済むと思われるのも、その相談者のためにもならんと考えるからな。
相談者への苦言として『法律を抜きにすれば、あんたのやろうとしていることは、決して褒められたことやない。男が交わした契約という約束を、まったく自分だけの都合で責任もとらず破ろうとしとるのやからな』とも言うてる。
因みに、このNO.183 の相談者も、後日の返礼メールで、考え直してみると言うておられたけどな。
S.S さんも、新聞販売店としての立場も、あるやろけど、こういう未成年者、主に大学の1,2回生の学生さんとの契約については、慎重にされた方が無難やと思う。
と言うても難しいことやない。基本的には、気持ちよく納得して契約して貰うことや。納得さえして貰ってたら、こういうことを言い出す人間はおらんと思うしな。
他での相談で良うあるケースやが、相手が学生さんということで、高圧的な態度に出る販売店もあると聞く。そういう所とは、何とか解約したいと思うのが人情やからな。
いかついうるさそうな、おっちゃんも学生さんも同じお客さんやという気持ちやな。ワシは、少なくとも誰に対してでも、そう接しとるつもりや。
最後になるが、法律の解釈というのは、例えプロの法律家でも意見や解釈の分かれることは多い。まして、何の資格も持たんワシのような素人の言うことは推して知るべしや。
このサイトで言うてるワシのアドバイスを、納得して貰える人が参考にしてくれたらええと思う。ワシは、どんな相談のアドバイスも、一方的な押しつけはせんし、できんと考えとる。
せやから、最終的な判断は、相談者の方が決めるしかないというのは、終始一貫した姿勢のつもりやけどな。そのための材料は知る限り伝える。それが、このサイトの方針やからな。
ただ、そうは言うても間違いも勘違いもある。そういう意味では、今回のお二人の意見は、本当に有り難いものやったと感謝しとる。
これからも、こういうことがあれば、どしどし言うてやってほしいと思う。これは、読者の方々にも、お願いしたい。
補足
民法第120条に、行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。と、ある。
この制限行為能力者には未成年も該当する。それから言えば、未成年自身にも、契約の取り消しができると考えられる。しかし、このサイトでは、敢えてそれを相談者には、推奨せんつもりにしとる。
原則としての親権者による取り消しの方が、問題は少ないと考えるからや。それには、やはり、本人である未成年が、それと知りながら契約して、それを自ら取り消すというのは、いらんトラブルの原因になると判断するからな。
もっとも、それを主張するのは自由や。ワシが、それについて口を挟むこともできんしな。
ここで、一言、言っておきたいのは、ワシが法律云々を持ち出すのは、あくまでも、無法、違法行為に対抗するためやと決めとる。当たり前やけど、何でも話し合いで解決できた方がええに決まっとる。
例え、法律で決着できたとしても、必ず遺恨は残るからな。そういうケースは、何ぼでも見てきた。そして、法律も、たいていは自分の有利なものを引っ張り出して、その主張をすることに終始するもんや。それは、法律家も同じや。
せやからこそ、法律家同士でも、同一の事案で、意見、考えというのが別れるんやからな。その辺のところは、テレビの法律番組を見とれば良う分かるやろと思う。
このサイトでも、折に触れ言うてることやが、どんな事案も裁判で裁判官が判決を下さん限りは確定せんし、分からんもんや。もっと言えば、同じ裁判でも裁判官によって判決も違うということがある。
せやから、ワシは、法律の条文については、あくまでも確率的な意味での参考にしかならんと思うとる。