新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.300 押し紙について教えて下さい
投稿者 SAさん 投稿日時 2006.9.15 PM 11:21
今晩は。ゲンさんのおもしろい語り口につい夢中になり読み耽ってしまいました。こういっては大変失礼ですが、拡張員の方にこれほど見識の高い方がおられるというのは、ただ驚くばかりです。
今回教えてほしいことがありメールしました。それは、押し紙についてです。
私は10年ほど前、販売店で専業をしていたことがあります。その時は残紙と呼んでまして、それが押し紙のこととは知りませんでした。
毎日、午前2時頃にトラックで新聞社から配達された新聞の中から、結束したままの新聞を約20束ほどを離れのプレハブ小屋に運んでから作業を初めます。ほとんどが1束50部でしたから、1000部ほどになります。全体の約1割ほどでしょうか。
ある時、店長に、「何で毎朝、こんなことをするのですか。無駄なものなら最初から配達を断ればいいのではないですか」と聞くと、「予備紙だ。よけいなことは聞かずに、さっさと運べ」と不機嫌そうに言われました。
だから、そのことについて深く詮索することもありませんでした。しかし、それにしては多いなと感じていました。それに、予備紙というのなら何で先にしまい込むのかも不思議でした。
チラシ広告の残りも同じように、新聞紙に包んでその小屋に隠すように入れてました。その時も、チラシを入れる業者さんは、常に多めに持ってくるもんだなというぐあいにしか思っていませんでした。
だいたい10日くらいでその小屋はいっぱいになり、古紙回収業者のトラックが引き取りに来ました。そこに積み込むのも私たちは手伝わされていました。古紙回収業者からいくらか店は貰っていたようです。
最近になってインターネットを見ていると、押し紙のことを中心に書いているHPを見つけました。それを見て、ああこれだったんだなと納得しました。
ここで、質問なのですが、そのHPでは、押し紙をする新聞社は最悪みたいなことが書かれていますが、実際どうなのですか?
私は、店から特別にこのことで困っているようなことも聞きませんでした。私が勤めていた近所には他の新聞販売店が多くあり、そこの専業の人とも仲良くなって、いろんな話をしたことがありますが、このようなことはどこでもある普通のことだと認識していました。
そのHPは難しくてわかりづらいところが多いのですが、ゲンさんの説明はとてもわかりやすく面白いから、読んでいても苦にはなりません。ぜひ、ゲンさんのご意見をお聞かせください。
回答者 ゲン
押し紙というのは、新聞社の販売目標に合わせて、専属の各新聞販売店に、その部数を買い取るよう強制する行為のことやとされとる。
これは、新聞勧誘の実態と双璧ともされ、新聞界のタブーとなっとるものや。実は、こういう質問は、もっと早くにあるやろなと思うてたが、意外にも今までなかった。
もっとも、これは、新聞勧誘のように一般が、それにより直接困るということでもないからかも知れんがな。困るのは、それの負担の多い販売店ということになる。
一口に押し紙と言うても、どこまでが、押し紙ということになり、予備紙となるのかは、外からは分かりにくいことやと思う。
新聞販売店に限らず、予備の商品を備えとくというのは、どんな業界にも普通にあることや。また、それがないと困ることも多い。
販売店の場合、配達中の事故により配達不能になる場合がある。小さなものは、破れ汚れ水濡れやが、大きな事故になると、すべてだめになる場合がある。
これは、雨風の強い日なんかに良くあることやが、突風やスリップなどによりバイクが転倒した場合、風により新聞が散乱したり、その場所が水浸しやと濡れて全滅という事態にもなる。
また、交通事故の場合も、現場保存ということで、そのバイクはおろか、積み荷の新聞にも触れられんということもある。
いかなる事情があれ新聞は「品切れ」を理由にはできん。そう考える販売店が圧倒的に多い。常に万が一を考慮する所は、自然に予備紙も多くなるという理屈になる。
また、無代紙というて新聞の無料サービスを中心に勧誘しとる販売店も、その予備紙が多くなる傾向にあるようや。毎月常に勧誘で部数が伸びる毎に、実際に売り上げにならずともその新聞が必要やからな。
もっとも、景品のみの販売店にしても、当月無料サービスというのをしとる所も多いから、予備的な新聞はそれだけ必要になる。
せやから、この予備紙がどこまであれば健全なのかということが問題になると思う。しかし、それは、その販売店経営者の考え方次第でもかなり違うやろから、実態の把握が難しいということや。
あんたの言う、残紙というのが押し紙やと言うのなら、大抵の販売店には存在する。この押し紙については、ワシもいろいろ聞いとる。そして、その程度は、新聞社、販売店によりそれぞれや。一律性というものがまったくないと言うてええ。
たいていの販売店には、公売部数と実売部数で差があるのは事実や。また、この押し紙について、ぼやく販売店主も多いことから実際にそういうことを強要されとる、または強要されとったということも確かなようや。
但し、表面上は、その事実はないことになっとる。新聞社は当然としても、多くの販売店も予備紙の存在は認めても押し紙を公に認める所は少ない。雑談ではあるがな。
公に認める販売店は、それに耐えられんということで裁判を起こした所くらいやろと思う。「押し紙裁判」と呼ばれとるものがそうや。
あんたが見たというHPには、それがあったのやろと思う。裁判の経緯などが詳しく書かれたものは、法律用語も飛び交い一般の人には分かりづらいやろなと思う。
因みに「押し紙裁判」では、その押し紙の行為は存在せんことになっとる。裁判所も最初からそれを前提に判決を下しとるから、ほとんどが販売店側の敗訴に終わっとるようや。
新聞社の言い分としては、新聞の発注は、販売店がするもので、それを卸しとるだけやということになる。
加えて、新聞社は、あまり過剰な注文はせんようにと通達もしとるということや。新聞社によれば、その誓約書まで販売店に提出させとる所があると聞く。
裁判所の見解は、それがあるからやと考えられる。日本の裁判、特に民事は、ほとんどが書類審査みたいなものや。書類に不備がなく整合性ありと認められれば、民事ではたいてい勝てる。
裁判所が、実際に、販売所を調べれば、また違った結果になるやろうがな。ワシらにとって「押し紙」は半ば常識でも、結果として存在せんということになるわけや。
ただ、何度も言うが、押し紙と予備紙の境の判断が難しいということはあるがな。一般的には、1割以内が予備紙でそれ以上は、押し紙と見る向きが多いようや。
ただ、これも、各新聞社、各販売店、それぞれによって事情が違う。新聞社からの圧力に抗しきれずという所もあれば、自らそれを望むようなことをする販売店も中には存在する。
てんぷら(架空契約)行為というのは、一般的には、ワシら拡張員がするものやと思われがちやが、成績を粉飾するために販売店が新聞社に架空の客を申告することもあると聞く。
それで、新聞の発注部数が増えるケースもあるというわけや。
いずれにしても『結束したままの新聞を約20束ほど、離れのプレハブ小屋にまず運んでから作業を初めます』というのは、健全とは言えんわな。
これなんかは、おそらく必要な予備紙抜きのものやろうしな。ただ、これ一事をもって、押し紙やとは断言できんやろけどな。確かなことは、その販売店の上層部の人間しか、分からんことやと思う。
『押し紙をする新聞社は最悪みたいなことが書かれていますが、実際どうなのですか?』
ということやが、最悪というのは、誰にとっての最悪かということでも違う。不正を嫌う人間にとって、それは許し難いということになるやろうし、それでえらい目に遭うとるという販売店は言うに及ばずということになる。
今まで、こういう質問がなかったということを言うたけど、それは、押し紙をすることで、一般読者にどういう影響や不利益があるのかというのが分かりにくいからやと考える。それにより、一般読者がトラブルに巻き込まれるのは皆無やろしな。
それなら、販売店から出てもおかしくはなさそうやが、それも今まではなかった。それは、この押し紙がタブーということの他に、新聞を余分に買い取らされるという負担ばかりがあるわけやなく、それに見合う営業補助費も新聞社から支給されとるからやと思う。
さらに、公売部数の水増しは、各販売店にとっても折り込みチラシが増えることでもあるから、それによる利益も見込めるわけや。
せやから、販売店により負担と考える所もあれば、そうでない所もあるということになる。ただ、大半がそれをこの業界のシステムとして捉えとるようや。長い歴史のあることでもあるしな。
販売店だけに限って言えば、問題視する所は極一部にしかすぎんということになる。内面的なことは伺い知れんが、少なくとも表向きは少ない。
余談やが、裁判で訴えた側が不利なのは、それも影響しとるのやないかと思う。訴えた側が、他の販売店を証人として使い辛いし、新聞社も他から苦情が上がってないということも主張するはずやからな。
この押し紙問題を扱う所の多くが、新聞社の体質を糾弾するのが目的やと思われる。確かに、このこと自体は褒められたことやないからな。事実なら法律に触れるし、粉飾、偽装の類ということにもなる。
この押し紙をする目的は、新聞社は、それによって公売部数を伸ばすことで、紙面に掲載する広告費を確保することにつながると考えられとる。
新聞社の広告収入は、全体の45%前後と言われとるから、小さな額やない。少しでも、それを確保したいと考えても不思議やないわな。売り上げ部数を伸ばすというのは、そういう意味での命題でもあると思う。
新聞社からすれば、実際の新聞販売は、販売店個々に任せるしかないというのが、表向きのスタンスや。立場上、読者との購読契約について直接、タッチできんということがあるからな。
これは、ワシの個人的な感想やけど、新聞社もテレビCMなどでアピールはしとるが、インパクトには、どうしても欠けると思う。
内容があまりも大上段に構えすぎとる。どうしても売らなあかんという意気込みも感じられん。新聞社としての体裁とプライドが保てたらええという感じや。
まったく、効果がないとまでは言わんが、それでは、購読者の気を引き、購買意欲をかき立てることはできん。
実際、一般にもそのテレビCMの印象は薄い。勧誘してても、その話題が出ることはほとんどないからな。
少なくとも、テレビCMの印象が良かったから契約すると言う客は、ワシに関して言えば皆無や。他の人間からも、テレビCMのおかげで契約が取れたというのも聞いたことがない。
新聞に関したテレビCMやと、あるクレジットカード会社で新聞代の集金を、そのクレジットカードでできるというのが流れとるが、それが一般に知れ渡っとるくらいや。
人気の俳優を使い、コミカルな演出が受けとるのやと思うが、それくらいのことを考えなあかんのと違うかなと思う。
言い過ぎかも知れんが、これらを見る限り、新聞社の営業センスのなさが伺い知れるように思えてならん。勿体ない話ではあるがな。
これも営業は販売店任せという他力本願があるから、どうしても売り込みに真剣になれんということもあるのやろうと思う。
新聞社は問屋であり、販売店は小売店や。しかも、この業界では、その問屋である新聞社の力が絶大や。販売店が新聞社の意向に逆らうことはまずないと言える。そう考えれば、この押し紙の問題も分かりやすいと思うがな。
結局、あんたへの質問の回答としては、こういうところで落ち着いてしまう。これが、ワシの答えられる限界や。
この押し紙問題には、他にも多くの事情、ケースが存在すると考えられる。もちろん、ワシの分からんこと知りえんことというのも多いはずや。
今回のこの質問の回答を見られた新聞社、新聞販売店関係者の方で、具体的な意見やケースがあれば、是非教えて頂きたいと思う。