新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A

NO.491 原状回復義務にお客様が応じてくれないのですが


投稿者 JKさん 販売店従業員  投稿日時 2007.11.28 PM 7:15


どうも、はじめまして。

自分も新聞販売店に勤めているので、本サイトは大変参考になっております。

発刊されたQ&A選集も参考書として愛読しております。

今回の質問事項においても参考にさせて頂きつつ、色々調べてみたのですが、自分の能力では力及ばず、途中で煮詰まってしまいました。

ご助言頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

先日、お客様から年内で引っ越すので、契約を11月一杯で解除したいとのご連絡がありました。

移転先は区域外とのことでしたが、残りの契約期間がまだかなり先まである事と、当店ではお客様控えの裏面に、

【転出の際は転居先での御購読となります】

【自己事由による一方的な解約は出来ない旨をご了承下さい】

と、追加で判子記載してあるので、一応移転先での引き続きの御購読をお願いしてみたのですが、『経済的に取り続けることが出来ない』のと、『個人情報が流れるのが怖いので移転先を教えたくない』という理由で転居先での購読を断られました。

結局、解約の方向で話を進めることになったのですが、途中解約になりますので、契約時に掛かった拡材費(既に使用して現物は残っていないとの事)と従業員のカード料分(契約した本人は既に退職してしまいました)だけは請求させてもらいたい旨を伝えました。

しかし、『そんな事、契約書には書いていないし、こちらがサービス品を要求したわけではない』と、それも断られました。

以前、同じように途中解約をしたことがあったようなのですが、そのときは何も請求されなかったから、というのが向こうの言い分でした。

どうも、退職したその地区の前任者が自分で背負ってしまったようなのです。

大抵の方は、解約時に拡材の返還等には応じてくれるのですが、最近、自分の働いている店では、今回のように途中解約をしたお客様が色々理由をつけて貰った拡材を返さなかったり、あるいは契約時に掛かった経費分の請求に応じないケースが若干増えてきたようです。

自分としましては、前任者のように背負うつもりはありません。

また、店側の拡材の返還要求も当然の事だと思います。

以前、何かで少額訴訟というものを耳にしたことがあるので、今後のことも考えて所長の許可をもらい、司法書士の方に聞いてみたところ、『相手側の、サービス品の受け止め方によっては微妙なところです』という答えが返ってきました。

契約書のどこかに、『途中解約の場合にはサービス品の返還を求める旨』が記載していないと難しいとの事なのです。

以前、本サイトのQ&Aの中で、解約時のサービス品の返還のことで、契約書にそれらのことが記載されていなくても、『法律は販売店にそこまでの説明義務を課してはいない。これは、民法上の決まり事なわけや』とあったので、それを聞いてみたのですが、『やはり、契約書のどこかに記載がないとなんとも言えません』の一点張りでした。

『引越し先が、その契約をした後、急に決まったことであり、その新聞販売店の配達区域外である場合は転居と同時に自動的に全てが解約解除される』ともあったので、転居先での購読は半ば諦めていましたが、『原状回復義務』の観点からだと契約時の経費分は要求できると思うのですが、この場合はどうなのでしょうか?

また、解約時の拡材費の返還については、やはり契約書への記載がなければ有効ではないのでしょうか?

ご助言、お願いします。


回答者 ゲン


『解約時の拡材費の返還については、やはり契約書への記載がなければ有効ではないのでしょうか?』ということやけど、原状回復義務に基づく景品の返還については、特に『サービス品の返還を求める旨』の契約書への記載を義務づけられてないのは確かや。

もちろん、その記載があるに越したことはないやろうがな。

ただ、たいていの契約書には、契約時に渡した景品類の記載があるはずや。また、その記載をするように勧誘員に指示している販売店が大半やと思う。

それが、あれば、その契約は、その景品を渡すことによって成立したという根拠になるから、原状回復義務に基づく返還義務が発生すると考えられる。

その記載が契約書になければ、その返還の請求をするのは難しくなるとは思うがな。

その司法書士の方が、『相手側の、サービス品の受け止め方によっては微妙なところです』と言われたのは、その景品が、相手の客側にとっては、契約の条件と認識されていない可能性があるということやろうと思う。

「これは、サービスですので」と渡した景品を、販売店側は、当然、その契約を全うすることの条件としての物と考えるのに対して、契約者は単に勝手に押しつけられた譲渡品と受け取る可能性があるということや。

譲渡品ならば、法律的には返す必要はないということになる。

実は、こう考えとる契約者は結構、多い。

「何もこちらから頼みもしないのに、勝手に置いていった景品を何で返す必要があるんや」ということでな。

そういう人にとっては、その景品を返せというのは勝手な言い分に聞こえるわけや。

もっとも、無償の譲渡品として業者が渡せるのは、景品表示法では100円までと決められとるがな。

その景品表示法に『「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準』 というのがある。

そこの『1 告示第一項の「景品類の提供に係る取引の価額」について』の中に『(3) 購入を条件とせずに、店舗への入店者に対して景品類を提供する場合の「取引の価額」は、原則として、百円とする』とあるのがそれや。

つまり、業者が、合法的に何の条件もなく渡せる額は100円までと決められとるわけやけど、これを知っている一般の人は、ほとんどおらんと思う。

それなら、その100円以上は、条件付きの景品と考えてええのかとなると、これもそうとは言い切れんからややこしい。

それを超えて渡された景品は、単に業者が、その景品表示法に違反しただけやないかという見方も成立するからな。

その意味では、『契約書のどこかに記載がないとなんとも言えません』と返答したという司法書士の方の法的解釈には間違いはないと思う。

また、あんたは、少額訴訟とはいえ、裁判することを前提にそう聞いとるわけやから、その裁判に直接関与できる立場やない司法書士の方にとっては、そう答えるしかなかったやろうがな。

裏を返せば、契約書のどこかに『途中解約の場合にはサービス品の返還を求める』という一文が入っていれば、裁判で勝てる可能性は高いということになる。

【自己事由による一方的な解約は出来ない旨をご了承下さい】ということまで記載しとるのなら、その一文を追加してもええやろうとは思うがな。

それがない場合、その一文に当たるのが、先に言うた『契約時に渡した景品類の記載』やと思う。

これが書かれていれば、誰が見ても、その契約のための条件としての景品ということが分かるからな。

ただ、裁判ということになると、どう転ぶか分からんという部分があるのは確かや。

法的には絶対有利と思われる事柄でも敗訴というのはいくらでもあるし、同じような事案であっても、裁判所の違い、担当裁判官などの違いで、まったく正反対の判決が下されるのも珍しいことやないさかいな。

特に、新聞業界のそれは極端に判例が少ない分、やってみな分からんというのが正しい答えやと思う。

もっとも、本来、裁判とはそうしたもんで、やらんでも結果が分かっとるのなら、する必要もないわけやけどな。

ここで、あんたにアドバイスやが、そういう裁判というのは最後の手段にするべきで、やはり、その前に相手を説得するということに務められた方がええと思う。

あんたの話やと、どうもその説得が十分でないように思われるさかいな。

当たり前やが、相手を説得しようと思えば、そのことを正しく認識しとく必要がある。

例えば、今回の客への原状回復義務についての説得でも、それが言えると思う。

あんたは『最近、自分の働いている店では、今回のように途中解約をしたお客様が色々理由をつけて貰った拡材を返さなかったり、あるいは契約時に掛かった経費分の請求に応じないケースが若干増えてきたようです』と言うておられる。

この『契約時に掛かった経費分』というのに、契約時に掛かった拡材費と従業員のカード料分が含まれると思うておられるようやが、これは違う。

現状回復義務というのは、あくまでも、契約時に契約の条件として渡した物だけに限られる。この場合、拡材としての景品、サービス類だけや。

従業員のカード料を含むというのは無理がある。販売店としたら、それも初期経費という考え方になるというのは分かるが、はっきり言うて、それは客にとっては何の関係もないことや。

単なる業界のシステムにすぎんことやさかいな。

民法545条の原状回復義務の考え方は、双方が得も損もしない契約前の状態に戻すということや。

これで言えば、返還を必要とするのは契約者の利益供与になっている景品、サービス分の返還しかないというのが分かるはずや。

従業員のカード料は、その従業員の利益であると同時に、販売店側の利益であるとも考えられる。そう思われても仕方ないということや。

従業員のカード料と称して請求したものの中には、販売店の利益が含まれとると考えるのが普通やさかいな。

それを、原状回復義務で負担するというのは、法的にも片手落ちと判断される可能性が高く、まず認められることはないと思う。

この原状回復義務を正しく認識されていたら、当然、その説得も違ったものになったはずや。

今回の引っ越し客についても、

「契約の解除は仕方ありませんが、このまま、継続して頂けないのでしたら、契約時にお渡しした景品はお返し願うことになります。お渡しした景品は、あくまでも、その契約を守って頂くための物ですから、それができないと断られる以上、そちらにその景品を受け取られる正当性は何もないはずだと思いますが」

と説得すれば、なるほどと理解を示してもらえる確率は高いと思うがな。

そのとき、民法に原状回復義務があるということを伝えれば、契約書にその記載がないという理由も説明しやすいはずや。

「これは、法律の決まり事ですので、特に記載を必要とされてはいません」と言うてな。

もちろん、本当のところは裁判に委ねるしかないのやろうが、客を説得するという観点で言えば、何の嘘もないわけやから、これで十分やと思う。

さらに『残りの契約期間がまだかなり先まである』とのことやが、すでに終了した購読期間の程度により、その景品の返還分を考慮するというのも、説得する上では効果あるのやないかな。

客は、どうしても、今まで支払った分はどうなるんやと考えやすいさかいな。

それと、もう一つ、あんたは、どうも今回の引っ越しによる契約解除と一般の自己事由での契約解除を混同されておられるようや。

引っ越しによる契約解除は、客側の都合やから、自己事由やと思われておられるのやろうが、その認識も改められた方がええと思う。

新聞購読契約というのは、契約者とその新聞販売店のみの間で有効となる契約や。

そして、新聞販売店は宅配制度で、その営業範囲を限定されとるから、その区域外への配達はできんことになっとる。

つまり、この状態は、法律的には「債務不履行」ということになるわけや。その契約の続行はシステム的に無理やからな。

この債務不履行になった状態では、ペナルティとしての違約金の類は請求できんことになっとる。誰の責任も問えない不可抗力ということでな。

それ故に、この業界では、急な引っ越しと独身契約者の死亡はあきらめなあかんという不文律が生まれとるわけや。

まあ、これは、新聞販売店のリスクと考えるしか仕方ないやろうな。長期契約を取れば取るほど、そのリスクは高まるということになる。

【転出の際は転居先での御購読となります】ということにしても、その説得を上手くすれば納得して貰える可能性もあると思う。

これが、さも決まり事のように言うたんでは、反発されるだけやろうしな。販売店が、その説得に失敗するのは、たいていがそれや。

決まり事やと考えとれば、どうしても、高飛車な印象を相手に与えてしまいやすい言動になる。

そうなると、客側もその対抗として『個人情報が流れるのが怖いので移転先を教えたくない』ということなるわけや。

こういう客への説得は、「その方が、そちらの得になりますよ」ということを主眼おいてすれば、納得してもらえやすいと思う。

その際に、原状回復義務での景品の返還についての説明が有効になる。

「その景品の返還については、引っ越し先で継続して頂く場合には必要ありません。こちらで、責任を持ってその手続きはしますので安心してください」

「引っ越しされた、その日から新聞が届きますので便利ですよ」

「あちらに行かれても、こちらと同じようなサービスがあるとは限りませんので、こちらの条件をそのまま持続された方が得になる場合がありますよ」

もっとも、これに関しては、引っ越し先の条件次第というのもあるから逆のケースもあるがな。ただ、その可能性を示唆することで説得できる可能性があるということや。

もちろん、これで100%くい止められるとはいかんやろうが、少なくとも頭ごなしに決まり事やからと言うよりかは、ましやと思う。

ついでやから、その急な引っ越しやなしに、通常の自己事由での解約希望者には、原状回復義務としての景品類にプラス、ペナルティとしての解約違約金の請求は正当なものやというのは言うとく。

これに、従業員のカード料を含ませるかどうかは、そちら次第や。但し、名目として挙げるのは、あまり感心せんがな。単に解約違約金というのでええと思う。

最後に、『どうも、退職したその地区の前任者が自分で背負ってしまったようなのです』ということで、客がそう思い込んでいるようやから、それについては、正直に本当のことを言うた方がええのやないかな。

そして、当然やが『自分としましては、前任者のように背負うつもりはありません』と言うとおり、そんなことをする必要はない。

これに関しては、なるべくあんた一人が対処するのやなしに、店長か所長の指示で動いているという風に持っていった方がええと思うよ。

場合によれば、その店長、所長をよいしょして、「私では、この客はとても無理ですので、ぜひ説得してくださいませんか」と言うてみるのもええのやないかな。

従業員という立場やと限界も多いから、あまり多くを背負い込まんように心がけることや。教えを請うという名目で、なるべくやっかい事はトップに振るようにする方が賢いと思うがな。


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