新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.731 また拡張員をするべきか悩んでいます
投稿者 A.Oさん 投稿日時 2009.5.24 AM 5:30
ゲンさん、始めまして。
私は先日まで某金融会社でプログラム開発などの仕事をしていました。
しかし、ご多分に漏れず、この不景気でリストラになってしまいました。
そんな折、以前勤めていた拡張団の班長から連絡があり、遊んでいるなら、帰って来いと言われ、悩んでいます。
これだけだと、全然意味が分からないと思いますので、その経緯をお話します。
私は新聞屋として初めて働いたのは、18歳の時でした。
これは高校を卒業から、新聞奨学生としてでした。
当時、朝夕刊セット2,600円、すぐに2,800円になったのを覚えています。
それから卒業はしたものの、就職先は見つからず、専業で働きました。
拡張もそれなりにしていたので、結構自信を持っていました。
そんな時にある拡張員に勧められて拡張団に入ったんです。
しかし、新勧(テッポウ)はそんな甘いものではありませんでした。
一日100件まわって1件(1%)でした。これじゃ食っていけませんよね?
その後、団長から臨配(代配)に行くように言われ、食えるようにはなりました。
結局そこの臨配(代配)が終わった後も団には戻らず、個人で臨配をやってました。
そんな中、ある新聞広告で、拡張員募集(喰い止め可)というのがあり、いってみました。
その団は新勧とは別に、喰止班があり、新勧よりカード料は安いけれど、縛り、先起こし、先縛りなどが出来るということで、やってみることにしました。(月100枚で30万ぐらい+歩合でしたが、20代の私としては食うに困りませんでした)
そこの班長もとても良い人で、店から出たデータも、自分が良い所を持っていけるのに、ちゃんと人数分に分けて、抽選で決めるという方式をとっていました。
結局その団は居心地が良かったので、5年近くおりましたが、自分の将来のことを考え、勉強をしなおし、コンピュータの業界に転職しました。
そのコンピュータ業界も10年やってきて、この不況で仕事も無い状態です。
そんな折、(最後に書いた喰止班の班長に)帰って来いといわれると、とても悩みます。
そりゃそうですよね? もう10年以上拡張やってないんだから!
自分が前のようにカードを上げられるのか、本当に拡張員で食っていけるのか、また拡張員をやることが自分のためになるのか、もうコンピュータ業界に戻るつもりは無いのか、などなど、考えるときりがありません。
こんな相談、拡張員経験者でなければ分からないと思います。
見識の高いゲンさんなら何かアドバイスが貰えるのではと思い、メールしました。
忌憚ないご意見よろしくお願いいたします。
回答者 ゲン
あんたのように、昔、拡張団や販売店に勤められていて、またその仕事がしたい、あるいはすでにしているという人は結構おられる。
それで上手くいっとる人ばかりとは限らんから、ぜひ、そうした方がええとは言えん。総体的に言えば、苦労をされているケースの方が多いさかいな。
その苦労する一番の要因は、その当時の仕事のやり方に固執するためやと思う。
人は、どうしても、かつてやった仕事は、こんなものやと考え、こうすればええと思い込む。特に、その仕事でそこそこの実績を上げていたら、よけいそうなりやすい。
結果、自身が思い描くような成績が上げられんかったら、「こんなはずやない」と悩むことになる。
それでも、切り替えの早い人は臨機応変に、そのやり方を変えて上手くやっていけるが、それのできん者は辛い状況になる。
もっとも、それは、どんな仕事であっても言えることやけどな。
昔から、この拡張は、サービスのアピール一辺倒と強引な押し売り的営業という側面の強い仕事やった。それが拡張の仕事やと思い込む者が多かった。
勢い「これだけサービスするから取ってください」、「他よりサービスしまっせ」という拡材一本の営業になりやすく、それでもあかん客には「買ってください」やなく「買わせてやろう」「契約させてやろう」と意気込むことになる。
少なくとも、あんたの『当時、朝夕刊セット2,600円、すぐに2,800円になったのを覚えています』という1986年頃は、そのやり方が大勢を占めていたはずやと思う。
あんたは『もう10年以上拡張やってないんだから!』と言われているが、この10年の間に業界は大きく様変わりした。
特に法律面での規制の強化が顕著になったと言える。
顧客への景品付与(サービス)は、「不当景品類及び不当表示防止法」、縮めて「景品表示法」という法律で、それまでの規制よりさらに強化された。
新聞勧誘の場合、新聞業界の自主規制が、公正取引委員会の認定を受けることで法律になたという経緯がある。それが、他の業界より厳しい。
景品の最高額を取引価格の8%又は6ヶ月分の購読料金の8%のいずれか低い金額の範囲というのが、それや。
業界では、これを「6・8ルール」と呼んでいる。
これが決められた当時、他の業界でのこの法律による上限は取引金額の10%までとされていたから、新聞業界はそれ以上の枷(かせ)を自らに課したことになる。
ちなみに、現在では、取引金額の20%までとその他の業界では緩和されとるが、新聞業界では依然とそれが頑なに守られ続けとる。
「特定商取引に関する法律」というのがある。
これの第9条に「訪問販売における契約の申込みの撤回等」という、今では一般に馴染みの深くなった俗に言う「クーリング・オフ」の規定がある。
これは2004年6月1日から施行された、まだ比較的新しい法律や。
これは、契約日から8日間以内やったら、どんなに正当な契約であろうと、契約者の側から一方的に契約解除できるとされる法律で、ワシら勧誘する者は、それに対して一切文句を言えんということになっとる。
ヘタに「何でクーリング・オフすんねん」と怒鳴り込んで行こうものなら、この法律によって逮捕されることすらあるさかいな。
Q&Aに『NO.108 近所で販売店員が逮捕されました』の中ある、2005年5月30日、今からおよそ4年前に起きた事件が、そのええ例や。
その事件は、表向きは強引で悪質な営業が原因ということになっとるが、実際の逮捕理由は、この「特定商取引に関する法律」の第6条第3項の違反行為というものやった。
それには、
販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。
と、ある。
簡単に言うと、契約した客がクーリングオフを申し出ているのに、それを防ぐため脅したり威圧して困らせるような行為の禁止ということや。
これが適用されると罰則規定は2年以下の懲役、または300万円以下の罰金という規定がある。
罪としても重く、実際に逮捕されたその販売店員は新聞やテレビでも実名報道され、今以てユーチューブ当たりでその映像が流されている。
この事件は、当時、ワシら業界人にとっては、かなり衝撃的なものやった。
その回答の中で、
ワシも正直、これには驚いた。事件にやない。逮捕されたという報道にや。この程度というと、語弊があって、お叱りの向きもあるかと思うが、これで、逮捕かというのが正直な感想や。
もちろん、この記事の内容がすべてやとしてやけどな。この程度で逮捕ということなら、今はともかく、ちょっと昔なら、こういうのを全部逮捕してたら、拘置所や刑務所は勧誘員で溢れかえるのやないかな。
と言うてたくらいやさかいな。
さらに、この法律の改正が、去年の6月11日参議院本会議において原案通り全会一致で可決、成立した。ほどなく施行される手筈になっている。
その中の第3条ノ2第1項に、「勧誘の意志の確認」というのが新たに規制された。
販売事業者又は役務提供事業者は、訪問販売をしようとするときは、その相手側に対し、勧誘を受ける意志があることを確認するよう努めなければならない。
というものや。
つまり、「これから、新聞の勧誘をさせて頂きますけど、よろしいでしょうか」と確認してからでないと勧誘したらあかんということになるわけや。
加えて、第3条ノ2第2項に、「再勧誘の制限」というのも導入された。
それには、
販売事業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約又は役務提供契約を締結しない旨の意志を表示した者に対し、当該売買契約又は当該役務提供契約の締結について勧誘をしてはならない。
と、ある。
分かりやすく言えば、「一度契約を締結しないという意志を表示した消費者に対して、その断られた契約について再び勧誘を行ってはならない」ということや。
また、2001年4月1日から施行されている「消費者契約法」というのもある。この法律は、その名のとおり消費者を守るために作られたものとされとる。
新聞営業で言えば、勧誘時に不適切行為があれば、その契約は取り消せるとされ、その内容は総じて消費者側に有利な法律になっている。
これらは、いずれも、あんたがやっていた頃にはなかったものばかりや。
あんたがやってた頃は、やりたい放題とまでは言わんが、契約さえ取れれば何でもアリ、少々のことは黙認という風潮が強かった時代やったのは間違いないと思う。
今は、それらが通用せんようになったということを認識して貰わなあかん。
もっとも、未だに、その昔ながらの拡張にしがみついとる者もおるが、そういう連中は徐々にこの業界から排除されていっとるのが実状や。先はない。
それも当然で、その昔ながらの営業が、現在のこの様々な規制、法律を生む大きな要因になっとるわけやさかいな。
要するに、自分で自分の首を絞めた結果が、今やということになる。
ワシは、このサイトを開設した5年前当時から、ずっと一貫してそれを言い続けてきたが、それが現実の形として表れたわけや。
ただ、そんな昔ながらの悪しき拡張と決別する、あるいはそういうものとは縁がないというのなら、何も心配することはないがな。
また、この仕事が『一日100件まわって1件(1%)でした』という現実を知っておられるのなら、心配することはない。それに関しては、今もそれほど大差ないと考えるしな。
さらに、ワシらの方で言う「止め押し」に相当する「喰止め」という現読の購読延長依頼が主な仕事なら比較的楽な営業やと思うさかい、その気になりさえすれば何とかなるという気はする。
しかし、現在、この業界を取り巻く環境は、その法律の規制以外にも、ネットの驚異的な普及による読者離れ、人口の減少や折り込みチラシの激減、あるいはこの大不況による金銭的な理由での購読者の目減りという厳しいものがあるというのは知っておいてほしい。
これらのいずれも、あんたが、やってた頃とは大きく違うはずや。
ただ、あんたが『もう10年以上拡張やってないんだから!』と言われているブランクも考え方次第ではプラスに転嫁できる可能性はある。
それは、『コンピュータ業界も10年やってきて』というのを利用することや。
ワシは、最近でこそ、ハカセのおかげで、まがりなりにもパソコンでネットができるくらいにはなっとるが、それでもコンピュータ業界のことはさっぱり分からん。
そこへいくと、あんたはそのエキスパートやったわけやから、それを扱い好む人間の心理は良く分かると思う。
すべてとは言わんが、パソコンに精通しとる人間の多くは、ワシら拡張員を見下す傾向にあるのやないかと考えとる。
「パソコンのことは良う分かりまへんねん」と言うと、まるで、アホでも見るような視線に晒されることが多いさかいな。
ただ、そういう人間は、逆に相手がその分野で上手やと知ると驚くほど素直に話を聞くということがある。
その具体的な話は、そのケース毎で違うから説明し辛いが、旧メルマガにある、『第14回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんの拡張実践Part2 経験を役立てろ』というのが、その参考になるのやないかと思う。
「食い止め」というのは、現読の客への説得やから、新規のような門前払いというのは少ない。少なくとも話くらい聞くはずや。
そこで、その経験とスキルを披露すれば、逆に「へぇー、あんたのような拡張員もいてるんや」と思われることがある。
意表をつかれるわけやな。
これが営業では結構、有利に働き役立つことも多い。
コンピータ業界では、あんたのような人は普通で多いかも知れんが、ワシらの世界では、まだまだ希少な存在や。
人は意表をつかれると、その人物が実際以上に素晴らしく見えるということがある。そんなことはないという思い込みが強ければ強いほど、そのギャップにより、そうなりやすい。
それが、ある種の尊敬に変わることもある。尊敬されれば、成約にこぎつけるのは造作はないという理屈になる。それを利用するわけや。
もちろん、これは、その相手と話ができさえすれば新規の客にも通用することやと思う。
ただ、あんたの危惧する『本当に拡張員で食っていけるのか』というのを保証するわけにもいかんし、『また拡張員をやることが自分のためになるのか』というのも、あんたの考え方次第や。
遊んでいて何も仕事せんより、した方がマシやと考えればそうなる。
ただ、そうすることが将来的にあんたの役に立つのかと言われると、申し訳ないがワシには、その答を示すことはできそうもない。
あんたが、以前経験していたこの業界でのことが、コンピータ業界で役立ったかどうかを考えれば、自ずとその答は出てくるのやないやろうか。
以前の経験を他分野で活かせられるかどうか、役に立つものにできるかどうかは、あくまでもその人の取り組み方、考え方次第やからな。
ただ、『もうコンピュータ業界に戻るつもりは無いのか』ということまで考える必要はないのやないかとは思う。
その仕事が好きなら、そのチャンスが巡ってくることがあれば、また戻ればええ。
何でもやる限りは中途半端になったらあかんというのは正論やが、それに固執する必要はない。
ワシも含めてやが、人が一生の仕事として選んで悔いのないようなものは、そう簡単に見つけられるもんやないさかいな。
迷いがあるうちは柔軟に考えればええ。人生は長いんやから、その時々で臨機応変に考えることや。その方が気も楽になると思う。何でもそうやが、あまり思い詰めんことや。
所詮、人生はなるようにしかならん。ワシはそう考えとるけどな。
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