新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.757 転宅する読者の契約に関して
投稿者 tyoukantaro さん 関西在住 某新聞販売店専業員 投稿日時 2009.7.28 AM 2:07
ゲンさん、初めてお手紙差し上げます。
当方、関西地区のX新聞販売店に勤務する専業員です。
新聞の購読契約に関してお聞きしたいことがあります。
私の担当区域の現読のMさんは、本紙朝刊のみ購読で、購読料金は通常の価格よりも値引きされた値段となっています。
そのMさんの契約内容ですが、今回の契約期間はあと3ヶ月あり、その後もその価格で拡材も付けて24ヶ月の止押が効いております。
そのMさんが東京へ引越しするということで、先方の販売店へ契約カードのコピーを添付して、転宅通知を送ったのですが、この価格では受けられないと拒絶されました。
それは賢明な販売店なら、仕方のないことと私も納得しております。
M様には事情を話し、先方の販売店の規定の朝刊価格で購読をお願いいたしましたところ、『この値引きした値段で入れるという契約をしたのだから、契約不履行だ!』と話に応じません。
いたしかたなく、転宅先でのご購読は結構ですので、残りの契約分と3ヶ月先の止押契約を解約ということで、3ヶ月先の24ヶ月間の止押し分だけの拡材の返却を求めましたところ、『こちらは新聞をやめたくはないのだ。東京で値引きした価格で入れられないそちらが悪いのだ!』と、拡材の返却にも応じてくれません。
いったい、このようなケースは、法的にはどうなのでしょうか?
販売店に非があるということになるのでしょうか?
回答者 ゲン
これは、そのM氏が勘違いされとるために起きたことやと思うが、こういうケースは、それほど珍しいことでもない。その勘違いを指摘して納得して貰う必要がある。
まず、そのM氏の一つめの勘違いは、新聞の購読契約は、新聞社と交わしているという点にある。そう考えておられる一般の人は結構多い。
法律的には、新聞の購読契約とは、その販売店と契約者との間でのみ有効な契約なわけや。
それには、新聞社は一切、関係がないというのが公式な立場やし、法律的にもそうなっている。新聞社が、その契約により契約者を縛るということは絶対にないし、できん。
むしろ、契約に関する揉め事は関知しない、しようとしないというのが、新聞社の姿勢やさかいな。
その契約について介入することがあるとしたら、それは勧誘時における不法行為や法律違反があった場合に限られる。それ以外はタッチせんというのが新聞社のスタンスとしてある。
せやから、そのM氏が、関西から東京へ引っ越しされる場合は、形として、一旦、従来の販売店と解約して、新たに東京の販売店と契約し直すということになるわけや。
これは、新聞販売店には宅配制度というのがあって、販売店は、そのエリア内だけの配達しかできんためや。そのエリア外への配達はできんわけやさかい、契約不履行ということになって、契約を解除するしかないわけや。
これが、一般の人には、なかなか理解できんところやと思う。
それには、この業界のシステムとして、同じ新聞の契約者のために、サービスとしてその手間を省く意味もあって、新聞社がその仲介の労を取るというのがあるためやと考える。
契約書の備考欄には、「お引っ越しの際」と題して、「お引っ越しの際には、当○○販売店にお知らせください。新しい○○へ連絡します」とあるが、それを決まり事でもあるかのように記載されているケースがある。
また、契約者にも、そう勘違いさせるように言う販売店がある。これは、単なる「お願い事」であって、何の法的な拘束力もないものなのやが、それについては何の説明書きも為されていない。
それが、新聞の購読契約は、新聞社と交わしていると勘違いすることにもなっとるわけや。
まず、その勘違いを説明せなあかん。これを分かりやすく説明する方法を教える。
例えば、関西のA電気店でXというエアコンを10万円の約束でM氏が買う契約を結んだとする。ところが、その商品が納入間近になってM氏が急に東京へ引っ越しをせなあかんようになった。
エアコンは、住む場所に業者に設置して貰う必要があるから、そのA電気店は好意で同じメーカーのXを販売している東京のB電気店を紹介する。
ところが、そのB電気店は、Xというエアコンを10万円で売ることを拒否した。それでは損をするというものや。
その場合でも、そのM氏は、「約束やから10万円で売れ」と言うのかとなる。たいていの人間は、買う店が違えば、そこまでのことは言わんと思う。仕方ないとなるのが普通や。
今回のケースは、それと同じことやと説明するわけや。
次のM氏の勘違いは「契約不履行」の解釈にある。
『この値引きした値段で入れるという契約をしたのだから、契約不履行だ!』というのは、確かにM氏の言われるとおりやが、「契約不履行」とは、その契約が解除できる理由になるだけのことにすぎん。
その商品を売るかどうかは、その販売店に決定権がある。あんたの店で、それを売ることができんわけやから、東京の店の意向に従うしかないわけや。
さらに、今回の場合の「契約不履行」になった原因は、引っ越しするというM氏側の一方的な都合によるもので、あんたの店には何ら非のあることやない。
非のない者へは、どんな法律を持ってしても、その損害賠償を請求する、あるいはそれに準じる要求をすることはできんということや。
三つめは、勘違いと言うより、知らんというケースの方が多いと思う。
それは契約解除ということになれば、その契約はなかったものとして処理され、その際受け取った『24ヶ月間の止押し分だけの拡材』は返却せなあかんと法律で決まっているという事や。
具体的には、民法545条の原状回復義務の第1項に、
当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。
と、あるのがそれになる。
その法律に照らせば、契約を解除するのなら、受け取った金品を返還する義務が生じるとしいうことになる。契約以前に戻すということは、そういうことやさかいな。
したがって、受け取った拡材は返す必要があるということや。
実際、その契約は成立せんわけやから、そのM氏がその拡材を返さず貰い続けるというのは、その法律云々を別にしても、何の正当性もないことやと言うしかないわな。ただ、ゴネ得を狙うとるだけにしか見えん。
もっとも、こんな言い方をすると、そのM氏は、よけい意固地になるやろうがな。
こういう場合は、「私どもの販売店では、今までM様には、他の店ができないような精一杯のサービスをさせて頂いていたわけで、他の店がそれをすることができないと言う以上、私どもとしましては、どうにもできないわけです。お怒りは分かりますが、ここは当店との契約はなかったものとして、そちらで東京の販売店と直接、交渉して頂くしかありません」と、低姿勢で頼むことや。
それで、たいていは分かって貰えるはずやと思う。
『いったい、このようなケースは、法的にはどうなのでしょうか?』というのは、先にも言うたように法的にはその拡材の返還義務があるし、『販売店に非があるということになるのでしょうか?』というのも、まったく非はないと言える。
しかし、交渉の場では、なるべくそれを出さず、この業界のシステムを良く説明し、今までサービスしすぎやったということを強調して納得して貰うことや。「他ができんことは、どうにもできません」と。
それでも、分かろうとせん人には、その法律的な話をするのも致し方ないとは思うがな。
これについては、ワシがサイトで良く言うてることやが、サービスしすぎる事への弊害やろうと思う。あまり度のすぎたサービスは却ってマイナスになる事もあるという、ええ見本のようなケースや。
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