新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A
NO.817 出る所に出たら勝算があると思いますが、どうでしょうか?
投稿者 yuさん 某新聞販売店専業員 神奈川県在住 投稿日時 2009.12.19 PM 11:15
楽しく拝見しております。先日はご回答ありがとうございました。
また相談なのですが、退職を決め来週早々に退職届けを提出いたします。
そこで相談ですが半年位前から、店長がかわり社長の愛人の息子が店長になりました。
今までの店長とは違い理不尽極まりない、言動、態度です。馬鹿だのアホだのと言って人間扱いしない人です。
おまけに証券切り取りしろとか、お気に入りの奴にはコンピュータ操作してます。
我慢出来ず退職します。その際に証拠を集め戦うつもりです。
出る所に出たら勝算があると思いますが、どうでしょうか?
多分これが最後の相談になると思います。
アドバイスをお願いします。
回答者 ゲン
『出る所に出たら勝算があると思いますが、どうでしょうか?』というのは、何を持って勝算と言われておられるのか、それによって回答が違ったものになる。
また、『出る所』にもよる。
この業界は、購読者と新聞販売店との間の訴訟沙汰というのは、ほとんど聞くことはないが、従業員と販売店との間での労働争議による民事裁判というのは結構多い。それに勝利するための勝算ということなのやろうか。
あるいは、不当な労働条件があり、それで著しく不利益を被ったとして労働基準局に訴えるというケースのことを指して言うておられるのやろうか。
それとも、その新聞社に不正を通報して、その販売店の立場を拙くするというのが目的やと言うのなら、それも勝算ということになるかも知れん。
ただ、いずれにしても、『今までの店長とは違い理不尽極まりない、言動、態度です。馬鹿だのアホだのと言って人間扱いしない人です』という個人的な恨みつらみだけでは、それらの争いの具にはなりにくいというのは言うとく。
そういうものは、相手にも相手なりの思い、言い分というのもあるのが普通やさかい、たいていは不毛な論争に終始するだけや。
あんたの言い分に対しては、「仕事もせん、できんクセに文句ばかり言うロクでもない従業員や」という具合にな。
そういう口喧嘩に近い争いに法律が介入できる要素はあまりないから、その面での勝ち負けの対象にはなりにくい。
やはり、争うからには具体的な被害があって、正当な理由でその回復、損害を求めるというのでなければ勝算のあるなしを論じても仕方ないと思う。
あんたの言う『証券切り取り』行為については、このQ&Aの『NO.145新聞購読料金の切り取り行為は違法なのでしょうか?』でも触れたが違法行為になると思う。
切り取り行為というのは、新聞講読料の集金には期日が決まっており、それまでに集金できんかった分をその担当従業員の給料から一時立て替えするシステムのことをいう。
これは労働基準法に定められた「賃金全額払いの原則」に反し違法性が高いと思われるものや。
それについて、サイトの法律顧問をして頂いている法律家の今村英治先生(株式会社デイリープラン代表取締役) の見解があるので紹介しとく。
たしか集金の仕事は、業務外の請負という形になっていることが多いのでしたよね。そもそも、この制度そのものが違法性が高いと『NO.109 集金中に犬に噛まれてケガをしたのですが労災は出ますか?』の中 で、
集金は業務外という理屈は、私には納得しかねます。100%歩合制だから労働じゃない・・・ここまでの理屈は分かります。
では労働じゃないんだから断る自由もなきゃおかしいです。私は労働である配達はしますが、請負の集金はしません。そんな自由が認められるとは到底思いません。
集金は業務に付随するどころか、業務そのものです。従業員の承諾なしにそれをやっているとしたら36協定違反や、残業代の未払いなども含め経営者サイドの責任は重いです。
集金の命令を拒めますか? 事実上強要されるでしょ? それは労働に他なりません。
集金を業務外にしているのは、業界全体が労働基準法に抵触している恐れありと私は判断します。
と、お返事したのですが・・
それはさておきまして、では「集金」が労働でなく「請負」であると仮定します。
集金という請負において、締め切りに間に合わなかった場合の切り取りというのは、販売店の集金人に対する債権譲渡に該当しましょう。
立て替えはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払です。これは労働の対価として支払う賃金とは本来全く無関係であるものです。
ですから、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し明らかに違法です。
そしてこれはあくまでも労働ではないですから「オレは集金しないよ」と言ったことでクビにされたりなんかしたら、根拠のない不当解雇になります。
「集金」は「労災も残業代も出ないよ。労働じゃないんだから」という店側の理屈を前提にするなら、じゃあ給料から差っ引くのは明らかにおかしいよってことです。
ところがNo109でもお返事しましたが、契約上どのような取り決めになっていようと、外形上判断すると、集金業務は労働です。
多くの社会保険労務士及び労働基準監督官は、これを労働とみなすんじゃないでしょうか。
では労働とした場合、非常に苦しい詭弁なのですが、期日までに集金できなかったので、店側に損害を与えた。従って集金人たる労働者が店に対し損害賠償債務を背負ったという「ヘ理屈」を前提にしてみます。
期日に間に合わなかったとは言え、いずれ回収できそうな債権であるならば、その時点での損害賠償額を算出することは難しいと思いますし、そのようなあやふやな状態で給料から差っ引くというのはやはり「全額払いの原則」に抵触すると思います。
法律的にシロクロはっきりさせるためには、そもそも集金業務が請負なのか労働なのか最初に明確に定義する必要がありそうですね。
労働である場合
労災保険が適用になる。時間外割増賃金が発生する。「集金してこい」は業務命令。労働契約の一部。サボったら当然懲戒の対象となる。
請負である場合
労災未適用。賃金ではなく請負代金。店と集金人の請負契約。集金や切り取りを拒んだことで給料を下げられた・解雇されたとなると、これは不当な理由による不利益処分となる。
店側にとって労働でも請負でもないグレーゾーンにすることで、双方のいいとこ取りをしているように以前から思っていました。
いずれにしても切り取りは債権譲渡という商取引ですから、労働契約とはなんら関係のないことです。商取引である以上、切り取りそのものには違法性はありませんが、労働条件・労働契約に密接に関連していたりすると途端にいかがわしさが増しますね。
こうしたことを条文では直接定めていないですし、判例もないので、私も様々な類推解釈をせざるを得ないのですが、新聞代金の集金業務は、購読契約や配達と密接に関連しており、事実上「集金してこい」という命令を拒めないのであれば、その集金業務だけを切り離して「請負」とし「労災の対象外」とすることは非常に無理があります。ましてや半ば強制的に債権を譲受させられてしまうという状況は劣悪です。
というものや。
この行為そのものを、その証拠を添えて労働基準局に訴えれば何らかのお咎めを喰らうこともあり、実質的な被害があんたにあるのなら、その被害を民事裁判で訴えることもできる。
また、多くの新聞社では、この『切り取り行為』のようなものは禁止行為として販売店には通達しとるはずやから、その新聞社に通報することで、その行為を止めさせ、立場を拙くさせることもできるのやないかと思う。
その際の証拠というのは、給料の明細書にそれと分かる記述があればそれで、なければ口頭でそう指示された際の会話を録音するということでも集められる。
証拠というのは、第三者が客観的に見て、それに間違いないというものでなかったら意味がない。反証されて、そちらの方が信憑性ありと判断されたら、それを訴えた方が不利になりかねんということも重々注意しとかなあかんで。
『お気に入りの奴にはコンピュータ操作してます』というのは、おそらく架空の契約をでっち上げ、その従業員の成績にしとるという意味やろうが、それも具体的な証拠、その部分のプリントアウトなどがあれば、その裏付けを一緒に添えて新聞社に通報すれば『契約者の虚偽申告』ということで、お咎めを受ける可能性はある。
ただ、それについては鬱憤(うっぷん)や腹いせを晴らすという効果はあるやろうが、それをしたとしても、あんた自身の利益にはあまりならんとは思うがな。
また、その新聞社、特に販売部の担当者がそれを必ず取り上げるとは限らず、うやむやにされることもあると聞く。その場合は逆に訴えた人間が解雇されるという不利益を被るケースもあるとのことや。
まあ、あんたは『我慢出来ず退職します』という決意を固めておられるようやから、それにより、どんな不利益を被ろうと、どうということはないのかも知れんがな。
今までのあんたの相談を聞く限り、あんた自身についての具体的な被害はなさそうやから、高額な費用をかけて民事裁判でその損害を争うというのは現実的やないと思うから、あまりそれは勧められん。
残りは、労働基準局に訴え出るか、新聞社にその違法行為を通報するかということになる。
それで、その販売店に某かのダメージを加えることができさえすれば、それで良しというのなら、その証拠次第という側面はあるが、あんたの訴えようとしていることは事実やと思うさかい「勝算はある」と答えておく。
ごくまれに、ワシらに週刊誌などにその実態を暴露したいから力を貸してほしいという方がおられる。ワシらも確かにそのパイプがないわけではない。
しかし、この程度と言えば語弊が生じるかも知れんが、単に新聞販売店の実態というだけでは、よほどその特集でも組んでない限り、週刊誌側が興味を示すケースは少ないと思う。
これが、新聞社内部の暴露というのなら、また違うがな。あるいは、その販売店が大きな事件に絡んでいて話題性があるというのなら別やが、名の知られていない一般の新聞販売店の内部告発というだけではニュースバリューに欠ける。
そう言われるケースが多い。
例えば、旧メルマガで話した『第93回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ある新聞販売店での出来事 前編』 および『第94回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ある新聞販売店での出来事 後編』などは、当事者にとっては殺人未遂事件という認識であり、その被疑者が逮捕され警察沙汰にもなったという事案がある。
それについて多少の興味を示し接触を試みようとされた大手の週刊誌の記者もおられたが、結果として、その週刊誌で取り上げられることはなかった。
当事者にとっては大きな出来事、事件であっても、それくらい、この手の内部事情程度では、一般の人が興味を示すほどのニュースとはなりにくいという判断になるということや。
せやさかい、あんたの話程度では、まずそれは望めんと思う。週刊誌で取り上げられることがあれば、その販売店にとっては大打撃やろうがな。
ついでやから、そのメルマガでは、えぐいと言われる販売店への対抗策などについても言及しとるので参考がてら見ておいてほしいとは思う。
どのような方法を採られるかは、あんた次第ということになる。いずれにしても事を起こされるのなら慎重にな。ワシから言えることは、それくらいや。
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