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NO.931 新聞販売店1ヶ月店長の心得について教えてください
投稿者 shu さん 投稿日時 2010.8. 9 AM 0:51
はじめまして。
私は新聞販売店で所謂『1ヶ月店長』をしております。
『1ヶ月店長』をご説明致しますと、つい最近他業種から新聞業界へ転職したので新聞業界の事を全く知らないのですが、学歴と職歴だけで転職したその日から店長の役職を所長から頂きました。
新聞業界の事を全く知らないのに店長というのもおこがましいと自分でも思っているのですが、就職したからには仕事を全力でこなしていこうと思っております。
そこでゲンさんに質問なのですが、ベテランの専業さんや拡張員の皆さんと人間関係や仕事面でうまくやっていくには素人の私がどうのように皆さんと接していけば良いのでしょうか?
常にペコペコしながら仕事をしていてはなめられそうですし、かと言ってずぶの素人の私が命令口調なのもいかがなものかと思いますし。
因みに販売所内で年齢も経験も私が一番下です。私が勤めている販売所に来る拡張員の方々を含めても私が一番下です。
ご指南のほど、何卒よろしくお願い致します。
回答者 ゲン
『つい最近他業種から新聞業界へ転職したので新聞業界の事を全く知らないのですが、学歴と職歴だけで転職したその日から店長の役職を所長から頂きました』というのは、昔では考えられんかったことやけどな。
『そこでゲンさんに質問なのですが、ベテランの専業さんや拡張員の皆さんと人間関係や仕事面でうまくやっていくには素人の私がどうのように皆さんと接していけば良いのでしょうか?』というのは、あんたが、その『1ヶ月店長』とやらになられた経緯にもよると思う。
昨今、巷では求人募集にそういうのがあると聞く。また、後々、経営者になりたいという希望者を募る際に、そう銘打つこともあると。
一流企業の社長ですら、その公募を大々的にするような時代やから、それと聞いて驚くこともないのかも知れんがな。
まあ、これも時の流れ、趨勢(すうせい)というものなんやろうと思う。
自前の人材が乏しくて育てられん場合、他からその能力のありそうな人間を連れてきて雇えばええというのは、ある意味、合理的な考えではある。
しかし、それで、あんたが『1ヶ月店長』に抜擢、あるいは、その期間、試されているのやとしたら、よほど卓越した能力、人望が兼ね備わった人物でないと成功するのは難しいと思う。
特に、この業界でそれが言える。
一般論やが、この業界で「店長」として認められ、尊敬されるには、通り一遍の「仕事のできる人間」という評価程度では弱い。それ以上の能力が要求される。
新聞販売店には、配達、集金、営業というのが主な業務(三業務) ということになっとるが、そのいずれの分野でも他の従業員より抜きん出ている必要がある。少なくとも、劣っていては話にならん。
何か一つでも、劣っているものがあれば従業員から軽く見られやすいさかいな。
実力の社会というのは、この新聞販売店に限らず、そうしたもんや。
それをまず認識しとく必要がある。
もっとも、そうは言うても、あんた自身、『新聞業界の事を全く知らないのに店長というのもおこがましいと自分でも思っている』という状況で、いきなり、そうなることを望むのは無理やわな。時間がかかる。
ただ、何でもそうやが、人の評価、印象というのは最初が肝心やから、それでつまずくと後が大変や。一度、その人間に刷り込まれた評価、印象というのは、そう簡単には変えられんさかいな。
そのためには、なるべく早いうちに、あんたの「店長」としての力、特に人間としての力量を示す必要がある。
心配せんでも、あんたがその謙虚な気持ちさえなくさんかったら、いずれは時間の問題で、従業員には認められるようになるはずや。
新聞販売店の一般的な「店長」というのは中間管理職という立場になる。そして、中間管理職というものは、上からの評価と下からの評価に晒される立場や。
多くの場合、中間管理職は、そのいずれかを重視し、その方向に向く。経営者におもねるか、下にええ顔したいかということになる。
こう言うと、ゲスな風に捉えられるかも知れんが、『就職したからには仕事を全力でこなしていこうと思っております』というのであれば、最初は上を向く、つまり、その経営者に認められるように努力した方がええと思う。
新聞販売店の経営者、所長というのは現場からの叩き上げの人間が多い。当然、それなりのノウハウを持っとるのが普通やから、まずはその教えを請う、学ぶことに力を注ぐべきやな。
経営者というのは、その店長の立場の難しさというのも当然、良う知っとるから、ある程度は何があっても寛容、甘めに見ることが多い。それも、教えを請うという姿勢の人間には、特にそういう気持ちになりやすい。
もちろん、あんたは、それに甘えたらあかん。一を聞いて十を知るくらいの緊張感を持って接することや。
それで、まずはその経営者の信頼を得ることを最重要課題として心掛ける。そうすることで、あんたの立場も安定するし、長続きすることもできる。
しかし、それでは、下の人間の心、信頼は勝ち取れんのないかと言うかも知れんが、それは仕方ない。
あんたが、『ベテランの専業さんや拡張員の皆さんと人間関係や仕事面でうまくやっていく』という気持ちさえ忘れんかったら、それでええ。いつかは分かって貰えるときがくる。そう考えとけばええ。
そのためにも当面は、「虎の威を借りたキツネ」に徹することや。
「虎の威を借りたキツネ」というと、何か卑怯な人間のすることのような感じに思わせるが、処世術としては最高ランクの考え方やと思う。
これは、虎に自分の実力を誇示するためにキツネが、「私は皆から恐れられている実力者です。それを確かめたければ、私の後ろからついて来なさい」と言って、虎を連れ歩き、実際、周りの獣たちを恐れおののかせる姿を示したという故事に由来するものや。
もちろん、獣たちが恐れたのは虎やが、それを利用したキツネの作戦、賢さというのもこの逸話には重要な要素として含まれている。
これを単にキツネが、ずる賢いだけやと受け取れば、何の教訓にも示唆にもならん話にすぎんがな。
つまり、ワシが言いたいのは、このことにより、下の者に命令、指示する場合、「それは所長の意向だから」、「所長の命令だから」という風に持っていくことで、あんたへの風当たりを和らげることができるということや。また、その命令や指示も聞いて貰えやすくなる。
実際、仕事上のことで素人のあんたに適確な命令や指示など、そうそう出せるもんやないさかい、その経営者の意向を反映することが一番手っ取り早いわけや。
何事も、自分が「店長」やからという過剰な意識を持って事に当たらず、経営者という「虎」の威光を利用することを考えた方がええということや。
そうすることで、下の者には経営者の信頼が厚い「店長」と映るようになるさかいな。
ワシが「虎の威を借りたキツネ」になれというのは、そういうことや。
もっとも、いつまでもキツネのままでは下の者は誰も、あんたを認めようとせんやろうがな。若干でも、それで時間的な余裕ができれば仕事に精通するよう心掛けることや。それで実力を蓄えたらええ。
その上で、できる従業員を味方につけるということも大事になる。
このときに、経営者に信頼されている「店長」という、あんたの姿が役に立つ。当たり前やが経営者に信頼されている「店長」には表立って逆らいにくいさかいな。
その従業員の思いを利用する。
どの業種の従業員でも職場や経営者に対して、必ず一つや二つくらいは不満を持っているもんや。それを親身になって聞き出す。
そして、「あんたの不満(希望)は経営者に伝えとくから、私の指示に従って頂きたい」といった感じで、その従業員と接すれば、自然とその従業員は、あんたに対して一目置くようになる。指示にも従うはずや。
『因みに販売所内で年齢も経験も私が一番下です。私が勤めている販売所に来る拡張員の方々を含めても私が一番下です』ということも、あまり過度に考え過ぎる必要はないのやないかと思う。
ただ、普通に、年上の人には敬語で接し、命令する際にも「〜してくださいね」、「〜をお願いしますね」と言えばええだけの話や。
そうすれば、『常にペコペコしながら仕事をしていてはなめられそうですし、かと言ってずぶの素人の私が命令口調なのもいかがなものかと思いますし』ということなど考える必要もなくなると思うがな。
やさしい口調でも命令や指示は、ちゃんと伝えられるわけやしな。
要は、あんたの気持ちの中に、毅然としたものがあるかどうかということや。
あんたが「素人」ということで卑屈に思えば、相手にもその卑屈な感じを与えることになるし、経営者に抜擢された「店長」という自覚を持てば、自信を持った対応がそれなりにできるはずやと思う。
偉ぶるでも卑屈になるでもないという感じでええのやないかな。
最後に『学歴と職歴だけで転職した』というのがどんなものかは分からんが、それがこの業界で役に立ちそうなことなら、それを前面に出すというのも一つの手ではある。
例えば、前職が新聞社関係の仕事なら、それだけで、この業界にとっては立派なハクにはなりそうやからな。
もっとも、例えそうであったとしても、素直にそうと崇(あが)める従業員や出入りの拡張員は少ないかも知れんがな。
特に、出入りの拡張員には、それこそ様々な前歴の持ち主が多いから、少々の経歴くらいで驚くことはない。たいていは、「あ、そう」てなもんや。興味の対象にすらならん場合が多い。
せやから、その学歴や職歴は、その経営者側から見て役に立つ、活きるという程度に考えとく方が無難やとは思う。現場の人間には、それほどの効果はないと。
余談やが、映画の「踊る大捜査線」に登場する警視庁から乗り込んでくる警察官僚などにも同じようなことが言えると思う。
彼らの経歴、役職は立派やが、かといって、所轄と言われる現場の刑事たちが、それを尊敬して認めとるかというと、そうやないわな。
逆に、偉そうな態度を取っとる警察官僚たちをどこかバカにして笑っている部分があると多くの観客は見ている。
あの有名な「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ」という名台詞は、如実にそれを表しとると思う。
それと同じことが、新聞販売店での現場でも言えるということや。
現場で認められるのは、その現場に長けた人間だけやさかいな。
せやから、今のあんたが目指すのは、中間管理職としての上からの評価を確実にすることや。いきなり、現場の人間から評価して貰おうと考えるのは早計やと思う。
ただ、『ベテランの専業さんや拡張員の皆さんと人間関係や仕事面でうまく』やっていきたいという気持ちはなくさん方がええがな。
その気持ちを忘れて偉そうに振る舞えば、映画「踊る大捜査線」の警察官僚たちのように笑い物になるだけやさかいな。滑稽としか映らんやろうと思う。
今は距離があるのが当然やが、その距離を埋める努力は怠るべきやないと肝に銘じることや。
その気持ちがあれば結果として、現場の人間をうまく使いこなせるようになるはずや。
最後に、どういう経緯で「店長」になったのかは分からんが、あんたの人間力が試されるええ機会になったのは間違いないと思うから、悔いのないように頑張ってみられることやと言うとく。
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