新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A

NO.953 新聞配達員の相談について



投稿者 M.U さん  投稿日時 2010.11. 2 AM 4:39 


はじめまして、上記の件でネットサーフィンしておりましたところ、貴兄のサイトを見つけて読ませていただきました。

いろいろな相談をされておられるようなので、ちょっとアドバイスをいただきたいと思い書き込みをさせていただきます。

私はA新聞の読者で、数十年にわたって購読しています。その間、何代にも渡って新聞配達や集金の若者達を見てきました。

長年取り続けているせいでしょうか、購読料を支払う時にいろいろと私事を話してくれる若者もおります。(もっぱら対応するのは妻の役なのですが)

その妻からこんな話を聞きました。

「給料が安い・・集金が出来ないとその分を給料から天引きされる・・いろいろなことで天引きされるので・・基本給以下になってしまう・・辞めようと思っている・・」といった内容だったそうです。

聞くとけしからん話だし、彼がかわいそうだし、販売店の対応はなんだか労基法に違反しているような気がするし。で、A新聞に問い合わせました。


私は数十年もA新聞を購読しています。今日、妻から変な話を聞きました。料金を徴収に来た若い人(20代前半と思われる)が辞めたいと考えているらしいのですが、その理由が「料金徴収のノルマがあって、それに達しないと罰として給料から引かれる・・何やかや取られて手取り10万にも達しないので・・」という内容でした。

料金が徴収できなかったからと言って、給料から天引きするのはどうみても労働基準法に触れているような気がします。「販売所については営業実態を感知しない」という考えであるのかどうかをまずお聞きしたいです。

その場合は労基局等と相談します。逆に調査される場合は、微妙な問題ですので、彼の不利にならないよう慎重な配慮をお願いします。(私の住所等で販売所はすぐわかるでしょうから・・)頑張っている若い人たちのためにも不公平な慣行(?)は止めていただきたいものだと思っております。


その答えがこれです。


M.U様

日ごろはA新聞をご愛顧いただきありがとうございます。

このたびはA新聞販売所の労務実態についてのお問い合わせをいただきました。

A新聞販売所は、独立した企業であり、A新聞販売所スタッフは勤務しているA新聞販売所の経営者と雇用契約を結んでおります。

したがって、A新聞販売所はA新聞社の支店等の関係を有するものではありませんので、A新聞販売所の雇用に関する件でのお取次ぎはいたしかねますことをご理解ください。

雇用に関するご連絡は、直接A新聞販売所もしくは公的機関へのご相談をお願いいたします。

今後ともA新聞販売所とA新聞をよろしくお願いいたします。


反応は私が思ったとおりのことだったので「ふ〜ん、次はさてどうしようか」というのが感想でした。

ところが、その相談員が夜来て「店主にこの件で質問された・・」そうです。驚きでした。

この問題は他にいっさい漏らしておらず私と妻、それにA新聞問い合わせ担当者しかしらないはずです。

「配慮を・・」と私がいったのに、さらに「独立した企業・・お取次ぎはいたしかねます・・」と言っておきながら店主にちくったのですから!

当然、A新聞に事の顛末を明らかにするようメールしました。今、返事まちです。

長くなりましたが、この問題は基本的には販売店のある若者の問題です。

ご相談したいのは「彼にとって最良の対応にするにはどうすればよいか?」です。

私だけなら、あらゆる手段を講じて糾弾するでしょう。しかし、それで彼が首になり、将来をつぶすようなら・・と考えたり、穏便に済ませるほうがいいのかもしれないとか、「二人目の彼を出さないためにも」と考えたりもしています。

と言うわけで、相談の程、よろしくお願いします。


回答者 ゲン


『ご相談したいのは「彼にとって最良の対応にするにはどうすればよいか?」です』というのは、その『販売店のある若者』の考え、真意を確かめるのが先決やろうと思う。

その彼から『辞めようと思っている』という話を奥さんが聞かれたとのことやが、それについては、こういった愚痴に近いことを口走る人間の常で、本気でそう思うてなかったとしても、つい、他人にそう洩らしてしまうというのはありがちなことやさかい、その真意は別のところにあるとも考えられるわけや。

また、そうしたくても、できんという事情があるかも知れんしな。

どんなトラブル、相談事でも、そうやが、その当事者がどうしたいのかという明確な意志が確認できんうちは、あまりそれに関わらん方がええと思う。

当事者が「助けてほしい」と頼ってきて、あんたが一肌脱ごうというのなら、それはそれでええが、その本人がそれを望んでいなければ、きついようやが、いらんお節介ということになってしまうさかいな。

『聞くとけしからん話だし、彼がかわいそうだし、販売店の対応はなんだか労基法に違反しているような気がするし』ということで、あんたが義憤にかられておられるというのは分かる。

実際にも、あんたの言うとおり、けしからん話で労基法に違反しとるのも事実やさかいな。

何とか、その若者を助けてやりたいという思いもよく伝わってくる。それはそれで人として間違ったことやない。正義感の強い人やと思う。

ワシらも、その思いがあるからこそ、こうしたQ&Aを6年以上にも渡り、続けてきとるわけやさかいな。あんたのその気持ちは痛いほどよく分かる。

しかし、今回のように、その若者の意志を確かめず、先に『A新聞に問い合わせました』というのは少し軽率やったかも知れんと思う。それもメールで問い合わせというのが拙かったと。

新聞社にメールで問い合わせる場合は、その送り手である、あんたの個人情報の記入も要求される。

何のために、それが必要なのか。

一つには、素姓を隠す人間の投書、情報は相手にせんという新聞社特有の姿勢ということもあるが、それ以外にも「建前と実際は違う」ということもある。

表向きは、その新聞社の担当者が言うてるとおり、『A新聞販売所はA新聞社の支店等の関係を有するものではありませんので、A新聞販売所の雇用に関する件でのお取次ぎはいたしかねますことをご理解ください』というのが公のスタンスということになっとる。

A新聞社が、そのスタンスで考えると、あんたのようなクレームが舞い込むのは迷惑やとなる。もちろん、例え、そうやとしても、購読者に対して、あからさまにそう言うわけにはいかんわな。

購読者にそう言えん分、販売店に対して、「お宅の店の客から、こんなクレームがあったから、そちらで二度とこういうことのないように対処してくれ」と言うためにも、その個人情報が必要やったわけや。

あんたは『微妙な問題ですので、彼の不利にならないよう慎重な配慮をお願いします』と言うておられるが、新聞社、それも、あんたにそのメールを返信せなあかん担当者にすれば、「こっちに煩わしい問題を振らんといてくれよ」という気になって、その当該の販売店に、そのまま連絡したとも考えられる。

さらに、『「販売所については営業実態を感知しない」という考えであるのかどうかをまずお聞きしたいです』という、あんたとしては至極当然な質問をぶつけられたつもりでも、受け取る側は責められていると感じる場合がある。

そう感じた担当者としては、公のスタンスとして、新聞社と販売店は別組織ということがある以上、『雇用に関するご連絡は、直接A新聞販売所もしくは公的機関へのご相談をお願いいたします』と、その問題について逃げるしかないと考えたのやないかな。

それには、あんたの言うてる『料金が徴収できなかったからと言って、給料から天引きするのはどうみても労働基準法に触れているような気がします』という程度のことは先刻承知してたということも考えられるからや。

業界で俗に『切り取り行為』と呼ばれとるのが、それや。

『切り取り行為』というのは、新聞講読料の集金期日までに集金できんかった分をその担当従業員の給料から一時立て替えするシステムのことで、その若者が『集金が出来ないとその分を給料から天引きされる』と言うてることと符号する。

これについては労働基準法に定められた「賃金全額払いの原則」に反し、違法性が高いものと思われる。

それについて、サイトの法律顧問をして頂いている法律家の今村英治先生(株式会社デイリープラン代表取締役) の見解があるので、それを紹介しとく。


たしか集金の仕事は、業務外の請負という形になっていることが多いのでしたよね。そもそも、この制度そのものが違法性が高いと『NO.109  集金中に犬に噛まれてケガをしたのですが労災は出ますか?』lの中 で、

集金は業務外という理屈は、私には納得しかねます。100%歩合制だから労働じゃない・・・ここまでの理屈は分かります。

では労働じゃないんだから断る自由もなきゃおかしいです。私は労働である配達はしますが、請負の集金はしません。そんな自由が認められるとは到底思いません。

集金は業務に付随するどころか、業務そのものです。従業員の承諾なしにそれをやっているとしたら36協定違反や、残業代の未払いなども含め経営者サイドの責任は重いです。

集金の命令を拒めますか? 事実上強要されるでしょ? それは労働に他なりません。

集金を業務外にしているのは、業界全体が労働基準法に抵触している恐れありと私は判断します。

と、お返事したのですが・・

それはさておきまして、では「集金」が労働でなく「請負」であると仮定します。

集金という請負において、締め切りに間に合わなかった場合の切り取りというのは、販売店の集金人に対する債権譲渡に該当しましょう。

立て替えはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払です。これは労働の対価として支払う賃金とは本来全く無関係であるものです。

ですから、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し明らかに違法です。

そしてこれはあくまでも労働ではないですから「オレは集金しないよ」と言ったことでクビにされたりなんかしたら、根拠のない不当解雇になります。

「集金」は「労災も残業代も出ないよ。労働じゃないんだから」という店側の理屈を前提にするなら、じゃあ給料から差っ引くのは明らかにおかしいよってことです。

ところがNo109でもお返事しましたが、契約上どのような取り決めになっていようと、外形上判断すると、集金業務は労働です。

多くの社会保険労務士及び労働基準監督官は、これを労働とみなすんじゃないでしょうか。

では労働とした場合、非常に苦しい詭弁なのですが、期日までに集金できなかったので、店側に損害を与えた。従って集金人たる労働者が店に対し損害賠償債務を背負ったという「ヘ理屈」を前提にしてみます。

期日に間に合わなかったとは言え、いずれ回収できそうな債権であるならば、その時点での損害賠償額を算出することは難しいと思いますし、そのようなあやふやな状態で給料から差っ引くというのはやはり「全額払いの原則」に抵触すると思います。

法律的にシロクロはっきりさせるためには、そもそも集金業務が請負なのか労働なのか最初に明確に定義する必要がありそうですね。

労働である場合
労災保険が適用になる。時間外割増賃金が発生する。「集金してこい」は業務命令。労働契約の一部。サボったら当然懲戒の対象となる。

請負である場合
労災未適用。賃金ではなく請負代金。店と集金人の請負契約。集金や切り取りを拒んだことで給料を下げられた・解雇されたとなると、これは不当な理由による不利益処分となる。

店側にとって労働でも請負でもないグレーゾーンにすることで、双方のいいとこ取りをしているように以前から思っていました。

いずれにしても切り取りは債権譲渡という商取引ですから、労働契約とはなんら関係のないことです。商取引である以上、切り取りそのものには違法性はありませんが、労働条件・労働契約に密接に関連していたりすると途端にいかがわしさが増しますね。

こうしたことを条文では直接定めていないですし、判例もないので、私も様々な類推解釈をせざるを得ないのですが、新聞代金の集金業務は、購読契約や配達と密接に関連しており、事実上「集金してこい」という命令を拒めないのであれば、その集金業務だけを切り離して「請負」とし「労災の対象外」とすることは非常に無理があります。

ましてや半ば強制的に債権を譲受させられてしまうという状況は劣悪です。


というものや。

その証拠を添えて労働基準局に訴えることも可能やし、実質的な被害があるのなら、民事裁判に訴えることもできる。

ただ、この『切り取り行為』に関して言えば、いくら新聞社は販売店の雇用にはタッチせんというスタンスがあったしても完全に違法行為やから、それと知って放置するわけにはいかんと、その担当者が考えた可能性もある。

実際、A新聞だけやなく、他の多くの新聞社はその『切り取り行為』を止めるようにと、取引相手である販売店に、その通達を出しとると聞くさかいな。

ひょっとすると、新聞社のその担当員が、販売店に問い合わせたのも、それがあると疑ったからやという可能性も考えられる。

確かに、『逆に調査される場合は、微妙な問題ですので、彼の不利にならないよう慎重な配慮をお願いします』という、あんたの思いは踏みにじられたと感じられたかも知れんが、調査するためにも、その新聞社の担当者からすれば、直接、その事実があるのかどうかを、その販売店に聞くしかないと考えたということもある。

ワシも、その『切り取り行為』の有無に関しては、いくら新聞社でも外部の人間に販売店内部の事は調べようがないと思うさかい、直接的な質問をするのは、ある意味、仕方のない対応やったと考える。

それが、販売店の経営者から、その若い従業員に、そして、あんたの所まで伝わったということになる。

これがメールではなく、新聞社に直接、電話をすれば、また違った対応になったと思う。

これは、ハカセがよく使う手やが、新聞社の苦情係に電話した際、「ちょっと、参考までにお聞きしたいことがあるのですが……」と切り出して、そのまま本題に入るという。

そうして、個人情報はなるべく知らせんようにする。そうすれば、どこの販売店のことか分からんから、今回のようなこともなかったはずやしな。

ワシが『少し軽率やったかも知れんと思う』という所以や。

ただ、それはワシらのように、この業界のことをよく知っとる者が言えることで、一般の人にそこまで考えろというのは酷な話やとは思うけどな。

何度も言うが、いずれにしてもまずは、その若い販売店の従業員が、どうしたいかということを確認することやと思う。

あんたが、その力になってやりたいと考えるのは、その後でええのやないかな。助けは、それが必要な人にするものやと思うしな。

ワシが、『そうしたくても、できんという事情があるかも知れんしな』というのは、その若い従業員が住み込み、もしくは販売店の寮のような所で生活している場合、揉めるとその行き場がなくなる、あるいは借金をしていて辞めても、すぐにその返済できんといったようなことが考えられるからや。

それが苦になって何もできんという場合は、それはそれで、その人の選択やさかい仕方のないことやと思う。

ただ、例え、そうであったとしても、本人が何とかアドバイスしてほしいと願うのなら、そのケース毎でいくらでも方法は考えられるがな。

少なくとも、ワシらは常にその手の相談事には乗ってアドバイスしとるつもりや。

最後に、『当然、A新聞に事の顛末を明らかにするようメールしました。今、返事まちです』というのは、あまり多くを期待せん方がええと言うとく。

おそらくは、それを否定する文面が返ってくるか、そのまま何もないかのいずれかやと思う。

気を悪くされるかも知れんが、あんたが、それに対して突っ込めば突っ込むほど、その若者を追い込むことにもなりかねんさかい、それは止めておいた方がええ。

世の中、残念なことやけど、正しい行為が、そのままええ結果につながるとは限らんということや。それを分かってほしいと思う。


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