メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第102回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日 2006.7.21


■電子チラシの脅威?


この電子チラシそのものは、今に始まったことやない。大都市を中心とした大手スーパーのHPで以前から試みられとった。

内容は、朝刊に折り込まれてくるチラシを、そのままネット上で見ることができるというものや。

これについては、サイトのQ&A『NO.17 拡張員の嫌がる効果的な断り文句を教えて下さい』の中で紹介したことがある。もう2年ほど前になる。

その中で、ワシは『これで、チラシの欲しい新聞購読層が減少するかも知れんな。新聞を取らんでもチラシが見られるんやからな。ワシらの仕事も少しずつ、やりにくくなるちゅうことや』とコメントしたが、実際は、それほど影響があるというところまでは広まっておらんかったようや。

ワシ自身もそうやが、それによって勧誘する際に客の方から話題になったというようなことを、どこからも聞かんしな。

読者が新聞を購読する理由の一つに、この折り込みチラシの存在があるのは確かや。特に主婦層には、昔からこれがなくてはならんというくらい重要視されとる。

その折り込みチラシが多いと少ないのとでは、購読部数が大きく違う。また、多くの販売店の収入にも、これがあるのとないのとでは、その経営にも大きく影響する。

電子チラシは、それを圧迫する畏れのあるものや。それが、ここにきて飛躍的に伸びようとしとる気配があるという。

その仕掛け人が、大手の印刷会社やというから驚く。

本来なら、印刷会社は、折り込みチラシを印刷する立場の企業なはずや。それで、恩恵を受けていた業界やったと言うてもええと思う。

新聞販売店にとっては常識やが、日々持ち込まれる折り込みチラシの量は半端やない。

現在、日本の紙の使用量は、年間、約1904万トン。その内、新聞紙の使用量が年間約343万トン。それに入れる折り込みチラシの量が年間、約120万トンと見込まれとる。

新聞1部につき、毎日66グラムのチラシが入るという計算になる。これは、新聞1部の総量の約3分の1に相当する。

公売1000部の販売店やと、毎日66キログラムの折り込みチラシが届けられることになる。

もっとも、これは、多い販売店と少ない販売店で、かなり差があるから、単なる数字上の平均値としての目安でしかないがな。

いずれにしても、それだけの折り込みチラシが日々印刷されとるということや。印刷業界の実に35%を占めるというから半端な数量やない。

その印刷用紙を作る、あるいは印刷をする業界が、それを否定、対抗するような電子チラシの配信サービスを手がけようというから驚くと言うたわけや。

もっとも、それなりの理由と成算があってのことやとは思うけどな。

ワシは、ふと、このメルマガ『第100回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞の未来』の中で言うたことを思い出した。


紙自体は、環境問題などの影響により、世界的にその使用量が制限される。

日本では、印刷用紙の次に紙の使用量が多いのが新聞や。情報を売り物にする新聞が、これを無視することはできん。

止む得ず、デジタル化に進む。


これは、それなりのデータをもとに予測したことやが、印刷業界もその必要性に迫られてのことなのやろうか。

もし、そうやとすると事はかなり深刻や。単に、電子チラシによる折り込みチラシへの圧迫以上の脅威が潜んどることになる。

紙が使えんような時代になった場合の印刷業界が生き残る手段として、電子チラシへの方向転換というのは、ある意味、やむを得ん選択なのかも知れんからな。

このままの紙の使用量が続けば20年後〜30年後には、危機的な状況になると考えられとる。

新聞の紙としての衰退も、これがかなり影響されるはずや。何ぼ新聞がその頃まで売れ続けとったとしても、肝心の紙がなくなったんでは、どうしようもないからな。

新聞紙は大半がリサイクルの再生紙を使うとるやないかという意見があるかも知れんが、それすらも限界点に達する畏れがあるということや。何しろ、話は地球規模の問題やさかいな。

せやから、これを単に新しい商売の試みくらいに考えてたら、新聞販売業界も足下を掬(すく)われるかも知れんということや。

ここで、その電子チラシについて分かったことを言うとく。

従来の電子チラシは、全国展開、あるいはチェーン展開しとる大型スーパーなどのHP上に、新聞の折り込みチラシと同等の内容のものを表示してあるというものやった。

今回の試みは、それをサーバー化して、数多くの加盟店を募り、そこに消費者の関心を集めようというものや。

まだ、どれだけの加盟店が参加するかは未知数やが、それが、大規模なものになったと想定するとそれなりの効果が望めるとは思う。

業者側の利点は、クリック回数の多い部分や閲覧回数を知ることにより、掲載品目のどの商品が消費者の興味や関心を惹いとるのかが分かることにあるという。

それが、分かれば商品の販売戦略上、かなり有利や。業者によっては、結果としての売り上げデータと同じくらい、この消費者の関心度に注目する所もあると聞く。

例え、そのときは売れんかったとしても、関心度の高い商品は、やり方次第では必ず売れるからな。店内の棚割や配置転換への判断材料にもなる。

それが、今までの紙のチラシだけやったら分からんかった。その具体的なことがクリック回数で把握可能になるということや。

消費者の利点も多いと説く。

今までの新聞への折り込みチラシは、近場の店舗という限定された範囲内だけのものやった。

このシステムやったら、折り込みチラシが入らんような遠方の店舗情報も知ることができるという。それを望む消費者には朗報ということになる。

さらにこの電子チラシは、ユニークな付加価値を持たせることが可能やという。

例えば、電子チラシの「カレー用肉」という表示をした部分をクリックすると、それに関係した、ジャガイモ、タマネギ、ニンジンなどの野菜やカレールーについての特売情報も同時に表示されるようになるという。

電子チラシの配信先も、パソコン上のHPだけやなく携帯サイトも視野に入れとる。むしろ、こちらの方がメインになるかも知れん。

関東の一部の商店街では、その携帯サイト向けの電子チラシサービスをすでに始めとるということや。

これだけを聞く限り、電子チラシはええことずくめのようやが、果たして、そうやろかと思う。

確かに、チラシを重要視する主婦層は心を動かされるかも知れん。しかし、それ以外の客を、ということになれば、どうしても疑問符がつく。

電子チラシを必要と考える業界は、今のところ限られとる。食品スーパー、ディスカウントストア、家電量販店、ホームセンター、大手衣料店などがその主なものやと思う。

しかし、そういう所はすでに自前のHPに、電子チラシとしての広告を打っとるし、地域の新聞販売店へのチラシも入れとる。

どんなに折り込みチラシの少ない新聞販売店でも、そういう所のチラシは必ず入っとるからな。

つまり、そういう業界では、経験的にHPだけでは集客できんということを良う知っとるわけや。

企業により、HPへの訪問数はそれぞれやろうが、どことも期待したほどやないという。

HPは、それで集客数を増やそうという狙いよりも体裁としてそうしとる部分が強い。また、それでええと思うとるようや。

それには、企業側と消費者側の視点の違いが大きいと思う。言えば、HPを作る側と見る側の立場や。

作る側は、それを見られることを前提に作る。見られた場合のことを重視するから、どうしてもその体裁に拘る。自らのアピールしかせんことになり、それについて何の疑問も挟まんということになる。

見る側は、それを見る理由がなかったら訪問することはない。これは、すべてのHPについて言えることや。

多くの企業は、その見る側の見る理由というものをあまり考えとらんようや。自社のサイトに客を引き込むための努力をしとるようには思えんからな。

情報量が少ない時代やったら、それでもまだ良かったかも知れん。しかし、今やインターネット上の情報量は異常なまでに膨れ上がっとるし多すぎる。

携帯サイトのそれを加えれば数十億〜百億のサイトが常時、うごめいとるという。実数、実態がつかめんのが実状なわけや。

そんな中から、企業への耳目を集め広告効果を上げようと思えば、相当のインパクトがなかったら望めんことや。

今の日本で最も広告効果の上がる媒体は、やはりテレビコマーシャルや。それにしても、ただそれを流すだけやと熾烈な争いには勝てん。

ワシらの子供頃のテレビコマーシャルというのは、単純に「これ、買って」式のものが圧倒的に多かった。商品の連呼が当たり前やった。

現在のそれと比べるとインパクトという点では雲泥の差がある。あまりにも稚拙すぎたからな。それと比べると、現在のは、凝っていて見ていても面白いものが多い。

昔のテレビコマーシャルは、はっきり言うて邪魔な存在として見られていた。面白みがないものばかりやったと記憶しとる。

それが、現在の企業のHPとオーバーラップする。これは、やはり歴史の違いが大きい。インターネットが普及して、まだ10年そこそこにしかならんということでな。

数の上では確かに膨大と呼べるほどにまでなったが、中身は残念ながら稚拙なものが多く成熟しとらんわけや。特に、テレビコマーシャルと対比するとそれが良く分かる。

つまり、見る側の見る理由というのは、それが面白くかつ有意義なものと思えなあかんということになる。

それは、作る側だけの視点からやとまず見つけることは難しいやろと思う。

中には、読者の声と称してアンケートを集めとる企業もあるようやが、それも限界がある。特に、対面アンケートやと、かなり割り引いて考えなあかん。

確かにそれで本音を言う人も中にはおるやろ。しかし、大多数の日本人は本音を隠す民族やと思う。相手の悪口は面と向かっては言わんもんや。むしろ、裏腹なことを言う人の方が多い。

例えば、スーパーの試食コーナーで出されたものについて「どうでしたか?」という質問があったとする。たいていは「旨かった」「まあまあや」と答える人が多いはずや。

よほどでないと「こんな拙いもの食えるか」と答えることはないやろ。例え、腹の中でそう思うてたとしてもな。

それを消費者の声と多くの企業が錯覚する。たいていの企業は、自社製品に対して自信もプライドも持っとるから、評判がええという結果が出たら、さもありなんと考えやすいということも手伝う。

逆に、それを否定されると気分を害することすらある。謙虚になるということができにくいわけや。そういう体質の企業が多い。

企業のHPが、そういう意味で成熟するまでには、まだ時間がかかるということや。条件とすれば、テレビのそれよりも厳しいと思う。

テレビコマーシャルの場合は、それを見ることを、まだ避けられん要素が強い。

特に民放は、そのテレビコマーシャルがなかったらやっていけんものやから、テレビを見る限りは、嫌でもそれを目にすることになる。

それを繰り返し見ることで視聴者に自然に浸透していく。アナウンス効果と呼ばれとるものや。

ところが、インターネットの類は、それを見るという行動を起こさん限りは見る必要のないものや。勝手に目に入るというものとは違う。

今回の電子チラシというのは、ここに難点というか欠点があると思う。それに、興味がなければ成立せんということでな。

その点、現在の状況やと、新聞の折り込みチラシの方が、まだ、効果的やということになる。なぜなら、偶然の要素で、それを目にする可能性があるからや。

新聞をあまり読まんという人でも、一度も折り込みチラシを取り出すこともなく、配達されたままということはないはずや。

たいてい、一度くらい折り込みチラシは取り出す。裏面のラ・テ欄(テレビ欄)を見るのにもそれが邪魔になるしな。取り出せば、何げなくにしろ、それを見ることになる。

スーパーなどの特売情報のほしい主婦層は、当然のように目当てのチラシを探すが、それにしても、それ以外のものも意識的ではないにしろ見ることになる。

ダイレクト・メール(DM)も、それを期待して送る。そこにあれば、それを見る可能性があると考える。また、僅かな確率やが、それで実際に興味を惹くということもある。

そやから、その電子チラシを普及させようというグループが果たして、どこまでそれをメジャーなものにできるかやろと思う。

コストの問題がある。

現在の電子チラシへ参加するには、初期費用として最低60万円から、月額の維持費が安くても14万円からということらしい。

対して新聞の折り込みチラシは、その販売店毎、紙の大きさでも多少違うがB4で1枚入れるのに平均して3円ほどや。1万枚入れて3万円ということになる。

もっとも、これだけやと、どちらがええとは言えんと思う。

電子チラシで事足りるということになれば、実際のチラシを印刷する必要はないわけやから、印刷代もいらんことになる。

ただ、効果があるかどうか確定されておらんものには、零細企業は手が出し辛いから、当初はどうしても大手中心にならざるを得んと思う。

実は、今回の話をしようということになったのは、ある読者からの投稿が一因としてあった。その部分を抜粋する。


さて、電子チラシサービスが始まっていることはご存じかと思いますが、だんだんと、ネットならではの付加価値が見えてきました。

まだ、登録(賛同)している企業はわずかですが、企業側にメリットがあるはずなので、今後、その数は増えてくると私は思っています。

利用者の立場としても利点がありますね。最新のチラシが、折込前日の夜にはネットで見られるという点は画期的ですし、ダウンロードしたデータは、当然のごとくスクラップ(保存)ができます。

折込チラシだけが目的で新聞を購読している人が、こういったサイトの普及で、どれほど影響を受けるものか、今後の動向が注意されます。

おそらく、ゲンさんなど、新聞営業の最前線の方々が、最も早く変化を感じることになるんでしょう。

新聞販売店が、こういった事態を阻止するには、私の考えでは、近所の狭いエリアにある中小企業を開拓することではないかと思うのです。そういう零細なところは、ネットにチラシを出すことはしないはずだからです。

つまり、販売店自らが提案営業をして、今まで折込チラシを出したことのない店や企業にアドバイスをすることで、新聞のチラシを増やしていくことが、生き残り策になるのではないかと思っています。


という内容のものやった。

この人の言うておられるように『新聞営業の最前線の方々が、最も早く変化を感じることになるんでしょう』ということでは、遅すぎるのやないかと思うたから、この問題を取り上げることにしたわけや。

変化を感じたときでは、すでに勝負はついてしもうとると言うてもええと思う。

その変化を感じるというのは、実際に顧客に「ネットでチラシを見るから、もう新聞を取る必要がない」と客に宣告されたときやろうからな。

そういう事態に陥ってから慌てて対策を講じても遅いと思う。

幸い、この試みは早い所で8月の後半、遅い所やと9月の上旬からスタートするとのことや。今からなら、出遅れはあるにしろ、やり方次第では十分対抗可能なはずや。

この試みには不確定な要素が強い。どれだけの客が、その電子チラシから積極的に情報を入手しようとするのかは、やはり疑問やという他はない。

それを必要とする客は、現在でも、インターネット上にあるチラシ情報、特売情報を積極的に入手しとるはずやからな。

大手の店舗のHPで、それがすでに行われとるということを知らんはずはないやろと思う。

せやから、ここで、この問題を取り上げたとしても楽観視する向きもあるはずや。現状とさほど違いはないやろと。それを否定しきれる材料もないことやしな。

ただ、冒頭でも言うたことやが、これを印刷関係業者が企画しとるという点に注目して貰いたいと思う。

彼らは、はっきり言うて、現状の印刷業に打撃を与えるようなシステムを考案する必要はないはずなんや。

ただ1点の場合を除いて。その場合というのが、紙のなくなる日がいずれ来るという現実や。

その未来を見据えてのことやとしたら、彼らの試みは、中途半端なものやないと考えとかなあかん。企業の生き残りを賭けた一大プロジェクトなわけや。

ワシが、安易に考えてたら足下を掬われると言うたのは、そういうことや。

ここで、新聞販売関係者の方を脅かしてばかりでは申し訳ないから、それについてのワシなりの対抗策を話そうと思う。

今回のメールを寄せて頂いた方のご意見に「私の考えでは、近所の狭いエリアにある中小企業を開拓することではないかと思うのです。そういう零細なところは、ネットにチラシを出すことはしないはずだからです」と言っておられた部分があったが、これがポイントになる。

それを、そのまま、そういう企業へチラシ依頼の営業をかけてもええが、ネットにはネットでの対抗というのも一つの選択肢やと考える。

どういうことかと言えば、販売店毎でのHPの中で「折り込みチラシ情報」とでも銘打って、その折り込みチラシを入れてくれる業者を対象に、販売店版「電子チラシ」を作るんや。

そして、そのHP上の商品をクリックすれば、その企業のHPへ飛ぶようにリンクを貼るようにしとく。

HPの利点の一つは、どんな大企業のHPであろうと、零細のそれであろうと、見た目、機能については対等やということや。

例え零細であろうと、アイデア次第では十分に大企業と勝負できると思う。

それを説いて、チラシ参加を呼びかけるわけや。折り込みチラシを入れることで、HP上でも宣伝して貰えるというのは、魅力の一つやないやろか。

さらに、ワシら営業も、客に「折り込みチラシのことでしたら、当店では電子チラシのサービスもしていますのでお得ですよ」と説くこともできる。

今までは「インターネットで新聞を見るから」という客にも「当店ではHPも充実してますので、いろいろ役に立ちますよ」と言えるから、苦手にするケースも減ると考える。

当然やが、購読者にはそれなりの特典を考える。勧誘もしやすくなるはずや。

ただ、HPの作成には、それぞれでいろいろ問題もあるやろうが、一考の余地はあるのやないやろか。

これからの新聞営業は、インターネットに押されていたという状況から、それを利用するという立場にならなあかんと思う。

ワシの言うたような提案は、残念ながら、現在までのところ、どの新聞販売店のHPにもなかった。

もちろん、実際の運用となれば、いろいろ問題もあるというのは分かる。

例えば、新聞社によりHPの届け出、許可制というのがあると聞くのがそれや。

表向きは、新聞社から僅かながら、その運営費を援助、負担するためということらしいが、内容は検閲に等しいとの報告もある。それで、二の足を踏む販売店もあるようや。

しかし、販売店の部数増、チラシ業者獲得による収入増の可能性があるのなら、チャレンジしてみるのも、一つの手やと思う。それを、新聞社も否とは言わんやろしな。

これに、関して、ご意見のある方、アイデアのある方は、当メルマガまで寄せて頂きたいと思う。

また、試みに挑戦されるという方も、遠慮なく相談してくれたらええ。寄せられたアイデアを中心に、ワシの考えを交え、アドバイスできることがあれば、そうさせて頂くつもりや。


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