メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第109回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日 2006.9. 8


■新聞営業でオンリーワンと言われるための心得
 

「あんたに頼まれたら、しゃあないな」あるいは「あんたが気に入った」と客に言われてカード(契約)が上がることがある。

拡張員を続けていれば、誰にもこういう経験はあるはずや。

それを偶然と思い、運が良かったと喜ぶだけやと、単にそれで終わることになる。

営業の世界でこう言われたことは大きなチャンスやと捉える必要がある。

なぜ、その客がそう言うたのか。なぜその客に気に入られたのか。それを分析することで、どういう客がそう言うのか。どういう客に気に入られるのかが見えてくる。

当然やが、誰もがすべての客から、そんなことを言われることはない。

「あんたやから契約する」と言われることは、その客にとって、その営業員はオンリーワン「特別な存在」になったということを意味する。

そう言われた経験のある営業員それぞれに、その理由があり、特性が存在すると考えてええ。それを知るのと知らんのとでは大違いということになる。

新聞営業で、そう言うて貰える客を探す、あるいは確保するというのは本当に難しいと思う。

ほとんどの人が、新聞の勧誘と知っただけで、断りの態勢に入る。聞く耳持たんというのも珍しいことやないからな。

毛嫌いされる営業の最たるもんや。しかも、この営業の基本は飛び込みやから、嫌われても断られても、そうするしかない。

なぜ多くの人が、新聞の勧誘を嫌い、断るのか。

まずは、そのことを正しく認識することから始める必要がある。それを簡単に列挙する。


新聞勧誘が嫌われる主な理由

@慣れの部分も強いが、長年、購読しとる新聞がベストやと思う読者は多い。長期購読者という人たちや。この客層からの断りが一番多い。

彼らは、よほどの事情がない限り、それを変更する意志のない人がほとんどやと考えてええ。

よほどの事情とは「誤配、遅配があって販売店の対応が悪い」「集金に来なくなった」「その販売店が何かの事件に関係した」「評判が悪くなった」「販売店と揉めた」という類のものや。

タイミングよく、そういうときに訪問したら、カード(契約)になることがある。

しかし、それ以外の変更する意志のない人にとっては、新聞の勧誘は、来られるだけでも、うっとうしいものやとなる。

または、その意志がないのに、その話を聞くのも悪いと思う人もおる。

それなら、最初からその素振りも見せん方がええとなる。これはこれで、ある意味、親切なことでもあるがな。

A勧誘員の外見が大きく左右する。多くは、服装、スタイルなどの第一印象で判断して嫌がる。

嫌われるスタイルとは、ヤクザの着るようなハデな服とか、だらしないと思われる格好や。

中には洗濯しとるのかと疑うような汚れたヨレヨレの服を着とる者もいとる。身だしなみに気を遣わんような人間や。

これは、営業員にとっては致命的なことや。営業の世界ではタブーとされとることやけど、この業界は、それについて甘かったというのがある。

現在は、厳しい所が大半やけどな。それでも、一部にそういう人間も未だにおるのも事実や。

B態度や話し方というのも大事や。営業は、話すことから始めるわけやから、それが嫌われたら話にならん。

しかし、他の営業員と比べると接客態度の悪い者が多いというのは、残念やが認めんわけにはいかんやろと思う。

もちろん、中にはちゃんとした者も多いが、営業全体のランクで言うと悪い部類に属する。

営業は、当たり前やが、客がおって初めて成り立つものや。極端に言えば「お客様は神様」というくらいの気持ちで接せなあかん、とワシは思う。

ワシらが飯を食うていけるのは、その客から契約が貰えるからやからな。

そう考えれば自然に客に対して接し方、物言いも嫌われんように心がけるはずなんやが、それが分からん人間がおるから困る。

そういう人間のおかげで、他の真面目な拡張員も、それと同列に見られ扱われることになるわけや。

これには、その基本的な営業の心得を教える拡張団である営業会社が少ないのと、昔からの悪しき伝統を引き継いどるということにも、その一因がある。

それについては、このメルマガやサイトでも、事ある毎に言及しとる。

そもそも、新聞拡張団の起こりは、ヤクザ組織のような連中を勧誘員として新聞社が使い始めたということにある。

そのヤクザに一般人に対して他の営業員のような態度で接しろというのは酷な話かも知れん。

どうしても「契約したれや」という言動になりやすい。それが、60数年間も続いてきたという背景があるからな。

最近、かなり浄化されつつあるとはいうても、一朝一夕に変わるものでもない。どうしても、その悪しき伝統が残っとる所もあるということや。

C拡材の存在も大きな要素や。これには、思い違いをしとる拡張員が多い。

思い違いをしとると、第一声から「こんなサービスがおまっせ」と拡材中心の勧誘になりやすい。

そういう勧誘員は「拡材を渡すんやから、契約してくれてもええやろ」という気持ちと態度にどうしてもなる。

例え勧誘員本人は、そのつもりがなく、それと気が付かんでも、客はそう受け取る。これは、客にとってはバカにされとる気分になる者もおる。

例えて言えば、魚釣りをしとるのに似とる。多くの釣り人は、エサ次第で魚が釣れると思う。そう思えば、どういうエサを与えれば釣れるかということだけを必死で考えるようになる。

本当はエサだけで魚が釣れるわけやないんやが、それ以外のことに考えが及ばんわけや。

魚と違うて、人はバカやないから、そんな扱いをされとるというのを敏感に感じ取る。「景品なんかは別にいらん」と言う客がそうやと思えばええ。

これには、暗に「バカにするな」という意味合いが含まれとる。そういう客は、当然のように拡材の話だけしかせん勧誘員に嫌悪感を示すことになる。

もっとも、その拡材の景品次第で契約する客がおるのも事実やから、これは止むことのない手法やとは思うがな。

相手次第では有効な営業なのも確かや。ただ、いずれにしても、それだけやと嫌われやすいということも心しとく必要はある。

D最近では、さすがに喝勧やてんぷらということも少なくなってはきたが、未だに騙しのような手口は横行しとるようや。

そういうのも、嫌われる大きな要因になる。

「宅配便です」「古紙回収の者です」「引っ越しの挨拶に来ました」と嘘をついてドアを開けさせようとするのが、その典型や。

サイトの『新聞勧誘・拡張なんでもQ&A』の相談にもそういうのが多いからな。そういうのが、なくならん限りは、ワシらへの評判が良うなることもないやろと思う。

当然やが、一度でもそういうのに遭遇したら、新聞勧誘に対して不信感を抱かんといてくれと言う方が無理やろうからな。

E自分本位な勧誘員も嫌われる。世の中には、自分中心で物事を考える人間は多い。一般人やったら、それでもええかも知れんが、営業する者がそれやと救いがない。

自分本位な人間とは「せめて話くらい聞けよ」というタイプや。これは、例えそのことを口に出さずとも、その気持ちは必ず相手に伝わる。

どうしても横柄な態度になりやすくなるからな。客と揉め事を起こすのは、間違いなくこのタイプや。

営業は、営業員の一方的な都合で訪問して客の時間を奪うことになる仕事やから、それについての思いやりの気持ちが必要やと思う。

これは、そう考えるだけで、自然にそういう接客態度になるはずや。


この他にも、人により、それぞれで嫌う理由はあるやろうが、だいたい、こんなものやと思う。

これを正しく認識しとれば、どうすればええかは簡単に分かるはずや。嫌われる要素があれば、それをせんように注意すればええだけのことやさかいな。

@の長期購読者で難しい人間の勧誘はなるべく避け、Aの服装に留意し、Bの態度や話し方に気をつけ、Cの拡材についての認識も改める。さらに、Dの騙しのようなことをせず、Eの自分本位にならんように心がける。

これらが、完璧に実行できれば、それだけでも営業はかなり伸びるのは間違いないと思う。少なくとも、話くらいは聞いて貰えるようになる確率はかなり上がるはずや。

しかし、それだけでは十分とは言えん。

それ以上を望むなら、冒頭で言うた、客にとってのオンリーワンになるように心がけることやと思う。

「あんたやから契約する」と言われるようになることや。

「客にそう言われる何か上手い方法でもあるのか」と言われても、誰もがそうなれる便利な手法というのはない。

そうなれる可能性のある考え方、要素があるだけや。

これから、それについて話す。参考になるか、どうかはそれぞれで考えくれたらええ。


新聞営業で客にオンリーワンと言われるための心得

1.雑談ができること。営業は話すことが重要なウェートを占める。その中でも、相手の心をとらえる手段でもっとも有効なものが、この雑談をすることや。

最初から「新聞を取ってくれ」「契約してくれ」「景品をサービスしまっせ」と勧誘することのみを考えとると「新聞勧誘が嫌われる主な理由」で言うたようなことになる。

これでは、例え契約に漕ぎつけたとしても、相手の心をとらえることは難しい。ただ、1本の契約が上がっただけのことになる。

営業は、余裕がないとあかん。特に、相手にとってのオンリーワンになろうと思うのなら、この雑談ができるというのは必修科目と考えるべきや。

2.常に「客にとってのオンリーワンになるために」を意識すること。そうすれば、トークも自然に、その客に気に入られるようなものになるよう努力するはずや。

その気持ちが態度となって表れ、相手を動かすことができる。

3.自分が好きになれる客を探す。人には、俗に「ウマが合う、合わん」ということがある。

ウマが合う人は好きになれるが、ウマの合わん者とは上手く付き合うのは難しい。これは、誰にでも経験のあることやと思う。

たいていの場合、自分が好きな相手は、向こうも好きになる場合が多い。そういう客を探すわけや。

ウマの合う客となら、この雑談で花が咲いた時点で、ほぼ成約に漕ぎつけることができる。長期購読者が落ちるケースというのが、たいていこれや。

4.できる限り、おだてる。こう言うと営業することが卑屈のように感じる人間もおるかも知れんが、これは、重要なテクニックやと割り切らんとあかん。

人をおだてることのできん人間に営業は向かん。そう思うて間違いない。

おだてられて悪い気のする人間はおらんと言うてもええ。ただ、そのおだての仕方を誤ると、見え透いたお世辞ということになり、人により却って反感を買うこともあるがな。

そういう、一見、おだてに乗りそうでない人間でも、さりげなくポイントで「さすがに良くご存じで」「ご主人の考え方は勉強になります」「私は人をおだてるのは苦手なんですが、その点、ご主人は……」という感じで言えばそれなりに効果的やと思う。

しかし、普通は、簡単なおだてにも弱いものや。そして、人は自分のことを褒めてくれる人間に対して好意を持つという習性のようなものがある。褒め損ということは少ない。

これは、そう意識しとるだけで結構、そのおだての文句も出てくると思う。営業でできると言われとる人間は、例外なくこの「おだて」や「よいしょ」の上手い者や。

5.頼りになって役に立つ人間と思わせる。ワシの場合は、建築屋の経験があるから、簡単な大工仕事ならできる。ちょっとした家の修理をすれば、重宝がられることもある。

また、その知識を生かしたアドバイスもする。あるいは、ワシは交渉事のプロを自認しとるから、簡単な対人関係の悩み事なら、その助言をさりげなくすることがある。

それで、便利で頼りになる人間と思われることがある。

誰でも、拡張員をする前は、何かのプロやったはずやから、特技の一つや二つはあるはずや。

例え、それが、仕事以外のパチンコのようなものでもええ。

むしろ、こういう話の方が乗ってきやすいから有利やと思う。拡張員がパチンコのプロ顔負けの腕やと自慢しても嘘臭くは思われんやろしな。

相手次第で、どんな経験も役立つはずや。その発揮どころを考えることやな。

6.これはという客には、あきらめずに通う。中には、いくら気に入った拡張員やからと言うても、すぐに成約とまではいかん場合がある。

特に長期購読者の場合は、単にその新聞に慣れとるというだけやなしに、付き合い上のしがらみというのも結構ある。

親の代からその販売店と家族ぐるみの付き合いをしとるというようなケースやな。

普通は、こういう場合は、無理せずあきらめた方がええ場合が多い。落とせる確率はやはり低いからな。時間を取られるだけ無駄や。

ワシも、たいていはそう考える。

しかし、中には、通うて良かったと思えることもある。それは、その客がアパート、マンションの経営者や町内の顔利きやったりする場合や。

普通は、どんなに苦労しようが、簡単であろうが、1本の契約は1本にしかすぎん。それ以上にはならんもんやが、アパート、マンションの経営者や町内の顔利きのような人間の場合は違う。

そこから、次に拡がることがある。アパート、マンションの経営者なら、その住居人。町内の顔利きなら、紹介客が見込める。

ただ、その客がそうなるかどうかの見極めが難しいのは確かや。それでも、そういうことがあると知っておくのは損ではないと思うがな。


こんなところやな。これは、何も営業だけやなくても、人との付き合いを上手くすることにも役立つことやと思う。

相手にとってのオンリーワンになるというのは、そのまま恋愛にも応用できるはずや。営業も恋愛も人付き合いが基本ということでは一緒やからな。

また、人付き合いの上手い人間は、優秀な営業員になれる要素を持っとると言うて間違いないと確信する。

何でワシが、これほど「オンリーワン」ということに、こだわるかと言うと、営業の目標を見失っとる拡張員が、あまりにも多いのやないかと感じとるからや。

月に何本契約を上げるという目標は誰にでもあるやろうが、そういう目先のことだけやと、どうしても行き詰まる。しんどい思いをするだけになる場合が多い。

この客にとってのオンリーワンになるというのは、その解消のためでもある。

気に入った人間がおれば、誰でも他に紹介したくなる。それは、ワシらのような勧誘員でも同じや。ワシに関して言えば、そのケースが多い。

「そうか、あんたの所はそんな拡張員しか来んのか。オレんとこは、ゲンさんというて気のええ面白い人が来るで。一度、会うてみるか」

「奥さん、それはその販売店に騙されてるんやわ。うちに来る新聞屋のおっちゃん、結構、頼りになるよ。一度紹介しましょうか」

その客にとってのオンリーワンになれば、そういう客が確実に増えると信じとる。

ワシの営業目標は、そういう客を一人でも多く増やすことや。そのために営業しとるというてもええ。

せやから、雑談で人と喋ることが好きやし楽しいと思えるんや。それに、見ず知らずの人間と初対面で、気軽に雑談できるという仕事は、営業以外にはないからな。

一人でも多くの人を好きになり、一人でも多くの人から気に入られるのは最高やないかと思う。

ワシが、この新聞営業で、人間関係の大切さを第一に挙げとるのは、そういう理由からや。


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