メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第127回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日 2007. 1.12


■拡張員の移籍事情あれこれ


「ゲンさん、相変わらず、まだ、そこにおるのか。オレらの所に来ぃへんか」

そう言うて、久しぶりに昔の拡張員仲間、ヤスから電話がかかってきた。

ヤスというのは、自称「稀代の詐欺師」と豪語しとる奴や。

詐欺師というと、普通はろくでもない人間やと誰でも考える。実際、ろくな奴はおらん。

しかし、このヤスは、ちょっと違う。

ヤスは、詐欺師と自称しとる割には、妙に人を信用するところがある。特にワシのことは信用しとるようや。

せやからと言うのでもないが、憎めんところがある。その考え方で参考になることも多い。

ヤスは、ヤスなりの矜持、誇りを持っとる。

「相手に騙されたとは思われずに騙す。それが、騙しかどうかさえも分からんようにするのが、ほんまものの詐欺師や。そして、オレくらいのレベルになると、気がつかんだけやなしに、それで感謝すらされるんや」ということらしい。

そんなアホなと思われる方もおられるかも知れんが、その実例を、このメルマガ『第41回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■拡張員列伝 その2 詐欺師ヤス』でも話しとるので、暇があれば見て貰うたらええ。

また、詐欺話に興味があるのなら、同じくHPの『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第4話 オードブルは、てんぷらで』に、それがある。

因みに、これらの話は、ヤスがおったからこそ、できたことや。多少、おもしろおかしく脚色しとるが、概ね、事実や。

ヤスに言わせると、悪質な拡張員にありがちな、てんぷら(架空契約)、ヒッカケ(騙り勧誘)といった稚拙な騙しなんかと詐欺を一緒にせんといてくれということになる。

本人の日頃の弁を裏付けるように、不思議とこのヤスの客からは「騙された」と騒ぎ立てられるようなことはなかったのも確かや。

そのヤスが「オレの所に来ぃへんか」というのは、言えば、引き抜きのようなもんや。

ヤスは今、これも昔の仲間やったトクベェ、通称「トクさん」と呼ばれとる男と新団を立ち上げとる。

結成してまだ1年ほどや。団長がトクで、ヤスが部長というになっとる。

団員の数は、ヤスとトクを含めても10名と少ないが、漏れ聞こえてくる話やと、この厳しいご時世にも関わらず、かなりな成績を上げとる団のようや。

まあ、それもヤスとトクの二人がおるのやから頷ける話ではあるがな。

この二人の力は、業界でも図抜けた方やと思う。ワシは、拡張においては、滅多に人を褒めたり認めたりすることは少ないが、この二人は別や。

ヤスは、元詐欺師というだけあって、その話術は相当なもんや。

「詐欺師は、ペテン(頭)の良さと口の上手さだけやと思うとる者がほとんどやけど、それだけやあかん。一番、大事なのは、ここや」

ヤスはそう言うて、ドンと胸を叩く。根性というか精神力が肝心やと言いたいわけや。

「腹が据わっとらん奴は一流の詐欺師にはなれん。どんな、嘘八百を列べても腹を据えて堂々と言えば、さもそれらしいに聞こえるもんなんや」

確かにそれは一理ある。洋画なんかで、詐欺師役の役者が、ニセの大物の真似を堂々と演じとる場面を見かけるが、ああいうことやと思う。

「それに、いつも勉強しとらんとあかん。時代の波に乗れん奴も詐欺師としては失格や」

何や、こいつの話を聞いとるうちに、詐欺師になれん者は人間失格のような気分になってくるから不思議や。

こうして、これを読んどる限りは、ある程度、冷静に判断出来るやろうけど、こういうヤスみたいな人間を目の前にして、その話を聞いていたら、それも怪しくなると思う。

ここで、確かなことが一つ、詐欺師に騙されたなかったら、その話を長くは聞かんことや。相手が詐欺師やと分かってても騙されそうやからな。

こういうヤスみたいな奴に、新聞の勧誘をされ、その話に引き込まれたら最後、普通の人間ではどうしょうもないやろうなというのも良う分かる。

おそらく、そのときは、どんことでも、それらしくええ話やと信じてしまうはずや。

「オレと僅かでも話し込む人間は絶対に落とせる」と豪語する所以ということになる。「会えさえすればカード(契約)にできる」とまで言うてたからな。

さすがのワシも、そこまでの自信はない。

実際に、成績も、ワシの知ってた当時でも群を抜とったからな。今も、それは大して変わってないはずや。

一方のトクという男も凄まじい奴や。と言うても、トクのそれは、話術とかテクニックに特別、秀でとるということでもない。

一流のレベルにあるのは確かやが、取り立てて驚くというほどでもない。

凄まじいというのは、そのバイタリティにある。

こいつは、取り敢えずアホほど仕事をする。24時間、拡張以外のことは考えとらんのやないかとさえ思える男やからな。

ワシなんかより、はるかに上をいく。ワシも、このトクと交わした話で、拡張以外の話題はなかったと記憶しとるしな。

そのエピソードも数え挙げたらキリがないほど多いが、その一つにこういうのがある。

トクが拡張していたバンク(販売店の営業エリア)に、新築中の家があった。

そこに1台の乗用車が停まって、中年の割腹のええ紳士がそれを眺めていた。

それが施主というのは、営業員なら誰でも分かる。

トクは、早速、声をかける。

「ご主人、立派なお宅ですね」

「君は?」

「こういう者です」

そう言うて、すかさず名刺を差し出す。

ワシも、名刺くらいは持っとるが、一般の営業員のように積極的にすぐ渡すようなことはあまりせん。トクもそれは同じやと思う。

安物の名刺とはいえ、いくらかは経費のかかっとるものやから、それが効果的と思える人間に渡すのやなければ意味がないからな。

因みに、他の団ではどうかは知らんが、ワシらの所では、名刺は各個人が団の許可を得て自腹で作ることになっとる。団からの配布というのは幹部クラスにしかない。

まあ、それもワシらの所は、フルコミの個人事業者という立場やから、当たり前と言えば当たり前なんやがな。

それもあって、ワシとこの団で名刺を持っとるのは全体の2割程度しかおらんと思う。

もっとも、個人宅専門に勧誘する場合、セールス証、販売店の社員証を提示すれば事足りるということもあるから、必要とせんということやろうがな。

それでも、会社関係や商店相手の場合や個人でも名刺を渡さなあかんような客もいとると考える拡張員は、自前で作って持っとるということや。

トクは、その紳士には、その名刺を渡すべきやと瞬時に判断した。

拡張員には、相手のタイプや性格を瞬時に見抜く能力が要求される。それに合わせての営業が必要になるからや。

それが分からんような連中は、どんな相手にも常に同じ営業を試みようとする。結果、拡材(サービス、景品)1本の営業しかできんようになるわけや。

「商品券かビール券を奮発しまっせ」「1年契約やったら3ヶ月間、新聞代はタダでよろしおまっせ」という具合やな。

もちろん、こういう営業をすべて否定しとるわけやない。それを望む客には、やはり有効な方法やからな。

ただ、そういうものが通用せん人間もいとるということは知っとく必要がある。

通用せん相手に、それで押し通そうとすれば、サービスもエスカレートするし、強引にもなる。トラブルは、そういうところから起きる。

「新聞社の方?」

その紳士が言う。

ワシら業界の者が、その名刺を見れば拡張員やというのは一発で分かるが、初めて目にする人は、新聞社の名前がまず目に止まるから、そう誤解されやすい。

トクは、その雰囲気から会社の幹部クラスの人間やと相手に感じさせるものがあるから、よけいそうなるのやとは思うがな。

「ええ、お宅が完成されて入居されるときは、是非、当社の新聞を購読して頂きたいと思いまして」

客の誤解を訂正せんと営業するのは騙しやないかという批判が一部にあるが、ワシらはそう思うてない。

確かにワシらは新聞社の社員というのとは違う。しかし、騙りやない。その新聞社から拡張団や販売店は販売業務の委託をされとるのやからな。

ワシら拡張員は、その団や販売店から委託されとるから、営業行為において、その新聞社名を名乗ることも許されとるわけや。

客にとって、目の前の営業員は、その新聞の顔でもある。れっきとした代表やから実質「新聞社の人間」ということになる。それに、嘘、偽りはない。

それに「ワシが新聞社の代表や」というくらいの気概がないと、この新聞営業は務まらんしな。少なくとも、ワシはそう思うとる。

「営業の方ですか。でも、私が入居するのは、まだ3ヶ月以上も先の話ですよ」

「私らの仕事は、3ヶ月先なんてすぐですから、お待ちしますよ」

これは実際そうや。ワシらが上げる契約は、即入と言うて、即日、もしくは次月の初めから購読開始するというようなケースの方が少ない。

たいていは、数ヶ月後、1年後というように、現在、購読しとる新聞の契約期間満了してからというのが多い。

一般の人は、数ヶ月先ということになると「まだ早い」という感覚やが、業界では普通ということになる。

極端な話、契約さえして貰えるのなら例え、5年先、10年先でも待つ所さえある世界なわけや。

今回の場合、施主は自宅が徐々に完成しているということで気分も高揚しとるから「その3ヶ月後からの契約で結構ですので」と言えば比較的、その場で成約になりやすいもんや。

しかし、このときの施主は、慎重なタイプのようで「そのときに、またいらしてください」と逃げを打ったという。

これも、一般的な反応ではある。ここで、相手により押すか、そのときを待つかの、いずれかの判断をする。

トクは、この客の場合、待ちに徹した方がええと判断した。もちろん、ただ、その日を指折り数えて楽しみに待つというわけやないがな。

その場は、それ以上、勧誘の話はせず、世間話、雑談に終始することに努める。その話のなかで、さりげなく個人情報を聞き出す。

連絡先を聞き出せれば、それに越したことはないが、それができんでも、次回、いつ頃、この現場に来るかくらいは聞いておく。

その施主が遠方から引っ越す場合は、この地域の情報を、その雑談の中で話す。これが、一番、好感と信用を得やすい。

人は、そういう雑談を交わしとるうちに、相手に嫌な印象さえ持たなんだら、打ち解けるものや。

そうなれば、契約せんまでも、引っ越し予定日の予定時間くらいは聞き出せる。

この客のように、明らかに注文住宅と思えるもので、告げられた引っ越し予定日時の変更というのは滅多にない。

ワシも、昔、建築屋におったから分かるが、物件引き渡しの納期は絶対というのがあるからや。

きつい客やと、その納期が遅れたことによる支払い残金の減額を主張することもあるからな。ある種のペナルティやな。

契約書に、それを謳うとる場合もある。建築屋としても体面上、それを守れませんとも言えんから、たいていは、その条件を承諾する。

自ら、それを謳い文句に営業する所すらあるくらいやさかいな。

もっとも、納期を重視するあまり、下請け業者を急かすことも多く、それが手抜き工事の一因になることもあるのやがな。

せやから、この客のように、3ヶ月後の入居というのは、ほぼ決定と思うて間違いない。

トクは、それを聞き出すと、その日、どんなことがあろうと、そこに行く。

ワシらは、原則、団からその日指示された販売店での勧誘しかできん。しかし、必ず契約が取れるということなら、ある程度の自由は利く。

当日、トクは、引っ越し業者のトラックが来るのをジャージ姿で待ち受ける。

その引っ越しを手伝うわけや。というても、これは、客にとっては、それほど有り難いことでもない。

たいていは、客も引っ越し業者と契約しとるから、荷物の運び入れは、その料金内というのがあるさかいな。

一度、そういう契約が結ばれてしまえば、少しくらい手伝うたからというて安くなるものでもない。

引っ越し業者にしても、素人が手を出すわけやから迷惑がる所もある。せやから、その辺は臨機応変ということにもなるがな。

客には「こうするのも、サービスの内ですから」と言い、引っ越し業者には「小物くらいは運びますから」と客の身内でもあるかのように振る舞う。

引っ越し業者が今ほどおらんような昔やったら重宝がられてた手法やが、今の時代やと、ヘタをすると、ただのお節介ということになる。

それでも敢えてそうするというのは、それなりに意味もある。

まず、他店の勧誘を遠ざけることができる。

当たり前やが、新聞の勧誘員が近づけば、すぐ分かる。この引っ越しというのは必ずというてええほど、そういうのが集まってくるからな。

その人間を見つけると、素早く近寄り「もう新聞屋は決まっている」と、告げる。告げられた方は、勝手にそこの人間と勘違いして引き返すというわけや。

このやり方に批判的な人もおるとは思うが、この世界、甘い考えではやっていけんということで、理解できるようならそうしてやってほしい。

もっとも、トク以外、こんな真似をする人間は他には知らんがな。

このケースは、例え、お節介なことやとしても、少なからず汗をかくことになるから、その効果が大きいのも確かなことやと思う。

営業では、誠意を見せるということが一番有効な手段や。

百万弁の営業トークを費やすより、客のために流す、一滴の汗の方がはるかに説得力があるさかいな。客もそれで動かされやすい。

トクは、その「労を惜しむな」というのを、この引っ越しだけに限らず、他のことでも実践しとるわけや。一事が万事やと考えて貰えばええ。

とにかく、良く動くし仕事をする男や。遊んどるときでさえ拡張のことを考えとるからな。

正に、バイタリティ溢れる男ということになる。

そのトクとヤスがおるだけでも相当やのに「少数精鋭主義」やとか言うて、力のある奴、見込みのある人間だけを集めとるという話や。

また「類が友を呼ぶ」という格言通り、そういう人間のもとには不思議と同じような性質の者が集まるのも確かやという気がする。

そういう連中が10人もいてて必死で仕事をすれば、誇張やなく並の団の4,50人分の働きをするというのも、まんざら頷けん話でもない。

「ワシは、遠慮しとく。とてもやないが、お前らにはついていけんしな」

ワシも、営業については一家言を持っとるつもりやが、それでも、必死になってまでやろうとは考えてない。

そこそこ食うに困らん程度、稼げたらそれでええと思うとる。

ワシは、しゃかりきになって月に100万円稼ぐより、気楽にやって30万円程度稼ぐ方を間違いなく選ぶ。

特に、今はその思いが強い。

確かに、一時期はこの道のトップを目指そうとしていたこともあったがな。

しかし、この業界でそうしたところで得る物は何もないと、あることでそれを思い知ったというのもある。

それについては、いずれ別の機会にでも話すつもりや。

営業の道で名を馳せば、それなりに世間からも評価して貰える。他の多くの営業分野においては、そういう人間も多いしな。

せやけど、それが拡張員やとしたらどうやろか。

確かに、このメルマガのファンの人なら評価をして貰えるかも知れんが、世間は、まだまだワシらに対しては好意的とは言えんからな。

もっとも、それを目指す人間に水を差すつもりはないから「ワシには無理や」という言い方をしたわけや。

「それは、前にも聞いたけど、ゲンさん、そうやって埋もれていくのは、つまらんと思わんか?もったいないで」

「お前らに買いかぶって貰うのは有り難いが、所詮、ワシはこんなもんや。それに、今のままで十分、満足しとるしな」

「そうか、ゲンさんは言い出したら聞かんから、これ以上は言うつもりはないけど、オレらも、そろそろ歳やから、落ち着ける場所を確保しといた方がええと思うで。まあ、気が向いたら声をかけてくれ。いつでも歓迎するから」

「おおきに」

今回のような引き抜き行為というのは、一頃は多かった。

拡張員の世界は、例えて言えばプロ野球選手に似とる部分がある。

もっとも、これは、ワシらのような、個人事業者としての立場の拡張員に言えることで、会社組織の営業社員としての拡張員には当て嵌まらんがな。

それについては、営業業務をこなす一般の会社員という分類になる。

拡張団に所属するのを、ワシらでは入団と言う。

給料も仕事の出来高による能率給のみや。同じ能率給でもプロ野球のような年俸制やない。1本の契約を上げて、何ぼ、というやつや。

いずれにしても、成績がすべてというのは同じや。

結果が伴わんかったら、努力や生真面目さなんかは評価の対象にもされんし、銭にもならん。

「頑張りましたけど、だめでした」では、飯は食えんからな。結果がすべての世
界や。

それも、日々の成績が評価の対象になる。

プロ野球選手のノーヒットが、ワシらではパンク、坊主ということになる。

それが、3日も続けば、どんなベテランでも「何やっとんねん」とこき下ろされる。

反対に、ヒットが続けば一流ともてはやされる。拡張員の場合は、カード(契約)を上げることが、そのヒットに相当する。

もちろん、長期的な評価もあるにはあるが、やはり、短期的なものの見方の方が強い世界というのも共通しとる。

プロ野球選手の場合は、FA(フリーエージェント)制での移籍以外、自由に他球団に行くことはできんが、拡張員には表向き、そういう拘束はない。

昨日までA紙の拡張員をしてた人間が、今日からY紙の拡張員をしとるというのも珍しいことやないからな。

道義的な非難を別にすればやが、そういうことをする連中は、義理とかモラルとかは関係ないようやから気にすることもないという。

もちろん、ケースによれば、それが原因で、その当事者同士の団の間で揉めたり険悪になったりということもあるようやがな。

唯一、拘束があるとすれば、その拡張員が借金を抱えとる場合に限られる。その借金の返済ができん場合は、自由を拘束されることになる。

この場合、会社員なんかやと、それを理由に辞めるという人間を拘束することはできん。借金と就労は別の話や。それを理由に職業選択の自由を奪うことはできんからな。

しかし、個人事業者としての拡張員は、労働法の埒外にあるから、会社員のようなわけにはいかん。

厳密に言えば、これも、それを理由に拘束されることはないのやが、辞めるときは借金の返済をしてからという暗黙の了解事項の手前、たいていの拡張員は仕方ないとなる。

ただ、そういう連中も他団に移籍できんかというとそうでもない。希望の所に行くことができんというだけで、金銭トレードというのも、良くあることや。

例えば、Aという拡張員が100万円の借金を団にしていたとする。

Bという団から、Aがほしいという打診があれば、団同士の交渉の末、150万円で金銭トレードするということが水面下で行われることもある。

それで、もとの団は、50万円の儲けになる。それとは逆に、Aがその団で必要がなく手放したいと考えた場合、Bに金銭トレードを持ちかけることもある。

その場合、足下を見られて80万円で金銭トレードが成立ということがまま起きる。もとの団は20万円の損失となる。

しかし、そのいずれの場合も、Aの借金、100万円というのは変わることはない。それは、移籍する団に引き継がれてそのままや。

普通は、その場合でも、同新聞系列の団同士というのが多い。他社新聞同士では、よほどお互いが懇意でないとすることはない。

同じエリアの団同士であれば、尚更ということになる。もっとも、そういうことも皆無ということやないようやけどな。

そういうことが、以前は日常茶飯事として行われていた。

しかし、その様相が、最近は一変してきたという報告が多い。

昔は、どこかで拡張員の経験があって、尚かつ、そこそこの成績やと認知されれば、引く手あまたやったのも事実や。

拡張員になるのも、誰でもなれた。たいていは履歴書が書ければええ。

難しい入社試験というのもないから、面接で気に入られれば断られることも少なかった。

ところが、最近の多くの拡張団は、経験者を嫌う傾向にあるようや。ずぶの素人を雇いたがる所が多い。

それには、経験者はスレとるからやという。

もちろん、経験者にもいろいろいとるから、一概には言えんが、長くしとると不法行為に染まっとる場合が多いのも確かや。

喝勧、置き勧、てんぷら(架空契約)、ヒッカケといった古典的な不法行為の手法は、そういう経験者から伝統的に引き継がれたものやと言えるからな。

自ら考え出したというのは、ほとんどない。

たいていは、それを教える方も教わる方も、拡張の仕事は、こんなものやという認識のもとに、それが受け継がれとったわけや。

せやから、今は、昔のように経験者で、そこそこ実績があるというだけでは、好条件の移籍も難しいという。

むしろ、その経歴自体が不利に働くことがあるというからな。

それには、業界全体が、その不法行為、悪質な勧誘に手を焼いているということが大きいからやと思われる。

事実、販売店も昔ほど、拡張員の応援にこだわる所が少なくなった。中には、公然と拡張員の入店を拒否する販売店も増えとるというからな。

それに伴い、雇い入れを制限しとる拡張団も多い。確かな数字は分からんが、拡張員が減少傾向にあるのは確かなようや。

余談やが、新聞の部数減も、単にインターネットの普及による新聞離れ以外にも、そういう事情もあると思う。

拡張員が減れば確実に部数減になるやろうからな。

ワシも悪質な人間を締め出すというのは賛成やが、真面目な経験者も同等に扱うようになるのは、どうかという気がする。

やはり、面接の際には、その人間次第で採否を決めてほしいと思う。

まあ、それは理想論ということで、実際はなかなか、そうはいかんやろうがな。

それがあるからやとは思うが、どうしても、その団からよそへ移りたいという者の中には、わざと素人を装うて、面接する人間すらおるというからな。

拡張員の世界は、野球の仕組みと似とる部分があっても、大リーガーのような存在のものはない。どこで仕事をしても、大差はない。

すべてがメジャーで、すべてがマイナーという世界やさかいな。

仕事として自らを卑下する必要はないが、胸を張って人に言えるというほどには、まだ遠い。

いつか、トクのような人間が、カリスマ性を発揮して、誰もが知るスーパー拡張員にでもなれば、世間の評価も変わるかも知れんがな。

もっとも、新聞の影響力が強いマスコミの報道機関が、その存在を大々的に報じることは考え辛いから、それも、ただの夢やという気はする。

しかし、何らかの方法で、新聞の勧誘に携わる人間が、胸を張れるようにしたいなとは思う。


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