メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第138回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日 2007.3.30


■正義なき暗闘 Part1 ある合配店でのケース


人を傷つけたり、物を盗んだりしたら誰でも悪いことやと知っとる。

人として、それをすることが許されることか許されんことかというのも、たいていの人間なら判断できる。

しかし、人は組織として行動するとなると、その善と悪の判断があいまいになる場合が多々ある。

ワシも、今までの人生の中で、そうした経験が幾つかあった。

これから、そのうちの一つについて話そうと思う。

話は、ワシがこの仕事を始めた、十数年前の京都に遡る。

その日、朝の朝礼で団長から急遽、入店先の変更を告げられ、滋賀県H町の販売店に行けとの指令が下った。

その指令に、その場にいてた団員からは少なからず、どよめきが起こった。

団として、その販売店に行くのはワシを含めて初めての者が多かった。それもそのはずで、そのH町の販売店というのは、合配店やったからや。

合配店というのは、全国紙やその地域の地方紙を含めた、ほとんどの新聞を扱うとる販売店のことをいう。新聞のよろず屋のようなもんや。

地方では、こういう販売店は結構多い。

ほとんどの新聞を扱うとるということは、当然やが、そこで購読者を取り合う必要はない。

どこの新聞読者であろうと、その販売店にしてみたらすべてが顧客なわけやからな。

そんな所では、顧客を勧誘することがないから、必然的に拡張員も必要ないわけや。

そこへ行けと言う。どよめきが起きたのは、そのためやった。

ワキタを班長として10名ほどが、それに投入された。

ワキタというのは、このメルマガにも登場したことのある、喝勧のエキスパートのような奴や。

そのえぐい(ひどい、無茶なという意)ことにかけては、この男と張り合える人間は、業界広しと言えど、滅多におらんやろうと思う。

ただ、えぐいことはえぐいのやが、カード(契約)は良う上げる男やった。その頃は、どんなことをしても、カードを上げる人間だけが評価されていた。

その頃のワシは、このワキタと団内で、成績においては常に1、2を争うてた。

というても、ワシは、ワキタのそれを営業とは認めてなかったから、周りが思うほどライバル視はしてへんかったけどな。

ワキタの方も、ワシが入団当初に、教えを乞うたということで、ワシの師匠のつもりでいとるから、むしろ、ワシの成績がええのは、自分の教えが良かったからやと自慢しとる。

ワシも、表面上は、それに合わせとったから、ワシらの仲は悪いというほどでもなかった。

それに、このワキタの仕事ぶりに関しては、とても褒められたものやないのは確かやったけど、人間的には愛すべき所もそれなりにある奴やったしな。

ワシは、同じ拡張団を選ぶにも最悪の選択をしたと、すぐに知った。

○○サービス有限会社というのが、その団の正式な名称やが、業界では鬼○団と呼ばれとる札付きの拡張団やった。

同じバンク(拡域エリア、主に販売所のこと)に、この鬼○団と鉢合わせた他の団は、仕事もせんと引き上げると言われるくらいやったからな。

この業界ですら、鼻つまみもんなわけや。

そこで仕事しとる連中の程度は推して知るべしとなるが、その中に入ると不思議と、それほどあくどい人間はおらんというのが分かる。

外に向けては舐められたらあかんという意識が働いても、仲間内では、そこまで考えることもない。

極道(ヤクザ)の世界にも共通して言えることやけど、仲間意識が、それなりに強いというのもある。

それに、拡張団という所は、自然に、ある程度の序列のようなものができやすいから、よほどのことがない限り、中で揉めるということも少ない。

「ワキタさん、何でH店に行かなあかんようになったのか、教えてくださいよ」

ワシには、どう考えても、それが不自然に思えてならんかった。

ワシら、下っ端には、その理由は知らされんでも、班長のワキタなら知ってるはずやと思うたから、そう聞いた。

「それはな……」

ワキタは、現場へ向かう車中で、それを語り始めた。

H店に、配達を依頼してたY紙が同じエリア内に販売店を出すことになったという情報をK店の店主、オオツが知った。

通常、新聞社は、そういう情報は、実際に行動を起こす直前まで、ひた隠しにするもんやが、この業界では、そういうのは比較的簡単に発覚しやすいということがある。

もっとも、早期に、それが分かるというのは、さすがに少ないがな。

たいていは、販売店となる物件を物色しとるという情報から、それと気づくことが多い。

販売店の規模にもよるが、店舗を出すには、そこそこのスペースが必要になる。

そのスペースを確保する段階で、地元の不動産屋にはその情報を知られやすい。

それでも買い取り物件なら、まだごまかせるかも知れん。

しかし、こういうケースでは、物件を買うてまで、成功するかどうか分かるらんものに投資しようという経営志望者も少ないから、それも考えにくい。

あるいは、新聞社の社有物件とする場合でも、同じことが言える。

たいていは、賃貸物件で様子を見るもんや。新聞社の多くも、その線で経営志望者にも勧めると思う。

賃貸物件なら、その使用目的を隠して借りることは難しい。このケースが分かったのもそれでやった。

どんな販売店でも、地元の業者とはそれなりのネットワークを持っとるもんや。それが合配店ともなると、さらに強固やと思う。

合配店の店主は、その地域の名士や金持ちというのが多い。たいていは豪邸に住んどる。

余談やが、ワシの知っとるある合配店の縁者には、大臣を務めたこともある与党の大物政治家もおったさかいな。タカが新聞屋とは言えんわけや。

不動産屋は、当然のように、そういう資産家とは仲良くしとるもんや。その分、よけいに情報が伝わりやすいということになる。

それでも、その情報に気づいたときは計画の最終段階を意味しとることになるんやけどな。

それと、オオツが気づいたのが、月初めの3日やった。

Y新聞の販売店を出すためには、現在、H店に配達依頼しとるY紙の読者の返還を申し入れなあかん。

新聞社ではこれを、販売権の返上依頼という。

もちろん、それがあれば、合配店は配達依頼されとるだけやから、それに応じなあかん。法律的にも、H店には、それを拒否することはできんさかいな。

「Y紙は勝手や」

オオツはそう吐き捨てた。

その昔、この辺りにもY紙の販売店があった。

その販売店の経営が行き詰まって、その廃業が決まると、Y新聞社は頭を下げて、配達業務を引き受けてほしいと言うてきたという経緯がある。

それが、この数年、エリア内にできた幾つかの新興住宅のため、Y紙の部数が伸び始めると、また、店舗を出そうと画策する。

当初、Y紙からその部数を引き受けたときは、500部程度やった。それが、その新興住宅の増加で人口が増え、今では、1500部近くになっとる。

合配店は、基本的に、読者への勧誘はせん。客が勝手に購読を申し込んでくる。今やったら、ネット経由の申込みというのもある。

いずれにしても、その部数獲得に関しては、自然にそうなったことやから尽力はしていない。

しかし、Y紙のために少なからず店なりの努力をしてたのは確かやという思いが、オオツには強い。

店が、配達依頼を引き受けなんだら、Y紙の読者は一人も残ってなかったはずやと。

それを、商売にならんからと投げ出しといて、商売になる程度に増えたら、とたんに、隠れてそういう動きをする。

節操がないとオオツはぼやく。

一般的に、こういうケースで、新聞社が、販売権の返上依頼をするのは、月半ばというのが多いと事情通はいう。

それでいくと、その申し入れは今月の10日〜15日くらいということになる。

引き継ぎに要する期間は順調にいって1週間程度。それを過ぎると、月末の集金業務も絡んでくるから、引き継ぎに支障が出るおそれが生じる。

通常、こういうケースは、そうすんなりとは引き継ぎが上手くいかん場合も多いから、ある程度の余裕も必要やとなる。

それからすると、オオツに残された、それまでの猶予は1週間ほどしかないとなる。

オオツも、そんな勝手な動きをしとるY紙は気にいらん。そのまま、Y紙の読者を返すのも口惜しい。

そこで、オオツは、メインの新聞でもあるA新聞の伝を頼って鬼○団に、そのY紙読者の鞍替えを依頼した。

要するに、Y新聞の客を少なくしてくれということや。

「なるほど……」

ワシは、理解した。

ただ、このことにA新聞社がどう絡んどるのかというのは、ワシらでは良う分からんかった。

このときには、その具体的な動きは見えんかったからな。表面的には、あくまでも、H販売店と団との間で進められたことになっとる。

今なら、どういうことかの想像はできるがな。

いずれにしても、こういうことが、世間に知られることはほとんどないから、すべては闇の中で行われる。

因みに、ワシらが、こうして出張るのは、特拡と呼ばれる拡張の一つや。

特拡を新聞社に知らせずするというのは、普通、考えにくい。

拡張団の営業エリアも、販売店と同じく、範囲を決められ、入店先も限定されとる。

未入店先とか長年入店してない販売店への営業は、一応、新聞社には知らせておく必要がある。

その許可があって動ける。せやから、新聞社の後方支援、バックアップがあるのが自然やと思う。

もちろん、こういうケースで、それを質問しても否定するやろうがな。新聞社は関係ないと。

そう突っ込まれる証拠は、まず残さんはずや。もっとも、この業界では、例えそれが分かっても他紙から突っ込みが入ることもないがな。

せやから、これはワシの想像の域を出るものやない。と、一応断っておく。

現地に着くと、早速、簡単な作戦会議が開かれた。

狙いは、あくまでもY紙の読者だけや。それをA紙に切り替えさせる。それが作戦のすべてや。

「えっ、そんなに拡材(サービス品)が必要でっか?」

あきらかにオオツは困惑しとる。

もともと、合配店には、購読者に拡材を渡すという発想がない。聞けば、捨て材のゴミ袋すら渡してないという。

「1年縛り(1年契約)で1万円の商品券は当たり前でっせ」

ワキタは、いかにもケチ臭いことは言わんとけという口調で、そう主張する。

実際、この当時の京都で拡張する際には、これでも最低ラインというところやった。

「せやけど、ここでは、そんな拡材、渡したこともないしな。どうやろ?5000円やったら……」

オオツ曰く、ここの客には拡材を渡してないから、その程度で簡単に転ぶはずやという。

「分かった、ほな、1、2日はそれで様子を見まひょ」

予定では1週間以上ある。上手くいかんかったら、その都度、作戦は変更したらええことや。臨機応変にな。

「何にも分かっとらんな」

店を出た直後、ワキタが、そう吐き捨てた。

オオツには、この状況の深刻さが理解できとらん。

もっとも、甘く考えとるからこそ、Y新聞の客を少しでも減らして返したらええという発想になるんやけどな。

しかし、そんなことをされたY新聞が、それに気づかんはずは絶対にない。

新聞社からの新聞代請求明細書には、その部数が明記されとる。

多くの合配店が、そうであるように、このH販売店においてもメインとなる新聞以外の余分な積み紙というのは少ないはずや。

また、余分な新聞を抱える必要もないから、それがほぼ実数ということになる。

合配店といえど、最初からすべての新聞を扱っていたケースというのは少ない。

たいていは、今回のY紙のように販売店がやって行けんようになって頼み込まれた場合が多い。

結果的に、それらを引き受けたことで、すべての新聞を扱うことになった結果、合配店になったわけや。

因みに、その前段階の2、3紙を扱う販売店は複合店と呼ばれとる。

Y新聞が独立店舗を出す決意を固めたのは、その部数の動向を見極めてからというのは、ほぼ間違いない。

つまり、ある程度の部数はすでに把握済みということになる。その上で、少なからず市場調査というのもしとるはずや。

それを、今回のオオツのように、他紙の拡張員を入れて、Y紙の読者減を画策すれば、当然のようにすぐそれと分かる。

もっとも、オオツは例え、それと分かっても、もともとY新聞から引き受けたのは500部やから、それを割り込まんかったら問題はないと考えとるわけや。

当たり前やけど、Y新聞は、それをされて「しゃあないな」とは思わん。

店主希望者には、現在の部数を伝えてあるから、それに沿った経営指導しとるはずや。

それが根底から崩れることになる。ぶざけるなと思う。

しかし、引き継ぎの段階で、書類で示されただけの客しかおらんと言われれば、その場では、それ以上、文句も言えん。

ただ、Y新聞もその威信をかけて購読者の奪還を間違いなく図る。当たり前やけど、取られたものは取り返せとなるからな。

奪還の方法は、大量の拡張員投入という形で現れる。Y紙のそれは、業界でも群を抜いとる。

ワシ自身、現在は、そのY紙の拡張団におるのやから、それは良う分かる。

ワシらの所でも、ちょっとした特拡なら4,50名が投入されるというのも珍しいことやないさかいな。

もっとも、一方の雄であるA紙も、それは似たようなもんやけどな。

つまり、ちょっとした、拡張戦争に発展するのは、目に見えとるということになる。

ワキタが、分かってないと言うたのは、それがあるからや。

もっとも、ワキタは、それを憂いとるわけやない。むしろ、団長からは、そうなるように仕向けろとさえ厳命されとるくらいやしな。

拡張戦争になるというのは、文字どおり戦場が一つ増えるわけやから、拡張団としては歓迎すべきことになる。

その日、10名で30本のカード(契約)が上がった。というより、それで押さえたと言うた方が正しい。

オオツの言うとおり、この地域の客は、拡材をエサに拡張すると転びやすい。

今まで、新聞を取ることで商品券なんか貰うたこともないのやから飛びつく客も当然おるわな。

オオツの言うとおりの商品券5000円でも、それなりの効果は上がる。真剣に拡張すれば、その倍はカードが上がったはずやと思う。

しかし、それやと、これから先の戦いを見据えると厳しい。

それをオオツに教える必要がある。

「所長、やはり、この程度の拡材やと、これが限度でっせ。これを1週間続けても200本も上がりまへんで」

「拡材が少ないんか」

「そうなりまんな」

Y紙の部数が増えたのは、新興住宅地が増えたからや。当時とすれは、比較的安い建て売り住宅地が多かったというのもその一因としてある。

客の多くは、京都市内から最近流れたというのが多い。通勤圏というのもあるしな。

その京都市内では、1年契約1万円の商品券というのは常識や。拡張員が来たら、最低でも、それは提示する。

それに慣れとる人間は、粘れば、もっと出すはずやと考える。

加えて、自らY紙を申し込む人間は、Y紙お抱え球団のファンというのも多い。そういうのは、義理堅いのが多いから、少々のことではY紙からは離れん。

ワキタは、そう言うて簡単には鞍替えせんと説く。

「やっぱり、商品券は1万円出さんとあかんか」

「それでも、後のことを考えたら、きついと思いまっせ」

「ほな、何ぼ、いるんや?」

「2万円分の商品券やったら、かなりカードになりまっしゃろけどな」

「に、2万円?」

「そんなに驚くことやおまへんで。良う考えたら簡単に分かることやと思いまっせ」

Y新聞が、このエリアに販売店を出すということは、現在の部数以上のものが期待できるからや。

当然、拡張にも力を入れると考えとくべきや。それには、拡張しやすいということがある。拡材のない所を営業するわけやからな。

オオツの販売店の販売総部数は、Y新聞の1500部を除いても、12000部ほど残る。それをターゲットにされる。

Y新聞の拡張は尋常やない。最低でも、京都市内の1万円の商品券は提示するはずや。場合によれば、それ以上というのも十分考えられる。

「甘う考えとったら、ごっそりいかれて、ペンペン草も生えんようになりまっせ」

実際、このまま、5000円程度の商品券で押し通したら、確実に舐められる。客にも、H販売店の拡材は、商品券5000円やというのが知れ渡る。

そうなると、その倍は出すはずのY新聞の拡材に太刀打ちできんことになる。

こういうことをやる限りは、最初の段階で、相手をつぶしてしまう覚悟がなかったらあかん。そのためには、一時だけでも大盤振る舞いするしかない。

こういう拡張競争になったら、財力勝負となる。それで、オオツの店が負けるはずがないとワキタは煽る。

「そのY新聞の販売店さえ、つぶしてしまえば、また元に戻りまっしゃろ?」

これが、トドメの言葉となり「そうするか」となった。

結局、その拡材の大幅アップと拡張料の色づけをワキタが取り付けたことで、団長は、ほぼ全員となる30名を翌日から送り込むことにした。

鬼○団は、その当時の拡張団の中でも特に強引な拡張をすることで知られていた。

強引やが、その分、他よりも確実にカードを上げる。しかも、普段、拡材もない地域ならよけいや。

客からの抵抗も大したこともなかった。

そらそやわな。1年契約するだけで、その半分近い20000円分もの商品券が、貰えるし、それでも難色を示せば、それ以上、渡すということもあったんやから。

鬼○団とすれば楽な仕事や。もっとも、それでも転ばん客には、本来の喝勧主体の営業をしとる者もおったとは思う。それが本来のやり方やさかいな。

結果は、相当数のカードを上げた。そのとき、確かな集計ができんかったほどにな。数百とだけ言うておく。

予想どおり、Y紙から販売権の返上依頼があったのは、その月の10日やった。

さすがに、それがあってからは、大ぴらな真似はできんから、特拡は終わった。作戦終了や。

その引き継ぎは、かなり難航したようや。

もともとオオツもY紙に協力的やなかったし、現場の配達員も、日々目まぐるしく変わる配達先の対応に上手くいかず、誤配の連続やったという。

当たり前やが、順路帳の書き直しも満足にできとらん状態や。

まさか、作戦以前の順路帳をY紙に渡すわけにもいかんから、しばらくは、順路帳なしに配っていたと言うて、昔のものは隠すか破棄するしかなかった。

Y紙としても、それには他紙の顧客情報もあるわけやから、強気で出せと言えんということもあった。

その後、その地域で、壮絶な拡張バトルが繰り広げられることになったのは当然と言えば当然の流れということになる。

こういう争いでは、それぞれの組織の側に立てば、それぞれの正義があることになる。

合配店にすれば、裏切られて客を取られそうになったんやから、それを阻止するのは当然の権利やとなる。

Y新聞社にとって、販売店復活は営業戦略でもある。Y紙の読者はY新聞のものやと考える。

それを阻害されれば、闘うのは当然なことと捉える。もっとも、それがなくても最初からその腹やったかも知れんがな。

拡張団にしても、ただ応援に行って、それっきりというのもおもしろくない。拡張競争にもって行ければ言うことはない。

今回は、見事にその注文に嵌った。この戦いでもっとも得をしたのは、間違いなく鬼○団や。

A紙にすれば、顧客を増やすチャンスになる。そのためのバックアップなら惜しむことはないと考える。

それぞれが、それぞれの組織のために行動するのは、責められることやない。それぞれに、その理由と正義があるわけやからな。

第三者から見れば、いずれも手前勝手な正義に映ることやとしてもな。

ただ、それなら、この事態は避けられんかったのかと言えば、そうでもない。

合配店の店主であるオオツが、もっと先を見据えて、賢く動けば、こういう事態は避けられたはずや。

最初に、裏切られたとは考えず、Y紙の読者をそのまま、素直に返すべきやった。

そうしておいて、Y新聞の新たな店主に、協定話を持ちかける。お互い、拡張競争をしても益はないから、拡材を控えようと取り決めるわけや。

共存共栄やな。それが、結果的にオオツにしても最善の方法ということになる。

これは、単なる結果論ということやなく、実際にそれで成功しとる販売店が関東方面にあるという報告も届いとる。

ただ、そういう方法は、我欲の強い人間には思いつかんやろうけどな。


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