メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第148回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2007.6. 8
■偽装請負について
当サイト、メルマガに共感され無料で法律顧問を引き受けてくださっている法律家の今村英治先生から、『偽装請負』について、特別に寄稿して頂いたものがある。
まず、それを紹介する。
さて、昨今の国会関連のニュースで「偽装請負」なる言葉をよく耳にします。
通常、労働者と事業主は雇用契約によって互いの法的立場が明らかとなり、それぞれが互いに、債権者であると同時に債務者となります。
しかしながらこうした雇う側と雇われる側との法的な関係ではなく、企業と個人事業主との取引関係としての「請負契約」とし、雇用契約に付随する法律上の諸手続きを免れる行為が、永い間、我が国の様々な業種でまかり通っていました。
「労働」ではなく「請負」であれば、労働基準法や、労働保険、社会保険の適用を受けず、また、税法上の処理も異なってきます。
企業は人を雇った時に様々な責任と制約を受けるものですが、「偽装請負契約」によって、こうしたことから逃れることができ、同時に働く側も保険料や税金が強制的に給料から控除されることもないので、双方の利害が一致していたことも背景としてあげられましょう。
ところが、こうした非正規ながらも事実上の労働力を担う人々と、正規雇用の従業員との待遇面での様々な格差が問題視され始めたのです。
例えば、事実上「労働」と何ら変わらない実態でありながら、形式上「請負」となっているために、業務上負傷しても労災の適用を受けられず、また、解雇されても失業等給付の受給権すらないのが「請負」の人々なのです。
彼らは残業しても賃金の割増もなく、仕事を辞めても退職金もありません。
本来の請負ならば、自己の裁量で納期までに仕事を終わらせればいいのですが、「偽装請負」では、事実上その事業所での支配下に置かれ、時間管理もされ、指揮命令系統の中に組み込まれているのです。
現在、国はこうした「偽装請負」の摘発に全国規模で取り組んでいます。
野党側の追求も厳しく、経済団体の長を務める某有名企業の経営者の国会証人喚問すらも検討されているほどです。
ところで、「労働」か「請負」かの最終判断は、所轄労働基準監督署ではなくその上部組織である労働局が行います。
所轄の監督官と局の調査官とで見解が異なることも多々あるのですが、それはこの「偽装請負」の調査が、書類上の形式的な制度を見るのではなく、あくまでも実態を把握して判断されるものだからでしょう。
その事業所においては、指揮命令系統から完全に独立していない限り、それは「請負」ではなく「労働」となります。
詳細は割愛しますが、完全無欠の「請負」制度の構築のためにはかなり高いハードルをクリアしないとならないのです。
もちろん、多くの要件をクリアーした適法な請負も確かに存在します。が、今後の労働行政の流れとしては、「請負」という言葉に諸官庁が敏感になっていくことは間違いありません。
一見不備のない書類で体裁を整えたとしても、その実態が「労働」であるとの判断を労働局がしたのであれば、雇用主は労働基準法、労働者派遣法に基づき、相応の法的ペナルティーを課せられることになるでしょう。
以前、サイトのQ&A『NO.71 新聞販売店は労災に入ってない?』および『NO.145新聞購読料金の切り取り行為は違法なのでしょうか?』などで、新聞販売業界の雇用実態ついて、今村先生のご意見を伺ったことがあった。
その際、新聞販売店の業務や拡張員の雇用の実態について驚かれておられた。
フルコミ専門の拡張員の場合、労災の適用が受けられるのかと、ハカセが質問した際のコメントにも、そのことに言及されていた。
そのときの様子はサイトの『ゲンさんのお役立ち情報 その1労災についての情報』の中に掲載してある。
拡張員の労災の件です。
請負ならば適用をうけません。
メールを頂き、あらためてほんとうに驚きました。そうだったんですか〜。
法の盲点をうまくついてるというか、なんというべきか、拡張員の方々は本当に社会的弱者ということが分かります。労働者としていないことで労働基準法も労災法も適用を受けませんよね。
また『NO.145新聞購読料金の切り取り行為は違法なのでしょうか?』では、新聞販売店の従業員の業務について、次のような意見も寄せて頂いた。
さて、ご質問の切り取り行為の件ですが、労働基準法に定められた「賃金全額払いの原則」に反し違法です。
たしか集金の仕事は、業務外の請負という形になっていることが多いのでしたよね。
そもそも この制度そのものに違法性が高いとQ&ANO.109でもお返事したのですが……。
それはさておきまして、では「集金」が労働でなく「請負」であると仮定します。
集金という請負において、締め切りに間に合わなかった場合の切り取りというのは、販売店の集金人に対する債権譲渡に該当しましょう。
立て替えはつまり、集金人が販売店に対し、その債権の譲渡代金の支払です。これは労働の対価として支払う賃金とは本来全く無関係であるものです。
ですから、労働基準法第24条第1項「賃金全額払いの原則」に抵触し明らかに違法です。
そしてこれはあくまでも労働ではないですから「オレは集金しないよ」と言ったことでクビにされたりなんかしたら、根拠のない不当解雇になります。
「集金」は「労災も残業代も出ないよ。労働じゃないんだから」という店側の理屈を前提にするなら、じゃあ給料から差っ引くのは明らかにおかしいよってことです。
ところがNO.109でもお返事しましたが、契約上どのような取り決めになっていようと、外形上判断すると、集金業務は労働です。
多くの社会保険労務士及び労働基準監督官は、これを労働とみなすんじゃないでしょうか。
では労働とした場合、非常に苦しい詭弁なのですが、期日までに集金できなかったので、店側に損害を与えたという理由で、集金人たる労働者が店に対し損害賠償債務を背負ったという「ヘ理屈」を前提にしてみます。
期日に間に合わなかったとは言え、いずれ回収できそうな債権であるならば、その時点での損害賠償額を算出することは難しいと思いますし、そのようなあやふやな状態で給料から差っ引くというのはやはり「全額払いの原則」に抵触すると思います。
法律的にシロクロはっきりさせるためには、そもそも集金業務が請負なのか労働なのか最初に明確に定義する必要がありそうですね。
労働である場合
労災保険が適用になる。時間外割増賃金が発生する。「集金してこい」は業務命令。労働契約の一部。サボったら当然懲戒の対象となる。
請負である場合
労災未適用。賃金ではなく請負代金。店と集金人の請負契約。集金や切り取りを拒んだことで給料を下げられた・解雇されたとなると、これは不当な理由による不利益処分となる。
店側にとって労働でも請負でもないグレーゾーンにすることで、双方のいいとこ取りをしているように以前から思っていました。
いずれにしても切り取りは債権譲渡という商取引ですから、労働契約とはなんら関係のないことです。
商取引である以上、切り取りそのものには違法性はありませんが、労働条件・労働契約に密接に関連していたりすると途端にいかがわしさが増しますね。
こうしたことを条文では直接定めていないですし、判例もないので、私も様々な類推解釈をせざるを得ないのですが、新聞代金の集金業務は、購読契約や配達と密接に関連しており、事実上「集金してこい」という命令を拒めないのであれば、その集金業務だけを切り離して「請負」とし「労災の対象外」とすることは非常に無理があります。
ましてや半ば強制的に債権を譲受させられてしまうという状況は劣悪です。
「切り取り」を店側からオファーされた時は、法律的には「債権を買いませんか?」というセールスをされているだけなので、「いいえ、いりません」と言えなきゃおかしいです。
「いいえ、いりません」と言ったときに「じゃあ あんたクビね」と言われたら不当解雇です。少なくともこれだけはどんなお役人も認めてくれると思います。
ハカセが他の件で、今村先生のご意見を伺った際、その過去のこともあって、冒頭のような情報を教えてくださったわけや。
他の件というのは、今回のテーマには関係がないので、次回のメルマガで話すことにしたいと思う。
昨年、2006年の後半から最近にかけて、新聞やテレビで、この「偽装請負」が大きく取り上げられたのは知っていた。
国会でも問題にされ関連のニュースで取り上げられたことも多い。
その「偽装請負」報道は、主に企業へ派遣される請負労働者に関してのものやと理解してた。
自動車、家電など日本を代表する多くの大手企業で、半ば公然と行われていたものが摘発されたというものや。
職業安定法第44条にこういうのがある。
『何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない』
つまり、ある業務を請け負った請負会社の社員を、発注者である受け入れ側の企業の判断で命令して作業をさせてはならんというものや。
請負とは仕事の完遂を目的にするもので、労働力の提供とは違うということでな。
しかし、受け入れ側企業の人間には「そもそも、受け入れ先が仕事を教えることができない請負法制に無理がありすぎる」と公然と言い放っとる者もおると聞く。
正直な言い分やとは思うが、法律の制度がある以上、それに従うしかないのが社会の決まりというものや。悪法も法やさかいな。
その法制度に異論を唱えるのやったら、その法制度を変えるような運動をすべきで、法がある以上は、法を無視するような行動をしたらあかんと思うがな。
それが、世界に名だたる企業やというのなら尚更や。
その認識の甘さが、こういう摘発の多さにつながったということになるわけや。
その偽装請負行為が悪質やと認められれば、職業安定法第64条で、1年以下の懲役又は20万円以下の罰金に処せられることになる。
違法な請負派遣を行った業者だけやなく、受入れ側も同じように処罰されるということや。
はっきり言うて、同じ請負の立場とはいえ、それらの事件を知っても、ワシら拡張員とはあまり関係のない、対岸の火事くらいにしか思うてなかった。
ところが、この「偽装請負」に関して、今村先生から寄せられたものを見て、少し様子が違うのやないかと考え始めた。
ワシらフルコミの拡張員も、もしかしたら関係があるのやないかと。
ワシらの場合は、拡張団である営業会社と個人間で『業務請負契約書』というのを交わしとる。これ自体は、違法やとは思われん。
問題は、その業務内容、管理体制にあると考えられる。
『本来の請負ならば、自己の裁量で納期までに仕事を終わらせればいいのですが、「偽装請負」では、事実上その事業所での支配下に置かれ、時間管理もされ、指揮命令系統の中に組み込まれているのです』
今村先生が言われている意味とは若干、違いがあるかも知れんが、ワシも、請負業務である以上、仕事をする上で、自由がなかったらあかんと考える口や。
例えば、今日1日で何本の契約を上げることとか、10本の契約をいつまでに上げろと指示し、それを納得した上で引き受けるのが、本来の請負業務やと思う。
それにも関わらず、時間を拘束し、一方的な強制、管理のもとで仕事をさせるのは、どこか変やと昔から思うてた。
それが通用する世界に、実に上手いシステムを考えついたもんやと感心すらしとった。
ワシは、以前、小さいながらも住宅リフォームの会社を経営してた経験がある。
その折り、工事業者に工事の請負を発注してたことがあった。
こちらで作成した工事仕様書を渡し、その工事業者の責任者に現場で工事内容の説明をして任せる。
もちろん、工事の進行状況を見には行くが、そのときには、例え何かの問題があろうと、その請負業者の作業員には直接指示を出さんのが常識であり礼儀や。
指示するのなら、その責任者にする。そして、その工事に不具合や遅れがなければ、契約どおりの工事代金を支払う。
それが請負業務やと認識してた。
それをワシら拡張員に当て嵌めれば、期日までに所定の契約を上げればええということになる。
その結果が出るまでは、文句を言うべきやない。逆に言えば、成果さえ上げてたら、どこで何をしようが発注業者はそれでええわけや。
しかし、そんな物わかりのええ拡張団はほとんどない。所属の拡張員に対しては、出社時間から帰宅時間までの間は、しっかりその行動を管理する。
自由というものがない。もっとも、拡張員によれば、その目を盗んでサボるという者もおるがな。
団は、そういう拡張員の現場を見つければ、たいてい叱責する。他の者への示しがつかんと言うてな。
その管理体制は、会社員のそれと酷似する。その拘束時間内はちゃんと仕事しろというわけや。
ただ、ここまでなら、ぎりぎり請負業務の形態の一つやないかと許されるような気もする。
その指示は、あくまでも直接の発注業者である拡張団から出されとるさかいな。
しかし、ここから先は少し怪しくなる。
ワシらは、入店というて、必ず指定された販売店に行くことが義務づけられる。その入店をせんかったら、そこでの営業はできん決まりがあるさかいな。
入店後は、その販売店の指示で仕事をするように団からも言われとる。
拡材の指定、拡禁の注意事項なんかは、その販売店の指示でしか分からんことやしな。
それについては、今まで何の疑問もなかった。当然のことやと承知してた。
それが、ここに来て問題やないのかと思い始めた。
その販売店というのは、一つの会社や。実際、株式会社、有限会社という形態も多い。対して、拡張団も同じく会社組織というのが大半や。
つまり、販売店に入店する拡張員というのは、拡張団という営業請負会社から派遣された人間ということになる。
その拡張員に、販売店の人間が直接、仕事の指図をするというのは、現在、問題になっとる受け入れ先の企業と請負会社の社員の関係と、同じ構図やないのかという気がするわけや。
もしそうやと認定されたら業界では、ちょっとしたバニックになるのないかと思う。
拡張員は、入店先の販売店の指示に従うもんやという鉄則が崩れることになる。
そうなると、いろいろ、仕事の伝達が難しくなると予想されるさかいな。
勧誘先の指示につながる販売店の従業員が付く案内拡張もできにくくなるやろうし、顧客データも勧誘の指示と受け取られるおそれも生じるから、ヘタに渡せんようにもなる。
これは、ワシらフルコミの拡張員だけやなく、固定給制のあるサラリーマンという立場の拡張員も同じ構図やと思う。
新聞販売店ではどうか。
販売店には集金業務というのがある。これ専門の請負人を雇うとる販売店もあるが、たいていは、専業と呼ばれる従業員が兼務しとることが多い。
ほとんどの販売店では、その集金業務は、成果報酬ということになっとる。集
金できた件数により、その報酬が決定される。
今村先生はそれがおかしいと言われる。
「集金は業務に付随するどころか、業務そのものです。従業員の承諾なしにそれをやっているとしたら36協定違反や、残業代の未払いなども含め経営者サイドの責任は重いです」ということや。
36協定違反について、簡単に説明しとく。
労働基準法では、1週40時間、1日8時間(法定労働時間)を超えての就労は認められておらん。
法定労働時間を超えて就業する場合には、使用者と従業員との合意のもとで書面による協定を結ぶ必要があるとされとる。
これがいわゆる36(サブロク)協定と呼ばれとるものや。使用者はそれを管轄の労働基準監督署に届け出る義務がある。
36協定の届け出をせず法定労働時間を超えて働かせると、使用者は、労働基準法違反に問われ、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることになる。
同じようなことが勧誘業務についても言える。
専業に勧誘のノルマを課す販売店は多い。そして、これも集金と同じく成果報酬制や。
その仕事を何時間かけてやろうが、契約が取れなんだら一銭の金にもならん。それが当たり前の業界やった。
しかし、それでは法的に通用せんと考えられるということや。
強制的な業務命令で、それをさせる以上は、時間外労働として残業代を支払わな使用者は違反に問われる可能性が高くなる。
そうなると、相当数の販売店がそれに該当するものと思われる。
「冗談やない、集金を時間給で払えるかい」こう言う販売店主は多いはずや。
一般的な販売店の集金業務は、月末25日〜翌月5日までの10日間というところや。
その間の、集金にかける平均時間は、1日3〜4時間程度になるという報告が
一番多い。
法定労働時間内にそれができれば問題ないが、時間外やと残業代の割り増し賃金が発生する。
そして、その可能性の方が高い。一般家庭の在宅率というのは、その地域の状況でも違うが、5〜6割程度あれば多い方やと思う。
仕事を持つ独身者や共稼ぎの人間がかなりな割合を占める。彼らは、当然やが、仕事が終わらな帰宅することはない。
そういう人間から集金しようと思えば、どうしても夜に集中しやすいということになる。
販売店の一般的な専業の労働時間は、午前2時〜午前6時頃までと午後1時〜午後7時頃までの1日、2回勤務というケースが多い。
午前2時〜午前6時頃までの時間帯での専業の仕事は、紙受けと言うて、新聞社の工場からトラックで配送されてくる新聞の受け取りから始まる。
それから新聞への折り込みチラシの挟み込み作業をする。これは、たいてい専業全員が手分けして、他のアルバイト配達員の分も済ます。
新聞販売店によくある長机の作業台は、これをするためのものや。
それを済ませてから、受け持ちの配達区域への朝刊配達に出る。電話番をする者以外は、その配達が終了すると、仮眠をとる。
午後1時〜午後7時頃までの時間帯も決まった仕事はある。
夕刊のある地域やと、夕刊が届きそれを配達する。この時間帯のアルバイトは少ないから、大半は専業で配らなあかんことになる。
それが済むと、翌朝の朝刊に挟み込むためのチラシの束を作る。
もちろん、これは専用の機械でする。販売店によれば、これ専門のパートを雇うとる所もあるが、専業がする場合が多いようや。
これも、その機械の性質や作業者の熟練度、チラシの量などでも違うが、かなり手間暇がかかる。夕刊と、これだけで、午後の時間を潰す所も多いという。
余裕のある専業は、この時間帯に集金や勧誘をするが、先にも言うたように、在宅率の関係から、どうしてもこの時間帯より後にずれ込むことが多くなる。
その労働時間の多い者で、15,6時間くらいは、それほど珍しいこともないという業界や。
当然、法定労働時間を超過しとるから、それ以外の分は、すべて時間外労働の残業代としての割り増し賃金を払わなあかんわけやが、それを集金、勧誘の部分だけに関しては、請負という形にして、そうならんようにしとるわけや。
ここで、今村先生が指摘されとることが問題になる。
『今後の労働行政の流れとしては、「請負」という言葉に諸官庁が敏感になっていくことは間違いありません。
一見不備のない書類で体裁を整えたとしても、その実態が「労働」であるとの判断を労働局がしたのであれば、雇用主は労働基準法、労働者派遣法に基づき、相応の法的ペナルティーを課せられることになるでしょう』
というのが、それや。
集金に関しては、銀行振り込みやクレジット払い、コンビニ払いに移行するように持っていけば、なんとかなりそうや。切り取り行為の問題も解消されるやろうしな。
購読者とのふれあいが少なくなると懸念する向きもあるが、摘発のおそれを考えたら、その方が、まだましな気もする。
それに、ふれあいを重視するのなら、地域の会合とかイベントなどで、そのリーダー的な役割でも発揮すればええと考えるがな。
問題は勧誘業務やと思う。
現在、拡張員の入店を拒否する販売店が増えとるという報告が多い。
それには、入店する拡張員があまりにも無法なことをするからというのもあるが、勧誘は、本来、販売店独自がするもんやと考え始めた経営者が増えたというのも大きい。
その考え自体は間違いないと、ワシも思う。
ただ、それが、自前で勧誘すれば安上がりやと考えた上のことなら、足下をすくわれるおそれがあると警告するしかない。
勧誘も集金と同じく、在宅率の関係から、時間外労働になる公算が大きい。
現在、一般的な専業の新規カード(契約)料は1件平均2000円ほどやと言われとる。
専業の時間外手当が1時間1000円と安く見積もっても、2時間に1本の新規カードをコンスタントに上げな、販売店は現状と同じとはならん。
しかし、それは不可能に近いと言うしかない。よほど腕に覚えのある拡張員でも、なかなか難しい数字や。
もっとも、ワシら拡張員の場合は、1日中、それだけしかせんから、不可能な数字でもない。もっとも、それをクリアできる人間は限られるがな。
悪いが、事、拡張に関して言えば、専業はワシら拡張員の比やないと思う。なかには凄腕の専業もいとるが、その数は少ない。
これは、一般的かどうかは分からんが、専業一人当たりの獲得契約数は、1ヶ月10本程度と言われとる。
ワシもだいたい、そんなもんやろうと思う。これは、技術的な面以外にも、時間的なことも大きいからやと考える。
一般の専業が勧誘に割く時間は、1日2〜3時間程度やと推定すると、単純計算で1ヶ月60時間〜90時間で10本の契約を上げるということになる。
時間給にして、6万円〜9万円ということになるが、現状は、2万円程度の報酬でしかない。法律どおりに是正するのなら、その溝を埋めなあかんことになる。
「それは無理や」という経営者の声が聞こえてきそうや。
「勧誘に行って来ましたが、契約は上がりませんでした」という専業にも、等しくその時間外労働分の賃金を払う必要がある。
しかも、その言動を信じてということになる。
ワシら拡張員のなかにも良うおるが、サボっとるのに「今日は一生懸命叩き(訪問)ました」と言うのはザラにいとるさかいな。
販売店の経営者は間違いなく、疑心暗鬼になる。
しかし、それでも、その勧誘に割く時間の労働賃金を払えんようやと、これからは、大きな問題になるかも知れんということや。
今までのような状態では、いつかどこかで、その摘発が起きる可能性があるさかいな。
そこで、今回のことをクリアできそうな方法はあるのかということになるが、ワシが思いつく限りは二つある。
一つは、販売店が独自に、勧誘専門の人間を雇うことや。これに関しては、すでにそうしとる販売店は、結構多い。
俗にいう専拡(専門拡張員)と呼ばれとるのがそうや。
これやと、独自に請け負いにしようと、固定給制の従業員にしようと問題は少ないはずや。
二つめは、入店する拡張員には、販売店の人間から一切の指示をせんというのを徹底することや。
これは、面倒でも、その拡張団の入店日は前もって分かるわけやから、事前に、その日の指示書を、その拡張団の団長宛に知らせておけばええ。
そうすれば、完全な請負契約というのが成立すると思う。
もっとも、これは、ワシが勝手に考えとることやから、そのとおりにせなあかんでということやない。
実際に、その偽装請負から、そこまで話が飛び火するかどうかは、今のところ何とも言えんしな。
今までが大丈夫やから、これからも心配ないと考えるのなら、それはそれで自由や。好きにすればええ。
しかし、「転ばぬ先の杖」を心がけるのなら、一考の余地はあると思うがな。