メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第151回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2007.6.29
■出版本について Part
2 厳しい出版業界
ある読者から、「私も、自分の本を出版したいのですが、ハカセさんはどのようにして良心的な業者を探したのですか?」という内容のメールが送られてきた。
これは、前々回の『第149回 ■出版本について Part1 長かった道程(みちのり)』で、サイトの本を出すと宣言したことによるものや。
その読者にしたら、ハカセが頼むくらいやから、良心的な業者やと思うたのやろうが、あの回では、依頼した出版社が良心的やとは特に言うてなかったはずや。
もちろん、ハカセが変な業者に頼むわけはないというのは、ワシも同じ意見やが、良心的な業者かどうかというのは、まだ途中やから、終わるまではっきりとは言えんと思う。
それに、何をもって良心的な業者かというのは結構難しい問題でもある。
共同出版、協力出版を名目に著者に金を負担してくれと勧誘する業者は要注意やというのは間違いないとは思うがな。
しかし、本を出すことだけが目的なら、それはそれでええかも知れん。金はかかっても、そこそこ体裁のええ本はできるやろうからな。
それに、自分で記念にして残すためとか、知人に配るだけが目的なら製本は少部数で済むから、そういう所で頼んでも比較的費用も安くできるしな。
自費出版する人の大半はそうしとると思う。
そういう人にとっては、共同出版、協力出版の勧誘をしとる出版社でも良心的で親切な業者やと感じることがある。
対応のええ営業員が多いからな。彼らは客である著者を褒めて持ち上げるのが上手い。
箸にも棒にもかからんような原稿でも褒めちぎる。
「これは素晴らしい。本にしたら間違いなく売れると思いますよ」というようなことを平気で言う。
出版社の人間に、そう言うて褒められたら素人は、どうしても錯覚する。
それで、相手に好意を持つことも多く、良心的やと思い込むわけや。
しかし、共同出版、協力出版を持ちかける営業員の目的は、本を作ってその本を売ることで利益を得るのやなく、著者に出版させること自体が目的になる。
著者が負担する金で出版社の利益を出す仕組みになっとるのやからな。
その業者にとって、本が売れる売れへんは、ほとんど関係ないことや。
当然、営業に力を入れることもないから売れるわけがない。
「ぜんぜん、売れんやないですか」というクレームをつけても「おかしいですね。私は売れると思ったんですがね」で済まされる。
つまり、どんなにええ本も読者に見る目がなかったら売れんという理屈の前に屈するしかないということになる。
ハカセは、いち早くそれを見抜き、その出版を頼める印刷業者を自分で探したというわけや。
業者の善し悪しを見抜くには多少の知識が必要になる。
どんな業種にも共通して言えることやが、その業界用語を言葉の端々に出せば、「こら、素人やないな」と業者に思わせることができる。
そうなれば、確率的に騙されることは少ないと思う。
今回の場合で言えば、出版のための費用に関する知識ということになる。
その参考になる話を今からする。
製本にかかる費用というのは、実に様々なパターンがある。
発行部数によってその費用が違うというのは、誰でも分かると思う。
それ以外にも、製本だけをとってもいろいろある。
普通、本屋に並べられとる本の大きさだけでも、かなりの種類がある。
小さな文庫本の四六版、それよりもちょっと大きめの菊判、普通の文庫本のA6判、一般的な単行本のB6判、教科書に多いA5判、週刊雑誌のB5判、写真集のA4判、さらに大きな画集などのB4判などいろいろある。
加えて、ここで言うてる出版本とあまり関係のないマンガの単行本に多い新書判や特殊な重箱判というのもある。
参考までに、新聞はブランケット判と言い、夕刊紙はタブロイド判と呼ぶ。タブロイド紙というのは、この夕刊紙の大きさの新聞のことを指す。
紙の種類にも、上質紙、コート紙、アート紙、再生紙と区分されるが、それぞれに様々な種類が存在する。
本の綴(と)じ方もまたいろいろあり、それでもかかる費用は違う。
週刊誌に多い中綴じ、教科書の平綴じ、一般書籍に多い無線綴じ、百科事典などに使われる糸綴じ、あじろ綴じというのもある。
因みに、この糸綴じ、あじろ綴じの一般書籍もある。
本のカバーもソフトタイプとハードタイプがあり、その種類もいろいろや。
加えて、ページ数や色使い、デザインでも製本の価格は大きく違うてくる。
さらに、編集作業を業者にすべて任すのと、すべて自分でして印刷だけを任すのとでも費用に大きな差が出る。
それらの知識をよほど良う知っとらんと、業者と互角に交渉するのは難しいと思う。
素人やと自覚しとる人には、とてもやないが自費出版は薦められんとハカセは言う。
冒頭の質問にハカセは次のように返信した。
自費出版では、売れないというのが出版業界の常識です。
しかも、出版費用はむろんのこと販売費用も基本的にはすべて自分持ちですからコストも高くつきます。
ですから、それで利益を出すというのは、難しいと考えていた方がいいでしょう。
その上、本を売るための広告、宣伝の類にお金をかけることも無理ですから、出版本の存在自体、世間に知られることも期待できません。
ですから、私も自費出版をしますが、本が売れて利益が出るとまでは考えていません。
ただ、出版したという形が残るだけだと思っています。
出版により儲かることが将来的にあるとすれば、大手の出版社がそれを見て商売になると考え、オファーがあったときくらいなものでしょう。
もっとも、私の場合、サイトの内容から、それは考えにくいことですけどね。
もし、自費出版することで、利益を得ることを考えておられるのなら止めておかれた方が無難だと言うしかありません。
よほど上手くしない限り、売れれば売れるほど赤字が増えるということになりかねませんよ。
出版費用、販売費用で本の定価を超えることも多いですからね。
これは、良心的な業者だからというレベルの話ではありません。
自費出版はどんな良心的な所で頼んでも、かなりのお金はかかります。
もちろん、どんな本を作るか、どこまで業者に任せるかによっても大きく違いますので、ここでいくらとは言えませんが、普通の本屋で並んでいるのと同じ本を作り同じ価格設定にすれば、たいていは赤字になります。
かといって、赤字を出さないように価格を高く設定にして売れるという保証もありません。
安く製本する出版社はありますが、それだからいい業者だとは限りません。
私の知る限り、そういう所は印刷のプロであっても、出版のプロではありませんでしたからね。
本という外見は作れても、中身のあるものはできない所が大半です。編集に関しては素人そのものでした。そういう所が多かったです。
きつい言い方ですが、素人が素人に頼んでも、いくらお互いが良心的であったとしても満足のいくものはできにくいと思いますよ。
最初から自費出版を考えられるよりも、作品をブログやHPで公開して読者の反応をみられたらどうでしょうか。
最近は、ブログ作家というのが増えていますし、作品に魅力があれば、大手の出版社から原稿依頼が舞い込むことがあります。
その方がメジャーになれる確率は、はるかに高いと思います。
自費出版は、割に合うものではありませんからね。
私の場合、その道しかなかったということと、昔から出版社とつき合うことも多く、その知識が若干あったので、なんとかなると考えただけのことにすぎません。
最終的に上手く事が運べば、そのときには、いい体験談としてお話できることもあるかと思いますが、今の段階では、自費出版というのはあまりお勧めできません。
期待された回答にならず申し訳ありませんが、これが私の正直な気持ちですので、その点、ご理解して頂けたらと思います。
新聞業界も厳しいが、出版業界はもっと厳しいというのが、ここ数ヶ月動いて得たハカセの感想やという。
作家になれば大金が稼げると考えとる一般の人は多いと思うが、実際には、そんな甘いもんやない。
そこそこ名の売れたプロ作家でも食うのがやっと、というのは多いと聞くからな。
作家の収入は、主に原稿料と印税ということになる。
原稿料は原稿用紙1枚につき1000円〜20000円程度までと、作家により大きな差がある。
作家の知名度の違いや雑誌、専門誌のレベルなどによっても、大きな開きがあるという。
雑誌や文芸誌のコラム、小説の連載やと、原稿用紙1枚につき1000円〜5000円ぐらいが相場やとされとる。
平均的には原稿用紙1枚につき3000円程度ということらしい。
原稿料だけで食うていくには、月に最低でも100枚は書く必要がある。
それで計算すると3000円×100=300000円ということになる。
1ヶ月の収入としては一見まあまあのようにも思えるが、作家というのは個人事業者やから、そこから、必要経費や税金を払わなあかん。
結局は知れた額の収入にしかならん。
それでも、文芸誌の小説連載などの場合、いずれ一冊の本として出版することが多いから、そのプラスアルファーとしての印税収入も見込める。
印税収入も作家によってかなり違う。本の価格の5%から15%までと幅が広い。
業界に精通しとる人間に聞くと、作家の平均年収は300万円程度やという。一般のサラリーマンよりもはるかに下回る。
もちろん、それが平均やからそれ以下という人間も相当数いとる。
売れずに廃業するか、それでもいつか売れると信じて頑張るかのいずれかになる。
一発当たって100万部売れるという大ヒットにでもなれば、数千万円単位の儲けになることもある。
売れない作家はそれを夢見る。物書きが水商売に似とると言われる所以や。
それでも、ちょっと昔の出版業界のように隆盛、華やかやった頃は、そういうのも結構あった。
どこかの新人賞をとった無名の若者が一躍売れっ子作家になるというのも、それほど珍しくもなかったことや。
今は、その頃と比べると業界全体がかなり落ち込んどる。
無名の人間の作品が売れるということはなかなか難しい。
現在、出版業界は、有名人、著名人に出版依頼が集中しとる。または売れる話題を持っとる人間や。
それしか売れんと考える出版社もあるくらいやという。
新しい才能を発掘して作家を育てるという出版社も少なくなった。
ハカセが、ある出版社の人間に聞いた話やと、そうして発掘した新人作家で利益に結びつくようになるのは、そこそこ売れる作品が5、6作ほど続いた後からやという。
それまでは、その作家を売り込むためにかけた宣伝費すら回収できんということや。
そんな厳しい状況やから、自費出版本はサイトで売るしか道はないと、ハカセが考えたのも無理はないということや。
書店に流通させるには、かなりのコストを要する。それを考えるのなら破産覚悟でやらな無理や。
全国には約3万店近い書店があると言われとる。
その内の1万店に5冊ずつ流通させるとして、単純計算で5万部作らなあかんことになる。
それを現在、ハカセが進めとる程度の本で作った場合、初期費用だけで5000万円〜6000万円は必要になる。
置く書店の要求されるマージン次第では7000万円まで考えなあかんという。
そんな気の遠くなるような金が用意できるはずもない。それで、完売できたとしても手元には何も残らんやろうし、ヘタをすると赤字になる。
赤字にならんようにするには、販売価格を上げるしかないが、それやと尚のこと売れん。悪循環に陥るのは目に見えとる。
結論として、個人での書店流通はあきらめるしかないということになる。
もちろん、この出版本のことを聞きつけて置かせてやるという書店があれば、お願いすることもあるやろうがな。
そのために一応、書店で流通する際に必要なISBN(国際標準図書番号)も取得しとるさかいな。
考えあぐねた末、ハカセは、サイトで気長に細々と売っていけたらええということで、その自費出版に踏み切ることにしたわけや。
ここ3年間、なかなか決心がつかなんだのは、そういう事情があったからや。
サイトがあって、日々、多くの人が訪れてくれるからそれでええとワシらは思うてた。
しかし、ハカセは「私が死んだら、このサイトは閉じることになります」と言う。持病があると、ついそう考えてしまう。
ネットの世界は、そのホームページが消えたら、それですべて終わる。それを思うと耐えられんとハカセは嘆く。
しかし、本という形にすれば、どこかで誰かが持って貰ってる間は残る。例えその作者が死んだとしてもな。
最悪でも、東京、大阪の国会図書館には本が残る。ISBN(国際標準図書番号)を取得した本は、そこへの納入が義務づけられとるさかいな。
それなら、そういうものを少しでも残したい。
それが、今回の自費出版に踏み切った大きな理由や。
そして、本を作った限りは売りたい。これも正直な気持ちや。
それなら、ハカセはあまり本意やないようやが、宣伝する必要があるとワシは思う。
ここからは、その宣伝になる。
本の題名は『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘なんでもQ&A選集』ということになった。
名前からすると、サイトの『新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A』の中から選んだものという印象が強いと思うが、若干違う。
もちろん、内容的には同じものも多いがな。
サイトのQ&Aは、あくまでも相談者個人ということを主体にしとるから、一つの質問で幾つかのケースの回答をしとる場合が多い。
その点、本の方は見出しにある項目だけの回答に終始しとる。つまり、目次を見れば知りたい答がすぐ分かるようになっとるわけや。
さらに、サイトでは相談者をハンドルネーム表示して、相談年月日、時間を克明に記しとるが、本ではそれはない。
単に「一般読者 女性」「販売店従業員 男性」「拡張員 男性」としとるだけや。
分かりやすく言えば、「良くある質問」という感じに捉えてくれたらええ。また、質問文もそうなるように大幅に変更しとる。
サイトの質問文は2年前、3年前のものもある。
そのときはその回答で良かったが、現在では、ちょっとどうかなというものも結構多い。
それらすべての回答を、この原稿を書き上げた2007年5月25日の時点に対応できるものに書き換えた。
それにより、古い質問が最新の回答に変わっとるから、サイトのQ&Aを見慣れとる人でも新たな驚きがあるのやないかと思う。
また、相談者を「一般読者」とすることで、今まで非公開を希望されていたQ&Aも掲載可能やと判断した。
当然、それは、サイトのどこにもないものや。そういうのが幾つかある。
表紙に疑似帯封をデザインとして取り入れた。一見すると帯封に見えるが印刷になっとる。
最初、帯封は別にと考えていたのやが、あの帯封というのは新刊書を手にしたときはそれでええが、読み始めると結構じゃまになるとワシも思うてた。
表紙に印刷してしまえば、そのうっとうしさもなくなる。
実際、最近の新刊書でも、たまにそういうのを見かけることがある。
そこに、ハカセがキャッチコピー的な文句を考えた。
それを紹介する。
この一冊で、新聞勧誘のすべてがわかる
悪質な新聞販売に悩まされている方。新聞購読契約について知りたい方。新聞販売店、勧誘員とのトラブルを解決されたい方。新聞の営業を勉強されたい方。新聞全般の資料を集めておられる方。そして、何よりおもしろい話や業界の裏
話のお好きな方。本書は、そういった方々に満足していただけるものと自負しています。
宣伝文句としてはなかなかのものや。これだけを読むだけでも、中身が面白そうやというのが分かるのやないかな。
書店に並べても、つい手にする人もおるのやないかと思う。
さらに、本書にはユニークなものもある。
デザイナーの方が表紙用にと、漫画のカットを描いてくれたものが、それや。
ハカセは、それが気に入ったと伝えると、デザイナーの方の好意で本文にも4コマ漫画数点とカットを作成して頂けるということになった。
そのサンプルを見せて貰うたが、なかなかユニークで面白い。センスもええ。
原文をかなり読み込んでおられるというのも良く分かる。せやなかったら、ああいうのは描けんと思う。
そのデザイナーの方も、その本の内容が面白いので描く気になったということや。
ハカセは、オリジナルティの高いものにしたかったので、正に渡りに船やった。
ハカセには、その方面の素質はゼロやから、本当に有り難かったと言うてた。
金を払って買って貰うのやから、サイトにあるものをそのまま本にするのは、読者に対して失礼やというハカセ独特のこだわりがある。
同じ内容のものなら、わざわざ買わんでもサイトを見てたらええわけやさかいな。
本には、本だけの価値がなかったらあかんとワシも思う。
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