メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第158回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日  2007.8.17


■押し紙裁判の波紋


「ゲンさん、この新聞記事やが、どう思う?」

所長のイケダが、他紙の新聞をワシに見せながら、そう言うた。

所長のイケダというのは、現在、ワシが専拡になるのを承知した販売店の経営者や。

かれこれ、2ヶ月近く前のことになる。

ここで、何でイケダが他紙の新聞を持っていたかというのを簡単に説明する。

その記事が、その新聞社だけで報道されていたので買ってきたからという単純な話やない。

新聞販売店によれば、他紙の新聞を購読しとる場合がある。

これは、他紙にどんな記事が載っているのか研究しようということやない。

新聞社ならいざ知らず、販売店がそんな研究しても仕方ないさかいな。

もっとも、営業のために他紙の新聞記事の内容を知っておくのは無駄やないが、そこまで考える販売店というのもあまりない。

拡張員の中にも、そこまで研究するために他紙を購読してまで読んどるというのは皆無とは言わんが、ほとんどおらん。

ワシにしても、他紙を読むようにはしとるが、買うてまでは読まんさかいな。

一般的には敵対関係が強いように思われとる販売店同士でも、地域により協定を結んで表面上、友好的な関係を築いとる所もある。

協定の多くは、拡材(景品、サービス)の抑制をするためや。

自由に競い合うと、いくらでも拡材の量が増えすぎて収拾つかんようになる。ヘタをすれば共倒れになりかねん。

客に渡す拡材は基本的に販売店が負担する。

中には、拡張員が隠れて自腹を切るケースもあるが、それをされると、契約延長の際に困ることになる。

客は、最初の契約で貰うたサービス品と同じものが、契約延長でも貰えると考えとる。

しかし、拡張員が自腹を切って渡したようなケースは、販売店もその記録がないから「はい、そうですか」と客の言うとおりに渡すわけにはいかん。

すると、客は腹を立て「それなら、ももええわ」と契約延長に応じんことが多くなる。

結果、客を逃がすことにつながることになる。

それをさせんために、同地域の新聞販売店が集まって協定を結んどるということや。

こういう地域の販売店同士は、お互いの助け合いも兼ねて、数部から数十部、お互いの新聞の取り合いをしとるケースが多い。

そういう地域の販売店に行けば、他紙の新聞が揃うとるというわけや。

ワシが読んどるというのはそれや。

イケダが見せた新聞記事の内容を要約する。


損賠訴訟 Y新聞販売店契約更新で店主側が勝訴 ○○高裁、1審を支持


新聞販売店契約の更新を拒絶したのは不当として、Y新聞社を相手取り、販売店主らが地位確認と計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、福岡高裁は19日、契約上の地位を認めた1審・福岡地裁久留米支部判決を支持し
た上で、1審が退けた賠償請求も一部認め、330万円の支払いを命じた。

判決などによると同社は01年6月、販売店の業績不振や、部数実態の虚偽報告を理由に、店主に販売区域の一部返還を求め、応じない場合には契約を更新しないと通知した。

同社側は「店主に極めて悪質な部数の虚偽報告があった」と通知の正当性を主張していた。

裁判長は、店主の虚偽報告を「強く非難されてしかるべきで、責任は軽くない」とする一方、「虚偽報告の背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社の方針がある」と指摘した。

Y新聞社広報宣伝部は「相手方の長期の虚偽報告を認定しながら契約解除を認めない不当な判決で、承服できない。直ちに上告する」とコメントした。


2007年6月19日のことやった。

この判決の意味するものは、とてつもなく大きい。

新聞業界にとっては、天地がひっくり返った判決やったと言うても過言やないと思う。

今まで押し紙裁判と言えば、押し紙そのものを認めんというものが多かった。そういうものがないとした上で判決が下されてたようなもんやさかいな。

しかし、この判決では、「販売店が虚偽報告をする背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社の方針がある」と、押し紙の存在を司法の場で認めたに等しいことになる。

これは画期的なことや。

もっとも、押し紙そのものは、ワシら業界人にとって昔から当たり前に存在しとったものやったから、今更、それがあると言われても驚くことはないがな。

ただ、日本の民事裁判は書類審査に終始すると言うてもええくらいやから、その現場を確かめられるわけでもない司法が押し紙の存在を認めたというのは、正直、驚いた。

ワシも事ある毎に、「裁判官が、例え2、3日でもええから新聞販売店に行けばその事実はすぐ分かるはずや」と言うてた。

実際、深夜の紙受けというて工場から運ばれてくる結束したままの新聞を、ただの一度もその結束が解かれることもなく、真っ先にそれ専用の倉庫に直行させて仕舞い込む販売店も珍しくないさかいな。

そこに仕舞い込まれる新聞の量は、その新聞販売店でそれぞれ違うが、少ない所で全体の数パーセント。多いところでは30〜50%にまで達する所もあるという。

それらは、そのまま一定期間が過ぎると古紙回収業者の手によって、古紙回収問屋に古紙として持ち込まれリサイクルに回される。

一説には、その量は年間30数万トンにおよぶという。実に、2トントラックで15万台以上にもなる。

それだけもの新聞が、ただ運ばれてそのまま古紙になるというのは、どう考えてもおかしなことや。

もちろん、すべての新聞販売店がそうやというわけやない。押し紙がほとんどない新聞販売店も存在するからな。

それがどの程度の割合なのかというのは、おそらくどれだけこの業界に詳しい人間でも完全に把握はできとらんはずや。

できても予測や想像の域を超えることはないと思う。そのほとんどが闇に包まれとるさかいな。

一般的には、新聞発行量全体の10%程度の押し紙があるというのが、業界で長く言われてきた常識や。

それらを通常、残紙というが、残紙というのは、その名のとおり本来、配達し終わった後に残った新聞やなかったらあかんものやと思う。

新聞販売店には、誤配や遅配、不慮の事故、あるいは販売店に直接買いに来る客のためなどに予備紙というものが必要やが、その分は業界の決まりでは、取り扱い部数の2%以内ということになっとる。

それらは、当然やが、最初から倉庫に直行ということはない。予備紙として紙受けの段階で必要量として店内に持ち込まれとるさかいな。

つまり、最初からまったく無駄で必要とないと判断された新聞が倉庫に入れとるわけや。

最初から残ることを前提にした新聞を残紙と呼ぶには、違和感があると思うのやがな。

何のためにそんな新聞が存在するのか?

その多くが、今回、問題とされとる押し紙ということになる。

ここで、押し紙が起きる構図について簡単に説明しとく。

押し紙というのは、新聞社が販売店に、強制的に部数を取らせる、つまり、押しつけることから、そう呼ばれとるものや。

その根は深い。

新聞各社は、戦後から現在に至るまで、長く部数至上主義を命題として貫いてきた。

そのために、ワシら拡張員という他の業界にも類のない特殊な営業員が生まれたわけや。

それにより、終戦直後の昭和20年頃、新聞の全国総部数は1400万部にすぎんかったものが、昭和60年頃には5000万部にまでなった。

その後は、その伸びもかげりを見せることになる。その後の20年間は、数字的にも微増にしかなっていない。

当たり前やわな。宅配率が90%を超してしもうたわけやから、完全に頭打ちや。

後は、他紙を食い合うしかないが、食えば食われるということにしかならん。

数字的にも、それ以上、新聞を新規に売りつけるのは無理がある。

新聞だけは、他の産業と違い、いくら発展しようが海外進出ということはできん代物や。

それでも、新聞社は、現状維持とか、そこそこの稼ぎでええという考えにはならんもんらしい。

常に儲け、利益を出さな許されんと考える。

もっとも、これは、日本企業全体に蔓延しとる考え方やけどな。新聞社が特別ということでもないと思う。

しかし、日本は、少子化の流れで確実に人口が減少傾向にある。

日本の新聞は、日本に住む人間にしか売って読ませることはできんのやから、同然の結果として部数の減少がなかったら、おかしいということになる。

しかも、若い世代で新聞離れという現象が年々顕著になりつつあり、長期購読者として貢献してきた高齢者が亡くなっていってるわけやから、購読の減少は必然やということになる。

それでは、新聞社は困ると判断した。

それで、考えついたのが押し紙というやつや。

新聞社は、その営業成績を伸ばすために、年間の販売計画を立てる。

しかし、売り込む先のパイがそれこそ満杯状態なわけやから、その販売計画は立てた段階から無理が生じとることになる。

結果、販売店に指定の部数を購入するように強要するしかないとなる。

新聞社にとっては、販売店に新聞を売った段階で、それで良しなわけや。

その新聞を客に売るのは、販売店であり拡張団の仕事やと考えとるようなところがある。

新聞社の販売部が直接、一般に販売を促すとか、売り込むというようなことはせんさかいな。

この押し紙についての指示は口頭でしかせんという。書類として依頼書みたいなものは出すことはないとのことや。

表面的には、販売店からの自主納入依頼という形になっとる。新聞社は、依頼された新聞を卸しとるだけやとなる。

こうしとかな、公正取引委員会の定めた、新聞特殊指定の条項に違反して、その見直しの口実にされかねんからな。

新聞特殊指定の見直しという事態になれば、実質的な再販制度の崩壊につながるから、新聞各社にとっては由々しき問題なわけや。

せやから、新聞社によれば、必要以上の新聞を注文しないことという触れ書を配布し、専属の販売店からその誓約書まで取っとる所があるという。

口で押し紙を強要しておきながら、書面では禁止と謳っとるという矛盾がそこにあるわけや。

新聞社の販売計画というのは増紙を意味する。

例として、1ヶ月の実売数1000部の販売店に、200部の増紙を依頼したとする。これは、実質、1200部の新聞買い取りの強制を意味する。

その1ヶ月間で、200部の増紙、つまり営業による拡張ができれば何の問題もないが、それができんかった場合は、その余分に買い取った新聞の仕入れ代金分だけが、販売店として負担となる。

そんな、一方的な押しつけは断ったらええやないかという意見もあるかも知れんが、それが、なかなか難しい。

新聞社と専属販売店の間では、たいていは業務取引契約書というのが交わされとる。

契約というのは、お互いの合意で成り立たなあかんものやけど、これに関しては新聞社が一方的に取り決めた内容だけの記載がされとる。

分かりやすく言えば、新聞社の意に沿わんことをすれば、いつでも契約を解除できることになっとるものや。

つまり、業界で言うところの改廃ということになって、専属の販売店の地位を失い実質、潰されるということを意味する。

新聞社は、『契約は販売店に新聞宅配業務を委託する内容の準委任契約であるから、その解除は自由である』という認識を持ち、そう主張する。

それが、長くまかり通ってきた。

しかし、今回の裁判では、このことに言及されていた部分があった。

この新聞社の言い分に対し、高裁は『販売店契約は継続的契約であり店主の生活の基盤にしているものであるから、信頼関係を壊すに足りる事情が認められない限り契約解除は認められない』とした。

もっともな判断や。

しかし、この判断が、司法の場でもっと早くされていたら、押し紙の問題も違うたものになっとったはずやと思う。

多くの販売店は、いい意味でも悪い意味でも新聞社には逆らえんという状況になっとったわけや。

いい意味というのは、販売店が客に対して無法なことをした場合、その新聞社に訴えれば、その指示で事が収まりやすいということがある。

悪い意味というのは、今回のような押し紙に対して断りきれずに経営難に陥る販売店が存在することやな。

ただ、新聞社も闇雲になんでもかんでも押しつけとるというわけでもない。

アメも与えとる。その押し紙を受け入れる代償として、数多くの名目の補助金を出しとるのがそれや。

これは、新聞社によりそれぞれで、販売店の店主ですら良う分からん名目ものがあるという。

ワシらが、一番身近なものに、拡張補助というものがある。拡張料の一部を新聞本社が負担しとるわけや。

他には経営補助、拡材補助、完納奨励金、販売店親睦会補助、保険・年金補助、果ては店主、従業員の家賃補助まで新聞社からの補助金として出とるという話や。

それ以外にもいろいろあるようや。

言い方は悪いが、補助金漬けになっとるわけや。現実に、補助金なしにやっていかれん販売店が数多く存在すると聞くさかいな。

そういう販売店は、その押し紙を受け入れるしかないとなる。

ただ、この押し紙については、すべてが負担に感じとるのかと言えば、そうでもないようや。

これについては、販売店の経営者の器量でかなり違いがあると聞く。

もっとも、それぞれで事情が違うから、一概に経営者の能力の優劣だけで判断できんとは思うがな。

その押し紙を強要する新聞社の販売担当者も人間やから、誰彼構わず一律にそれを押しつけとるわけでもない。

相手により押しつけられる人間と、押しつけにくい人間がおる。

気弱そうな人間には強い態度に出られても、ヤクザには腰の引けた対応をするのと同じことや。

当然、言いやすい販売店には必要以上に押し紙を強要して、言いにくい店主には控え気味ということになる。

また、比較的、後釜の店主を確保しやすい地域なら、いつでも首をすげ替えることができるから強く出るやろうし、反対に店主のなり手の少ない所やと、あまり強くも言えんようになる。

押し紙に一律性がないというのは、そんなところやないのかと思う。

結論として、苦にする所もあれば、そうでない所もあるということになるということや。

その押し紙分も、その販売店の公売部数としてカウントされるから、都市部でチラシの多い販売店やと、それで結構、潤う所もある。

この補助金漬けというのは、新聞社にとっても利潤を出すという面ではかなり厳しいものがある。

新聞社が出す補助金の大半は、販売店への卸し代金の中から出とるものや。つまり、たこが自分の足を食うてる姿に似とるわけや。

新聞社が、そこまでして部数を確保するには、当然やがそれなりの理由がある。

部数は、新聞紙面に掲載されとる広告費に影響するさかいな。

新聞社の収益の45%が広告費からということになっとるけど、販売店への押し紙によるたこの足食い状態を見ると、その比率はもう少し多いのやないかと思う。

いずれにしても、新聞社が押し紙をしてまでも部数増にこだわるのは、その広告費確保が主たる狙いと考えてええやろうと思う。

裁判の話に戻る。

Y新聞社は「販売店が必要以上の部数を注文するのは折込広告料や補助金を不正に取得するためであり、その結果、社会的信用を傷つけられ経済的損失を被っているのはY新聞社の方である」と主張した。

これに対し、高裁は、押し紙の存在を認識した上で「押紙は新聞社の利益になりこそすれ販売店の利益とはなってはいない」また「押紙の部数もABC部数に含まれている」と切って捨て、その主張を退けとる。

加えて、押紙についてはY新聞社の経営姿勢が原因として厳しく批判し、折り込み広告料と新聞仕入代金の関係についても、裁判所独自に算定した結果に基づき、販売店側が赤字となっている事実を認定し、その欺瞞性を指摘した。

結果として、この手の民事裁判では異例とも言える330万円という高額の慰謝料を認める判決が下されることになったわけや。

しかも、この慰謝料は精神的苦痛に対するものやという。

これについては、実質的には懲罰的慰謝料の支払いを命じた判決との評価をする専門家も多い。

それには、他にもどろどろした話が関係しとるようやが、それについては良う分からんことが多いから、ここで言及するのは控えさせて頂く。

もっとも、これだけでも十分、衝撃的なことやから、それ以上、突っ込む必要もないやろうと思うしな。

「それで、イケやんの所は、押し紙というのはどの程度あるんや?」

本来、イケダはワシの雇い主になるから、こんなタメ口で話すべきやないのやが、昔からの経緯と二人きりやという気安さで、自然にその言葉が口をついて出た。

もちろん、イケダもそれを気にする素振りは微塵もない。

「うちは知れてますよ。押し紙で困るというほどやないです」

「そうか」

「でも、こんな裁判結果が出たら、この後が大変やないですか?」

「せやろな……」

今まで、話すことすらタブーとされとった押し紙の存在が、こうも公然と裁判の場で認められとるわけやからな。

この後、これに続く販売店が現れることも十分考えられるから、さらに拡がりを見せることになるかも知れん。

しかも、この押し紙問題は、新聞業界全体の話で、単にY新聞社だけのことやないから、新聞各社は戦戦恐恐としとるのやないやろうか思う。

少なくとも、新聞各社も以前のようにごまかしの押し紙強要ができ辛くなったのは確かやという気がする。

しかも、新聞社の意に沿わんからからという理由で、今まで平然と契約解除をして改廃に追い込むことができとったものが、これからは、おいそれとはできんようになった。

もちろん、それは、ええことや。したらあかんこと、あってはならんことが、まかり通る世界が異常なんやからな。

ただ、その世界におると、それに慣れ異常やと感じられんようになるもんや。正直、ワシにもそういうところがあった。

押し紙の存在は承知していたが、それは、長い間の慣習、システムの一つやくらいにしか思うてなかったさかいな。

やはり、あかんことはあかんと言う必要があると再認識するきっかけにもなった。

新聞の悪質な勧誘と同じようにな。

8月9日。Y新聞社は、6月19日の高裁判決の直後、ただちに上告すると発表しとったにも関わらず、最高裁への上告を取り下げた。

これで、高裁の判決が確定したことになる。

これも、画期的なことや。新聞社が争いもせず、引き下がるというのは普通では考えられんことや。

自らの非を認めてそうしたのか、この先、争っても勝てんからと判断したのかは分からんが、いずれにしても決着したことには違いない。

そして、この日をもって、押し紙は公然の事実になったと言うてもええやろうと思う。

もっとも、新聞社もいつまでも部数に頼って広告費を稼ごうとするのは時代錯誤やと気がつかなあかんかったんやがな。

現在、広告主の多くは、新聞という媒体に対して重きを置かんようになった。

テレビ広告へは、以前と変わりないが、それが全国ネットのものばかりやなく、ローカル局、BS局など比較的安価な媒体に流れるようになった。

新聞広告は、二次的、三次的という広告主が増えたわけや。

新聞社にも営業部というのがある。そこでの仕事は、その広告主から広告を確保することと、新聞社発行の書籍を売ることにある。

つい最近のことやがサイトのQ&AのNO.437に、そこの営業員が行き詰まって悲惨な状況になっとるという相談があった。

その一部を抜粋して紹介する。


新聞の拡張もそうですが、新聞社なので広告や出版物のノルマが課せられます。

もし、出来なかったら出来るまで嫌がらせをされることもあり、それが苦しくて架空の契約をして自腹を払うというのが今の現状です。自腹で払えとまで言う始末です。

私は、営業ではありませんが多額の自腹を切って精神的に病気になり退職する人を見てきました。

それを会社側は、知っていて精神的に弱い人間と片付けます。それは、法的に許されるものなのでしょうか?

不思議なことに、ノルマ達成しない人は誰一人もいません。

ノルマを達成する人は、あらゆるやり方で契約をごまかして達成するしかないのです。実力で正しい契約でノルマを達成している人は、誰一人としていないのです。

出来なかった人は、精神病になり退職する。また、現在100万円の自腹を切って病気になっている人がいます。


これは、ある意味、衝撃的な告白やと思う。正直、そこまで酷い状態やとは考えもしてへんかったさかいな。

新聞社の上層部からも、近年、紙面広告を確保するのが難しくなったという話は良く聞く。

新聞社の会合とかパーティの場で交わされる経営トップの主たる話題がそれやと言うからな。

今まで、新聞社は、部数さえ伸ばせば、勝手に広告主が集まり、広告費を確保できると信じていた。

そういう殿様営業に甘んじてたわけや。

せやから、営業の何たるかさえ教えることができず、ただ、そこの営業員を責めるだけという愚を犯しとる。

はっきり言うて、新聞社の内部が、すべてこんな状況やとしたら、末期的症状と言うしかないわな。

ワシは、たいていのことなら、前向きにものを考えるタイプやが、今回の裁判結果や、新聞社の営業員の悲痛な叫びを聞くにつけ、どうしても気分が滅入ってくる。

どう考えても今のままやと新聞業界に明るい展望が見えてこんさかいな。

ほんまにしっかりしてやと言いたい。


今回のメルマガについて、サイトの回答を時折、して頂いているBEGINさんから貴重な意見が寄せられたので、それを紹介する。


投稿者 BEGIN さん 某全国紙元記者 投稿日時 2007.8.19 PM 10:40


今回のメルマガを読んで気になったので、法律家を目指す端くれとして意見をさせてください。

この判決は、新潮にも載ったくらいのことですし、業界として衝撃が大きいものであることに間違いはないと思います。

ただ、判決の原文を読んでみると、どうなのかなと思う面があります。判決原文は既にお読みかもしれませんが、念のため添付しておきますので、ご確認ください。

ネット上にジャーナリストの記事などがあり、メルマガもそれらをソースにしているとは思うのですが、判決に対する評価としては、少し行き過ぎではないかと思うのです。(私も、じっくり判決を読んだわけではないので、誤りはあるとは思いますが…)

まず慰謝料が330万円と流れていますが、判決を読むと1人の原告に対して、営業権侵害200万円、弁護士費用20万円
もう1人の原告に対して、慰謝料100万円、弁護士費用10万円で計算されているので、慰謝料としては100万円ではないかという疑問です。

担当弁護士が破格の慰謝料と述べているようなので、そうなのかもしれません。

ただ、判決は「第2事案の概要」で、X1の営業権侵害として処理していることは明らかなので、ひっかかります。営業権侵害は「実質的に」慰謝料みたいなものという扱いなのかもしれませんが、弁護士の過剰な評価という気もします。

あと、裁判所が押し紙を断罪したかのような評価にも大きな疑問があります。

裁判所は、販売店の虚偽報告が解除事由にあたるか判断するにあたり、Y紙が「定数と実配数の齟齬(そご)をある程度『容認』するかのような姿勢であると評されても仕方のないところ」、販売店の虚偽報告を一方的に厳しく非難することは「身勝手だ」と結論づけ、販売店の虚偽報告が信頼関係を破壊するような特段の事情には当たらないとしています。

要するに、新聞社自体が実売数ではない嘘の数を広告収入の基準にしているのだから、 販売店が実配数とは異なる数を報告したとしても、とやかく言う筋合いではない−という判断と思われます。

しかし、これが「押し紙」を認めたことになるのでしょうか?

押し紙というのは、新聞社が優越的地位を利用して紙を「押し付ける」ことをいうのでしょう。「押し紙」という文言からして、読み手もそう受け取ると思います。

しかし、裁判所は、新聞社が「定数と実配数の齟齬」を「容認」としか言っておらず、 「押し付け」までは認めていないように思われます。

確かに、Y紙の部数主義や予備紙の赤字性などを前提問題として認定しています。事実上、押し紙を認めたに等しいことに間違いはないでしょう。

しかし、裁判所が正面きって「押し紙」を認めたわけではなく、Y紙の主張(折込料や補助金の不正取得目的)を否定しただけのように見えます。

「折込料や補助金の不正取得のために多めに紙を買ったわけではない」ということが、 「販売店が好き好んで実数より多くの紙を引き受けたわけではない」という結論につながることはあっても、「新聞社が優越的地位を利用して販売店に紙を押し付けている」という結論には必ずしもつながらないでしょう。

Y紙が紙を押し付けたというニュアンスはその他の記述から確かに読み取ることはできますが、裁判所はそれを明白に認めたというのは行き過ぎではないかというのが、私の評価です。

仮に、裁判所が押し紙を認めて、新聞社の責任を正面から認めたのだとすれば、「齟齬の容認」なんかに留まらず、もっとY紙の責任を認める文言が用いられるでしょうし、販売店の虚偽報告なんて大した問題ではないと結論づけるべきではないでしょうか。

押し紙を正面から認めれば、他の特別法に抵触するおそれもありますし、業界に対する影響がとても大きいですから、
裁判所としては、「押し紙」を認定せず、「齟齬の容認」で原告を勝たせられる以上、 「押し付け」があったか否かの判断をうまいこと回避したというのが、妥当のような気がします。

なお、争点(2)で、新聞社の優越的地位の濫用という記述がありますが、これは契約更新の拒絶そのものについてのものであって、個別具体的な「押し紙」に対するものではないと思われます。

今回の事件は、判決が示唆するように、「区域分割の申入れを断ったことに対する意趣返し」という事案であって、本質的に「押し紙」の有無、妥当性を問うものではないように思われます。

「事実上」押し紙の存在を認めたというのが、精一杯というのが私の結論です。

「事実を淡々と書くのが記者の仕事」というのが私の持論ですが、今回のソースは、主義主張やイデオロギーなど「色」がついているように思えてなりません。

ジャーナリストが主義主張を押し出すことは必要なことではありますが、どこまでが、自分が確信した「事実」で、どこまでが、自分が訴えたい「評価」なのかを、読者に分かるように伝えることもまた、必要なのではないかと思っています。

このHPも「第三者の立場から客観的に」という姿勢が、閲覧者の信用を得ているのだと思いますので、やはり「事実」と「評価」の使い分けは大事にされた方がよいかと思いますし、仮にネット上のソースに乗るのであれば、引用元を示された方が無難かと思います。

出すぎた意見ではありますが、ご参考までに、お聞き留めください。

それでは、また面白い話題を期待しております。


うーん、かなり手厳しい意見やが、核心をついておられる。ワシらは、このメルマガを書くにあったって、一応、判決文も見て話し合ったが、思い込みや先入観があったのは確かやったと認める。

特にワシの場合、その経験から「押し紙は実際にある」という観点でしか考えられんということがあった。常識やないかと。

ワシらも、この裁判の行方を注目していたから、原告勝訴の判決で「ほんまかいな」と思うた。裁判所が、押し紙の存在を認めるというのは、正直、ワシらも予期してへんかったことや。いつものように、最後は原告に不利な判決が下るのやろうなと思うてた。

せやから、原告の勝訴イコール、裁判所が押し紙を認めたというとらえ方をしてしもうたわけや。ハカセも、当然のように、この裁判のコメントや記述を調べそれを参考にした。BEGIN さんの言われる「ネット上のソース」というのがそれや。

いつもは、ある程度、ネット上の新聞に対する評価は色がついとるもんやと考えとるんやが、このときは、判決の結果のみで勇んだというのもあり、その多くをもっともやと受け取った。

今はある程度、冷静になって、BEGIN さんの指摘を検討することができるようになったから、それもありやなというのは良く分かる。言われるように、行き過ぎた表現もあったという気がする。

ワシらのポリシーとして、一方からだけの見方は避けようとは常に考えてはおるんやが、肝心の新聞社サイドのこの裁判に関する主張というのが、どこを探しても見当たらんかったというのもある。

せめて、BEGIN さんのような意見をどこかで目にしていたら、また変わったかも知れんという気がする。

新聞社の姿勢として、ネット上の言論に対して無視しとる、あるいは相手にしとらんというのも、誤解を招く一因やないのかと思う。はっきり言うて、今や誰の目にもネットを無視しては、何事も語れんと考えるのやがな。

新聞社の武器は、そのペンなわけやから、言論には言論で対してもええのやないのかと思う。そのいずれの主張に理があり、非とするかの判断は、それを見る一般読者に委ねたらええわけや。

インターネットの普及が無読へと拍車をかけとる裏には、この新聞社の無視を決め込む姿勢も大きく関わっとるという気がする。ネット上には驚くほど、新聞に対する批判記事が氾濫しとる。

ネット愛好者は、好むと好まざるとに関わらず、日々、それらを目にする機会が多くなるから、どうしても、そちらの意見に流されやすくなる。

反して、新聞社サイドに立ったものの見方、考え方というのは、驚くほど少ない。

そういう意味で、BEGIN さんも、このHPの客観性に共感されとるのやと思う。そのワシらが、客観性を欠いたらあかんわな。

ただ、ワシらは、すべてがそうやが、その最終判断は読者に委ねることにしとる。ワシらのは、そのための単なる意見ということでな。もっとも、読む方は、その世界に没頭すると、つい同調しやすくなるのもまた事実やがな。

特にハカセの文章は、人をそういうところに引き込むのに長けとるさかいな。ついつい、引き込まれる人も多いはずや。

最後に、BEGIN さんから寄せられた今回の裁判についての判決文を、ここに表記するさかい、よく見て、それぞれで判断してほしいと思う。

読むのにちょっと疲れるかも知れんが。それは辛抱してほしい。いくら分かりやすく書くことをモットーにしとるハカセやというても、まさか判決文をいじるわけにはいかんさかいな。

もっとも、BEGIN さんも、このサイトのために実名は裁判所及び裁判官名を除いて、すべてアルファベット表記にして頂いとるがな。本当に助かる。

これを読まれて、何か意見や感想があれば、是非教えてほしいと思う。


地位確認等請求控訴事件
福岡高等裁判所平成18年(ネ)第868号
平成19年6月19日判決


       主   文

1 Xらの控訴に基づき,原判決第2項を次のとおり変更する。

(1)Y会社は,X1に対し,220万円及びこれに対する平成14年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


(2)Y会社は,X2に対し,110万円及びこれに対する平成14年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。


(3)X1のその余の金員請求及びX2のその余の請求をいずれも棄却する。


2 Y会社の控訴を棄却する。

3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,


(1)X1とY会社との間に生じた費用は,これを4分し,その1を同Xの負担とし,その余をY会社の負担とする。


(2)X2とY会社との間に生じた費用は,これを5分し,その2をY会社の負担とし,その余を同Xの負担とする。

4 この判決は,主文1項(1),(2)に限り,仮に執行することができる。


       事実及び理由

第1 控訴の趣旨
1 Xら
(1)原判決中,Xら敗訴部分を取り消す。
(2)Y会社は,X1に対し,800万円及びこれに対する平成14年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)Y会社は,X2に対し,400万円及びこれに対する平成14年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 Y会社
(1)原判決中,Y会社敗訴部分を取り消す。
(2)X1の請求を棄却する。

第2 事案の概要
 本件は,Y会社の発行する「Y新聞」の新聞販売店を経営するX1が,Y会社がした新聞販売店契約の更新拒絶には正当な理由がないと主張して,Y会社に対し,新聞販売店契約上の地位を有することの確認を求めるとともに,Y会社が継続的取引関係における供給者側の優越的地位を濫用し,同Xの営業権を違法に侵害したとして,不法行為に基づく損害賠償請求をし,同じく新聞販売店を経営するX2が,Y会社に対し,Y会社が新聞販売店契約を不当に解除しようとしたことによって精神的苦痛を受けたなどとして不法行為に基づく損害賠償請求をしている事案である。なお,X2においても,X1と同様に,地位確認の訴えも提起していたが,Y会社は,その確認の利益を争った末,平成17年12月9日に,上記地位確認請求を認諾した。
 原審は,X1の地位確認請求を認容したが,Xらの損害賠償請求をいずれも棄却した。これに対し,Y会社及びXらがともに控訴した。

1 前提事実
(1)当事者等
 以下の諸点を加えるほかは,原判決2頁24行目から3頁11行目のとおりである。
ア 原判決3頁5行目の末尾に続けて,「Y新聞はわが国有数の発行部数を誇る新聞である。」を加える。
イ 同頁7行目の「第2部」の次に「(O地区とP地区以外のF県,J県,L県を管轄している。)」を加える。
ウ 同頁11行目の次に,改行して
「ウ Sは,Y新聞販売店で構成するYa会の中で,Yb会副会長,販売第2部連合Ya会の会長,Yc会(販売第2部管内のT地区の販売店主全員で構成)の常勤顧問であって,T地区に新聞販売店6店(j町,o1町,o町,i町,w1町,r町)を経営し,それらと後記の2店を管理下におくS1会社,新聞の折込広告事業をするS2会社,新聞販売店に労働者派遣をするS3会社の代表者をしている。
 Ssは,Sの弟であり,新聞販売店2店(W1地区,W2地区)を経営し,上記3社の取締役のほか,Yc会の会長をしている。
 Nは,もとSsの従業員であったが,その後独立して,Yu店,Yk店を経営している。

を加える。

(2)新聞販売店契約の締結等

 原判決3頁23行目の次に改行して,
「ウ 上記新聞販売店契約を締結したことにより,Xらは,Y会社から新聞を購入し,それを購読者に販売して得る購読料と,新聞紙に折り込む折込広告料(これはY会社に直接利益をもたらさない。)を得ることになる。これに対し,Y会社は,販売店に販売する新聞代金と新聞に掲載する広告料を主な収入としている。」
を加え,同24行目冒頭の「ウ」を「エ」と改めるほかは,同頁12行目から5頁6行目までのとおりであるから,これを引用する。

(3)新聞販売店の業務態勢等

 原判決20頁4行目から21頁17行目までのとおりであるから,これを引用する(ただし,同20頁13行目の「毎日」の次に「1回ないし」を加え,同21頁12行目の「報告するよう求めている。」を「店舗に常備し,Y会社が閲覧を求めたときに速やかに提示するよう求めている。」と改める。)。
(4)Y会社とX1との間の紛争の発生とその後の経緯(概要)

ア Y会社(担当者I)は,平成13年春ころ(ただし,X1は,同年5月17日と主張するのに対し,Y会社は,同年4月末から5月中旬ころと主張している。),X1に対し,同Xの販売区域であるH地区世帯数約5100世帯の内,約1500世帯に相当する区域を同Xの新聞販売店から切り離してY会社に返還し,同区域内の購読者名簿及び配達順路表を引き渡すよう申し入れた。

イ X1は,一旦はこれに同意したが,同月29日に,Y会社(販売局長)に対し,上記申入れを拒否する旨回答した。

ウ Y会社は,同年6月28日,代理人弁護士・Z1名をもって,X1に対して,H地区の世帯増に対する消化率が低く,努力不足が認められること,部数実態報告に虚偽があることなどを理由に,Yh店の担当区域から,H町大字h1,h2,h3,h4の4区域を返還し,これら地域の読者台帳を同月末日までに引き渡すべきことを申し入れるとともに,同Xがこれに応じない場合には,新聞販売店契約は同年7月末日をもって期間満了とし,更新しない旨を通知した(甲12)。

エ X1は,Y会社を債務者として,同年6月25日,福岡地方裁判所小倉支部に対し,新聞販売店の地位を仮に定めることを求める地位保全仮処分の申立てをし(同庁平成13年(ヨ)第182号事件),同裁判所は,同年10月29日,X1がY会社に対し,同年8月1日から本案の第1審判決言渡しの日までの間,H地区において,本件新聞販売店契約上の地位にあることを仮に定める旨の決定(以下「本件仮処分決定」という。)をした(甲4)。

(5)Y会社とX2及びAとの間の紛争の発生とその後の経緯

 原判決5頁23行目から6頁3行目までを引用するほか,これに続けて
「ウ Y会社(M部長)は,同年4月1日に,Z2代理人に,X2らの変心が理解できないとしながらも,X2らが誠実に販売業務に取り込み,営業努力をすれば,販売店として共存共栄を図ることもあると返信した(甲6)。
 Y会社は,同年9月2日の夕刊から,Aに対するY新聞の供給を停止した(甲36,乙84)。」
を加える。

2 争点
(1)争点及びこれを巡る原審での当事者の主張は,原判決第2の3項(同6頁8行目から19頁24行目まで)のとおりである(ただし,同7頁20行目の「6月」の次に「時点のYh店」を,同9頁15行目末尾の次に「さらに,平成13年2月の時点では,同地区の世帯数は5100まで増加したのに定数は1618と伸び悩み,普及率は31.7パーセントまで下落した。」を,それぞれ加える。)から,これを引用する。

(2)当審でのY会社の主張


ア X1の虚偽報告について
 X1の総収入から雑収入と折込広告料を控除した残額を,購入する新聞の原価で除して販売部数を逆算する(その計算方法が正しいことは同Xも自認している。)と,その実配数は,平成10年ころからY会社に報告している実配数を約300部も下回ることになり,同Xは,上記の架空読者数どころではない,極めて悪質な虚偽報告をしていたことになる。同Xの実配数は平成13年6月から急落しているところ,そのような急落は,上記の実態を是正しておこうとしたとしか考えられないものであり,そのことからも上記虚偽報告の実態が裏付けられる。

イ X1に対する販売区域分割の申入れについて

(ア)X1の経営するYh店では業績不振が認められたこと,すなわち,同店の販売区域では世帯数が増加しているにもかかわらず,それに見合う増紙がなく,普及率が次第に下落していったことは,原判決第2の3項の(1)(Y会社の主張)イのとおりである。


(イ)ところで,このようにYh店の区域内における世帯数の増加は,主としてYh店から離れた,国道○号線以西のK市やQ市と隣接する地域で宅地開発が進んだことが原因と考えられ,同店の普及率は特にその地域で低かった。

 そこで,Y会社(M部長,I)は,このまま上記地域をX1に委せるより,Yh店からみて周縁地区にある部分を他の営業力のある販売店に引き継がせ,X1には,Yh店周辺の地域で営業活動に専念させる方がよいと判断し,平成13年4月末から同年5月中旬ころにかけて,X1に対して,〔1〕同Xの長男をFの販売店で研修させることと,〔2〕区域の一部分割を申し入れた。
 なお,〔1〕は,従来,X1が長男を従業員として雇用していたところ,将来,同人が独立して新聞販売店を開業したいと申し出た場合に備えて,きちんとした販売店で適正な業務運営を学ぶことが必要不可欠であると考えたからであり,かつ,そのようにして同人が外部に研修に出ることにより,その分の人件費が削減できるため,Yh店の区域が一部分割されても同店の経営が成り立つものと考えたからである。また,〔2〕については,Iが分割を受ける目安としていたのは1500世帯であり,部数にすれば375部ないし多くみてもせいぜい480部程度であるから,なお1000部以上の部数がYh店に残ることになるので,その後も十分に経営が成り立つものと判断したものである。

(ウ)以上のとおり,Y会社の上記申入れは,Yh店の経営の実情に即した合理的なものであって,X1に対して不可能を強いるようなものではなかった。

 なお,上記分割にかかる区域を譲り受ける者としては,Nが予定されていたが,これは同人のYu店での営業手腕を評価したからであって,X1がいうようなSらの便宜を図ったものではない。

(3)当審でのX2の主張

 X2が,Yc会から除名等の違法行為を受けたことについては,Y会社にも責任がある。すなわち,Yc会の運営については,Y会社が深く関わっており,新会則上も「Y会社本社」との協議(会長の選任や会員の除名)や協同(会務の運営)が定められているし,その除名の規定を設ける際には,Iが相談を受け,X2の除名決議にも立ち会って,異議を述べていないのである。

第3 当裁判所の判断


1 争点判断の基礎となるべき事実


(1)X1がYh店の経営を引き継いだ経緯

 原判決21頁19行目から22頁13行目までを引用する(ただし,21頁24行目の冒頭に「イ」を加える。)。

(2)Yh店の営業の推移
 原判決29頁5行目から30頁7行目まで(アないしエ)を引用するほか,それに続けて
「オ Yh店の平成10年から平成13年までの折込広告料収入は,いずれも年間2100万円を超えている。」
を加える。

(3)X1がY会社に虚偽報告をするに至る経緯及びその実態


ア 上記(2)のとおり,Yh店の営業成績は,前任者のRから引き継ぎを受けた後数年間は悪化の一途を辿り,実配数の減少傾向が止まらず,その結果,実配数が定数を相当下回る状況が続いたため,平成5年10月にはついに定数を従来の1500部から1320部に切り下げるまでになったが,その後増勢に転じ,平成8年1月には定数も元の1500部を回復したばかりか,徐々に増加し,平成10年1月には1625部にまで達した。また,実配数も同年1月には約1600部にのぼるなど,定数との差も少なくなっていった。

イ しかし,遅くとも平成11年半ばころからは実配数の伸びが止まり,平成12年5月からは1600部を割り込むようになったが,X1はこれをY会社に対する業務報告には反映させず,同報告書の定数及び実配数を減らさなかったため,実態と報告が乖離するようになった。そして,平成11年5月ころからは,H地区の28区域のうち26区を架空読者を計上するために利用し始めた。(甲131,原審でのX1本人)

ウ 平成12年5月18日,X1は,Y会社販売局長に宛てて,予備紙の部数を虚偽報告していた(7部と報告していたが,実際には約40部であった。)ことを認めて反省するなどとする内容の誓約書(甲38)を提出した。

エ X1は,平成13年6月当時,Y会社に対しては,定数1660部,実配数1651部と報告していたが,実際には26区に132世帯の架空読者を計上していたので,実際の配達部数は1519部を超えないことになる。
 なお,Y会社は,X1の平成10年から平成12年度の確定申告における売上額等に基づいて,Yh店には,常時200ないし300部の架空読者があった旨主張し,さらに当審においても上記第2の2

(2)アのとおり主張する。しかしながら,そもそも上記のような計算から割り出される数字がどこまで実態を反映しているかは多分に疑問としなければならない。

例えば,Y会社の上記主張は,全ての新聞購読者が代金を支払うことが前提とされているところ,これを支払わない者や,当初から無償で提供されている者も少なからず存在するであろうことは十分考えられるのであって,そのようなところからしても,同主張を直ちに採用することはできない。

オ Iは、平成13年6月25日,X1から帳簿類(手板,読者台帳,発証集計表等)の呈示を受けて調査した結果,26区に架空読者が集められているのではないかと疑ったが,これを突き止めるまでには至らなかった(乙66,原審での証人I,同M)。なお,X1は,この時点で上記26区の架空計上の事実をIに告げた旨供述するが,到底信用することができない。 

(4)Y会社のX1に対する経営指導(区域分割の提案を含む。)とこれに対する同Xの対応


ア M部長は,平成12年6月に販売局第2部長に就任したが,上記(2)ウ及びエの事情を踏まえて,同月16日にYh店を訪問し,直近4か月の平均止押数が平均6.5部であって,約1600部という部数と比較して非常に低く,新規購読契約及び購読継続契約(止押)数が悪い,所長自身の努力不足であり,その他の従業員の営業成績も悪いなどと指摘して,同Xの努力を促した(甲87,原審での証人M)。

イ X1は,同年8月8日,期間を同年9月1日から10年間として店舗用の建物を新たに賃借した上,500万円ほどかけて同建物を増改築するなどした(甲18,X1本人)。

ウ 同年12月16日,T地区増紙対策会議が開催された。X1も同会議に出席し,増紙目標を提出した。これに対し,M部長は,目標値が低すぎるとして,同Xに上方修正するよう求めた。同Xはこれを拒否したが,他方で,平成13年3月,それまでの定数1625部を1645部とし,さらに同年4月には1660部とした。(甲87,130,131,原審での証人M,X1本人)

エ M部長或いはIは,平成13年4月末ころから同年5月中旬ころまで,数回,Yh店を訪問し,業務報告書について区域別定数実態表(毎月の区域別の実配数,入り,止め等を記載するもの)を記載することなどの改善を求めるとともに,X1の長男について,将来,Y会社の新聞販売店として独立するために,他店で研修をすることを提案し,また,H地区において世帯増に対して部数が伸びていないことなどを指摘して,区域分割を申入れた。

 なお,Y会社(I)は,X1に対して返還を求めた一部区域を同区域と販売区域が隣接するYu店を経営していたNに引き継がせた上,同人からYk店の返還を受ける予定であった。(甲99,乙86の1,原審での証人I,同M,X1本人)

オ X1は,Iに対し,同年5月17日,一旦は上記区域分割の申入れを了承し,IはM部長に,M部長はY会社販売局長U(以下「U販売局長」という。)に,その旨を報告した。
 ところが,X1は,同月29日,Y会社本社を訪ね,U販売局長に対し,区域分割には応じられない旨伝えた。U販売局長は,その場では態度を保留したが,その後,M部長に対しては,既に社で決まったことで再考の余地はない,Y会社は分割することで準備を進めているとして方針どおり話を進めるように指示した。Iは,X1に対し,その旨を伝えた。(甲10,123,乙66,原審での証人I,同M,X1本人)

カ M部長とIは,同年6月12日,Yh店を訪問し,通常業務の後,X1の増紙計画が進んでいないこと,熱心な取り組みがないことを指摘し,業務報告書について以前の指導後も区域ごとの明細がないので,次回から配達区ごとの入り,止めを記入し,手板と照合すること等を求めた。その上で,M部長は,X1に対し,同Xの現在の努力状況では,現担当地域を前提にしては増紙は期待できない,長男の別地域での所長独立を援助するので,一部区域返還のことはもう一度考え直すように,どうしても返還に応じないならば,販売契約更新もできなくなるが,それはY会社も望まない,などと述べて再考を促した。(甲10,乙66,原審での証人I,同M,X1本人)

キ Iは,同月19日,Yh店を訪問し,X1に対し,帳票類の提示を求めたが,同Xはこれを拒否した。そこで,同月22日,Xら代理人Z2弁護士事務所で,同弁護士及びX1夫妻とIとの話合いがもたれた結果,通常業務範囲内での帳票類提示に応じることが確認され,上記(3)オのIの調査がなされた。(乙66,原審での証人I,同M,X1本人)


(5)Y会社のX1に対する新聞販売店契約の更新拒絶(前提事実(4)ウ)と同Xの仮処分申立て(同エ)

(6)その後の経過

ア X1は,平成13年7月から10月にかけて,毎月マイナス2桁の入り止め差が生じ,4か月で合計85部の実配数が減少した旨の業務報告書を提出した。また,同年10月には,定数を1660部とし,実配数については記載していないが,前月の実配数及び当月の入り止め差から実配数1566部と算出できる業務報告書を提出していたところ,本件仮処分決定後の同年11月には,定数を1450部,実配数を1428部とする業務報告書を提出した。同Xとしては,この際に実配数につき26区の架空読者分ほか134部を削減し,定数もこれに合わせたものである。(乙116の1ないし6,117,原審でのX1本人)


イ Iは,同年12月7日,Yh店を訪問し,Y会社販売局宛の第1期増紙計画表(甲125)及びY会社宛の誓約書(甲126)を持参して,X1に対し,これらへの署名を求めた。第1期増紙計画表は,同年12月から平成14年7月まで8か月間で合計110部(月平均約14部)の増紙を目標とする増紙計画を記載したものである。また,誓約書の内容は,〔1〕業務報告書の記載事項の明記,帳票類の完備・提示等,販売部数の透明性を厳守すること,〔2〕上記第1期増紙計画表のとおり8か月計画を達成し,回収率目標150%以上を継続的に達成することなどを通して減紙を早期に復元・挽回すること,〔3〕その他現在の読者へのサービス等の業務を履行すること,〔4〕今後,虚偽の報告及びセールスの目的外使用(食い止め作業等)を一切しないことを誓約し,これらにつき不履行があった場合,取引を中止されても異議を申し立てないというものである。
 X1は,これらに対する署名を拒否した。これを受けて,Iは,同Xに対し,今後,新聞供給は継続すること,注文部数その他につき自由に増減できること,増紙業務は依頼しないこと,Ya会活動には不参画とすること,業務報告は不要であるし,Iら担当員も訪店を遠慮すること,平成14年1月からは増紙支援をしないこと,所長年金積立は中止し,従業員退職金の補助等をしないこと,セールス団関係は,X1が直接処理すべきこと,特別景品等は可能な限り辞退されたいこと,などを申し渡した。(甲127,原審での証人I)

(7)X2及びAのYc会からの排除

 原判決35頁17行目から36頁10行目までのとおりであるから,これを引用する。

2 争点(1)について

(1)上記1の(1)ないし(6)の事実のほか,本争点の判断に関係する事情として以下の事実が認められる。


ア Yh店の業績の推移について


(ア)X1がRからYh店を引き継いでから当分の間は,Yh店は,実配数の減少に歯止めがかからないなど業績が悪化したが,その後,次第に回復していったことは上記1(2)及び(3)アのとおりである。このような業績の改善(販売拡大)には,T地区の他の販売店の協力があったものである。その結果,X1は,Y会社から,平成8年度,平成9年度に年間目標達成賞などの表彰を受けた。(甲15の1ないし3,甲22の1,甲131,原審でのX1本人,証人S)


(イ)ところが,X1は,平成8年ころ,Y会社の当時の担当であるVから,Sが計画していたのとは別の新しいセールス団を立ち上げることについて協力を求められることになった。このことを知ったSが,同年5月14日に,Ss,Nらを連れてYh店に押し掛け,X1の頭部を殴打するという事件が発生し,同Xは,その後平成11年ころまで,セールス団の派遣を受けられなくなった。競業する各新聞の販売拡大競争は熾烈であるため,自店の営業活動だけでは限界があり,したがって,専門のセールス団の派遣を受けられないことは営業上相当の悪影響をもたらすものというべく,これがYh店の業績を低迷させる一因をなしているものと見られる。(甲22の1,原審でのX1本人)


イ 新聞業界を巡る情勢


(ア)テレビ,ラジオはもとより,パソコンや携帯電話等のニュースメディアの普及,若者の活字離れ,不景気などを原因として,新聞の読者離れが進んでいる。このため,T地区でも,Y新聞の48店舗の平均普及率は平成2年11月に31.1パーセントであったものが,平成12年,13年の各6月には30.2パーセントに,平成14年6月に30.0パーセント,平成15年6月に29.5パーセントと漸減傾向にある。(乙66,原審証人I)


(イ)一般に,新聞社は,新聞販売店に販売する新聞代金と新聞に掲載する広告料を主な収入としているため,その販売部数が収入の増減に直結することから,販売部数にこだわらざるを得ない。そのようなところから,拡販競争の異常さが取り沙汰され,読者の有無とは無関係に新聞販売店に押し付けられる「押し紙」なるものの存在が公然と取り上げられる有り様である(甲85,152,158,164)。

 販売部数にこだわるのはY会社も例外ではなく,Y会社は極端に減紙を嫌う。Y会社は,発行部数の増加を図るために,新聞販売店に対して,増紙が実現するよう営業活動に励むことを強く求め,その一環として毎年増紙目標を定め,その達成を新聞販売店に求めている。このため,「目標達成は全Y店の責務である。」「増やした者にのみ栄冠があり,減紙をした者は理由の如何を問わず敗残兵である,増紙こそ正義である。」などと記した文書(甲64)を配布し,定期的に販売会議を開いて,増紙のための努力を求めている。M部長らY会社関係者は,Y会社の新聞販売店で構成するYa会において,「Y新聞販売店には増紙という言葉はあっても,減紙という言葉はない。」とも述べている。(甲110,原審証人M)

(ウ)これに対して,新聞販売店も,Y会社から新聞を購入することで代金の支払が発生するので,予備紙を購入することは当然負担にはなるが,その新聞に折り込む広告料が別途収入となり,それは定数を基準に計算されるので,予備紙が全て販売店の負担となる訳ではない。ただ,その差は新聞販売店側に不利な計算となる。

 なお,この点について,Y会社は,1部当たりの折込広告料収入と新聞紙の仕入れ価格を比較すると,平成10年から平成12年までの3年間で,いずれもわずかに折込広告料が上回る(乙93,原審証人M)というが,注文部数に応じて付加されるYa会費,店主厚生会費,休刊チラシ代金などの諸経費を加えると大幅な赤字になる(甲82の1ないし3)というのが実態であるものというべく,これは,予備紙を持つことを嫌う新聞販売店が多いという一般的指摘(甲85,152,158,164)とも合致することからして,Y会社の上記主張は採用できない。

ウ S,Ss及びNとY会社及びXらとの関係

(ア)Sは,昭和48年Yo店の経営にかかわって以来,その事業を拡大し,現在前提事実(1)ウのとおりの役職にある,Yc会の実力者である。

Ssはその弟で,NはSsの元従業員であって,S兄弟と密接な協力関係にある。

(イ)Sは,自分らが中心となってセールス団体Yd会(これが後日S3会社になる。)を設立しようとしている最中に,Yv店所長のBらが別のセールス団体を立ち上げようとしていることなどを聞きつけ,上記ア(イ)のとおり,X1に暴力を振るったほか,当時のY会社の担当社員であったVがBらの背後にいると考え,その場にVを呼びつけ,自分がやめるかVがやめるかどちらかだ,などと強く迫った。

 その後,Y会社の当時のD販売局長は,この事件についてSを叱責しただけで,Vは,同年7月に,他に異動した。(甲148,乙124,原審証人S,X1本人)

(ウ)また,Sが経営するS2会社は,Yh店を含むE市郡を対象として折込広告事業等を行う折込センターであるが,T地区ではY会社の関連会社以外で折込センターをしているのはS2会社だけである。同センターは,広告主に対して,各販売店の部数について,G協会の公表部数(これは,実配数ではなく,定数の合計である。)に10パーセント程度上乗せした数値を公表していたが(なお,これは各地区で,各新聞の折込センターが集まって,協議して決めている。),そのことをY会社は知っていた。

(エ)Sは,昭和54年,IがT地区の担当として着任した際に同人と知り合い,その後他の地区にいたIに金を貸したりもし,IがT地区の担当になるように,当時のY会社の販売局長に働きかけた。Iは,平成13年1月から,T地区の担当となり,通常なら2,3年で転勤するのに,その後も同地区を担当している。(乙111,原審での証人I,同M,同S)

(オ)Sは,平成7年にK市n町のYn店を,平成12年12月にK市w町のYw1店を譲り受けたが,Iが担当となった平成13年1月以降,Iから打診されて,同年10月に,Yk1店のC所長と同店の販売区域の一部(t町,r町地区)とn町地区とを相互に所定の代償金を支払って交換した。同年11月には,同じく,Aの経営するYk2店の北側のz町地区の譲渡を打診された。また,Sは,平成14年1月には,K市のYv店の販売区域内のp町に販売店を置くことにし,そのころ,Y会社を通じて,店舗所在地を含む一部の地域(z町,r町地区に隣接する地域)をYv店のB所長から譲り受けた。

 Iは,これらについて,CやBに,本社の販売計画として区域調整をすると説明し,Bには,Yk2店の販売区域であるq町地区あるいはその周辺店の一部を引き継げるようにするなどと述べて,同人らの了解を得た。
 さらに,Iは,平成13年10月から12月ころ,Sに,X2が引退・廃業するので,Ym店を譲り受けないかと打診したが,X2が引退しないことにしたので,その話は立ち消えとなった。なお,その際,Iは,X2又はその妻をSの折込センターで雇用することを持ちかけ,了承を受けていた。(乙57の6ないし8,124,126,原審における証人I,同S,X2本人)

(2)前提事実及び上記1及び2(1)の認定事実をもとに判断する。

ア 新聞販売店契約は,新聞の宅配という重要な役割を特定の個人に独占的に委託することから,Y会社でもそれなりに信頼できる者を人選して締結しているはずである。そして,X1は,平成2年11月に,約1200万円の代償金を支払って,Y会社と新聞販売店契約を締結し,その後更新を続けて,平成8年8月1日には,本件新聞販売店契約を締結したことから,Y会社は,同Xを新聞販売店を経営する者として適任であるものと判断していたといってよい。
 他方,X1としても,その後も店舗確保のために新たに建物賃貸借契約を締結し,当該建物の増改築に資金を投下したりしていること(上記1(4)イ),また,Yh店の経営のために従業員を雇用し,セールス業者に報酬を支払い,販売拡大のために景品等を提供するなど,相当多額の投資をしてきたことが認められ(甲17,原審でのX1本人),もとよりYh店での営業を生活の基盤としていることは明らかである。そうであれば,Y会社が継続的契約であるX1との本件新聞販売店契約の更新をしないというためには,正当な事由,すなわち,X1が本件新聞販売店契約を締結した趣旨に著しく反し,信頼関係を破壊したことにより,同契約を継続していくことが困難と認められるような事情が存在することが必要であるものというべきである。
 
 そこで,以下,このような観点からY会社の主張を順次検討する。


イ 業績不振,営業努力不足について
 X1は,上記(1)アのとおり,当初の不振を他の新聞販売店の協力も得ながら挽回し,一旦減少した定数も平成8年ころには回復し,実配数もほぼ定数に近づけるなど,その営業努力はむしろ高く評価されるのであり,それだからこそ平成8年,9年と連続して表彰されてもいるものと見ることができる。その後は,平成11年ころから,実配数と定数とに乖離が見られるようになったが,その一因にはSがセールス団を回さないようにしたことの影響があるところ,そのような仕打ちを受けた原因は,Sが主導するセールス団とは別のセールス団の立ち上げについてY会社の担当者(V)からの働きかけを受けたことにあること,しかも,Y会社が,X1に暴行まで働いたSを叱責したのみで,上記のような仕打ちを放任したことを併せ考えると,直ちにX1の努力不足と評するのは相当ではない。
 また,その後のYh店の業績は,後記ウのような架空読者の計上を割り引いて評価しなければならないということはあるにしても,T地区の他の販売店と比較しても著しく劣るとはいえないし,上記(1)イ(ア)のような読者の新聞離れの傾向も考慮すれば,単にX1の業績不振,営業努力不足の一語で片付けてしまうことはできないというべきである。なお,更新拒絶後の業績の悪化は,Y会社が,新聞紙を供給する以外の役務の提供をしないということによるものであるから(原審でのX1本人。なお,Y会社は,Yh店について「Yy新聞」への読者の赤ちゃんの掲載すら拒んでいる(甲77の1,2,甲157の1,2)。),このことをもって営業不振などといって責めることはできない。

ウ 虚偽報告について


(ア)X1がY会社に虚偽報告をしていたことは明白である。このような虚偽報告は,Y会社にとって到底軽視することのできないものである。
そのような現象が蔓延するときは,正確な現状認識に基づく経営戦略が立てられなくなり,また,収入の相当部分を占める掲載広告の広告主の信頼を損ねるという重大な事態を引き起こしかねないからである。それ故,本件新聞販売店契約においても,これを契約解除事由として定めているところである。
 そして,134部の架空読者の存在は,Yh店の定数が1625ないし1660部であるところからしても,相当の数及び割合であるといわなければならない。X1としては,一層の販売拡大努力をすべきであったことは当然であるし,それができないのであれば,一刻も早く架空読者の計上という不正常な事態を解消した上で,その事実をありのままにY会社に報告すべきである。これに反し,長期間にわたってこれを維持したことは強く非難されて然るべきであって,同Xの責任は決して軽くないものといわざるを得ない。

(イ)しかしながら,新聞販売店が虚偽報告をする背景には,ひたすら増紙を求め,減紙を極端に嫌うY会社の方針があり,それはY会社の体質にさえなっているといっても過言ではない程である。

 X1が,予備紙の部数を偽っていたとして誓約書を提出した際に提出した平成12年10月目標増紙計画表では,定数年間目標を1665部,実配年間目標を1659部とし,同年5月時点での定数を1625部,実配数を1586部,予備紙を39部と,同年10月時点での実配数を1586部,予備紙を39部として上記定数を維持した記載をしているところ,Y会社は,このような報告を受けても,それに合うように定数を減らさせることをせず,上記計画表記載のとおりの同Xからの注文を受けていたものであり,同様に,予備紙の虚偽報告が発覚したYk2店のAに対しても,ほぼ同様の対応に終始しているのである(甲131,乙81,104,原審証人M)。
 このように,一方で定数と実配数が異なることを知りながら,あえて定数と実配数を一致させることをせず,定数だけをG協会に報告して広告料計算の基礎としているという態度が見られるのであり,これは,自らの利益のためには定数と実配数の齟齬をある程度容認するかのような姿勢であると評されても仕方のないところである。そうであれば,X1の虚偽報告を一方的に厳しく非難することは,上記のような自らの利益優先の態度と比較して身勝手のそしりを免れないものというべきである。

(ウ)以上のとおり,X1の虚偽報告の程度は決して軽視することのできないものであり,その責任も軽くはない。まして,同Xが上記(イ)のような誓約書を提出したこともあることを考えれば,なおさらである。しかしながら,上記(イ)のようなY会社の新聞販売店に対する態度などに照らせば,Y会社が,X1の虚偽報告をもって本件新聞販売店契約の更新拒絶の理由とすることを容認することはできない。むしろ,上記1(4)ないし(6)及び2(1)ウの諸事実に照らせば,Y会社の本件新聞販売店契約の更新拒絶は,ある意味ではX1がYh店の区域分割の申入れを断ったことに対する意趣返しの面があり(同Xが分割に応じていれば、契約更新をしていたと思われる。),また,同分割申入れの背景にSらとIとが意思を通じた策動の如きものが窺われることを考慮すると,Y会社の更新拒絶に正当な事由があるとはいい難い。


エ 帳票類提示拒否について
 X1が,平成13年6月25日に,Iから関係帳簿閲覧提示を求められたにもかかわらず,架空読者の計上を発見されないよう,この要求を拒んだことが認められる。この点も,本件新聞販売店契約に定める契約解除事由に該当する。 
 しかしながら,同Xの拒否の動機が虚偽報告の発覚をおそれたことにあるとすれば,虚偽報告に至る背景やそれについてのY会社の姿勢等も合わせて考慮すべきであり,その虚偽報告には酌量すべき諸事情があること,本件の場合,帳票類の提示拒否によってY会社が受ける不利益は虚偽報告を発見できなかった点にあるところ,虚偽報告自体が更新拒絶の理由とはなり得ない以上,帳票類の提示拒否だけを取出して,更新拒絶の正当事由とすることはできない道理である。
オ X1の分割案拒否その他について

(ア)X1が一旦承諾した分割提案を拒否したことはそのとおりである。

しかしながら,Y会社の分割案がその主張のような検討の結果であれば,その関係資料の提出があるはずなのに,本件訴訟では,Yh店の各字毎の読者数の資料(乙88)は提出されたものの,分割される地区と残る地区の地理的,人文的特色や読者数等についての資料の提出はない(Y会社は,Yh店の販売区域のうち,国道○号線以西のK市やQ市と隣接する地区で人口が増加する割には普及率が低いというが,訴訟でそれを裏付ける資料の提出はない。)し,むしろ,分割を予定した地域の人口とそれ以外の地域の人口の伸びは変わらず,分割を予定した地域は約2500人とYh店の区域の約半分になるというのであり(乙113),Y会社のX1に対する説明とも大幅に齟齬する結果となっているのである。
 また,X1にすれば,上記提案はYh店の在り方に関わる重大問題であるから,一旦はY会社の意向に押されて不本意ながら承諾したものの,熟慮した結果,承諾できない旨態度を変更したことを責めるのは酷であるし,その時点では,Y会社はそれを前提とした新たな権利関係の設定等もしていたわけではないのであるから,それを理由に本件新聞販売店契約の更新を拒絶するというようなことはできないというべきである。

(イ)Y会社の主張する従業員の登録拒否,協調性の欠如等については,これを裏付ける的確な証拠はない。

(3)以上のとおりであって,Y会社の主張は理由がない。

3 争点(2)について
 上記のとおり,Y会社の本件新聞販売店契約の更新拒絶には正当事由がないのであるから,この更新拒絶は認められない。したがって,あくまで更新拒絶が有効であるとしてX1にそれを押しつけ,新聞紙の供給以外の役務を提供しないというY会社の対応は違法であり,Y会社はそれについて少なくとも過失があるといわざるを得ない。
 また,第2の1の前提事実及び上記1及び2(1)の各認定事実によれば,Y会社の上記更新拒絶の背景には,Yc会に強い影響力を有するSの意向が窺われるが,その点を度外視しても,Y会社は,本件新聞販売店契約でH地区に専売権を持つX1に区域の分割を求め,一旦承諾した同Xがそれを拒否するや,業績不振,虚偽報告などを理由に,本件新聞販売店契約の更新を拒絶したもので,その態度は,多数の販売店を擁しわが国有数の規模を持つY会社が,1販売店を経営するに過ぎないX1に対して文字どおり自らの供給者としての優越的地位に基づいて,自社の意向を押し通そうとしたものであり,その地位を濫用したと評されても仕方がないというべきである。ただ,X1も,その行った虚偽報告や帳票類の提示拒否は,本来ならば同契約の解除事由にもなりかねないものなのであり,反省すべき点は少なくない。
 そうすると,上記Y会社の行為により営業被害を受けたX1に対する賠償としては,200万円の限度でこれを認めるのが相当であり,その損害と因果関係がある弁護士費用は20万円とするのが相当である。
4 争点(3)について

(1)証拠により認定できる事実

 原判決41頁10行目に「前記第1,1の各事実,上記1認定の各事実」とあるのを「上記第2の1の前提事実」と改め,同11行目の「155,」の次に「157,」を加えるほか,原判決第3の3(41頁10行目から43頁12行目まで)のとおりであるから,これを引用する。

(2)上記各事実によれば,結果的に,X2は拒否通知を出したことで,Y会社から廃業及び区域返還すなわち本件新聞販売店契約の解除の意思表示又は中途解約の申入れは受けなかったものの,同Xにおいて,本件新聞販売店契約が打ち切られるのではないかとのおそれを抱かざるを得ない状況に置かれたことは明らかである。しかも,その際にY会社が問題にしたのは業績不振である。それと同じ理由で,X1やAは現に本件新聞販売店契約の更新拒絶又は解除をされ,Aは,その後仮処分でその地位が仮に定められたのに,Y会社は新聞紙の供給を停止しているのであるから,同じような理由を告げられて廃業勧告を受けたX2が,Ym店の将来に対する不安を覚えたのは当然である。Y会社のXらやAに対する一連の態度は,継続的な新聞販売店契約による地位があるのに,X1については少なくとも過失に基づいて違法に,Aについては仮処分で仮にその地位が定められたのに故意にそれに違反して,それぞれ不利益を与えたのであって,X1やAと同一歩調を取っていたX2がそれらのY会社の行動を見て現実的な不安を感じることは当然認識できたのに,それを解消するどころか現実の危険を感じさせたのであるから,Y会社はX2に対しても不法行為責任があり,同Xに対してその精神的苦痛を慰謝する必要があるというべきである。

 また,上記(1)で引用した原判決第3の3(1)ケ,コの事実によれば,X2が,Yc会及びYe会を自己の意思で退会したものとは認められないが,さればといって,本件全証拠によっても,除名されたのか否かは判然としない。
しかしながら,元来,Yc会は,Y新聞専売所長の強制加入団体であり,単なる親睦会ではなく,Y会社からのセールス等補助の窓口となるなどして加入店の営業活動を補助する立場にある会であって,X2につき,除名を正当化するだけの事情が存在するとは容易に考え難いところである。
 そうすると,X2がYc会内のブロック会に参加できないとされていることは新聞販売店としての地位を不当に侵害されているものである。Y会社は,X2と本件新聞販売店契約を締結している以上,他の新聞販売店と同じようにYm店を差別せずに取り扱う義務があり,会則上も協同して会務の運営を図る立場にあるのであるから,Yc会に対して,その関係の正常化を働きかけるべきである。Iが上記ケ,コの決議に関与しながら,これに全く反対していないこと,Y会社のセールス等補助がYa会及びYe会を通して行われており,X2がこれら補助を受けられないでいることを放置する結果になっていることは問題である。これについて,Y会社には,別個の不法行為責任もあるというべきである。
 上記Y会社の行為により精神的損害を受けたX2に対する慰謝料としては100万円が相当であり,その損害と因果関係がある弁護士費用としては,10万円が相当である。

第4 結論

 以上の次第であって,Xらの控訴に基づき原判決を主文のとおり変更し,Y会社の控訴は理由がないから棄却することとする。

福岡高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 西理 裁判官 有吉一郎 裁判官 堂薗幹一郎


書籍販売コーナー 『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘問題なんでも選集』好評販売中


ご感想・ご意見・質問・相談・知りたい事等はこちら から


メールマガジン・バックナンバー 目次                       ホーム