メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第160回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日 2007.8.31


■ネット世界の闇とそれに関わった拡張員


8月25日、あってはならん事件が起きた。

事件を引き起こした3人の犯人のうち、一人が新聞拡張員やったことが判明した。

その事実により、サイトに問い合わせが殺到した。

ワシらもその事件を無視することはできんということで、急遽、今回のメルマガで取り上げることにしたというわけや。

事件は新聞各社すべて一面で報道され、テレビ報道も頻繁に行われた。

すでに承知の方も多いと思うが、簡単にそれらから、事件の概要を説明する。


25日午後1時半ごろ、愛知県警本部に「仲間3人で女性を拉致し、現金を奪った後、殺した。遺体は岐阜県内に埋めた」と、通報があり、事情聴取したところ、供述どおり、同日午後7時10分ごろ、岐阜県瑞浪市稲津町小里の山林から、女性の遺体が見つかった。

県警は、通報した車上生活者の容疑者と仲間のA新聞勧誘員(拡張員)、無職の男を死体遺棄容疑で逮捕した。

千種署に特別捜査本部を設置し、強盗殺人容疑での追及も始めた。

調べによると、男らは25日午前0時ごろ、名古同区内の路上を歩いていた女性を車に無理やり乗せ、現金7万円を強奪した。

顔を見られたため、愛知県愛西市内の駐車場で殺害した。面識はないという。女性は口に粘着テープを巻かれ、鈍器(ハンマー)のようなもので殴られた跡があった。
 
通報した容疑者の一人は「仲間とは闇のサイトで知り合った。死刑になりたくなかったので自首した」と話しているという。


この事件は、その凶悪さもさることながら、犯行に至った経緯というのも、今までの常識では、とても考えられんものやと思う。

もちろん、過去にもそんな話は聞いたこともない。

犯罪、それも殺人を犯すのに、まったく見ず知らずの人間が、ネットで知り合ったというだけで集まり、それを実行したという。

ワシらも、そのネットに関わっとるが、本気でそんなことを考えて実行する人間がおったというのに驚く。

普通「闇のサイト」というようなものを目にしたとしても、たいていは何かの洒落程度にしか思わんものやがな。

ワシなんかはそうや。

そういうものを真剣に相手にしようということ自体、どう考えても普通やない。

ただ、数年前から、ネットで知り合うた見ず知らずの自殺願望者たちが集まり、実際に自殺したという事件が相次いどるというのがある。

その根っこには、今回の事件と何か共通したものがあるのかも知れんという気はするがな。

もっとも、それにしても、ワシの理解を超えるものには違いないけどな。

「ネットの匿名性というのが、その一因としてあるのではないですかね」

ハカセやった。

ネットで知り合った人間と本名を明かしてお互いのメールをやりとりするというのは希なことや。

たいていは、ハンドルネームというものを使う。

ワシの「ゲン」がそうやし、「ハカセ」というのもそうや。それで、通じる世界でもある。

ただ、それを匿名性があることやと勘違いしとる人間は多いがな。

ハカセに言わせると、本当の意味での匿名性というのは、ネットの世界ではすでにないとのことや。

掲示板で凶悪犯罪を臭わせるような書き込みがあれば、比較的簡単に分かり逮捕されとるという実態がある。

パソコンには、特有のIPアドレスというのがあり、個人にたどり着くのはそれほど難しいことやない。

例え、ネットカフェのような所から発信されたものでも、その日時、機種まで分かるから、そのときその端末を使用してた者の特定も比較的簡単にできると
いう。

また、インターネットでは、多くの人が検索サイトというのを利用しとると思うが、それからでも簡単に足がつく。

その代表的なのが、Yahoo と Google や。

例えば、Googleではユーザーの IP と検索した時間、検索した言葉や語句、そこからリストされた結果、およびそのクリックスルーの全てを自動的に記録して保管しとるという。

因みに、クリックスルーとは、リンクをクリックすることによってリンク先のページにジャンプすることをいう。またはその回数のことを指す。

しかも、その保管期間は無期限ということらしい。

つまり、ユーザーがGoogleで検索した文字や内容は半永久的に残るということになる。Yahooにも似たようなことが言える。

分かりやすく言えば、検索サイトによってユーザーの行動がすべて監視されとるということや。

結果、どういうことになるか。

アメリカでの話やが、実に興味深い事件の情報がある。

ある女性が銃で胸を打たれて死んだ。容疑者として夫の可能性が考えられたが、証拠が何もない。

迷宮入りかと思われた犯罪やったが、思わぬ所からその夫が逮捕される事になった。

その殺人事件が起こる前の2ヶ月間、この夫は Google を使い「他殺の場合に保険金はおりるのか」というキーワードで検索をしていたことが、その記録から分かった。

これが証拠として採用され、この夫は殺人罪で終身刑の判決を受けた。

これは実際にアメリカで起こった事件や。

日本でも、現在はネット犯罪に相当力を入れとるという話やから、いずれ、これと同じことがおきるものと思う。

ネット犯罪に手を染める連中の多くは、その事実をまだ知らんようや。

もうすでに、インターネットには完全なプライバシーは存在せんということをな。

そのプライバシーが保護されるのは、犯罪に手を染めることのない善良なユーザーだけやと言うてもええと思う。

ネットに関連した犯罪は、その証拠が確実に残るから言い逃れすることすらできんようになる。

知らんうちに行動がすべて監視され記録も取られとるというのは、ある意味、怖いことやし気持ちの悪いことやと思わんでもない。

しかし、別の見方をすれば、インターネットの健全化につながるのやないかとも考えられるがな。

要するに、犯罪に手を染めさえしてへんかったら何の心配もないわけや。

はっきり言うて、今回の「闇のサイト」というのもそうやが、子供たちの間で流行っとるという「学校裏サイト」というものにしても、その匿名性があると信じとるからこそできることやと思う。

いくらそこで、どんな過激な発言をしようが、誹謗中傷をしようが、それから引き起こされる結果やトラブルが自分に及ぶはずはないと考えとるわけや。

その匿名性がすでにない、あるいは近い将来なくなると知ったら、それをしとる連中はどうするのやろうなと思う。

現在、そのネット関連の法律の制定作業は急ピッチで進められとるというからな。今よりもかなり厳しくなるということや。

もっとも、堂々と自分を晒して過激な発言や誹謗中傷をするというのなら、それはそれで自らも責任を取らなあかんことになるわけやから好きにしたらええとは思うがな。

今回の事件の、もう一つの特異性として、犯人の一人が新聞拡張員やったということが挙げられる。

新聞拡張員というのは、人から嫌われる仕事の上位に位置するのは間違いない。

客とのもめ事も多いし、悪さをする人間もおる。評判の悪さも群を抜いとる。

それでも、こんな凶悪な事件を拡張員が引き起こしたというのは、過去にもないことやと思う。

もっとも、考えつく人間もおらんかったがな。

それもあってか、犯人の一人が新聞拡張員と報道されてから、サイトには、このことに関する問い合わせが殺到した。

それに比例するかのように、事件の起きた8月25日からサイトへのアクセス数も増え続けとる。

過去にも、新聞販売店絡みで引き起こされた凶悪事件があった直後にも、これと同じ現象はあったが、今回ほどのことはなかった。

本来なら、サイトへのアクセス増というのは喜ぶべきものやと思うが、こういう事件でというのは、願い下げにしてほしいというのが正直な気持ちや。

ただ、その問い合わせの多くが、古くからのサイトのファンで好意的やったという点では救われとるがな。

以前、よくこのサイトを見てくれていた人が、しばらく離れていて、事件で思い出してアクセスしてくれたというケースが目立った。

一様に、事件への驚きとサイトへの激励というのが多かった。

その方たちは、ワシらが常日頃から言うてる「人間の世界には、どこにでも、ええ奴と悪い奴、真面目なのや、いいかげんなのという具合に、いろんな人間がおる」ということを理解してくれとる。

たまたま、その凶悪事件を引き起こしたのが、新聞拡張員やったというだけのことやと。

救いになるような話やないかも知れんが、この容疑者のKは、報道では、その所属の拡張団にはあまり出勤することもなく休みがちやったらしい。

金ほしさの犯行ということやが、拡張員やのうても働かな稼げんのは当たり前や。

こんな性根の人間は、どんな仕事に就いていようが、こういう事件を引き起こしていた可能性があるのやないかと思う。

しかし、現実に拡張員が関わった事件が起きたわけやから、こういうメルマガ、サイトを運営しとるワシらが、そのことから目をそらしたり逃げたりしたらあかんのは確かや。

ワシら自身、何事もええことばかりやなく、その悪いところも明らかにせな、何の進歩も教訓にもならんと考えとるさかいな。

それにしても、このメルマガ、サイトの読者にも拡張員の方は多いが、今回の事件については一様に「驚いた」「あり得んことや」と口を揃えておられたのが印象的やった。

テレビ報道の中で、この事件を引き起こしたKの所属していた拡張団の関係者が「こんな事件を起こして平然と話をしていたことに驚く」と言っていたが、それが正直な気持ちやったと思う。

今更やけど、拡張団というても何も特別な人間の集まりやない。他の一般の会社組織と大差ないのが普通や。そう思うてない人は多いようやがな。

相手は誰でもよく、金がほしいから殺して奪えという発想は、どう考えても異常と言うしかない。しかも、報道によると、それを最初から考えとったという。

あってはならんことや。そのあり得んことが現実に起きたのもまた確かや。

サイトに寄せられる意見も好意的なものばかりやない。中には、誹謗中傷を越えて罵り、罵倒に近いものもある。

それを読まされる読者にとっては気分を害するだけやと思うから、そんなものをここで公開するつもりもないがな。

まあ、どんなものか想像はできるやろうけどな。

ただ、それでも、先のハカセの話やないが、メールでその意見を送りつけるというのは、ある意味、自分自身を晒しとる行為なわけやから、その勇気は買う。

もっとも、その送り主がそれと知ってたかどうかというのは怪しいとは思うがな。

この事件の波紋は、これだけに止まらんかった。

それは、新聞各紙およびテレビの報道にも表れとったことや。

Kの職業を、ある新聞は新聞勧誘員、ある新聞は新聞拡張員、また違う新聞は購読を勧誘するサービススタッフ、さらに新聞販売所で働いていたというのまであった。

各社、その扱いがまちまちや。

テレビ報道では、ワシの見たところ、「新聞勧誘員」「新聞拡張員」でほぼ統一されとったがな。

ある読者から『ゲンさんは、メルマガやホームページの中で「拡張員」という言葉が放送禁止用語だと仰っていますが、以前からすこし気になっていたのですが、自主規制の範囲内で周知徹底されていないような感じがします』という意見を頂いた。

この「拡張員」という言葉が放送禁止用語、および主要マスコミが示す不適切用語のガイドラインに挙げらとるというのは間違いない。

しかし、この読者の指摘されるとおり、あくまでも自主規制が原則やから、使うたらあかんというほどやないのやろうな。

取り立てて何かの法律に触れるということでもないさかいな。

しかし、新聞各社は、数年前に、拡張員という呼称を「新聞セールス・スタッフ」と変更するように通達を出しとる。

実際、それ以降、新聞紙面上から、「新聞拡張員」という表記はなくなったはずや。少なくとも、この事件の前までは、その表記を見た覚えがないさかいな。

もっとも、テレビ報道では、意図的か間違ってかは知らんが、時折「新聞拡張員」と連呼していたことはあったがな。

ここで、誤解せんといてほしいが、「新聞拡張員」と書いたらあかん、言うたらあかんというのとは違うで。

むしろ、逆や。

もともと、ワシらは、この「新聞拡張員」という言葉が、放送禁止用語に指定されたり、主要マスコミが示す不適切用語のガイドラインに挙げられたりしとること自体に違和感を持ってたくらいや。

せやから、メルマガやサイトのタイトルからも、未だに「新聞拡張員」の呼称を外してへんさかいな。

それには、どう考えても、拡張員という言葉に差別性のようなものを感じることはできんということがあるからや。

もし、拡張という言葉にそれがあるとして使用禁止でもなったら、コンピュータの世界ではどうにもならんことになると思うで。

Yahoo と Googleなどで「拡張」というキーワードで検索したら、大半はそのコンピータに関連したものがヒットするさかいな。

しかも、そのヒット件数は、二千数千万と桁外れに多い。

もっとも、どさくさに紛れて、このサイトも上位でヒットしとるがな。

新聞社が、そういう通達をする裏にはイメージの刷新ということがあってのことやったと思う。

新聞拡張員という言い方が、あまりにもイメージが悪すぎるということでな。

イメージの刷新に名前、呼び名の変更をするというのは、古くから使われてきた手法ではある。

しかし、短絡的と言えば、これほど短絡的なものはない。

それが、ここにきて、またぞろ、死語になったはずの「新聞勧誘員」「新聞拡張員」という用語を復活させて使うとるというのは、どういう意図からなのかと理解に苦しむ。

どうせ地に堕ちた言い方やから、この際、泥を被ってもええということなのやろうか。

それとも、もっと単純に、一般に知られている「勧誘員」「拡張員」という方が表記しやすかっただけなのやろうか。

いずれにしても、その言い訳としては苦しそうやがな。

もっとも、その拡張員という言葉が使いにくいということで「購読を勧誘するサービススタッフ」といかにも苦しい表現をしていた新聞社もあったがな。

しかし、それらの中で「新聞販売所で働いていた」としていた新聞社は頂けんと言うしかない。

これやと、何も知らん人が読めば、その犯人が新聞販売店の従業員とも受け取れる書き方やさかいな。

これに対して反論されていた方もおられる。当たり前やわな。

それを書いた記者が、その事情を何も知らなんだというのならともかく、新聞社は、紛れもなくその当事者なわけや。

知らなんだという言い訳が通用するはずがない。

これらを見ても分かるとおり、この事件についての新聞各社の狼狽ぶりが相当なものやというのは想像できる。

しかし、それは、何とか新聞の評判を落とさんようにしようとか、ごまかそうとするから却って、それが目立つ結果になるわけや。

正直に、「やったことは悪い」という視点に立てば、そんな不細工なことにならんでも済むと考えるのやがな。

「新聞セールス・スタッフ」の言い方を広めるつもりなら、小細工を弄せず、今回もその表記に徹するべきやったのと違うやろか。

苦言を呈するようやが、評判は言葉で勝ち得るものやないということを肝に銘じてほしいと思う。

その体質が改められん限り、新聞は、今よりもさらに苦境に立たされることになるという気がしてならん。

今回の事件とも多少関わり合いがあるかも知れんが、本日、8月31日、ハカセはある人と会う約束をしとる。

その結果次第では、業界に旋風が吹くとまでは言わんが、波風くらいは立つことになるかも知れんという気はする。

それが、ええかどうかは今のところ良う分からんが、少なくともハカセは、それなりの腹を決めとるのだけは確かや。

抽象的な表現で気を揉ませて申し訳ないが、その顛末もいずれ近いうちにこのメルマガ誌上で話すことになると思うから、それまで待ってほしい。

間違うても、他で先に洩らすようなことはせんさかい。

最後に、何の罪もなく、ただそこに居合わせたというだけで、被害に遭われ尊い命を奪われた女性に、心よりお悔やみを申し上げたいと思う。


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