メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第166回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日  2007.10.12


■拡張員の労働組合結成は可能か?


読者から、ある情報が寄せられた。


次のニュースは、今朝、テレビでやっており、その後ネットでチェックしたら出ていたというものです。


▼<バイク便>厚労省が「労働者」の見解 労災適用可能に
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070928-00000016-mai-pol

記事内容(2007年9月28日発行の毎日新聞より引用)

自転車やバイクで書類などを運ぶメッセンジャー(バイク便運転者)について、厚生労働省は27日、「労働者性がある」とする見解をまとめ、全国の労働局に通達を出す方針を決めた。

メッセンジャーは、会社と運送請負契約を結ぶ個人事業主として働いているケースがほとんどのため、事故にあった際に労災保険も適用されていない。

企業の間では、一般事務の仕事でも個人請負契約が広がっており、今回の通達はそうした状況にも影響を及ぼしそうだ。
 
厚労省は、メッセンジャーについて、事務所や集合時間などがあることから(1)時間的・場所的な拘束を受け仕事の依頼を拒否できない(2)業務のやり方に指揮監督が行われている(3)勤務日、勤務時間が指定され、出勤簿で管理されている(拘束性がある)――などと認定。「労働者性がある」と判断した。
 
個人事業主は、大工など土建関連の業務に多い就業形態で、技術や道具を持ち個人で仕事を請け負う働き方で、仕事の依頼の拒否や仕事の進め方の判断などを個人の裁量で行う。労災は適用されず、共済組合をつくるなどして事故など
に対応している。
 
バイク便大手のメッセンジャーが今年1月に労働組合を結成、「実態は労働者なのに個人事業主なのはおかしい」と訴えていた。

メンバーは、交通量の多い都心で荷物を運んでいるが、事故にあっても自己負担で対応しなければならず、雇用保険など社会保険への加入もできなかった。

同労組によると、東京都内だけで数千人いるとみられるメッセンジャーたちは多少の違いはあれ、こうした働き方をしているという。


これは「みなし労働者」と言えばよいのでしょうか。

団に入っている拡張員も、今回のバイク便の労働者と全く同じ立場と言えそうですから、この厚生労働省の動きは、ゲンさん達にとっても注目に値するのではないでしょうか。


確かに、この記事の内容からすると、かなり画期的な出来事やと思う。

この読者の指摘どおり、このバイク便のメッセンジャーとフルコミの個人事業者としての拡張員は似たような立場やと言える。

ただ、拡張団と社員契約をしとる拡張員は、一般のサラリーマンと同じく大半が労災保険や社会保険が完備されとるような所は除外せなあかんがな。

同じなのは、フルコミの個人請負事業者という立場で仕事をしとる拡張員ということになる。

厚労省が労働者として認定したという条件に事務所や集合時間などがあるとしたうえで、

(1)時間的・場所的な拘束を受け仕事の依頼を拒否できない
(2)業務のやり方に指揮監督が行われている
(3)勤務日、勤務時間が指定され、出勤簿で管理されている(拘束性がある)

と指摘しているのは、正にすべての拡張員に共通して言えることやと思う。

この判断により、今まで個人事業主ということで業務委託契約を交わしてきたフルコミの拡張員も「労働者」とみなされる可能性も出てきたことになる。そのハードルは高そうやけどな。

拡張員が「労働者」と認定されたら労災保険にも問題なく加入できるやろうが、今のところそれは難しそうや。

現状では、拡張員が労災に加入するには、特別加入申請をするしかないようや。

特別加入するには、団体を通じ、構成員を包括して加入させなあかんと労災法の33条から36条にある。

したがって、フルコミの拡張員が労災保険の恩恵を享受しようと思うたら、このバイク便のメッセンジャーと同じく労働組合を結成して経営者サイドにプレッシャーをかけていく必要があると考えられる。

拡張員の労災加入の件について、以前(2005年6月)、当サイトの法律顧問、今村英治先生から、次のように教えていただいたことがある。


拡張員の労災の件です。

請負ならば適用をうけません。

メールを頂き、あらためてほんとうに驚きました。そうだったんですか〜。

法の盲点をうまくついてるというか、なんというべきか、拡張員の方々は本当に社会的弱者ということが分かります。労働者としていないことで労働基準法も労災法も適用を受けませんよね。

労災には特別加入という制度があります。

個人タクシーや赤帽の運転手さん、職人さん、大工の親方等々個人事業主ですが、現場で働く人たちですから、労災保険に入れてあげようという制度です。もちろん拡張員さんも法的に加入できるでしょう。

特別加入するためには、私たち社会保険労務士や地元の商工会などを通じて労働保険事務組合の組合員になる必要があります。組合を通じて労災に特別加入するわけです。

国に対して直接手続して特別加入することはできないのです。

労働保険事務組合は保険料の滞納が許されません。ですから組合員を入れるにあたり、どの事務組合もしっかりと保険料が払えるかどうかかなり慎重になっています。組合員が払わないと組合が自腹を切ることになりかねないからです。

拡張員さんが労災に入れるかどうかは、まさにこの点に尽きます。個人的に懇意である社労士さんか商工会に顔が利くとかがない限り・・・。

フリーエージェント制のような拡張員さんですから受け入れてくれる事務組合はそうそうないと思います。

お答えしておきながら ため息が出てしまいますが、拡張員さんの地位向上のためには業界内部で協力して共済組合とか労災のための事務組合をつくってしまうとかしないといけません。


今村先生の言われる『拡張員さんの地位向上のためには業界内部で協力して共済組合とか労災のための事務組合をつくってしまうとかしないといけません』というのは、理想的やけど限りなく難しいことやと言うしかない。

拡張団、拡張員のシステムができて60年ほどになる。

そういう組合みたいなもんが出来るんやったらとっくに存在しとるはずやが、未だにそんなものができたという話は聞かんさかいな。

拡張員に限らず営業員同士の助け合い、協力というのは表面的なことは別にすれば、あまり考えにくいことや。

特に拡張員の営業は狭いエリアの中でする。そこでは、お互いが競争相手やから利害に反することも多い。

さらに言えば、拡張団は仲間同士の横のつながりより、上下関係の方が強い組織というのもある。歴史のある拡張団ほどそれが顕著や。

平たく言えば、親分子分の関係みたいなものやな。例えがええかどうか分からんが、ヤクザの組織に労働組合がないのと同じようなものやと思う。

大っぴらに団に背く拡張員は少ないが、仲間を平気で裏切る者がいとるのは、それほど珍しくない世界やさかいな。

加えて、拡張員の勤続性、定着率の悪さというのも一因としてある。

拡張員の発想として、その団が気にいらん場合、そこを住みやすくしようと努力するより、よそへ行こう、逃げようと考えるのが普通やからな。

また、この仕事を選ぶ際、他に何もなかったから取りあえずやろうかという具合に、最初から腰掛け目的で入団してくるというのもある。

それらのことを考え併せると、拡張員の労働組合結成なんか夢のまた夢やと言うしかないわな。

ある人から、本来はオフレコにすべきことやということで聞いた話やが、厚生労働省の建前と本音は違うところにあるという。

強制加入を高らかに唄いながら、国税のように強権を持って摘発をしないのはなぜか?

答は簡単。

労働保険も社会保険も、加入者が増えると保険料収入より保険給付金の支出が増えるしくみになっとるからや。

年金なんかやと、支払いが厳しくなれば、給付年齢を引き上げたり給付額を引き下げたりと好き放題できるけど、労災保険はそうはいかん。

けがや病気で倒れた人間に、財政が厳しくなったからと言うて、今まではこれくらい支払うてたけど、今回はこれだけにしといてくれとも言えんしな。

公的な保険に入る人間が増えれば増えるほど腹を痛めることになる国としては、なるべくならこれ以上の負担は避けたいというのが本音やないかと思う。

今のままの状態やと、組合結成の困難さと併せて考えても、やはり労災保険への拡張員の加入は限りなく難しいと言うしかない。

もっとも、国民健康保険にすら入ってない拡張員もいとるくらいやから、労災保険の特別加入できたとしても、その保険料を支払う者がどれくらいおるかという話にもなるがな。

ちなみに、労働者の労災保険加入は企業の負担やが、特別加入の場合は個人負担となるさかいな。

こういう話が過去にあった。

ある拡張員が病気になり緊急入院せなあかんことになったが、保険証なしではかなりの金がかかる。

そこで、ある団の幹部は、その拡張員を救済するために、自分の国民健康保険証をその男に貸し、その幹部の名前で入院させることにした。

それが、発覚して警察から詐欺罪で、その男と幹部が摘発されたということがあった。

これなんかは、たまたま発覚したことで、結構、昔から行われていたことではある。

その拡張員もそれなりの稼ぎがあれば、あるいは国保くらい自分で払うてたかも知れんとは思う。

しかし、その日のめし代にも事欠くその拡張員にとっては、そんなものを支払う余裕がなかったわけや。

いくら、けがと病気は自分持ちやというのを承知していても病気で倒れることは人間なら誰しも起こり得ることや。けがも避け難い。

世間では、評判の悪い拡張団でも、現実にそういう団員を目の前にして、「お前が保険に入ってないのが悪い。自業自得や」と言うほどの人間も少ないし、何とか助けてやろうと考えるのが普通や。

その結果、他人の保険証を貸すという違法行為を犯してしもうた。

確かに、それはいかんことやし、せん方がええというのも分かる。

しかし、それでも見逃せんのが、人の情やと思う。

ただ、情で法を曲げることはできんから、結果として、彼らは詐欺犯として検挙されたわけや。

このことをどう捉えるかは、人それぞれやと思う。

それでは、あんまりかわいそうやと言う人もおれば、自業自得やと冷ややかに見る人もおるやろう。

あるいは、その拡張団の幹部が保険証を貸したのは、そのための貸付金を抑えるためやという見方もできる。

それらの議論とは別に、このことでワシが言いたいのは、労災の特別加入をすることで保険料を取られて目先の手取り額が減るのは嫌やという労働者がおる限り、自らの意志による選択では、この問題は永久に解決せんやろうということや。

それに加えて、労働者のために公的保険料の会社負担分があるのは嫌やという経営者側や、そんな弱者保護のために自腹を切りたくないというお上がいたんでは、どうしようもないわな。

三者の利害関係が一致している限り、この問題の解決は、よほどのことでもないと望めそうもないやろうな。


この問題で、意見を寄せて頂いたので紹介する。


投稿者  BEGIN さん 投稿日時 2007.10.16 PM 7:42


私がこの問題で、いちばん現実的だと考えるのは、裁判で勝つことかなと思うわけです。

労働者か否かの最終決定は、行政(労基署)の判断ではなく、裁判所の司法判断です。

裁判所はほとんど行政の判断を追認するので、道が険しいことには変わりありませんが、 ほかの行政訴訟に比較すれば、労災認定については、まだましのような気がします。

仮に、裁判で労基署の不支給決定を取消せば、その後の行政解釈に大きな影響を与えるでしょう。

高い訴訟費用を費やしてでも、裁判を起こす価値(勝つ見込み)があるかは、これまでの裁判例の動向(どういう職種がどういう理由で認められたのか)を分析する必要があり、このあたりは専門家に委ねざるを得ないかもしれません。


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