メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第167回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日 2007.10.19


■ゲンさんの拡張ジョーク集 Part1


人生において笑いはなくてはならんものや。笑いのない生活ほど、つまらんものはない。

特にワシは、大阪で生まれたということもあるのかも知れんが、笑いというのが小さな頃から身体に染みついとるようなところがあるから、余計そう感じる。

その笑いに、シャレやジョークは欠かせんものや。特に営業員なら、ジョークの一つくらい言えんようでは話にならんやろと思う。

ここでヘタなダジャレを言うたらバカにされるのやないかとか、変に思われるのやないかということを考える必要はない。

思いついたら、どんどん言えばええ。そのうち、つまらんジョークでもこなれたものになる……はずや。

ワシは、営業するんやったら常に笑顔を作れと言うとる。

人を和ませるにはそれが基本や。にこやかな人間を見て怒り出す者も少ないさかいな。

それにプラス、客を楽しませるために面白い会話ができれば、さらにええ。

その際、気の利いたジョークでもあればそれに越したことはないと思う。

もっとも、それを言う相手とタイミングを外したら意味はないがな。

これから、ワシが常日頃使うとる新聞勧誘時のジョークを、いくつかその解説を交えながら紹介するから、ええなというのがあれば、営業の参考にでもしてくれたらええ。

また、営業とは関係のない一般の人でも、笑い話やジョークとして楽しんでもらえたら、それでええと思う。


【扱ってない新聞】


「今晩は。○○新聞の者ですけど……」

ドアを開けると満面の笑みを浮かべた拡張員が、そう言いながら立っていた。

「新聞は、間に合っていますから結構です」

「あの、申し訳ありませんが、うちはマニアックな新聞は扱ってませんけど」


勧誘しとると「間に合ってますから、結構です」という類の断り文句を言われるケースは多い。

「そうですか、すみませんでした」と簡単に引き下がったんでは、営業の仕事はできん。営業はご用聞きとは違うからな。

勧誘で廻っとれば、断られるの当たり前というのは常識や。

営業とは、むしろ、そうして断られてからが勝負やくらいの気概がなかったらあかん。

ちなみに、この「結構です」というのは、多くの人が、ほぼ反射的に飛び出す言葉で、それほど強い断り方やないという場合が多い。

せやから、軽くギャグやジョークを交えることによって、その客との話のとっかかりを作ることは可能やと思う。

「間に合って」と「マニアック」という一見くだらない語呂合わせとも思えるダジャレを言うことによって、相手次第では「おもしろいことを言うね」という反応が返ってくることもある。

もっとも、こういうジョークは言う相手を間違えると、単なる揚げ足取りと思われることもあるから気ぃつけなあかんがな。


【新聞社の社員】


「○○新聞ですが、サービスしますので、ぜひご購読をお願いします」

「悪いけど、うちの主人は△△新聞社に勤めているのよ」

「ええ、それは良く存じています。この辺りにお住まいの方は、皆さん、△△新聞社に勤めておられますから」

「それじゃあ、なぜ勧誘にくるの?」

「ええ、それはお隣でもやはり、ご主人が△△新聞社にお勤めだったようですが、当社の新聞を購読すると、ビールがたくさん飲めると知られてから急に『△△新聞社に勤めるのは辞めた』と仰ってましたので」


地域によれば、顧客に勧誘の撃退方法というのを徹底して教えとる販売店がある。

中には顧客に「新聞社に勤めているからと言えば、あきらめるはずです」と、やって来た他紙の勧誘員にそう言うように触れ回っとるという。

理由は「悪質な勧誘に騙されないために」ということらしい。

また、これに呼応する人も、新聞の勧誘はうっとうしいもんやという偏見や思い込みがあるからやと思う。

実際に悪質でうっとうしい勧誘員と遭遇したからというのもあるのやろうけどな。

そういう所やと、その地域一帯が新聞社の人間で埋め尽くされとるということがある。

もちろん、これは断り文句として教えとるわけやから、ほとんどは嘘や。

しかし、それが嘘やと分かって「そんな嘘は通用しまへんで」と凄んでも逆効果なだけや。

それよりも、ここは一つ、軽いジョークを言うことで逆転する道を選んだ方が賢いと思う。

その販売店が、顧客にそう言うて触れ回るのは、当然やが、ライバル紙に勧誘してほしいないからや。

そこには、勧誘競争をすることで拡材(契約時のサービス品)の高騰を防ぎたいという狙いが少なからずある。

せやから、それとなく「サービスしまっせ」というニュアンスを臭わせるジョークを言うわけや。

人により「△△新聞よりサービスしまっせ」とストレートに言われると、足下を見られたと気分を害することもあるさかいな。


【勉強不足】


「拡張員って、大学も行ってない学歴の低い人が多いんですってね?」

まれに、こういう毒のある言葉を吐く客もおる。

ただ、それにすぐ反発するようやとあかん。

「ええ、確かに多いですね」

「それで、劣等感を感じませんか」

「別に。大学に行ってまで勉強せなあかんほど、アホやとは思うてまへんので」


ワシは、こういう人を見下す人間には必ずこう言う。これは、相手の意表をつく強烈な切り返しになる。

まあ、負け惜しみの一つではあるが、実際、人間の賢さと学歴がイコールとは考えてないさかいな。

ちなみに、ワシは夜間高校しか出とらんけど、それで特別困るということもない。

顧客の中には大学教授や有名な著名人もいとるけど、彼らとそれほど話が合わんということもないし、特別引けを取るとも思うてない。

当たり前やが、新聞に関しての専門知識ということなら、はるかにこちらの方が上やさかいな。

何の自慢にもならんが、所詮、どんな分野でも知識とはそんなものやと思うとる。

人の知らんことを知っとるのが賢いと錯覚しとる人は多いが、本当の賢さとはそんなものやない。

知識や学歴をひけらかすのは愚の骨頂や。そんな者にろくな奴はおらん。

本当の賢さとは、どれだけ相手よりアホに見せかけることができるかに尽きると思う。

もしくは、「能ある鷹は爪を隠す」と昔から言われとるとおり、自分の底を相手に知られんことや。

特に営業では、その賢さが求められる。

それからすると、こんなジョークを言うて張り合うようでは、まだまだワシも未熟者ということになるがな。


【お金がない】


「新聞屋さん、申し訳ないね。うちは金がないんや。そのうち、銀行強盗でもして金が手に入ったら新聞を取るから」

「そうですか。その時は、教えてください。お手伝いしますから」


【お金がない Part2】


「新聞屋さん、申し訳ないね。うちは金がないんや。そのうち、宝くじに当たったら新聞を取るから」

「そうですか。それはちょうど良かった。うちのサービス品は、その宝くじなんで」


こういう冗談を言う客も中にはいとる。ジョークにはジョークで返すというのが、営業員の基本やと思うてなあかん。

こう返されると、ジョークを言うた方も「お主、なかなかできるな」と思うさかいな。親近感が湧いて成約になることも多くなる。

この「金がない」というのも、断り文句としては多い。ただ、これは額面どおりに受けとらん方がええ。

当たり前やが、「うちは金が余ってしゃあないねん」という人間なんかおらんからな。

取りあえず、断っておこうという定番みたいなもんやと心得とくことや。

それに「金がない」と言う客は、総じてサービスに弱いという側面があるから、攻めやすいと考えといてもええくらいや。


【主人に相談】


「そうね、主人が帰ったら相談してみるわ。でも主人は、きっとだめだと言うと思うわ」

「あっ、それでしたら大丈夫ですよ」

「あら、どうして?」

「奥様がお留守のときに、お伺いしたおり、ご主人も同じことを言っておられましたから」


この「主人に聞いてから」というのも、断り文句としては多いパターンや。

これは、例え、このジョークで言うたような事実がなかったとしても、そう言うことで相手の反応を見ることができる。

「そうなの? 仕方ないわね」と言えば、決定権者はその奥さんにある。

「まさか、主人がそんなことを言うはずがないわ」と言えば、本当に決定権者は、そこの旦那にあるということや。

この営業の世界では、決定権者から契約を貰うというのが基本や。決定権者以外からの契約やとキャンセルされかねんというのがある。

まあ、それでも新聞購読契約くらいのことで、そういうのは少ないが、本当に旦那に決定権がある場合、無理をして奥さんから契約を取ってもつぶれることもあるさかいな。

ワシ自身も、そういう経験が何度もあったしな。

そういう可能性があると判断すれば、旦那の帰宅時間に合わせて再訪した方が無難やと思う。


【押し売りお断り】


「○○新聞の者ですが、当社の新聞を、ぜひご購読していただけませんか」

「外の『押し売りお断り』という札、見えなかったの?」

「いえ、拝見しました」

「だったら、なぜ、新聞の押し売りに来るのよ」

「その札があったからです」

「どういうこと?」

「その札の意味は、私らの間では『押し売りはお断りできません』と読みますので」


この「押し売りお断り」というステッカーを玄関口に貼っている家は多い。

確かに、気の弱い真面目な勧誘員なんかやと、それを見ると敬遠することも多いから、その意味では効果があるとも言える。

しかし、真面目な勧誘員は、きちんと断れば、それで簡単に引き上げるから、このステッカーを貼るほどの意味はあまりないと思う。

反対に海千山千の拡張員を呼び寄せとる結果になっとる分、「百害あって一利なし」に近い。

実際に、彼らはそれを「押し売りはお断りできません」と読むさかいな。

この札を出す家というのは、過去にそういう勧誘で苦労して断り切れんかったというのが多い。

言えば、過去の陥落者やと宣言しとるようなもんや。

当然、海千山千の拡張員にとっては格好の狙い目となる。押せば何とかなると思い込むからな。

このジョークには続きがある。

「そういう勧誘員もいますので、一言ご注意をと思いまして……」と言いながら、相手の警戒心を解きつつ、こちらのペースに引き込むトークをするわけや。

客が「それもそうやな」と思えば、その来訪自体を許しとることになるから後は簡単に話を進めることができる。

言えば、「私は、そんな連中とは違いますよ」ということをアピールしながら、勧誘するわけや。

姑息と言えば姑息やが、意外に効果的な場合も多い。


【100円でドアを開ける方法】


その日、インターフォン・キックばかりで一軒もドアを開けてくれず困っていた拡張員があることを思いついて、サイフから100円玉を一枚取り出した。

ピンポーン。

「どちら様ですか」

「玄関に100円が落ちてましたけど」

「あら、どうもすみません」と、一人の主婦がドアを開ける。

チャンスやと思うた、次の瞬間、その主婦は100円玉だけを素早く受け取ってドアを閉めた。

その拡張員がドアの向こうでポツリと一言。

「……あの、もう100円落ちてましたけど」


玄関口に「100円玉落ちてます」作戦というのは、かなり昔から使われとる古典的な手口やけど、今でも通用することがあるようや。

これを良うやっとる拡張員を知っとるさかいな。そこそこ効果があると聞く。

しかし、中には、こういう強者(つわもの)のおばさんもおるらしい。

この間抜けな姿には笑えるかも知れんが、インターフォン・キックで断られ続けるというのは、営業員にすれば辛いことなんやで。


【こだわりの新聞】


「サービスしますので、ぜひ△△新聞をお願いします」

「悪いわね。うちは○○新聞しか読まないのよ」

「こだわっておられるのですね」

「ええ、もう取り始めて20年になるわ。だから、今更、変えられないのよ」

「なんだ、そんなことですか。それでしたら、うちの○○新聞をこれから20年取ってください。そうすれば、必ず、お宅のこだわりの新聞になりますから」


これなんかも意表をついたジョークと言える。

たいていは、長期購読者というだけであきらめる拡張員が多いさかい、こんなことを言う者は、ほとんどおらんはずや。

例え食い下がっても「サービス品を増やしますので、そこを何とかお願いします」と言うくらいや。

それを、いとも簡単にさらっと「うちのも20年取って」と言われると誰でも、あっけにとられる。

ジョークというのは、そういう意表をつくところに面白味があるわけや。

もちろん、これを言うたところで、すぐには心変わりはせんやろと思う。

しかし、このジョークは客の心に残る可能性が高い。

せやから、次回行ったときは、その顔を覚えてもらっているということが十分考えられるから、かなり有利にアタックできるはずや。

拡張員は、即決を旨とすべし。という考えには、それなりの合理性もあるから否定はせんが、そればっかりでは契約本数は伸びにくいのもまた確かや。

中には、気長に接することで契約になる客も結構いとるというのも考えに入れとくべきやと思う。


【評判】


「あなたのところの新聞屋さん、嘘ばっかりで評判悪いわよ」

「と、言いますと?」

「前に契約したときなんか、後でビール券余分に持ってくると言いながら、結局何もなかったんだから」

「それは、大変失礼しました。それでは、後で、そのときの分も余分にビール券をお持ち致しますので、ご契約をお願いします」


一瞬「?」となるジョークやが、相手の顔色を窺いながら、すかさず「冗談ですよ」とその場でその分のビール券を出せば、面白いジョークを言う人というイメージを客に与えることができる。

こういう苦情を言う人には、当たり前やが、その新聞の勧誘員のイメージは良うない。

そういう人に正面から「これだけサービスをしますから」とビール券を出しても素直には受け取って貰えんということが多い。

ところが、こういう風にその場を和ませるジョークを交えられると、つい許してしまうということが往々にしてあるもんなんや。


【インターネットで十分】


「新聞記事はインターネットで見るから、新聞はいらん」

「最近、そう言われる人が増えましたが、そんなにインターネットというのは便利なものなのですか?」

「何や、あんた今どきインターネットもせえへんのかいな」

「はい、私は人を中傷するのが、あまり好きではありませんので」


これは、我ながら、なかなか風刺の利いたジョークやと思うとる。

世の中、猫も杓子もとまでは言わんが、インターネットの信望者は確実に急増しとる。

確かに、情報収集の面なんかでは便利なツールやというのは認める。

新聞についても、主な記事は、ほとんどの新聞社のWEBサイトで掲載されとるから、それで十分やと言われれば、ワシも反論のしようがない。

しかし、インターネットには危険がつきまとうという事実も一方ではある。

新聞を読んどる分には、読んどる個人が、その瞬間に誰かに特定される心配はないが、インターネットはつないでいるだけで、常にその危険にさらされとるさかいな。

多くの人は、セキュリティソフトやルーター、あるいはブロバイダーのセキュリティシステムを利用しとるから安全やと思い込んどる。

また、安全だという業者サイドのキャッチフレーズを鵜呑みにしとる。

しかし、そういったセキュリティプログラムというのは、悪質なハッカーやウイルスに対抗しとるという性格上、どうしても後手に回りやすい。

ウイルスというのは病原菌のことやが、薬やマスクでどんなに身を守っても、その菌の充満しとる所に飛び込めば病気に罹りやすいというのは誰にでも分かることやわな。

インターネットの世界というのは、正にそれやと思う。

急激に伸びてきた反面、そういったセキュリティ、安全性については、どうしても後手後手に回ると言わざるを得んわけや。

もっとも、それと疑う人は少ないがな。

しかし、その結果として、公的機関、大企業からいとも簡単にマル秘情報とやらが外部に漏洩しとるわけや。

少なくとも、それらに関しては、インターネットのなかった時代には、ほとんどなかったことやと思う。

加えて、そのインターネット上の情報の信憑性というのも、どこまで正しいか甚だ疑問やというのもある。

真偽併せて、あまりにも多くの情報がインターネット上には氾濫しとるさかいな。

それでも、その情報を入手する側が、正確に取捨選択できれば問題ないが、残念ながらそうやと言い切れる人は少ないと思う。

もっとも、それができとると思い込んどる人間は多いかも知れんがな。

さらに、昨今では『闇サイト』なるもので見ず知らずの仲間を集め犯罪を犯すという事件に代表されるように、人生を根本から狂わせる危険や罠も孕んどる。

こういうのも、インターネットのなかった時代にはあり得んかった話や。

何でもそうやが、物事には、ええ面と悪い面の両面が必ずある。

人は何かを信望しすぎると、そのええ面しか見えんようになって悪い面やそこに潜む危険が察知できんようになる。

このジョークでそれに気づくような人やと、ワシらも勧誘できる余地がまだあるんやがな。

「少なくとも新聞を読むだけですとそんな危険はありませんよ」と言うてな。

大げさに悪い面を強調して、「魔のインターネットから、あなたを救う」という論理も成り立つわけや。

まあ、強引な考え方かも知れんが、元来、営業というのは、そういうもんやと思う。

いかに、こちらの有利性をアピールできて、客を納得させることができるかが勝負の分かれ目やさかいな。

ワシが日頃から使うとる勧誘時のジョークというのは、まだまだ数限りなくあるが、今回はこのへんにしとく。

たまには、こういうのもええやろうと思うが、楽しんでもらえたやろうか。

評判次第やが、これからも時折、こういうのを織り交ぜていこうと思うとる。


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