メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第171回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 
    

発行日 2007.11.16


■悩める人々 Part5 ドアチャイムの音が怖い


ある日を境に、その日常が一変することがある。

それは、午後、2時すぎやったという。

ピンポーン。

「はーい」

主婦のアイコは、反射的にそのドアを開けてしまった。

同じマンション内に居住している、主婦仲間のチカが遊びに来たと思うたからや。

特に約束をしていたわけやないが、それが日常やった。

しかし、その期待に反し、そこには、くたびれたスーツ姿の三十代半ばに見える人相の悪い男が立っていた。

「お久しぶりです。以前、お世話になりました、ヤマイという者です」

「ヤマイさん? どちらの……」

アイコには、その名に聞き覚えもなければ、男と会った記憶もない。

「近所の新聞販売店のヤマイです」

それで、その男が新聞の勧誘員らしいということが分かった。

「新聞でしたら結構です」

アイコはそっけなくそう言うと、素早くドアを閉めようとしたが、そのヤマイと名乗った男はいつの間にか足をドアに差し込んでいた。

人一倍、臆病なたちのアイコは、それが怖くなって、思わずその足を思い切り踏んでしまった。

「痛いやおまへんか……。 何しはりますねん、奥さん」

ヤマイには、言うてるほど痛がっている様子は見えんかったという。

むしろ、平然としとるように見えた。

それが、さらにアイコの恐怖心を煽った。

「帰ってください。警察を呼びますよ!!」

アイコは、なおも必死でドアを引きながら泣きそうな声で、そう訴えた。

「ええですよ。どうぞ。こっちは、ただ名乗っただけやのに、いきなりドアで足を挟まれ、おまけに踏んづけられてねんで。ひょっとしたら、足の指が骨折しとるかも知れんな」

それまでの穏やかな口調が、脅迫まがいのものに変わった。少なくとも、アイコにはそう感じた。

「警察を呼んだら、傷害罪で逮捕されるのは、奥さん、そっちやで」

「……」

アイコのドアを持つ手が緩んだ。

「ど、どうすれば……」

「この落とし前を、と言いたいところやが、こっちも警察沙汰はうっとしいさかい、ここは、新聞の契約ということで、手を打ちまひょか」

結局、アイコは、仕方なく、現在購読しとる新聞の終了を待って、その後、1年間の契約をそのヤマイという男との間で交わした。

その契約をするということになると、そのヤマイは現金なもので、「奥さん、どうもありがとうございました」と低姿勢な言葉使いに戻っていた。

帰り際に「クーリング・オフはせんといてくださいね。そうなったら、足の怪我を訴えなあかんことになりますから」と脅すのを忘れてなかった。

こういう輩の横行も、ちょくちょく耳にすることがある。

おそらく、十中八九間違いないと思うが、このヤマイという男が履いていたの
は安全靴やった可能性が高い。

安全靴というのは、それと知らん人間が見ると普通の革靴と見分けがつきにくいが、靴の先端部分と靴底に鉄板が仕込まれとるものがそうや。

工場や工事現場などの作業で主に履くものや。実際、これを履いてたら、釘のような突起物を踏んでも、少々の物が落ちてきてもよほどでないと怪我はせんというからな。

もちろん、今回のようにドアに挟まれたくらいでは痛くもかゆくもない。

そのためか、容疑者宅に踏み込む刑事とか国税局の職員が滞納者宅を強制捜査する際にも履くことがあるという話や。

この場合も、素早くドアに足を差し込む必要があるから、必須アイテムやとい
う。

ちなみに、1987年公開の映画『マルサの女』の中で、大地康雄扮するマルサ(東京国税局査察部)の査察官が、脱税容疑者の愛人宅に踏み込む際、同じように足でドアを挟むと、その足を愛人が思いきり踏むというシーンがあった。

「あのね、これ安全靴。痛くも何ともないのよ」と大地康雄が、あの独特の笑顔でにっこりと笑い、その傍らから別の査察官が、大きめのチェーンカッターで、ドアチェーンを切断して踏み込むというものや。

監督の伊丹十三は、この映画を撮影するために徹底したエピソード集めに奔走した。その熱意に打たれた、当の国税局も積極的に協力したというのは有名な話や。

そのためか、映画に登場する当時の麻布税務署(東京国税局管内)署長室は、そっくりそのまま再現したものやという。

余談やが、この映画に登場する『満腹食堂』というのは、その地域のS紙の新聞販売店に看板を掛け替えて撮影されたものや。

ただ、これには特にそうやなかったらあかんというほどの理由もなかったというがな。

これは、映画のスーリーの中で、無人のトラックを地上げ屋が立ち退き拒否をしている食堂に突っ込ませるという設定上、たまたま、そこがちょうど、坂の下に位置していたからということらしい。

この映画の評判を聞きつけ、当時の内閣総理大臣、中曽根康弘氏も映画館に足を運んだというのも報道されていた。

ワシも、この映画が好きやった。

残念ながら、監督の伊丹十三氏が、1997年12月20日に自殺されたという報道を聞いたとき強烈なショックを受けたのを今でも覚えている。

もし、氏が今でも生きていて、新聞拡張員のことに興味を持たれていたら、面白い映画を作ってくれたのやないかと思うと、今もって残念でならん。

そのときには、ワシもハカセも協力は惜しまんかったはずやけどな。

少し話がそれたので戻す。

この映画のヒットのためか、新聞拡張員の間でも、その当時から安全靴を履いてドアに足を差し込むというのが流行りだしたらしいという噂は聞いていた。

実際に、安全靴を履いて勧誘してたという人間も何人か知っとるしな。

ただ、これは履いてみたら分かると思うが、重くて堅いということもあり、足も痛みやすく疲れも激しいから長時間使えるものやないがな。

車の中に入れておいて、ここぞという勝負の場面で履き替えて使うのやと自慢しとる者がおったと記憶しとる。

言うとくが、これを履いてドアに足を差し込むのは完全に確信犯やから罪が重いで。悪いことは言わんやめといた方がええ。

ちなみに、その他の用途として、運動靴(スニーカー)タイプのものもあるようやから、これを履いて鍛えとる運動選手や格闘競技者もおると聞く。

鉄板が仕込まれとる分、重いからちょうどええらしい。昔の鉄ゲタ代わりやな。

そして、この安全靴は、たいていのホームセンターや専門の作業服屋で売られとるから比較的簡単に手に入る。値段も手頃やしな。

いくら女のアイコやからというても、普通の靴を履いていて、足を真上から思い切り踏まれたら相当痛いはずや。

たいていは、それで怯んで足を引くから比較的、ドアは閉めやすい。

また、力任せにドアを閉めていたというから、その状態で平然としてたのは、その安全靴を履いていたからやと考えたら納得もできるしな。

そんなことがあった翌日、ドアチャイムが鳴っても出なかった。

出るのが怖かったからや。

しかし、その訪問者は、あまりにもしつこくドアチャイムを鳴らすので、誰かと思い、ドアスコープを覗き込むと、相手も同じように室内を窺おうとしていたらしく、その覗き込む眼と眼が合ってしまった。

「キャー!!」

アイコは、恐怖のあまり、思わず悲鳴を上げた。

そのドアスコープを覗いていた人間も、それに驚いて逃げたのか、恐る恐る二度目に覗いたときには、その姿はどこにもなかった。

その日を境に、アイコはドアチャイムの音がさらに怖くなって、誰が来ても出られんようになった。

アイコは、その恐怖がこうじて、ついには旦那に頼んで、そのドアチャイムの配線を切ってもらったという。

そして、一切、誰が来ても出んようになった。

確かに、昼間、女性が一人でいるというのは、ある意味、危険の伴うことかも知れんとは思う。

新聞以外でも「布団」「消化器」「浄水器」「子供の教材」「化粧品」「保険」など挙げたらキリがないほど訪問販売の営業員は多い。

宗教の勧誘も入れれば、さらにその訪問件数は増える。

いずれにしても、あまり歓迎したくない訪問者ということになる。

また、そうやなくとも本当の宅配便というのも頻繁に来る。郵便局の書留や宅配もや。

これらは、その場で応対せなあかんと考える人が多い。

そのためか、新聞の勧誘でもそうやが、営業マンの中には「宅配便です」と声をかけ、そこの住人を安心させ玄関を開けさせようとする者が後を絶たん。

サイトのQ&Aの相談にもそういうのは多いしな。

これは、それらの営業員たちが、ドアホンキックというて、ドアホン越しに断られ続けたことで、客と会うために考え出した苦肉の策ということになる。

実際、相手と会えんと営業の仕事にならんのは確かや。ワシらの訪問営業は、対面が基本や。会うて話せな物は売れんさかいな。

そこで、最も客が出やすいかけ声が「宅配便です」ということになる。「引っ越しのあいさつに来ました」というのもある。「近所の者ですが」というのもな。

それをされる方は、騙しやから堪ったもんやないとなるが、成績の悪い営業員にとっては、それこそ、ワラをもすがりたいという気持ちになってそうするわけや。

それが、ええことか悪いことかと問われたら、間違いなく悪いことやとしか言えん。

それでも、本来なら、そこまでする営業員の心情も分かってほしいと言いたいところやが、こと安全性、危険回避という観点から考えたらそう言うわけにもいかん。

宅配便を装った「殺人事件」や「強盗事件」。留守番の女性を狙った「婦女暴行事件」も実際に発生して新聞やテレビのニュースで報道されとるさかいな。

「宅配便」と言えば、無条件にドアを開けてしまうという人が多い。これは、そういう心理をついた悪質な犯罪者の手口でもあるわけや。

ワシらの新聞勧誘は、断るなり、クーリング・オフでもすればそれで済むが、こういう犯罪者には開けたら最後、か弱い女性一人ではどうにもならん場合がある。

相手は、それを調べて確認して来とるケースが多いから、よけいたちが悪い。

このように「宅配便です」という人間が来た場合、どうしたらええか。

参考までに、その対処法を言うとく。


不審な訪問者から身を守るための対処法


@無視して迂闊には開けない。これが、危険回避の観点で言えば一番確かや。その場合、宅配業者なら「不在票」というのを入れるはずやから、後でこちらから連絡を取ればええ。

A宅配が来ると予期していた場合は、「誰からどんな物が届いたのでしょうか」と、ドア越し、もしくはドアホンで聞いて確認する。

宅配業者ならちゃんと答えるやろうし、曖昧な返事やったら訪問販売の人間の可能性もある。

B相手を必ず確認する。いきなり開けるのやなく、ドアチェーンは必ずしとく。その上でドアスコープ越しに相手を確認する。

C多少金はかかるが、カメラ付きドアホンの設置も有効や。

最近では付加機能として、呼び出しボタンを押したと同時に、センサーが感知して録画を行う録画機能付きのものがあるので、これで不在時でも訪問者の履歴が確認でき、防犯カメラとしても役立てる。

ただ、安い物でも工事費込みで2万円程度はかかるし、録画もできるようなええのになると10万円程度までといろいろやから、ある程度の負担にはなるがな。

D切った配線にスイッチを取り付けるという方法もある。これやと、それほど難しい工事も必要ないし、素人でも取り付けられる。

ご主人あたりに頼べば、十分できるのやないかな。費用も100円程度のスイッチを買うだけで済む。

これやと、来訪の予定があるときだけ、そのスイッチを入れておいて、普段は切っておくこともできる。

特に、チャイムが鳴ることで恐怖心に囚われとるようなときには、せめて、それが和らぐまでは、そうしとくのも方法やと思う。

E今やと、携帯電話というのもあるから、親しい人間には、その事情を言うといて、家の前まで来たら電話して貰うというのもある。

合図だけなら、メールやワン切りという手もある。これなら、通話料の心配もいらんから、相手にも迷惑やと考えんでも済む。

F開ける場合は、ドアチェーンをしたままを心がける。宅配の荷物も半開きの状態で受け取る。よほどの大きさの荷物でない限り、それでやりとりは可能なはずや。

宅配業者を装った強盗も実際に出没しとるから、例え見た目にそれやと判断しても安心せん方がええ。

Gごく希に、無視してもしつこくドアホンを鳴らし続ける、あるいはドアを叩き続ける人間がいとるというのも聞く。

こういうのは、やはり訪問営業をしとる者に多い。その道のベテランになると、本当に留守か、居留守を使うてるかというのは、すぐ分かる。

部屋に灯りがついているか、物音がしていないか、人の気配はどうか、または電気メーターの動き具合を見て簡単に判断できるさかいな。

勧誘員側とすれば、そこの住人が、家事をしているとかトイレに入って手が離せない場合やテレビなどを見ていて呼び出しチャイムの音に気がついてないなど、出て来られないのはいろいろ理由があると知っとる。

せやから、長めに、あるいは断続的にチャイムを押したり、ドアを叩いたりするということが、ままあるということや。

これは、その勧誘のチャンスを少しでも逃がしたくないということで、そうしている場合が多く、悪気があってそうすることはあまりない。

まあ、例外的な人間もおるがな。

ただ、そんな人間でも、2、3分もすれば、たいていはあきらめて引き上げるはずや。

ワシなんかも、居留守を使われとると思えば、それも意思表示の一つやと受け取るさかいな。

H用心のために、不審者撃退用の連絡手段を講じておく。親戚縁者、友人知人が近所にいれば、助けを求めやすいように連絡先を見える所に張っておく。

マンションなどの集合住宅やと管理組合、管理人に連絡するというのも場合によれば力になる。

警察への通報は、具体的な被害と呼べるものがなかったら難しいと思う。訪問してきたというだけでヘタに通報すると、立場を悪くする場合もあるからな。

その場合は、やはり相手を確かめてからの方がええ。

その相手が訪問販売業者やったら「いりませんから帰ってください」と言う。

こう言うて居座れば、刑法第130条の不退去罪に相当する可能性があるから、警察に通報してもそれなりに通ると思うので、そうすればええ。


大体、こんなところで、ほとんどの危険は回避できるはずやが、ケースにより難しいことがあるのも、また確かや。

そういう場合は、個別にその事情を言うて、サイトのQ&Aにでも相談してくれたら回答するつもりやけどな。

その主婦のアイコから、相談のメールがあった。


新聞の契約のことで悩んでいたら、このHPを見つけました。

私は、人一倍臆病な性格で怖くてたまりません。どうか助けてください。

中略

その契約をしたのは3日前ですが、私の場合、クーリング・オフは可能でしょうか?

もしも、それで断った場合、その勧誘員の方から何か言って来ないでしょうか? 嫌がらせなど受けることはないでしょうか?

私のしたことは傷害罪になるのでしょうか?

呼び出しチャイムは切ったままですが、やはり不便です。でも、チャイムが鳴ると怖くて仕方ありません。何かいい方法はないでしょうか?

できれば、後で何かトラブルになるのが嫌なので、できるだけ穏やかに断るようにしたいと思います。

それからゲンさんへお願いですが、これはHPには載せないで頂けませんか。

まだ、解決できていない状態では怖いですし、その人が見ているということもありますので。

長くなり申し訳ございませんが、アドバイスをお願い致します。


これに対しての回答を送った。


回答者 ゲン


『その契約をしたのは3日前ですが、私の場合、クーリング・オフは可能でしょうか?』ということやが、クーリング・オフの有効期間は契約日を入れて8日間やから、そのつもりならまだ問題なくできる。

ただ、クーリング・オフは文書で通知せな、その効力はないものと法律で規定されとるというのは注意しとく。

良くある間違いに、販売店に電話した際、その販売店が「分かりました」と返事をしたことをもって、クーリング・オフできたと勘違いするというのがある。

確かに、販売店に電話で解約を申し入れるのも一つの手や。契約直後にクーリング・オフをしようと考えておられる人には、そう勧める場合もある。

「クーリング・オフで解約したいので、貰った景品を返したい」とでも言えば、たいていの販売店ならすぐ来る。

その際、持っている契約書に「解約済み」「景品返還済み」と書いて貰う。もちろん、その日付と担当者名もな。

それで初めて、契約が解除されたことになる。これで済めば、通常の文書による通知をせず、いらん金もかからんで済むさかいな。文書の通知よりカドも立たんしな。

但し、これは、あくまでも任意の契約解除ということになる。クーリング・オフでの契約解除とは別物や。契約者も販売店も、そう思い込みがちやがな。

ただ、中には「今、忙しいから後日行く」と言って、すぐには来ず日延べするような販売店もある。

こういう所やと口頭で「クーリング・オフします」と言って「分かりました」という返事があったとしても、あてにならん場合があると考えてた方が無難や。

クーリング・オフの期間が過ぎて「そんな話は聞いてない。期間がすぎたからクーリング・オフはできん」と言う販売店もあると聞くさかいな。

待っても契約日から3〜5日までを限度とし、来ない場合は、クーリング・オフ逃れの日延べを考えとるものとして、文書で通知した方が無難やということになる。

それが、本来のクーリング・オフでもあるしな。

具体的には、内容証明郵便、配達証明付きハガキ、簡易書留郵便ハガキなどがある。その詳しいことは、近くのJP(日本郵便)の窓口で聞いてほしい。

それぞれの取り扱い窓口が、10月1日からの郵便局の民営化によって変わっとる場合があるからな。

地域によれば、それらの業務を縮小していて、扱ってない所があるとも聞くしな。

『もしも、それで断った場合、その勧誘員の方から何か言って来ないでしょうか? 嫌がらせなど受けることはないでしょうか?』

通常、クーリング・オフ後に、それを翻意させるために来訪するようなこと
は法律で禁じられとるから、まずそれはないはずや。

 特定商取引に関する法律 第6条第3項に、

販売業者又は役務提供事業者は、訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約を締結させ、又は訪問販売に係る売買契約若しくは役務提供契約の申込みの撤回若しくは解除を妨げるため、人を威迫して困惑させてはならない。

とあるのがそれや。

これに違反すると、2年以下の懲役・300万以下の罰金に処する、とある。軽い罪やない。

実際、この法律で逮捕され、新聞やテレビで実名報道までされた販売店従業員のケースがあるさかいな。

たいていの販売店なら、その事件のことを知っているはずやから、それはないと思う。

『私のしたことは傷害罪になるのでしょうか?』ということやけど、心配せんでも、あんたの行為は自己防衛の正当な行為と認められる可能性が高い。

閉めようとするドアに無理矢理、足を差し入れる行為は、刑法第130条に住居侵入罪に問われかねんれっきとした犯罪や。これだけで、警察に通報することもできる。

それに、その勧誘員は、足なんか怪我しとらんと思うで。こういうことを日常的にする輩は、安全靴なんかを履いとることが多いしな。

それに、この安全靴を履いてそうするのは確信犯になるから罪という面では重くなると思う。たまたま挟まれたというのも通らんやろうしな。

帰り際に「クーリング・オフはせんといてくださいね。そうなったら、足の怪我を訴えなあかんことになりますから」と、その勧誘員が言うたのは、ただの脅しや。

本当にクーリング・オフされたら困るからこそ、そう言うたわけや。実際に、そんなことができるわけはない。

もし、それでもなお、足を怪我させられたと訴えれば、当然、その経緯を問われるわけやから、そうなれば、あんたの家に不法侵入しようとしたというのを自ら暴露することにもなるさかいな。

そんなことは、どんなアホでも分かるから絶対と言うてええほど、そういうことはないはずや。

また、ほとんどの確率で、クーリング・オフをしたからというて、その勧誘員が来ることもないやろうと思う。

『呼び出しチャイムは切ったままですが、やはり不便です。でも、チャイムが鳴ると怖くて仕方ありません。何かいい方法はないでしょうか?』

これには、いろいろ方法がある。

中略(ここに、上記の「不審な訪問者から身を守るための対処法」の説明を
した)

いずれか、あんたのええ方法を採用したらええ。

『できれば、後で何かトラブルになるのが嫌なので、できるだけ穏やかに断るようにしたいと思います』というのは、その販売店の出方次第という側面もあるから難しい場合もあると思う。

その状況次第で対応せな仕方ないやろうな。

今のあんたの精神状態やと、景品の返還なんかでその販売店の人間と対応するのも辛いやろうから、ここは、ご主人の休みの日でも、それを頼んではどうかな。

ほとんどは何事もなく終わると思うが、また何かあれば遠慮なく相談してくれたらええさかい、あまり心配せんときや。


1ヶ月ほどして、ワシらも忘れかけていた頃、アイコからメールがあった。


ゲンさん、その節はありがとうございました。お礼が遅くなりすみませんでした。

おかげさまで無事クーリング・オフができました。ゲンさんのアドバイスどおり、販売店に貰った景品を返すとき主人に立ち会ってもらいました。

そのとき、その勧誘員さんのことを伝えると、地区責任者というその方は平身低頭に謝っておられました。

それでも、私はその勧誘員の人が来るのではないかと心配しましたが、未だに何も言って来ませんので、最近は安心しています。

言い遅れましたが、主人にねだってカメラ付きドアホンを付けてもらいました。今までなかったので便利です。

それに、来た人が分かるので、チャイムが鳴ってもそれほど怖いとは思わなくなりました。

いろいろ親身になってもらって本当にありがとうございました。これからもHPやメルマガを楽しみにしたいと思います。


その後、その相談者の方の了解をもらい、このメルマガ誌上で、この話を公開することになったというわけや。

それには、これと同じ悩みを持っておられる方が他にもおられるはずやから、掲載することで、いくらかでも役立ててもらえればと考えたからや。

確かに、今回のケースは、その勧誘員の責任は大やが、それによって相談者も用心するきっかけになったとすれば、あながち悪いとばかりは言えんと思う。

ただ、こういう風に書くと、ワシらの仕事に影響するのやないかという意見もあるが、それは、ドアスコープ越し、カメラ付きドアホン越しに誠意を示せる努力をすればええことや。

堂々と「こんにちは、○○新聞販売店から来ました、○○と言います」と明るく大きめの声を出して名乗れば、結構、安心して開けて話を聞いてくれるもんやで。

もっとも、ワシらの仕事は最初から、ドアを開けて貰える確率は低いというのは覚悟しとかなあかんことやけどな。

10軒に一軒、開けて貰えて、そのうちのさらに2割程度の客から成約できたら御の字の世界なんやしな。

少なくとも「宅急便です」とウソを言うて開けさせて、嫌われていらんトラブルを抱えるより数段マシやと思う。


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