メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第175回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2007.12.14
■ゲンさんの拡張ジョーク集 Part2
前回、そこそこの反響があったさかい、気を良くして第2弾を紹介する。
但し、前回のような解説を加えるのは、どうもジョークの面白味を弱めるのやないかという批判を頂いたので、今回は、それはなしとする。
その分、多めに紹介できるしな。
もっとも、解説が必要という人には、言うてくれたら個別にそうするつもりではおるがな。
ただ、あくまでもジョークやから、あまり深くは考えといてや。
まあ、気楽に楽しんでもらえたら、それでええのやないかと思う。
【拡張員も歩けば】
新人拡張員が先輩拡張員に聞く。
「セールスの基本は、足が棒になるまで歩き続けることだと良く言われますけど、それで本当に契約を取ることができますか」
「ああ、新人のうちは皆、誰でもそうしとる」
先輩拡張員は自信をもってそう答える。
「でも、いつ、休むんです?」
【断られても】
新人拡張員が先輩拡張員に聞く。
「この仕事は、どこに行っても断られてばかりですね」
「そうやな」
「嫌になりません?」
「別に」
「こんなことが続くようだと、この業界も先がありませんね」
「アホか、断る人間が多いから、ワシらが必要なんやないか。皆が簡単に契約するようになったら、ワシらはお払い箱やで」
「あっ、そうか。それで皆さん、嫌われるように努力されているんですね」
「……」
【自信をもって】
ある大規模拡張団の朝礼で、大勢の拡張員を前にした新聞社の販売局長の訓辞。
「我が社の新聞販売部数は世界一です。つまり、世界一、売れている新聞ということです。皆さん、自信をもって当社の新聞を販売してください」
それを聞いていた拡張員、小声で一言。
「売らない新聞も世界一やろ」
【今度こそ】
粘る真面目な拡張員と客との会話。
「今度にしてくれ。そのときに考えておくから」
「でも、ご主人は前回もそう言っておられましたよ」
「そうか?」
「それでは、今度こそ、必ずお願いしますね」
真面目な拡張員は、客に嫌われたくないという思いと、その言葉を信じたいという思いで、すがるようにそう念を押す。
「分かった」
帰って行く拡張員を見送りながら、客がポツリと一言。
「今度こそ、来るなよ」
【宝の山】
ある拡張団の団長が、団員たちに激を飛ばす。
「ええか、バンク(営業エリア)には、ナンボでも金が埋まってるんやで。お前らは、毎日、その宝の山の上で仕事しとるということを忘れるな」
「ということは、販売店から渡されるバンクの地図は、その宝の地図ということですか」
一人の拡張員が団長にそう聞く。
「そうや」
「それで、分かりました。なかなか、そのお宝が見つからないわけが……」
【笑顔】
無愛想な新人拡張員が、先輩拡張員に聞く。
「どうして、オレはカード(契約)が上がらないのでしょうか」
「そら、そんな仏頂面をしてたら、客も嫌がるで。拡張は、まず笑顔が基本やさかいな」
「笑顔ですか……、苦手ですね」
「そんなことを言うてたら、この仕事は無理や。ええから、いっぺん(一度)笑うてみ」
そう言われて、無愛想な拡張員が、ニッと不気味に笑って見せた。
「……、まあ、お前の場合は、笑わん方がええかな……」
【甘い拡張】
あるビルの2階にある拡張団事務所での喝勧肯定派の拡張員と否定派の拡張員との会話。
「喝勧を止めろやと? お前みたいに甘いこと言うてたらカード(契約)なんか上がるかい!」と、喝勧肯定派の拡張員。
「でも、あんたのやり方やと団にも迷惑がかかるし、(警察に)捕まるかも知れんからリスクが大きすぎると思うがな」と応じる否定派の拡張員。
「アホ、中途半端に脅すからそういうことになるんや。徹底してやったら、警察にチク(告げ口)る奴なんかおるかい!!」
「なるほど、脅された客の身内も、どうやらそのつもりのようやな」
そう言うと、否定派の拡張員は窓から外を指さした。
見ると、5台の黒塗りのベンツが、ビルに横付けされ、柄の悪そうな連中がぞろぞろと降りてきた。
【心の扉】
うだつの上がらない拡張員が、できる拡張員に聞く。
「オレは、毎日、真面目に根気よく叩いて(訪問)いるのに、何で、あんたのように契約が上がらんのか不思議なんや」
「別に不思議はないやろ?」と、できる拡張員が答える。
「どういうことや?」
「あんたは、客の家の扉をただ叩くだけやけど、ワシは客の心の扉を叩いとるさかいな」
【聞き上手】
仕事に悩む拡張員が、できる拡張員に聞く。
「オレは、話し下手ではないつもりなんやけど、何で上手くいかんのやろ?」
「営業は、一方的に話すだけやとあかんで。客の言うことを聞くのも大事や」
「オレもそれは分かってるつもりやから、ちゃんと聞いとるんやけどな」
「それやったら、問題ないやろ?」
「それが、客はいつも決まって『もう帰ってくれ』と言うんや。それで『分かりました』と」
「……」
【あと一軒の執念】
販売店にパンク(契約ゼロ)して帰ってきた拡張員に、班長が叱責する。
「お前には、あと一軒という執念が欠けとんねや」
「すみません」
「ええか、人間はな、あきらめたらそれで終わりや。あきらめずに、もう一軒と考えとれば、必ず報われるもんなんやで」
「分かりました。それで、その最後の一軒のためのハンコは、どこで売ってます?」
【初心忘るべからず】
いつも成績の悪い拡張員に、班長が諭(さと)していた。
「お前も初めて契約を上げたときがあったやろ? そのときの気持ちを覚えとるか?」
「はい、覚えています」
「どうやった?」
「うれしかったです」
「そうやろ。そのときの気持ちを忘れんかったら、カードも上がるはずや」
「僕もそう思います。ですから、班長、カードを一本、お願いします」
「何や、それ?」
「初めてのカードは、班長から戴きましたので」
【断られるのも財産のうち】
ある拡張団団長の朝礼での訓辞。
「ええか、この仕事は、断られてナンボの仕事や。断られる数が多ければ多いほどカードの本数は伸びるもんや。それだけ、真面目に仕事をしとるという証やさかいな」
さらに団長は続ける。
「野球に例えれば、名を残したホームランバッターの多くが、三振の数も多いというのと同じやと思えばええ」
「なるほど」
新人の拡張員は、その言葉を真に受けた。
「うちは新聞なんかいらんで」
「そうですか、どうもありがとうございました。これで私の成績も上がります」と言って、その新人拡張員は、喜んでその客と別れた。
「何や? あの拡張員……」
【助けると思って】
泣き勧の得意な拡張員が、勧誘を断る客に言う。
「このまま、帰ったら、私はクビになるかも知れません。どうか助けると思って、契約してください」
「何で、私が、見ず知らずのあなたを助けなければならないんです?」
「私は、この仕事をなくしたら首を吊るしかありません」
「そんなことは、私には関係ないでしょ」
「お宅の庭の木で、吊っても?」
【金券廃止なんて】
「お客さん、申し訳ありませんが、これからはビール券などの金券では契約が取れないことになったんです」
と言いながら、その拡張員がカタログギフトのパンフレットを差し出した。
「何だそれ?」
「その中から商品を選んで頂くしかありませんので」
渡されたパンフレットをペラペラとめくり終えた客が言った。
「米にタラコだと? ウメボシもあるじゃねぇか。ふざけてやしねぇか」
「上からの達しなんで……、実際、それで私らも弱っているんですよ。誰も契約してくれなくて……」
「なんだ、それだったら簡単なことじゃねぇか」
「と、言いますと?」
「それを貰って契約したことにすればいいんだろ? 契約した後、その品物をお宅がオレから買い取ったらいいだけの話じゃねぇか」
「なるほど、その品物を現金かビール券で買うということですか。パチンコ屋と同じ理屈ですね」
「そうだ」
「でも、商品と引き替えするには、到着までに日数がかかりますよ」
「そのくらいは信用して待つよ」
それで、めでたく契約が成立した。
ただ、この客は、拡張員が、一旦、契約を終えてしまうと、すべてを忘れてしまうという特性があることに気づいていなかった。
【どっちが悪い?】
あるインターネット・カフェで暇つぶしに、ネットの掲示板サイトを見ていた拡張員が、ほやいた。
「拡張員は低脳、ゴロツキ、ダメ人間、もう来るなとか、好き放題のことを書いてくさる。ほんま、腹の立つガキらやで」
「まあ、そういうのは、直接、ワシらに何も言えんような若い連中のやっとることや。負け犬の遠吠えと思うて聞き流せや」
仲間の拡張員がそうなだめる。
「まあな。こんなことを書く奴がおるから、これから叩く(訪問)若い者が泣くことになるんやけどな」
【学歴詐称】
根性のある学生が、いかにもという雰囲気の年配の拡張員に、挑みかかるように聞いた。
「おじさんの出身大学はどこですか?」
どうせ、まともな大学なんか出てないはずやと考えての質問やろうが、この拡張員にとっては愚問やった。
「K大。つまり、お前の先輩や」と、当然のようにそう答えた。
この拡張員にとっての出身大学は、常に拡張しとる地域のそれやさかいな。
「失礼しました。先輩は、何期生で?」
「第一期生や。大先輩やで」
「へぇー、そうなんですか? でも、とても100歳を超えられた、ご老人には見えませんが」
「せやろ。皆から、あんたは歳のわりに若いなて、良う言われるんや」
【けもの道】
ある温厚な拡張員が、喝勧の帝王と異名を取る拡張員に諭すように話していた。
「トラにはトラの道があり、キツネにはキツネの道、そして、ウサギにはウサギの通る道がある。そういった、生き物すべてに、けもの道というのがあるわ
けや」
「一体、何が言いたいんや、お前は?」
「つまり、あんたがなりたいものによって、その生きる道が決まるということや」
「なるほど。すると、オレは堂々としとるから、例えたらトラやな」
「そうやな、問答無用で人に襲いかかるところなんかは、そのとおりや」
「アホ、そのくらいの気概と迫力がなかったら、こんな仕事、やっていけるかい!!」
「しかし、トラは必ず檻に入れられるけどな」
【間抜けな拡張員】
この道、30年というベテラン拡張員が、新米拡張員たちに自慢げに豪語していた。
「この拡張のことなら何でも聞いて来い。教えたる。ワシの知らんことは何もないさかいな」
「先輩、質問があります」
「何や?」
「ある拡張員の人と契約する約束をしていたというお客から、契約を貰ったのですが、これは、やはりその拡張員の人に返さないといけませんか」
「そんな必要はない。契約は、貰うてナンボやさかい、貰うた者のもんや。そんな間抜けな拡張員に気を遣わんでもええ」
「そうですか。ご本人に、そう言って頂ければ助かります」
どうやったかな。楽しんでもらえたやろか。
まだまだ、拡張のジョークというのはキリがないほど多いけど、今回は、このへんにしとく。また、次回のお楽しみということにしといて。
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