メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第188回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日 2008.3.14


■ゲンさんの話し方教室 その3 雑談の切り出し方について


このメルマガやサイトを良く見て頂いている販売関係者の方で、営業に雑談が必要やと理解されておられる人は多いと思う。

ただ、そうと分かっていても具体的に、どのようにして、その雑談に持っていけばええのかとなると、なかなか難しい問題のようや。

サイトにこんなメールが届いた。


はじめまして、ゲンさん、ハカセさん。

私は関東で某新聞のセールスをしている者です。

いつも、Q&Aやメルマガを楽しく拝見して勉強させてもらってます。

今日は、お尋ねしたいことがあってメールしました。

ゲンさんの仰る通りセールスで雑談が必要だというのはよくわかるのですが、どのようにしてお客様と雑談話にもっていけばいいのか私にはわかりません。

私はインターフォンでは最初に某新聞社の人間と名乗りますので、ドアを開けてもらっても勧誘の話しかできません。

それで、すぐに断られることが多いのですが、一体、何時、お客様と雑談を交せばいいのか私にはわかりません。

きっかけやチャンスさえあれば私でもなんとかなると思うのですが・・・

よろしければ、ゲンさんはどのようにお客様と雑談をされ契約を揚げておられるのか教えていただけないでしょうか?

よろしくお願いいたします。


本来なら、これはサイトのQ&Aで回答すべきところやけど、現在、ちょうど、「ゲンさんの話し方教室」と題したものをやっているということもあり、このメルマガで取り上げることにしたわけや。

もちろん、この方には、すぐ回答を送ったけどな。

先にそれを紹介する。


回答者 ゲン


『どのようにしてお客様と雑談話にもっていけばいいのか』ということやけど、あまり難しく考える必要はないと思う。

所詮、雑談は雑談やねんから「さあ、今から雑談するで!」と気合いを入れてするほどのもんやない。

そんなことをすれば誰でも緊張するから、よけいその言葉が出んようになるわな。

雑談の目的は、あくまでもその客とうち解け、心やすくなるためにするものやさかいな。

何でもそうやが、難しく考えれば、どんなことでも難しくなるもんや。

雑談のきっかけなんか、どんなことからでも始められる。少なくともワシは常にそう考えとる。

もっとも、最低限度、対面して話せる状態やないと難しいのは確かやけどな。

「こんにちは。○○新聞から来ましたゲンと言います」と、インターフォンで呼びかけても「新聞の勧誘でしたら結構です」という一方通行の返答で切られたら、とりつく島がない。

これでは、どうしようもないわな。

これが、同じ「新聞の勧誘でしたら結構です」という返事だったとしても、ドアを開けて対面してのものなら話をつなぐことはできる。

このときの客の対応、雰囲気次第で雑談に向けたトークにもっていけるはずやと思う。

ワシが普段やっているトークのうちから幾つか教える。

ケースその1

「新聞の勧誘でしたら結構です」

「はい、分かりました。早々に退散しますので。ところで、私はここいらに来るのは初めてですが、この辺りには新聞の勧誘員はよく来ますか?」

「多いわよ」

「タチの悪いのが多い?」

「ええ」

「そうですか、それはどうも申し訳ありません。同業者として恥ずかしい限りですわ。実は私らもそういう連中には、ほとほと手を焼いてますんで……」と、いくつかの見聞きした事例の話をする。

このとき、この客と同じ目線に立って話すというのがポイントや。

そうすれば、本来、不利となることでも他人事のように話せ、雑談に持ち込めるさかいな。

ケースその2

「新聞の勧誘でしたら結構です」

「はい、分かりました。早々に退散しますので。それにしても、この最近の寒さ(暑さ)は一体何なんでしょうね。どう思われます?」

「さあ……」

「私は地球温暖化に原因があるんじゃないかと思うんですが……」と続ける。

この天候話は結構効果的やし、使い道は多い。

単に「それにしてもよく冷え(暑い)ますね」だけでも、客に寄れば話をつなぐことはできる。

梅雨時や秋の長雨時なんかやと「よく雨が降りますね。こういう日は、私らの商売はあがったりですわ」となる。

このとき「大変ね」という言葉が返ってくるようやったら、雑談くらいは気楽に応じて貰えるはずや。

ケースその3

「新聞の勧誘でしたら結構です」

「はい、分かりました。早々に退散しますので。ところで、お庭のお花、よくお手入れされていますね」

「そうかしら」

「特にパンジーのお花などはお手入れが大変でしょう?」

花以外やと盆栽などでも、このトークは可能や。

「興味がおあり?」

「ええ、少しだけですが」

そして、これは客次第では聞くだけに徹すればええという場合が多い。

誰でも自分の趣味を褒められるのは悪い気はせんさかい、こちらが黙っていても客の方で話し出すケースもそれほど珍しいことやない。

これは、犬や猫などのペットについても応用が利く。覚えておいて損のない方法やと思う。

その客が自慢する毎に「へえー、そうなんですか」と相づちを入れるだけで十分な場合が多いさかい、ある意味、楽や。

ただ、その話題について突っ込んだ雑談にもっていくのなら、そのことに浅くてもええから多少の知識は仕入れとかなあかんがな。

ケースその4

このメルマガの『第13回 ■ゲンさんの勧誘実践Part 1 雑談から』中でも言うたが、拡張の営業はインターフォンを押しての叩き(訪問)だけやなく、外にいる人に呼びかけるのでもOKや。

この場合は、家の前で洗車している人に声をかけた。

「ご主人、精が出ますね」

「どちらさん?」

「○○新聞の新聞屋です」

「うちは△△新聞と決めとるから」

「そうですか、それは残念ですね。ところで……」

インターフォンでの呼び出しと違うて、外で洗車している人に話しかける分には、すぐに引っ込まれるという心配はないから、慌てずにゆっくりと話しかければええ。

このときは、映画の話題を持ち出したが、雑学でも何でもええから「へぇー」と言うような話ができれば合格や。

まあ、あんたも『きっかけやチャンスさえあれば、私でもなんとかなると思うのですが』と言うておられるくらいやから、その程度は問題ないのと違うかな。

ケースその5

「新聞の勧誘でしたら結構です」

「はい、分かりました。早々に退散しますので。ところで、お宅のお子さん、小学生?」

その家の様子をよく観察していれば、小学生くらいの子供のいる家かどうかくらいは、すぐ分かるはずや。

「そうですけど」

「いえね、私どもの販売店では、子供たちの下校時、地域の巡回パトロールをしていますので」

これは、実際に多いはずや。

一時期、下校時の小学生を狙う事件が多発したが、最近はそういう報道が少なくなったと思う。

それには、新聞販売店などが地域の安全パトロールをしとるということも理由の一つとしてあるのやないかと密かに考えとる。

もちろん、それは新聞拡張団にも言えることや。

それについては、もう2年以上も前になるが、このメルマガ『第70回 ■くり返される悲劇!!広島小1女児殺害事件の現場では……』の後半部分で呼びかけたことがある。

『子供たちが下校する通学時間帯に、その通学コース周辺で子供たちを見守りながら勧誘するというのを考えてみてほしいと思う』と。

さらに『どこまで効果があるのかは分からんが、それでも本当に、犯罪を実行しようという人間は、周りを注意するやろから、ワシらみたいなのがうろついとれば、どうしてもそれは躊躇するはずや。

ライオンが近くにおると知って、ウサギを狙うキツネもおらんやろ。それだけでも、抑止力ということで言えばええのやないかな。

ただ、そうしたからというて、誰からもその行為は、認められんやろけどな。しかし、本来、誰かを見守るというのはそういうもんやと思う。

人に褒められようとしてするもんと違うさかいにな。それでもええと賛同する人間のおることを期待する』と続けた。

すると、嬉しいことに、その後、それを実践したい、またしているという多くの関係者の方からのメールを頂いた。

それが、現在の子供らへ向けられた犯罪が下火になっている一因になっているのなら、こんな喜ばしいことはないんやけどな。

せやから、ワシはこれを客に話すときは、単に雑談というより多少、熱を帯びて力説することがある。

「そんなわけで、私ら勧誘員も少しは世の中の役に立っているのやないかと思っているのですよ」と。

ケースその6

「新聞の勧誘でしたら結構です」

「はい、分かりました。早々に退散しますので。ところで、いい臭いがしますね。これは?」

たいていの家では、玄関口の臭いには気を遣っていることが多いから、このトークは結構生きる。相手が主婦なら尚更や。

「それ○○なんですよ」と客が消臭剤のメーカーを言った場合、すかさず「この臭い、私は好きなんですよ」と間髪入れずに言うわけや。

それだけで、かなりの好印象を与えられると思う。誰しも、気を遣っていることに関して褒められたら悪い気はせんさかいな。

少なくとも、後の話がしやすい雰囲気にはなるはずや。

他に玄関口だけでも、下駄箱の上の花瓶やその中の花、置物、壁掛けの絵などのように、その対象はいくらでもある。

玄関口は、その家の顔でたいていの人は気を使う場所やさかいな。

そこにあるものを、さりげなく褒めるという癖をつけといて損はないと思う。

雑談のきっかけは、そういうさりげなさにあると知ってほしい。

大体、こんなところやが、分かって貰えたかな。

最後に、この雑談というものは、相手の興味を惹くような話題でするということが肝心やと言うとく。

そのためのネタは、できれば新聞からの方がええな。ワシは、主にベタ記事からそれを探すようにしとる。

ベタ記事というのは、紙面の最下位にケイ線で仕切られた記事のことや。広告の上あたりにある下段の小さな記事のことを指す。

ベタというのは、ありきたりという意味の隠語で、特殊性やスクープ性が少ないということを意味しとる。

しかし、そうは言うても、ここには面白いネタが結構多い。

その一例として、ある全国紙のベタ記事に、大阪の民家で縁側の床に使われていた板が、約2000年前の弥生時代中期に使用されていた木管の一部だったことが分った、というのがあった。

専門家によると「これほど保存状態の良い木管は初めて見た。貴重な史料だ」ということらしい。
 
この木管は所有者の父親が1955年頃、近くの畑で見つけて持ち帰り縁側の板に利用し、1989年に家を解体してからは軒下に立て掛けていたものが2001年に見つかったということや。

この記事自体でも面白いが、これに「それにしても、床板として35年ほど使い続けた上に、10年以上軒下に立て掛けていただけなのに『これほど保存状態の良い木管は初めて見た』と言われる専門家の先生のコメントは何なんでしょうかね」と言えば、相手もその話題に乗りやすくなる。

興味をそそる人には格好のネタになるのは間違いないと思う。

ただ、こういうのは、自分だけが面白いと思うてもあかんで。相手がそう思わんことには、どんなネタでも生きたものにはならんさかいな。

常に、相手を良く観察し、その立場に自分の身を置いて考える癖をつけることや。

そうすれば、どのような話題が、その人に向いているか、また面白がるかというのも自ずと分かってくるはずやと思うがな。


以上が、その回答や。

今回、この雑談について取り上げたのは、このメルマガ『第180回 ■『特定商取引に関する法律』の改正への動きについて』で話したことが、いよいよ現実味を帯びてきたということと関係があるからや。

去る、3月7日に『特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律案について』(参考資料参照)が閣議決定し、第169回通常国会に提出されることになった。

これは、今までの慣例として、それほどさしたる審議もなく立法化されるものと思われる。

趣旨として、一般消費者を守るという大義名分があるさかいな。

それには、近年、高齢者などへの訪問販売などによる執拗な勧誘を断り切れないまま大量に購入契約を結ばされたという被害事例が目立っているということが大きい。

また、インターネット通信販売などの新しい分野においては、返品を巡ってのトラブルや、不当請求の手段となる迷惑広告メールの問題、クレジットカード情報の漏えいなど、多くの消費者被害が発生している。
 
このような状況に対処するため、規制の抜け穴の解消、訪問販売規制、クレジット規制、インターネット取引等の規制の強化などを内容とする改正になっとるということや。

これに関しては、いくら野党でも反対することはできんやろうと思う。

つまり、この段階で法律改正案が可決され、施行されるのは時間の問題になったということを意味する。

この中に、ワシらの訪問営業に大きく関係する『勧誘の意志を受ける確認義務』というのがある。

早い話が「あなたは、新聞の勧誘を受けるつもりがありますか」と、最初に断ってからでないと勧誘したらあかんということになるわけや。

ただでさえ、即刻、断られることの多いワシらの営業で、それを義務付けられるのは、あまりにもきついと言える。

それを回避するためにも、この雑談のテクニックが必要になるのやないかと思う。

その意味もあって、先の回答でのケース毎の対話に「新聞の勧誘でしたら結構です」「はい、分かりました。早々に退散しますので」というフレーズを入れて解説しとるわけや。

その後、勧誘で粘るのなら、この法律に抵触するかも知れんが、雑談ということであれば、それには当たらんやろうと考えるさかいな。

いくらなんでも雑談や世間話をするのを法律で規制することはできんやろうからな。

もっとも、その雑談が、その相手に受け入れられなければ、即刻「帰ってくれ」とはなるやろうがな。

雑談は、相手の心を解きほぐし、人間関係を構築するために使われて初めてその効果が得られるものや。

もちろん、言うほど簡単なことやないが、これからの新聞営業は、雑談などを用いながら人間関係を作り、良くするということに主眼を置かんとやっていくのは難しいのやないかと思う。

少なくとも、旧態依然とした今までの「取ったれや」「サービスしまっせ」という勧誘ではあかん。

それが通用する時代は終わったと考えてた方がええ。

相手の心に訴えかけて納得して買って貰う。

それが、営業の本来、あるべき姿やと考えるがな。

そのためには、どれだけ客のことを考え思いやり説得できるかということになる。

少なくとも自分本位の考え方しかできん者には、とてもやないが、これからの訪問営業は無理やと言うしかないと思う。


参考資料

経済産業省報道発表資料概要
特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律案について
http://www.meti.go.jp/press/20080307003/20080307003.html


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