メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第19回 新聞拡張員ゲンさんの裏話

発行日 2004.12.17


■宅配パニック  


新聞販売所及び配達員にすれば、新聞の購読契約で避けて欲しい購読開始日と いうのがある。 ところが、その避けて欲しい月日からの新規新聞購読が比較的多くなるのがこの業界や。

その日とは、一月一日、つまり、元旦からや。何でこの日を避けて欲しいのかというと、この元旦の配達が半端やないからや。特に、配達人はそう思う。

台風や大地震なんかの自然災害による配達のパニック等を除いたら、一年で一 番過酷な配達日になる。しかも、この日は確実に来る。今年も後2週間でその日が来る。

普通、新聞配達はその地域にもよるが、大体一人200部前後くらい配る。この元旦の新聞は、誰でも知っての通り、異常に分厚い。

一軒づつに配られるその新聞は、えらく分厚いなの感想で終わりやが、配る方は堪ったもんやない。 ワシは代配をしてた頃、この元旦の配達には必ず駆り出されていたから、その苦労は良う分かる。

この元旦の新聞が分厚いのは、増ページという広告主体の別新聞が、正月用の膨大な折り込み広告と重なるからや。

せやから、この日は新聞配達というより広告配りみたいなもんや。それも、その量が半端やないと言うたが、多い所では普通の朝刊の5,6倍の厚みになる。

配達員は、普段、200部くらいやと一度に積み込み配る。所用時間は2時間 前後というのが平均的や。 それが、この日は、50部も積めば満載になる。当然、何度も往復して配ると いうことになる。

この日は、他の日より配送の新聞の到着が多少早いが、それでも、いつもの終了時間に終わることはまずない。

せやから、大抵の販売所では置き紙というのをやる。配達員の配達順路にその50部位を束ねて別働隊が車で置いて廻る。ワシはこの仕事に駆り出されていた。

これは、思うほど簡単な仕事やない。置く場所は慎重に選ばなあかん。道端に投げ置きするわけにもいかんからな。

配達員の人数にもよるが、その置く場所も相当数になる。例えば、10人の配 達員のおる店やと40〜50カ所程度になるし、その一カ所でも遅れることは出来ん。遅れたら、置き紙の意味がないからな。

まあ、大抵は遠距離の範囲を配る配達員中心にはなるから、その数も多少減るがな。近場なら、ピストンでも何とかなるということでな。

しかし、いずれにしても、この日は配達所にとっては戦争状態になる。加えて、その日が雨や大雪やと目も当てられん。

その場合は、一部づつビニール袋に入れる。ビニール袋の新聞は重ねたらすぐ滑る。一度に配る数も減る。大抵の販売所は、このビニールに収束する機械は 一つくらいしかないから、それだけでも大変や。

年の替わりということで、この日からの購読契約をする客が結構いとる。普段 の日でも、新規客には気を使う。初日から遅れとったら洒落にならんからな。

それが、この糞忙しい時に重なるのは勘弁してくれとなるわけや。それが、新聞契約で避けて欲しい購読開始日ということや。

しかし、その契約を取る拡張員はそんなことはまず考えん。ワシは一応考える が、大抵は客の意向で決まる。 まさか、元旦の配達が大変やから、配達開始日をずらせてくれとも言えんしな。

誰でもその月の頭からにするし、年度の初めからならまずそうする。特に、日本人はこのキリのええということに拘る人間が多いからな。

おまけに、この12月だけは、普段、仕事をあまりせん連中でも、そこそこ気張る。 理由はいろいろやけど、団から尻を叩かれるだけやなしに、やはり他の月よりプレミヤとか奨励金の金額が高いのと、正月前に少しでも稼ぎたいというのが あるからや。

拡張員の契約に即入と言うて、購読開始日が翌月の1日からやと余分に即金が貰える。6ヶ月契約以上で1000円ほどやけど、余録やから悪くはない。

せやから、そういうもろもろの条件が重なり、元旦からの購読客が増えるとい うことや。まあ、そうは言うても、それが新聞屋の仕事なんやから、ちゃんとやらなしゃ あないけどな。

拡張員の方も、契約を取るのは仕事やから、大いに結構やが、この時期の即入 にテンプラだけはあかんで。

元旦の新聞が配られて来たら、せめて、読む方もそういう苦労があるんやということは分かってやって欲しい。

ワシは今は、そういう代配もしてへんから、その一員に加わることもないが、 毎年、感謝を持ってその新聞を読むことにしとる。 どんなことにでもそうやけど、人間感謝するというのは大事や。

相手の気持ち だけやなく、感謝する人間自体が清々しい気分になれるからな。


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