メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第23回 新聞拡張員ゲンさんの裏話

発行日 2005. 1.14


■取材で分かる新聞の良さ


メルマガの読者からこんなメールが送られて来た。


私は用事があり12/19-27の予定でプーケットへ行くことになりました。ご存知の通り、プーケットでも津波は発生しました。たまたま海岸にいた私は、来る津波の写真を携帯電話でとった後、あわてて逃げました。

(中略、この後、この読者の方は、かなり詳しく津波の状況や遭遇された体験などを語ってくれとる。詳しく知りたい人は、このバックナンバーのみに投稿者の方から許可された情報を巻末に掲載してるので、そちらを見て頂ければ分かる)

滞在中、帰国後と各新聞社やテレビの取材などを受けました。中でも、Y紙の取材は科学部の優秀な方が取材に来てくださったこともあり、私の一番言いたいことを最も正確に書いてくださいました。

直接記者の方と会った上で自分の記事が、新聞にきちんと書いてもらえると新聞に対する愛着もひとしおです。

ゲンさんは前回のメルマガで無料の新聞が現在の新聞にとってかわることを心配していらっしゃるようですが、津波のような専門的な知識の要ることをポイントを押さえて記述できる記者は、無料の新聞にどれくらいいるでしょうか?

Y新聞の科学に関する記事が、無料の新聞にどの程度期待できるでしょうか?

これからも普通の新聞が続いていって欲しいと思っております。


ワシは正直言うて、今まで、この人のような認識で、新聞記者と接したことはない。

それには、こういう大事件の取材を受けたこともないというのもあるがな。それでも、過去に一度だけ、新聞記者から取材らしきものを受けたことはある。

もう10年近くも昔の話になるが、あるヤクザの撃った流れ弾に当たりそうになった時やった。その新聞記者はA新聞やて言うてた。

ワシはその頃、A新聞の拡張員をしてた。せやから、その記者にはA新聞の人間が撃たれそうになったんやから、ちゃんと書いたってやと念押した。

しかし、結果は、その事件自体は報道されてたが、ワシのことはどこにも出てなかった。

無傷やったということもあるのかも知れんが、ワシが拡張員やったからやないのかと今でもひがみ半分にそう思うてる。

その話の詳しいことは『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第6話 危険な古紙回収』に書いてあるから興味があれば見て貰うたら分かる。

また、去年のことやが、サイトの読者からの投稿で、ある新聞報道の末、本人のみならず家族の生活まで狂わされたという事例を耳にしてたから、新聞記者の報道にある種の疑問のようなものも持ってた。

それでも、ワシの持論でもある、どの世界にも、ましな人間とそうでもない者がおるというのは分かっとるつもりやけどな。

せやから、この人と出会った新聞記者は、そのましな人間のひとりなんやと思う。その意味で言えば、この人は運が良かったとも言える。

人は、その出会いの善し悪しによって、相手の職業の善し悪しまで決めることが多い。

その典型的なのがワシら拡張員や。そのろくでもない奴と出会うた者は、間違いなく拡張員の存在そのものを忌み嫌う。拡張員全体を悪く思うわけや。

ワシは、中にはましな新聞記者もいとるとは思うてたが、現実には、そういう人間は知らなんだから、この人のメールで、少しは安心した。

そして、新聞は、いざと言うか、こういう時には、やはり存在感を示すものやというのも再認識した。

それは、ある程度、去年の新潟中越地震での被災地への新聞配達でも分かってたことやけどな。

確かに、この人の『専門的な知識の要ることをポイントを押さえて記述できる記者は、無料の新聞にどれくらいいるでしょうか?』と言う通り、現状の新聞社の組織力、情報収集力には、無料新聞ではまだ到底及びもつかんやろと思う。

この人はこれで完全にその新聞の読者になった。このメルマガを見てる人の中にも共感する読者もおるかも知れん。

そう考えれば、新聞記者の存在は重要やと思う。新聞記者は単に記事を書くだけやあかんというのが分かる。

おそらく、この記者は、仕事の能力以上に取材相手への気遣いに長けていたのやと思う。書くことの前に、その取材のあり方もそういう意味では大切や。

相手への気遣いの重要性ということは、営業の最前線にいとるワシら拡張員にも言えることやけどな。

営業員は拡張員も含め、その売り込む商品の顔や。客の多くは、その営業員を通してしかそれが分からん。ええ顔しとかんと、ええもんでもええようには見えんと言うことや。

拡張員のように評判や風聞が悪い存在は、印象が悪かったら、やはりなで終いや。この悪い印象を払拭するというのは簡単なことやない。

もっとも、悪い印象が多いということが必ずしもマイナスばかりとは限らんけどな。

悪い人間の多いと思われとる拡張員やが、その分、ちょっとだけ、ましなことを言うか、そう思うて貰えるだけで評価は格段に上がることがある。

「へぇー、あんたみたいな人もいてるんや」と思われたら、結構、得する事も多い。少なくとも、ワシはそう考えて仕事するようにしてるつもりやし、現実にそう言われることもある。

考え方一つで状況が好転することもあるということや。もっとも、その根底には相手を思いやることの出来る人間性が必要やけどな。

メールを送ってくれた読者が、その記者に惹かれたのも、そういう人間性やったはずや。

この人は記事の正確さと取材能力を言及しとるが、それだけのことでは、このメルマガにわざわざ投稿してなかったと思う。

普通は、こういう大事件というか大災害に巻き込まれたら、そのことのみをどうしても強調するもんや。

ワシなら、人に話すときはそうすると思う。えらい目に遭うて大変やったんやで、とな。

もちろん、この人もある程度はそうしてる。一歩、間違えば死んでたんやからな。一時、この人は行方不明になられたとかで、同行者がこの人の死体を連れ帰らなあかんとまで思うたというからな。

しかし、この人はそのことよりも、その新聞記者のことが心に残り、新聞の重要性に気が付いた。そして、それをアピールする場にこのメルマガを選んだ。

丁度、前回のメルマガで無料新聞のことを取り上げ、新聞危機説を煽る内容になっとったからよけいに、このことで新聞の重要性を言いたかっんやと思う。

この人が意識してたかどうかは分からんが、その裏には、間違いなく、この記者の人間性に惹かれてたからやとワシは思う。

ワシが今回、このことで何を言いたいのかというと、人の心を揺さぶるのは人やと言うことや。

そういう記者がおる限り、ワシも当面の間は新聞の未来も大丈夫かなと思う。もちろん、楽観は出来んがな。


特別寄稿

寄稿者 振る丹さん

ハカセ様:

長い間、同じホームページに掲載されると困ると言う話をしてしまいましたが、「メールマガジン・新聞拡張員ゲンさんの裏話・バックナンバー」のところでしたら、あまり目立ちませんのでプーケットの内容を長期間掲載されても大丈夫です。どうもお騒がせしました。


ご存知の通り、プーケットでも津波は発生しました。

たまたま海岸にいた私は、大して高さは高くありませんでしたが、来る津波の写真を携帯電話でとった後、あわてて逃げました。

海水面が数分かけて4mくらい上昇した後に、80cmくらいの津波が来たのをみた私は、「津波がgraduallyに(次第に)来たよ」とつぶやきました。

すると、津波が急に来るものだと思っていた方から、「おまえgraduallyの意味わかっている?」と怒られてしまいました。では急に来たのかなあ…と私も思い込んでしまいました。

2時間後、ホテルにM紙から取材の電話がかかってきました。

「とにかく、情報が入らなくて困っているんですよ。」

「波の高さはどれくらいですか?」

(4m上昇+80cmの波…、急に来たのかなあと思って緊張してしまい)「5m以上あったようです」

「ホテルに3組で10人くらいの日本人が泊まっているのだそうですが、何人いますか?」

そのとき、自分を入れて2組、5人の日本人にしか会っていなかった。フロントの人を入れても6人。あと一組の人数がわかりませんでした。

「10人もはいないと思っています。よくわからないですが、9人くらいということにしていてください(ほとんどかわってない!)。」

「ホテルに被害はありましたか?レストランでガラスが割れて被害があったりしませんでしたか?けが人はいましたか?」

「ビーチとプールはやられたものの、ここ(フロントから)は見える範囲では被害がありません。2階の部屋は大丈夫で、1階の部屋をチェックしに行く従業員の姿がありました。」

実際にはプールのほか、1階のレストランの1つと1階の客室14室が使用不能になったそうです。

2005年1月8日現在で、ホテルのHP上で、minor damage, fully operationということなので、おそらく全面的に復旧しているのだろうと推測しております。

翌朝にほぼ予定通り成田に着き、T○Sの取材で、波はたいしたことがありませんでしたが海水面の変動が5mあった件を説明したが、時すでに遅く、その朝のM紙の三面記事に「5mの"壁"」との記述が全国版に私の名前入りで掲載…。

申し訳ございませんが、もうどうにもなりません。被害の状況を詳しく調査できなかったこと、津波をみてなかなか落ち着いていられなかったことが誤報を招いてしまいました。

ゲンさんは事実を正しく把握するために、様々な場面でメモを取っていらっしゃるようですが、私ももっとこまめにメモを取るべきでした。

それから2日後に、ブロック紙のK紙とY紙(仙台版)に私の撮影した写真が掲載されましたが、記事にまた誤りが出てしまいました。

K紙の方には私が「押し波」という表現を使ったことで誤解を招きやすい文章になってしまいました。

Y紙の取材は科学部の優秀な方が取材に来てくださったこともあり、私の一番言いたいことを最も正確に書いてくださいました。

しかし、携帯電話の時計の時刻が20-60秒遅れていたことを伝えないまま写真の時刻が秒単位で伝えたため、それが秒単位で掲載され、誤報となってしまいました。(ただし、掲載された2枚の写真の差が19秒間で、この間に80cm海水面が上昇したことは間違いない。)

ちなみに、掲載されたY新聞が私のところに2部郵送で届きました。さらに、年が明けてから私の携帯電話で撮った写真に掲載料が出ることになり、予想していた金額の10倍程度でしたのでびっくりしました。これでY紙が3ヶ月購読できます。

あほな情報をドンドン出す私に対し、一番正確な記事を書いてくれたY紙の記者と、お金まで出してくれたY紙の対応に感謝しています。

情報は正確に伝えるべきであり、そのためにはメモをとるのが重要です。ゲンさんのHPを読んで私はそう思いました。

事件などに遭遇した場合、新聞記者の方々の要求に合う写真をとることができれば、それが携帯電話(今回解像度640*480でしたがこれは最低限で、なるべくメガピクセル以上のものがよい)であってもお金になる場合があります。

携帯で動画をとっても今のところ普通はテレビに出せるほどの解像度にはなりません。また、デジタルビデオカメラはまだ高価ですし、携帯やデジカメほど一般の人に持ち歩かれません。よって現状ではメガピクセル携帯→新聞の経路が一番現場の状況を伝えやすいです。

カードリーダー、またはケーブルとインターネットに繋がるパソコンが近くにあれば、メールに添付して即座に新聞社に送ることも可能です。

直接記者の方と会った上で自分の記事が新聞にきちんと書いてもらえると新聞に対する愛着もひとしおです。


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