メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第24回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2005. 1.21
■ゲンさんを探せPart 1
何やちょっと昔に流行った「ウォーリーを探せ」みたいなタイトルやけど、気ぃつけな洒落にならんと思うようなことがあった。
これは、被害と呼べるものかどうかは分からんけど、このメルマガを見てる人は注意して欲しい。特に、東海方面に居住の人にはな。
ワシのことが団内で話題になった。HP『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』の存在が団の連中に分かったからや。
今更ながら時代の波ちゅうやつを感じる。奴らだけは、パソコンとかインターネットには縁遠いと思うとったんやけどな。
若い奴なら分かる。しかし、ワシとこの拡張団は、何故かその若い奴が少ない。おっさんの集まりや。
まあ、ワシもその内の一人やから偉そうには言えんけどな。おっさんにパソコンを使いこなせる人間は少ないはずや。ワシの偏見やろか。
いつもは愚にもつかん拡張の自慢話やパチンコ、競馬の話題、人の噂話しかせん奴らが、その日は何故かインターネットの話をしとった。
「おい、誰かインターネットのホームページで『拡張員ゲンさん』ちゅうのを知らんか」
調子もんの大森(仮名)という男がそう言い出した。いきなりやったんで、ワシは一瞬、ドキッとした。
大抵の話題は、現場までの車中で交わされる。その日もそうや。車はライトバン。8人乗りできっちり8人乗っとる。
現場までは普通、1時間程度かかる所が多いから暇や。常に何かの話題で一部の連中が盛り上がっとる。
喋りの連中やから、じっと黙っておられんのや。こいつらを黙らせようと思うたら殺すしかない。
「何やそれ」これも良う喋る武田(仮名)が、すかさず聞く。
「昨日、若い奴を拡張しとったら、そいつ、やけに拡張のことに詳しいんや。そやから、そいつに拡張員してたことがあるのかと聞いたら、インターネットで拡張員のホームページを見たからやとぬかしやがる」
(何や。そういうことか。せやろな。こいつが、自分から興味を持ってそんなもん見るわけないわな)
そういうことなら、以前、このメルマガでも話したことがあるけど、HPを見たという若い人間にはワシも出くわしたことがあったからな。
「そいつが『ゲンさんを知ってるか』と聞くんや。誰やそれて言うたら、そのゲンたら言う奴がその拡張員のホームページを作ってるらしい。そいつがおるのが、この東海と言うことや」
ワシは、話には興味ないという仕草で外を見てた。大抵はこうや。実際にいつもは聞くに堪えん話ばかりやからな。付き合いきれん。
しかし、この時は、素知らぬ素振りはしてたが、神経と耳はその話に集中してた。
「しかも、オレらと同じYの拡張員やと言うことや。その若い奴が『ゲンさんの仲間なら3ヶ月だけ取ってもええ』言うんや。せやから、オレは、すぐに『それやったら良う知ってるで、アイツのことと違うか』てデタラメ言うたらカードになったんや」
(何やと!!)さすがのワシも目を剥きそうになった。自分を押さえるのが精一杯や。
「ほんまか、その話はええな」
その話はすぐ車中の話題になった。拡張員は、こういう僅かでも得する話は絶対に聞き逃さんし、すぐ食いついて来る。
拡張員を騙すのは簡単や。そこへ行ったら新聞を取る客がおると言えば、必ずそこに行く。情報というか人の話にこれほど単純に乗る人種も珍しい。もっとも、こいつらが特別なんかも知れんがな。
「おい、ひょっとしたら、この中にそのゲンちゅうのがおるんやないか」
「そんな名前の奴はおらんで」
「アホか。そんなもん偽名に決まっとる」
「あんたの名前みたいにか」
「ほっとけ。オレのは本名や」
そんな愚にもつかん会話が続いてる最中、大森が疑惑の眼差しで車中を見渡しとった。
ワシとも目が合う。しかし、ワシは素知らぬ顔をする。ポーカーフェイスもワシの得意技の一つやから、こんな奴に見破られることはない。
「まさか、この中にそんな気の利いたことの出来る者なんかいてるかいな」
すぐ武田が反論する。
「それもそうやな。ホームページちゅうのはそう簡単に出来るはずもないしな。この中の人間とは違うな」
ワシは、その言葉にほっとした反面、僅かに気分も害した。気の利いたことが出来んのはお前らくらいやと言うてやりたかった。
しかし、すぐに思い直した。ワシにしても、HPを実際に作っとるわけでもない。HPの文章を書いたり、運営しとるのはハカセや。
ワシはただの情報提供者に過ぎん。その気の利いたことが出来んのは、こいつらと一緒や。
「それなら、うちの団の人間やとして、怪しいのは誰やと思う?」
「山崎はどうや?」
「そら、あり得るな。確か、あの人、パソコン持ってたしな」
こいつらは、こんな場合、必ずと言うてええくらい、この場におらん人間を犯人にしたがる。その本人がこの車に乗っとれば、別の奴が指名される。
山崎(仮名)というのは、元銀行の支店長やったという男や。いつも、ちゃんとしたスーツ姿のとても拡張員とは思えんような奴や。
誰からもインテリとして見られていた。しかし、この連中に疑われとるのはそういうことよりも、パソコンを持っとるという単純なことでや。
ワシも心中、穏やかやなかった。実は、ワシもハカセの影響でノートパソコンを持っとる。
幸い、団の人間には誰にもそのことを言うてないし知らんと思うから、今すぐ疑われることはないけど、気ぃつけなあかんと思うた。
ワシがパソコンを持っとるのは、ワシもそう度々、ハカセの家に行けるわけやないから連絡のためや。
今はワシも、インターネットを見るのとメールくらいは出来るようになっとる。ハカセがHPに載せる文面をメールで送ってくる。
その後、ワシがそのコメントを電話で話す。それが、ハカセとの今の主な連絡手段や。もっとも、一週間に最低でも1,2度はハカセの家には行ってるがな。
仕事中は、携帯電話にメールが入る。長文の確認が必要な時は、インターネット・カフェのパソコンでそれを見る。もちろん、一人でや。
大森がそのインターネット・カフェのことを言い出した。
「バンクについたら、インターネットの出来る漫画喫茶があったやろ。そこに行かへんか。そこで、そのホームページがどんなんか調べてみぃへんか」
インターネットカフェというのは全国どこでもあるやろうけど、東海には特に漫画喫茶と併用という所が多い。
連中も今はこの話題でそれなりに盛り上がっとるけど、長時間、インターネットなんか出来るわけやない。すぐ、飽きよる。
いつもは、漫画専門の喫茶店で漫画を見とる。どっみち最後はそれやから、どうせなら一緒の所へ行こうと言うことや。くだらんけど、それなりに合理的なわけや。
「良し行こう」ということで意見がまとまった。
ワシにも確認が入った。
「そら、おもろいな。行こうか」
ワシは、仕方なくという雰囲気やなしに、いかにも乗り気やという風でそう言うた。
何かをごまかしたい時は、下手に反対や否定はせん方がええ。疑惑の対象になる畏れがあるからな。こういう場合は、一緒に同調するに限る。
それに、こういうことに関してこいつらが、どういう反応を見せるか知っておきたかったということもあるしな。
ワシは隙を見つけて、このことをハカセに伝えた。
「大丈夫なんか、ゲンさん」
「大丈夫や。奴らの考える程度は多寡が知れてる。かえっておもしろい話のネタになると思うで。どっちになっても、今日は、仕事が終わり次第、そっちに行くから」
結果的に言うと、メルマガでこの話をしてるくらいから、ただの話のネタということで終わったんやがな。
この続きもおもしろいから、続けて話したいのやが、どうも、メルマガの文章というのは制限があるらしい。
全部を話すとその制限を超えそうやから、次回にPart2として続きを話すことにする。一話完結をモットーにしてたんやが、堪忍して。
今日の話を終わる前に、冒頭で言うたように、東海方面の読者は注意して欲しいと思うことがあるからそのことを伝えとく。
と言うても、何もこの連中が悪い拡張員ということやない。どっちか言うとワシの知ってる拡張員の中では気のええ連中の方や。
まあ、程度がええとはお世辞にも言えんが、少なくとも、喝勧や騙しをするような奴はおらんはずや。
せやから、ワシの名前を騙っても、実害ということはないと思う。あったら、教えて欲しい。
それと、ワシの仲間ということで、3ヶ月の契約をした人に言うが、大森自身は出任せで調子合わせて言うたことやけど、実際にワシの仲間には違いがないから、悪う思わんといて。
注意というほどのことでもないんやが、ワシは自分で自分のことを明かして拡張することは絶対にない。仲間にもその正体を知らせるつもりもない。
せやから、ワシのことは拡張員に言うても誰も知らん。もし、知ってると言う奴がこれから現れたら、それは嘘やと思うてくれてええ。
ハカセの言う通り、正体を知られることの損得を考えたら、不利益なことが多過ぎるということが、今回のことで良う分かった。
ワシの正体が人に知られたらということなんかそれほど大したことやとは思うてなかったから、どうということはないと考えてたけど、思う以上にうっとうしいことのようや。
やはりハカセの言う通りにしてた方が良さそうやと思う。ワシは、インターネットというものを良う知らんかったから、今まで、甘く見てた所もあったようや。
ワシにしたら、大したこととも思えんこんな拡張の話が、世間で話題になるちゅうなことは当初、ハカセから話を持ちかけられた時には、夢にも考えんかったからな。誰がそんなHPを見るんやくらいにしか考えてへんかった。
認識が甘かったということやろ。こんな団の連中にまで、話題になったんやからな。
Part2へ続く