メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第31回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2005. 3.11
■古新聞の利用法?
新聞は読んでしもうたらただの古紙、古新聞になる。大半は、ゴミで捨てるか古紙回収に出すかして終いや。
古新聞の利用価値は極めて少ないと思われがちやが、考えれば結構ある。
1.引っ越しの時の食器類や割れ物、壊れ物を包む梱包材として利用する。今は、100円ショップで食器を売っとる店に新聞紙の切れ端をおいとる所が多い。手軽な梱包材やからな。
2.掃除の時に、破いた新聞紙を濡らして床にばらまく。それをほうきで掃くと畳や床がゴミやほこりを吸い取り綺麗になる。また、窓ガラスなんかをそれで拭くとピカピカになる。
3.折り紙にもなる。ワシらが子供の時、新聞紙でカブトを作って被ったり、丸めて刀に見立ててチャンバラごっこをして良う遊んだもんや。
4.てるてる坊主も新聞紙で作った。丸めてボールにもした。それを棒きれで打って野球のつもりで遊んだ。昔は、ほとんど人間が貧乏やったからそんな物しかなかった。せやけど、それでも面白かったな。
5.変わった利用法としては、一升瓶に入った酒の保存用としても使える。酒は、温度変化と光に弱い。長期保存が必要な場合、新聞紙で一升瓶を包んでおくだけでも結構、日持ちする。これは、酒造りのプロが推奨する方法や。
6.保存と言えば、水に濡らした新聞紙に野菜を包んでポリ袋に入れ冷蔵庫で冷やしとけば、通常より3〜4日は長持ちする。
7.料理の残り油の処理にも新聞紙は使える。新聞紙は油を吸い取るから、牛乳パックの中に新聞紙を丸めて入れ、そこに廃油を流す。そこそこの量でも、結構吸い取る。それから、ゴミで捨てれば、下水が油で汚染されるのを防げる。
8.新聞紙が油を吸い取る性質を利用して、フライパンの残り油を拭きとってから洗剤で洗うと、洗剤を節約出来る。
9.タンスの底敷きに新聞紙を使う。インクには防虫効果があると言われとる。新聞紙の上に100円ショップで売ってる綺麗なシートでも掛けとけば、衣服の汚れもない。
10.下駄箱や靴にも使える。靴は一日中履くとかなりな水分が、その中に籠
もる。そこに水分でカビが増えて臭くなる。
それを防ぐために、新聞紙を丸めて靴の中に入れる。下駄箱の底にも敷いておく。こうすると、湿気を避けることが出来、カビが発生しずらくなる。
因みに、新品の靴の中にざら紙が入っとるのも湿気による防カビ対策や。昔は、これも新聞紙が多かった。
臭みのひどい靴の中に、小さくなった石鹸を新聞紙で包んだものを詰めると臭い消しの効果もある。
11.自動車工場などで塗装作業の際のマスキングにも使う。これは、大量に使う場合がある。古紙回収業者から仕入れることもある。
12.商売用と言えば、昔は、魚や野菜、てんぷら、たこ焼きなんかの包みは皆、新聞紙が主流やった。
13.薄い布はハサミでは上手く切りにくいが、その布と新聞紙を重ねて切ると上手く切れる。
14.紙粘土が出来る。これは、子供のいとる家庭では、そのために小学校で古新聞の持参を強要することも珍しくない。そういう家庭では、多少の古新聞は常に持っといた方がええ。
15.ゴミを捨てる時、最近は中が確認出来るように透明ビニールのゴミ袋の使用を義務付けとる所が多いが、どうしても他人に見せたくないゴミを、新聞紙に包めばごまかすことが出来る。
16.宅配便の梱包材に新聞紙を使う。この際、注意するのは、同じ大きさの新聞紙を丸めて詰めると、相手方に届いて開けた場合、綺麗に見える。具体的には、大開の新聞を半分に破いてから、丸めると形が揃う。
17.やむを得ず野宿するような場合、体に新聞紙を巻いておけば、体温の低下が防げる。いざという時に知っておけば、命が助かるかも知れんで。
18.命が助かると言えば、昔の極道は、喧嘩する時は、サラシの下に新聞紙を束ねて巻いてた。こうすると、ドス(短刀)が刺さりにくい。まあ、命が助かりたければ、最初からそんなことは、せんとけばええんやけどな。
19.結露のひどい窓は、夜のうちに新聞紙を貼り付けておく。僅かでも水分があると新聞紙は簡単に貼り付く。翌朝、水分の吸った新聞紙を捨てる。その際、それで窓を拭けばきれいになる。一石二鳥や。
20.乗用車のトランクに3束くらいの古新聞の括りを常に積んでおけば、タイヤが側溝に落ちた時の脱出用に使える。これは、古紙回収に出す時に束ねてる古新聞でええ。束ねた新聞はなるべく大判というて4つ折りにしとく。
やり方やが、まず、ジャッキで車体を浮かし、タイヤと側溝の間にその古新聞を入れる。この時、道路と浮かせたタイヤの下の高さが同じになるようにする。その高さの調節は、新聞紙をばらせばやりやすい。
ワシは、何度もこの方法で脱出しとる。これは、昔、古紙回収をしとったテツという男に教えて貰うた方法や。
21.そのテツから聞いた利用法をもう一つ。雪道の坂なんかやと横滑りして走りにくい。下手すると立ち往生する。こういう時にも、トランクに多めの新聞紙を積んどくと重みで滑りにくい。
古紙回収のトラックは荷台にある程度の新聞を積み込んどる時はまず滑りにくい。その点、乗用車は良く滑る。テツはそんな時、トラックの荷台の新聞をその乗用車のトランクに積んでやって良く助けたことがあると言う。
テツ曰く。それは親切心からだけやなく、前で立ち往生されたら、自分も困るからということらしい。
新聞紙の利用法は、考えれば、まだまだ他にもありそうや。考えるだけでも面白いかも知れんで。
もちろん、ワシら拡張員は、ただ、こんなことを知ってるだけやと芸がない。これらはすべて、営業トーク用のネタとして使う。
すでに賢い奥さんやったら、このうちの幾つかは知ってるが、これだけ、並べているうちに、知らんものもある。「へぇー」という言葉が聞ければチャンスや。
特に、無読を通しとる人間には、その新聞紙の使い方というのは新鮮や。中には、それだけで心を揺さぶられる人間もおる。
もちろん、揺さぶるトークも必要やけどな。
「新聞代は朝刊だけだと1部100円程度ですし、夕刊込みでも130円です。100円ショップでそのために何かを買うつもりなら、いつも手元に自然にあるものですから便利ですよ」
と言うて、一瞬、そうかなと思わせると成功や。せやけど、実際、賢い奥さん連中の中には、そのために新聞を取ってるというのも多い。
そして、どうせ取るなら、少しでも得をする、ワシら拡張員からの購読契約の方がええと考える人間もおる。上手く持って行けば、新聞代の節約も出来るからな。
トークで、そういう人間の存在も教える。加えて、チラシの情報なんかも上手くアピール出来たら完璧や。
まあ、ワシらにしたら、新聞が売れたらええようなもんやが、ちょっと、複雑なもんがある。肝心の新聞本来の必要性からは、かけ離れとるからな。
新聞社関係の人に言いたいが、やはり、新聞はその内容で売り込めるのが、正道やと思う。せやけど、残念ながら、現状はその内容のアピールがしずらい。
新聞各紙に明確な差別化が出来てないと一般に思われとるのがその理由の大半や。現場の人間として、はっきり言わせて貰うが、その紙面の内容に納得して購読しとる読者は1割もおらんで。
売る側だけの視点だけやなしに、購読する側の関心度を考えなあかんと思う。そのための紙面を作って欲しいと願う。
新聞記者の人にしても、心血注いで書いた新聞記事が、どこの誰かも分からんおっさんのくさい足の臭いのする靴底に丸められ、突っ込まれとるというのも、あまり、ええ気はせんやろと思う。
もっとも、昔、ワシらの子供の頃のように便所紙にされて、きたない尻を拭かれるよりはましやろけどな。今は、どんな所でもトイレットペーパーくらいはあるからな。
因みに、新聞紙を便所紙として使う場合、よく揉み込んで柔らかくしてからやないと尻が痛うてしゃあない。これも、利用法の一つに紹介しとくべきやったかな。
せやけど、これだけは、営業トークには使わん方がええ。引かれてしまうだけや。笑うに笑えん話やからな。それに、無条件にきたない。
それにしても、新聞紙をただの紙としてとらえても、これだけ便利な用途に使える紙は、他には見当たらんと思う。
せやから、古新聞の有効利用をアピールするのも、それはそれで意味のあることなんやけど、それだけではなぁ……と思う。頼んまっせ。