メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第48回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
     

発行日 2005.7 8


■共謀罪について


共謀罪という法律が新たに今国会で制定されようとしとる。新聞やマスコミにもこのことは、まだ、あまり大きく取り上げとらん。

大規模な国民的な反対運動にまでは、なっとらんということも影響しとるのかも知れん。一部の有識者の間では大きく取り上げられとるがな。

ワシは、いかに悪法とは言え、法律は法律やから守らなあかんと思うてたけど、これはあかん。とてもやないが、悪法と言うにしても限度がある。知れば知るほど、そう思う。

こんな法律が出来たら、時代が70〜80年は確実に遡る気がする。第二次世界大戦前の日本の状態に戻ることさえ考えられる。

言論統制、思想統制の末に、誤った考えの指導者の出現により、悲惨な戦争に突き進んだ時代がまた来るかも知れん。この法律は、そういうことが起こる可能性すらある。

何をそんな大げさなと思うかも知れんが、この法律が制定されれば、警察権力というものが確実に強固なものになるのは間違いない。

誰でも、警察に睨まれたり、目を付けられるだけで逮捕されることも十分考えられるんやからな。

共謀罪とはそういう法律や。

共謀罪というのは、組織犯罪対策のために設けられるものやと言う。その犯罪行為を未然に防ぐという目的があるとされる。

それはええ。危険な犯罪を防ぐというのは悪いことやない。例えば、それがテロ行為などの限定された範囲だけやと言うのならな。

しかし、法律の常として、一度、それが制定されると必ずその解釈が拡大する。共謀罪は、その名の通り、ある犯罪を計画、話し合ったというだけで処罰される法律や。その犯罪の実行の有無は関係ない。

ハリウッド映画にトム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」というのがあったが、その世界が現実になるかも知れん。

これは、近未来の話やが、ある人間が、殺人をすると分かる予知能力者の感知に基づいて、警察官が犯罪予防の名の下に、まだ実際は起こしてもいない殺人の罪に問われ逮捕される。そして、殺人罪としての刑罰を受けるというものや。

この映画は、このことの怖さや理不尽さを、それを実行する側やった主人公の警察官が、その罪に問われ逃亡を余儀なくされるというストーリー展開に良く表現されとった。

頭の中で考えたというだけで、まだ、何も実行していない犯罪で裁かれる。そういうことが、実感出来るやろか。しかし、共謀罪という法律が出来たら、それが現実となる畏れは十分に考えられるから覚悟しとかなあかん。

現行の刑法では、実行行為がないと処罰されん。未遂にしても、共同正犯にしても、犯罪の実行に着手するという要件が必要や。

例えば、誰かに暴力を加えたとする。これは、暴行罪やし、場合によれば殺人未遂に問われることもあるやろ。仲間がおれば、共同正犯ということになる。

これが、飲み屋なんかで、気に入らん上司なんかの話で盛り上がり「あの課長、いっぺん、どついたろと思うてんねん」と酒の勢いに任せて誰かが言うたとする。

それに相づちを打って「その通りや。やったれ」というのは、それほど、珍しくもない良う見かける光景や。もちろん、言うてる方も大半が冗談やし、相づちを打つ者も、そんなことは本気にはしとらん。

しかし、このことを、それを聞いてる誰かが警察に言えば、暴力行為の「共謀罪」ということで言うた人間も相づちを打った者も、逮捕されるということもあり得るということになる。

うかつに冗談の一つも言えんと言うのは、ワシらは困る。営業では、ほぼ毎日のように冗談を言うてるからな。

「新聞屋さん、申し訳ないね。うちは金がないんや。そのうち、銀行強盗でもして金が手に入ったら新聞を取るから」

という冗談を客が言うたとする。

「そうですか。その時は、教えて下さい。お手伝いしますよ」

と、冗談で答えたら、強盗の共謀罪が成立する。

「ゲンさん。お宅、元建築屋さんやったんやろ。この近所の人間、そこのマンション建設で皆、困ってるんやけど、何か、反対運動のええ方法ないかな」

これは、実際に良うある話や。ワシは、そのマンション建設にも従事してたことがあるから、その内情には詳しい。業者の嫌がる反対運動は何ぼでも知っとる。

ここで、その詳しいことは言えんけど、業者にダメージの与える手段をその客に教えたら『組織的威力業務妨害』の共謀罪が適用される可能性がある。

おそらく、世の中の実力行使を伴うとされる反対運動のほとんどが、この法律に触れる。この法律で影響を受ける者は国民すべてやと言うてもええ。

それは、このインターネットの世界でも例外やない。掲示板なんかへの書き込みなんかがその対象になる。

「あのA団の○○という新聞拡張員は世の中のクズである。クズは殺してもかまわない」

「そうだ、そうだ。賛成、殺せ」

こういう類似の掲示板への書き込みは結構多い。今までは、こういう書き込みは規制出来んかったが、共謀罪が成立すると、これは殺人の「共謀罪」ということになって、重罪となる。

もちろん、これを書き込んどる人間も本気というのやなく、勢いや冗談半分やと思う。しかし、これは証拠が残るから、言い逃れが出来んということになる。

当然やけど、これは、あらゆる方面へ拡大解釈される。警察にとっては有り難い法律やということになる。

特に、ネット上の発言に制約が出来るというのは大きい。今でも、殺人予告などをしとる者は逮捕されとるが、それは、よほどの危険性をはらんどる場合に限られる。しかし、この法律の下やと、例え、それが冗談でも法律違反に問える。

つまり、警察の判断で、いつでもこの法律を持ち出して逮捕することは可能やということや。これで、警察権力、国家権力が大きくならん方がおかしい。警察国家の誕生ということになる。

そして、この法案の怖いのは「実行の着手前に警察に届け出た場合は、刑を減免する」という一文が入っとるということや。理由は「犯罪を未然に防止するということ」らしい。

しかし、これは、でっち上げに悪用されるケースが大やとこの法律を危惧しとる人たちは口を揃えて言うとる。密告者に罪がなくなるということはスパイの暗躍につながるとな。

権力機関が、市民団体のなかにスパイを送り込み、犯罪に触れることをたきつけ、その相談の様子をテープにとって、内部通告者のように警察に届け出ることもあり得る話やと言う。

これが、どれだけ怖いことか、これ以上、説明せんでも分かるやろ。冒頭で言うたようなことが、大げさやないと言うたのは、こういうことからや。

共謀罪が成立した社会は、他人を信用出来ん人間不信の陰湿な相互監視社会・警察国家、密告社会になる可能性がある。日本人の嫌うとる、どこかの国と同じような社会になるかも知れんということや。

しかも、これは映画の話でもなければ、小説の中の出来事でもない。ましてや、よその国の話とも違う。この日本で、早ければ、ここ1ヶ月くらいの間に決まるかも知れん法律や。

ただ、この法律の反対意見ばかり並べても、サイトの一方からの見方だけでは何事も分からんという、ワシらの理念もあるので、この法律の賛成論者の見解も言うとく。それと、主な条文もな。


日本国政府をはじめとする共謀罪の創設に賛同する見解は、共謀の対象となる犯罪が重大な犯罪に限定されている、組織的な殺人等の予備(本法6条)は共謀罪と同様の組織性を要件として処罰を加重しているが、暴力団等の組織的な犯罪集団の構成員にのみ適用されている、居酒屋で個人的に意気投合した程度では特定の犯罪が実行される危険性のある合意に当たらず共謀とはいえないから私生活上の自由を制約するはずがないと反論している。


日本の共謀罪

意義
組織的な犯罪の共謀罪(そしきてきなはんざいのきょうぼうざい)は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「本法」)案6条の2所定の、一定の重大な犯罪の共謀を構成要件とする犯罪をいう。

日本の刑法は、未遂罪は「犯罪の実行に着手」することを構成要件としており(同法43条本文)、共同正犯(共謀共同正犯)も「犯罪を実行」することを構成要件としているために、組織的かつ重大な犯罪が計画段階で発覚しても、内乱陰謀(同法78条)などの個別の構成要件に該当しない限り処罰することができず、したがって強制捜査をすることもできない。

しかし、2000(平成12)年11月に国際連合総会で採択された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約が、共謀、資金洗浄(マネー・ロンダリング)、司法妨害などを犯罪とすることを締約国に義務づけたため、同条約に加入するための条件整備の一環として、本法を改正して組織的な犯罪の共謀罪を創設する提案がなされた(日本国政府の説明による)。

組織的な犯罪の共謀罪の構成要件は、以下のいずれかである。未遂処罰の規定はない。

死刑又は無期若しくは長期4年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪に当たる行為で、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀すること(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律案6条の2第1項各号)。

死刑又は無期若しくは長期4年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪に当たる行為のうち、団体に不正権益(同法3条2項)を得させ、又は団体の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を共謀すること(同法案6条の2第2項)。


これをどう判断するかは、人それぞれや。ワシは危険な法律やと思うが、安全な社会になると考える人もおるかも知れん。犯罪防止にはやむを得んことやと。

ただ、言えるのは、いずれにせよ、決まってからでは何を言うても遅いということや。一度、決まった法律をひっくり返したり、改正するというのは並大抵のことやないからな。

しかし、これが決まれば、その責めはワシら国民の全員が負わなしゃあない。決まった法律は、例えどんな悪法でも法律は法律や。法律は守らなあかん。それが人間社会の原則やからな。

この法律は、国会で採決されるが、その採決する国会議員を選んだのは国民や。「ワシは選んどらへんで」と言うて、その国政選挙にすら行かんかった人間もおるかも知れんが、そういうのは、一番たちが悪い。

選挙に行かんということは、その人間の考えがどうであれ、国の決めることには、どんなことでも従いますと言うてるのと同じなんや。無投票は反対意見とは違うからな。

せやから、決まったことには文句を言う立場にはない。文句が言いたければ、せめて選挙くらいは行くことや。

ワシは声を大にして言うほど自慢の出来ることやないが、今まで、選挙に行かんかったことはただの一度もない。これからも、それは変わらんと思う。

日本は、今、異常なくらい選挙に関心のない人間が増えとる。少なくとも、昭和の頃までは、国政選挙、取り分け衆議院議員総選挙の投票率は70%以上あった。

それが、平成になり60%前後まで落ち込んどる。それも若いほど顕著や。20代の若者の投票率は30数%しかないと言う。反対に60代になると80%前後もの投票率がある。しかも、この格差は当分、続きそうやと言う。

今更、言うまでもないが、それで選ばれた国会議員によって法律は作られとる。それも、大抵は数の論理とかで与党の法案を多数決で決めとるのが現状や。この法律も、決まるとすれば、おそらくそうなる。

本当の意味で、国民の支持を得た多数決で決められとるというのなら、それも、民主主義の範疇やからしゃあないが、実状はちょっと違うと思う。

政権与党の得票率は45%ほどや。

単純計算やけど「投票率60%×得票率45%=27%」という計算が成り立つ。つまり、国民の27%が選んだ与党の議員によって、法律が決められとるということになる。

27%が過半数を占め、残り73%が少数派になり、その27%の決定に従わなあかんことになる。何でそんないびつなことになるのか。簡単なことや。40%が選挙に行ってないからそうなる。

ワシが、残念でならんのは、この共謀罪という悪法も、そういう状況の中から生まれる法律になりかねんということやからや。

本当の意味の、国民の総意の過半数による決定というのなら、民主主義の国の人間としては、あきらめもつくけどな。

ただ、ここに来て、ちょっと政局に変化が見えそうや。「郵政民営化法案」とかいう良う分からんことで政局が混乱しとって、与党が分裂状態にある。ひょっとすると、解散総選挙もあり得るかも知れんという状況や。

現状の予想では、野党に政権が移る可能性があると言う。そうなれば、この悪法も葬られるかも知れんからな。もちろん、皆で選挙に行かな、そうはならんやろうけどな。


今回、このメルマガを執筆するに当たり、下記のサイトを参考、あるいは一部を引用させて頂いたので紹介しとく。共謀罪のことを知る上では役に立つと思う。


http://www.asahi.com/digital/internet/TKY200506230366.html

http://www.jlaf.jp/iken/2004/iken_20040115_02.html

http://straydog.way-nifty.com/yamaokashunsuke/cat1756591/index.html

http://www1.neweb.ne.jp/wb/zinken/kyoubou.html

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%B1%E8%AC%80%E7%BD%AA


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