メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第61回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日時 2005.10.7


■矛盾は我にあり


世の中に矛盾することは、それこそ腐るほどある。

泥棒を捕まえるはずの警官が盗みで捕まるのもそうやし、生徒を教え導く教師が、生徒に淫行やいたずらをするというのもそうや。

本来、絶対にあってはならんことや。しかし、それをする人間が、実際にいとる。

新聞やテレビのマスコミも例外やない。他人の不正を暴き立てながら、同時に誤報や、捏造、やらせなんかもする。他人のことを言えた義理やなくても、それを報道するのが仕事やとなる。そこに矛盾が生まれる。

そして、ワシらの存在自体にもそれが言える。新聞社にとって、ワシら拡張員は必要やが、同時に疎ましい存在なのも事実や。

現在「拡張員」という言葉は、放送局や新聞社が自主規制しとる放送禁止用語に指定されとるということがある。

せやから、テレビや新聞では、拡張員とは言うたらあかんことになっとるわけや。実際、新聞紙面やテレビ放送でその言葉を見ることも聞くこともないしな。

これが、ワシには、未だに理解できん。何で放送禁止用語にならなあかんのかということや。この言葉のどこが悪いというのやろうか。

この拡張という言葉が、差別や侮蔑を含むとはとても思えんがな。辞書で調べれば「範囲・規模などをひろげて大きくすること」と、ある。正に、ワシらのしてきたそのものや。言い得て妙という感すらある。

インターネットで「拡張」のキーワードで検索すると、どの検索サイトでも相当数のヒットがある。

もっとも多いのが、Yahoo!Japan で、10月6日現在、2300万件ものヒットがある。そのほとんどが、コンピューターに関係したサイトや。

極、少数やが新聞業界関連のサイトもある。因みに、当サイトもその第2位に表示されとる。これをどう受け取ってええのかは良う分からんけどな。

コンピューター業界では、この拡張という言葉なくしては成り立たんくらいポピュラーなものや。さすがに、これは放送禁止用語やないようやがな。

これが「拡張員」になると、とたんに禁止用語やという。これを同じように検索すると、今度は新聞業界に関連したサイトが大半を占める。

その意味では、この拡張員というのが新聞業界だけの特殊な呼び方やというのは分かる。

通常、放送禁止用語になるようなものは、一般からも使われにくくなるものやが、この拡張員という言葉は、そうでもないようや。

一年ほど前『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』のHPを開設したときは「拡張員」のキーワードを Google で検索すると5万件ほどのサイトがヒットした。

それが、現在では、同じ Google で「拡張員」を検索すると、54万件ほどもヒットする。一年で10倍に増えとることになる。

新聞業界では、現在、この拡張員という言葉は「セールススタッフ」に置き換えられとるが、その知名度は極端に低い。

同じようにGoogle で「セールススタッフ」の検索をすると、約2万件ヒットするものの、新聞業界に関連のあるサイトは、ほとんど見られん。ほとんどが、他業種の営業に関するものばかりや。

範囲をもっと狭めて「新聞セールススタッフ」での検索やと、僅か300件足らずになってしまう。因みに「新聞拡張員」やと20万件ほどある。これも、1年前に比べると数倍になっとる。

新聞各社がそのイメージを一新したいがための苦肉の策としての名称変更をしようとしたのやと思うが、その浸透率は極めて悪いということの証明みたいなもんやと思う。

消したいはずの「拡張員」の認知度が増すという矛盾が起きとるということや。

ワシも当初、新聞社から「セールススタッフ」と呼ぶようにとの通達があったときは、将来的には、そうなるのかなと思うた。

サイトも「新聞拡張員ゲンさん」ならぬ「新聞セールススタッフゲンさん」と改名せなあかんのかと真剣に悩んだくらいや。口に出して言う分には、それほどでもないんやが、字面で見るとどこか間が抜けとるように思う。違和感もあるしな。

しかし、その心配は当分の間、なさそうや。認知度という面では、より拡張員という言葉の方が高まっとるからな。これからも、その傾向はしばらく続きそうや。

その意味では、急速なインターネットの普及で、新聞、テレビのマスコミの影響力にかげりが見えてきたということかも知れんな。

もっとも、積極的に「拡張員」という言い方を外部に向かって規制しとるわけやないから、一概には言えんやろとは思うけどな。

当たり前のことやが、呼び名を変えるくらいでは、そう簡単にイメージを払拭できるもんやない。安易にそう考えたなる気持ちは分からんでもないがな。

呼び名を変え、その使用をなくせば、その悪いイメージは自然に消滅する。そのための改名というのは、昔からいろんな業界で行われてきた。単に、それを踏襲しただけのことやと思う。

おそらく、インターネットが登場する以前やったら、それでも、その思惑通りになって効果はあったやろ。報道の中心が新聞、テレビ、ラジオにほぼ限定されとった時代にはな。

放送禁止用語にするというのも、そういう意味からやろうと推察する。ただ、放送禁止用語にするための規定というものは、あるようでない。現場の制作担当者の判断に委ねられるとされとる。

建前としては、電波法や放送法などに基づき、公序良俗に反するような言葉を放送することを放送局が自ら禁止して健全で中立的な放送を維持するためということになる。

つまり「拡張員」は、その公序良俗に反するような言葉やとされとるわけや。誰や?そこで「もっともや」と頷いとるのは。

ただ、イメージが悪いという理由だけで、そうしとるのやとは思うが、いつまでも「臭いものに蓋」式の考え方ではあかんのやないかと思う。

現実を直視する。昔から、何事に置いても重要とされてきとることや。そこからしか物事の進歩はない。それも、誰もが知っとることや。

現実というのは、新聞という存在が拡張員を生んだということを指す。そして、その拡張員が、新聞の普及に多大な貢献をし、部数を伸ばしたのは紛れもない事実やということや。それは、新聞販売店にも同じことが言える。

言うて悪いけど、新聞各社の企業努力だけでここまでなったのやないことだけは確かや。本来なら、ワシら末端の者こそ、その功績を称えられ世間的にもそう認知されなあかん存在のはずや。

しかし、新聞業界には「新聞はインテリが作ってヤクザが売る」というフレーズに象徴されるように、販売に携わる人間の評価が、それを作る側と比べると異常に低いという現実が歴然とある。

一般の人間にも、その評価は顕著や。新聞社に対しては、ある種の権威のようなものを感じる人間は多い。

そして、新聞社で働いているとか、その工場で働いているという場合やと、世間的にもその評価は高くなりこそすれ、低く見られることはない。

しかし、ワシらは違う。世間的な評価も最悪に近いものがある。

同じ新聞業界でありながら、制作して出荷する側と一般読者に届ける側の立場がこれほど違うというのは、かなり不思議なことやないやろかと思う。こういう業界が他にあるやろか。

もちろん、そう思われるには、それだけの理由も、過去に、そして、現在もあるのは事実や。

人に嫌がれる勧誘をする拡張員がおることも紛れもない事実やし、その長い歴史の中で培われた悪しき行いがあることも否定はせん。

しかし、それは着実に過去のものになりつつある。あるいは、狭い範囲に限定された現象やと言うても差し支えないところまでになっとる。

その狭い範囲というのは、関東地域の一部を指す。ただ、狭い範囲やと言うても、人口が密集し、日本の主な機能が集中しとる地域やから、どうしても、その影響力は高くなる。

場合によれば、その影響力は、他の地域、すべてを凌駕することさえある。また、そういう地域やからこそ、熾烈な競争に晒され、その悪しき行いが残っとるのやとは思うがな。

ただ、それが一般読者には伝わってない。もしかすると、新聞社自身がそれに気付いてないのかも知れん。

新聞社には、勧誘の苦情は相当数来るやろうが、ええ勧誘員やったというのは皆無やろと思う。せやから、どうしても勧誘に関しては悪い面ばかりしか聞かんということになる。

気付いてないというのは、一般読者にも言える。現実に勧誘のトラブルを経験していない地域の人ですら、インターネットでの悪評を信じとるということがある。人はええと評判よりも悪いという噂の方を信じやすいからな。

いずれ、新聞社の思惑通り「拡張員」という言葉がなくなり「新聞セールススタッフ」という呼び名が固定するときがきたとしても、今のままでは、その悪評は大して変わらんやろと思う。単に呼び名が変わるだけのことや。

新聞社の「臭い物には蓋」式の考えがなくならん限りはな。それなら、どうすればええか。別に難しいことでもない。

新聞社自ら、現状の新聞勧誘の実態をそのまま世間にさらけ出せばええことや。具体的には、テレビの報道スペシャルみたいな番組でな。

残念ながら、その体質のためか、今までそういうことはなかったのやないかと思う。少なくともワシは知らんからな。

それには、新聞社とテレビ各社が同系列の企業体ということがあるからや。個々の新聞記者や関係者の不正を糾弾できても、業界の根幹に関わることには触れたないし、触れられたくもないからやと思う。

新聞社も、勧誘の評判を何とかしたいというのは、ワシには良う分かる。団にも、そのための細かい指示は頻繁にあるからな。ただ、何度も言うが、一般読者にはそれが伝わってない。

企業としての新聞社を守りたいというのは、内部の人間としては、当たり前の考えなんやが、本当に、業界を憂うのなら、自らで腐った膿を出しきるということをせん限り、一般に認知はされんやろと思う。

それが、世に言う「改革」ということになる。

そして、このままやと、再販制度の見直しというのも今まで以上に加速するおそれもある。

実際、公正取引委員会あたりの本音は、新聞の再販はずしにあるからな。これについては、新聞各社も良う分かっとるはずや。

そもそも、独占禁止法の理念が、公正な競争による価格体系ということやからな。再販制度は、その対極にあるもんやとされとるわけや。

近い将来、電子新聞も含めたニューメディアへの転換が進めば、確実にその方向に動くし、そのときには、新聞各社の経営もおぼつかんようになっとるかも知れん。

そうなれば、真っ先にその影響を受けるのは、ワシら末端の人間や。当たり前やが、ワシらにとって新聞社はなくてはならんもんや。なくなれば、当然やが、職を失う。

そうならんためにも、やはり、新聞社には考えてほしいということや。新聞社自身のためにもな。

それには、過去の勧誘の実態を晒し、現在の取り組みを真摯に伝えればええ。それで、イメージはかなり変わると確信する。

そして、それは、今のように口うるさく、販売店や拡張団に指示するよりも確実に効果は上がると思う。

それがなぜかと言えば、その実態を、ワシら末端の人間自体も良う把握しとらんということがあるからや。

インターネットのサイトには、拡張員や新聞販売店での経験を元にしたものは多い。

それは、それなりに経験に基づいたものやから有意義な面があるのも認めるが、彼らはおしなべて、それが業界のすべてと思い込んどるところがある。

ワシにしてからが、そうやったからな。業界のことはすべて分かったと自惚れとった。自分の周りで知り得たことが、そのすべてと勘違いするんや。

人間である以上、それも仕方のないことかも知れん。人はどうしても自分中心になる。物事は、常に自分の周りでしか動くことはないからな。自分の目で見たもの聞いたことが、どうしても正しいと思える。

例え、他から見て、どんなに異常な環境の中であろうと、その人間にとっては、こんなものやと思うてしまうわけや。

よほどでないと、それに疑問を挟むこともない。同じような職場で、他にもっと環境のええ所があるとは思わんもんやし、他も一緒と考えるのが普通や。

周りに、不良カードを平然と上げる人間が多ければ、この業界はこんなものやと思う。

それほどでもないところでその仕事に携わっていれば、何でそこまで、人に蔑まれるようなことを言われなあかんねんとなる。それほど、悪い人間はおらんはずやのにと考えるからな。

これは、一般にしても言えることや。えげつない勧誘の多い所で生活しとれば、当然のように勧誘員を嫌う。それがすべてに見える。他では、もっとましなところもあると聞かされても、そうかとはならん。嘘やと思う。

ワシは、昔はこの業界でも最悪とも言えるような団にいてた経験もあり、今は、紳士的とさえ言えるような環境で営業をしとる。

せやから、あくどい営業は、今は昔という感があった。ところが、地域により、それが今も続いとる所が歴然とある。

それを、ワシはこのサイトで知ることができた。もちろん、理屈では、いろいろやというのは分かっとった。しかし、その認識も正直、甘かったようや。

結局、ワシが何を言いたいのかと言えば、その実態を広く世間に知らせれば、一般にも、その地域による特殊性も分かるし、そこで、仕事しとる拡張員や販売店の人間にしても、その異常性に気付くということがあるのやないかということや。

多分に希望的観測というのが入っとるかも知れんがな。しかし、少なくても、自分たちのしてることに疑問を持つきっかけにはなると考える。

ワシが、そう言えるのは、本当にえげつないことが繰り返されとるのは、極、限られた地域やということを知っとるからや。

その地域の、そういう人間に気付きが生まれれば、この業界が変わるのは早いやろと思う。

そのためには、新聞各社の姿勢が問題になるということや。自らがどこまでできるかということに尽きる。

何でもそうやが、自らそうせん限り何の変化も起きんと思う。外圧でそういう事態になっても、抵抗するだけのことやからな。

ワシはどうするんやてか?

言うとくけど、ワシは何の力もない一拡張員や。ハカセのおかげで好き放題のことを言わせて貰うてるにすぎんからな。

できることと言えば、サイトのQ&Aの相談に乗ることと、ここで、こうして無責任なことを言うくらいしかできん。

ワシは、こうなってほしいとは思うても、そのために何かを積極的にしようとは考えんし、行動するつもりもないからな。

そういう意味では、ワシ自身が、一番、矛盾しとるのかも知れんという気がせんでもないがな。


ご感想・ご意見・質問・相談・知りたい事等はこちら から


メールマガジン・バックナンバー 目次                       ホーム