メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第69回 新聞拡張員ゲンさんの裏話    

発行日  2005.12. 2


■耐震強度偽造問題について


今、話題になっとる問題やが、ワシも建築業界に身をおいたことのある人間として、とても他人事やとは思えん。

また、ワシの顧客には、賃貸マンションのオーナーも結構いとるから、会う度毎にこれが話題になる。

「ゲンさん、うちのマンションは大丈夫かな?」

「さあ、何とも言えませんけど、建物の設計図はありますか?」

ワシは、現場監督の経験もあるから、建築物の図面くらいは読める。経験的に、それが安全なものかどうかというのも、たいていは分かるつもりや。

例えば、5階建てで個数20戸のエレベータなしの物件の賃貸マンションという条件であれば、どれも、それほど大差のない設計図になるからな。違いがあれば、すぐ分かる。

もっとも、構造計算のような専門分野を知っとるわけやないから、詳しい数値やその安全度というのは分からんがな。

「この図面で言えば、特に問題はなさそうですがね」

但し、それは、確かにその図面通りに施工されていたらという条件付きでの話やけどな。手抜き工事の大半は、現場の施工業者がする場合が多いというのは建築業界の常識や。

当たり前のことやが、販売や施工に携わる業者は、利益を追求する。それ自体は自由経済社会の中では仕方のないことや。それほど、非難されることでもない。

ただ、それを追及することに執着しすぎる者がおる。特に、経営者はそれが多いし顕著や。その利益を上げるには、経費を押さえ、施工期間を短くするということが一番、手っ取り早い。

しかし、そういうことが、往々にして手抜き工事につながる。今回のような、鉄筋の減少も十分考えられる。鉄筋を少なくすることで、単に材料費を浮かせるだけやなく、仕事も簡単で早いから、工期の短縮、ひいては人件費の削減にもつながる。

他にも、コンクリートなんかの材質低下や使用量不足が意図して行われるというケースもある。

ひどいのになると、その中に廃材の木片やダンボール片を混ぜて塗り込める悪質なのもあると聞く。他にも手抜きの方法なんかは、それほど腐るほどある。

また、これが一番多いのやが、材料を安く上げるために品質自体を落とすということもある。どんな材料でも、高品質のものと低品質のものが存在する。

当然、高品質のものは高く、低品質のものは安い。そういう業者は、間違いなく、低品質のものを使う。特に、目の見えん部分にそれが多い。

加えて、人件費も抑える。そのためには、一流と呼ばれる職人よりも、腕が悪くても早く安く仕上げる職人や下請けにその仕事を発注する。

必然的に、そういう施工会社には、そういう種類の下請け業者が集まることになる。類は類を呼ぶというやつや。しかし、そういうのは、単に図面を見るだけでは分からん。あくまでも、現場での誤魔化しやからな。

ただ、業界に長くおる者は、どこの業者がどういう工事をしとるかというのは、たいていは知っとる場合が多い。噂になるからな。

業界人の多くも、それで判断する。あの業者なら間違いないけど、あそこならそういうこともやりかねんなとなるわけや。

もっとも、そういうことを、ことさら言うて、このオーナーに不安を覚えさせることもないから、詳しい説明はせんがな。

ワシが「特に問題はないですね」と言うたのも、それが、あるからや。業者での判断ということでそう言うた。

尋ねられたマンションの設計図に記載されてた施工業者には、それほど悪い噂も聞いてないし、老舗やということもあった。

通常、建築確認申請や図面なんかの書類を誤魔化したり、偽造するというのは業界でも考え辛いことや。それより、目の見えん部分の施工で手を抜く方が証拠を隠滅しやすいから、たいていは、同じやるならそちらを選ぶ。

図面や計算書は、証拠として残るからな。いつ発覚するか分からん危険を抱えて怯えることになる。ただ、今回の場合は、いとも簡単にその書類が検査を通ったから、その危険に麻痺したと考えられる。それが、度重なれば、当事者にとっては罪悪感は薄れる。

泥棒や詐欺を職業と思うとるような人間は、それに罪悪感を感じる者はほとんどおらん。その罪悪感があるとすれば、最初だけや。それと同じやと思う。

そういう、特殊な人間を除けば、それが、発覚したら、今回のような結果を招くやろというのは、誰でも想像できることやさかいな。

特に、一級建築士ともなれば、その責任問題を直接被るわけや。例え、どんな圧力や要請があったにせよ、そういうものは断固としてはねつけなあかん。それが、士(サムライ)業の最低のモラルやと思う。

事実、多くの一級建築士はそうしとるはずや。ワシが、今まで接した一級建築士はほとんどがそうやったし、それが当たり前として認識しとる。

その意味で、一級建築士は、業界では尊敬される立場の人間や。一般も建築においては敬意を払うのが普通や。不正や誤魔化しをするとはほとんどの者が考えん。

ただ、これも、ワシが常に言うてることやけど、どんな所にも、ええ人間もおれば、ええ加減な人間もおるということを、はからずもこの一件が証明したということになる。

それにしても、今回のこの耐震偽造問題というのは、あまりにもひどすぎる。よくもまあ、これだけ、えぐいのが揃うたもんやと思う。

ワシは、なるべくなら、批判的な言動は避けたいと常日頃、思うとる。今まで、滅多なことで特定されるような人間を非難したつもりもない。

あるとすれば、HPのQ&A NO.56 で、奈良の小1女児殺人事件の犯人に対して言うたことくらいや。人間の所業やないとな。

今回の問題は、犯罪の種類こそ違うが、そのえぐさはそれに匹敵する。少なくともワシはそう思うとる。

何ぼ、類は類を呼ぶと言うても、建築主、設計士、施工会社、検査機構のすべてが、ええ加減で無責任な人間の集まりというのは異常や。

このうちの誰か一人、一カ所でも良心と誇りを持って、ちゃんとした責任ある仕事をしとれば、このことは確実に避けられたはずやからな。

しかし、震度5程度の地震で倒壊するかも知れんというマンションを建て、実際に命の危険があると知りながら、今も尚、住まざるを得ん人間がいとるにも関わらず、その重大さが当事者の誰も分かっておるとは到底思えん情けなさや。

それを如実に示したのが、11月29日の関係者を集めた国会の参考人招致でのテレビ中継やった。

どいつもこいつも、ただ、責任逃れにやっきになっとる。これ以上はないというほどの醜態を晒して悪びれるところは微塵も感じられん。

しかし、どう転んで頑張っても、この連中はもう終わりやけどな。これだけ、名を売り顔が知られれば、これから、この業界の仕事には携われんやろし、社会的にも確実に抹殺されるはずや。

こういう、連中のやることは一つ。いよいよ、あかんとなったら、逃げの一手を打つだけや。自分の身と財産を確保して消えることに腐心するようになる。

それを裏付けるように、早々と倒産やと言うて手を上げた施工会社もあるが、他も、ただ、早いか遅いかの違いだけでいずれは、すべてがそうなると思う。

連中に力のある間は、その顔色を伺うて何も喋らん連中も多いが、落ち目になると寄ってたかって、あることないこと、あらゆる悪行を暴かれ袋叩きにされるのが世の常や。

それも、今までは身内や仲間やと思うてた人間からそういう仕打ちを受ける。現に、ボツボツ、そういう話があちこちから聞こえ初めてきとるからな。

身から出た錆やと言えばそれまでやが、ある意味、非情や。もっとも、それが、世間というもんやがな。

ただ、そうなると、気の毒なのは、何も知らずに、そのマンションを買わされた住民たちということになる。連中が潰れれば、その保証を受けるのが困難になる。

最終的に彼らを救えるのは、国しかないという気がする。さすがに、国は逃げを打つわけにはいかんやろから、何とかするやろと期待したい。

今回のこういうケースは、確かに希有なことやとは思うが、他にはないかと聞かれても、それは、誰にも何とも答えようがないと思う。

事実、また別の大手の検査機関が、偽造を見逃した物件があると発表したからな。先が見えんというのが現状やないやろか。

今回のようなケースは、そのマンションを購入した住人たちにとっては、まったく予測不可能で、不運やったと言うしかないが、これから、こういう類似したことは避けられんのかというと、必ずしもそうやないと思う。

それは、契約の怖さを知っとるだけでも、かなり違うと思う。どうしても、人は何かを購入するときは、そのものに対して、ええとこだけしか見んようなところがある。過剰な期待を抱く。

もっとも、それを売り込む営業員は、当然やけど、そういう面しか強調せんからな。それに、乗せられるということも多い。買う方も売る方も、ええとこだけしか見んし、見せんからどうしても、そうなる。

それを少しでも避けるためには契約の怖さを知り、慎重になることやと思う。そうすれば、自ずと自己防衛の心理が働き、いろいろなことに気付くようになる。

ただ、契約の怖さを知ると言うても、実際にそれを体験せんと、それが分からんということがある。また、体験しても、それを生かすことができん者は、また、同じことを繰り返す。

ワシが、HPのQ&Aやこのメルマガで、その契約の怖さを散々言うてるのも、その思いがあるからや。

新聞契約程度のことで、困窮を極めるほどの深刻な被害に遭うこともないし、解決不可能なこともないと断言できる。新聞代が払えんから自殺したちゅう話も聞いたこともないしな。

ただ、深刻さがない分、契約に対してあまりにも無知な場合が多い。せやから、Q&Aの相談なんかで、契約に関して甘い考えしか持ってないなと感じたら、敢えて、きつめの苦言をその都度、言うてる。それが、その本人のためやと信じてな。

そんなマンションの契約とたかが新聞の契約と、一緒にせんといてくれと言う者もおるかも知れんけど、その契約をするということについて言えば、どちらもそれほど大差ないことなんやということは知っといてほしいと思う。

ワシは、過去に建築屋の営業で、そのマンションや一戸建てを売ってたことがあるけど、営業ということで言えば、それほど違うことはない。

むしろ、数千万円の物件を売る方が、年間、4,5万円の新聞を売り込むより簡単な場合もあるくらいや。少なくとも、その金額に比例して難しいということはない。

その経験から言わせて貰えば、客の方も、契約することに慎重になる人間が思いの外、少ないということがある。もし、本当に慎重になるのなら、無理をするようなローンの設定で買うようなことはせんはずや。しかし、それが多い。限度、ぎりぎりというのが目立つ。

人は誰でも現状が長く続くもんやと思うとる。せやから、そういうことができるのやがな。

しかし、実際には、いろんなことがあるのが人生や。人である限り、病気もするやろし、怪我もあれば、事故や事件に巻き込まれることも考えられる。

リストラも今の世の中ではないとは言い切れん。会社の倒産も日常茶飯事や。また、今までは、安全の代名詞やった親方日の丸の公務員ですら、人員削減で怪しい状態や。

加えて、地震なんかの災害もあれば、火事だって考えられる。考えれば、危険なんかは数知れず存在する。

慎重な人間は、そういう場合に備え、無理した契約は絶対にせんもんや。無理して、そのうちの何か一つでも重大事が起きれば、それで行き詰まるからな。

結果、家のローンが払えず、自殺するというのも、そう珍しい話やない。それを思い留まって、ワシらのような世界に飛び込む人間がおるが、そういうのは、まだましや。生きてさえおれば、また浮かぶ瀬もあるさかいにな。

そうは言うても、そういう慎重な人間は世の中には少ないがな。たいていは、安易に契約を結ぶ。

そこには、営業員に上手いこと乗せられたというのも少なくない。営業員は、それを生業にしとるのやから、手練手管、あるゆることを考え駆使して、契約を取ろうとする。中には、それは騙しやでと言うようなケースもざらにある。

その、騙しのような営業にひっかかるのは、その契約の怖さが分かってない人間がほとんどや。せやから、結果的に騙されたとなるわけやけどな。

そういう意味で、新聞の契約トラブルを経験するなり、Q&Aを読むなりするのは、結構、意義のあることかも知れんと思う。多分に手前味噌やがな。

話を元に戻すが、耐震偽造のマンションを買わされた住人も、確実に騙されたということになる。

しかも、このケースは、考えも及ばんことやから、いくら慎重な人間でもその被害者になる可能性が高い。実際、そういう人もおるはずや。

敢えて言えば、その売り主や施工会社が業界内では、それほど一流やなかったところを信用したということくらいやろと思う。

誰もが、知っとる大会社が売り主で施工会社やったら、やはり、こういうケースは少ないやろと思う。例え、あったとしても、大会社であれば、その名前にかけてでも、迅速に処理すると思う。金銭的な余力もあるやろしな。

但し、そういうところは、どことも値段は高いやろけどな。すべてやないけど、安心できるところは、それになりに金をかけ誇りも持っとるから、どうしても金銭的には高めや。

今回の売り主のキャッチフレーズにあるような、便利で、安くて広くて住みやすいという夢のような条件の物件は、何かあるということになる。

しかし、それは、あくまでも、結果論でしか分からんし、言えんことやけどな。事前に分かれば苦労はない。

いずれにしても、言い古されたことやけど、自分の身と財産は自分で守る術を身につけ、考えなあかんということに尽きるのやないかなと思う。


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