メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話
第72回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
発行日 2005.12.23
■サンタクロースは何歳ですか?
前回のメルマガでも少し触れたが、12月の上旬に、小学校の低学年と思われる女の子から、一通の短いメールが届いた。
ワシもハカセも、さすがにこれには驚いた。
自慢するわけやないが、このメルマガやHPは、とてもやないけど子供の教育にええと言えたもんやない。子供にとって面白くも何ともないやろから見るはずもないと思うてたからな。
しかし、そのメール文の内容を見て、すぐその疑問が解けた。そのメール文には『サンタクロースは何歳ですか?』とあったからや。
これは、おそらく、ヤフー・ジャパンやグーグルの検索サイトで「サンタクロースは実在」のキーワードで調べたんやろと思う。
ヤフー・ジャパンでは第2位、グーグルでは第1位で、このメルマガ『第20回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■サンタクロースは実在する?』が表示されとる。これは、HPのバックナンバーへのページがヒットする。
それを読んでのことかどうかは定かやないが、そのページの最後にあるメールボックスから、その質問をしたのは間違いないはずや。
それには『ご感想・ご意見・質問・相談・知りたいことはこちらから』と書いてあるからな。
もちろん、それは、新聞勧誘に関してのことという意味なんやが、勘違いしてのことやと思う。
あるいは、このメールの発信元が、ある児童館やったから、そこの先生か職員
の人に、そうするように教えて貰うたのかも知れん。
そのページに表示されとる内容は、読みようによればファンタチックなものと受け取れるかも知れんからな。少なくとも、新聞の拡張話とかけ離れとるのは確かや。
ざっと目を通したくらいでは、その先生方も分からんかったか、それとも、早い話が、質問できる所には何でも聞いてみなさいということやっただけかも知れんがな。
いずれにしても、この質問をした女の子は、純粋な気持ちからやというのは間違いなさそうやから、ええ加減な返答はできんというのが、ワシらの一致した意見やった。
しかし、ワシは正直言うてこういうのは苦手や。いつものように大人相手の関西弁でというわけにもいかんやろしな。
ここは、一番、ハカセに任せることにした。以下が、そのやりとりや。
投稿者 カナちゃん 投稿日時 2005.12.
3 PM
3:46
サンタクロースについてがんばってかいているんですが。
サンタクロースは何歳ですか?おしえてください
返信者 ハカセ 返信日時 2005.12.
4 PM
0:07
カナちゃん、こんにちは。おじさんは、ハカセといいます。
おじさんにも、小学4年生の男の子がいますが、カナちゃんは何年生かな。
このホームページは、ヤフーやグーグルのけんさくサイトでしらべたのだと思うけど、カナちゃんにしたら、むずかしかったでしょ。
あれは、おとなの人に書いたものだからね。でも、がんばり屋だね。おそらく、ちゃんと読んで、こうしてメールくれたんだからね。
だから、おじさんも、できるだけがんばって答えるね。
『サンタクロースについてがんばってかいているんですが。サンタクロースは何歳ですか?おしえてください』
ということで、サンタクロースの歳を知りたいようだけど、カナちゃんはいくつに見える?
白くて長いひげをのばした、おじいさんだから、60歳?くらいかな。それとも70歳、80歳に見えるかもしれないね。
実はね、サンタクロースは、歳をとらないんだよ。不老不死(ふろうふし)ということばは、聞いたことがあるかな。歳をとらないで死なないということだよ。
そんなの人間じゃない?そうだね。おじさんも、サンタクロースは人間じゃないと思うよ。
こども好きな神様という気がするね。だから、歳もとらず死なないんだよ。だって、神様が死んだら、アクマの世界になっちゃうだろ。
どうしても、サンタクロースの正体を知りたいということなら、多くの人に知られていることはあるよ。
西暦(せいれき)270年から西暦342年まで、生きていた人で、トルコという国にニコラスという、こどもの好きなえらい人がいたんだけど、その人がサンタクロースだといわれているんだ。
その人の死んだ歳が72歳だから、サンタクロースの歳はその72歳ということになるかな。
それとも、今も生きつづけているのなら、1735歳ということになるね。
でも、ほんとうのサンタクロースの歳が知りたければ、いちばんよくしっているのは、カナちゃんのお父さんとお母さんだよ。
お父さんに歳をきいてごらん。それが、ほんとうのサンタクロースの歳だよ。
お母さんは、おんなの人だから、サンタクロースのおくさんのムオリおばさんということになるかな。
「なんだ、それじゃ、サンタクロースって、ほんとうはお父さんだったんだ」なんて、がっかりしないでください。
サンタクロースはほんとうにいるのです。こども好きな神様としてね。
その神様であるサンタクロースは、1年に1度だけ、こどもをとても愛しているお父さんのからだの中にはいって、こどもたちにプレゼントをくばるんだよ。
だって、サンタクロースがたったひとりで、世界中のこどもたちにプレゼントをくばっていたらたいへんでしょ。
だから、サンタクロースはその日だけ、お父さんたちのからだをかりるんだよ。
だけど、そのお父さんは、神様にみとめられるようないい人でないと、その日、サンタクロースにはなれないし、こどももいい子でないとプレゼントはもらえないんだよ。
だから、かならず、お父さんもお母さんも「いい子にしてたらね」といってるわけさ。
カナちゃんもいい子にしてないと、そのサンタクロースはクリスマスの日に、お父さんの中にはいれないんだよ。だけど、カナちゃんなら、そのしんぱいはないね。
だから、その日は、世界中にサンタクロースがあらわれて、その日、1日ですべてのこどもたちにプレゼントをくばることができるんだよ。
そういうわけで、サンタクロースの歳は、ニコラスの72歳でもいいし、17
35歳でも、まちがいじゃない。
カナちゃんのお父さんが40歳だったら、それも正しいことになるんだよ。愛
するこどもをもっている、すべてのお父さんの歳がサンタクロースの歳という
わけさ。
できたら、カナちゃんも、おとなになって、いつか、かわいいおよめさんになり、そして、こどもが生まれるそのときまで、このことをおぼえていてほしいな。
どういうわけか、人は、おとなになるとサンタクロースを信じなくなるんだ。ほんとうにいるのにね。
おじさんのともだちに、ゲンさんという52歳のおじさんがいてるんだけど、そのおじさんはサンタクロースのことをずっと信じているんだ。
じつはこのことはすべて、おじさんも、そのゲンさんに、おしえてもらったことなんだよ。
カナちゃんにも、わかってもらえるといいな。
どうかな。さんこうになったかな。いいはなしがかけるといいね。
それじゃ、すこしはやいけど、メリー・クリスマス。
このハカセのメッセージが、この女の子に上手く伝わっとるかどうかは分からんが、今更ながらに、子供の純粋さというのが良く分かる。
単純に、サンタクロースの歳はいくつかやなんて、大人では考えつかんからな。
もっとも、大の大人にそう聞かれれば「お前、アホか。何しょうもないこと聞いとんねん」で終いやろけどな。
子供は誰でも夢を見る。しかし、大人になればその夢が失われる。もっとも、夢という名の別の望みを抱くことはあるがな。
しかし、それは多くの場合、実現可能な現実的なものであることが多い。ファンタジーというのとは違う。
子供の見る夢は、そのファンタジーなわけや。
ワシら、おっさんも、当然やが、生まれながらのおっさんやったわけやない。自分で言うのも気恥ずかしいが、これでも愛くるしい子供の時もあったんや。
誰やそこで、えづいとるのは。失礼な。当然、ワシかて子供の頃は夢見る少年やったんやで。
サンタクロースはもちろんやが、スーパーマンや月光仮面にあこがれ、彼らは実在するもんやと思うてた。ゴジラさえ、その存在を疑うことはなかった。
それが、いつの頃からか、そういうものは、いとるはずがないと思うようになり、現実的なことしか考えんようになっていった。
そして、気がついたら、人生の裏街道だけを見とるような、おっさんになってしもうてたというわけや。
折しも、この女の子からメールを貰ったのは、例の広島小1女児殺害事件の犯人が捕まった後で、栃木の小1女児殺害事件が発覚した直後やった。
普通にそれらの事件を知っただけでも、何ちゅうこっちゃと憤てたと思うが、このメールを貰ったことで、その思いが倍加した。
その犠牲になった女児とこのカナちゃんという女の子が重なったからや。こういう純粋で疑うことを知らん無垢な命を奪うことは絶対に許せることやない。
しかし、そうかと言うてワシに何ができるかというと、それには何も答えられんかった。何ぼ偉そうなことを言うても、所詮は一介の拡張員にすぎんからな。
こういうことにかけては、あまりにも無力すぎる。
それでも、何かできんかということで考えたのが、前々回のメルマガ『第70回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■くり返される悲劇!!広島小1女児殺害事件の現場では……』中で言うた、勧誘をしながらの子供たちを見守るということや。
その呼びかけに呼応してくれる人たちも現れとることやし、これからもその期待はしとる。現実に、日々そういうメールも寄せられとるしな。いずれ、それらも機会があれば紹介したいと思う。
もうすぐクリスマスや。今年は例年になく雪が多い。その日も間違いなくホワイトクリスマスになりそうやという。
クリスマス・ツリーのあるリビングで、サンタクロースを信じる子供たちが、そのプレゼントに大喜びし、それを見守る両親の笑みが傍らにある。
そんな幸せそうな一家団欒の姿を、毎年、このクリスマスの日に窓の外から眺めながら、拡材のためのサンタクロース人形を片手に新聞の勧誘を続けてきた。
ワシも十数年前までは、確かにその光景の中で生きていた。しかし、今はそれも遠い記憶となった。その幸せそうな風景は、それをなくした者にとっては辛いもんや。
ワシの場合は、それでも自業自得という側面もあるから、ある意味仕方ないが、こういう犠牲者の両親にとっては、たまらんことやと思う。
もう、彼らはその子にプレゼントを渡すことすらできんのやからな。しかも、時間はそこで止まる。例えそれが動き出すことがあったとしても相当の年月を必要とするのは間違いない。
これが、どれほど残酷なことか、ワシには、その一万分の一程度すらも理解できんが、それでも想像するにあまりあるし、堪えられんことやというのは分かるつもりや。
クリスマスの夜にそんな不幸があってはならんし、その日を楽しみにしていた子供からサンタクロースのプレゼントを取り上げるようなことがあってもならん。
今年のクリスマスは特にそういうことを痛感する。
雪の降る街を、雪のふる街を、想い出だけが通りすぎて行く……。
そんな懐メロを口ずさみながら、そういう思いで、クリスマスの夜、嫌われながらも勧誘しとる一人のしがない拡張員のおっさんがいとるということを分かるようやったら、分かってやってほしいと思う。