メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第79回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日 2006.2.10


■専拡エレジー 前編


「ゲンさん、やられました」

マタやんが、そう言うて来た。

マタやんというのは、もうかれこれ8年前くらいになると思うが、奈良の販売店で大学に通いながら新聞奨学生として働いていた感心な若者や。

ワシは、その当時、大阪の団からその販売店に派遣されて、専拡(専属拡張員)兼代配をしてた。

マタやんは、新聞奨学生でありながら、その店の主任をしていた。これは、新聞奨学生としては異例のことのようや。

もっとも、その店の店長は頼りにならん奴やったから、実力的には、当然やとワシは思うてた。実質、その店のきりもりをしてたのは、このマタやんやったからな。

このマタやんのおかげで、代配の仕事も拡張も、ほんまにやりやすかった。マタやんも、ワシを兄貴のように思うて慕ってくれてた。

このマタやんと絡んだ話を、HPの『新聞勧誘・拡張ショート・ショート・短編集 第5話 新聞奨学生マタやんの憂鬱』でしとるから、興味があれば読んで貰うたらええ。

そのマタやんが、困った顔してそう言うて来たら、放っとくことはできん。

「また、同じ家でか」

「ええ」

これだけの会話やと何の話をしとるのか分からんと思うから、ちょっと、それまでの経緯を説明する。

マタやんが、配達している区域で、3日ほど前、不配があった。客から、新聞が入ってないと苦情の電話がかかってきた。

即座に、マタやんは、詫びの粗品を持って平謝りに謝って、その場は何とか収まった。

不配というのは、たいてい、入れ忘れのうっかりミスというのが多い。人間やから、誰でもこういうことはある。

ただ、マタやんは、ここ何ヶ月もそれがなかったという。もっとも、昨日まで、ミスがないから今日は大丈夫やとは誰にも断言できんがな。

せやから、マタやんも、しもうた、ちょっとミスったなという程度にしか、そのときは思うてなかった。

ところが、その3日後の今日、また同じ客から、不配やと怒って電話をしてきた。今度は、とりつく島もなく、即刻、解約を宣告されてしもうた。

これは、販売店としたら、どうしようもない。致命的なことや。短期間で2度では言い訳のしようがない。それでも、マタやんは、謝りに行ったが、やはり無駄やった。

しかし、マタやんは、どうしても納得できんかった。最初の不配はまだ3日前や。その後は、当然、確認して入れてたし、注意も払うてた。

その家は、門柱の上にポストが設置されとる。いつもは、何げなくやが、今日も慎重にポストの中まで、しっかり確かめながら間違いなく入れたという。

マタやんは、ごまかしを言うような人間やない。言うてることは事実やと思う。そうなると考えられることは、ヌキ取りやとなる。

この業界は、そういうこともそれほど珍しいことでもない。敵対する販売店の人間がそうすることがある。

多くは、同じように、その地域を配達しとる人間の仕業や。嫌がらせをする人間も中にはおる。

しかし、マタやんは、その可能性を否定する。考えにくいと。マタやんと同じような区域で配る他紙の販売店の配達員たちとは、特別、仲が良かったからや。

それには、理由があった。この区域の中に、ある大手の工場があるのやが、そこの食堂に、その配達員全員が、新聞を配りに来る。

その時間帯が酷似しとったという関係で、いつの間にか、そこで落ち合うのが、彼らの日課になっていたという。

たいていは、午前5時前後くらいになる。そこの自動販売機で買ったカップコーヒーを飲みながら、食堂の椅子に腰かけて、10分前後、駄弁って小休止するのを全員が楽しみにしていた。

言えば、情報交換の場みたいなもんや。

そこには、彼らなりのルールのようなものがあって、その中で、一番早く来た者が、新聞スタンドに差し込んである、昨日の本紙やスポーツ紙、業界紙なんかを集めて、工場が用意しているダンボール箱に入れる。

後から来る人間は、そこに新聞を差し込むから、多少は楽になるというわけや。それも、各紙5〜10部づつもあるから、全紙やと結構な量になる。

これは、お互いのためというよりも、工場へのサービスという意味合いもある。

しかも、そのメンバーが皆、心やすい。マタやんはS紙やが、A紙のシゲルとは、同じ大学の同級生や。つまり、同じ新聞奨学生ということになる。

後のY紙とM紙は、両方とも年配の女性で、気のええ優しいおばちゃんやという。年配というても、当時で34,5歳というからワシから見れば、それほどでもないがな。

2日前も、同じように雑談していた。そのとき、前日の失敗を皆に話すと、いつものように笑いながら軽い調子で「しっかりしいや」と言われて、その場を別れとる。

マタやんの考えにくいという理由や。

せやけど、新聞が勝手に歩いて行くわけはないから、誰かの意図でそうされたのは、ほぼ間違いない。

朝の散歩をしとる人間が、その途中、出来心で、自分が購読しとる新聞以外の他紙を持ち去る。

あるいは、朝寝坊なんかして新聞も読まず飛び出したサラリーマンが、自転車で駅に急ぐ道中、何気なくポストからはみ出た新聞を引き抜いて持って行く。

また、近所でトラブルを抱えとるようなケースで、嫌がらせのためにそうする。同じ家が二度狙われるというのは、その可能性も否定できん。

他には、家人の誰かがその新聞をすでに取り込んどるのにも関わらず、それに気付かず大騒ぎして不配やと言うて電話してくる客も中にはおる。

その手の話は、結構、聞くことも多いからな。単に不配やと言うても、配達人以外の人間によって、そうなることもあるということや。

今回の場合も、そういうことがあるかも知れんが、マタやんとしては、それを客に主張するわけにはいかんかった。

そんな言い訳は客をよけいに逆撫でするだけや。何の証拠もないことやからな。

それから、店では、マタやん以外での配達区域で立て続けに、3日で4件の不配があった。マタやんの2件も含めると、6件ということになる。その内、4件が解約になっていた。

この店にしたら、異常の多さや。店には、4人の専業を含め、15人の配達員がおるが、今までは、多くても全員で不配や遅配は、1ヶ月で5件程度しかなかった。

たいてい、1件の不配があれば、厳しい通達事項がある。特に今回の場合は、これが続くようやと、罰金も考えると所長名での指示書も各自に廻されてたから、よけいにあり得んことやと考える。

当然のように、その不配に覚えがないと、その配達人たちも口を揃える。マタやんも、滅多なことで不配なんかする連中と違うと言う。

また、言い逃れするような人間やない。いずれも、そこそこ年期の入ったベテランたちや。

駆け出しの頃は、誰でもそういうことはある。それも、順路帳を見ながらのときは、それほどでもないが、ちょっと慣れて、その順路帳を手放す1週間すぎたあたりから、それが起きる。

記憶間違いというやつや。店では、それに該当するような人間がおると、主任が、その配達の帰りを待って、残紙の確認をしたり、状況を聞くようにしとる。

それをすると、その配達人も緊張することになるから、不配は減るという。

そこまでする店で、しかも、今回、マタやんを含めて5人ものベテランが、ほぼ、同時に不配するというのは、いかにも不自然なことや。

もっとも、人間のすることやから、そういうことが絶対にないとは言えんがな。

マタやんが、ワシに言うてきたのは、2度目にそれが起きたときや。

「マタやん、A紙に友達がいてると言うてたな」

「シゲルのことですか」

「そうや。そのシゲル君に、今回、不配で問題になって、解約された4件の顧客のことを聞いてほしいんや」

今回の件が、誰かの意図されたものやったら、それで、得をする人間が一番、怪しいと考えるのが自然や。

こういうケースで「解約や」と言うて、怒った人間でも、新聞自体を止めるという人間はあまりおらん。たいていは別の新聞を購読する。

その際、その客自ら販売店に、新たな購読の依頼電話をするのなら、個人の好みの違いもあり、それぞれ別々の販売店になる場合が多い。

それでも、普通は、その地域で一番人気のある新聞に流れやすい。この奈良で言えばA紙や。

せやけど、この周辺地域だけは、その状況が他とは少し違う。

A紙がトップやということは、変わらんが、それでも他のY、M、Sの3社とは、それほど大きな開きはない。

むしろ、拮抗しとると言える。せやから、1社に偏ることは考えにくい。

もし、その4件の客が、すべて同じ新聞を契約し直しとったとすれば、犯人は、そこの販売店の関係者の可能性が高いということになる。そんな偶然は、まずないと考えてな。

「他のY紙とM紙の方は、ワシが調べとくから」

「分かりました」

「あっ、それから、念のために、明日、朝刊を配るときに、その解約された家にどこの新聞が入れられとるか分かれば見といて貰えるかな」

おそらく、今回、こういう真似をした人間は、新聞販売店関係者や。間髪入れずに、自分とこの新聞を、その客に勧めに行くものと考えられる。そのために、こういう抜き取りをしたはずやからな。

ワシも、拡張してるとき、たまに現在の「販売店が良く不配や遅配するから新聞を替えたいと思うてたんや」という客に出会うことがある。

もちろん、そんな場合は苦もなく成約となる。今回の場合は、その上に、客が怒っとるというタイミングで行くんやから、どんな営業員でも、まず、100%決まる。

せやから、その犯人が勧誘した新聞が入る可能性は、かなり高いと思われる。

ただ、見ておいてくれとは言うたが、マタやんも配達しとるわけやから難しいかも知れん。

その現場を通るとき、そこの新聞が先に入っていたら、確かめることもできるやろが、その後に入れるのやったら、分からんということもある。

配達終了後に、それを確認に行っても、その家の人間が、新聞を取り込んだ後やったら尚更や。

「そういうことなら、大丈夫ですよ。明日、他の人に聞きますから」

マタやんは、例の工場の食堂で落ち合うときに他の配達員に聞くというのや。今回の件は、おそらく配達員とは関係ない。

専業ならあるいはということも考えられんでもないが、A紙は大学の友人のシゲルが配達していて、後の2社は、いずれもアルバイトの女性やから、マタやんが配達しとると知って新聞を抜き取ることはないやろ。

関係ないと考えても差し支えない。せやから、新しく配達されることになったその家のことは聞けばすぐ話すという。隠す理由がない。

「なるほど」

そういうことなら、販売店の方は、マタやんに任せることにした。

ワシは、そのA紙の販売店に出入りしている拡張員のヤマザキという男と喫茶店で会うた。この男を最初に選んだのは、あることを確かめるためや。

他団の拡張員とは、ライバル関係にあるから、普通は、あまり親しくすることはない。販売店やそれぞれの団も、そういう付き合いは嫌がるしな。

しかし、このバンクには、特殊な事情があって、お互いに結構、情報を交換していて、他より比較的仲がええということがあった。表面的にはな。

この辺りは、新興住宅街という所で、その頃、一般住宅もやが、分譲マンションや賃貸アパートの建設が盛んやった。

大型分譲マンションの入居ともなれば、その客の奪い合いで壮絶な拡張合戦が繰り広げられた。

全国紙4紙が、ほぼ総力戦という形でそこに投入される。

狙いは、引っ越し当日や。新築マンションの入居日には、多数の拡張員が集ま
る。たいていは、入居者以上になる。

一家族の入居者を見つけると、各団の拡張員がそこに群がる。中には、その場で、拡張員同士が喧嘩を始めることもある。

当然、入居者たちは怖がるし嫌がる。

しかし、新聞自体は購読したいと思う。

特にチラシが重要になる。主婦は、新しい土地ではどこにどんな店があるのかという情報を知りたがる。

また、共稼ぎを希望する場合、近所のパートの仕事を探すにも、折り込みチラシに入る地域の求人情報は欠かせんものやと考える。

ただ、目の前で、新聞屋が購読契約の奪い合いを始めとるのを見れば、取りたくても、どこか1社に限定することができん。

それで、その場での契約を拒否する人間が、続出する。あるいは、その争いに巻き込まれて、そのときは仕方なく契約しても、後日、解約という事態も続いた。

そういうこともあり、販売店同士で協定を結び、現場での争いをなくしたわけや。

その方法は、以外と簡単やった。すべての販売店が、その客から、契約を貰えれば問題ないことになる。当然、そこに出入りする団も異論はない。

そのためのルールができた。その引っ越し客に、最初にアプローチをかけた拡張員、もしくは店の勧誘員に交渉の優先権を譲る。

但し、そのとき、客の好みを必ず聞く。それが、勧誘する新聞やったら、そのまま契約したらええ。また、どこでもええという返事でも、そのまま契約する。

客に好みがあると分かれば、その新聞販売店に交渉の優先権を譲る。それを遵守する。それがルールや。

何で、こんな紳士的な条件で各販売店が納得するのかというと、この新入居者に限り、各社1年契約で順番に契約をその日に結ぶということに決めたからや。

この地域に引っ越ししてきた集合住宅の新入居者は、否応なしに全国紙4紙の契約を1年毎の4年間、強制されるわけや。もちろん、これは、客を無視したやり方ということになる。

ただ、不思議とそれについての苦情は少なかった。「この地域は、新聞販売店の協定でこういうシステムになってます」と説明すると同時に、他では考えられんくらいのサービスをその客たちにしたからや。

内容は、いろいろ差し障りもあるので省くが、破格の条件やと言うてええ。

これが、結果的に交代読者を自動的に作り上げることになってしもうた。

もちろん、これは、このケースだけの限定で始められたことやけど、どうしても、それだけには留まらんようになる。

いつも間にか、拡張員同士が集まって、他の客とも情報交換するようになった。その輪を拡げたわけや。

それ以外でも、そういうシステムが隠れてできていた。それが、他より拡張員同士を気安くさせとる理由ということになる。

客にもまた、サービスが良ければ、新聞はどこでもええという人間も多かったということがある。

それには、多分に関西人気質というようなもんが影響しとるのやないかと思う。

損をするのは、絶対嫌やけど、得するのなら少々のことは目をつむるというやつや。どうせ新聞なんかどこのでも同じことしか書いてないという思いもあるしな。

余談やが、この辺りの購読率が各社拮抗しとるという背景には、こういう事情
も少なからずあったわけや。

しかし、どこの世界でもそうやが、紳士協定というのは、そう長続きするもんやない。

その1年毎の4年以降は、自由競争や。ただでさえ、過度なサービスに慣れとる客の奪い合いになるのやから、その競争は程度を超え、エスカレートするのは目に見えてた。

そして、それが、拡張戦争と呼ばれるものにまで発展していくことになる。それは、もうちょっと、先のことやがな。

今回の事件は、その少し前、正に、紳士協定が守られとるとされてた最中でのことや。

「ヤマちゃん、最近どうや」

ヤマザキの入店日が今日やというのは、知ってた。それで、いつもの喫茶店に呼び出したわけや。

「あかん。交代以外のカードはさっぱりや。その交代も、最近は、専業に食われ気味やしな」

「ところで、ヤマちゃん。専拡の話はどないなったんや」

実は、ワシが、ヤマザキに確かめたかったのは、このことやった。以前、話をしてたときに、A紙の販売店から、団に打診があり、ヤマザキがそうなりそうやったということを聞いとったからな。

「あかん、あれも、もう流れそうや。ドンガメのおっさんが、ここ最近、急に頑張り出したさかいな」

ドンガメというのは、現在、A紙の専拡で、ワシと同じような立場の奴や。名前は亀山(仮名)という。

その亀山とは、ワシも何度も話たことはある。まだ、若いはずなんやが小太りで、覇気というか若さが微塵も感じられん奴やった。

話し方もスローなら、動きも鈍い。そんな男やった。それもあってか、仲間からドンガメとあだ名されてた。成績ももう一つということで、馬鹿にもされてたようや。

専拡にも二種類あって、販売店が独自に雇うのと、団から専属員として派遣するのと両方いとる。この辺りで言う専拡というのは、後者の方が多い。

「どういうことや?」

ワシは、思わず身を乗り出して聞いた。

「ドンガメのおっさん、どういうわけか、ここ1週間くらい、えらい勢いでカードを上げ出したんや」

ヤマザキの話によると、A紙の販売店の所長が、団にもっと腕のええのと交代させてくれと言うてたそうや。

しかし、この世界は、ちょっと成績を上げ出すと、ころっとその評価が変わるということがある。今は、その所長も喜んで、カメ様、カミ様、亀山様とまで言うてるという。

現金なのも、ここまでくると、アホに映るがな。それほど、この業界は、短期間での成績が問題視されるということになる。もっとも、それを評価する人間にも問題はありそうやがな。

「あの亀山か……」

「せやけど、ゲンさん、何でそんな話を聞きたがるんや」

「いや、別に、ワシもあやかりたいなと思うてな」

「アホな。何ぼ、ドンガメが気張ったかて、ゲンさんの足下にも及ぶかいな」

「おいおい、ヤマちゃん、ワシを持ち上げても何も出んで」

「ごちそうさん」

結局、そこでの昼飯代とコーヒー代を出す羽目になった。もっとも、呼び出した時点で、それは覚悟してたけどな。

それでも、得た情報としては収穫はあったから、まあ、ええやろ。その後、Y紙、M紙の拡張員にも、一応話は聞いた。

翌日。マタやんからも話を聞いた。

「うちで抜かれてた4軒とも、A紙が入ってましたわ」

その内、マタやんが抜かれてた家へは、シゲルが配達しとるという。

さらに、Y紙、M紙でも、不配が頻発しとるとのことやった。予想通りや。

「それで、シゲルの話やと、その家の契約を取ったのが……」

「亀山か」

「ど、どうして、ゲンさんが、それを?」

「他もか?」

「ええ。それじゃ、犯人はやっぱり、その……」

「亀山やろな」

すべての状況証拠が、それを示しとる。不配があった家の4軒が揃ってA紙を購読し、その契約をすべて同じ人間がしとるというのも、都合が良すぎるし、そんなタイミングはあり得ん。

さらに、専拡ということで、この地域に生活圏があるから、抜き取りをやろうと思えば、難しいことやない。ちょっと、早起きすれば済む。

しかも、亀山は、その専拡を外されそうやったという切羽詰まった動機も見える。最初は、少しだけという気持ちやったのやろうが、それでは、収まらんようになった。

そういうことやと思う。おそらく、調べて行けば、もっと符合することが見つかるかも知れん。

現在、確実なのは4軒だけやが、とてもそれだけとは思えん。抜き取りがあっても、発覚してない所もあるはずやからや。

ワシの経験からも、そういうのは結構多い。不配があっても文句を言わん人間というのは珍しないからな。もちろん、腹は立てとる。ただ、それが言えんだけや。

そういう人間と、出会せば、それも簡単に成約となる。ちょっとでも、拡張員をやってれば、誰でも経験することやと思う。

急速に成績を伸ばしとることからいうても、かなりな数やってるはずや。

しかし、証拠がない。状況証拠だけを突きつけても、白を切られたら、それまでや。下手したら、こちらがまずい立場になる。どうしても、その証拠がいる。

そうは言うても、その証拠を掴むというのは、簡単なことやない。一番確かなのは、抜き取りの現場を押さえることやが、そう都合よく目の前でやってくれるわけがない。

どこかで、張り込むにしても、どこに狙いをつけるか分からん。この地域全体をカバーすることは、とても無理や。ざっと、2万世帯はあるしな。

やる人間も、人目につかんように最新の注意を払う。目立つことはせんはずや。しかも、その犯行は一瞬で済む。また、そういう所を狙う。

後を尾行するにしても、早朝の2時、3時からということになると暗い。徒歩なら、まだ、気付かれずにという方法もあるが、単車や車やとヘッドライトの明かりで、それも無理や。

かなり、やっかいなことには違いないが、そこは、ワシのことやから何とか考える。

実際に、その現場を押さえることに成功したからな。

但し、その解決編は、悪いが次回に持ち越しとなる。暇な人は、それまで、ち
ょっと、その解決策を考えてほしい。

ヒントは今回の話の中にある。分かってしまえば、なんやということになるかも知れんがな。

まあ、下手な推理小説やと思うて解いてみてほしい。これは、実際にあったことやから、新聞関係者には参考になるかも知れんな。

但し、この話の結末は、犯人を暴いたという達成感より、やりきれんという思いの方が強かった……。


後編へ続く


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