メールマガジン 新聞拡張員ゲンさんの裏話

第92回 新聞拡張員ゲンさんの裏話     

発行日 2006.5.12


■ゲンさんのトラブル解決法 Part 3  騒音トラブル


「ゲンさん、今日、時間あります?」

そう言うて、カポネのマスターから電話があった。

「珍しいな、マスターから電話やなんて」

「ゲンさんに、ちょっと相談に乗ってほしいことがあるんですけど……」

「誰か、殺(バラ)すんか?」

「場合によれば……」

「何やて?」

「冗談ですよ……」

そう言われても、カポネのマスターからの言葉やと、どうしても冗談には聞こえんから不思議や。しかも、声に冗談で交わすときの明るさがなかったから、よけいにそう思う。

このカポネのマスターというのは、このメルマガにも過去、2度ほど登場しとるから、覚えておられる人も多いかも知れんが、念のため簡単に紹介しとく。

ワシが初めて、カポネのマスターと出会ったのは、4年ほど前や。

ある飲屋街に新聞の勧誘に行った際、たまたま入った店の店主やった。そこは、まだオープンして間もなかった。

大柄でスキンヘッドでいかつい。一見して、筋者と見えんこともない。ワシもそういう連中は良う知っとるからすぐ分かる。筋者というか極道には特殊な臭いがするからな。

ただ、この男は、それとは違う。と言うても、ただの素人にも見えん。ある意味、極道よりも危険なものを秘めとる。そう思わせるオーラを感じさせる。

これが、ワシがカポネのマスターから受けた第一印象やった。

しかし、人は見かけによらずという通り、付き合えばなかなか気のええ男やというのが分かる。

カポネのマスターというのは、ワシがつけたあだ名で、その店の名が『カポネ』というわけでもない。

アメリカのシカゴ帰りということで、その風貌から勝手にワシが命名した。我ながら言い得て妙やと思うてる。

もっとも、シカゴと言えば、ギャングのアル・カポネくらいしか思い浮かばんかっただけのことやけどな。

そこで、バーテンダーをしていた経験から、日本に帰ってきて小さなスナックを始めたという。

雄弁でなかなかの博識や。酒、特にウイスキーに関するうんちくは一流や。

プロやから、当たり前と言えば当たり前かも知れんが、日本のスナック経営者で、このカポネほど酒についてのうんちくを語れる者を、ワシは知らん。

どの酒をどのようにして飲ませたら、より儲かるかということの詳しい者は多いがな。

ワシは、仕事が終わって、夜の11時頃、店に行った。

相変わらずと言うてええのか、たまたまと言うてええのか分からんけど、客は誰もおらんかった。

お世辞にも、流行っとるという店やない。と言うより、意図的に客を少なくして、寄せ付けんようにしとるのやないかとさえ思える。

いかついスキンヘッドの大柄で柄の悪そうな男が一人、カウンターの中におるだけで、お姉ちゃんなし、カラオケすらないスナックというのは今日び考えられんことや。

そこには商売気というのがまったく感じられん。何か裏があると思われても仕方ない。店をしとるのは、世を欺く仮の姿ということでな。

手垢もついて少し臭いきらいもするけど、ハードボイルドの小説を書く上で、それなりのシュチュエーションとしては面白いものがあるとは思う。

それが、冒頭の「誰か、殺(バラ)すんか?」という会話につながる。

「今日、ハカセは?」

「あかん、やっこさん、今、肺炎で死にかけとる。病院や」

「えっ、入院されとられるんですか。大丈夫なんですか?」

「昨日、見舞いに行ったけど、思うたより、元気そうやった。声も満足に出んのに『ゲンさんに電話でインフルエンザをうつされた』と憎まれ口を叩いとったからな。くたばることはないやろ」

ワシも今年の1月の後半に、インフルエンザで3日ほど寝込んだことがあった。

「ゲンさんが?まるで、鬼の霍乱(かくらん)ですね」

そう、笑い飛ばされた。そのときは、一瞬やけど、ほんまにインフルエンザをうつしたろかと考えた。

実際は、しばらくハカセの家には寄りつかんかったけどな。連絡は、ほとんど電話で済ませた。

その電話線を辿り、そのときの菌が今頃になって襲うてきたんやないかと言う。

そんな、冗談を言えるようになっとるくらいやから、もう、大丈夫やと思うと言うたわけや。

もっとも、ハカセやったら、死ぬ間際でも、気の利いたジョークを必死で考えて言いそうやけどな。

「実はあるお客さんから、新聞販売店の迷惑行為について相談されたのですが……」

「販売店の迷惑行為?」

カポネのマスターも、ワシらがこのメルマガやHPをやってることは知っとる。

マスターもそれに嵌り込んだということで、すべてを読破したらしい。本人曰く、熱烈なファンということや。暇なということもあるやろうけどな。

店に来る心やすい客とそのメルマガやHPの話をすることが、たまにあるという。すると、中にはそれに興味を示す客もいとるらしい。

「もちろん、その人には、私がメルマガやサイトのファンということで、実際にゲンさんやハカセと知り合いだというのは言うてませんけどね」

その中の一人が、かなり深刻な悩みを相談してきたという。その人間の名は、三国(仮名)という、まだ、30前くらいの若い男で新婚間もないとのことや。

三国は、結婚と同時に、この近所の新興住宅街に家を購入した。7,8ヶ月ほど前のことやという。

道路を挟んで向かいは、その当時、まだ空き地やった。

そこに、今年の3月、3階建てマンションが建った。その一階部分すべてが新聞販売店になったという。少なくとも100u以上はある。新聞販売店としてはかなりの規模の店ということになる。

その日を境に、その販売店の騒音に悩まされ始めた。

三国夫妻は、たいてい夜の12時頃に寝る。

ところが、深夜1時頃から、新聞を搬入するトラックのエンジン音に始まり、慌ただしくシャッターを開ける音がして、大勢の従業員の話し声、笑い声、ときに怒鳴り声が、深夜の寝静まった住宅街に響くようになった。

それで必ず目が醒める。最初のうちは、彼らも仕事だからということで我慢せなしゃあないと思うた。しばらくすれば、その音も止むだろうと考えた。

しかし、それは、明け方、6時くらいまで止むこともなく延々と続いた。

三国夫妻は共稼ぎをしてた。翌日、夫婦は寝不足のまま仕事にでかけたという。

そういうのが、2日続き、このままやったら体が持たんと思い、3日めの深夜、その販売店に掛け合いに行った。

「もう、少し静かにお願いできませんか。眠れないし、近所迷惑なんです」

三国は、極力、気持ちを抑えて穏やかな口調で言うたつもりやったが、返ってきた言葉に耳を疑った。

「何やて、兄ちゃん、変なことを言わんとけや。こっちは、遊びでやっとんのと違うんや。仕事しとんねん。そら、ちょっとくらいは音がするかも知れんけど、そんなものしゃあないやんけ」

そう恫喝された。応対に出た男は、いかにもヤクザっぽい雰囲気やったということや。

三国は怖くなり、その場はそれで引き上げた。

三国がそう言うたことは裏目に出た。その日以降、店先でわざとらしく大声で話し出すようになった。その主な声の主は、あの応対に出た男やったという。

三国夫妻は、寝室を変え、夜も早く寝ることにしたが、その時間が来るとどうしても目が覚めてしまう。

耳栓もしてみたが、あまり効果はなかった。慣れんことをすると却って寝にくい。

人はこういう状況に置かれると辛い。そのことが気になると、どんな些細な音であろうが反応する。その時間が来て、何かの音が聞こえただけで条件反射的に目が覚める。

避けようとすればするほど、気持ちはそれに引き寄せられる。それが、今では嫌がらせも加わっとると考えれば尚更そういう気持ちになる。

気にせんとおられんわけや。そうかといって、我慢できんからと、今度、怒鳴り込んでいけば、まちがいなく喧嘩になる。

そうなれば、あの男だけやなしに、店には数十人もの同類の男たちが出入りしとる。どうなるか結果は見えとる。

自制が利かず、自分で何をしとるのか分からんようにでもなるのなら別やが、三国に他人と喧嘩する根性はない。とてもやないが、再度、文句を言うて行く気力もなかった。

翌日、三国は、新聞社に苦情の電話を入れた。

応対に出たその新聞社の担当者は「販売所に注意しておきます」と返事はしたそうやが、その後も、相変わらずで何の変化もなかった。

三国夫妻の我慢も限界を超えた。ある日の午前2時頃、あまりの騒音に耐えきれず、110番通報をしたという。

その場で、駆けつけた警官に事情を話すと「新聞店に、きちんと注意しときます」ということで、実際、そうしとった。

その後、2,3日は、その販売店でも気を遣ってるような感じで、若干、騒音は少なくなったように思うたが、すぐ、またもと通りになった。

市役所の相談窓口にも行った。

相談窓口の担当者の話では、騒音規制については、特定の機械などを用いた工場などにしか市として強制力のある指導はできんということやった。

そう言われても三国は納得できず、役所でいろいろ調べたところ、現在、その販売所がある地域は「第一種低層住居専用地域」ということで、建築物に対して最も規制が厳しい地域やったというのが分かった。

まず、単独の営業目的の建物は建設できんし、建設できる営業目的の建物は、住居施設との共用使用に限られ、更に、建物全体の床面積に対し、営業使用部分が住居部分の二分の一以下であることと、使用床面積が50u以下であることが条件となるということやった。

そのマンションの 1階部分すべてを販売所が使用しており、とても50u以下ということはなく、少なくとも100u以上は悠にあるというのは誰にでも分かる。

これは、完全に違反行為や。そう言うて、再度、その市の担当者に詰め寄った末、「市から注意しておきますので」という返事が貰えた。

実際、その注意が市から届いたのか、その後、1週間くらいは静かになった。やっと、効果があったと安心したら、また、同じように騒ぎ出した。

万策、尽き果てた。

賃貸なら、簡単に他に移ることができる。しかし、三国夫婦は、30年の住宅ローンを組んで、その家を買うたばっかりや。

他に行くことはできん。しかし、こんな状態を後、30年も辛抱せなあかんのかと思うと、気が狂いそうになる。

そんなとき、夫婦でカポネの店にやってきた。

どうせ、眠れないのなら、酒でも煽ってという気持ちが働いたという。酔いつぶれれば眠れると考えた。半分、自棄にもなっていた。

それと、マスターが気に入ったらしく、愚痴を聞いて貰えるというのもあったようや。

その後、夫婦はほぼ毎日のように、夜12時過ぎくらいに来るようになった。

この販売店の騒音問題というのは、全国に結構あることや。珍しいことやない。サイトのQ&Aの相談にも、そういうのは多い。

但し、その多くは、非公開を希望する。事情をサイトに公開すると、その販売店に相談者が特定されるのやないかと危惧する人が多いからや。

当然やけど、その相談者は、その販売店の近所に住んどるということでな。

せやから、過去、騒音問題についての相談でサイトにアップしたのは、今のところ『NO.137 近所の販売店での騒音で困っています』と『NO.195 販売店の騒音に悩まされます』の2件だけしかない。

このうち『NO.137 近所の販売店での騒音で困っています』では、全国の新聞販売店関係者の方々に、この問題でアンケートを依頼したから、その対策の参考にするにはええと思う。

「その販売店というのはどこや?」

「A新聞のアイ販売店と言うてました」

「アイ販売店か……」

ワシも、話でそうやないかとは思うてた。それを敢えて確認したわけやが、ちょっと、やっかいな相手のようや。

少なくとも、この問題に、ワシが表立って出張るわけにはいかんのは確かや。もっとも、そのつもりもそうする義理もないがな。

マスターにしても、それをあてにして、こんな話をしたわけやないやろと思う。

ワシが、現在勧誘しとるのは、Y新聞や。その系列の販売店やったら「今日、勧誘に行ったら、こんな苦情を聞いたんやけど、注意しといた方がええで」と言える。

他新聞販売店の場合、それはできん。特にワシの場合は、拡張員やから、相手の拡張団をも刺激する。

ワシが何かを言うたくらいでは、問題はややこしくなっても解決することはまずない。

そのアイ販売店というのは、支店を7店舗ほど出しとる大規模販売店や。本店は3階建てのビルを構えとる。従業員総数は常時200名を超えるという。販売総部数は公表で5万部に及ぶ。

ワシが、やっかいやという理由は、こういう巨大店舗には、往々にして新聞社の管理や締め付けが及ばんということがあるからや。

たいていの販売店は、新聞社に頭が上がらんのが普通やから、その指示に逆らうようなことはまずない。新聞社から注意が行けば、それでおとなしくなる所が多い。

しかし、部数の多い巨大販売店は、新聞社に対して売ってやっているという思いが強いから、どうしても横柄になりやすい。

新聞社も、部数至上主義の観点からも、そういう販売店に対して弱腰になるから、何かを言うにしても、どうしても遠慮がちになる。

せやから、今回、三国が新聞社に言うたような苦情は、おざなりにされる可能性もある。

それは、警察、市といった公共機関からの注意にも言える。

こういう新聞販売店は、単に巨大というだけやなく、その経営者が地域の名士というのも少なくないということが多い。それへの配慮もあるようや。

さらに加えて、その経営者が、たちが悪ければ、やっかいやとなるわけや。もちろん、巨大販売店のすべてがそうやと言うわけやない。

大規模販売店で規律の正しい販売店はいくらでもあるさかいにな。むしろ、その方が多い。本当にたちの悪いというのは、極一部やと思う。

そうでなくても、この騒音問題というのは、難しい面がある。

それは、その販売店に迷惑をかけとるという意識が少ないということがあるからや。

それには、仕事やからある程度のことは仕方ないという思いがどこかにある。無音で仕事なんかできるはずはないという思いや。

せやから、今回のケースのように、逆切れされることもある。言われた側からすれば、無理を言うなという気持ちになるということや。

ただ、それで、あきらめては迷惑を被っとる方は堪らんと思うから、ワシの知る限りの対処法を教える。


新聞販売店に対しての住民の騒音対策

1.迷惑やという意思表示をその販売店にする。しかし、これは、現場の作業員に直接言うのは拙い。三国がええ例で作業員からの反発を受ける場合があるからな。

その意思表示をするのなら、そこのトップにすることや。たいていの販売店ならそれで済むことの方が多い。従業員に対して近所の住民に迷惑をかけるなと言うのが、普通や。

2.新聞社に苦情を言う。これも、たいていは「注意します」と言うはずや。これで、効果ないとなれば、普通は言うてもあかんと思い二度と言わんようになる場合が多い。

しかし、これは、効果はなくとも二度、三度言う方がええ。実際に、その注意が現場まで伝わってないというケースもあるからな。

あっては、ならんことやが、新聞社から注意を受けた人間が、それを握りつぶしてたということが、実際の相談にあったからな。

これは、二度目に同じ苦情を新聞社に言うたことで分かったという。その相談者の苦情を伝えた新聞社の担当者が不審に思い、直接、経営者に連絡したことでそれが分かった。

販売店の規模が大きければ大きいほど、そういう傾向があるようや。

3.よほどの場合は、役所や警察などの公共機関に相談や通報をする。その際、具体的な被害状況が示せるようにしとく。

被害者宅や周辺からのビデオ撮影というのも、その証拠になり得る場合もある。但し、その際、役所には繰り返しの相談、通報は2.と同じで効果的な場合があるが、警察への通報は慎重にしといた方が無難やと思う。

新聞販売店のそれは、暴走族辺りが騒いどるのとはわけが違うから、よほど酷いと客観的に思える程度でないと、何度もというのは控えた方がええ。場合によれば、逆効果になる畏れも考えられる。

警察は、あきらかな違法行為しか取り締まることができんというのが原則やと認識しとく必要がある。

深夜の新聞販売店の営業行為というのは、ある程度まで仕方ないという、暗黙の了解のようなものが世間一般にある。また、そう思われとる。それを騒音と認定するのは、かなり厳しい条件、状況が必要になるということや。

1度目は、警察も、出向いた手前、注意はするやろうが、それにしても「深夜やから、ちょっとは考えたって」という程度のもんや。それ以上、警察に要求するのは無理があるということになる。

4.近所で同じような苦情を持つ人間を募り、なるべく複数で苦情を言う。これは、結構、効果的や。

同じように迷惑やと考える人間がいとるとなると心強いもんや。販売店側も複数やと無視もできんやろしな。

但し、こういう相談をされて来られる方は、日頃から近所との付き合いというのが、あまりされとらんというケースが多いようや。

近所と普段からそういう付き合いが密やと、すぐ団体で行動を起こすという発想をするやろから、ワシらのところまで相談するというのは少ないということになる。

5.地域の有力者に相談する。その販売店を管轄する町内会の会長なんかがええと思う。

そういうのに弱い販売店というのも多い。販売店も地域の有力者と揉めるのは拙いと考えるから、かなり効果がある。

販売店は、その地域のみで仕事をしとるわけやから、地域の人間と敵対するようなことは避けるのが普通や。

実際、この騒音問題に関して町内会の会長さんや役員さんが関わったケースはほとんどが解決しとるとのことや。

市会議員、町会議員さんというのも、人により積極的に動いてくれることもある。変わったところでは、地域の民生委員さんの尽力で解決されたとの報告もある。

いずれにしても、地域の有力者に動いて貰えれば解決は早いようや。

6.ただ、解決というても、そこで仕事をするなとは言えんから、どうしてもいくらか音はする。完全に無音というのは仕事の性質上、無理や。

どうしても、気になるのなら、寝室だけでも防音工事をしとくことやな。

住宅における防音対策や防音設備には、防音サッシや防音ドアに代表されるように開口部からの音を遮断するだけでもかなりの効果があるとされとる。

RC住宅(鉄筋コンクリート住宅)なら、それでほぼ完璧やが、在来工法の木造住宅やと、それだけでは不十分やから、防音壁、防音シートまで考えなあかんかも知れん。

費用は多少かかるかも知れんが、一考の余地はあると思う。

7.敢えて、客になるという方法もある。そこから、勧誘員が来れば、それとなく騒音について配慮して貰えれば購読を考えるという趣旨のことを言う。

それを考慮して貰えれば、新聞を取ってもええと言うわけや。勧誘員もそれが条件で確実に客になるということなら、積極的に店にかけ合うことも考えられる。

どんな店も、客が迷惑するとなれば、それを無視することもないやろしな。但し、その場合、他の新聞に切り替えにくいということは覚悟しとかなあかんと思うがな。


この騒音トラブルというのが、新聞トラブルの中では一番長引くようや。実は、サイトの相談事例にもそういうのは多い。解決まで、数ヶ月要したというのも珍しいことやないからな。

例え、一時はそれで話し合いがつき、静かになったようでも、日が経つとまた、その騒音がぶり返すというのを良う聞く。

これは、そこで従事する人間の質にもよるのやが、慣れに従いどうしても気が緩むということが起きるからのようや。

結論として、この騒音トラブルに関しては選択肢が限られることになると思う。

積極的に解決を図る。防御(防音)を考える。我慢してあきらめる。転居する。その新聞の客になる。という程度やな。

その内、どれを選ぶかは当事者が判断するしかない。

店に、若い夫婦連れの客が入ってきた。もうすぐ、深夜の12時になろうとしていた。

とっさのマスターの目配せから、それが三国夫妻だと分かった。

話を聞いていた所為かも知れんが、その旦那の方は、想像通り、痩身で神経質そうな感じのする男に見えた。

「マスター、また来る……」

「ゲ……、白塚さんによろしくお伝えください」

「分かった」

マスターは「ゲンさん」という言葉を呑み込んだ。

メルマガやHPの話をその三国にしとるのやったら、それで、ワシの正体が知れるかも知れんということをとっさに考えたのやろと思う。

1,2度なら、こういう話は客の愚痴として聞ける。それも仕事の内と考えることもできる。

ただ、度重なるうちに何とかしてやりたいという気にマスターもなったのやろと思う。それで、そのヒントをワシから聞きたかったというところやろ。

外見のわりには、情にもろい面も持ち合わせとるようやからな。

それとも、毎晩、来られたら困る事情でも何かあるのかも知れんがな。裏の稼業ができんとか……。それで、事の解決を急ぐ……。

どうも、カポネのマスターを見とるとその考えを払拭できそうにないな。


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