はじめに
悪質な新聞の勧誘に悩まされている方が多いという話は良く耳にします。しかし、それについて語られた、あるいはその対処法が示された書籍というものは、過去ほとんど出版されていませんでした。
それには、この悪質な新聞勧誘の実態を取り扱うこと自体、タブー視されてきたということが最大の要因だと言えます。
新聞社およびテレビやその他のマスコミ関係者が、かたくなにそれを守ってきたという歴史があります。
ただ、私も、新聞業界全体が、そういう悪質な勧誘に対して否定的な見解を持っているというのは良く知っています。その自浄につとめ、撲滅に力を注いでいるのも事実です。
しかし、哀しいかな、それが一般には伝わっていません。また、伝える努力もしていないと思われます。少なくとも、一般読者にまでは、それが届いていないのは確かなことですから。
新聞購読者を獲得する営業のことを「拡張」と言います。その専門営業会社を「拡張団」、そこで実際に営業している者を「拡張員」と長く呼ばれてきました。
それが、ここ三年ほどの間にその「拡張員」という言葉は、放送禁止用語に指定され、新聞、テレビなどのマスコミでは一切、使われなくなってしまいました。
現在は、「拡張員」のことを「新聞セールス・スタッフ」と呼ぶよう業界関係者には、新聞各社から通達されています。ちなみに、その営業会社である拡張団は「新聞セールス・チーム」と言います。
この「拡張員」という言葉は、昭和二十年代から、およそ六十年近くも業界で言い習わされてきたものです。実際、世間一般では「新聞セールス・スタッフ」という呼び名より「拡張員」の方が、まだまだ一般的なので、本書では「拡張員」と表記することにしています。
その言い換えを業界関係者に通達することで一般にも認知させようというのは、この「拡張員」と呼ばれる営業員の勧誘に問題があると新聞社自身が感じたからに外ならないと思われます。
それには、「臭いモノには蓋」式の日本社会全体に覆われている悪しき風習が、新聞業界にも蔓延しているためでしょう。良くも悪くも隠蔽しているという構図がそこにあるわけです。
今まではそれで通用してきたかも知れませんが、これだけインターネットが普及した現代において、それを隠し通すことは、とても無理なことだと言わざるを得ません。
ネット上には、そういう悪質な勧誘が引き起こすトラブルを暴露することで、新聞業界に対するバッシッング記事が氾濫しています。業界関係者以外で、新聞擁護派のサイトを探す方が、はるかに困難と言えるほどです。
新聞業界の影響力のためか、テレビをはじめとする、ほとんどのマスコミで、そのことが報じられることは、今のところまだありません。 それは、出版業界についても言えることだと思います。
どこの本屋に行っても、新聞の勧誘について突っ込んだ内容のものも、その手のタイトルのものもありません。少なくとも、私には見つけることはできませんでした。
新聞社自体を批判した内容の本なら、いくつか見当たりました。しかし、その中でも、新聞勧誘に触れたものは皆無とは言いませんが、少ないのは事実です。
もちろん、それには、その詳しい実態を知っているという筆者がいなかったということもあったでしょう。しかし、それだけではなかったのではないかと思えるふしもあります。何か圧力のようなものがあったのではないかと。考え過ぎかもしれませんが。
真に新聞関係者の方が、過去の勧誘について反省されるのなら、その良い所、悪い所のすべてをさらけ出すべきだと思います。隠蔽体質からは、何ら新しいものは生まれないのではないでしょうか。
本書は、ホームページ『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』の『新聞勧誘・拡張問題なんでもQ&A』コーナーに寄せられた実際の相談内容の中から、代表的なもの選出して、新たに編集し直したものです。加えて、相談者の都合でポームページ上に不掲載とした内容のものも含まれています。ですから、ホームページの読者の方にも、楽しんでもらえるものになったと確信しています。
主な回答者は、私の友人で、現役の「拡張員」を十三年間続けている通称「ゲン」さんという人です。彼は、過去に他の営業で、苦情処理係りの経験もあり、その回答には説得力があると、ホームページ上では、それなりに評価されています。
「泥棒に入られたくなければ泥棒に聞け」ということがあります。何でもそうですが、その道のプロに聞くのが一番確かなことだと思います。
尚、本書での法律的な解釈は、ホームページに無料で顧問をしていただいている『今村英治FP労務行政事務所』の今村英治氏のご助言を参考にさせてもらっています。
本書を手にされることにより、一人でも多くの方に新聞勧誘のしくみを理解していただき、トラブル防止に役立てていただけるよう願っています。また、販売関係者の方からの質問も数多く収録してありますので、販売店の経営、拡張の営業に関しても得られるものが多いのではないかと自負しています。
最後に、お断りしておきますが、本書は新聞勧誘の実態を暴くという趣旨のものではありません。ですので、実名での批判は避けさせていただいています。
それでは、ホーページ同様、全編関西弁で語られているゲンさんの軽妙で面白く、含蓄の深い世界をお楽しみください。
二00七年 八月 白塚 博士
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