ゲンさんのちょっと聞いてんか
NO.8 違法な施設・私のしごと館
寄稿者 Mさん 奈良市在住 投稿日時 2009.8.26 AM5:50
ゲンさん、ハカセさん、今日は。
裁判員制度に対する意見を取り上げて頂いた奈良市在住Mです。
『NO.767 団の募集で素人に限るところが多いようですがなぜですか?』の中で、
★ルール違反に頼って仕事せなあかん仕事なんかする値打ちがないと思うがな。
とあり、新聞とは関係ありませんが、少し感ずる所がありましたのでメールします。
それは「私のしごと館」です。
私のしごと館はマスコミでも建設費580億、運営費10〜20億と言う無駄遣いの象徴の様な巨大な箱物として取り上げられて来ましたから、ご存知かもしれませんが、仕事に関する疑似体験をベースにした啓発教育を行う目的で、厚生労働省の外郭団体である独立行政法人雇用・能力開発機構が建設した施設です。
場所はけいはんな[1]で、オープンは2003年です。
けいはんなとは関西に於ける研究所が集積した街を目指して拓かれた、生駒山から見ると12時から3時の方角にある広大な地域ですが、私のしごと館はその中でも京都府南端と言うより奈良市からちょっと北、と言えば分かりやすい地域にあります。
さてこの私のしごと館の何処に問題を感ずるか、と言えばそれは雇用保険で運営されている点です。
雇用保険は、労働者負担分と事業主負担分とがあってややこしいのですが、失業等に際しての給付の他、雇用安定事業・能力開発事業と称する、間接的に労働者、求職者を支援する事業にも使われています。
私のしごと館は厚生労働省によれば、この能力開発事業の一環[2]です。
となるとどんな能力が想定されているのか気になる所ですが、私のしごと館でやっている事は職業訓練らしい訓練ではなく、夏休みの工作教室の様な疑似体験です。
対象者も厚生労働省によれば「主として中学生・高校生」[2]であり、本当に仕事を求めている人ではありません。
更にダメ押しをしますと、実は私のしごと館は今、公設民営の様な形で委託運営されているのですが、その為の基準を考えていた頃の資料[3]にも、
★将来の職業選択、学部・学科選択に資するものになっているのかどうか。
とあります。
今や中学生の進学率は新聞の普及率並ですし、高校生であっても「将来の職業選択」と言う表現からは今、この瞬間には職探しをしていない様子が窺われます。また「学部・学科選択」も進学志望であり、就職志望ではない事を匂わせています。
ですから厚生労働省が認識している「中学生・高校生」は労働者、求職者には該当しませんが、そうすると私のしごと館は雇用保険の主旨からの逸脱であり、もし本当に有意義なら文部科学省の業務ではないのか、と思えて来ます。
こうした疑義は、雇用保険を規定する雇用保険法[4]を見ても正当なものです。
雇用保険法はその第62条に於いて「被保険者、被保険者であった者及び被保険者になろうとする者」、要するに労働者・求職者に対する雇用安定事業を規定しています。
続く第63条は、同じ対象者に対する能力開発事業を規定しています。中高生の教育もやっていい、とは書いてありません。
第65条は例外規定で、余裕があれば労働者・求職者以外を受け入れてもいい、と述べていますが、もし私のしごと館の根拠がこの第65条でしたら、前述の「主として中学生・高校生」と言う表現も、もっと違った言葉になるのではないでしょうか。
公的機関はこうした場合、建前に拘りますから、例外規定を前面には出しません。
現在、私のしごと館は2010年8月迄に廃止される事が閣議で決まっています[5]。厚生労働省がどう折れたのか分かりませんが、まさに
★ルール違反に頼って仕事せなあかん仕事なんかする値打ちがないと思うがな。
となってしまいました。
ここで敢えて私のしごと館を惜しむ言い方をするならば、もし、
★今の様な目的で税金で
或いは
★通常の職業訓練を目的として雇用保険で
運営されていたならば、廃止の対象として注目を浴びる事もなかったのではないでしょう
か。
前者に関して言えば、例えば私のしごと館の西には国立国会図書館と言う、規模でもオープンした時期でも似た巨大施設がありますが、マスコミやネットでも殆ど注目されていません。
厚生労働省自身も私のしごと館の収支を博物館・美術館と比較していますが[6]、四捨五入すれば国立美術館と同程度(10%)であり、目くじらを立てる程ではなかったのかもしれません。
後者に関して言えば、ポリテクセンター等は可能な限り都道府県に移管[6]すべきとなってはいますが、廃止ではありません。
この差は何でしょうか。
いずれにせよ、ルールは守りたいものです。
[1](財)関西文化学術研究都市推進機構
[2]厚労省 第1回私のしごと館のあり方検討会 資料3
[3]厚労省 第2回私のしごと館のあり方検討会 資料7-2
[4]雇用保険法
[5]閣議決定
[6]厚労省 第1回私のしごと館のあり方検討会 資料5
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