メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第104回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2010.6. 4
■悪徳業者の甘い罠 その3 シロアリ被害の実態について
「ゲンさん、シロアリ業者が来て、床下にシロアリが発生しているのでシロアリ駆除をしないと家が危険だと言われたんですけど、した方がいいでしょうか?」
馴染みの交代読者である主婦のカオリから、そう相談された。
交代読者というのは、その名のとおり、2紙以上の複数の新聞を定期的に交代で講読する人のことをいう。
新聞販売店の中には、あまり歓迎したくないという向きもあるが、拡張員にとっては有り難い顧客ということになる。
それも、カオリのように名指しで特定の拡張員だけとしか契約をせんという人は特にそうや。
カオリの家では、旦那の祖父の代から、ある新聞だけしか講読してなかったという典型的な長期購読者やった。
それが、あることをきっかけに、交代読者になった。
それは、今から2年ほど前の6月初頭のことやった。
今年のように5月も終わり6月になろうというのに、まだ肌寒いという感じとは違い、真夏を思わせる暑さやったと記憶しとる。
その日、ある住宅街を勧誘で廻っていたとき、一軒の家の門扉付近で双方40歳代くらいと思われる主婦同士が激しい口論をしている場面に出会(でくわ)した。
その話の内容から隣同士と分かった。
普通の人は、こういうのがあると、あまり関わり合いになるのはよそうと考えるもんやが、ワシは逆に、それを見つけるとチャンスやと思うてしまう。
揉め事を解決すれば成約の機会が増すというのが経験的に分かっとるさかいな。
それもあって、しばらくの間、そのやり取りを離れたところから傍観することにした。
最終的に、片方の主婦が、「絶対に認めませんからね!!」と勢いよく自宅の玄関を閉めた。
それに対して恨めしそうに、また睨みつけるような視線を送っていたのがカオリやった。
ワシは、何げに通りかかった通行人を装い、カオリが自宅の門扉を開けて入ろうとしたその後ろから、「大変ですね」と声をかけた。
普通は声をかけるのも憚(はばか)られる状況やとは思うが、チャンスやと考えとるワシにとっては、そんな遠慮など微塵も頭にはない。
営業員たるもの、成約になるチャンスがあれば、例え燃え盛る火の中であっても飛び込むくらいの気概がなかったらあかんと思う。
カオリが振り向いた。
その視線は、つい今まで激しい口論していて興奮していたということもあり、噛みつきそうなくらい、怖くきついものやった。
それに対してワシは、まったく気にせん素振りを装って言葉を続けた。
「失礼とは思いましたが、今のやり取りを聞かせて頂いていると、オオヤマさんの言い分の方が筋が通っていますね」と。
このときには、まだカオリという名前は分かっておらず、表札に示されているオオヤマという性しか知ることができんかった。
ワシは常に、その家の表札を確認することを心掛けていて、それと分かり次第、その名前で呼びかけるようにしている。
名前で呼びかけることの効果は大きい。人は名前で呼ばれると一気にその相手との距離感が縮まるということがある。
また、見ず知らずの相手であっても、どこかであった知人と勘違いするということも起きる。
この場合は近所の「住人」という誤解を生じさせる可能性があるわけや。
勧誘する際、それと偽って近寄るのは違法性を問われかねん行為やが、相手が勝手に誤解する分には関係ない。
もちろん、この手法には賛否両論あるとは思うが、そんなことを気にするようやと訪問営業で成功することなど、とても覚束(おぼつか)んやろうと思う。
そうすることが営業員としての心得の一つでもあると、個人的にはそう考えとる。
それでも、カオリにはまだ警戒心が残っているようやった。半ば胡散臭そうにワシを見ていたさかいな。
「法律的には、お隣に断られてもリフォームのための足場は組めますよ」と、ワシ。
「えっ? そうなの?」
カオリのその視線と表情が一変した。
こういった場合、その事実があれば大袈裟にそのことを強調する。
その第一声で、その相手に味方と思わせて話に引き込むわけや。
これも、勧誘の手法の一つということになる。
「ええ、実は私は以前にも、今回のオオヤマさんと似たようなケースを経験したことがありますので……」
今から5年ほど前、このときからは3年ほど前になる。
2005年4月8日発行の旧メルマガ『第35回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル解決法Part1 隣家トラブル』(注1.巻末参考ページ参照)に同じような事案がある。
その一部を引用する。
隣家とは間隔が少なく、その隣家内の敷地だけでは足場を立てるのは無理やった。
そこで、この主婦の家の敷地に足場を立てることになった。
そこまでは、近所のことだからと我慢したらしいのだが、その工事が終わって3ヶ月後くらいに、その主婦の家で雨漏りがしたと言う。
その原因を業者に調べて貰うと、屋根瓦が数枚踏み割られた跡があるということや。
心当たりは、3ヶ月前の隣家での工事の時しかない。それまで、屋根に上がるような修理や工事はその家ではしたことがないさかいな。
過去に、その箇所での雨漏りなどもしたことはない。
主婦とそのご主人は、そのことを隣家に伝えた。
隣家も驚いて、すぐ、その業者と連絡を取ったと言う。
そこまでは問題なかった。
その後が揉めることとなった。業者は知らぬ存ぜぬという姿勢に出た。その瓦割れは以前のものやないのかと。
外壁の塗装工事で、隣家の屋根に上がって作業するはずがないというのが、その理由や。
そして、その隣家の住人も「業者さんが身に覚えがないと言うことですから、私らにその責任を言われても困ります」の一点張りやった。
こういうトラブルは建築のリフォーム工事には多い。
この主婦の指摘通り、十中八九、この業者の作業員が踏み割ったものやとワシも思う。
しかし、たいていの業者はそのことを認めたがらん。これが、工事中というのなら、逆にほとんどが認める。
隣家と揉めたら工事が最悪の場合、ストップしかねんからな。
工事が終わったら関係ない。証拠のあることならいざ知らず、知らんと突っぱねられることは徹底してそうする。
下手に認めるといらん金がかかるからな。営利業者というのはそういうもんや。
そのためには、依頼主にそう思わせとく必要がある。
下手にその瓦割れを認めると、高額な損害賠償を請求されれますよとでも言えば、納得して業者の言うようにする。
本当は、その負担をするのは業者なんやが、専門家がそういうのならそうした方がええとなる。
実際、その隣家にとってみれば何の関係もないし、責任もないと考えるのが普通やからな。
この場合、その業者が、本当に良心的な所なら、その調査くらいはする。
しかし、この場合、それもないということや。
そういう状態になると、間違いなく揉める。
この主婦も法律に訴えるつもりで、弁護士にも相談したらしいが、結局は、そこまではせんかった。
弁護士も、相手の瑕疵を実証出来んかったら訴えても難しいと言う。
日本の法律は、訴える側がその瑕疵の有無について実証する必要がある。
それができんと裁判には勝てん。どうもそうらしいという程度では弱い。
それには、その雨漏りの応急修理も3万円ほどで済んだということもある。
やはり、その割れた瓦が原因で、それを取り替えたらその雨漏りは止まった。
そのことがあってから、その隣とは、事ある毎に喧嘩が絶えんという。良うあることやけど、最悪な関係や。
というものや。
それをカオリに話した。
すると、案の定、それに近いことがあったという。
カオリの場合は、同じ外壁塗装工事ではあったが、屋根瓦の割れやなく、植木が折られていたというものやった。
工事中は、その部分がシートで覆われていて見えんかったが、終わって2、3日して、植木の枝が折れていたのが分かったという。
結局、それが原因で大事にしていたその植木が枯れてしまったと。
これは足場の組み立ての際に、ありがちなことではある。
足場を組む際、その植木と接する部分は布などで保護し、痛めんように気を遣う必要がある。
たいていの業者はそうするが、中には無頓着な業者、職人がいとる。
それが問題を引き起こす。
当然のようにカオリはクレームをつけたが、ワシが話したケースと同じように、その業者がそれと認めんかったため、揉めた末、その隣人とは気まずくなったということや。
ただ、近所ということもあり、カオリの方が仕方ないと折れてあきらめたという経緯がある。
いずれ、逆の立場で工事することもあるからということで。
案の定、その工事が必要になり、その足場を組み立てるために隣の敷地に立ち入らせてほしいと頼みに行った。
以前、譲歩したという思いがあるから、まさか断られるとは考えてなかった。
それが、けんもほろろに断られたため揉めていたのやという。
「それで法律的には大丈夫というのは、どういうこと?」
民法第209条第1項に『土地の所有者は、隣の土地との境界またはその付近に、塀や建物を作ったり、修繕するために、必要な範囲で隣の土地の使用を請求することができる』というのがある。
つまり、法律上は、いくらその隣人が拒(こば)もうが、その隣人の敷地内に足場を組んで工事をすることが可能になるということや。
「でも、それはなるべくなら止めておいた方がいいでしょうね」と、ワシ。
隣家があくまでもそれを拒む場合は裁判所の決定が必要になる。
訴訟して認められんうちは勝手には入れんということや。
普通、そこまではよほどでないとせんし、例えそれで認められてそうできたとしても、その工事が上手く行くことはまずない。
そういう、訴訟に訴えた上での行為は、相手側もそれなりの対抗手段に出るさかいな。
その業者や隣人の僅かな落ち度も見逃さず、損害賠償の訴えを起こすということも考えられる。
同じ民法209条の第2項に『隣人が損害を受けたときは、補償金を請求することが出来る』とある。
そうなると、泥仕合になる。
実際、こういうケースで揉めることも多いさかいな。
建築工事において、隣家にまったく迷惑がかからんようにするということは、ほぼ不可能に近い。
結果、両方だけやなく、間に入った業者も交えた三つどもえの争いになる場合がある。
ヘタをすると、工事が中途のままで止まる。
この場合、一番、損をするのは、やはり、強引に工事をしようとした側ということになる。
法律での解決が一番ええように思うとる人も多いようやが、それだけでは上手く解決できるとは限らん。
却って話をこじらせる事の方が多い。
しかも、その法律による解決で関係者すべてが納得することも少ないしな。多かれ少なかれ何らかの遺恨を残すのが普通や。
法律は、その結果の是非を判定するのにはええかも知れんが、これから、起こす行動の結果をええ方向に導くのには不向きやと思う。
法律でできることは事後処理くらいのものやと考えてた方がええ。
その事案を解決したということを告げると、是非にもそうしてほしいということになった。
結果、そのカオリのケースでも、ワシが隣人にその話し合いの仲介をして丸く収めることができた。
もっとも、そのときは、どうやらお互いの謝罪の一言が欠けていたということが原因の大半やったさかい、話は簡単に済んだがな。
お互いの「すみませんでした」の一言で和解が成立した。
世の中には、そういうケースは多いもんやが、なかなかその一言が言い出せんのも事実や。
そのときの流れで、カオリはそれまで一つの新聞しか購読してなかったのが、ワシの勧める新聞と交代で講読することになったわけや。
但し、その条件は、その再契約時には必ずワシが出向いて契約するというものやった。
今回のシロアリ駆除の相談も、その流れがあってのことなわけや。
「これが、そのシロアリなんですけど」と、カオリはその業者が捕まえたというビニールの小袋を見せた。
「これはシロアリではありませんよ。シロトビムシといって原始的な昆虫の一種です」と、ワシ。
シロトビムシというのは、その外観がシロアリと酷似している。専門家ですら見間違うことがままあるという。
このシロトビムシというのはシロアリと同じように土壌に棲むが、木材を食い荒らして家が倒壊に至ったというほどの害を及ぼしたという報告はない。
過去、ある大手テレビ局の報道番組において、このシロトビムシをシロアリと間違って、その特集番組が放映されたことがあったと聞く。
そのシロアリ業者が、それと知らず勘違いしたのか、意図してそうしたのかは定かやないがな。
いずれにしても、そのビニールの小袋に入ったものがシロアリやというのなら、カオリの家は大丈夫ということになる。
シロアリというのは、名前はアリでも、正確にはアリとは違う。
生物分類学的には昆虫網ゴキブリ目シロアリ科に属する昆虫で、生態もアリというより、ゴキブリに近い。
かつてはシロアリ目という独自の分類が為されていたが、今はそれはない。
そのため研究者の間では、用語の混乱を招く恐れがあるとして、シロアリ目を残そうという提案もされて検討しているのやという。
ちなみに、アリはハチ科に属する昆虫や。
そして、シロアリにはその亜種も多く、シロトビムシに代表されるように他の昆虫と紛らわしいものが多い。
羽アリのすべてがシロアリと思っている人も多いようやが、それは違うということや。
羽のあるシロアリは、羽が細長くて柔らかく、4枚がほぼ同じ大きさをしているという特徴がある。
羽アリを見つけた場合、それを確認することである程度判別できる。
シロアリは巣穴を作って生息している。
巣穴は餌となる木材の中に作るもの、地中に作るものが多く、その家に生息している場合は大量に見つかるのが普通や。
一説には一つの巣には数十万匹から数百万匹棲んでいるとも言われている。
よく数匹程度見かけたからといって大騒ぎする人がいとるが、家屋を食い荒らすほどのシロアリというのは相当数、その個体が必要やし、長い年月もかかるから、少数ならほとんど影響はないと言える。
実際、シロアリ被害とは言うものの、シロアリによって倒壊した家の事例というのは、それほど多くはないさかいな。
少なくとも、ワシが知っている限りの事案では、過去、数千件の建築工事、リフォーム工事に関わってきた経験でも、ほんの2、3例にすぎんかったしな。
よく木材が腐った写真を見せられ、「これはシロアリによるものです」という業者がいとるが、それらを正確に調べると、たいていは違うケースが多い。
つまり、その多くは、そのシロアリ駆除の仕事ほしさに捏造、あるいは誤認したケースやないかと思われるということや。
シロアリには天敵も多い。
日本に多い、少し大きめのオオハリアリというアリは、シロアリを好んで食べるため、このオオハリアリが生息している地域では、シロアリは、ほとんど繁殖していない。
そのためか日本での爆発的な繁殖は、それほど報告されていない。
つまり、シロアリがいたと騒いでいても、実際にはシロアリとは違う、あるいは危険水域の個体数を擁していないという場合が大半やということや。
ゴキブリなどもそうやが、よほど大量に発生していない限り、あまり人間に害や影響を及ぼすことはないさかいな。
それよりも怖いのは、「シロアリ」がいるために家屋が危ないという恐怖心やと思う。
悪徳業者はその恐怖心を煽り、そこにつけ込む。
シロアリが日本に生息するのは確かや。というか世界中にいとる。
その個体数は人間の数をはるかに凌駕する。その総重量は、全世界60億人と言われる人間の総重量をはるかに凌ぐのが実状なわけや。
そこら中にいてて当たり前の昆虫やから、それが数匹見つかったという程度で心配する必要はないということや。
カオリにシロアリ駆除を勧めた業者は、今流行のベイト工法ですると言うことやが、従来より薬を使う量が大幅に減ったというても薬剤を使うことに変わりはない。
シロアリ業者は口を揃えて、人体には影響がないとは言うが、虫を殺す毒が人間に効かんはずはない。
農薬が人体に悪いのと同じや。
それに、このベイト工法とやらは、それほど普及しているとは言えんさかい、業者の言うほどの効能があるかどうかの実証はまだない。
一つ言えるのは、人体に安全な殺虫剤などないということや。
環境にやさしく人体にやさしい薬剤で、薬の耐久性抜群のゴキブリ類が死滅することなど、絶対にあり得んことやと思う。
余談やが、数億年も前から滅びずにしぶとく生き残っているゴキブリ類を死滅に追い込むなど不可能やと思う。
人類のために滅んだ生物は多いが、ゴキブリは人類の繁栄と共にその生息域を格段に拡げながら、個体数を飛躍的に伸ばした極まれな生き物と言える。
人類がそのゴキブリ類を繁殖させたと言っても過言ではないほどに。
人類が滅ぶことがあっても、ゴキブリやシロアリが滅ぶことは、まずないと考える。
人類にどうにかできる生き物たちではない。
本気でその絶滅を考えれば、逆に人類が滅ぶ。
実際、そのシロアリやゴキブリを殺すために開発された薬で人類は癌という病気を背負ったと言うても過言やないさかいな。
人類が生き残るためには、そのシロアリやゴキブリなどとは適度に共存共栄する道を模索するしかないと思う。
念のため、カオリの家の床下を確認したところ、シロアリ駆除をする必要がないと判断したさかい、それをカオリに伝えた。
カオリも、それなら、その工事は断ると言う。
ちなみに、そのシロアリ業者は、総額100万円程度の見積もりを提示して、即決を迫ったそうやが、カオリはワシの存在を思い出して、その返事を思い止まったという。
これは、すべての訪問業者に対して言えることやけど、どんなに必要で良さそうに思えても絶対にその場での即決はせず、誰かに相談することや。
それが結果として身を守ることにつながると思う。
参考ページ
注1.第35回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル解決法Part1 隣家トラブル
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