メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第106回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2010.6.18
■民法第761条(夫婦の日常家事債務)の連帯責任棄却判決について
先日、サイトのQ&AにD.Nさんという古くからの読者の方から一通のメールが寄せられてきた。
こんにちは。ゲンさん博士さん、お久しぶりです。
▼『NO.908主人の名前でサインした新聞の契約は有効でしょうか?』
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage10-908.html
について意見があります。
先日、札幌地判平成22年3月19日の判決(注1.巻末参考ページ参照)で、NHKが妻が旦那名義でした契約に基づいて起こした裁判で、「民法761条の適用があることを前提とする原告の主張は採用できない」として敗訴しました。
新聞の場合、双務契約であるので、どこまで参考にすべきか難しいところではありますが、ゲンさんの回答にあった、
『まず間違いなく、この法律が適用されるものと思われる』
と断じるのはいささか厳しすぎると思うのですが、いかがでしょうか?
というものや。
正直言うて、このことについて、ワシらはまったく知らんかったさかい、少なからずショックを受けた。
「そんなアホな。何かの間違いやろ」と。
その思いもあり、ハカセはそのD.Nさんに、
正直申しまして、この件について私どもは何も知りませんでした。
『新聞の場合、双務契約であるので、どこまで参考にすべきか難しいところではありますが』
これについては、現在、当方に協力して頂いている法律家の先生に意見を問い合わせているところです。
これをどう扱えばいいのか、本当に難しいですね。
『まず間違いなく、この法律が適用されるものと思われる』と断じるのはいささか厳しすぎると思うのですが、いかがでしょうか?
確かに、その部分だけ抜き出せば、そう言えるでしょうが、その前段の文章で、『ただ、新聞購読契約の場合、この法律で争われたことがなく、その判例がまだないから確定的なことは言えんが、新聞というのは日常生活の範囲内のものと考えられるので』と断っていますので、けっして『断じている』つもりはありません。
ここでの『思われる』と表現した裏には『必ずしも断定できない』という思いを込めているつもりでしたので。
ただ、『断じるのはいささか厳しすぎると思うのですが』と受け取られたのであれば、こちらの表現の足らなさ、まずさがあったと言えます。
言葉の表現は、いくら書く方が「そんなつもりや意図はない」と否定しても、そう受け取られたとすれば、それはすべて書く者の責任ですから。
今後は、より慎重な表現を心掛けるようにしていきたいと考えています。
しかし、サイトの方針としては『民法761条の夫婦相互の代理権(日常の家事に関する債務の連帯責任)に該当する』という線に沿った回答を今のところ続けていくつもりにはしていますが。
NHKの場合は特殊な諸事情があると考えますので、新聞の購読契約もそうだとするのは、私たちには納得できませんでした。
新聞購読契約の場合、奥さんによる旦那さん名義の契約も多いので、私どもが、そのNHKの一例だけを取り上げて、その方向にアドバイスをシフト(変更)すると、業界に大きな混乱が予想されます。
本来は、NHKがそうであるように、それを理由に契約を無効と主張する契約者に対して訴訟を起こせば、ある程度の答が出るものと考えますが、新聞販売店がそうすることはまずないでしょうから、その決着を見るのは極めて難しいのではないかと考えます。
確定しないものには、推論を働かせるしかありませんからね。
ただ、今回寄せられた情報とご意見は、とても有り難いものでした。
私どもは、今まで、法律の解釈についてはなるべく断定的な物言いは謹むようにしていたつもりでしたが、これからは、より慎重にしないといけないと気づかせて頂きましたので。
という内容の返信をしたという。
その返信メールの中で『現在、当方に協力して頂いている法律家の先生に意見を問い合わせているところです』と言うてたが、その法律家の先生とは、当サイトの法律顧問をして頂いている法律家の今村英治先生(注2.巻末参考ページ参照)のことで、この件について問い合わせたところ、その意見が寄せられたので、それを紹介しとく。
ハカセさま。
じっくりと時間をかけて、判決文を熟読しました。
「NHKとの受信契約は、一方通行的な片務契約なので、民法761条は適用すべきではないという被告の主張が認められた。」ということなのでしょう。
確かに過去の判決においては、NHKとの受信契約において、民法761条が適用された例はあるようですが、その時には、当事者側からは、この契約が片務契約か否かという事実認定が争点になっていなかったので、
「本件のように,放送受信契約の性質が主たる争点となった事案ではないので,先例としては適切を欠くものというべきである。」と判決文は述べています。
「NHKとの受信契約は特殊な片務契約であるから、双務契約について適用される761条を根拠にはできない。」とする被告側の弁護士の法理論はあっぱれと言うべきでしょう。
加えて、裁判所は、「NHKはテレビを所有する視聴者に対し、視聴を強制できない。」という形で、放送法を解釈したことにより、「国民は、テレビを買ったとしても、NHKを視ない自由も認められる。」と判断したようです。
これは当たり前と言えば当たり前で、「原告の設立目的に照らしてテレビを購入した国民の大多数が原告との間で放送受信契約を締結することが望まれる。」
という裁判所としての意見を述べつつも、「私はNHKを絶対に視ませんから、お支払いは致しかねます。」という主張を仮に認めないとしたら、国民の自由は著しく侵害されることにもなりかねない。
という判断を示したとも言えます。
NHKの受信契約たるものは、世界的に見ても珍しいシステムのようですが、
その契約のあり方について、改めて法的に検証してみたというのがこの裁判の大きな意義であると思います。
これを前提に考えてみますと、半ば強制的に徴収されるNHKの受信契約(=片務契約)と自由意思により、契約を締結する新聞の購読契約(=双務契約)とでは、おのずとその契約成立における背景が異なるように思います。
毎月の新聞の購読料は、新聞という媒体の価格+毎日配達するサービス料から構成されると思いますが、不明瞭な媒体価格はともかくとしても、新聞を配達するサービスに対する対価の部分は、誰が見ても明らかですので、新聞購読の契約は双務契約であることに疑いの余地はないと思われます。
従いまして、本判決を持って、「新聞購読の契約締結に、民法761条は適用できない。」とすることはできないのではなかろうかと思いますが、いかがでしょう。
というものやった。
ワシらは正直、安心した。
D.Nさんには、すでに『民法761条の夫婦相互の代理権に該当するという線に沿った回答を今のところ続けていくつもりにしている』と伝えていたさかい、よけいやった。
その裏付けをして頂いたような、お答えやった。
NHKとの受信契約は一方的な片務契約なので、双務契約について適用される民法761条は適用すべきではないという被告の主張が認められたと。
そして、新聞購読契約は紛れもなく双務契約であるから、民法761条の適用に問題はないと。
ただ、一応の安心はしたものの、いろんな面で考えさせられることの多かった事例であり、裁判やったとは思う。
一つ間違えば、新聞の購読契約において、夫婦日常債務としての民法761条の適用について危うくなるのではないかという点にも気づかせて貰ったさかいな。
例えば、原告(NHK)の請求原因にあった『放送受信契約を締結した場合の一月当たりの負担額も2400円であることなどからすれば,「日常の家事」に含まれることは明白である』という主張に対して、
『本件契約に基づく受信料は,月額2340円と,月単位でみればそれほど高額とは言い難いが,本件契約は継続的に支払義務が生ずる契約であり,1年間でも2万8080円,居住年数によってはそれを優に超える金員の支払を求められる契約である』と被告側の反論がある。
つまり、月単位で見れば、確かに「日常の家事」と思える程度の額でも、それが年単位になると高額になる。
しかも、それは契約年数が増す毎に多額になっていく。
ワシはこのことで、サイトのQ&A『NO.307 十代ならば解約できるとあったのですが』(注3.巻末参考ページ参照)で回答したのを思い出した。
その部分を抜粋する。
民法第4条(満19歳以下の未成年者制限)と関連する第5条3項に、
『法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする』
というのがある。
分かりやすく言えば、未成年者との契約であっても、小遣(こづか)い程度の金銭であれば、契約者本人の意志が尊重され、契約の取り消しはできんという考え方や。
この小遣いの範囲というのは実に曖昧なものやと思う。
法律には、その受け取り方次第でどうとでも解釈できるというものがあまりにも多すぎる。
このサイトでは、ワシは、新聞契約は小遣いの範囲には該当しないという判断で、アドバイスをしとる。
1ヶ月3000円〜4000円程度やから、小遣いの範囲やないかという意見もあると思うが、契約は総額で判断せなあかんと考える。
ワシは、昔、建築屋で営業をしていたことがある。
そこでは長期の住宅ローンで契約を取るというのが多かった。
20年ほど前の話になる。
100万円のリフォーム工事を住宅金融公庫ローンで30年払いにすると、1ヶ月4000円程度の返済で良かった。
今なら金利も低いから、もっと安いはずや。
その頃「ご主人、1ヶ月に1回、居酒屋に行かれるのを我慢されるか、タバコを2日に1箱我慢されたら済む程度ですよ」という営業トークを良く使ってたもんや。
正に、小遣い程度というのを印象づけとったわけやけど、冷静に考えたら100万円のローン返済を小遣いの範囲とは言えんわな。
と言うてた。
この考え方に照らせば、不動産に関係する契約を夫婦の一方だけが結んだ場合、日常債務とはならず、民法761条の適用を免れるという最高裁の判例とも合致することになる。
つまり、長期契約になればなるほど、その契約金額は増えるさかい、日常債務の範囲内とは言えんようになるのやないかということや。
例えば、サイトの相談にもよくあるケースで「10年契約」というのがあるが、これやとその契約総額は実に47万円以上にもなる。
これが果たして、日常生活の範囲内の債務契約に該当するのやろうかという疑問が生じるわけや。
最近、サイトのQ&Aには契約を取ることの難しさから、新聞の購読契約そのものが長期化する傾向にあるというさかい、あながち起こりえん争いでもないと思う。
契約者が、それを盾に「妻が勝手に結んだ契約は無効」と宣言して、その購読料金の支払いを拒否した場合、新聞販売店としては、今回のNHKと同じく「料金の支払い請求」の民事訴訟をするしか法的には、その料金の回収はできんことになる。
もっとも、今回の裁判所の判断では、その金額の多寡による民法761条の適用に関しては特に言及されとらんから、どうなるかは未定やが、少なくとも難しい争いになる可能性は高いと思われる。
今回のNHK同様、新聞販売店側の訴えが棄却されることもあり得るのやないかと。
それを回避するためには以前がそうやったように、購読契約の期間は比較的短くするようにして契約総額を少なくしとく方が賢いのやないかと思う。
長期間の契約をすることで契約者の自由を奪うのやなく、人と人との人間関係を重視した付き合いで、その契約を永続的に続けるように努力すべきやと。
すべてがそうやとは言わんが、長期契約を保有した販売店の多くが、契約者の「解約したい」という要望や相談に「契約が残っているから、それはできん」とニベもない対応に終始しとるという。
とりつく島がないと。
それでは、その契約期間内は揉めてでも何とかなるかも知れんが、その先はない。
そういう目に遭った多くの契約者たちが異口同音に「もう二度と、その販売店とは契約したくない」と言うてることでも、それは分かる。
結局は、それで自分の首を自分で絞めることになるわけや。
また、今回の裁判で被告側の主張に、
ア 民法761条は,実質的には夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為について他方を代理する権限を有することを規定している。
そして,「日常の家事」とは,夫婦共同生活に必要とされる一切の事務であり,その具体的範囲は,夫婦の社会的地位,職業,資産,収入,夫婦が生活する地域社会の慣習等の個別事情のほか,当該法律行為の種類,性質等の客観的事情を考慮して定められるべきものである。
日常の家事とは,衣食住という夫婦の共同生活の基本的部分にかかわるものをいい,こうした夫婦の基本的部分について,夫婦の生活状況に照らして必要かつ相当な支出を伴う契約の締結が日常の家事の範囲とされるべきである。
これに対し,夫婦の共同生活の基本的部分にかかわらないものや,夫婦の生活状況に照らして,不必要ないし不相当な支出を伴う契約の締結は,日常家事の範囲外とされるべきである。
そして,契約の目的物の必要性の判断や支出の相当性の判断には,個々の夫婦の意思や事情も考慮されるべきである。
というのがある。
つまり、被告側はNHKの視聴は、夫婦の生活状況に照らしてみても必ずしも必要とは言い切れんから、そういったものに対して相当な支出を伴う契約の締結は、日常家事の範囲外とされるべきであると主張しているわけや。
これが重視され認められるとすれば、新聞の購読そのものも『契約の目的物の必要性の判断や支出の相当性の判断には,個々の夫婦の意思や事情も考慮されるべきである』ということになり、日常家事の範囲外とされる可能性すらある。
生活する上で新聞が必要か不必要かは『個々の夫婦の意思や事情』次第やと。人によって違うと。
そう言われて終(しま)えば返す言葉に窮しそうやさかいな。
実際の裁判ではどうなるか分からんし、憶測の域を出るもんでもないが、少なくともワシらには、その可能性を示唆するに十分なものやったと思う。
さらに、この裁判では表見代理(民法110条)という点でも争われた。
表見代理とは、無権代理人に代理権が存在するかのような外観を呈しているような事情があると認められる場合に、その外観を信頼した相手方を保護するため、有権代理と同様の法律上の効果を認める制度ということになっている。
つまり、本来は無権代理人である妻が夫の代理人の如く振る舞ったことで、それを信用した原告(NHK)は保護され、有権代理と同様の法律上の効果を認めるべきというのが原告側の主張なわけや。
これは、民法761条の適用が危うくなったときのための補足やと思われる。
これらの点について言及すれば、今回の事案は確かに難しい問題やと言える。
しかし、勧誘する側が、これを防ぐための手立ては実は簡単にできる。
ワシ自身、常に、それを実践しとるさかいな。
早い話が、主婦の方との契約の場合、「奥さんの名前でお願いします」と言うて、そうして貰うだけでええということや。
新聞の購読契約というのは一般では比較的軽く考えられていて、そう言えば「いえ、うちは主人の名前でないと困ります」と言う人の方が圧倒的に少ないから、たいていは問題なくそれで収まる場合が多い。
「あら、それでいいの?」と。
そうしておけば、民法761条や民法110条といった法律は関係のない話になるさかいな。
契約は、契約者本人と交わすという原則に立ち返ればええだけやと。
ただ、その場合でも先に言うたように、長期間、顧客を縛りつけるような契約は止めといた方がええという考え方に変わりはないがな。
このNHKの場合でも、その奥さん名義の契約にしておけば、この争いはなかったはずや。
ついでと言うては何やが、この際やから、NHK(日本放送協会)の受信料契約の問題点について幾つか挙げながら、それらについて考察してみたいと思う。
そのすべてがそうやとは言えんまでも、その組織構造にある問題点の幾つかは、新聞業界のそれと非常に酷似しとると考えられるさかいな。
少なくとも、その組織が巨大化して長期間続き、隠蔽体質が顕著やという共通項があるのは間違いなさそうやしな。
それを見つめることで、『人の振り見て我が振り直せ』という教訓が得られるのないかと。
【NHK受信料の法的問題点】
受信契約、受信料に関しては放送法32条にその規定がある。
『日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない』
というものや。
受信契約締結義務者は、NHKと受信契約を締結すると当該契約に基づきNHKに対し受信料を支払う義務を負うということになる。
しかし、その契約の締結を拒否したらどうなるか。
答は、『条件を満たしているにも関わらず受信契約を締結しない者に対する罰則は規定されていない』ということになる。
現在、NHKとの受信契約締結率は70%程度と言われている。
つまり、約30%ほどは契約をしないで、その受信料も払ってないということになる。
もっとも、この数字はNHKの発表に基づくものやから、どこまで正しいかは疑問やとは思うがな。
それには、日本国内における正受信機(テレビ)の設置箇所、台数がはっきりせず、正確な契約率を算出すること自体が不可能な状況やというのがあるさかいな。
「お手盛り調査」ということもあり、かなり割り引いて見とく必要があるのやないかと。
いずれにせよ、その約30%ほどと言われる非契約率は少なくないとは思う。
ただ、その罰則はないものの、平成18年以降NHKは民事手続きによる受信料の支払督促を行っているということや。
その回収率についてはデータが公表されとらんから分からんが、まったく放置しとるわけやないと。
もっとも、ワシもそのNHKとの受信契約は結んでないが、そんな督促状を受け取った覚えはないから、どこまで徹底されとるのかは疑問やがな。
まあ、そんな督促状が送られて来たとしても、積極的に払いたいとは思わんけどな。
ワシは拡張員やからかも知れんが、このNHKの受信契約のような片務契約という相手の意志をまったく無視した一方的な契約を押しつけるという姿勢には我慢できんし、異を唱えたくなる。
それには、契約をして貰うために日夜、その営業に腐心しとるという思いがあるからや。
それを法律やから、契約しろというのは何事やという気がする。
そんなのは、ワシから言わせたら契約でも何でもない。それで金を払えというのは単なる税金の類でしかないと思う。
いっそのこと、NHKの受信料を税金にしろと言いたいくらいや。
それなら仕方ないから払うかも知れんがな。
実際、NHKおよび受信料制度の賛同者は、受信料はNHKを見る、見ないに関わらず、テレビ放送受信機所有者から公平に徴収される「特殊な公的負担金」であると主張しとるくらいやから、是非ともそうしろと言いたくなる。
まあ、それは現状では無理やろうと思う。
そんな法案を提出でもしようものなら、時の政府ですら転覆しかねんさかいな。
今回、この件で調べているうちに正直、腹が立ってきた。
NHKが主張しとるように『テレビ放送受信機所有者から公平に徴収される』とは、とてもやないが思えんようなことがあまりにも多すぎるさかいな。
ふざけるなという気になる。
それらを列挙する。
1.NHK側には立ち入り調査の権限がないため、テレビを所有していても「所有していない」と言えば、それ以上、それらの視聴者に対して事実上、何のお咎めなしという状態になっているのが現状や。
その結果が、先に挙げたように、受信契約締結率70%、非契約率30%という数字に表れとるわけや。
つまり、テレビがあると認めた人のみが契約し、その負担をしとるということになる。
その不公平感というのがある。
2.NHKの場合、その契約を取って来る者を「新規開発スタッフ」と呼んどるが、その成約率はワシら拡張員と同様か、それ以下やという。
まあ、それも頷ける話で、その契約していない残りの約30%を相手にしとるわけやさかいな。
その中には、当然(1)のような人間も含まれるから、よけい簡単な話やないわな。楽な相手は少ないと。
その「新規開発スタッフ」の勧誘論理もワシらと同じで、「契約は取りやすい人間から取れ」というのが鉄則になるから、面倒な対象者はどうしても避けるようになる。
それでないと報奨金を稼げんシステムなわけやさかい仕方ないわな。
当然のように、ヤクザや右翼、柄の悪いおっさん、うるさい気難しい人間は敬遠したくなるし、いつ行っても会えん人間も相手にせんようにならざるを得んと。
それが、さらに不公平感を増大させる。
3.ホテルや旅館の場合、各部屋にテレビがあれば1室1契約が必要なはずやが2009年2月から2契約目以降の受信料は半額ということになっていて、それも自己申告が主体で正確な台数で契約していないホテルが圧倒的に多いという。
それを公然と認め良しとしとると。
4.在日外国人、特に在日米軍のNHK受信料は、受信契約そのものの締結を拒否しているため受信料は払っていないという。
NHKは形だけの請求はしとるようやが、今までのところ1円の回収もなされていない。
上記の他には、生活保護受給者、身体障害者などの生活弱者かの徴収は免除されるということやが、それはそれで理解できる。
それ以外は不公平極まりない事例やが、NHKはそれと知って容認、もしくは放置しとるという現実が見てとれる。
しかし、取れると踏めば、例えそれが善良な一般市民であっても今回のような裁判をしてまで取ろうとする。
ワシの個人的な見解で言わせて貰えば「それはないやろう」という気になる。
あまりに醜悪やと。
その訴訟を起こすのなら、真っ先に在日米軍に対してするべきやないのかと思うがな。
まずは、そこから受信料の回収を始めろと。
それをせずに、一般市民を叩くのは著しく不公平なことやと言うしかない。
法律を振りかざして、その正当性を主張する以上、取るのなら、すべてから取るべきで、それができん場合は、その他も手をつけたらあかん。
こんなことは誰にでも分かる理屈やで。
勝手にお手盛りで自分たちの都合のええように解釈して、それでええとする神経を疑う。
加えて、その契約の締結、受信料の支払いを拒否しとる人たちの理由、意見というものが正当に思えるさかい、よけいそんな思いにさせられる。
その不祥事や問題点が、あまりにも多すぎる。
当然、そのことに不満を抱く人も多いわけや。
次は、そのことに触れる。
【ここ数年のNHKの主な不祥事】
1.2004年、紅白歌合戦の担当プロデューサーによる制作費の不正支出が発覚。
これで多くの国民の反感を買い、その後、大規模な受信料支払い拒否騒動に発展していった。
2.この不祥事を受けて、2004年9月9日に衆議院総務委員会で、当時のNHK会長の参考人招致を行ったが、普段は国会中継するNHKがこの日だけは「編集権の問題」というわけの分からん理屈をつけて中継しなかった。
後日、NHKは、その反響が大きかったということもあり、生中継しなかった事を判断ミスだったと謝罪した。
3.相次いだ不祥事で視聴者の信頼を回復できず、2005年1月25日、当時のNHK会長が辞任したが、その後、顧問に就任。
週刊紙等で多額の退職金及び顧問料が支払われると報じられ、批判を浴びた。
4.2007年2月16日、NHK情報ネットワークの社員の私用パソコンがファイル共有ソフトWinnyを通じて暴露ウィルスに感染、「およそ130人分の外部の方の個人情報」(名前やメールアドレス、電話番号など)を含む取材情報が外部へ流出。
5.2007年9月12日、NHK関連33団体の2005年度末の余剰金が計886億8800万円に上ることが会計検査院の調査で判明し、改善を求められた。
6.2008年1月17日、複数の職員によるインサイダー取引が発覚。関係した3名のスタッフは同年4月10日付で懲戒免職となった
7.2008年1月30日、NHK経営委員会の委員が社長を務める会社が所得隠しを指摘され、辞意を表明。
8.2008年2月11日、NHK放送センターで開かれていた技術展示会で男性職員が私物のノートPCでわいせつ映像を再生した事が発覚。
9.2008年3月28日、「ラジオ名人寄席」(NHKラジオ第1放送)で、音源の無断使用を指摘されたパーソナリティが降板し、番組が打ち切りになった。
10.2009年3月5日、『クローズアップ現代』取材中に外部プロダクションのカメラマンらが線路からほとんど離れていない場所に三脚を立て、列車が停止するトラブルが発生。
11.2009年10月2日、NHK旭川放送局のディレクターが不発弾4発を局内に持ち帰り2週間保管していたことが判明。
12.2009年10月8日、Winnyの開発者が著作権法違反幇助の罪に問われている問題で、京都地裁での公判中にNHK京都放送局司法担当の記者が被告に対して弁護方針を批判した上「インタビューに出て本音をさらせば執行猶予がつくのは間違いない」とインタビューに応じることを手紙で求めていたことが発覚した。
ちょっと調べただけでも、これだけの「それはないやろ」という事件があった。
まあ、これらについては特にコメントするまでもないやろうと思うさかい、ここでの言及は控える。
他にも、ヤラセまがいのこともあるようやが、それらについても一々取り上げたらキリがなさそうなので止めとく。
それを言い出せば、新聞や他の民法も同じやないかということになるさかいな。
争点と問題がぼやける。
【NHKの体質と問題点】
1.NHKの経営に視聴者が参加できない。
NHKは受信料を支払っている視聴者のための放送局やなかったらあかんはずやのに、経営に視聴者の意思を反映させる仕組みがほとんどない。
経営委員会や放送番組審議会の構成員は企業経営者や学識経験者が占めており、受信料を支払っている一般視聴者の意見を代弁しているとはとても言い難い。
まさか、企業経営者や学識経験者を一般視聴者の代表やと考えとるわけでもないやろうからな。
2.NHKに対する情報公開請求権は法的権利として認められていない。
同じ総務省の所管でありながら、自治体(地方公共団体)の役所や機関については、一般市民も住民訴訟制度でその支出や財産管理などを争うことができ、情報公開請求権が法的に認められているが、NHKにはそれができんという。
言えば金だけ払ろうて文句を言うなということになっとるわけや。
3.放送内容が公共放送として相応(ふさわ)しくないという批判が多い。
公共放送は、報道の中立性、公平性を守り、視聴率稼ぎなどの理由で放送内容が興味本位にならないように努力せなあかんとされとる。
しかし、実際には、野球中継の放映権や最近ではサッカーのワールドカップの放映権などを民間放送の相場以上の金額で獲得して放映しているという批判をよく耳にする。
その必要がないにも関わらず、視聴率獲得を意識した過剰な演出、表現を行っている番組も多いと。
具体的には近年ではニュース番組の『NHKニュース7』『News Watch 9』などについてその批判が集中しとるという。
他にも必要以上に娯楽番組が多かったり、全国放送でありながら一部の地域を偏重した番組作りが行われたりというケースも多いと。
また、特定の政治勢力、公的組織を擁護する放送に内容が傾いているのではないかと指摘する向きもある。
公共放送と言うても、民間の放送局、新聞といった他のマスコミ同様、結局自身に不都合なことは隠蔽する体質があるのやないかと。
背後には国会や総務省など国の機関があることから「報道の中立性を確保する」というのも、所詮、机上の空論に過ぎないのではないかと。
また、いかなる外力にも屈しないということ自体は一見良さそうに思えるが、それでは放送事業内容が独善的になるのではないかという意見も多いという。
実際に番組制作がその偏向を批判される争いになっている実例もあると聞く。
NHKスペシャル シリーズ 「JAPANデビュー」、NHK番組改変問題などが、そのええ例やと。
4.不必要に組織が巨大化している。
NHKは受信料収入という安定した豊かな財源が確保され、特殊法人で法人税が免除されているなど極めて優遇された組織であると言える。
その財源をもとに、不必要なほど子会社を設立し多くの利潤をあげ、それが多くの官僚たちの天下り先になっているという。
また組織があまりにも巨大化したため、不必要な事業に多額の投資をしすぎているのではないかとも言われている。
結果、先に不祥事の項目で挙げた『5.2007年9月12日、NHK関連33団体の2005年度末の余剰金が計886億8800万円に上ることが会計検査院の調査で判明し、改善を求められた』のようなことが起きるに至ったという見方もできると。
5.受信料で制作された番組等の営利的な転売。
関連会社を通じて放送番組の放送権を転売したり、民間会社を通じて放送番組がDVDや書籍などで販売されており、非営利の公共放送と呼べるのか疑問視されている。
実際、『NHKスペシャル』などのDVDのセット価格が数万円もするというさかいな。
半ば強制的に一般視聴者から集めた受信料で制作しておきながら、それを契約者には何の特典もなく、他の民法番組のDVDと比べても異常に高い価格で売りつけとるわけや。
それを当然のこととして何ら悪びれたところがない。
こんなことをされたら、そら誰でも怒るで。ほんま。
こうしてみると、NHKというところは新聞業界に負けず劣らずの問題を内包しとるというのがよく分かる。
本来、それらの問題をクリアにしてから、その受信料の支払いをお願いするというのが筋やないやろうかと思う。
それを、自分たちのしとることを棚に上げて、「法律で決まっとるから契約しろ。契約した限りは金を払え。払わんのなら裁判するで」と上から目線で恫喝的な姿勢を露(あら)わにするだけでは反感を買わん方が不思議なくらいやと思うがな。
もし、サイトのQ&Aに、「NHKの受信料を払いたくないのですが、どうしたらいいでしょうか」てな質問があれば、今やったら迷うことなく、次のように答えると思う。
NHKの受信料契約を拒否しても罰則はない。
契約が成立していなければ、契約をする義務はあっても受信料を払う義務はない。
しかし、契約すると受信料支払い義務が発生し、それを逃れようにも裁判までしてその請求をしてくる。
それなら、その契約をしないでおけばええ。すでにしとる契約なら解約したらええということになる。
放送法第9条に「放送受信契約の解約」というのがある。
放送受信契約者が受信機を廃止することにより、放送受信契約を要しないこととなったときは放送受信章を添えて、直ちに、その旨を放送局に届け出なければならない。
というものや。
ちなみに、ここで言う「放送受信章」とは契約者の玄関先によく貼られているシールのことで、実際には、これを同封しなくても問題なく受理されとるということや。
つまり、テレビが壊れた、いらなくなったから捨てるといった理由で、その届けをNHKに出せば、それでその契約は自動的に解除されることになる。
新にテレビを買ったにしろ、それは『NHKの受信料契約を拒否しても罰則はない』、『契約が成立していなければ、契約をする義務はあっても受信料を払う義務はない』という契約前の状態になるだけのことや。
その後、どうするかは、それぞれの判断次第ということになる。
そのNHKの受信料をどうしても払いたくないというのであれば、契約を拒否、逃れるというのも手やし、いや、義務は果たすべきやと言うのなら契約するのも自由ということになる。
あくまでも自己責任において決めてほしい。
と、まあ、こんな具合の回答になると思う。
これが、NHKが素晴らしい放送局やとワシらが思えば、その点について力説して、受信料は払うべきやと説得するかも知れんが、悪いが、今はそういう気にはとてもなれん。
はっきり言うて、ワシ自身にとってはNHKがどうなろうと知ったこっちゃない。
それでNHKがつぶれて、その放送が見えんようになったとしても、特に困るというほどのこともないしな。
まあ、そんなことにはならんやろうが。
ただ、『他山の石』としての使い道ということなら、それなりに意味はありそうや。
『他山の石』とは、自分の石を研(みが)くのに役に立つ他の山の石という意味から転じて、自分の人格を磨(みが)く助けとなる他人の言行のことをいう。
また、自分にとって戒(いまし)めとなる他人の誤まった言行という意味に使われる昔の教えでもある。
そのNHKの愚行を『他山の石』として自らを戒(いまし)めることで、新聞の営業に役立てられるのやないかとは思う。
また、例によって、このことを勧誘の雑談のネタの一つとして使うこともアリやと。
その意味では、今回の裁判や調べた事例は、それなりに役立つ情報ということになるのかも知れんがな。
参考ページ
注1.裁判所判例Watch
放送受信料請求事件判決文
注2.株式会社デイリープラン(代表 今村英治)
注3.NO.307 十代ならば解約できるとあったのですが
放送受信料請求事件判決文
平成20(ワ)1449
放送受信料請求事件
札幌地方裁判所 民事第2部
判決年月日 平成22年03月19日
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実
第1 当事者の求めた裁判
1 請求の趣旨
( ) 被告は,原告に対し,12万1680円及びこれに対する平成20年6月11日から完済日が奇数月に属するときはその月の前々月末日まで,完済日が偶数月に属するときはその月の前月末日まで,2か月当たり2%の割合による金員を支払え。
( ) 訴訟費用は被告の負担とする。
( ) 仮執行宣言
2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第2 当事者の主張
1 事案の概要
放送受信契約を締結したのに受信料の未払があると主張する原告が,被告に対して未払受信料12万1680円及びこれに対する約定利率による遅延損害金の支払を求めた事案である。
これに対して,被告は,原告との間に放送受信契約を締結した事実はなく,妻が被告に無断で被告名義にて放送受信契約書に署名押印したにすぎないと反論している。
そこで,原告は,妻の行為が日常家事債務(民法761条)に含まれるので夫である被告は連帯責任を負うこと,被告は妻へ代理権を授与していたこと,表見代理(民法110条)が成立すること,被告が妻の行為を追認したこと,のいずれかにより放送受信契約の効力が被告に及ぶと主張している。
2 請求原因
( ) 法及び規約1
原告は,放送法に基づいて設置された法人であり,放送法32条3項に基づき,総務大臣の認可を受けて,別紙「日本放送協会放送受信規約概要」(添付省略)記載のとおり,放送受信契約の内容を定めた日本放送協会放送受信規約(以下「規約」という。)を定めている。
なお,「期」とは,規約6条に定める2か月ごとの支払期間をいい,4月及び5月を第1期とし,以後第6期まで同様である。
( ) 契約の締結
ア 日常家事債務の連帯責任
原告は,平成15年2月7日,被告との間で,放送受信契約(以下,原告と被告との間で締結された放送受信契約を「本件契約」といい,一般的な放送受信契約とは区別する。)を締結した。その際,被告の妻であるA(以下「A」という。)が,被告名で放送受信契約書に署名押印し,被告名義で平成15年2月及び3月の受信料4680円を支払った。
本件契約の締結は,民法761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)の日常の家事に関する法律行為に含まれるので,その法律効果は被告に帰属する。
すなわち,放送受信契約の締結は,現在の日常生活に不可欠のテレビ放送に関する契約であること,原告の放送を受信できる受信設備を設置した者は放送法32条1項により放送受信契約を締結すべき法的義務を負っていること,放送受信契約を締結した場合の一月当たりの負担額も2400円であることなどからすれば,「日常の家事」に含まれることは明白である。
イ 代理権
Aは,本件契約当時,本件契約の締結について代理権を与えられていた。すなわち,被告は,Aに対し,夫婦にとって何らかの方針決定が必要な法律行為を除く日常生活に伴う法律行為等について,その要否の判断を委ね,代理権を授与していたものであり,本件契約の締結は,夫婦にとって何らかの方針決定が必要な法律行為ではなく,日常生活に伴う法律行為であるから,Aが被告から与えられていた代理権の範囲に含まれる。
ウ 表見代理
仮に,本件契約の締結がAの代理権の範囲に属さないとしても,表見代理が成立し,本件契約は有効に被告に帰属する。
すなわち,被告は,Aに対し,夫婦にとって何らかの方針決定が必要な法律行為を除く公共料金に関することなど被告の家庭にとって日常生活に伴う法律行為等について,その要否の判断を委ね,代理権を授与していたものであり(基本代理権の授与),本件契約の締結がAの代理権に属さないとした場合,本件契約の締結は,基本代理権を超えて締結されたことになる。
しかし,Aは本件契約の締結が自らの代理権の範囲内にあると信じており,かつ同人が本件契約の締結を行う際の態度に不自然不信な点はなく,「B」という印鑑を用いて押印し,2か月分の放送受信料4680円を支払った。
一方,原告の契約取次者は,マニュアルに従い適切に本件契約を締結した。また,原告
の契約取次者は,Aと面談する時,契約者名を夫婦のいずれにするかについては,誰の名前で契約して欲しいとのお願いはせず,Aの判断を尊重していた。
したがって,本件契約の締結に際し,放送受信契約の締結がAの代理権の範囲に属さないことにつき,原告の善意無過失は明らかである。
エ 追認
仮に,本件契約の締結がAの代理権の範囲に属さないとしても,本件契約は被告により追認された。
すなわち,被告は,原告と放送受信契約を締結したくないと考えていたが,それにもかかわらず,Aは,放送受信契約の締結がAの代理権の範囲に属すると信じ,本件契約の締結について被告に報告する必要はないと考えていた。
これらの事実を考え合わせると,被告夫婦の間には放送受信契約の締結について決定的なそごが生じていたことになる。
ところが,Aはおよそ10か月にわたり放送受信料を支払い続けたのであり,これほど長きにわたって,夫婦間のそごが顕在化しなかったとは考えにくい。
そうすると,4回の被告名義での放送受信料の支払のいずれかの回からは,本件契約の存在が被告の知るところとなり,被告の了解の下に放送受信料の支払が行われたと解するのが自然である。
したがって,仮に本件契約の締結がAの代理権の範囲に属さないとしても,本件契約は被告により追認されたと考えられる。
( ) 未払
被告は,平成15年12月1日から平成20年3月31日まで(平成15年度第5期から平成19年度第6期まで)の52か月分の放送受信料合計12万1680円を支払っていない。
( ) よって,原告は,被告に対し,本件契約に基づき,12万1680円及び4これに対する訴えの変更申立書送達日の属する期の翌期の初日である平成20年6月1日から支払済みの日が属する期の前の期の末日まで,約定の利率である2か月当たり2%の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 請求原因に対する認否及び主張
( ) 請求原因( )は知らない。1 1
( ) 請求原因( )アのうち,Aが被告名で放送受信契約書に署名押印し,被告2名で受信料4680円を支払ったことは認め,被告がAに放送受信契約の締結の代理権を授与したことは否認し,原告と被告との間で本件契約が締結されたとの主張は争う。
イの主張は争う。
ウの主張は争う。表見代理は成立しない。
エの主張は争う。
( ) 請求原因( )は認める。
( ) 被告の主張(日常家事債務について)
ア 民法761条は,実質的には夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為について他方を代理する権限を有することを規定している。
そして,「日常の家事」とは,夫婦共同生活に必要とされる一切の事務であり,その具体的範囲は,夫婦の社会的地位,職業,資産,収入,夫婦が生活する地域社会の慣習等の個別事情のほか,当該法律行為の種類,性質等の客観的事情を考慮して定められるべきものである。
日常の家事とは,衣食住という夫婦の共同生活の基本的部分にかかわるものをいい,こうした夫婦の基本的部分について,夫婦の生活状況に照らして必要かつ相当な支出を伴う契約の締結が日常の家事の範囲とされるべきである。
これに対し,夫婦の共同生活の基本的部分にかかわらないものや,夫婦の生活状況に照らして,不必要ないし不相当な支出を伴う契約の締結は,日常家事の範囲外とされるべきである。
そして,契約の目的物の必要性の判断や支出の相当性の判断には,個々の夫婦の意思や事情も考慮されるべきである。
イ 被告ら夫婦は,同年代の一般家庭と同等の生活水準にある。
そして,本件契約に基づく受信料は,月額2340円と,月単位でみればそれほど高額とは言い難いが,本件契約は継続的に支払義務が生ずる契約であり,1年間でも2万8080円,居住年数によってはそれを優に超える金員の支払を求められる契約である。
原告は,12か月前払の方式も受け付けており,この場合,12か月の受信料は2万6100円である。
放送受信契約は,放送の受信に関する契約であるところ,放送に関しては,その情報が視聴者個々人の思想信条の形成に大きな影響を与えるものであり,その情報の入手源の選択も,個々人の判断に委ねられる必要性が高いものである。
したがって,受信契約の締結が,夫婦共同生活に必要であるとして,夫婦間に代理権を認めたり,連帯責任を負わせたりすることは,受信したくない放送を受信し,その対価を支払って受信したくない放送の製作に助力することを強いることになりかねず,個人としての思想信条の保護に欠けることとなる。
すなわち,放送受信契約は,そもそも,その性質上,夫婦であるからといって,一方に代理権を与えてよいような性質の法律行為ではない。
また,被告は,近年,原告において度重なる不祥事が生じていたこともあり,原告が放送する番組を視聴することはなかったし,放送受信契約を締結することにも反対していた。
さらに,昨今のインターネットの普及や他のテレビ放送網の充実により,公共放送から情報を得なければならない必要性はなくなっている。
ウ 以上のとおり,放送受信契約は,衣食住にかかわる契約ではないこと,被告夫婦に長期間にわたり相当な金銭的負担を強いるものであること,個人の思想信条にかかわる部分が大きいことの事情を考慮すると,夫婦間で代理権を認めるのにふさわしくない性質の契約であるといえる。
その上,被告は,放送受信契約の締結を希望しておらず,現に,原告が放送する番組を視聴しておらず,本件契約を締結しなくても,被告夫婦の生活には支障がなく,放送受信契約を締結する必要性に乏しく,放送受信契約の締結が日常家事の範囲に含まれるとはいえない。
原告の契約担当者は,本件契約の締結が日常家事の範囲内に属するものかどうか,すなわち,被告の妻に代理権があるのかについて疑念を差し挟む余地があったといえるにもかかわらず,契約書に被告の妻が被告の名を署名押印していても,このような疑念を払拭するに足る措置を何ら講じていないのであるから,本件契約の締結が日常家事の範囲内であると信ずるについて正当な理由があったといえない。
エ そもそも,受信料支払債務は,法律で,受信装置を設置した者に対し,必然的に契約をさせ発生する債務であり,しかも,片務的に発生するものである(受信装置の設置に対し発生し,対価として徴収するものではない。)。
民法761条が想定するのは,原則的には双務契約の相手方というべきであり,判例,裁判例で日常家事債務を認められたものもそうである。
オ 放送受信契約の締結には,民法761条は適用されないので本件契約の効力が被告に帰属することはない。
4 被告の主張に対する原告の反論
( ) 民法761条は,日常の家事の範囲内において,夫婦の一方と取引関係に1立つ第三者を保護することを目的とする規定であると解すべきであるから,問題になる特定の法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為に属するか否かは,その夫婦の立場のみに立って判定するのは相当ではなく,その夫婦と取引関係に立つ第三者の立場にも立って,これを客観的に判定すべきである。
したがって,社会通念上生活必需品とされる食糧,衣類,燃料の買い入れ,夫婦の共同生活に不可欠な家賃,地代,電気水道料金の支払等の法律行為や,相当な範囲内での家族の保健,娯楽,医療,未成熟の子女の養育,教育等に関する法律行為は,その行為をする夫婦の主観的意思にかかわらず,民法761条所定の日常の家事に関する法律行為であると解するべきである。
他方,日常の生活費としては客観的に妥当な範囲を超える借金をしたり,夫婦の特有財産である不動産を担保に供したり,それを売却するような行為は,日常の家事に関する法律行為に属しないものと解するべきである。
テレビ放送や原告との間の本件契約の締結は,相当な範囲内での家族の娯楽に関する法律行為というべきであり,また,テレビニュース等により日常生活にかかわる情報や主権の行使にかかわる情報を迅速かつ簡易に取得することは,日常生活に不可欠というべきであるから,放送受信契約を締結する行為は民法761条の日常家事の範囲内の法律行為といえる。
( ) 例えば,食糧,衣類,燃料については,これを継続的に購入するような契約を締結するような場合,個々の購入が社会通念上相当といえるのであれば,日常の家事の範囲内というべきであるから,契約の継続性をもって日常家事に該当しないということはない。
被告は,受信料について,1年間では2万8080円になると指摘するが,このような事情は,食糧,衣類,燃料を継続的に購入する場合も同様であって,長期間の受信料の額を通算することに何ら意味はない。
( ) 放送受信契約は,受信設備を廃棄(廃止)すれば,直ちに解約が認められる上,仮に,放送受信契約が締結されていても視聴自体を強制させるわけではない以上,何ら個人の思想信条の保護を奪うものではない。
むしろ,受信機を設置した場合に原告との間で放送受信契約を締結すべきことは法律で定
められていることであり(放送法32条1項),一般の家庭で日常的に行われていることである。
夫に代わってその配偶者が契約することも珍しくない。
これを認めなければ,夫が不在がちの家庭では放送受信契約の締結という法律上の義務を果たす機会が制限されることになる。
( ) 被告は,本件契約の締結を望んでおらず,また,本件契約を締結しなくても,夫婦の生活に支障はなく,本件契約を締結する必要性に乏しかったと主張する。
しかし,民法761条は,上記のとおり,夫婦の一方と取引関係に立つ第三者を保護することを目的とする規定であると解すべきであるから,日常家事の範囲については,その夫婦の立場のみに立って判定するのは相当でなく,その夫婦と取引関係に立つ第三者の立場にも立ってこれを客観的に判定すべきである。
被告の主張は,民法761条の趣旨を没却するものであり妥当ではない。
また,被告が放送を視聴しているか否かは,受信料支払義務の成否とは直接関係がない。
すなわち,放送法32条1項を受けた規約5条は,受信料支払義務の発生要件について受信機の設置を要件としているのであって,放送番組の有無を要件とはしていない。
( ) 放送受信契約は,公法上の契約ではなく,私法上の契約であり,放送法に特段の規定がないときは民法が適用される。
また,放送受信契約は,双務契約ではなく,片務契約である。さらに,放送受信契約の成立日は,規約では受信機設置の日とされているが,運用上,放送受信契約の締結時としている。
第3 証拠
証拠関係は,本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから,これを引用する。
理 由
1 認定事実
請求原因( )アのうちAが被告名で放送受信契約書に署名押印し,被告名で受信料4680円を支払ったこと,請求原因( )の事実は当事者間に争いがなく,この争いのない事実に加え,証拠(甲1,2,6,9ないし12,16,証人Cの証言,証人A(1回,2回),被告本人尋問の結果(1回,2回))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められこの認定事実に反する証拠は採用しない。
事実認定に供した主な証拠は再掲する。
なお,原告は,放送受信契約書(甲1)を提出し,作成者として被告,立証趣旨として放送受信契約の成立を主張していた。
ところが,被告が被告作成部分の成立を争い,被告の署名はAがしたものであり,印章もAのものであると主張したのを受けて,原告は,原告と被告が直接,本件契約を締結したとする主張を撤回し,Aによる代理行為等により原告と被告との間に本件契約が締結されたとの主張に限定したので,放送受信契約書(甲1)の被告作成部分はAが被告名義で署名押印したものとして扱うこととする。
( ) 取次者1
Cは,平成12年12月から平成18年11月までの間,原告(札幌放送局)の契約取次業務に従事していた。この期間のうち,平成12年12月から平成14年3月までは株式会社Dに,平成14年4月から平成15年3月までは株式会社Eに派遣社員として所属していたが,この2つの会社はいずれも原告から契約取次業務の法人受託を受けており,5人前後の社員が従事していた。
(甲6)
Cは,平成15年2月7日当時,原告から業務委託を受けた株式会社Eに所属して,2か月間で約800件の未契約者宅を割り当てられた上で,1日に100から200の住宅を訪問し,約20の住宅の方と面会していた。
Cは,このように多数の取扱件数を受け持っており,個々具体的な事例についての記憶
はないものの,被告が居住する地区を担当したのが,平成15年2月,3月である上,被告の居住するマンションが高級マンションであったことから,被告方を訪問したことだけは記憶している。
(甲6)
Cは,原告のマニュアルに従い,世帯主の妻であっても,放送受信契約を締結することができると考えていた。(証人C)
原告と放送受信契約を締結している世帯は,全国的には70%程度であるが,東北地方では90%を超えているところがある一方で,札幌市内では,世帯の入れ代わりが多いことから,全国平均よりも低い。(証人C)
( ) 訪問
Cは,平成15年2月7日,被告方を訪問して,Aと面談した。Cは,Aに対し,放送受信契約書『受信契約者』欄の「フリガナ」「お名前」「ご住所」「電話」「口座通帳名義」「指定口座」欄に自らピンク色のマーカーで着色した放送受信契約書を示して,記入を求めた。(甲1,6,証人C)
Cは,放送受信契約書の右側半分にある「家屋コード」欄に「l」,「氏名」欄に「H」,「収納金額」欄に「4680」,「期間(平成)」欄に「15年2月〜15年3月」,「契約・転入・変更年月」欄に「1502」と記載していた。(甲1,証人C)
Aは,Cにいわれ,放送受信契約書『受信契約者』欄の「フリガナ」欄に「F」,「お名前」欄に「H」,「ご住所」欄に「a−b 札幌市c区de丁目f−g−h G」,「電話」欄に「i−j−k」,『お支払いは便利でお得な口座振替でどうぞ』欄の「フリガナ」欄に「F」,「口座通帳名義」欄に「H」,「指定口座」の「銀行等」欄に「I」と記載し,「お名前」欄の「H」の横にある印(○を付した文字)欄に「B」印を押印した。
Aが被告の名前を記載したのは,被告が世帯主だからである。(甲1,証人A1回)
なお,Aは,放送受信契約書の冒頭の日付欄に「平成14年2月7日」と記載している(甲1)が,これは誤記である。(A2回)
( ) 支払
Aは,平成15年2月7日,Cに対し,同年2月3月分の受信料として,4680円を支払った。(争いがない)
Aは,平成15年4月5月分,6月7月分,8月9月分,10月11月分の支払として各4680円ずつ支払った。
その後,Aは,周囲の人や友人の少なくとも10人以上に受信料を支払っているかについて質問したところ,ほとんどが受信料を支払っていなかった。
そこで,Aは,原告に対し,電話で受信料の徴収が不公平ではないかと問い合わせた。
原告の担当者は,受信料を支払っているほうが多いと回答したが,Aは払っていない人もいるという事実を確認して不公平であると思い,以後,原告に対する受信料の支払を止めた。(甲2,証人A1回,2回)
Aは,原告から受信料の請求書が郵送されてきても,被告に見せることなく捨てていた。(証人A1回)
被告は,平成15年12月1日から平成20年3月31日までの52か月分の放送受信料12万1680円を支払っていない。(争いがない)
( ) 方針
被告は,平成7年ころ,住所地のマンションに転居してきた。被告は,平成11年ころ,原告の取次者が訪問して,放送受信契約を締結した上,受信料を支払うよう要請されたが,これを拒絶した。(被告1回)
被告は,平成11年12月,Aと婚姻した。被告夫婦は共働きである。Aは婚姻する少し前から,住所地のマンションで被告と暮らしている。
電気,ガス,水道等はAが同居する以前から被告名義であった。(証人A1回,2回,被
告)
Aは,平成14年9月18日,出産し,3か月前から産休を取得し,平成16年1月ころまで育児休暇を取得し,同年2月から職場に復帰した。(証人A1回)
被告は,住所地のマンションに転居する以前からテレビを購入し,Aと婚姻する前から,主に映画を見るためにJに加入し,月額5880円の視聴料を支払うとともに,Jを通じて放送を視聴している。
現在のテレビは,1,2年前に購入したものである。(証人A,被告2回)
被告夫婦は,いずれもあまりテレビは視聴せず,原告の番組もあえて視聴しようとは思わなかった。(証人A1回,被告1回)
被告夫婦は,札幌簡易裁判所から被告に対して支払督促申立書の送達があるまで,原告との契約,原告から受信料請求について話題にしたことがなかった。(証人A,被告)
( ) 提訴
原告は,平成20年3月7日,札幌簡易裁判所に対して,支払督促申立書を提出した。(顕著事実)
被告は,同月25日,札幌簡易裁判所に対し,支払督促異議申立書を提出した。被告は同申立書に異議事項として,過去数度にわたりNHKから支払催促の電話及び訪問を受けましたが,その度に次の内容を伝えた。
1.そもそもNHKは見ていないこと
2.一般企業の加入案内等と比較してNHKから消費者の意思を無視した強引で過度の営業を受けており,精神的に苦痛を覚えていること
3.受信契約の覚えがないので,契約書の提示を求めたこと,
4.BSの受信設備もなく,Jとの契約があり,NHKと直接契約をする理由がないこと,
5.NHKの度重なる不祥事を理解できず,NHKの受信意思がないこと。(被告1回)
札幌簡易裁判所は,同年5月16日,第1回口頭弁論期日において,本件を民事訴訟法18条に基づき,札幌地方裁判所に移送した。(顕著事実)
札幌地方裁判所は,同年7月18日,第2回口頭弁論期日において,被告に対し,弁護士に委任することを検討するよう指示したところ,被告は,同月23日,中村誠也弁護士及び淺松千寿弁護士を訴訟代理人とする委任状を提出した。(顕著事実)
札幌地方裁判所は,平成20年10月22日,双方の代理人を通じて,原告及び被告に対し,被告が原告との間で新たに放送受信(衛星)契約を締結して,本件訴訟を終局的に解決することを勧告したところ,被告は,裁判所の和解勧告に応じたものの,原告は,同年11月13日付け上申書により裁判所の和解勧告に応じなかった。(被告1回,顕著事実)
札幌地方裁判所は,平成21年7月13日の第4回口頭弁論期日において,弁論を終結し,同年9月18日を判決言渡期日と指定したが,原告は,同年8月21日,弁論再開の申立てをした。
原告の同日付け「弁論再開の上申書」には,再開の理由として,同年7月28日に言い渡された東京地方裁判所の判決書及び放送受信契約の締結は日常家事債務に関する法律学者の意見書の取調べのほか,被告に対する請求とは別に,Aに対する請求の追加提起を挙げている。(顕著事実)
( ) 放送法
ア 当時の電波監理長官であるK政府委員は,衆議院電気通信委員会において,放送法の特色及び受信料について,次のとおり答弁している。(甲9,16)
第一にはわが国の放送事業の事業形態を全国津々浦々に至るまであまねく放送を聴取できるように放送設備を施設しまして,全国民の要望を満たすような放送番組を放送する任務を持ちます国民的な公共的な放送企業体と,個人の創意と工夫とにより自由かっ達に放送文化を建設高揚する自由な事業としての文化放送企業体,いわゆる一般放送局又は民間放送局というものでありますが,それとの2本建としまして,おのおのその長所を発揮するとともに,互いに他を啓蒙し,おのおのその欠点を補い,放送により国民が十分福祉を享受できるように図っている(昭和25年1月24日開催の第7回国会衆議院電気通信委員会議録第一号20頁)。
今後わが国におきますところの一般放送の受信をすることのできる受信機を設置した国民は,何人にかかわらず全部この放送協会と契約を結んで,聴取料を放送協会に納めなければならないことになっておるのであります。
これは今後民間放送が出て参りましたときに,放送協会の事業を継続する。
しかもこの放送協会がもうかるともうからないとにかかわらず,全国的に電波を出さなければならないという使命を負わされた放送協会といたしまして,この聴取料の徴収ができない場合には,協会の事業は成り立って行かないことは明らかでありまして,従ってぜひともこういう聴取料を強制的に徴収するということが必要になって参るのであります。
ところでこれを立場を変えまして,国民の側から見まする時に,仮に日本放送協会の放送を聞かず,もっぱら民間放送だけを聞いている場合でも,この聴取料を納めなければなら
ないのでありまして,いわばこれは放送の受信機を持っているということのための,一種の税金みたいなものではないかという意見も出て参るのであります(昭和25年2月2日開催の第7回国会衆議院電気通信委員会議録第4号3頁)。
イ 放送法逐条解説(金澤薫著・財団法人電気通信振興会・平成18年4月1日発行)は,受信料について,次のとおり説明している。(甲12)
受信料の法的性格は臨時放送関係法制調査会の報告において明らかにされている考え方が一般的に受け入れられている。
その報告においては,「受信料とは,協会の業務を行うための一種の国民的な負担であって法律により国が協会に徴収権を認めたものである。
国がその一般的な支出にあてるために徴収する租税ではなく,国が徴収するいわゆる目的税でもない。
国家機関でない独特の法人として認められた協会に徴収権が認められたところの,その維持運営のための受信料という名の特殊な負担金と解すべきである。」としている。
このため,協会の放送を受信することができる受信設備を設置した者は,実際に放送を受信し視聴しているか否かにかかわらず,協会と契約し受信料を支払わなければならない。
この意味で,受信料は放送の視聴に対する対価ではない。協会の財政的基礎を受信料に負うこととしたのは,協会は,あまねく全国に豊かでかつ良い放送番組を提供するために設立された公共的機関であり,言論報道機関であることから,その財源は,あまねく全国に放送することを可能とするものであるとともに,国,広告主等の影響をできるだけ避け自立的に番組編集を行えるものとする必要があり,このことを実現するために,税や広告収入ではなく,特殊な負担金である受信料制度によることが望ましいと判断したものである(149頁)。
受信契約は公法上の契約ではなく,私法上の契約である。受信料の支払を遅滞した場合等の事態が生じた場合は,民事訴訟法の定める手続によることになる(153頁)。
なお,著者である金澤薫は,平成14年から総務省事務次官に就任し,平成18年現在,日本電信電話株式会社顧問である(著者紹介)。
2 放送受信契約について検討する。
( ) 放送法は,次のとおり規定する。なお,放送法にいう協会とは,日本放送協会(本件の原告)を指す(2条2の2の2,第二章)。
ア 協会の放送を受信できる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない(32条1項本文)。
イ 協会は,あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ,前項の規定により契約を締結した者から徴収する受信料を免除してはならない(32条2項)。
ウ 協会は,第1項の契約の条項については,あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない。これを変更使用とするときも同様とする(32条3項)。
( ) 放送法施行規則6条は,放送法32条3項の契約の条項には、少くとも次に掲げる事項を定めるものとする,と規定する。
ア 受信契約の締結方法
イ 受信契約の単位
ウ 受信料の徴収方法
エ 受信契約者の表示に関すること
オ 受信契約の解約及び受信契約者の名義若しくは住所変更の手続
カ 受信料の免除に関すること
キ 受信契約の締結を怠つた場合及び受信料の支払を延滞した場合における受
信料の追徴方法
ク 協会の免責事項及び責任事項
ケ 契約条項の周知方法
( ) 規約(昭和43年4月1日全部改正版)は,次のとおり規定する。(甲131)
ア 放送受信契約は,世帯ごとに行うものとする。ただし,同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については,その受信機を設置する住居ごととする(2条1項)。
イ 受信機を設置した者は,遅滞なく,次の事項を記載した放送受信契約書を放送局に提出しなければならない。ただし,新規に契約することを要しない場合を除く(3条1項)。
(ア) 受信機の設置者の氏名及び住所
(イ) 受信機の設置の日
(ウ) 放送受信契約の種別
(エ) 受信することのできる放送の種類及び受信機の数
(オ) 受信機の住所以外の場所に設置した場合はその場所
ウ 放送受信契約は,受信機の設置の日に成立するものとする(4条1項)。
( ) 放送法の規定,放送法施行規則の規定,規約の規定からすれば,放送受信契約は,次の特質を有する公法的色彩の強い団体主義が加味された特殊な契約であるということができる。
ア 原告の放送を受信できる受信設備を設置した国民は,原告と放送受信契約を締結しなければならない。
イ 放送受信契約は,受信設備を設置した日に成立する。
ウ 受信設備(受信機)を設置した国民は,受信契約書を放送局に提出しなければならない。
エ 放送受信契約は世帯ごとに行う。
オ 受信料の免除は,あらかじめ総務大臣の許可を得た基準による。
( ) 放送法の立法担当者の説明,放送法逐条解説(放送法の有権的解釈を行うことができる者による解説と解される。)による説明及び原告の本件訴訟における主張によれば,放送受信契約は,次のように解釈,運用されている個人主義を基調として私法上の契約ということができる。
ア 受信料は,国民の特殊な負担金であって,聴取に対する対価ではない。原告は,放送法により,特殊な負担金を国民から徴収することの権能を付与されている。
イ 放送受信契約は,契約当事者間に対価関係のない片務契約である。
ウ 放送受信契約の成立は,受信設備を設置した日ではなく,放送受信契約を締結した日からである。
エ 放送受信契約には解除という概念がなく,受信料支払義務を消滅させるには,受信装置の設置を撤去するか,受信料を原告から免除してもらうことになる。
オ 原告は,特殊な負担金の徴収手段として特別な徴収方法が認められず,民事訴訟法によるべきこととされている。
3 1で認定した事実に基づき,2で検討した放送受信契約を前提として,本件に
ついて判断する。
( ) 原告は,放送受信契約の締結が民法761条(日常家事債務の連帯責任)の日常の家事に関する法律行為に含まれるのでその法律効果は被告に帰属すると主張する。
ところで,民法761条は,双務契約における一方当事者から夫婦の一方と契約した場合に,その行為が日常の家事に関する法律行為に含まれる場合には,夫婦それぞれに連帯責任を負わせて,夫婦と取引をした第三者を保護しようとする規定である。
そうすると,契約当事者間に対価関係はない片務契約である放送受信契約に民法761条の適用はないと解するのが相当である。
したがって,民法761条の適用があることを前提とする原告の主張は採用できない。
( ) 原告は,これまでの裁判例や法律学者の鑑定書又は意見書において,放送受信契約には民法761条の適用のあることが認められていると主張するので,念のため検討する。
確かに,裁判例(甲7の1,7の2,8,13,15)の中には,原告の主張を認めたものが存在する。
しかし,これらの裁判例では,放送受信契約の性質について,当事者双方から主張がなく,受訴裁判所も放送受信契約の性質について検討した形跡が認められない。
とりわけ,原告が弁論再開の理由として提出を予定した東京地方裁判所の事案は,放送法32条及び規約が憲法19条に反するか,憲法21条1項並びに市民的及び政治的権利に関する国際規約19条1項に反するか,憲法13条に反するかという憲法上の問題点が主たる争点となった事案である。
本件のように,放送受信契約の性質が主たる争点となった事案ではないので,先例としては適切を欠くものというべきである。
また,法律学者の鑑定書(甲21),意見書(甲22,23)によれば,放送受信契約に民法761条の適用があるとされる。
確かに,これらの鑑定書及び意見書には,傾聴に値する意見が記載されているが,放送受信契約の性質,とりわけ,受信料が特殊の負担金であること,放送受信契約が片務契約であることについて言及されていないから当裁判所はいずれの見解も採用しない。
( ) 原告は,Aが本件契約当時,放送受信契約の締結について代理権を与えられていたと主張する。
しかし,被告がAに代理権を授与していた事実は認められない上,被告は,前認定のとおり,Aと婚姻する前からテレビを設置しながら,数回にわたる原告からの放送受信契約の締結の要請を拒絶していた者であり,被告,AともNHKをほとんど視聴していなかったのであるから,被告がAに対し,夫婦にとって何らかの方針決定が必要な法律行為を除く日常生活に伴う法律行為等について,その要否の判断を委ねていたとして,放送受信契約締結の代理権が含まれていたと解することは相当でない。
Aには放送受信契約締結の代理権を授与されていたとする原告の主張は採用できない。
( ) 原告は,仮に放送受信契約の締結がAの代理権の範囲に属さないとしても,表見代理が成立し本件契約は有効に被告に帰属すると主張する。
しかし,放送受信契約は,契約当事者間に対価関係はない片務契約であるから,取引の第三者を保護するための表見代理の規定の適用はないと解するのが相当である。
したがって,表見代理の規定の適用があることを前提とする原告の主張は採用できない。
( ) 原告は,仮に放送受信契約の締結がAの代理権の範囲に属さないとしても,本件契約は被告により追認されたと主張する。
原告の主張の詳細は,次のとおりである。被告は,原告と放送受信契約を締結したくないと考えていたが,それにもかかわらず,Aは,放送受信契約の締結がAの代理権の範囲に属すると信じ,本件契約の締結について被告に報告する必要はないと考えていた。
これらの事実を考え合わせると,被告夫婦の間には放送受信契約の締結について決定的なそごが生じていたことになる。
ところが,Aはおよそ10か月にわたり放送受信料を支払い続けたのであり,これほど長きにわたって,夫婦間のそごが顕在化しなかったとは考えにくい。
そうすると,4回の被告名義での放送受信料の支払のいずれかの回からは,本件契約の存在が被告の知るところとなり,被告の了解の下に放送受信料の支払が行われたと解するのが自然である。
しかし,原告の主張は推測に過ぎず,当裁判所は採用しない。
4 放送受信契約の性質及び本件訴訟の経過にかんがみ,付言する。
( ) 放送受信契約は,2で検討したとおり,放送法の規定,放送法施行規則の規定,規約の規定からすれば,受信設備(テレビ)を設置した日に成立するとともに,世帯ごとに行うものである。
そして,原告も契約取次者に対するマニュアルにも世帯主でも配偶者でも署名押印をもらえば足りるとしているし,本件でも,原告の契約取次者であるCが,マニュアルに従い,世帯主でも配偶者でもかまわないから署名押印してもらうと証言しているとおりである。
したがって,被告の妻が自らの名において署名押印すれば被告の世帯として放送受信契
約を締結したことになると解される,また,被告の妻が被告の名で署名押印しても,放送受信契約の主体が個人ではなく世帯という団体とされている以上,放送受信契約を締結したことになると解される。
原告も,前認定のとおり,弁論再開の申立書には,再開理由として,被告に対する本件請求のほか,被告の妻に対する請求を追加することを挙げているのは,この趣旨に沿うものといえる。
( ) しかしながら,放送法は,2で検討したとおり,原告に受信料という特殊な負担金の徴収手段として,租税と同様の取扱いとしたり,電気料金に上乗せしたりする特別な徴収方法を認めず,一般債権と同様の民事訴訟法によるべきこととした。
その結果,原告が本件訴訟において主張する放送受信契約は,個人主義を基調とする民法その他の私法によって修正されることになり,放送受信契約の成立は,受信設備(テレビ)を設置した日ではなく,放送受信契約を締結した日からであること,契約主体も世帯ではなく,受信設備(テレビ)設置者に限定されることになったものと考えられる。
そして,受信料という特殊な負担金を国民から徴収するという放送受信契約は,国民の側からみれば,受信設備(テレビ)を設置した場合に受信料という特殊な負担金を原告に納付するという,民法上の贈与契約に準ずる契約と解することができる。
そこで,原告と被告との間に本件契約が成立したというためには,被告が妻に代理権を授与しているか,妻の行為を追認するか,取引の第三者を保護する民法上の規定(民法761条の日常家事債務の連帯責任,民法110条の表見代理)がなければならない。
本件に提出された証拠によれば,これらを認めるに足りる事実は認定できない。
( ) ところで,当裁判所は,原告が「あまねく全国に豊かでかつ良い放送番組を提供するために設立された公共的機関であり」「言論報道機関である」のに,全国的には70%の世帯しか原告と放送受信契約を締結していない事情にかんがみ,できるだけ多数の国民が原告と放送受信契約を締結することが望ましいことから,原告と被告の双方に対し,被告が原告との間で新たに放送受信(衛星)契約を締結するという和解勧告をした。
しかし,合意には至らなかった。
原告の設立目的に照らしてテレビを購入した国民の大多数が原告との間で放送受信契約を締結することが望まれる。
5 よって,本件請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第2部
裁 判 官 杉 浦 徳 宏
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