メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第116回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2010.8.27


■公営住宅でのペット飼育の是非について


「ゲンさん、これをどう思います?」

そう言うて、ハカセがワシに一枚のチラシを見せた。

三重県のある公営住宅に住む、オオカワという読者からサイトにメールがあり、それでそのチラシの存在を知ったという。

先に、そのチラシの文面を紹介する。


県営住宅入居者の皆様へ


今年度に入り、三重県はペット飼育調査を始めました。

現在、ペット飼養者にペットを取るか、住居を取るか、二者択一を迫る誓約書を記入させています。

現実、里親探しは大変困難です。

ペットを捨てることは動物愛護法違反になり、50万円以下の罰金が科せられます。

保健所にペットを持ち込めば、確実に殺されます。

保健所での殺処分は一般に安楽死と言われていますが、実際には二酸化炭素ガスによる苦しみながらの窒息死です。

犬は「10分間」猫は「15分間」の噴射。

無理矢理、洗面器の水の中に顔を突っ込まされたようなもの。

想像してみてください。

もがき苦しみ、中には死に切れず生きながらにして焼却炉で焼かれる子もいるそうです。

決して安楽死ではありません。

保健所に持ち込まれた動物たちがどんなに悲しく、心細いか、殺処分される時、彼等は訳も分からず堪え難い苦痛を強いられ命を奪われる事になるのです。

県の今回の措置にお困りの方、ご相談ください。相談者のプライバシーは厳守します。


迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会


というものやった。

そのチラシの内容を知らせてきたオオカワ自身はペットを飼ってないということもあり、あまり賛成できる内容の文面やないと言う。

つい、2日ほど前、それに関連した、ちょっとした揉め事があったさかい、よけいその思いが強いと。

それは、同じ団地内に住むスギウチという老人が飼っていた小型犬とのトラブルやった。

その日、団地の近くにある公園にスギウチが小型犬のシーズー犬を散歩に連れてきていた。

スギウチがリード(ひも状の鎖)を解き放つと、そのシーズー犬は嬉しそうに走り回っていたという。

同じとき、その同じ公園でオオカワは小学1年生の息子のショウとキャッチボールをしていた。

オオカワが投げ損なって暴投したボールが転々と転がった。

それをスギウチの飼っていたシーズー犬が素早く口に銜(くわ)えて走り出した。

ショウが追いかけ、そのシーズー犬の口から、そのボールを取ろうとすると、いきなり吠えて飛びかかってきた。

その拍子にショウが後ろに倒れた。

そのシーズー犬は、さらに吠え立てショウに飛びかかろうという姿勢を見せた。

オオカワは急いで、そこに駆け寄り、追い払う程度のつもりでそのシーズー犬を軽く蹴って、ボールを奪い返した。

オオカワは相手が小型犬ということもあり、手加減したつもりやったが、その犬は「キャン、キャン」と大袈裟な悲鳴を上げた。

そこに、その飼い主のスギウチが急ぎ足でやってきた。

当初は、犬が息子に飛びかかった事に対して謝るのかと思っていたら、いきなり「ワシの犬に何するんや!!」と血相を変えて怒鳴ってきたという。

そうなると、オオカワも黙ってられん。

「何を!! そのバカ犬が子供に飛びかかっとんのに、何や、その言いぐさは!! 犬を散歩させるのなら、鎖かヒモで繋いで、しっかり見とかんかい!!」

「そんなのは、こっちの勝手や。それにワシの犬は吠えただけで、そっちの子供が勝手に転(こ)けただけやないか。それを大袈裟に……」

それを聞いたオオカワは、さらにカチンときた。

「あんたは団地に住んどるのやろ!! その犬は団地の部屋で飼うとんのんか。団地での犬猫の飼育は禁止されとるはずやで。このことを公団に言うぞ!!」

オオカワが、そう言うと、そのスギウチは小声でブツブツと文句を言いながら、そのシーズー犬を抱え上げると、そそくさと公園を後にした。

シーズー犬というのは、ペット犬としては人気が高いが、躾(しつけ)を誤ると扱いにくいことで有名な犬やという。

チベット高原原産の犬で、体高20〜30cm、体重5〜8kg前後と小さいが、気が荒く癇癪(かんしゃく)持ちの性質があると。

中国の清朝時代、宮廷や貴族の間で愛玩用に飼われていて「獅子狗」、「獅子犬」とも呼ばれていたから、どんな性質を受け継いできた犬なのかという想像はつきそうや。

ちなみに、現在の中国では、「西施犬」と呼ばれているという。

まあ、この場合、その犬の問題というより、その飼い主の方に問題がありそうやがな。

犬の飼い主は、その性質を正しく把握して他人に迷惑をかけんような配慮をするべきで、散歩中にリード(鎖)を解き放つことなど、もっての外で絶対にしてはならん。

たいていの愛好家は、それくらい守るし、気をつける。

もっとも、どれだけ注意をしても、ペットが他人に迷惑をかけることはあるがな。

そういう場合は、まずそのことについて謝罪するというのが当然であり常識的な大人の対応やと思う。

ただ、ペット愛好家の中には自身のペットを家族と同等、もしくはそれ以上に溺愛する者がいる。

それ自体は個人の問題やからええが、それが嵩じすぎるとペットの方が人間より大事という考え方になり、今回のスギウチのような態度を取るケースもあるということやろうと思う。

結局、オオカワは同じ団地内に住んでいるということもあり、あまり事を大きくしたくないと考え、その場はそれで我慢することにした。

幸い、息子のショウが噛みつかれたわけでも、ケガをしたということでもないさかい、事を荒立てることもないだろうと。

また、団地内のあちこちでも、そのペットの問題で言い争いが絶えんというのも知っていたから、敢えてその揉め事に関わるのも、うっとうしいという思いもあったさかいな。

それには、幸いにも、オオカワの隣近所にそういったペットを飼っている住人がおらず、特に迷惑をかけられていないという状況もあったがな。

ただ、今回の件は我慢したというだけで、団地内でペットを飼うのを容認したという事とは違う。

どんな言い分があろうと、団地内でペットを飼うというのは隣人に迷惑を及ぼす可能性はきわめて高いから許されるべきことやない。飼うべきではないと。

オオカワは、常日頃からそう考えている一人やった。

その出来事があった矢先に、そのチラシがポストに投函されていたというわけや。

それで、公団でペットを飼うことを容認どころか支援しようという市民団体があるというのを知り、あんなスギウチのような輩の肩を持つのかと怒りに似た思いが湧いたという。

最初は、チラシを入れた市民団体に苦情の電話でも入れようかと思うたが止めた。

そうしても、どうせ不毛な言い争いにしかならんやろうと考えたからや。

こういうチラシを入れる連中は、それが正しいと頭から思い込み、自分たちの正義、正当性を信じて疑わないものと相場が決まっている。

たいていは口達者な人間が多いやろうから、口論しても勝てる自信などないしな。言えば嫌な思いが、よけい増幅するだけやと。

それなら、名指しされとる三重県に、この事をチク(密告)るというのはどうか。

それも何か、人として浅ましい気がして気分が乗らん。

結局、オオカワは以前、新聞勧誘の事で困って相談して以来、時折、メールを出していたという気安さもあって、この話をワシらに持ち込んできたというわけや。

もっとも、オオカワにしても、新聞に関する事やないと思っていたから、気軽に「こんなことがありました」という程度やったがな。

特に、ワシらに何かの意見、アクションを期待しての事やないとは思う。

たいていのトラブルとか悩み事というのは、よほど深刻なものでない限り、誰かに親身になって、その話を聞いて貰えたと感じるだけで気持ちが和らぎ、それで、ほぼ解決となるケースが多いさかいな。

それで済むのなら、ワシらはどんな話も聞くつもりがある。何でも言うて来られたらええ。

ただ、ワシらはセラピスト(心療治療士)やないから多大な期待をされても困るがな。

たいていは当たり障りのない激励をして終わることが多い。

そういったものをサイトに掲載することはほとんどないが、中には、このメルマガのネタになりそうな話が届くケースもある。

この話を聞いた直後は、ハカセも、それほどの情報とは思わんかったが、関係者と会って調べていくうちに、十分、メルマガのネタになり得ると判断したという。

それ故、冒頭でそのチラシをワシに見せて意見を求めてきたわけや。

ワシは昔、犬猫を何匹か飼っていたこともあり、動物好きでもあるから、こういうの見せられると、つい、そのチラシを入れた側に肩入れしたいという気になる。

ワシの動物好きの一端は、旧メルマガの『第105回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■壬生猫キツドの怒り 前編』、『第106回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■壬生猫キツドの怒り 後編』(注1.巻末参考ページ参照)を見て貰うたら分かると思う。

動物好きやったがために、他人の猫の捜索を簡単に引き受け、その結果、数人の気の荒い男たちと血の雨が降る寸前の揉め事に巻き込まれたことがあった。

もっとも、当の本人は、それを厄介事とは思わず、どこか楽しんでいたようなところもあったがな。

ただ、このチラシにあるような問題は、それとは違い、どちらか一方が悪いと言えるような話やないと思う。

どちらの側に立っても、それなりの正義があり、正しい見解が存在する。その逆も当然ある。

こういうのに介入するのが、一番難しい。

「ハカセ、ほどほどにしときや」

ワシは無駄とは知りつつ、ハカセにそう忠告せずにはいられんかった。

ハカセは動き出したら止まるということを知らん。良くも悪くも突き進む。後先など考えずに。

一見、思慮深い男に見えてブレーキというものがない。感情の赴(おもむ)くままに走る。そんな男や。

もっとも、本人に言わせたら、「何事も確かめずにはいられない」という性分のため、気がついたらそうなっているとのことやがな。

理屈や損得勘定より先に行動しとると。

「その事について語るのなら、でき得る限り詳しく調べるべき」、「一方的な話だけで語るべきではない」というのが、やっこさんの信条でもあるさかい、ある意味、仕方のないことではあるがな。

ワシもそんなハカセが好きで、長い間、付き合って一緒に行動を共にしてきとるわけやしな。

もっとも、それを傍(はた)から見るのは、いかにも危なっかしくて仕方ないがな。注意の一つもしたくなる。

しかし、このときは、すでに動いた後やった。

ハカセは、このチラシをワシに見せる前日、その「迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会」の代表者とやらにコンタクトを取り「取材」をしたという。

このメルマガで公表するわけにはいかんから伏せていたが、そのチラシには代表者の名前と住所、連絡先が明記してあった。

そこへ電話をかけて会う約束を取り付けた。

その待ち合わせ場所に、代表者のモリと名乗る女性が、ハヤシという女性を伴って二人で現れた。

「本日は、お忙しいところ、わざわざどうも……」と、ハカセ。

「チラシをご覧になられたとか、団地にお住まいでペットのことで困っておられるということですか」と、モリと名乗った方の女性が優しげに問いかけてきた。

ハカセも会うまでは、こういった運動をしている女性というのは、例えが適切かどうかは分からんが、PTAの役員などに多い「うるさ型」のオバさんというイメージを想像していたのやが、モリと名乗った女性は、それとは違ったという。

どちらかと言えば、大人しそうで控えめな清楚な印象の女性やったと。

もっとも、こういう行動を起こすくらいの人やから、芯は強いのやろうとは思うがな。

「いえ、そうではなく、私の知人宅にこのチラシが入っていたのを知り、興味を覚えたものですから」

「興味?」

「ええ、申し遅れましたが、私はネットで、あるHPを運営してまして、そこで発行しているメルマガの題材として使えるのではないかと考えたもので」

「……」

「実は、このチラシの存在を教えてくれた人物は公団で動物を飼うことについて否定的な人なんです。その理由も伺いましたが、私のポリシーとして、その方だけの一方的な話を掲載するわけにはいかないと考えていますので、是非、そちらの立場でのお話をお聞きしたいと思いまして」

これは事実で、ワシらは常にそれを心掛けとるつもりや。

ただ、このときのハカセは、その話次第でメルマガで取り上げる可能性があるという考えを持っていたただけで確定しとるわけやなかったが、それは伝えんかったという。

これは、ある大手週刊誌の記者さんから、取材対象には「本誌にそちらのご意見、お話を掲載したいと思いますので、是非、ご協力ください」と言うのが鉄則やと聞いたことがあるからや。

間違うても、「あんたの話次第では載せてもええで」ちゅうなことを言うたらあかんと。

「絶対載せる」と言うのと、「条件付きで掲載する」と言うのとでは、こちらの本気度を疑われ多くを聞き出しにくいのやという。

期待は大きく持たせる方がええ。その方が、思いがけん情報を引き出せる場合があると。

ただ、せっかく取材をしても上層部からボツにされることもあるさかい、そうなったときは次回の取材のためにも平身低頭、謝るか、もしくは「現在企画続行中ですので」と言って流すのやという。

ハカセは、そこまでするつもりはなかったが、この取材には、それなりに意味があるとは知ってほしかったのは事実や。

例え、メルマガに掲載できんとしても聞いて知った話は、けっして無駄にはならんと。

その後、ハカセは、HP「新聞拡張員ゲンさんの嘆き」の知名度の事とか、メルマガ『ゲンさんの新聞業界裏話』の影響度などについて簡単に話した。

特に、「当方は、ヤフー・ジャパンでの扱われ方が良くてメルマガに掲載すると、その題名や文章に使われた語句の多くが検索で上位にヒットする可能性が高いです」と。

これは事実やが、絶対とまでは断言できん。ワシらも、そのすべてを調べ上げるほど暇でもないしな。

ただ、「そうなると、そちらの会の知名度も上がる可能性があります」と言うと、モリ女史の目の輝きが若干変わったという。

「それは有り難いですが……、具体的には、どのようなことをお話すれば?」

「それについては幾つかの質問を用意していますので……。まず始めに、こちらで調べたところ、三重県にはそちらの『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』という組織がネット上には存在していませんでしたが、HPなどは?」

兵庫県の尼崎市には同名の組織が去年、活動しとったようやが、今年の動きには目立ったものが何もなかった。

少なくともネット上においてはな。

その組織と関係があるのかと聞くと、特にはないと言う。

「HPについては早く作ろうと準備はしているのですが、まだ出来上がってはいません」

「失礼ですが、組織は何人くらいで活動されておられるのですか?」

「まだ立ち上げて間もないので数人程度ですが……」

「そのメンバーの中に、誰か、こういった活動の専門家の方はおられるのですか?」

「専門家と言いますか、こういった問題に詳しいという大阪の弁護士さんに相談しました」と、モリ女史。

その結果、その弁護士、植田勝博氏(注2.巻末参考ページ参照)から、三重県知事、野呂昭彦氏宛てに『県営住宅のペットの命の助命と動物との共生を求める申入書』を内容証明郵便で提出して貰うことになり、現在、それは届いているものと思われると言う。

「それは、このハヤシさんが主に働きかけられたので」と、モリ女史。

そのハヤシという女性は、モリ女史に輪をかけたように大人しく目立たない印象の人やった。

とても、率先してそんな動きをするような人には見えんかったと、ハカセは言う。

「失礼ですが、弁護士さんに依頼されるには、それなりの費用が必要だと思うのですが……」

下世話な心配かも知れんが、どんな弁護士でもタダで動くようなことはせん。

ハカセも、その昔、ある有名な環境保護団体のNPO組織の支部を運営していたことがあるから、それは良く分かる。

その支部の登録人数は300人ほどで、常時、20数名程度が集まって活動していたが、それでも何かの問題があったときでさえ、弁護士を雇う、依頼するという発想にはなかなかならんかったという。

その資金集めに苦労するのは目に見えとったさかいな。簡単に集められるもんやない。

それを設立間もない「市民団体」が、いとも簡単に個人で負担するというのは、あまり聞いたことがない。

ちなみに、その費用はその二人で出し合ったとのことや。

よほどの事情というものがない限り、普通はそこまでのことはせん。

ハカセはそう考えた。

そして、その事情とやらに期待して取材に来たわけや。

そこまで突き動かされた背景が知りたいと。

その弁護士への負担以外でも、この手のチラシを配布すると、必ずその反対の人間から苦情が出るというリスクが伴うもんや。

中には相当な嫌がらせをする者も現れることがある。

そのチラシには事務所の住所と代表者の名前を明記されとるから、公団に住んでいて近隣のペットに悩まされている人間にとっては格好の標的になりやすいさかいな。

その彼らにとっては、そのチラシにある『ペット飼養者にペットを取るか、住居を取るか、二者択一を迫る誓約書を記入』させるという県の姿勢は歓迎したいということになる。

公団で動物が飼ってはいけないというのは常識や。動物を飼えば必ず誰かに迷惑をかける。

単に、その鳴き声がうるさいというだけでなく、匂いも耐え難いと感じる人には我慢できんものや。体毛などの抜け毛を気にする人も多い。

それらのどこに擁護する値打ちがあるのかと、その人たちは考える。

法律用語に「受忍限度」というのがある。

動物の鳴き声や匂いなど、いくら注意しても皆無にはならんものについては、その近隣の住民は、ある程度の我慢を強いられる。

動物の飼い主がそれに気づいて、常に近隣に対して「申し訳ありません」という態度で接していれば、それほどの問題はないやろうが、逆に敵対しとる、あるいは近所付き合いの悪い状態の者同士の場合、ちょっとしたことでも我慢できんようになる。

これは、新聞販売店などにも言えることやが、その深夜での仕事中がうるさいと苦情の出る事案が結構ある。

『NO.137 近所の販売店での騒音で困っています』、『NO.195 販売店の騒音に悩まされます』、『NO.291 販売所の騒音問題について』、『第92回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル解決法 Part 3  騒音トラブル』
(注3.巻末参考ページ参照)なんかが、その典型やと思う。

そして、こういった問題は、それぞれに言い分があるから、なかなか解決しにくい。

その解決策があるとすれば、お互いが相手に対して理解を示し、一歩引き下がり、ある一定の線で妥協、我慢して手を打つしかない。

しかし、一旦、それがトラブルに発展してしまうと、そうなるのは簡単な話やないがな。

とことん揉めてしまうと収拾がつきにくいというのが実情やと思う。解決には、ほど遠くなる。

今回のケースでも、それは言えるのやないかと思う。

動物が嫌いではないという人には容認できることでも、世の中には動物が嫌い、苦手で近くにいるというだけで精神的に参るという人もいる。

それが実害を伴ってのことか、精神的なものかは、それぞれやが、その我慢の限度、受忍限度を超えると、人は往々して爆発しやすくなる。

今回のチラシは、その線上にある者の導火線に火をつける役目をしとる可能性があるということや。

それが、取り返しのつかんトラブルに発展することもあるという認識と覚悟がなかったら、こういったチラシの配布は考えものやと思う。

モリ女史らは、そこまで考えてなかったと言う。

このチラシを入れることで連絡をしてくるのは、三重県の追い出し策に困っている住人だけやろうと。

今以上の組織、ネットワーク作りをする上でも賛同者集めに役立つやろうと。

それに反対の意見の人もいるというのは分かっていたが、まさか、あからさまな嫌がらせ行為などは、しないやろうと。

自分がそんなことをしないのだから、他人もしないだろうと。

完全に性善説で物事を考えていたようや。

また、自分の見ている方向が正しいと思い込む人は、その反対からの視点に気がつきにくくなるということがある。

世の中には、いろいろな考えの人間がいとるということにまで考えが及ばんわけや。

「実は、そのチラシを配布してまだ一週間ほどですが、こんなものがポストに投函されていました」と、モリ女史。

それは便せん一枚にびっしりと書きつづられた匿名の手紙やった。

その内容をここで公開するのは控えるが、あきらかに女性と思われる字で、今まで、いかに公団でペットを飼っている人間に苦しめられてきたかということを切々と訴える内容の文章になっていた。

モリ女史らは、それには同情的な思いで読んでいたと言う。

「もちろん、私たちも好き勝手に公団でペットを飼ってもいいとは思いません。人に迷惑をかけないよう十分な注意をするべきで、それができる人だけに、そのペットを飼うことが許されると思っています」と。

それを聞いて、ハカセは危険やと感じた。

サイトのQ&Aにもありがちやが、自分が被害者やという意識の強すぎる人が、まれにおられる。

そういう人の行動は危険を伴うことが多い。自身にとっても、相手にとっても。

それでも、サイトのQ&Aに相談して来られる方は、まだええ。

ワシらが、それなりのアドバイスをすれば、そのことに気づいて貰えることが多いさかいな。

しかし、それもできずに悶々と思い悩む人は、自分自身ですら、その危険な思考、行動になっているという自覚がないケースがある。

その匿名の女性は、その住所を頼りに、その場所を探し当てたにも関わらず、なぜ、その手紙を投函しただけで立ち去ったのやろうか。

文句の一つも言いに立ち寄ろうと思えば、そうできたはずや。

しかし、その人は最初から、その気はまったくなかったと思われる。

その手紙はあきらかに最初から書いて持ってきたもので、その場で殴り書きしたようなものやない。

おそらくはその手紙を書くことにかなりの時間を費やしたはずで、そうまでして投函することに拘(こだわ)った執念がある。

なぜ、モリ女史らは、それが異常なことやと気がつかんのやろうかとハカセは訝ったという。

その手紙の投稿者がそうした理由は一つ。

そのチラシを入れたという行為に恨みを抱いたからやと思う。それ以外には考えにくい。

しかも、それはまだ予兆の段階で、実際にはそれと同じ思いをしとる人間は外にも多いはずや。

その手紙の主のように、それを行動に移すかどうかの違いだけでな。

今の日本には、ちょっとしたことで頭の線の切れる危ない人間は、どこにでもいとると考えといた方がええ。

いつ何時、そんな人間に襲われんとも限らんと。

用心のしすぎという意見もあるやろうが、そういう危険は常に考えとく必要があるのやないかと思う。

常とは違う行動を起こす際は、特に慎重にした方がええ。

モリ女史の話では「少なくとも1割以上の家庭でペットが飼われていると推認されます」ということやが、そうなると裏を返せば残り9割弱は、それを迷惑に思う可能性がある人たちということになる。

実際にも、その彼らが声を上げ、県に働きかけたからこそ、今回の動きになったとも言えるわけや。

オオカワの話にもあったように、『団地内のあちこちでも、そのペットの問題で言い争いが絶えん』ということやから、それは十分あり得ることやと思う。

それにより、三重県の県土整備部住宅室も、その重い腰を上げたのやないかと。

行政は、どちらに与しても恨まれるような行動を積極的にすることはまずない。
少なくとも、それを表に表すような愚は避けたいと考えるのが普通や。

このモリ女史のような方たちには意外に思われるかも知れんが、県の役人の多くは、公団住宅などでペット飼っていることへの苦情を個人で言い立てた場合、「ペット禁止というのは軽い約束みたいなもので規制や規定といったものではないので、どうしようもありません」という返答が返ってくることが多いという話や。

念のため、ハカセも、その三重県の県土整備部住宅室に問い合わせたところ、「こちらでも苦慮しています」の一点張りで、モリ女史らの言う「ペットの飼育が確認された住民は、ペットを移動するか、住居を立ち退くかの二者択一の誓約書を提出するよう求めている」ということには一切触れようとせず、言及せんかったという。

その点を突っ込んでも口ごもっていただけやと。それで、ハカセは、それは公にはできんことやと察したというがな。

もっとも、ハカセは、その証拠の書類を確認しとるから、それが事実やというのが分かった上で突っ込んどるわけで、その意味ではタチの悪い質問者ということになる。

「それでは、どうすれば?」

モリ女史らも、ここまでハカセの説明を聞いて少し不安を覚えたようや。

「そのチラシを投函された本当の理由は何ですか?」と、ハカセ。

聞けば、三重県下の公団住宅約3000戸余りに、この殺人的とも言われている猛暑の中、そのチラシを配り歩いたという。

先の弁護士費用と合わせて、金銭的にも肉体的にも相当の負担がかかったものと思われる。

そのチラシにあるように、ペットの処置に困った住民が保健所にペットを持ち込めば、そのペットが確実に殺されて可哀想だというのは良く分かる。

それを強要される住民たちが気の毒やと考えたというのも理解できる。

モリ女史らも、そのペット愛好家でもあるさかい、それを自分のペットたちに置き換えて考えたら耐えられんことやというのも、もっともな動機やとは思う。

しかし、そう考えるのと、現実的な負担を伴う行動を起こすというのは、それなりの理由、強い意志がなかったら、なかなかできることやない。

「実は、植田弁護士に今回のことを相談して、内容証明を出して抗議することを勧められたのですが、そのとき、署名活動も同時に勧められたんです。1ヶ月以内により多くの署名を集めると、その効果が高いだろうと言われまして」と、モリ女史。

それで、急遽、チラシの投函をして、その立ち退きを迫られている住民たちから、その署名を集めようとしたのやという。

それにより、少しでもペットを遺棄したり、保健所に引き渡したりするような事を少しでもくい止めたかったと。

できるだけ多くの同士を集め、強力なネットワークを作って、この運動を広めたいと。

まだ会の名前が正式に決まっていないということもあって、「迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会」という名称は、その植田弁護士に勧められたらしい。

後日、ハカセが調べたところによると、その植田勝博弁護士は、昨年、兵庫県尼崎市の同名の団体が主催するシンポジウム(注4.巻末参考ページ参照)にも関係者として参加していたようやから、その経験からのアドバイスやと思われる。

もちろん、それをどうこう言うつもりは毛頭ない。手法として間違っているとはワシらも考えん。上手くいけば、確かに高い効果も望めるやろうと思うしな。

「ただ、これは私の個人的な考えですが、順序が逆だったように思います」と、ハカセ。

ハカセも走り出したら止まらんという性格の持ち主やが、スタートする前は結構、慎重な男でもある。

事実、ハカセの場合、サイトを開くという構想は、その半年前からあったが、すぐにはHPの立ち上げはせずに、その情報を集めることから始めた。

具体的には、自ら、その情報を得るためだけに拡張員の世界に飛び込み、その仕事の実体験をすることにしたわけや。

それが一番確かで手っ取り早いと。それからだと、専門家であるワシの話も深く理解できると。

物事というのは最初が肝心で、最初にそれと出会った、あるいは見た瞬間に、その善し悪しを含めたすべてが決まってしまう。

ならば、その最初に全力を傾けるべきやと。最初がすべてやと考えるべきやと。

つまり、HPをアップした瞬間が、ハカセにとっては最大の勝負どころやったわけや。

これは、昔、ハカセが小説家を志していたとき、「作家は処女作にすべてを賭けろ」という教えが基にあったからやという。

それを教えてくれたのは、今は亡き、ある高名な作家やった。

間違っても、編集者や読者から、「この作家は将来、いい作品が書けるようになるだろう」と思って貰えるというような甘い期待をするべきやないと、その作家に教え込まれたという。

誰でも、何かの本を読むとき、その最初の印象がすべてになる。

そのとき面白いと思えば次も、その作家の別の本を読んで貰える可能性もあるが、つまらないと思われたら、それで終いや。

その作品の善し悪しは、その読者に委ねるしかないが、そのための準備を怠ったらあかん。そう考えたと。

それと同じことが、このモリ女史たちにも言えるのではないかとアドバイスしたという。

まず、HPを立ち上げ、その同士を一人でも多く募り、ある程度の声を拾い集めてから行動に移した方が良かったのないかと。

その手段として弁護士や法律家を使う、協力を仰ぐというのは悪くはない。

そうすれば内外にその信用度が高いということを示せるさかいな。

ただ、そうするなら、それなりの準備を終えてからでも遅くはなかったのやないかと思うということや。

まあ、そうは言うても、モリ女史にすれば、今回の三重県の動きが、あまりにも性急すぎると映ったために、急いで行動を起こす必要があると焦ったのやとは思うがな。

ただ、ハカセは、走り出したのを止めるつもりはないという。

自身にも覚えがあるが、そうされてええ気はせんし、あまり聞く耳も持てんということもあるやろうしな。

モリ女史らが、望むのならアドバイスを拒むつもりはない。できる限りの協力はすると。

その後、モリ女史らの希望もあり、サイトの『ゲンさんのちょっと聞いてんか
 NO.14 三重県の県営住宅のペット飼養禁止及び動物処分の措置に反対する署名にご協力ください』(注5.巻末参考ページ参照)への投稿もアップしたさかいな。

今後の展開次第では、このメルマガでの続編も十分にあるやろうと思う。

今回の話題については、読者の方々の中にも少なからず関心の高い方々もおられるはずやから、その方たちの意見が届けられるという期待もある。

もちろん賛否両論、大歓迎や。どちらの意見も封殺するつもりはない。

今のところ、新聞業界の話からは外れるが、モリ女史らの今後の動き方次第では、この事が新聞の記事にならんとも限らんさかい、そのときに、ここで言うたことが活きてくる可能性もある。

もちろん、どうなるかは、これからというところやろうがな。



参考ページ

注1.第105回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■壬生猫キツドの怒り 前編l

第106回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■壬生猫キツドの怒り 後編
l
注2.植田勝博法律事務所 植田 勝博 弁護士

注3.NO.137 近所の販売店での騒音で困っています

NO.195 販売店の騒音に悩まされます

NO.291 販売所の騒音問題について

第92回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ゲンさんのトラブル解決法 Part 3  騒音トラブル

注4.シンポジウム「 集合住宅とペット 」のご案内(尼崎)

注5.ゲンさんのちょっと聞いてんか NO.14 三重県の県営住宅のペット飼養禁止及び動物処分の措置に反対する署名にご協力ください


読後感想 いろいろ考えさせられました

投稿者 Sさん  投稿日時 2010.8.27 AM 8:46


いつも、メルマがをありがとうございます。

以前A新聞の販売に関わって、引退した豊岡市のSです。

今回のペットの件でいろいろ考えさせられました。

小生は>ペット愛好家の中には自身のペットを家族と同等、もしくはそれ以上に溺愛する者がいる。

これに、適合する人間です。

ただ、公営住宅でペットを飼うことは、むずかしいと思います。

理由はメルマガで指摘されている通り、他人、他の居住者との軋轢が避けられないことでしょう。

ただ、ペットである犬、猫が毒殺されている現状も知っています。

実は、豊岡の地方で公営住宅を探したとき、ペット禁止と知り、農家を住まいにしました。

それは、規定違反(をしたくなかったこと)が原因です。

結論は、わかりませんが(ハカセも結論は出ないと推察します)是非この問題の続編をお願いします。

なお、余談ですがシーズーの表現は少し誤解があります。

中国で皇帝が飼っていたのはペキニーズでして、それとチベットの犬との混血がシーズーです。

当時は皇帝しか飼えなくて庶民が飼ったら処罰されたそうです。

というのもペキニーズを12年間、育て、今は天国に行った経験があるのです。
些細なことで、申し訳ありませんが、事実はこうです。


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