メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第125回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日  2010.10.29


■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 3


去る10月8日。

モリ女史とハヤシ女史の二人は、かねてから予定していたとおり、大阪の植田弁護士、三重県の県会議員諸氏らを伴って、三重県県土整備部住宅室へ赴いた。

三重県営住宅のペット飼養禁止及び、動物処分の措置に反対する署名を手渡すために。

この1ヶ月余りで、賛同43団体。三重県内の賛同県市会議員11名。一般市民5,212名という当初の予想をはるかに上回る署名が集まった。

その中には、当メルマガ『第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について』、『第119回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 2』、

および『ゲンさんのちょっと聞いてんか NO.14 三重県の県営住宅のペット飼養禁止及び動物処分の措置に反対する署名にご協力ください』(注1.巻末参考ページ参照)を見て賛同された人もおられるという。

ワシらは、特にその運動を推進しとるわけでも支援しとるわけでもないが、メルマガの話題として取り上げたということもあり、そう聞かされると正直、嫌な気はせん。

それなりに影響があったのやと再確認できたさかいな。

その場には他の事で忙しいのか、三重県知事は同席せず、県土整備部住宅室室長ら3人と北勢地区、伊賀南部の指定管理業者2人の計5人が対応したという。

その折りの県土整備部住宅室の見解は、


入居の申し込み時から折に触れてペット飼育に対して注意を呼びかけてきた。

多数の苦情があり、より快適な住環境を示していくためにはやはり、ペット禁止を改めて申し上げていく。

飼育しているとの情報があったお宅には戸別訪問させていただき、ペット飼育を止めていただくよう強く求めていく。

ペットの処分はあくまで入居ご自身のご理解による。里親探しはむしろ必要と考える。

騒音、動物アレルギー、入居条件が違うのではないかというペットを飼われてない方からの主張をどう考えるかが重要なポイントである。

また、県営住宅は建物自体がペット仕様になっておらず、「配管に猫の毛が詰まる」「建具で爪とぎをする」「ペット臭が残る」などの建物被害が税金で賄われている。


というものやった。

モリ女史らは、「相変わらず県は強気の姿勢を崩してない」との見方のようやが、ワシらから見れば、当初に比べるとかなりトーンダウンした受け答えやったという印象が強い。

県土整備部住宅室が県営住宅の住民に定期的に郵送で配布している「県営住宅だより」というのがある。

その「第50号 平成22年6月30日」発行分に、「迷惑行為はやめましょう〜ご近所への思いやりを大切に〜」と題した項目があり、その中に、


(5)犬、猫など動物を飼わないでください。指導に従わず、エサやりや飼育を続ける場合は、明渡請求、法的措置を行うことがあります。


と記された部分がある。

しかも、「指導に従わず〜法的措置を行うことがあります」の間は、わざわざ下線を引いて強調しとるという念の入れ方や。

本来なら、その署名を受け取る場で、公的な配布文書にそう明記しとるわけやから、同じようにそう返答するのが県土整備部住宅室の立場やと思うが、さすがに弁護士の前では、それはできんかったようや。

実際問題として、エサやりや飼育を続けとるという理由程度では、どんな法的措置も明け渡し請求も実行するのは難しいと思うさかいな。

その法的措置についても、県土整備部住宅室には一体、どんな根拠があって、そう言うてるのか、ワシには理解できん。

三重県県営住宅条例第22条の「迷惑行為の禁止」というのに、

入居者は、周辺の環境を乱し、又は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない。

とあるだけで、その条例のどこにも、ペットの飼育禁止についての記述はなく、条項も含まれていない。

もっとも、拡大解釈で「ペットの飼育」も、その「迷惑行為の禁止」になるという判断かも知れんが、単にペットを飼っているだけで、その条文を適用するには無理がありすぎると思う。

「ペットの飼育」=「迷惑行為」とはならんさかいな。

それやと、世の中のペットを飼っておられる人のすべてが「迷惑行為」をしとるということになる。

そんなアホな論理はないわな。

また、「入居者のしおり」には、ペット禁止を謳っていると言うが、それは単なる注意事項で、それに違反したからと言うて法的なペナルティを科せるわけやない。

「しおり」は契約書とは違うさかいな。

良くて、ぜいぜい「注意していたはずですので止めてください」と言える程度や。

それを法的に有効とするためには、三重県県営住宅条例の条文に加える必要があるが、それやと、今度は憲法第13条に抵触するおそれが生じる。

その憲法第13条には、

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

とある。

この中の『幸福追求に対する国民の権利』に照らせば、犬や猫などのペットを飼うことは、その基本的人権の一つとして認められるという解釈が成り立つわけや。

モリ女史らについている大阪の植田弁護士は、その問題に関してのエキスパートという立場から、法的な争いになる事も見越して、その運動の支援やアドバイス、および署名活動に参加されとるはずや。

それからすれば、県土整備部住宅室も迂闊なことは言えんと考えても不思議やない。

トーンダウンの背景には、それがあると見る。

それに、今の状況で強行すれば全国ニュースになる可能性があるというのも考慮に入れとく必要があるさかい、よけいや。

ちなみに、モリ女史らが県土整備部住宅室の人間に署名を渡したとき、C新聞とY新聞の記者が取材に来ていたという。

C新聞の記者は、「自分がいると住宅室の人間が真意を話さない」のでと言って、中まで入らず、気を遣うようにして廊下で待っていたらしい。

Y新聞の記者はというと、写真も撮らず、「記事にしていただけるのですか」と尋ねても、「反対側の意見も聞いて、他県のことも調べないといけないので」と言うだけで、どこまで本気で記事にする気があるのか分からなかったとモリ女史らは訝(いぶか)っていた。

それについては、現時点の状況では仕方ないやろうと思う。

地域性の強いC新聞は、東海地方の地元ニュースということで、単に「三重県の県営住宅でペット問題に絡んだ署名が提出された」と報道するのが主な狙いやったはずや。

もっとも、あわよくば、県土整備部住宅室の人間が何か失言でもすれば、それをネタにできるかも知れんと考えた可能性もあるがな。

「自分がいると住宅室の人間が真意を話さない」と言うのも、そういうことやと考えれば納得がいく。

C新聞は10月末頃に記事にするということのようやから、それまでの間に独自の調査をして、そこそこの特集記事を組むつもりがあるとも考えられるがな。

全国紙のY新聞の方は、ワシらの睨んでいるとおり、現時点では、それほどのニュースバリューはないと踏んどるのやろうという気がする。

ハカセも、モリ女史らの希望もあり、新聞、テレビ、週刊誌などのマスコミに対して、それなりのパイプを通じ、この事案の取材を打診してみたが、今のところ、乗り気のある媒体はなさそうやったという。

いずれも、現時点ではニュースになるほどの事件もなければ、揉め事、トラブルの類がないというのが、その理由の大半やと思う。

もっとも、それは現時点ではということで、一応、それを知らせたことで、このメルマガを始めとして、かなりのマスコミの媒体が、この問題を注目するやろうから、今後の動向如何(いかん)ということにはなるがな。

まあ、ワシの見るところ、しばらくは、このまま推移するのやないかなと思う。

ただ、モリ女史らの運動次第では、長引けば長引くほど、この事実が世間に広まり続け、その署名も確実に増える分、有利になるのは、ほぼ間違いない。

現実に、1ヶ月余りの運動で、賛同団体43を超え、一般の署名を5,212名も集めとるということがあるさかいな。

これは異例とまでは言えんかも知れんが、経験の浅い一般市民の起こした運動にすれば、素晴らしい成果であることには違いない。

行政を変えるためには民意の力はなくてはならんものや。良きにつけ、悪しきにつけ行政は、その声、力を無視することはできんからな。

県土整備部住宅室が「騒音、動物アレルギー、入居条件が違うのではないかというペットを飼われてない方からの主張をどう考えるかが重要なポイントである」と言うてるのは、実際、そういう苦情を訴える県営住宅の住民からの声、突き上げがあるからこそやと思うさかいな。

県営住宅内でペットが飼育されるようになったのは何も今に始まったことやない。また最近になって急に湧き出た問題でもない。

三重県の県営住宅が建てられ入居が始まったのは昭和30年頃からで、もう50数年以上になる。

その頃から、すでに犬猫を飼っていた人たちが数多く存在していたのは、ほぼ間違いがないものと思われる。

モリ女史らが、先に三重県県土整備部住宅室に提出していた『県営住宅のペットの命の助命と動物との共生を求める申入書』の中に、ペットを飼っているという住民からの切実な訴えでも、それが分かる。

その一部を引用する。


事例1

県営住宅に住んで28年になります。犬も15年たっており、最後までみてやりたい思いでいっぱいです。

引き取り手も探しましたが、犬も高齢で困難な状況です。なんとか最後まで置かせていただきたく、お願いいたします。


事例2

6月、県からペットを処分しないと部屋を明け渡してもらうという事を言われました。

その日から不安で眠れない毎日が続いています。

県営アパートに住んで37年たちました。15年前から猫犬がたくさん捨てられていて、ふえてきました。

里親をさがして避妊虚勢をしてまいりました。今いる子達は年をとっていて、家族としてすごしてきました。

里親をさがしましたが、なかなか見つかりません。どうか死ぬまで私とここに居させて下さい。私が家賃を払える借家が見つかりません。よろしくお願いします。


これを見ても分かるように、三重県県土整備部住宅室は、今年の6月まで、実に50数年もの長きに渡ってこの問題を放置してきたわけや。

それを今年になって、急に思い出したように『犬、猫など動物を飼わないでください。指導に従わず、エサやりや飼育を続ける場合は、明渡請求、法的措置を行うことがあります』ということを「県営住宅だより」などで広報し始めるようになった。

挙げ句に、ペットの飼育が確認された住民は「ペットを移動するか、住居を立ち退くか」の二者択一の誓約書を提出するよう、高圧的な姿勢で臨むようにもなった。

これだけ長い間、何も具体的な行動に出てなかったということは、普通はそのことについては「容認」したと見るのが妥当やないかと思う。

まさか、今まで住民がペットを飼っているということを知らんかったとは言えんやろうしな。

そんなことは、僅かでも団地内を見回りしていれば誰にでも分かりそうなことやさかいな。

それが仕事である県土整備部住宅室が知らんはずがない。

実際、ハカセも幾つかの県営団地に行った際、すぐに犬を連れた散歩帰りの住民と遭遇したし、ベランダからベランダを器用に伝って、部屋に自由に出入りしとる猫も目撃したという。

一般住宅街で、よく目にするのと同じような光景が普通にそこにあったと。

そんな状況を長年に渡り、見て見ぬフリをしていた三重県県土整備部住宅室が、なぜ今頃になって、「誓約書」を書かせてまでペット飼育者を厳しく取締ろうとする気になったのか。

しかも、モリ女史ら一般市民からそれを指摘、非難され、公然と署名活動をされても尚、撤回しようとはしないのか。

その疑問が残る。

ハカセは、ある団地で興味深い話を聞いた。

その話の出所は、オオカワやった。

この問題をメルマガ誌上で始める発端となった『県営住宅入居者の皆様へ』と題したチラシの存在を知らせてくれた読者や。

そのオオカワから、久しぶりにメールがあった。

それによると、数ヶ月前、同じ団地に住むスギウチという老人と、その隣人のワカマツという男が大揉めに揉めたという。

スギウチという老人については、『第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について』(注1.巻末参考ページ参照)でも話したことがある。

そのときの事を簡単に話す。


その日、団地の近くにある公園にスギウチが小型犬のシーズー犬を散歩に連れてきていた。

スギウチがリード(ひも状の鎖)を解き放つと、そのシーズー犬は嬉しそうに走り回っていたという。

同じとき、その同じ公園でオオカワは小学1年生の息子のショウとキャッチボールをしていた。

オオカワが投げ損なって暴投したボールが転々と転がった。

それをスギウチの飼っていたシーズー犬が素早く口に銜(くわ)えて走り出した。

ショウが追いかけ、そのシーズー犬の口から、そのボールを取ろうとすると、いきなり吠えて飛びかかってきた。

その拍子にショウが後ろに倒れた。

そのシーズー犬は、さらに吠え立てショウに飛びかかろうという姿勢を見せた。

オオカワは急いで、そこに駆け寄り、追い払う程度のつもりでそのシーズー犬を軽く蹴って、ボールを奪い返した。

オオカワは相手が小型犬ということもあり、手加減したつもりやったが、その犬は「キャン、キャン」と大袈裟な悲鳴を上げた。

そこに、その飼い主のスギウチが急ぎ足でやってきた。

当初は、犬が息子に飛びかかった事に対して謝るのかと思っていたら、いきなり「ワシの犬に何するんや!!」と血相を変えて怒鳴ってきたという。

そうなると、オオカワも黙ってられん。

「何を!! そのバカ犬が子供に飛びかかっとんのに、何や、その言いぐさは!! 犬を散歩させるのなら、鎖かヒモで繋いで、しっかり見とかんかい!!」

「そんなのは、こっちの勝手や。それにワシの犬は吠えただけで、そっちの子供が勝手に転(こ)けただけやないか。それを大袈裟に……」

それを聞いたオオカワは、さらにカチンときた。

「あんたは団地に住んどるのやろ!! その犬は団地の部屋で飼うとんのんか。団地での犬猫の飼育は禁止されとるはずやで。このことを公団に言うぞ!!」

オオカワが、そう言うと、そのスギウチは小声でブツブツと文句を言いながら、そのシーズー犬を抱え上げると、そそくさと公園を後にした。


結局、オオカワは同じ団地内に住んでいるということもあり、あまり事を大きくしたくなかったので、その件は我慢することにした。

幸い、息子のショウが噛みつかれたわけでも、ケガをしたということでもないさかい、事を荒立てることもないだろうと考えて。

せやから、そのことは同じ団地の誰にも話していない。

ところが、最近になって、これも同じ団地、しかも、そのスギウチの隣室に住むワカマツという男から、どこで聞きつけて来たのか、2ヶ月以上も前のその件について話があると言うてきたという。

「あのスギウチという、ジイさん、ちょっとおかしいやろ。『団地で犬を飼って何が悪い』と開き直るし、こっちはええ迷惑や。お宅も、お子さんが襲われたらしいやないの。今からでも遅うはないから、公団にそのことを言うたらどうや」と。

オオカワ自身、そのワカマツとは同じ団地の住民ということで、たまに挨拶する程度で、特に親しくしているわけでもない。

オオカワは、「もう済んだことですから、いいですよ」と、その申し出をやんわりと断った。

そして、今頃になって、どうしてそういう事を言うのかと聞いた。

すると、「実は……」という感じで、それまでの経緯をワカマツが話し始めた。

ワカマツは1年ほど前から、スギウチが室内でシーズー犬を飼っていたのは知っていた。

公団で犬を飼うたらあかんというのは知っていたが、隣同士で揉めるというのも、つまらんと思い何も言わずにいた。

それには、スギウチという老人は、うるさいことで有名な人間やったからというのもあった。

関わったら、ロクなことがない。そう考えた。

しかし、スギウチは、そんなワカマツの思いとは関係なく、ベランダにそのシーズー犬を出すことが、しばしばあった。

その理由は分からんが、ベランダに出されたシーズー犬はよく吠えて、うるさい。

それに対して、スギウチは特に注意するでもなく、なすがままにさせていた。

少なくとも、ワカマツには、そう見えた。

そんなある日、寝静まった夜中の2時頃に、そのシーズー犬が、何かに憑かれたように吠え出したことがあった。

それが延々と30分ほども続き、ワカマツの奥さんや子供たちが眠れないと訴えたことで、ワカマツは仕方なく、「お宅の犬、うるさいので、どうにかしてくれませんか」と頼みに行った。

すると、スギウチは謝るどころか、「うちの○○(犬の名前)は今、体調が悪いから仕方ないんや。ちょっとの間やから我慢してくれ」と相手にしようとしなかった。

いくら大人しいワカマツでも、これには我慢できんかった。無神経さにもほどがある。

「いい加減にしてくださいよ。このことを公団に言いますよ」と言うと、「好きにしろ」と言って、ドアを閉めたという。

翌日、ワカマツは、どうにも怒りが抑え切れず、公団に電話した。

「隣で飼っている犬をどうにかしてください。うるさくて夜も眠れません。公団では犬は飼えない決まりではないんですか」と。

その当日、スギウチは公団から、きつめに注意されたという。

その日を境に、スギウチとワカマツは、お互い、些細な事で、いがみ合うようになった。

スギウチは夜、寝るのが早い。

あるとき、まだ夜の10持すぎやというのに、「テレビの音がうるさい。こっちは寝とんのや。静かにせんかい」と、怒鳴り込んで来たことがあった。

報復のつもりやとワカマツは受け取った。

本来のワカマツなら、そう言われると「すみません」と謝り、音量を下げるようにしてたと思うが、スギウチに対しては、とてもそんな気にはなれんかったという。

「何を勝手なことを言うてんねん。夜中にお前のクソ犬の鳴き声を注意したら、仕方ないと言うたやろ。それなら、そっちも我慢しろ。あんたと違うて、この時間で文句を言われる筋合いはない」と、喧嘩腰で応酬して追い返した。

他にも、玄関先が汚れていて迷惑するとか、ゴミの出し方が悪いなどと些細なことで難癖をつけてくるようになった。

スギウチという老人が、その団地でも何かにつけ、うるさいことで有名な人間やというのが、実感として良う分かったと、ワカマツは言う。

しかし、ワカマツも負けてはなかった。

それならと、何度も、公団にペットを飼うのは違反やないかと苦情を申し立てた。

「この団地に住めんようにしてやる」

本気でそう考えたという。

それが、功を奏したのか、どうかは定かやないが、結果として最近になって公団、直接的には、その業務を今年の3月から引き継いだ「指定業者」が、ペットを飼っている住民に対して強硬な姿勢を見せるようになった。

今は、住民の苦情は、その「指定業者」が聞いて対応するシステムになっている。

それらの苦情は、三重県内にある61ヶ所の団地、特定公共賃貸住宅を含めれば63ヶ所の約3千戸の県営住宅から寄せられる。

今までにも、公団へのペットの飼育に関する苦情はそこそこあったとは思うが、それに慣れた公団の職員なら、その対応も適当に上手くはぐらかすことができるが、慣れてない「指定業者」では、なかなかそうはいかん。

特に、ワカマツのように何度も苦情を言う住民には苦慮すると思う。

しつこく苦情を言い立てるクレーマーというのは、公団に限らず、やっかいな存在になる。

その対応に苦慮するあまり、一部のクレーマーの訴えだけを取り上げるケースがどうしても多くなる。

それが、結果として住民の民意ということになっていく。

当たり前やが、ペットを飼うとる住民の思いが、公団や指定業者に届くことはないさかいな。

指定業者にとっては過去、公団が半ば容認していたというような事実、経緯は知らん、また知らんで済むから、規則で禁じられとる事柄は守って貰うしかないという原則論をかざして強気で事に当たることができる。

また、公団も過去の自分たちのことは棚に上げて、原則は「ペット禁止」やから、それを遵守してくれと当然のように指示する。

公団である三重県県土整備部住宅室、および指定業者が、誓約書を取ってまで、「ペットを手放す」か「公団を退去」するかの二者択一を迫るという強硬な姿勢を今頃になって始めたという背景には、そうしたことがあるのやないかと思われる。

ワカマツがオオカワの所にやって来たのは、スギウチを追い出す具体的な手段として、「オオカワの子供がスギウチの飼っている犬に襲われた」という事実を利用したかったということのようや。

その事実は、一般住宅に住んでいる飼い主であっても問題にされ、場合によれば某かの罪にも問われる可能性の高い事やから、それを理由にすれば、スギウチを強制退去に持ち込めると、ワカマツは訴える。

「お宅もスギウチのジィさんには恨みがあるやろう」と。

「それは、もう済んでしまったことですから、そのつもりはありません」と言って、その申し出を断るとワカマツは渋々ながら帰って行った。

オオカワは、そこまでするワカマツの執念が異常に思えて怖いくらいやったと言う。

ワカマツとスギウチのように揉めてどうしようもないというケースは、さすがに少ないとは思うが、ワカマツのような人間が公団を突き上げとるのは確かやと思う。

その数が、どの程度なのかというのは公表されてないから何とも言えんが、それほど多くはないというのは分かる。

ペットを飼うことに対して快くは思うてなかったとしても、たいていはオオカワのように黙っとる人が大半やろうと考えるさかいな。

俗にサイレント・マジョリティ(静かな多数派)と呼ばれる人たちが、そうや。

しかし、その数は少なくても、現実にはワカマツのような一部のクレーマーの持ち込む苦情で動くケースが多い。

それを住民の意思、民意と勘違いする、あるいは、それを理由として役所の正当性を主張する具に使う。

そういうことやと思う。

今回の場合も同様で、もしモリ女史らの運動がなかったら、団地でペットを飼う人たちは、そのペットを手放すか、退去することを迫られ、ほぼ確実にそれが人知れず実行に移されたはずや。

しかし、今となっては、それも簡単にはいかんようになった。

公団側も口では強気に言うてても、実際にこの状況で、よほどの理由でもない限り、強硬手段に訴えることはできんやろうと考えるさかいな。

今や、この問題は全国的に注目されとると言うても過言やない。

もちろん、モリ女史らの運動に賛成する人ばかりやない。反対する人もいとるということも考えてなあかん。

この問題を取り上げた過去のメルマガを見たという人から寄せられた、一通のメールがそうやった。


ある人に教えられて、あなたのメルマガを読みました。

メルマガを書かれるのでしたら、よく調べてから適切に書いてください。

特に、配布されたチラシの内容がひどすぎます。

以下の箇所について、明らかな誤りだと思いますので削除を希望します。

1.(保健所へペットを持ち込めば、確実に、殺されます)

三重県の場合は保健所ではありません。三重県小動物施設管理公社です。

三重県小動物施設管理公社は飼い主がやむを得ず飼えなくなった犬猫を法律に基づいて飼い主の代わりに処分しているのです。

殺したくて殺しているわけではありません。これだと見ている人に非道なことをするという印象を与えます。

2.(中には死に切れず生きながらにして焼却炉で焼かれる子もいるそうです)

三重県小動物施設管理公社の職員の方は炭酸ガスを噴射した後、一匹ずつ死亡確認してから焼却処分しているはずです。

勝手な想像で書かないでください。

3.チラシ全体が不愉快で、大袈裟すぎます。配布してしまったものは仕方ありませんが、ホームページ上にあるものは削除してください。

以上、削除する際には、三重県の住宅課と三重県小動物施設管理公社の方々に対する謝罪文も一緒に掲載してください。


何やこれ。というのが、このメールを読んだ、ワシの正直な感想やった。

指摘されとる部分について、この人は根本的なところで大きな誤解をされとるようや。

まあ、それについて、ワシが、ここで何か言うより、ハカセが、その本人に返信したものがあるので、それを知らせる。


『新聞拡張員ゲンさんの嘆き』のサイト管理者、白塚博士(ハカセ)と申します。

ご意見、ご指摘を頂き、まことにありがとうございます。

ご指摘の件ですが、当方で再検討致しましたが、特段、削除するほどの事とは思えませんので、まことに申し訳ありませんが、ご希望に添えないとしか申し上げることができません。

その理由を今からお話します。

まず、初めにお断りしておきますが、県営住宅に配布したチラシの内容については、その運動を推進される方が作成されたもので、私どもはその掲載の許可を貰った上で引用しただけです。

もちろん、当方で掲載するに十分と判断した上のことですので責任逃れをするつもりはありません。

明らかに不適切と思える箇所、表現については削除致します。

ただ、そういう経緯がありますので、そのチラシに関して説明させて頂くに当たり、そちらから見られれば他人事のように思われるかも知れませんので、もしそう感じられるようでしたら、そういうことだと、ご承知おきください。

『1.(保健所へペットを持ち込めば、確実に、殺されます)』についてですが、『三重県の場合は保健所ではありません。三重県小動物施設管理公社です』というのは、確かにそのとおりかも知れません。

しかし、チラシというものは、一般の人に分かりやすくアピールするのが目的ですから、「保健所」としたのは、それで問題はないと私は考えます。

この場合、その具体的な事業所名を明記する必要性はないと判断します。

むしろ、事業所名を明記することの方が、このケースでは差し障りがあるかも知れませんので。

それに、『保健所へペットを持ち込めば、確実に、殺されます』というのは、その『三重県小動物施設管理公社』だけのことを指しているものではなく、一般的という意味の『保健所』だと私どもでは解しています。

そして、その表現は事実ですから、何ら問題はないと思います。

『殺したくて殺しているわけではありません』ということですが、例え『飼い主がやむを得ず飼えなくなった犬猫を法律に基づいて飼い主の代わりに処分しているのです』であったにしても、犬猫にとっては、ほぽ『確実に、殺される』ということには変わりがありません。

もちろん、それを仕事としてされておられる方には何の罪も落ち度もありません。やむを得ないことです。

ただ、『これだと見ている人に非道なことをするという印象を与えます』というのは、その人の受け取り方次第だと思います。

私は職業として、その職務を果たしているだけだと受け取っていますがね。多くの人が、そう考えるのではないでしょうか。

『2.(中には死に切れず生きながらにして焼却炉で焼かれる子もいるそうです)』というのも、よく耳にする話です。

例えばネットで『保健所で死にきれない犬』というキーワードで検索すれば、そのような事案が数多くヒットします。

その中には、実際にその保健所でその業務に携わっていた人の証言も含まれています。

ですから『勝手な想像で書かないでください』と言うのは、単なる想像だけではないわけです。それを分かってあげてください。

『三重県小動物施設管理公社の職員の方は炭酸ガスを噴射した後、一匹ずつ死亡確認してから焼却処分しているはずです』と言われる、お気持ちは分かりますが、何事にも例外というのは必ずあります。

例え、それが1万匹に1匹の確率であったとしても、その事実があることには変わりはないわけです。

チラシや広告のように、人にアピールすることが目的の文書には、キャッチコピーとして多少大袈裟な表現はつきものだと考えます。

もちろん、まったくの作り話とかウソ、間違いはいけませんが、そうでない限り、ある程度の誇張は許される範囲だと思います。

私は、今回、そちらが指摘されている内容には、『明らかな誤り』と言われている箇所はないと判断します。

『3.チラシ全体が不愉快で、大袈裟すぎます』というのも、重複しますが、チラシのような配布文書にはありがちなことですので、どのように思われようと、それは個人の受け取り方の範囲内だと考えます。

以上のような理由で、私どもは、そのチラシの文面については許容の範囲と考えますので、『削除』や『三重県の住宅課と三重県小動物施設管理公社の方々に対する謝罪文』を掲載する必要はないと思っています。

ご希望に添えなくて申し訳ありませんが、私どもの考えはそうだと、ご理解ください。

ただ、寄せて頂いたご意見については封殺するつもりはありませんので、次にこの問題について当メルマガ誌上で話すことがあれば、必ず取り上げさせて頂きます。

それで、読者の判断を仰ぎたいと思いますので。


ハカセは、そう返信したというが、それっきり何の返事もないという。

こういうのは、サイトやメルマガを始めて6年以上になるが、初めてのことや。

もっとも、ワシらは、よほどのことでもない限り、名指しで批判するとか中傷するようなことはせん主義やから、突っ込みどころが少ないということもあるやろうがな。

それにしても、他のサイトやブログでも、こういうのはあるんやろうか。

この程度の文面で、一々「削除しろ」とか「謝れ」と言うてたんでは、それこそ、ネットの中には腐るほどあるさかい、どうしようもないと思うがな。

民事裁判に訴えられても仕方のない文言でもあれば、また別やが、この指摘されとるチラシの文面程度では、どう考えてもそれは無理や。

このメールの送信者にしても、ワカマツにしても、実際の人物はそれほどではないのかも知れんが、その行為を見る限り、少し思慮が足らんのやないかと思う。

怒りや苦情をぶつけるのはええ。黙ってられんというのも分かる。

しかし、そこまでにしといた方がええ。

それが嵩じて、「団地から追い出してやる」、「掲載文書を削除しろ」、「謝れ」と言うのは、どう考えても行き過ぎや。

アメリカ独立宣言を起草した政治家に、ベンジャミン・フランクリンという人物がいてた。

アメリカ100ドル札の肖像画の人物と言えば分かりやすいかな。

そのベンジャミン・フランクリンの有名な言葉に、

どんな愚か者でも、あら探しをしたり、難くせをつけたり、苦情を言うことはできる、そして、たいていの愚か者がそれをやる。

というのがある。

本人は、それなりの正義を持ってしていることでも、やりすぎると、人からはそう見られてしまうことになるから止めておきなさい、という戒めとして世界中に認知されとる言葉や。

その人たちに、その言葉が届くかどうかは分からんが、ワシら自身、自戒を込めて、そうならんように心掛けたいものやと常に考えとる。

前回でも言うたが、この問題は、今後も尾を引き長引く可能性が高い。

一番ええ解決策は、公団側、公団の住民、運動の推進派が集まって良く話し合うことやと考える。

ただ単にお互いを攻撃したり、非難したり、また強硬な姿勢で敵対したりするだけでは何の解決にもならん。

泥沼に嵌り込むだけや。

誰にとっても得られるものは何もない。不毛な争いが延々と続くだけやさかいな。

もし、双方の立場の方々が、これを見られておられたら、その方向で歩み寄ってほしいものやと思う。



参考ページ

注1.第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について

第119回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 2

ゲンさんのちょっと聞いてんか NO.14 三重県の県営住宅のペット飼養禁止及び動物処分の措置に反対する署名にご協力ください



読者感想 少し意見を言わせてください
 
投稿者 K さん  投稿日時 2010.11. 2  PM 8:05
 
 
ハカセさん、ゲンさん、こんにちわ。

何時も楽しく、可笑しく拝見させて頂いております。

色々と勉強、参考になることも多いです。

何時もゲンさんは大局的な視野で物事を見られている方だと感じているのですが、今回の『■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 3』は、いつものゲンさんらしくなく一方的な見方と感じましたので少し私の意見を言わせてもらいます。

私は以前、団地に住んでおりペットを飼いたかったのですが、ペット禁止のルールが有り、そのルールを守る義務が有ると(少し)思い、また今回の様な問題が生じたときにペットを守りきれない(処分しなければならないど)、また現実的に軟禁状態(あまり外に出せない)になるとの考えからペットは飼いませんでした。

しかし同じ団地内にペットを飼っている人は多数いました。幸いこのときはペットによる迷惑はこうむりませんでした。

現在は戸建てに住んでいますが、すでに子供は大きくなっていますのでペットを飼うのは見合わせています。
 
しかし犬の散歩コースになっており、玄関や庭、車のタイヤなどにウンチ、オシッコをされて迷惑しています。

犯人を見つけてとっちめなければと思っています。

まず「ペット飼養禁止」の県の対応は、かなり中立的だと感じます。団地には多くの考えの人がおり、反対の人も賛成の人もいます。強反対(ペット飼育は一切許されない・・など)、強賛成(ペット飼育で他人に迷惑をかけてもかまわない・・など)の人もいます。

そういう人たちがいる中で、なるべく穏便に済ませようとした場合、この県の対応は全うに感じます。
 
ペットの飼育を禁止し、「場合により処分、退去」を示唆する。
 
現実は、黙認してペット飼育可能。処分、退去は、最終手段。
 
今回は、何か問題が発生したため(クレーマー?)その解決のため処分、退去を口にして処理しようとしている。のだと思います。
 
全てのペット飼育者に強要しているのではないと思います。(一応注意程度はする?)
 
記事の中ではゲンさんは「クレーマー」として書いていましたが、その様な人は、県もクレーマーと見てそれなりの対応になると思います。

モリ女史とハヤシ女史の場合は、冷静な対応、弁護士、議員、署名と、極めて強力です。(飼育賛成派のスーパークレーマー?)

県も慎重にならざるをえなく今回の様な対応になったのだと思います。

本来なら団地の自治会で諮り飼育容認へ持っていくべきです。

(しかしこの方法では飼育容認される可能性は低いとおもいます。そのためモリ女史とハヤシ女史は、第三者を巻き込んで要求を通そうとしていることになります。2人以外の団地の住民の意見は軽視されます。)

つぎに「動物処分の措置」ですが、これは飼い主が何らかの理由で飼育を放棄し、その処分を県に委ねるものです。

県はこんなこと(殺処分)をしたい訳が在りません。持ち込まれるのでやむなく行っているのです。

安易に飼われて飼い主の都合で飼育を止め処分(放逐、殺処分)する。殺処分では可哀想なので反対者がいようとも団地での飼育を認めさせる。では自分勝手すぎると思います。

生き物を飼うには、それなりの覚悟と責任をもって飼うべきだと思います。(飼いたくても我慢して飼わないでいる人もいるのですから。)

ゲンさん。みんなが気持ちよく暮らせる方法を考えてください。


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