メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第130回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2010.12. 3
■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4
膠着(こうちゃく)状態。
普通、この表現は動きが取れないときに使われ、誰にとっても避けたい状況ということになる。
しかし、事、このメルマガでシリーズ化(注1.巻末参考ページ参照)している『公営住宅でのペット飼育』問題に関しては、あながち、そうとも言えんという気がする。
少なくとも、モリ女史らの市民団体、公営団地での『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』にとっては歓迎できる事態と言えるのやないかと。
三重県の県土整備部住宅室が、ペットを飼育している県営住宅の住民に対し、「ペットを移動するか、住居を立ち退くかの二者択一の誓約書を提出するよう求めている」ことについて、モリ女史らの市民団体が、それに反対する運動を現在、展開している。
10月8日には、その運動で集めた5,212名分の反対署名を持って、三重県県土整備部住宅室に手渡し済みや。
その現場にC新聞とY新聞の記者が取材に来ていたという。
その折り、現時点では、Y新聞の記者の動きから、それほどのニュースバリューはないと踏んどるのやろうとワシが言うてたとおり、Y新聞紙面では未だにその記事の掲載はない。
どうやら見送られたようや。おそらく、よほどのことでもない限り、今後もないものと思われる。
一方、C新聞の方は、先週、11月27日の夕刊の一面で、その記事が報じられていた。
その記事や。
黙認一転「退去」迫る 三重の県営住宅ペット問題
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2010112790152434.html より引用
愛するペットを手放すか、住まいを出て行くか−。三重県の県営住宅でペットを飼う住人に、県側から厳しい選択が突き付けられた。住宅のペット飼育は規則で禁じており、県は「規則の徹底を図った」。
だが、これまでは“黙認”されてきた経緯もあり、長年犬や猫を飼ってきた住人からは戸惑う声が聞こえる。
津市の県営住宅で、2匹の愛猫と暮らす女性(68)は、8月、住宅管理会社の職員の訪問を受け、誓約書に署名するよう求められた。
「飼育している動物を県営住宅から移動させ、以降は動物を飼育しないことを誓約します。守らなかった場合は、速やかに県営住宅を明け渡します」
愛猫とのふれあいで独り暮らしの寂しさを紛らわしてきた女性は「40年以上住んでいるけど、こんなこと初めて」と頭を抱える。猶予期間は「3カ月」と言い渡された。
三重県が県営住宅のペット対策に乗り出したのは今年4月。「動物を飼っている住人を知っていたら情報提供を」と記した調査票を全戸に配った。後日、通報で指摘された100世帯ほどの住人を管理会社の職員らが訪れ、誓約書を渡した。
県営住宅条例では「他人に迷惑を掛けること」を禁じており、「ペットは飼えない」と入居者の募集の時や住人に配る冊子で告げている。
県住宅室の主幹は「動物を飼えないと知って、入居を断念する人もいた。規則を破る住人は見過ごせない」と話す。
入居する約3500世帯のうち212世帯が何らかの動物を飼っているとみられる。従来は苦情などがあった場合、個別に禁止であることを飼い主に伝える程度だった。
「何十年も犬を飼っていても何も言われなかった」と別の女性。態度硬化の理由を「マナーを守らない人が増え、苦情が多くなったのかも」と憶測する。
住人が飼うのは、大きくなった犬や猫がほとんどで、もらい手はまず見つからない。主幹は「保健所に連れていくかどうかは飼い主の判断」と言うが、現実の選択は限られている。
事態を聞き、全国の公営住宅のペット問題にかかわってきた大阪府の植田勝博弁護士が8月末、ペット飼育を続けられるよう、柔軟な対応を求める申し入れ書を県に提出した。10月には、県内外の動物愛護団体のメンバーら5千人分の賛同署名も出した。
植田弁護士は「ペットを飼いたい人、迷惑を受けたくない人がどちらも暮らせるよう、居住棟を区別するなどできることがある」と主張。「憲法上の権利からも、他人に危害を与えない限り、自由が認められるべきだ」と規制を疑問視する。
とはいえ、規則を破って動物を飼うことがほかの住人に受け入れられているとも言い難い。「苦情を言ったことはないが、不快に感じたことはある」「殺処分はかわいそうだが、違反者の側に規則を合わせるのはおかしい」との声も。「密告を推奨するようなやり方は、住人の間に遺恨が残る」と心配する人もいる。
県によると、期限の「3カ月」が過ぎた住人はかなりいるが、誓約書はほとんど提出されていない。
一見、この記事の論調は正論のように見えるが、これには幾つかの間違いと取材不足、見当はずれな記述があると言うとく。
もっとも、新聞社、および編集者、記者たちの立ち位置の違い、思惑などにより、すべてを承知の上で敢えて、その内容の記事を書いたとも考えられるから、一概にそうと断定することはできんかも知れんがな。
『住宅のペット飼育は規則で禁じており』というのは、現在、入居時に渡される「入居のしおり」には確かに「動物の飼育は禁止」と謳ってある。
しかし、これには法的拘束力は何もないと考えられる。
なぜなら、「入居のしおり」は契約書ではなく、単なる注意事項、お願い事を記した案内書にすぎんからや。
辞書によると、「しおり」というのは、「栞」と書けば書物の間に挟んで目印とするもので、「枝折(り)」だと山道などで、木の枝などを折って道しるべとすること、とある。
そこから、簡単な手引書、案内書という意味で使われるようになったと。
つまり、県はその言葉を使う段階で、自らソフトなイメージを重視し、法律とは無縁であることを鮮明にしたとも言える。
当然のことながら、その「入居のしおり」に違反したからと言うて、「強制退去」などの法的処置が執れるはずがない。
事実、今まで動物を飼育していたというだけの理由で強制退去になった例はないさかいな。
もっとも、平成22年6月30日発行の「第50回県営住宅だより」の中では、
『(5)犬、猫など動物を飼わないでください。指導に従わず、エサやりや飼育を続ける場合は、明渡請求、法的措置を行うことがあります』
と脅かしとも取れる記述があるから、県側の気持ちの中には、それがあるのやろうとは思う。
公営団地への入居は、貸し主である公団と入居者個人との間で交わされる賃貸契約で成り立っているさかい、「規則」と言う限りは、その中で、はっきりと『犬、猫など動物を飼うのは禁止』と謳うとく必要がある。
しかし、三重県県営住宅条例第22条の「迷惑行為の禁止」には、
入居者は、周辺の環境を乱し、又は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない。
とあるだけで、その条例のどこにも、ペットの飼育禁止についての記述はなく、それに関連した条項も含まれていない。
もっとも、この記事では『県営住宅条例では「他人に迷惑を掛けること」を禁じており』とあるから、その拡大解釈で「ペットの飼育」も、その「迷惑行為の禁止」になるという判断かも知れんがな。
しかし、単にペットを飼っているだけで、その条文を適用するには無理がありすぎると思う。
「ペットの飼育」=「迷惑行為」とは絶対にならんさかいな。
それやと、世間一般のペットを飼っておられる人のすべてが「迷惑行為」をしているということになる。
ナンボ何でもそんなアホな拡大解釈はないわな。
それを理解していれば『住宅のペット飼育は規則で禁じており』などとは書けんはずや。その法的根拠が何もないわけやさかいな。
それを書くのなら、「県側の主張は」と主語を付け加えておかなあかん。
『県側の主張は「住宅のペット飼育は規則で禁じており、規則の徹底を図った」』と。
そうしておけば、ワシのような解釈をする者も現れず、ケチをつけられることもなかったはずや。
そのままやと『住宅のペット飼育は規則で禁じており』というのは、新聞社の意見、見解とも受け取れるさかいな。
まあ、この辺りに関しては単なる誤記なのか、意図した記述なのかは分からんがな。
ワシは後者やと思う。ある思惑が働いたために、その記述になったと。
それについては後でまとめて話すので、今は先を続ける。
『県住宅室の主幹は「動物を飼えないと知って、入居を断念する人もいた。規則を破る住人は見過ごせない」と話す』というのは、その主語が「県住宅室の主幹」になっとるから、それはそれでええ。
但し、その内容はおかしいと言うしかない。
『動物を飼えないと知って、入居を断念する人もいた』というのは、どうして分かったのやろうか。
県の公営住宅に入居するには、事前に申込書の調査表に必要事項を記入せなあかんことになっとる。
現時点でペットを飼っている人間は、そのときに入居をあきらめる者が大半やと思う。
ごくまれに、ペットを飼っている者が入居をしようと考えたとしても、その存在を隠すのが普通や。
三重県の県営住宅に入居できる確率はおそろしく低い。
その時々の状況でも違うが、たいていは数%以下の狭き門やという。1、2%程度というケースもザラにあると。
そんな思いをしてやっと当選したのにも関わらず、バカ正直に「私はペットを飼っています」と言う者はおらんやろうから、「それでは入居は許可できません」てな会話が県側と交わされることなどあり得んし、考えられんことや。
それやのに、申込みの段階で『入居を断念』したという人の存在を、どうして知り得ることができるのやろうかと思う。
これは、県住宅室主幹の想像で言うてることに、ほぼ間違いない。
まあ、そういうケースもあるやろうから、あながち間違いとも言えんが、人が想像で発言したことを新聞紙面で記事として書くというのは、どうかとは思うがな。
新聞紙面で活字になれば、読む人は、その県住宅室主幹に説得されて入居を断念したと勘違いする。少なくともワシはそう受け取った。
そんな茶番と承知して、その県住宅室主幹の発言を載せるには、それなりの理由と思惑がある……はずや。
ワシらは歳も食うて、性格もひねくれとるさかい、どうしてもその裏側を深読みする癖が身に染みついとる。素直に読めんわけや。
せやから、ここからはワシの想像……ということにしとく。
これはあきらかに、論理のすり替えやと思う。
事実は、入居後にペットを飼い始めたケースが大半を占めとるということや。
その記事に『40年以上住んでいる』、『何十年も犬を飼っていて』とあるのが、それを裏付けとる。
この場合、ペットというのは大半が犬猫のことで、それらは長くて10数年の寿命しかない。
当然のことながら、『40年以上住んでいる』、『何十年も犬を飼っていて』という人たちは繰り返しペットを飼っているものと考えられる。
その理由は、いろいろや。
高齢化して身寄りがなくなった。あるいは家族と離れて孤独になった。また留守がちな親が子供の寂しさを紛らわせるために買い与えた。
どこかで瀕死の犬猫を見つけて可哀想でたまらなかった、など同情の余地のある場合が結構多い。
入居後にペットを飼い始めたケースを説明するには、どうしてもその記述が必要になる。
それを避けた結果が、『動物を飼えないと知って、入居を断念する人もいた』という記述になったのやと思う。
入居前にあきらめたというのと、入居後にペットを飼い始めたというのでは、まったく違うことやさかいな。
もっと言えば、入居前にあきらめたというのは、少し違うと思う。
その事実が皆無とまでは言わんが、冷静に考えれば、その可能性はかなり低いとすぐに分かるはずや。
県営住宅のように低所得者を対象にした賃貸物件に入居しようという人たちの多くは、それまで、それよりも高い民間の賃貸物件に入居していたケースが圧倒的に多いと考えられる。
それであるなら、民間の賃貸物件の大半がペットを飼うことを禁じとるから、最初からペットを飼ってない人がほとんどやと思う。
裏を返せば、そういう人たちが県営団地の入居募集に集まったとも言えるわけや。
それが、入居後、何らかの事情でペットを飼うようになったと。
そして、誰かが飼い始めて何も言われない、咎められないと知って、徐々に増えていった。
それが本当のところや。
民間の賃貸物件の大半がペットを飼うことを禁じていて、実際にそれを破った場合、簡単に立ち退きを強要されるのは、その入居時に契約書の中で、はっきり「ペットの飼育は禁止」と謳ってあるからや。
そして、それがあるために、実際の裁判でも、そのほとんどが貸し主側の勝利になり、借り主は退去を余儀なくされとるわけや。
ところが、三重県県営住宅条例第22条の「迷惑行為の禁止」には、その記載がない。
つまり、入居時の契約で、それを規制していなかった。それがなぜなのかという正しい答はワシにも分からんがな。
まあ、普通に考えれば、昔も民間の賃貸物件の大半がペットを飼うことを禁じていたから、そこから入居してくる者に、その心配がなかったということやろうと思う。
性善説に立っていた、あるいは想定外やったために、法律で規制していなかったと。
ただ、それをええことに、他人に迷惑をかける自分勝手なペット飼育者の存在も否定はできんがな。
それがある故に、問題が大きくなってしまい、苦情が多くなったために、その規制をするしかないと県の住宅室は考えた。
県側の主張は、そこにあるとは思うが、事実は公平に正しく報道する必要がある。
新聞の使命はまさに、それやさかいな。
『これまでは“黙認”されてきた経緯もあり』というのは、そのこと自体が大きな問題やと思うが、この記事では、それをサラリと流している。
このケースを「黙認」とするなら、三重県の県営住宅が建設されてから、今年の6月まで、実に50数年もの長きに渡り、そうしてきたということになる。
他人名義の土地でも、勝手に家を建てて20年もすれば取得時効により、その土地の権利を取得することができるとされている。
まあ、この場合、その例えが適切かどうかは分からんが、違法な行為であっても長期間、放置、容認すれば正当な行為と法律も見なす場合もあると言いたかったわけや。
つまり、その間、一度も「ペットを飼っていた」との理由で強制退去させた事実がなければ、その「規則」とやらには何の拘束力もなかったという証明になるということや。
その事実があれば、県は必ずその事例を持ち出して、より強固な「脅し」に使うてるやろうしな。
それを「黙認」という言葉でサラリと流すというのは頂けんわな。そんなレベルの話やないと思うで。
その記述の裏には、「今までは容認してきただけで、これからは違う」と暗に仄めかせていると受け取れるが、もしそうなら、その論理には無理がある言うしかない。
普通に考えれば、強制退去をさせることが法的に不可能やったからこそ、それができんかったと見るべきや。温情でも何でもない。違うやろうか。
それが理解できれば、『愛猫とのふれあいで独り暮らしの寂しさを紛らわしてきた女性は「40年以上住んでいるけど、こんなこと初めて」と頭を抱える。猶予期間は「3カ月」と言い渡された』ということが、どれだけ理不尽で不条理な事なのかが良く分かるはずや。
これは、実際にそうするのは不可能やと知っていながら、ペットを飼っている住民にプレッシャーをかけることで自発的に出ていくように仕向けとるのが見え見えやさかいな。
これも法的に追い出しが可能なら、そんな誓約書など取るまでもなく、その住民に警告した後、裁判で強制退去の訴訟を起こせばええだけの話や。
事実、家賃滞納など明らかに法に問えるケースなら、「これまでに、150件の強制執行を実施しました」と県は誇らしげに公言しとるわけやさかい、それができるものなら、「黙認」などという言葉は使わず、さっさとそうしていたはずや。
しかし、現実にはそれをしていない。できていないということや。
『「動物を飼っている住人を知っていたら情報提供を」と記した調査票を全戸に配った』という事実を報道していながら、その行為の恐ろしさに、まったく触れてない、触れようとしないのも、とんでもない話や。
理解に苦しむ。
これはどう見ても、その密告を奨励しとるとしか思えんことや。
ワシらが、この問題をシリーズ化した背景には、この密告を推奨するような行為を辞めさせたいという思いが強く働いたからや。
今日び、堂々とこんな真似をしとるのは、大半の日本人、いや世界中の多くの人たちから嫌われ、ひんしゅくを買っている独裁国家の「北の国」くらいのもんやで。
ここは民主主義の国、日本や。
こんな非民主的な行為が堂々とできる神経を疑う。そして、それを、あたかも是と見なすような新聞の記述にもな。
当然やが、公団でペットを飼っている人も居住権を有した正当な入居者や。
法律の保護はもちろん、その人権や権利も尊重され、保証されなあかん。
民主主義というのは大勢の意見だけで成り立つ社会では絶対にない。少数といえども、その意見、考えは尊重されてしかるべきやさかいな。
県の行為は、明らかにそれを無視したものということになる。
県がその姿勢を改めん限り、ワシらは声を大にして、この問題を取り上げ続けるつもりや。
もう5年以上前になるが、ワシらは旧メルマガで、『共謀罪』についてシリーズ化(注2.巻末参考ページ参照)して、その危険を訴えたことがある。
その折り、その法律が可決されれれば日本は密告社会になると警告したが、今回の県のこの行為にも、それと共通するものがある。
こんな行為を許していれば、それが時と共に正当化され当たり前になってしまう。
そうなると、大袈裟でも何でもなく日本の未来すら危うくすると思う。
結果的に、その『共謀罪』は廃案になって事なきを得たわけやが、そのときには、あるゆる新聞社、ジャーナリストが一斉に声を揃えて、それに反対していたもんや。
それが廃案の原動力になった。
しかし、なぜか、この行為には、そこまでの声がまだどこからも上がっていない。というか、その問題意識すら芽生えてないように思う。
この事案を記事にしてその実態を知っているはずのC新聞ですら、そのことに気づいてないと思われる。
気づいていれば、そんな論調にはならんはずやさかいな。
その危険に多くの人が気づくまで、ワシらはこの問題を訴えていくつもりや。
『共謀罪』に反対したときと同じように。
『「密告を推奨するようなやり方は、住人の間に遺恨が残る」と心配する人もいる』というのが、まっとうな考え方やと思う。
多くの新聞社は人権問題には敏感に反応するし、それを守る立場にあると自覚しとるはずや。また、そうでなかったら公器を謳う資格などない。
それにも関わらず、この県の行為を許しているかのような報道をしていたら、新聞の大義が泣くで、ホンマ。
まあ、全体として県側寄りの論調であっても、その「密告を推奨するようなやり方は、住人の間に遺恨が残る」という住民の意見を掲載したことで、そうではないということが言いたかったのかも知れんがな。
いずれにしても、住民に密告を推奨するようなやり方は、公団で住民がペットを飼っている問題なんかより、はるかに大きな問題やと思うが、それに対して新聞紙面で何も糾弾してないことには残念と言うしかない。
平成22年4月22日付けで全戸に配布された調査票には、『なお、「動物を飼育している部屋を知っている」などの情報をご存じの方は、下記に記載の指定管理者へ別紙により通報してください。動物情報の通報があった部屋については、状況の確認を行います』と、堂々と書いとる。
そのこと自体もそうやが、なぜ、今になってそんな真似までして、その事に固執せなあかんのかという理由が、もう一つ理解できん。
単に苦情が多いというだけのことやろうか。どの程度をもって苦情が多いと言うてるのか分からんが、少なくともワシらが調べた限りでは数件程度しかなかったがな。
記事にもあるとおり、『苦情を言ったことはないが、不快に感じたことはある』というのが大半の反応やと思う。
『第125回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 3』(注1.巻末参考ページ参照)の中で、実際にトラブルになったケースについて話したが、それで我慢できん一部の人間が騒いでいるのを、県が取り上げ、ことさらそれを大問題でもあるかのように扱っている。
そうとしかワシには思えん。
動物を飼うことで、他の住民に迷惑をかけ、具体的な被害を与えれば、その責任を負うのは当たりのこと前や。
その場合は、個別の事案毎に対応すればええだけの話やと思う。
現状の法律、規則だけでも十分可能なんやさかいな。
刑法に触れることなら、その罪が適用され、民事なら損害賠償義務が生じるわけやし、それが度を過ぎた行為の場合は、それを理由に住居の立ち退き請求もできるはずや。
そして、それなら、どこからも文句が出ることはない。
しかし、現実の県の対応はそうではなく、単に『動物を飼育している』という事実だけで責め、退去させるために、住民を煽って密告させようとしとるわけや。
そこには、その『動物を飼育している』住民も一市民で一入居者やという配慮の欠片も感じられない。ただ排除することしか考えとらん。
あたかも『動物を飼育している』こと自体が大変な犯罪を犯しているように扱い、対応しとるわけや。
そんなことが許されて、ええはずがない。
それも公団が建設されてから50数年も経った今頃になって、それを始めたという。
それが正当化されると考えたという、その愚が何で分からんのかが、ワシには不思議に思えて仕方ない。
さらに言えば、『後日、通報で指摘された100世帯ほど』とあるように、それに呼応して密告した住民がいとることも不気味なことやし、恐怖すら感じる。
これでは、まるで日本が、そういう社会なのやと広言しとるようなもんや。
こんな事実を知れば、日本人が「北の国」の批判なんかできんと思うがな。
同じようなことを平然としとるわけやさかいな。
ある確かな情報によると、三重県のS市営住宅でペットを飼っている住民に、そこの自治会長から、近日中にペットを処分するようにとの通告が回覧板で回されたということや。
これなんかも、明らかに県の対応を誤解して行った愚行やと思われる。
当然やが、自治会長にそんな権限はない。その通告をその住民が無視した場合、一体どうしようというのやろうか。
まかり間違って、個人的な権限で強制退去にでも追い込もうとすれば大変な問題に発展すると思うがな。
このケースは、『敷地内にペットの糞が落ちていた』という理由のようやが、その糞がそのペットのものと断定されれば、それに対しての注意やアドバイスをすればええだけの話や。
それをせず、いきなり、こんな真似をするというのは頂けん。というより、あってはならんことや。
この行為自体も、『敷地内にペットの糞が落ちていた』という以上に、重大かつ大問題や。
『敷地内にペットの糞が落ちていた』というのは、単なる迷惑行為やが、その権利のない者が、私的な制裁として、その住民を追い出すという行為は不法性を伴い、人権、生存権すら奪う可能性のあることやさかいな。
どちらが、より大きな問題かは誰にでも分かると思う。
もっとも、そうするにはそれなりの理由があるのかも知れんがな。もし、そうなら、ぜひその理由とやらを知りたいもんや。
ただ、どんな理由があるにせよ、住民の代表である自治会長あたりが、入居者を追い出すような真似をするべきやない。
事ほど、さように、県などの公的機関が、間違った、あるいは法に則った行いをしていないと、結果として、こういった心得違いの人間が現れ、それをして当然、正義と考えるような、とんでもない事態になるわけや。
県の姿勢がこのままやと、今後も、これと同類の事が起こる可能性は高いのやないかと思う。
『10月には、県内外の動物愛護団体のメンバーら5千人分の賛同署名も出した』という記述も、これだけを読むと、ある特定の人間だけの賛同署名のように感じられるが、実態は少し違う。
それには、三重県内の一般市民も数多く署名しとる。その事実をボカしたらあかん。
しかも、その署名の多くは、その公営団地以外の住民で、客観的にこの問題について考えることのできる第三者という点も大きい。
そして、この事実を重く受け止めるようにと書くのが新聞の本来あるべき姿やないかと思う。たいていの署名活動の結果発表には、それがある。
民主主義の世界での新聞報道は、何より市民の声が大きく扱われ、反映されなあかん。
『県によると、期限の「3カ月」が過ぎた住人はかなりいるが、誓約書はほとんど提出されていない』ということやが、新聞社はその確かな数字を把握しとらんのやろうか。
ワシらの仕入れた確かな情報によると、「誓約書」を提出したという確認が取れたものが4件。今のところ非公式で未確認なものが10数件あるということや。
これをほとんど提出されていないと見るのかというと、少し疑問やけどな。
まあ、県の言うことを鵜呑みにして記事にしたということなら、それはそれで仕方ないがな。
取材能力の限界まで追及するつもりはないさかいな。
ここまでのところ、何かその新聞記事の揚げ足取りに終始しとるだけやないかと思われるかも知れんが、実は、この記事の内容について言いたかったのは、たった一つの事だけなんや。
それは、C新聞社も営利企業である以上、より多くの読者に迎合するしかなかったのやないかということや。
その方向で考えれば、どうしても、ああいった感じの記事にならざるを得なかったと。
三重県下でC新聞と言えば、絶対的なシェアを有している。当然のことながら、今回の舞台となった公営団地での読者も多い。
『約3500世帯のうち212世帯が何らかの動物を飼っているとみられる』ということは、裏を返せば、それ以外の94%の住民は動物を飼ってない、飼うことに否定的な人たちやという見方が成立するわけや。
新聞社としては、その6%しかない212世帯を擁護して、94%の約3500世帯にそっぽを向かれたくない。
それよりも、単に「規則を破った」とした方が説得力があるし、多くの読者の共感も得られると踏んだ。
そういうことやないのかと思う。
しかし、それは短絡的な読みやという気がする。
モリ女史らの市民団体、『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』の真の目的は、ペットを飼っている公営団地の人たちを擁護するというより、それによって失われるかも知れん動物たちの命を守りたいということなわけや。
動物愛護の精神が、その運動を衝き動かせていると。突然の役所の思惑で、動物たちが命を落とすことだけは絶対に阻止したいと。
モリ女史らの市民団体が何より恐れるのは、ペット飼育者がやむを得ず保健所などに、そのペットを持ち込むことや。
そうなってしまえば、ペットたちに救いはほとんどない。大半は殺処分されるさかいな。
そのペットたちを守るためにも、全力でペットを飼っている公営団地の人たちを擁護するしかないという結論に至ったわけや。
モリ女史らの市民団体のメンバーに団地に住んでペットを飼っている人はいない。
ほとんどは、それ以外の戸建ての住宅でペットを飼っている人たちや。
その一般市民が、県のやり方に義憤を感じて立ち上がったということには大きな意味があると思う。
現在、空前のペットブームの影響で、日本の全世帯の約40%強が何らかのペットを飼っていると言われている。
当然、戸建て居住率の高い三重県下にも、そういう人たちは多いものと推測される。
それがある故に、僅か1ヶ月間で「動物の命を守りたい」というモリ女史らの市民団体に賛同する一般市民から5,212名もの署名が集まったと考えられるわけや。
それも、テレビや新聞といったマスメディアに取り上げられて有名になったわけでも、地域でそれが評判になったわけでもなく、その大半は口コミだけで拡がり、その署名数に至った。
正直言うて、これはワシらにとっても予想外の多さやった。まさか、そこまで集まるとは考えもしてなかった。
しかも、それは現在に至っても、日を追う毎に集まっているという。
最早、この問題は公団住宅内だけの狭い範囲での出来事ではなくなっとるわけや。
ハカセは、知り合いでペットを飼っている一般市民に何の情報も与えず、そのC新聞の夕刊記事について意見を求めてみたという。
それによれば、「これって、早い話がペットを処分しろってことですよね。そんな可哀想なことをするのはおかしくないですか」という返事が返ってきたという。
その後、その人に詳しい経緯を知らせると、やはり、県のやり方に憤りを覚えたということや。それと同時に、その新聞記事の内容もおかしいと。
はっきり言うが、この件の事実を多くのペット愛好者に知らせれば、たいていは、この人と同じような反応を見せるものと思う。
つまり、その意図するところとは逆に、C新聞は、その記事を掲載したことで、より多くのペット愛好家たちの反感を買った可能性があるということや。
大勢の意見に乗ったつもりが、実はもっと大多数の一般市民の反感を買うことになったと。
「短絡的な読みや」と言う所以が、そこにある。
ここまでのところ、批判的な論調が多かったが、この問題を取り上げているのはC新聞だけで、その点においては評価したいと思う。
その思惑はどうであれ、この問題が、今後広く知られるキッカケにはなるさかいな。
さらに、これが県住宅室への牽制にもなると考えられる。
これだけ公になってしまえば、法を無視するような強引かつ迂闊な真似はできんやろうからな。
とは言うても、役所の常で、一度決めたことを、そう簡単に変更、転換することができんのも確かや。それも反対運動に負けてというのでは体裁も悪いしな。
少なくとも、その立場の役所、県住宅室としては、そう考えるはずや。
ペットを飼っている住民たちに『ペットを手放すか、住まいを出て行くか』の誓約書の提出を求め始めたのが6月の末のことで、その際の期限は3ヶ月ということになっている。
それからすると、現在、12月の初めやから悠に5ヶ月は経過していて、期限切れになっている入居者もいると考えられるが、それに対しての県住宅室、および指定業者からの具体的なアプローチは、今のところ何もないとのことや。
モリ女史らの市民運動にしても、その誓約書の提出を撤回させるまでには至っていない。今後も、それを期待するのは難しいと思う。
現在、県住宅室は、モリ女史らからの簡単な問い合わせすら無視しとるというさかいな。
ワシが冒頭で、『膠着(こうちゃく)状態』と言うたのは、そのためや。
どちらも、それ以上の動きが取れずにいると。
ただ、この膠着状態は県住宅室の動きを牽制し、制約することにもなるから、モリ女史らにとっては、『歓迎できる事態と言える』と言うたわけや。
その動きが止まれば、当面はペットの命は救われるさかいな。
ただ、安心はできん。というか、より危険な要素も孕(はら)んでいると考えといた方がええ。
先に、三重県S市営住宅の自治会長の事案を話したが、県住宅室の動きが鈍くなれば、そういったペット飼育者を快く思っていない人たちは不満に思う。
それにより県を突き上げるだけならまだええが、その矛先がペット飼育者に向き、事案にあるような行為がエスカレートすることも十分考えられる。
現状の法律で、ペット飼育者にペットを放棄させるか追い出すためには、そのペットによる被害を実証する必要がある。
そのペット飼育者たちが十分な配慮と注意をしていれば問題ないが、それと狙いをつけられれば、とことんその瑕疵を追及してくる可能性がある。
針小棒大と言うと語弊があるかも知れんが、どんな小さなことでも事を大きくすることもあるやろうと思う。
そんな状態のところでは当然のように軋轢が生まれ、トラブルが増えると予想される。
一番ええ解決策は、公団側、公団の住民、運動の推進派が集まって良く話し合
い、お互いが歩み寄ることやとは思うが、現状では、それは限りなく難しいと言うしかない。
特に、現状に見られるように、お互いを敵視しとるようではな。
また、三重県下の公営団地には外国籍の居住者も多く、ワシらの知り得た情報では、その彼らの中にもペットを飼っていて問題を起こしているケースもあるとのことや。
過去、このメルマガでも『第20回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■午前3時の招かざる訪問者』や『第89回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■そこにある危険で身近なトラブル その2 住民紛争の深い闇』(注2.巻末参考ページ参照)などで、そういった公営団地では一触即発の危険があると話した。
同じ日本人同士なら話し合えば分かり合えることも多いが、価値観の違う外国人では、それも難しいのやないかと考える。
その彼らとのトラブルが悲惨な事件を引き起こさんとも限らんさかいな。
それが現実のものにならずに済めばええが、その保証はどこにもない。
不吉なようやが、なぜかはワシらにも分からんが、このメルマガで話したことが現実の事件になるケースが過去に何度かあったさかい、今回はそうならんようにと願うのみや。
ただ、予断の許せない状況にあるのだけは確かやという気がするから、その危惧を払拭することができん。
考えすぎやとええんやがな。
ふーっ……。
ここまで懸命に言うてきたが、ため息しか出てこん。哀しいことやと思う。
それでも、ワシらに、「あきらめる」という言葉はない。多くの人に分かって貰えるまで訴え続けていくつもりや。
参考ページ
注1.第116回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について
第119回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 2
第125回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 3
注2.第48回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■共謀罪について
第49回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■共謀罪についてPart2
第55回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■共謀罪について Part3
注3.第20回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■午前3時の招かざる訪問者
第89回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■そこにある危険で身近なトラブル その2 住民紛争の深い闇
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