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第152回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2011.5. 6
■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 5
この問題に関しては依然として膠着状態が続いているが、最後に話した『第130回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4』(注1.巻末参考ページ参照)から、5ヶ月が経って、いくらか状況が変わり、多少の動きもあったので、今回はその報告をさせて頂く。
先日の統一地方選挙で、公営団地での『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』の代表、モリ女史らが推す、鈴木英敬氏が民主王国の牙城を崩し、新三重県知事になった。
それにより前知事のときの対立構造による膠着状態を脱することができるのやないかと、『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』では期待しとるということや。
もっとも、鈴木英敬氏が公約で「公営住宅でのペットの飼育を容認」したわけでも、「ペット飼育者に対するペットを放棄させる誓約書の提出」の撤回を宣言したわけでもないがな。
ただ、三重県の行政システムの大幅な改革を謳い、日本一安い給料の知事になると広言した36歳の若い知事さんに寄せるモリ女史らの期待は大きいということや。
これで三重県は変わるはずだと。
その統一地方選挙後、『迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会』では、公営住宅でのペット飼育の是非について、三重県内のある公団住宅数カ所で700枚の往復ポスティング・ハガキによるアンケート調査を実施したという連絡が、ハカセに届けられた。
以下が、その文面や。
入居者様 平成23年3月30日 迷惑をかけないペットの飼い方を推進する会 当会では公営住宅でのペット飼育について、入居者様の意識調査を行っております。大変恐縮ですが下記のアンケートにご回答の上、4月10日までにこのハガキを投函していただけます様、ご協力をお願い致します。 記 Q1 動物たちを一律に処分するのではなく、今いる動物たちの飼い主には近隣に迷惑をかけないような、適切な飼い方をアドバイスし、終生飼養ができるようにした方が良い。 はい ・ いいえ Q2 飼い主が動物と適切に生活し、近隣の人達との間で迷惑・被害を発生させないならば公営住宅でもペット可にしてよい。 はい ・ いいえ Q3 ペット飼育者のみ排除することが無いように公営住宅でも住み分けが必要と思う。 はい ・ いいえ ■ 公営住宅におけるペット飼育について改善すべき点がありましたらご記入下さい。 ( ) 以上、ご協力ありがとうございました。 |
このアンケートに対し、86通、約12.3%の回答が寄せられたという。
この手のものにしたら多い方やと思う。
通常、ポスティングでの反応率は、そのアンケートの種類にもよるが、1、2%程度というのが多い。
ペットを飼うことに反対の人、および関心のない人たちは、たいていサンレント・マジョリティ(静かな多数派)に徹する場合が多く、揉め事に関わり合いを持たんようにするのが普通や。
それを考えれば、これだけの返信があるということは、モリ女史らの活動が、ある程度、浸透している証拠で関心の高さを示しとる証左やないかと思う。
その意味では大きな進歩であり成果やと言える。
公団でも、今回の件に関して、いろいろとアンケート形式の調査票を取っているようやが、そこまでの比率では集まらんと思う。
しかも、公団は税金を使っての郵送や回覧板を回してのもので、かけられる費用や組織力などモリ女史らのそれより数段有利な状況にあるにも関わらず、その集まり具合ということになると、はるかに少ないと推測できる。
むろん、その根拠があって言うてることや。
公団側が、昨年の平成22年4月22日付けで、三重県内にある61ヶ所の団地、特定公共賃貸住宅を含めれば63ヶ所の約3千戸の県営住宅全戸に向けて、ある調査票が送付されたことがあった。
それには、『なお、「動物を飼育している部屋を知っている」などの情報をご存じの方は、下記に記載の指定管理者へ別紙により通報してください。動物情報の通報があった部屋については、状況の確認を行います』と、堂々と書いとる。
要するに密告の奨励やな。
何とも、えぐいやり方やとは思うが、これについての是非は、『第130回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4』(注1.巻末参考ページ参照)の中で散々言及したさかい、ここではそれは控える。
ただ、一点。
ワシらが、メルマガでこの問題をシリーズ化しようと考えた背景には、この密告を推奨するような行為を辞めさせたいという思いが強く働いたからやというのは言うておく。
いかなる問題であろうと、そういう愚劣な手段を行政が税金を使ってまでするべきやない。
また、それを知った主権者が、それを許したらあかん。
しかし、そうまでして約3千戸に向けて出した調査票とやらですら、今回、モリ女史らが募集したアンケートほどの集まりはなかった、反応に乏しかったというのが、その後の調べと状況から推測できるということや。
公団側は、その調査票をもとに、例の『ペットの飼育が確認された住民に対して「ペットを移動するか、住居を立ち退くか」の二者択一の誓約書』の提出を強く求めたということのようや。
つまり、その誓約書の提出に応じた数に近い密告があったものと思われる。
モリ女史らが、最近になって、その契約書の提出状況に関して情報公開請求をしたところ、住民が実際に提出した誓約書は、14件に止まっているということや。
その情報開示が進めば、もっと増えるかも知れんが、考えていた数より、はるかに少ないのが実態やった。
それから推測するに、寄せられた密告件数は多くても数十件程度のもんやと思われる。
約3000戸に対して数十件やから、ワシが『通常、ポスティングでの反応率は、そのアンケートの種類にもよるが、1、2%程度というのが多い』と言うた事と符合する。
「大山鳴動、ネズミ一匹」。そんな感じやな。
これから言えることは、あたかも大々的な『公団からのペットの一掃』を断行したように見えていても、実際は、密告を奨励した調査票の集まり具合が悪く、その密告者の数も少なかったということや。
それについては、当初かなりの人間がその調査票に応じて密告するのやないかと心配しとったが、そうやなかったと分かって、正直、ほっとした。
人の心は、そこまで腐ってなかったと。
少なくとも、三重県内61ヶ所の団地、特定公共賃貸住宅を含め63ヶ所の約3千戸の県営住宅の住民の判断は賢明やったと。
それからすれば、モリ女史らのアンケートへの反応は大きかったというのは間違いない。
そのアンケートの集計結果は、
Q1 動物たちを一律に処分するのではなく、今いる動物たちの飼い主には近隣に迷惑をかけないような、適切な飼い方をアドバイスし、終生飼養ができるようにした方が良い。
「はい」が69名、80.2%。「いいえ」が14名、16.3%。「無回答」3名、3.5%。
Q2 飼い主が動物と適切に生活し、近隣の人達との間で迷惑・被害を発生させないならば公営住宅でもペット可にしてよい。
「はい」が57名、66.3%。「いいえ」が26名、30.2%。「どちらでもない」1名、1.2%。「無回答」2名、2.3%。
Q3 ペット飼育者のみ排除することが無いように公営住宅でも住み分けが必要と思う。
「はい」が56名、65.1%。「いいえ」が22名、25.6%。「どちらでもない」1名、1.2%。「わからない」1名、1.2%。「無回答」6名、7.0%。
ということになったという。
このアンケート内容を見て、お気づきの方がおられたと思うが、これでは回答者の声を正しく反映するのは難しいと言うしかない。
「Q1」では『今いる動物たちの飼い主には近隣に迷惑をかけないような、適切な飼い方をアドバイスし』という条件のもとに『終生飼養ができるようにした方が良い』という設問になっている。
これでは、例え、ペットを飼うことに反対していても、「その条件下なら仕方ないか」ということで、「はい」を選択した人も多いのやないかと思う。
「Q2」の『近隣の人達との間で迷惑・被害を発生させない』ならば、『公営住宅でもペット可にしてよい』、
「Q3」の『公営住宅でも住み分けが必要と思う』というのも、「はい」としか答えようがないと考え、そう回答した可能性もある。
こういうのは誘導的な質問やと言われても仕方がない。
そう誤解される設問での回答では、あまり意味がないように思う。
モリ女史から、そのアンケート結果を教えて貰ったハカセはすぐに、
白塚博士です。
私の意見をということですので、忌憚のない正直な感想を述べさせて頂きます。
今回のアンケートの募集内容は、客観的に見ると、片手落ちの質問のように感じられます。
こういった質問をするのであれば、まず、「あなたは公団でペットを飼うことに賛成しますか、反対しますか、どちらでもいいですか」といった事柄が必要ではないかと思います。
それがあると、後の質問が誘導されているという印象が少なくなり、客観性も増しますが、今回の質問だけでは、そちらの運動に都合のいい答えを引き出すのが目的なように感じられて損だと思います。
望まない回答が寄せられることを怖がってはいけません。
どんな運動であっても、それに関わるすべての人が同じ方向だけを見て行動すると、どうしてもそう考えるあまり、そういった誘導的な質問になって、結果、第三者からは冷ややかに見られやすくなるものです。
どんなことでもそうですが、相手の考え、気持ちを知り、理解するということが重要だと思います。
そうすれば、自ずと、どうすればいいのか、どう説得すればいいのかが見えてくるはずです。
少し、辛辣だったかも知れませんが、私の意見、感想としては、こんなところです。
すると、すぐにモリ女史から、
ご返信ありがとうございます。
アンケート内容のご意見、白塚さまの仰る通り、都合のいい答えを引き出す…そうしたい私の心理が働いたアンケートですね。
客観的でなかったと反省です。
「あなたは公団でペットを飼うことに賛成しますか、反対しますか、どちらでもいいですか」との一文を加え、前回とは別の地区で再アンケートをしようかと考えています。
という返信があった。
ハカセも、モリ女史なら分かってくれると信じて、敢えて辛辣な意見を言うたわけやが、その甲斐があったと喜んでいた。
次回のアンケートの結果は、また違ったものになるかも知れんが、どんな結果が出ようと、それはそれでええのやないかと思う。
良くても悪くても、こういった市民運動は、それに即したやり方、方法というのが、いくらでもあるさかいな。
まあ、それはそれとして、せっかくやから、今回寄せられた意見をいくつか抜粋して、ここで紹介しようと思う。
ペットの飼養を容認する意見
○人間の尊厳を尊重し、アニマルセラピーの本質と動物愛護の観点等を理解しつつ、法律の検証を含め、動物の練習及び飼育方法の研鑽が肝要。
○しつけの点で動物を飼育する側にも問題はあると思いますが、やすらぎという事でお年寄りにはいい事だと思います。
○動物を好きという理由でなく本当に必要とする人ならば考慮するべき。
○1人暮らしが多くなった現在、ペットの存在は大きくなりつつあると思います。心の頼りにしている人も多いと思います。生きる気力も与えてくれているはずです。ペットは大切です。
○人の命でも動物の命でも同じ。
○動物は本当に人間をやさしくしてくれる。
○やむを得ず引き取らざるを得ない場合(親が飼っていて亡くなった時)等があるため、一律に処分というのは考えてほしい。
○今子供を産み育てる家庭よりもペットを飼う家庭のほうが多くなりつつあるのに全くペットを飼うのをダメにするのはどうかと思います。
○モラルを守ればOKです。
○マナーの悪い人がいてきちんと飼育している人へ迷惑かけてる
○仮に今飼っているペットの事で近所からはっきり苦情が出ていてその人が迷惑かけないよう努力しない場合のみ退去させるべきではと思います。
ペットの飼養に反対する意見
○動物アレルギーにも配慮が必要だと思う。
○ネコとかも放し飼いにしないでほしい。危険だし、駐車場にウンチがしてあり踏んで嫌な思いをした。同じ家賃というのもおかしいので追加料金を取ってほしい。
○団地の回りを散歩させていて糞等をしても処分しなくてそのままにしています。大変こまります。
○夜中でも階段をあがっていくと鳴くから迷惑だと思う。
○イグワナや人間をおそう動物飼うのは禁止してほしい。
○自分が好きだからといって、他の人も好きとは限らないという認識がない。
○同じ階の人に了承を得るべき。トラブルの原因になる。
○飼育は絶対すべきでない。臭い。うるさい。近所迷惑この上なし。即退去。
○私は猫アレルギーです。臭いや抜け毛すら反応し病院へ行く始末です。ですから2Fや3Fで猫がいてどれほど迷惑しているか考えて頂きたいです。
○犬をベランダで飼っている人がいるけれど人が通ったり、動物がいるとよくほえるし、又これからハエが飛ぶので衛生的にも悪い。
と、どちらにも、それぞれの立場に立てば、もっともやと思える意見が多い。
そして、お互い、相容れないという感じもよく分かる。特に反対する人の理解力は皆無に近いと。
この問題の難しさを凝縮しとるような意見やと思う。
これ以外では下記の類の意見が、相当数あった。
それを上記の中から除外したのには、その意見が法律的にも正当やと考えておられる人が圧倒的に多いからや。
その主な意見を紹介する。
○元々公営住宅ではペットを飼ってはだめと言われている。
○公営はペット禁止が前提なのだから飼いたい人は民間へ移るべきです。
○入る前に県や市と契約どおり退去すべきである。民間ではありえない。
○公営住宅に入る時にペット飼育はダメと言われて入居したのでルールは守るべきだと思います。
○入居時の規則は何年住んでいようと守っていただきたい。
○ペットは飼ってはいけないと決められているのであればまずそれを守ること。
この手の問題で反対される方は、必ずと言うてええほど、規則や法律、契約で決められていることやから、守るべきやという論理を持ち出されるケースが多い。
そう言いたい気持ちは分からんではないが、残念ながら、事、三重県の公団住宅に関しては、ペットを飼うことが法律で禁止されているわけでも、規則や契約で決められとることでもない。
あたかも、そうであるかのように、公団側が後付でそう主張しとるがな。
実際問題として、ペットを飼ってエサやりや飼育を続けとるという理由だけでは、どんな法的措置を持ってしても住居の明け渡し請求をするのは難しいと思う。
事実、三重県に公団住宅ができて約60年間、ただの一度もそういった事例はないさかいな。
これは温情でも何でもなく、法的にそうすることが不可能なだけや。
それ以外に理由はない。
三重県県営住宅条例第22条の「迷惑行為の禁止」というのに、
『入居者は、周辺の環境を乱し、又は他に迷惑を及ぼす行為をしてはならない』
とあるだけで、その条例のどこにも、ペットの飼育禁止についての記述はなく、条項も含まれていない。
もっとも、拡大解釈で「ペットの飼育」も、その「迷惑行為の禁止」になると考えられる人もおられるかも知れんが、単にペットを飼っているだけで、その条文を適用するには無理がありすぎる。
「ペットの飼育」=「迷惑行為」とは絶対にならんさかいな。
それやと、世の中のペットを飼っておられる人のすべてが「迷惑行為」をしとるということになる。
そんなアホな論理はないわな。
また、「入居者のしおり」には、ペット禁止を謳っていると言うが、それは単なる注意事項で、それに違反したからと言うて法的なペナルティを科せるわけやない。
「しおり」は契約書とは違うさかいな。
良くて、ぜいぜい「注意していたはずですので止めてください」と言える程度や。
それを法的に有効とするためには、三重県県営住宅条例の条文に加える必要があるが、それやと、今度は憲法第13条に抵触するおそれが生じる。
その憲法第13条には、
『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする』
とある。
この中の『幸福追求に対する国民の権利』に照らせば、犬や猫などのペットを飼うことは、その基本的人権の一つとして認められるという解釈が成り立つ可能性が高い。
モリ女史らについている大阪の植田弁護士は、その問題に関してのエキスパートという立場から、法的な争いになる事も見越して、その運動の支援やアドバイス、および署名活動に参加されとるわけや。
先ほどの意見の中に、『民間ではありえない』というのがあったが、確かに民間のペット禁止の集合住宅というのは多く、実際、ペットを飼っているということが発覚しただけで退去させられたというケースも多い。
法律もそれを認めとる。
しかし、それは賃貸契約書にそう明記しているからで、それが明記されていない三重県の公営団地では、契約を盾にはできんということや。
ただ、その事実を知らん人が多いさかい、規則や法律、契約で決められていると勘違いする人が多いわけやがな。
まずは、それを知って貰う必要がある。
物事は正しい事実の上で論議されるべきで、その土台が揺らいだ議論は議論にはならんさかいな。
ただの感情論のぶつかり合いでしかない。
その意味では、モリ女史らの運動は、今後も大きな意味を持つものと考える。
ただ、ペットを飼うことで法律に触れない、強制退去させられないかというと、必ずしもそうやないがな。
やはり、迷惑行為の度が過ぎれば、三重県県営住宅条例第22条の「迷惑行為の禁止」に抵触して、そうなる可能性は否定できん。
実際にも、今回のアンケートで寄せられた意見を見る限り、それに該当しそうな飼い主もいそうやさかいな。
また、中立的な立場で見ても、公団の住人に限らず、マナーの悪い、人に迷惑をかけても平気な態度を示すペット飼育者が相当数いとるのは確かやと思う。
人間と違うて、動物は基本的に言葉も分からんし、理解力にも限界がある。いくら飼い主が気をつけていても、人に迷惑をかけることもある。
その認識を強く持って、細心の注意を払いながら、周りの理解を求めつつ飼わなあかんと思う。
ただ、いくら、そうしたとしても現在の状況では、公団でのペットの飼育を、そこに住む他の住民からは、なかなか受け入れて貰えん可能性の方が高いと言うしかないがな。
本当は、そうした努力は行政がするべきやが、残念ながら、この震災時に世界中から、『日本国民は一流、しかし、日本の政府、行政は三流』と揶揄されたような現状で、それを望むのは難しいかも知れんな。
ましてや、住民に密告を奨励するような行政では救いはないわな。
お互いがお互いの立場を理解し、尊重して暮らすというのは、口で言うほど簡単なことやないのは百も承知やが、『日本国民は一流』と、世界から賞賛されとる日本人なら、それは必ずできるはずやと思う。
そう信じたい。
参考ページ
注1.第130回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■公営住宅でのペット飼育の是非について Part 4
ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集 電子書籍版パート1
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