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第155回 ゲンさんの新聞業界裏話


発行日  2011.5.27


■ある新聞集金請負人の嘆き


「逃げられたか……」

新聞集金人のハルオは、蛻の殻(もぬけのから)となった公営団地の一室の前で誰に言うとなく、そう漏らした。

新聞集金人を続けていると、時折、こういうこともあるが、何度経験しても気分のええもんやない。

その部屋の住人はサナダと言った。

ハルオは、念のため販売店に問い合わせてみたが、やはり、そのサナダからは何の連絡もなかったようや。

黙って、引っ越した。3ヶ月分の新聞代を未払いのまま。

夫婦二人暮らしとのことやったが、ハルオは妻しか知らない。

金払いは悪かった。手こずらされたという印象しか残っていない。

「今日は持ち合わせがないから」と言うので、後日行くと、「銀行に行き忘れた」、「忙しいから来月にして」というやり取りが、ほぼ毎月のように続いた。

ひどいときには、「こんな雨の日に集金に来ても、お金なんかないわよ」と、わけの分からん苦情を言い出す始末やった。

まあ、本人にしたら、雨の日はどこにも出かけられんから「そんな日に集金に来るのは非常識」という思いがあって言うてるのやろうがな。

しかし、集金に晴れの日も雨の日も関係ない。

限られた期間内で500件弱の集金をするのに、そんな天候のことなど一々気にしていられない。

ハルオは、新聞販売店の従業員ではない。パートとも少し違う。

形態としては、1件につき150円の手間賃を貰っているだけの個人の請負仕事ということになる。

ハルオは、昼間はある会社に勤めていて、夕方から、アルバイト感覚で、その集金業務を始めた。

今年で、もう5年になる。

それまでは給料もそれなりにあって安定した生活を送っていたが、長引く不況の影響で、残業はなくなり、ボーナスは大幅に減額され、賃金もカットされた。

それでも、世の中でリストラの嵐が吹き荒れとることを思えば、職を失わずに済んでいるだけ、まだマシやった。

そうかと言って、そのままでは、それまでの生活を維持するのは厳しい。

10年前に買った家の住宅ローンがまだ20年以上残っていて、それが毎月の負担として重くのしかかっている。

人は良きにつけ悪しきにつけ、現在の状況が、これからも長く続くもんやという意識に囚われやすい。

その10年前、まだ30歳そこそこで結婚して間もない頃、当時の給料で家のローンくらいは余裕で払えると考えた。

それには、建設会社のセールスマンの口車に乗せられたということも大きい。

それについては、ワシ自身、建築屋の営業を長くやった経験があるから、良く分かる。

ハルオの話から、その頃、ワシがやっていた時分の事を思い出した。

30数年前やったということもあるが、今からは考えらんくらい強引な営業やった。

営業の仕事をしていると、比較的落としやすい客と難しい客がいるというのは、誰でも経験的に知っていることやと思う。

落としやすい客というのは、たいていが同じような性質を持っとる場合が多い。

おだてやお世辞に弱い。ねばりに弱い。律儀で頼まれ事を断ることができん。自尊心が強い。見栄を張る。人の話に納得しやすい。人を信用しやすい。情にもろい。楽観主義者である云々、というところやな。

こういう落としやすい人間のことを住宅業界では「丸い人」「丸い客」と言う。

「丸い客」やと踏めば営業員は徹底した営業をかける。そこまでするかというようなことも平気でする。とにかく、しつこい。

そのあたりは新聞営業と共通するものがある。

まあ、営業にそのしつこさ、粘りが欠けるようでは大した成果は上げられんがな。

それを営業熱心な人と感じて貰えるか、迷惑な人間と受け取られるかの違いで、その評価が大きく分かれる。

そのあたりが営業の難しい所でもあり、腕の見せ所でもある。

その数ある営業法の中から一つだけ紹介する。

ふらふら営業というのがある。

文字通り、客をふらふらにして思考力をなくさせて契約させる手法や。

総じて「丸い客」というのは話をよく聞く。

普通、その家の主人が仕事から帰り、食事やら入浴を済ませた午後8時くらいの時間帯を目途にアポを取っといて訪問することが多い。

新聞の勧誘と違い、玄関先だけで話がまとまるというケースは少ない。

客も最初から、じっくりと話を聞くという姿勢になっとるさかい、その点で言えば楽や。

たいていは、その家の客間か居間に通される。

そのじっくりとした営業トークをしとる段階で契約に持ち込めれば問題はないが、いくら丸い客であっても、家を買うというは一生に一度の買い物や。

当然のように慎重にもなるし、難色を示し抵抗する者もおる。

抵抗する客には長期戦の構えを取る。焦らず、じっくり攻める。

それが、ときとして「えぐい営業」になる。

なかなか帰らん。というより、そういうタイミングに持っていかんように、手練手管を駆使し、話術の限りを尽くす。

夜の12時程度は普通に粘るし、夜中の2時、3時頃まで話し込むというのも珍しいことやない。

エサに食らいついた営業員に、一般的な常識はないに等しい。

翌日、その客が仕事であろうと、何か用事で出かけることがあろうと、例えそれを事前に聞かされていたとしても、気を使うようなことはせん。

いかにも、話に熱中していて時間が経ったことに気がつかんかったと装う。

夜も更けて長時間になると、客も思考力がにぶり、その場が凌げればええと考え出すようになる。

文字通りふらふらにするわけや。

その頃になると、営業員の「賃貸で家賃を払い続けるより、買った方が絶対にお得ですよ」というトークが本当にそうやと思い込み納得してしまいやすくなる。

ローンの支払いは一見して、払いやすそうなプランを提示する。「こんな程度の支払いで家が買えるのか」と思わせる。

もっとも、建築屋にとっては、そんなマジックは普通に考えるし、造作もないことやけどな。

基本的には、1ヶ月の支払いを極力安くしたプランを提示する。その分、ボーナス払いの額が増えるわけやが、そのあたりは軽く流す。

「ボーナス時、少し大目に払っても毎月の支払いが楽な方がいいですよ」と。

これは、普段、車やクレジットカードのローン払いに慣れとる人間は、特にそういう感覚に陥りやすい。

その彼らにとっては、1ヶ月の支払額がすべてなわけや。それで判断する癖がすでに出来上がっとる。

このとき、間違うても、その支払総額を教えたらあかん。また計算して提示するのも御法度や。

当たり前やが、30年、35年といった長期の住宅ローンで家を買えば、たいていは金利だけでも相当な額になるさかいな。

それで一気に客を現実に引き戻してしまう。

裏を返せば、現実に戻って冷静になりたいのなら、自らその計算をしてみればええということや。

そうすれば、自分がどんなに無謀なことをしとるのかということが見えてくる。

計算というても支払額の総合計から融資額を引くだけやから、算数さえできれば誰にでも簡単にできる。

しかし、できる営業員は、けっしてそういうところには客を誘導しない。持っていかない。

夢を見る者に現実を見せたらあかんということや。なるべくなら、夢を見させたままの状態で契約に持っていく。

人は思考力が衰えると相手の話に迎合、納得しやすくなるから、そのふらふらの状態になった頃を見計らって、一気に落とす。

丸い客というのは、正直で実直な一面がある。どんな、状態であれ、交わした約束は破れん。

ハルオがそうやった。

これだけを取り上げて言うと、営業員というのは、何とえげつない手を使うもんやなと思われるかも知れんが、最終的な責任は、当然のことながら契約した者にある。

その判断に誤りが生じる最大の要因は、先にも言うたように、「今の状態が、これから先も長く続く」と錯覚するところにある。

一昔前までは、社会の中には年功序列という考え方が根強く残っていて、そのため、将来、収入が上がっても下がったり、リストラされたりということまで考えが及ばんのが普通やった。

そんなことは絶対にあり得んことやと。

その条件のもとで、長期ローンというのが考案され広まった。

しかし、現実には、そのあり得んことが起きた。

世の中というのは、ええときも悪いときも同じ状態、状況がそう長くは続かない。必ず、ええときは悪くなり、悪いときは良くなる。

歴史はそうして繰り返されてきたという歴然とした事実がある。

菜根譚に「久安を恃(たの)むことなかれ」というのがあるが、昔から、ええときほど、悪くなったときのことを考え、準備しておくべきやと考えられていたということや。

ハルオは今になって、そのことに気づき悔いた。ローンで家なんか買うのやなかったと。

この住宅ローンの苦しさ、俗に言われる「ローン地獄」から逃れられるものなら、家を売って、その金で精算したかった。

しかし、世の中が不景気になるのと正比例するかのように、地価も下落の一途を辿っていった。

家を売ったところで、そのローンの返済など、とても無理や。

過去10年間の支払いが無駄になるだけやなく、すべてをなくしても尚、多額の借金が残る計算になる。

それは、あまりにもバカげている。

結果、ハルオには、アルバイトをしてでも、そのローンを払い続けるしかなかった。

そのアルバイトとして選んだのが「新聞の集金人」やったということや。

ただ、「今の状態が長くは続かない」という現実は、悪い面ばかりではなく、良くなることもあるわけや。

その可能性にすがった。

もちろん、今より悪くなることもあるわけやが、今それを考えても仕方がない。

そのハルオにすれば、タカが新聞代ごときの支払いもせず、引っ越しをする者の気が知れんかった。

そんな発想しか湧かん者に未来なんかない。

もっとも、ハルオがそういう気になるのは、現在、仕事としてその新聞の集金をしとるからかも知れんがな。

すべての人がそうやとは言わんが、中には新聞代くらい払わんでもどうということはないと気軽に考える者がいとる。

それで新聞社が困るわけでもないやろうと。

それには、新聞社と新聞販売店の経営は同じという考えがあるからやと思う。

そう考えている人たちに、「本当は、新聞社と新聞販売店はそれぞれ別々の会社で経営も違うんですよ」と言うと、「へえー、そうなんや」という答が返ってくることが多い。

新聞社にとっては購読客が新聞代を滞納しても、何の痛みも感じない。関係のないことやで済ます。

新聞社は、販売店に卸した新聞代金は、何があろうがきっちり取る。

顧客が新聞代を払わんことで困るのは新聞販売店とハルオのような新聞集金人だけということになる。

特に新聞販売店は、その顧客から集金できんかったからと言うて、従業員や配達員にその分の給料を削るわけにはいかんさかい、モロにその被害を受ける。

もっとも、その昔、「切り取り」行為というのが横行していたことがあったがな。

「切り取り行為」というのは、新聞講読料の集金期日までに回収ができんかった場合、その集金を担当した従業員の給料から一時立て替えをさせるシステムのことをいう。

集金時には「証券」と呼ばれる二枚綴りの領収書を受け取る。一枚は店に新聞代金と一緒に提出する控えになり、もう一枚が客に渡す領収証になる。

集金さえ順調にできれば何の問題もない。店に集金した代金とその「証券」の控えを渡せばええだけやさかいな。

たいていの販売店は、集金期日というのを厳格に決めている。

その日までに集金できんかった場合、集金できたとき販売店に渡す控えだけを回収し、その代金の納入不足分を給料から差し引くというシステムを取り入れとるという。

強制的な一時立て替えということになる。

その立て替え分がほしかったら、「自分で集金しろ」で済ます。

それで販売店には、回収不能金がなくなる。

そのためには従業員を泣かしても構わんという理屈になる。えぐいとしか言いようのない行為や。

はっきり言うて、こんなことをしていたのは日本広しといえども、この新聞販売店業界くらいしかないと思う。

当然、違法性の高い行為ということになる。

労働基準法第24条第1項に定められた「賃金全額払いの原則」に完全に違反すると考えられるさかいな。

その証拠を持って労働基準局あたりに、お恐れながらと訴え出れば、その販売店は相当まずい立場になる。

これに対して、新聞販売店側の言い分としては、「集金の使い込みやサボリを防止するため」というのが多いようやが、労働基準局にそれは通用しない。

ハルオの販売店では、過去にそのことで大揉めに揉めて、結局、集金だけの専門請負人を新に雇うことにしたということや。

今は、そういうケースが多い。

新聞集金請負人は、1件あたりいくらという手間賃仕事やから、空足(からあし)を踏まされるのは堪らない。堪忍してほしいと思う。

しかも、このサナダのように何度も過去に無駄足を運んで手こずらされた人間に対しては、よけいにそういう思いが募り、腹立たしさを覚える。

もっとも、「切り取り」行為があるわけではないから、販売店には「集金不能」と届ければ、それ以上は何のお咎めもないがな。

黙って引っ越したということをボヤいたが、顧客から事前に連絡がある場合でも、事はそれほど簡単やない。

いつ行っても在宅しとる顧客や集金日時を指定してくれる人の場合なんかは何の問題はない。

問題は、普段からなかなか会えん客や。

そういう客の場合は基本的に、その客の休みの日、土日の午前中に集金に行くことが多い。

しかし、引っ越しとなると、必ずしもその土日に決行するとは限らない。平日というのも十分あり得る。

あるときなど、その引っ越しまでに集金ができず、その分自腹を切って払ったということがあった。

引っ越しすることを事前に知らされていながら、そうなったということでな。

金額にして4000円弱やが、1件につき150円しか貰っていないから、その分を取り返すには、26、7件の集金分がタダ働きになる。

そのことがあってから、ハルオは、その引っ越しがあると知ると、その家に何度も電話し、連絡が取れれば、その日時を約束させ、電話に出なくて連絡が取れない場合は、その日の集金予定が終わってから、その客が帰って来るまで、例え深夜になっても張り込んで待っていることも何度かあったという。

「オレは借金の取り立て屋か」と嘆きながら。

8割以上の客は、長年やっているということもあり顔見知りになっていて心やすい人間が多いから、それほど苦労することもなく集金できる。

問題は残りの2割、100軒ほどの客や。

たいていは独身者、学生というのが多い。

ハルオは、前者の客を便宜的にA、後者をBとグループ分けしている。

集金日というのは、基本的には毎月25日から翌月の5日、遅くとも10日までの間にすることになっている。

その間の土日に、普段会いにくいBグループを重点的に回るわけや。

特にトラブルがなく集金できれば、その月はそれで終わる。

しかし、この集金業務というのは結構、トラブルの多い仕事でもある。毎月のように、某かのトラブルがあるのが普通や。

まあ、それについては、サイトのQ&Aを見て頂ければ分かって貰えるとは思うがな。

ハルオが、これまでに経験した主なトラブルをいくつか紹介する。


新聞集金時のトラブル事例


1.サービスが悪いと言ってクレームをつけられる。

最近、特にこういうのが多い。

それには、販売店がサービスの自粛をしとるということが大きく影響しとるのやと思う。

2、3年前までやと、遊園地の無料優待券とか映画の無料招待券、演劇の無料チケットといったものを集金時のサービスとして渡すことができた。

もっとも、すべての客にというわけにはいかんが、ポイントとなるBグループの独身者にそれを渡すと、それを目当てに在宅しとるケースも多く、集金するのも楽やったということもあり、それをよく活用していた。

それがなくなったことで、逆にクレームをつけられるようになった。

「映画の無料券がもうもないのか。それやったら、次は契約せんで」と。

その客の怒りたい気持ちは分かるが、はっきり言うて、それは集金人のハルオにとっては関係のない話や。

ただ、そう言うて反論するのも面倒臭いから「どうも済みません」と言うて謝っておくがな。

ただ、それでは納得せん客もおり、しつこく「その代わりに何かサービスしろよ」と迫られることがある。

そういうとき、ハルオは、「それでしたら、販売店の方に言ってください。私は集金だけが仕事ですので、ご希望には添いかねます」と言って逃げる。

実際、販売店からは、現在、小さなゴミ袋以外、何も渡されてないさかい、そう言うしかないわけや。

すると、中には、「態度の悪い集金人が来た」と販売店にクレームを入れる客がいとる。

八つ当たりか、それであわよくば何かを貰おうという魂胆なのかは知らんが、ハルオにすればええ迷惑や。

そういうときは、販売店の店長に直接、その事情を伝えて行って貰うようにしとる。

「私では対処できません」と言うてな。

そういうケースは、「集金人を変えてくれ」ということで話がつくことが多い。

ハルオが悪者になっとるというのは分かるが、そういう人間と関わり合いが絶てるのなら、それもええと考えるさかい、ほっとくことにしとる。


2.不配や遅配が多いというクレームがある。

「不配や遅配が多いから集金額をまけろ」とか「その分を差し引いてくれ」というのが、たまにある。

そのときも一応謝っておく。

「どうも済みませんでした。次からはそういうことのないように、きつく言っておきますので」と。

文句を言われながらでも、集金ができれば良しとする。

それを理由に、あくまでも集金の値引きを強要してくるようやと、「申し訳ありませんが、それは私の一存ではできません」と、きっぱり断る。

それで仕方ないとあきらめて払ってくれればええが、難色を示すとか時間がかかりそうやと感じたら、「分かりました。その旨、店に伝えて起きます」と言って、その場はあきらめて他へ回る。

また、「今度、不配や遅配があったら新聞を止めるからな」という客についても同じで、謝って集金できるのなら、それで良しとし、一応頭を下げる。

それでも集金できない場合は、「分かりました。店に伝えておきます」と言ってその場を立ち去る。

集金は、ある意味、時間との競争で、いかに短時間で効率よく集金できるかということを考えながらする必要がある。

これが、勧誘も兼ねた従業員なら、そこで粘るのも意味があるかも知れんが、ハルオのような集金請負人にとっては、どんな相手でも所詮は1軒の集金先にしかすぎず、その相手だけに時間を浪費するわけにはいかんわけや。

まあ、この手のクレームは、一応文句が言いたかったというのが大半やから、その場で神妙に「どうもすみませんでした」と謝れば、集金できるケースが多いがな。

それでもダメということもあるが、そういうのは、よほどの場合しかないから、早々にその場を離れるようにした方が賢いということや。

そのクレームを販売店に持ち帰って、販売店の判断を仰げば済む。


3.契約してないと噛みついてくる。

初めて集金に行った客の内100軒に1軒くらいの割合で、そう言われるケースがある。

代表的なのが「契約なんかしてないのに勝手に新聞を入れられて困っている。何でそんな新聞代を払わなあかんねん」というものや。

そういう場合も、あまり深く関わり合わず、「そうですか。それでは販売店にそう伝えておきます」と言うて引き下がる。

「実際、サイトのQ&Aでゲンさんが回答しておられるような対処など、私には難しすぎてできませんしね」と、ハルオ。

サイトのQ&Aは、相談者からの訴えに間違いがないという前提のもとで回答しとるが、実際のトラブルの現場では、双方の言い分をよく聞いてからでないと、その判断を下すのは難しいさかい、ハルオの取った行動は、それで正しかったとワシも思う。

しかし、そのハルオがそう引き下がったことで、「集金人の人に契約が無効だと了解して貰いました」と、勝手に販売店に言う者がおるということやから始末に悪い。

もっとも、そのときには、販売店の店長が、「ハルオさんがそんなことを言うはずがない」と言うてくれたので救われとるが、とんでもない言いがかりをつける者がおるというのを痛切に感じた出来事やったという。

まあ、言いがかりと言うより、そうあってほしいという思い込みが強すぎたからかも知れんがな。

いずれにしても迷惑な話には変わりがない。

結局、そのときは出入りの拡張員のてんぷら(架空契約)やったということが分かった。


4.新聞の記事が気に入らないというクレームをつけられる。

ごく希に、集金に行くと、「昨日の社説の論調が気に入らない」、「あの記事は明らかに煽動記事や」などと言って怒り出す者がいとる。

これについても、面倒臭いさかい、「分かりました。○○さんの気持ちは、本社に伝えときますので」と、謝る素振りだけして集金して帰ったことがあった。

しかし、そんなことを販売店に言うても、新聞社に言うても、どうにもならんというのは分かり切ったことやからと考え、どこにも伝えず放置していた。

それには、その客もハルオに文句を言うたことで気が済んだやろうと甘く考えたということもあったからや。

しかし、その数日後、「集金人に伝えた返事はどうなったんや」と、その客が販売店まで押しかけ、ちょっとした揉め事に発展したということがあった。

これに関しては、その客の思いを握りつぶしたハルオに非があったと認めるしかなかった。

後で、店長にそう言うて謝ったが、そのとき店長は機転を利かして、「本社に、それは伝えているのですが、まだ返事がありませんので、今しばらくお待ちください」と、その客をなだめて帰した。

そして、そのすぐ後に「本社では、大変貴重なご意見を伺ったと感謝していましたので」と連絡を入れといたと言う。

ハルオは、このことで安請け合いはするもんやないと、つくづく痛感したという。

こういう場合は、「私どもでは、その意見は聞いて貰えない可能性がありますので、お客様から本社の方に直接、そう言って頂けないでしょうか」と答えるのがベストやと思う。

「お客様の意見でしたら本社も無視はしないと思いますので」と。

実際、その新聞社がどういう対応するかは分からんが、少なくとも、そう言うとくことでハルオには類はおよばない。

まあ、新聞社に言うたところで、たいていは、「大変貴重なご意見を伺い、ありがとうございました」と、お茶を濁したような返答が返ってきて終わりやとは思うがな。


5.何度行っても居留守を使って出てこない。

集金に行って「ちょっと待ってくれ」とか「今は持ち合わせがないから次にしてほしい」というのは仕方ないが、明らかに在宅しているのにも関わらず出て来ないタチの悪い客もいとる。

こういうのに限って、そのまま販売店に伝えても従業員がその客に連絡すると、「お前のところの集金人はぜんぜん来んやないか。集金に来んのに何で払えるんや」と、逆切れすることがある。

実際、それでハルオの責任にされたことがあった。

とんでもない話やが、そのときには、それを否定するだけの証拠と材料がハルオにはなかったさかい、口惜しいが謝るしかなった。

苦い経験や。

こういうときは、その客の玄関口の前から携帯で電話をかける。

その電話に出れば、「○○新聞から集金に寄せて貰いました。今、○○さんの玄関口にいますので、お願いします」と言う。

それで出てきて集金できれば問題ないが、それでも居留守を使い続けて、その電話にも出ないということがある。

その場合は、3度ほど立て続けに電話してから立ち去るようにしとるという。

こうしておけば、後日、集金に来てないと言われても「私は確かに行きました。○月○日、私の携帯から、○○さんに電話をかけているのが、その証拠です。その発信記録は、携帯電話会社に言えば、すぐ取り寄せることができますので、私の言っていることがウソではないと証明できるはずです」と、強気に言える。

実際、一度だけそういうことがあり、そのときには、それでもその客が難癖をつけるというので、業を煮やした販売店の店長が、解約違約金を取って、その客の希望どおり解約に応じたという。

販売店の方でも、そういう客とは縁を切りたかったから、それで良かったと言われ、救われた気になった。


6.契約内容が違うというクレームを受ける。

これは、特定の拡張員の契約に、こういうのがあった。

「タダでもええから契約してくれ」と言って契約を取って、そのままにしといたというものや。

ハルオの所には、その客の証券が回ってきとるさかい、集金に行くしかない。

しかし、客は、その約束があるからと頑として、その支払いには応じない。

調べた結果、その拡張員の仕業やと分かった。

この場合は、その拡張員を出入り禁止にし、その責任を拡張団に取らせるということになり、その客とは無条件に解約するということで話がついた。


と、こんなところが、その主なトラブルや。

ハルオは、ワシらのサイトやメルマガを見て、やはり自分が経験したようなことが実際どこにでもあるもんやなということが再確認できたという。

そして、そのトラブルの対処も事細かく解説しとるので、現場でも結構役に立っていると。

その礼を込めて、集金専門の人間として知っていることを話かったと。

ワシらのサイトには、本当にこういう人たちが多くて助かっている。

最後に一言。

サイトのQ&Aには、時折、新聞集金人とのトラブルが寄せられることがあるが、彼らは総じて限られた期日内、限られた時間内で集金しているため、忙しく駆け回っとるのが普通や。

はっきり言うて、一件ずつ懇切丁寧に苦情を聞くのは難しい。そういう仕事やないさかいな。

それを一般の方にも分かって頂けたらと思う。

何か苦情があるのなら、直接、その販売店、もしくは新聞社の苦情係に連絡してやってほしい。

新聞集金人も同じ販売店の人間やから、客の苦情くらい真摯に聞くのは当たり前やというのは、確かにそのとおりかも知れんが、このハルオのように決定権を持ってない者の方が多いさかい、言うても望むような結果にはなりにくいと思うしな。

苦情は、その管理者もしくは責任者に言うた方が効果があるということや。


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2011.4.28
販売開始 販売価格350円
 

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