メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第16回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2008.9.26
■マイナーワーカー同盟座談会 その1 押し紙問題について
今から2年半以上も前のことになる。
2006年1月7日。
その日、仲間内だけのささやかな新年会の席上、ワシらは酔った勢いで「マイナーワーカー同盟」構想というのをブチ上げた。
マイナーワーカーというのは、平たく言えば下層労働者のことや。
人間の社会は良くピラミッドに例えられるが、その底辺に位置する下層労働者と言われる人間が圧倒的に多いという構造になっている。
しかし、脚光を浴びるのは常にその頂点付近の一握りの人間たちだけや。
もちろん、それには、それにふさわしい人間が多いのも良う知っとるが、ワシらマイナー・ワーカー(下層労働者)の中にも、その連中に負けんくらいの者が大勢いとるということ知らしめたいという思いがあった。
旗揚げメンバーは、拡張員のワシ。売れないマイナー作家のハカセ。古紙回収業のテツ。流行らないスナックの店主、カポネの計4人や。
いずれも社会の底辺で喘いでいる不遇の男たちということになる。
ただ、その誰もが人に負けんものを持っているという自負が強い。
中でも、その口は絶品や。
ワシも含めてやが、言いたい事を言うことにかけては人後に落ちん男たちばか
りやさかいな。
そのときの模様は、旧メルマガ『第75回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■我らマイナーワーカー同盟』(注1.参考ページ参照)にあるから、興味と暇のある人は読んで貰うたらええ。
自虐的にマイナーワーカーとは言うてるけど、皆、それなりにプライドはある。その道のプロとの自覚もある。
しかし、現実問題として世間からの評価が低いという否めん事実がある。
「仕事に貴賤はない」と言うけど、あれは嘘や。そうやったらええのになという理想を込めた言葉以外のなにものでもないと思う。
人は相手を判断する場合、必ずと言うてええほど、その職業や知名度のあるなしを基準にする。
中には、出身校の善し悪しを論じる者すらおる。
知識人、著名人、有名人などは一様にそれだけで尊敬され評価される。
一般でも、その会社の規模、役職によっても、その人の値打ちが左右されることも普通にある。
社長、重役、部長クラスと平社員というのでは、世間の見方もまったく違う。会社の規模も大企業と中小企業とでは、その評価に雲泥の差が出る。
肝心な人間性とは別のところで、否応なく評価の対象にされるわけや。
理不尽でバカげた話やけど、それが人間の社会やと認識するしかない。
ただ、認識してても、何も黙して語らずを貫くことはない。言いたいことを言えばええ。
そうは言うても、普通は、その機会すらないというのが実情や。せいぜい個人間で愚痴る程度でその場がない。
それでは声はどこにも届かん。
せやけど、ワシに関しては、今、こうして、好きなことを言わせて貰うてるということがある。
そして、有り難いことに、それに耳を傾けてくれる読書も多い。
そういう場を拡げるための『マイナー・ワーカー同盟』の旗揚げでもあったわけや。
当時のメルマガでそれを公表したのは、その仲間を募りたかったのやが結果的には組織化するまでには至らんかった。
というか反響があまりなかった。ゼロというわけやなかったがな。
もっとも、ただの思いつきのようなものやったから、具体的な行動は何もしていないし、単なる洒落の一つとしてしか見られてなかったのかも知れんがな。
その本気度が伝わってなかったと思う。
そこで、多少遅きに逸した感はあるが、具体的な行動の一環として、たまに集まって座談会形式で言いたいことを言い合うということにしたわけや。
場所は、カポネのスナック。
もともと、客は滅多に来んから終日でも良さそうなもんやが、せっかく来た客を追い返すのもなんやから、万が一を考え、一応、午後6時〜8時までの開催とした。
店の営業は午後7時からやったが、8時までは絶対に客は来ることはないとカポネが自信を持って言うのでそうした。
その万が一、来た客が常連なら無理矢理、話に引き込めばええし、一見の客の場合は黙っていても、一見してこれだけ胡散臭そうな男たちが集まっとれば、覗いた瞬間どこかへ行くのは確実やわな。
普段でも、若いおねえちゃんもカラオケもなく、スキンヘッドのいかついおっさんがカウンターにポツリと一人いとるだけの店ということで、敬遠してすぐ逃げ出す客も多いというしな。
流行らん店には流行らんだけの理由があるということや。
何はともあれ、記念すべき第一回の座談会が始まった。
議題は「押し紙問題について」やった。
「先日、こういうものが私宛に送られてきたんですが」
ハカセがそう言いながら、表紙に『押し紙を知っていますか?』と題したA4版の9ページほどのパンフレットを一同に見せた。
送付人は九州の高名な弁護士からとある。
ハカセとは直接の面識はない。
ただ、旧メルマガ『第172回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ある地方紙販売店の闘い Part1 その前夜』(注2.参考ページ参照)の中で、ある地方紙新聞販売店の元店主、ナカイ氏(仮名)から、押し紙裁判をするとの話を聞かされていた際、出た弁護士さんの名前やというのはすぐに分かった。
その弁護士さんは、ナカイ氏からハカセのことを聞いたのやろうと思う。
その裁判については現在進行中とのことなので、その詳細についてここで言及するのは避けさせて頂く。
そのパンフレットに添付されていた書き付けの、さわりの部分だけを紹介する。
各位
急速に秋の気配が漂って参りました。
皆様方におかれましては、ご活躍のことと推察申し上げます。
私どもはY新聞販売店の店主の方々の、Y紙を相手にした販売店の地位確認等を求める裁判を担当しているものです。
現役の発行販売店主が発行本社を相手に裁判を起こし、福岡地裁、高裁、最高裁で勝訴判決を得た新聞業界史上画期的出来事として、各方面から注目を集めています。
これらの裁判を担当して参りました私ども弁護団は、新聞社の押し紙問題を以前から追求し続けてきたフリージャーナリストのK氏の協力を得て、「押し紙」問題に関するパンフレットを制作し、広く世間の皆様方の閲覧に供することに致しました。
というものや。
本文ではアルファベット表記は実名になっとるが、当メルマガのスタイルとして、そう変更したのでその点はご了承して頂きたいと思う。
「これを見てどう思われます?」と、議事進行役のハカセ。
「押し紙については、サイトを見て初めて知ったくらいですから、私自身は何の知識もありませんが、要するに新聞社の不正行為ということですよね?」と、カポネ。
「そんな単純な問題でもないが、押し紙の説明を聞けば、たいていはそう考えるわな」と、ワシ。
押し紙というのは、新聞社が販売店に本来の販売部数以上の部数を送り付けて強制的に新聞を買い取らせる行為のことをいう。
1977年に日本新聞販売協会が、仕入れ部数と実売部数について初めて全国の新聞販売店を対象に調査したことがあった。
その結果、新聞販売店に納入されている新聞の8.3%が余剰新聞になっているということが分かった。
ただ予備紙といって、水濡れ、破れ、汚れなどによって破棄しなければならないケースや試読サービス分、あるいは月の半ば以降の新規購読者に対する無料配達サービス分などがあるから、余分に新聞を確保しておく必要はある。
その予備紙は取り扱い部数の2%までと業界で決められているから、それをオーバーする6.3%の新聞が説明をすることのできん無意味な余剰新聞ということになる。
この頃から、その余剰新聞の多くを、新聞社が販売店に強制的に買わせるように押しつけたものということで「押し紙」と呼ぶようになったわけや。
その後、この押し紙の存在は業界のタブーということになり、闇に潜むことになる。
一説には、現在はその頃と比べて全国平均で2倍強の余剰新聞があると言われている。
「それに、ほぼ間違いないとオレも思うな」と、テツ。
テツは昔から京都、滋賀で古紙回収業を長くやっている。
テツが古紙回収に行く新聞販売店は、ざっと30店舗ほどあるという。
そのほとんどで、結束されたままの余剰新聞(残紙)を回収しとる。それが半端な量やないとテツは言う。
テツは昔、それを不思議に思い、ある販売店店主に「お宅ではどのくらいの部数を扱うてんねや」と聞いたことがあり、そのとき「3000部ほどや」という答が返ってきたらしい。
「今、思えばそれはゲンさんらの言う、公売部数というやつやったんやろうな」
その販売店で10日前後くらいで約2トンほどの余剰新聞があるという。
これについては、それだけを紙問屋のカンカン(重量計)で計るから間違いない。その伝表も存在することでもあるしな。
それから推察すると、その販売店の余剰新聞は20%強という計算になる。
「確かに、新聞社が販売店に強制的に新聞を買わせるという事実はある」と、ワシ。
ただ、表向きにはその事実はないことになっているがな。
新聞部数の発注は、あくまでも販売店側からすることになっている。新聞社はその希望の注文部数だけを卸しているだけやというのがその理由や。
その実態は、担当員と呼ばれる新聞社の販売部の人間が、口頭もしくは電話でその部数を発注書に書き入れるよう示唆しとるケースもあるわけやが、それの証拠となる書類が一切ないから、その事実はないと新聞社は主張する。
もっとも、販売店店主の中には、その会話を逐一録音しとる人も相当数おられるので、いつかはその言い逃れも苦しくなるときがくるとは思うがな。
また、その証拠はなくとも状況からして「押し紙」というのが存在する可能性はかなり高いと考えられる。
その最大の理由として、新聞各社の部数至上主義というのが挙げられる。
そのためにワシら拡張員が存在し、熾烈な販売競争が繰り広げられてきたわけや。
順調に購読部数が伸びてた時期には、「押し紙」が目立って存在するというほどでもなかった。
あっても、先の1977年当時の6.3%程度の余剰新聞があるくらいなものやった。
しかし、1985年頃を境に、その状況が大きく変わってきた。
それまで、順調な伸びを続けていた業界が5000万部を越えたあたりから横ばい状態になり、部数増にかげりが見られるようになった。
もっとも、その購読率が93%を越えたあたりから、実質的にはそれ以上伸びようのない飽和状態になり頭打ちになったわけやけどな。
ただ、その頃は、どの業界でもそうやったが、常に成長を続けんとあかんという考えが一般の企業に根強くあった時代や。
新聞業界もそれは同じやった。というより、どの業界よりもその思いが強かったかも知れんという気がする。
しかし、他の業界なら、海外進出して規模の拡大を目指せるが、新聞はそうはいかん。
一部の英字新聞を除いて、新聞は日本でしか売りようのないものやさかいな。
それでも増紙させるしかないという強迫観念に取り憑かれた新聞社は、当然の帰結として販売店にその増紙分の新聞を買い取らすという方法を考えついたわけや。
部数が増えれば、新聞紙面広告の値打ちが上がり、その収入も見込める。
どうやら、新聞社はその頃から新聞紙面で企業からの広告掲載費を稼ぐ方に重きを置いたのやないかと思われる。
しかし、現実問題として、少子化傾向により人口減が進んでいる社会にあって、その部数増というのを今以上に望むには無理がある。
新聞は人が読むものやから、どうしても人口と共に減少傾向にならざるを得んわな。
それでも部数増を目論むためには、架空部数のでっち上げしかないという結論に至ったのやろうと思う。
加えて、パソコンや携帯電話の普及でインターネットが驚異的な伸びを見せるに伴い、新聞無読者の増加が著しく増えている現在、その部数の減少がより顕著になっていったわけや。
「素人考えですけど、押し紙が新聞社の不正行為だというのは何となく分かりますが、それにより一般の購読者に何か不利益なことでもあるんですか。例えば、それがあるために新聞代が高くなっているとか」と、カポネ。
「それは、あまり関係ないやろうな」と、ワシ。
それには、新聞代の決め方というのは、純粋にその必要経費プラス利益分ということよりも、その時代毎でどの程度の金額やったら売りやすいかという視点で決められていたと考えられるからや。
その証拠に、高度成長期からバブル絶頂期にかけて、新聞代は2、3年という短い周期でぐんぐん上昇していったが、バブル崩壊前後の1994年4月以降、現在に至るまで値上げしていないということがある。
もっと言えば、昨今の急激なガソリン価格の高騰で、紙などを始めとする多くの業者が値上げに踏み切っている最中、一部の例外を除いて新聞業界には、その値上げの兆しすら今のところまだないさかいな。
その一部の例外というのは、今年の7月1日から地方紙のY形新聞一紙のみが朝刊のみ3007円を3300円に値上げしたというのがそれや。
他もこれに追随するのかと思われたが、今のところその気配はまだないようや。
この新聞業界の低迷が続いている現状でヘタに値上げして、今以上に部数減になることを恐れる新聞社が圧倒的に多いためやろうと思う。
普通、押し紙などの全く読まれも買われもしない無駄な新聞を印刷すれば、そのコストが価格に反映されその商品の価格が高騰すると考えるのが自然やが、事、この新聞に関しては、それはあまり関係ないということになる。
もっとも、それが関係ないほどハナから新聞代が高く設定されとるとも思えんがな。
どこの新聞社も昨今の値上げラッシュには苦しい経営を強いられているはずやと思う。
ただ、新聞社は、先にも言うたように新聞を売ることで儲けを得るという考えがあまりないように思える。
せやなかったら、押し紙などという、タコが自らの足を食うような真似ができるはずはないさかいな。
この押し紙は、どう見ても販売店に負担を強いているようにしか考えられんも
のや。
当たり前やが、その販売網である販売店をいじめれば、結局は新聞社へもその煽りを喰らうことになり、共倒れになるのは明白や。
いくらなんでも、その程度のことが新聞社に分からんはずはないと思う。
どういう形であれ部数が伸びれば、企業からの新聞紙面への広告費がその分増えるさかい、それでやっていけると考えた。
それが、部数至上主義の考え方であり、押し紙が生まれた真の背景やと思う。
もっとも、つい最近、大手自動車メーカーがメディア広告費の削減を大々的に宣告したことで、それも狂い始めてきとるようやがな。
それについて話すと長くなるので、また別の機会にするが、ここでは、単にそのビジネスモデルも厳しくなりつつあるとだけ知って貰えたらええ。
カポネの意見に代表されるように、一般において押し紙があまり話題、問題にされんのは、それが直接、購読者に関係あるという認識が薄いからやないかというのがワシの見方や。
加えて、その押し紙により一般購読者がトラブルに巻き込まれることがないというのもその一因としてあると思う。
消費者にとって、それがええか悪いかというより、直接、被害があるかどうかの方が問題やさかいな。
もっとも、新聞自体がその押し紙の報道をせんということもあるし、新聞各社の影響の強いテレビがその話題をあまり取り上げんということもあるやろうがな。
この問題に関心があるのは、その被害に苦しむ販売店経営者を別にすれば、そういう不正が許せんという人か、新聞を嫌っている人たちやと思う。
特にインターネット上での、そうした批判の大半がそうやという気がするさかいな。
特に新聞は、他者への不正行為はとことん叩くのに、自らのそうした行為は隠そうとしとると映るからよけいそうなるのやろうと思う。
「新聞社の押し紙行為が一方的に責められていますが、実態はゲンさんの言われるとおり単純なものではないと私も思いますね」と、ハカセ。
インターネットの世界では押し紙のみがクローズアップされることが多いが、新聞の余剰新聞の背景には「積み紙」というのもある。
これは、押し紙とは反対に販売店側の不正行為に属するもので、これに関しては新聞社はあまり関知することはない。
もっとも、見て見んふりくらいはしとるかも知れんがな。
「万紙」と呼ばれているものがある。
部数1万部以上がそう呼ばれ、その万紙以上を扱う販売店は、業界でも大規模販売店として認められることになる。
部数至上主義を掲げる新聞社は、当然のようにその大規模販売店を大事にするからその待遇や諸条件もその他の販売店より良くなるのが普通や。
また、それは一つのステータスでもあるから、それに届くところにある販売店は多少無理をすることがある。
例えば、公称部数9000部の販売店があったとする。後、1000部あれば、その万紙販売店の仲間入りができる。
言えば見栄のためにそうするケースもあるわけや。
しかし、この押し紙、積み紙などの余剰新聞というのは、そのすべてが販売店の負担ということでもない。
先にも言うたように、強制的な押し紙をして販売店を苦しめれば辞めていく者が増え、最終的には新聞社自身が困ることになる。
それを防ぐために、押し紙を引き受ける代償として新聞社はあらゆる名目をつけて補助金というのを出す。
これは、新聞社によりそれぞれで、販売店の店主ですら良う分からん名目ものがあるという。
ワシらが、一番身近なものに、拡張補助というものがある。拡張料の一部を新聞本社が負担しとるわけや。
他には経営補助、拡材補助、完納奨励金、販売店親睦会補助、保険・年金補助、果ては店主、従業員の家賃補助まで新聞社からの補助金として出とるという話や。
それ以外にもいろいろあるようや。
言い方は悪いが、補助金漬けになっとるわけや。現実に、補助金なしにはやっていかれん販売店が数多く存在すると聞くさかいな。
さらに、押し紙の場合は経営継続の保証もされるのが普通や。
逆に、それを断る、または減少を依頼すると、その経営継続の保証が危うくなる。
実際、それで目をつけられ改廃(強制廃業)に追い込まれる販売店も珍しくないさかいな。
それがある故に、たいていの販売店は多少不満があっても、その押し紙を引き受ける場合が多いわけや。
もちろん、その補助金で余剰分の仕入れ代金の補填がすべてできるとは限らんのやが、いくらか負担が軽減されるのは事実や。
積み紙の場合、それでステータスを得られるのなら安いものやと考えるケースもあるわけや。
もっと言えば、折り込みチラシの比較的多い地域の販売店なら、その積み紙で増える1000部は公称部数に含まれるから、その分、折り込みチラシ代金が多く入るという計算もする。
それを望む販売店経営者は、その1000部を自らの意志で新聞社に発注をかけるわけや。
それが「積み紙」ということになる。
それとは別に、万紙とは縁のないその他の販売店でも、その積み紙をすることがある。
営業経費を浮かすためにそうするというケースや。
通常、新聞販売店が増紙をするには、外部の拡張員入れて勧誘させるのと、自店の従業員に勧誘させる方法がある。
外部の拡張員に勧誘させると、その地域や新聞銘柄、その拡張団によっても多少違いがあるが、総体的に支払う営業経費は高くつく。
一般的な拡張報酬というのは、拡張員個人レベルで、3ヶ月4000円、6ヶ月6000円、1年8000円となっていて俗にヨーロッパ(4・6・8)と呼ばれているものがそうや。
販売店が拡張団に支払う拡張報酬は、これも地域や新聞銘柄、販売店次第で違うが、少なくともその5割増し以上というのが多いとされている。
それとは別に、即入料、まとめ料といったプレミヤ料金も必要になる。
それらをすべて含めた3ヶ月契約1本の拡張団に支払う報酬額は、実に8000円前後にもなるという。
朝夕セット地域の新聞購読料が1ヶ月3925円で、3ヶ月やと11775円。その内、新聞社に仕入れ代金として約55%、景品に1000円前後が必要でそれを差し引くと6500円程度の粗利しか残らんということになる。
これが統合版やと新聞購読料が1ヶ月3007円で、3ヶ月やと9021円。経費はほぼ同じくらいかかるから、3000円程度にしかならん。
それから、拡張団への報酬額である8000円を支払えば完全に赤字になる。
関東地域の酷いケースやと、その3ヶ月契約の拡張団に支払う報酬額が15000円を越える販売店すらあるという話や。
加えて、その拡張団を入れることでトラブルが多く、信用を下げるとなれば、その入店を拒否したいという気にもなる。
そんなタチの悪い金食い拡張団を入れるくらいなら、架空の契約を計上して積み紙としてその分の仕入れ代金を新聞社に支払った方が得やと考える販売店もおるわけや。
数字上は増紙になっとるから新聞社から文句を言われることもないということでな。
もっとも、拡張団を入れての拡張報酬については、先に説明したように拡張補助費という名目で新聞社からいくらか支払われるはずやから、その額の方が有利やと判断する販売店なら黙って拡張団を受け入れとるというケースはあるがな。
今のところ、こちらの方がまだ多いようや。
ただ、これについては、それぞれの地域の新聞社でもかなり違うから一律に論じられることでもないがな。
さらには、売り上げ成績が悪くて改廃(新聞社による強制廃業)を逃れるために積み紙をする販売店も存在する。
「そうなると、単に余った新聞があるだけで、それを新聞社からの押し紙と決めつけることは難しいということですか」と、カポネ。
「そういうことになるな。それに、新聞社を攻撃するために押し紙の存在を糾弾する側も、この積み紙についてはあまり触れたがらんということがあるから、世間に知られることが少なく、よけいにややこしくなっとるわけや」
押し紙を糾弾する側は、当然のように販売店を被害者として擁護する。
確かに、ワシやハカセは新聞社の無法とも言うべき悪辣な手口も知っとるから、販売店が被害者やというのは良く分かる。事実には違いないとも思う。
しかし、その被害者とされる販売店にしても、さらに弱い従業員にその押し紙や積み紙の負担を押しつけとるというケースがあるのもまた事実として存在する。
「背負い紙」というのがそれや。
これについては、ワシらのサイト以外では、ほとんど語られていない。業界以外の人にはほとんど知られていないのやないかと思う。
その詳しいことは、旧メルマガの『第165回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■背負(しょ)い紙……その哀しき実態』(注3.参考ページ参照)で話したことがある。
専業と呼ばれる販売店の従業員にも勧誘の営業ノルマがある。そのノルマが過酷な販売店も多い。
ある販売店では、月最低でも新勧(新規勧誘契約)で10本というのがノルマがあるということや。
それに加えて「止め押し」という担当地域の継続客の契約更新を100%要求される。
そのノルマがクリアーできたら問題はないが、なかなかそれが難しく、できん者も多い。
きつい販売店やと、そのノルマが果たされへんかったら、かなり厳しく叱責されるということや。
その叱責を逃れる目的で「背負い紙」というのをする。また、それを強要する販売店もあるという。
つまり、「背負い紙」とはノルマの不足分の新聞を身銭を切って買い取るというのを意味することなわけや。
もちろん、そんなことがすべての販売店で行われとるわけやない。一部やとは思う。
その酷い所になると、少ない者でも月に10部程度、多い人間になると30部、40部というのもざらにいとるという。
金額にするとかなりになる。それが給料から天引きされる。
新聞本社から半強制的に部数を押しつけられる押し紙もあるが、販売店は販売店で専業に、こういう形で新聞を買わさせている所もあるわけや。
もちろん、表面的には従業員の希望ということになっている。あるいは、別名での購読というのもあるという。
その構図も、何やら新聞社と販売店のそれと酷似しとる。
理不尽なことやが、世の中の仕組みには上から下へ順繰りに同じような負担を強いられるケースが多い。
喘ぐのは、常にその底辺に位置する者たちということになる。
ある大規模販売店グループで、専業が常時50名ほど在籍している所がある。
そこの専業員の一人から寄せられた情報によると、その販売店の専業たちは平均月20部の背負い紙をしているということらしい。
計算上は約1000部の新聞をそこの専業が負担しとるということになる。
加えて、実数は掴みにくいが成績の悪い出入りの拡張員なども、その背負い紙に参加する者が結構いとるのことや。
加えて、この店では、アルバイトの人間にも新聞の購読を義務付けとるという。
もっとも、これについては別に珍しいことでもないがな。良くあることや。
グループ全店でアルバイトの総数は500名近くになるから、その数も馬鹿に
ならん。
ちなみにその販売店グループ全体で押し紙、積み紙に相当するのは2000部ほどやという話やから、その70%以上は、背負い紙という形になっとるわけや。
一般的に昔から押し紙というと、一方的に販売店のみの負担と思われがちやが、店によれば、こういう状態の所もあるということなわけや。
被害者であると同時に加害者でもあると。
「ところで、その押し紙というのは何らかの法律には触れないんですか」と、カポネ。
「触れるな」と、ワシ。
「押し紙」は、公正取引委員会の新聞特殊指定において、禁止行為の一つになっとることや。特に罰則規定はないが、法律違反には違いない。
「積み紙は?」と、さらにカポネ。
「これについては、直接該当する法律は見当たらんが、これをすることにより、二次的に起こる業者からの折り込みチラシの過分料金徴収が詐欺に当たると考えられとる」と、ワシ。
「新聞社では、その積み紙のような行為のことを虚偽報告と言ってますね」と、ハカセ。
去年、2007年6月19日に、押し紙に関連した裁判の判決があった。
その詳しいものは、旧メルマガ『第158回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■押し紙裁判の波紋』(注4.参考ページ参照)にある。
その一部を抜粋する。
損賠訴訟 Y新聞販売店契約更新で店主側が勝訴 ○○高裁、1審を支持
新聞販売店契約の更新を拒絶したのは不当として、Y新聞社を相手取り、販売店主らが地位確認と計1200万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、福岡高裁は19日、契約上の地位を認めた1審・福岡地裁久留米支部判決を支持し
た上で、1審が退けた賠償請求も一部認め、330万円の支払いを命じた。
というものや。
この裁判の中で、原告側が「押し紙があった」という主張に対して、新聞社側は、「店主に極めて悪質な部数の虚偽報告があった」と言って真っ向対立したとある。
新聞社の公の立場としては、押し紙というのはなく、余剰新聞は販売店の虚偽報告によるものやと認識しとるということになる。
しかし、これに対して裁判長は店主の虚偽報告を「強く非難されてしかるべきで、責任は軽くない」とする一方、「虚偽報告の背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社の方針がある」と指摘した。
これにより、実質的に新聞社の主張を退け、その責任があったとした。
「販売店が虚偽報告をする背景にはひたすら増紙を求め、減紙を極端に嫌う同社の方針がある」と。
販売店の責任もあるが、新聞社の責任も軽くないとした判決は、まさに現代の大岡裁きと言うてもええくらい見事なものやったと思う。
原告である販売店側が押し紙に関連した裁判で初めて勝訴した瞬間でもあった。
それまでは、その証拠がないためか、裁判の場ではことごとく押し紙というもの自体が存在しないものとして販売店側の敗訴判決が出され続けていたさかいな。
この裁判を担当された弁護士さんが、今回、パンフレットを送ってこられた方なわけや。
むろん、この勝訴判決は画期的なことで、業界に衝撃が奔ったのは言うまでもないことやった。
その後、幾つかの押し紙裁判が進められつつあるということでもそれは窺われる。
8月9日。Y新聞社は、6月19日の高裁判決の直後、ただちに上告すると発表しとったにも関わらず、最高裁への上告を取り下げた。
これで、高裁の判決が確定したことになる。
「つまり、その販売店としての地位が保全され、今までどおりの営業が可能になったということですよね?」と、ハカセ。
「ああ、それにも関わらず、そのY新聞社は、つい最近の2008年7月31日、その裁判所の判決を無視して、その販売店の店主を解任するという暴挙とも受け取れることをしたわけや」と、ワシ。
「えっ、そんな。裁判所の決定を無視してもいいんですか」と、カポネ。
「ええ、ことはないやろな」と、ワシ。
当然、その販売店店主も再度、裁判を起こすという。
せやけど、普通に考えて、こんなことをすれば司法への挑戦とも受け取られかねんのに、およそ公器を自認しとる新聞社のすることとも思えんのやがな。
これだけを見る限り愚挙としか言いようがないさかいな。
また裁判の場で闘えば負けるのは目に見えとると思うのにな。理解に苦しむ。
「オレは、難しい話は良う分からんけど、新聞社なりの狙いが何かあるのやないかなと思うで」と、テツ。
「もちろん、そうやろな」と、ワシ。
その狙いが何か、ワシとハカセには薄々気づいてはいるが、まだこういう場で言う段階やないから、そのときがくれば、ちゃんと話すつもりや。
「ところで、この押し紙なり積み紙というのは、これからどうなっていくんやろか?」と、テツ。
「これだけ、裁判になったりネット上で話題になったりしとるから、今までどおりに新聞社も、押し紙を強制することもしにくいやろうし、積み紙も認められんやろうから、徐々に減少していくのやないかな」と、ワシ。
「ちょっと、それはオレらにしたら、あまりええ話やないな。そうなると、販売店からの新聞残紙の回収量が減るからな」と、テツ。
「でも、それは環境には、いいことじゃないですか」と、カポネ。
確かに、新聞発行部数全体の約20%が、即、古紙問屋行きの余剰新聞という現状では、その製造に伴う環境負荷は相当なものがあると推測される。
それが改善されていく可能性があるわけや。
「世の中すべて丸く収まるということはないんやな」と、テツ。
「そういうことや」と、ワシ。
「仕方ないですね」と、カポネ。
「という一応の結論が出たところで、そろそろ時間ですから、今日はお開きとしましょうか」と、議事進行役のハカセが締める。
次回は、いつになるか分からんが、またこういう話し合いをしようということで解散となった。
参考ページ
注1.第75回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
■我らマイナーワーカー同盟
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-75.html
注2.第172回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■ある地方紙販売店の闘い
Part1 その前夜
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-172.html
注3.第165回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■背負(しょ)い紙……その
哀しき実態
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-165.html
注4.第158回 新聞拡張員ゲンさんの裏話
■押し紙裁判の波紋
http://www3.ocn.ne.jp/~siratuka/newpage13-158.html
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