メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第177回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2011.10.28
■考えさせられる話……その1 イジメと無関心、どちらが怖い?
「……という話なんですけど、どう思われます?」
そう言うて、ハカセから連絡が入った。
読者の方から頂いたメールやが、特に相談とか質問というのやなく、単に意見を聞きたいというものやった。
「なかなか難しい問題やな。投稿者の方の言われることは、もっともで良く分かるが、それを他人に押しつけて問題提起させるというのは、どうなんやろ」
ワシは常に物事は、その人それぞれの判断で決めるべきやと考えとるし、そう言うてきた。
その人が、それでええと思えば、それでええと。それで納得するのならと。
ただ、この人の言われるように、それが学校教育の現場で行われていて、それが問題やということすら教師が分かっていない、あるいはそれでええと考えているのなら、問題提起するもの悪くはないとは思う。
学校では学問、学科を教えるだけの場でなく、人としてのあり方、人への接し方といったものをちゃんと教えておくべきやというのは正論でもあるしな。
ここまでやと何の話か分かりにくいと思うので、そろそろ、この話の本題に入らせて頂く。
ただ、お気づきのように新聞関係の話とは少し違うが、考えさせられることの多い内容なので読者の方々にも、ぜひ一緒に考えてみて頂きたいと思う。
マサトは中学生になってから野球を始め、野球部に所属した。
大リーグのイチロー選手に憧れたからやという。
ただ、その野球部には小学生の頃からリトル・リーグでやっていた子が大半を占め、マサトとは実力の差が歴然としていた。
マサトはレギュラーになれたらええなという程度で、特にそれに対するこだわりはなかった。
ただ、純粋に野球が楽しめれば、それで良かった。
最初のうちはキャッチボールすら、ままにならないほど下手だったが、2、3ヶ月するうちに何とか様になるようにはなった。
それには、そんなマサトに優しく教える先輩がいたからだった。
しかし、同級生の部員との実力の差は歴然としていて、その下手さ加減からか、その同級生の部員たち数人から次第に除け者にされるようになった。
彼らにとって野球は遊びではないという意識が強く、マサトの楽しめればええという考え方とは、相容れられないようやった。
野球部の顧問教師も、その中学校がそこそこの名門ということもあり、勝つことが第一という考えだったから、そんな彼らを助長させたというのもあった。
その同級生の部員たちから次第に、あからさまなイジメを受けるようになった。
グローブを隠されたり、スパイクの金具を折られたりと陰惨なものやったと言う。
最初のうちは何度か、マサトもそのことがある度に野球部の顧問教師には訴えていた。
その野球部の顧問教師は、「イジメは絶対に許さん」というタイプだったからだ。普段から、そう広言していた。
そのため、それをした部員が分かるときつく叱ったという。イジメをする者に野球をする資格はないと言うて。
それ以来、野球部内でのイジメは止まった。
すると、今度は、彼らはそれ以外の場所、教室や登下校中などで言葉による陰湿なイジメを始めた。
「下手くそ辞めろ」、「お前は野球部の恥や」、ひどいのになると、マサトが選手として試合に出てもないのに、その試合に負けると、「お前のせいで負けた」と言われる始末やった。
それも、他の誰かがいるときには何も言わず、彼らとマサトだけのときにそう言うのやという。
それをマサトが訴えても、その彼らは「そんなことを言うた覚えはない。知らん。マサトの被害妄想と違うか」と口を揃えて言う始末やった。
野球部の顧問教師や担任も、第三者からの証言がないと、それが事実かどうかも分からないから注意のしようがなかったという。
これなんかは、新聞の拡張員が客との言葉のやり取りでシラを切るという構図と良く似ている。
その場合は、その相手との会話を録音するようにとサイトのQ&Aなんかではアドバイスするが、学校でそんなことをするわけにもいかんから、これに関しては、その教師がどう受け止めるかで違ってくる話やと思う。
それに口で言うだけで実質的に何かの行為をしたということでもないから、イジメとして特定できなかったということも教師の側にはあったと思う。
その証拠がないのに、その相手の生徒を責めれば、まずいことになるということでな。
今度は証拠もないのに叱ったと、責めた生徒の親が苦情を言いかねんさかいな。
そんな陰湿なやり方が延々と約1年間も続いたいう。
マサトは野球をすること自体は好きで続けていたわけやが、ついに耐えきれず、その野球部を止めてしまった。
その頃から、マサトの体調と精神が不安定になり、近所のメンタル・クリニック(精神科)で診断して貰ったところ「うつ病」と診断された。
そして、そのメンタル・クリニック(精神科)の医師の勧めで、しばらく学校を休むことになった。
原因は、はっきりしている。母親のヒロコは、その診断書を持って、その中学校に抗議に行った。イジメでこうなったと。
今までは、教師を信頼していたし、マサトからも何も言わんといてくれと釘を刺されていたから黙っていたが放っておくことはできなかった。
「うつ病」というのは、最悪自殺まで考えなあかんほど深刻な病気でもある。実際、子供に限らず自殺する人の多くが抱えている病気やとも言える。
それもあり、ヒロコは教育委員会へも知らせ、この問題を大きくした。
その抗議が激しすぎたのはヒロコ自身認めているが、その野球部の他の親たちから、まるで、ヒロコが今はやりのモンスター・ペアレンツでもあるかのような言われ方をされたのが悔しかったと言う。
その後、マサトの症状は良くならず、結局、2年生の大半と3年生の前半を休みがちになった。
それまでは成績も普通だったのだが、極端に下降して行った。
高校受験では県内でも、あまりレベルの高くない私立高校しか受からず、仕方なくその高校に通うことになった。
ただ、環境が変わって、その高校に通う中学時代の同級生が少ないということで、逆にマサトの気持ちが明るくなったのか「うつ病」の症状も、かなり改善の兆しを見せるようになったという。
マサトは野球が好きだという気持ちだけは失っておらず、その高校は全国大会にも出場した経験のある学校ということもあり、再度、野球部に入部することを希望して、そうした。
中学時代、学校を休んでいるときに野球経験のある父親とキャッチボールをしたり、バッティング・センターにもあしげく通ったりして、それなりに野球と触れていて、野球の技術もそれなりに上がっていたという自信もあったからのようや。
また、父親が所属している草野球チームの試合にも出場して、その楽しさを再確認したということもある。
しかし、名門校であるだけに練習は厳しく、中学の半分近くを休んでいたマサトにとって、ついていくのは大変やったらしい。無理もないがな。
そして、その高校の野球部の監督は、実力のある者は試合に使うが、ない者は使わないと割り切るドライな人やった。
そういう高校の野球部の監督は、全国的にも多い。それほど珍しい存在でもない。
みんなで仲良く野球をしよう、楽しもうと考えている名門野球部など存在しないと言うてもええ。
それ自体は仕方ないと思う。中学校までの義務教育ならいざ知らず、高校で落ちこぼれを救い上げる義務はないさかいな。
むしろ、落ちこぼれは冷徹に落とすのが高校やと言うてもええくらいや。事実、赤点(30点未満)を取れば進級することもできんわけやからな。
ある日、練習について行けず、また、依然として近所のメンタル・クリニック(精神科)には通っていて、学校を休みがちな部分も残っており、部活もそれにつれて休むことが度々あった。土日の練習も不参加が多かった。
それに業を煮やしたのか、野球部の監督は、マサトに「やる気がないのなら辞めろ」と強めに言った。
結局、マサトは野球部を辞めた。
ところが、マサトは、それで落ち込むどころか、逆に何を思ったか、勉強して国立大学を目差したいと言い出した。
マサトの成績はお世辞にも良くなかった。偏差値40程度と、その県下でもレベルの低い方のその高校ですら、下位の成績でやっと入学できたくらいやったさかいな。
1年生の1学期末の成績は、200名中150位。クラス順位も43名中30位。赤点が2つある。
その成績で難関の国立大学を受けるというのは無謀すぎると誰でも言いそうやが、父親のマナブは「お前が真剣にそうしたいのならやってみろ」と後押した。
「今からなら、まだ2年以上もある。やる気さえあれば、やってやれないことはない」と。
これは重要なことである。親は子供がやりたいと願ったことを否定するようなことを言うたら絶対にあかん。やる気を削ぐべきではない。
例え「難しいやろうな」、「無理やろうな」と思っていても、それは口に出さず、マナブのように後押しするという姿勢に徹することや。
特に、このマサトのように目標を失いかけたときに、自ら目標を見出したというのは、素晴らしいことやさかいな。
親が絶対に子供に言うたらあかん一言がある。
それは、「ナンボ頑張っても、所詮、オレの子供やからな」という言葉や。親にとっては何気ない一言かも知れんが、子供にとっては、これほど絶望的な言葉はない。
もし、これを読んでおられて、その年代のお子さんをお持ちなら、心がけてほしいことやと思う。
それにしてもマサトがなぜ、そういう気持ちになったのかが気にかかったので、マナブとヒロコがそのことについてマサトに尋ねた。
すると、マサトが言うには、野球道具やポーツ用品を良く買いに行く近所の某大手スポーツ店にオオタという心やすい店員さんがいとるのやが、その人に、その国立大学に入学したら楽しく野球ができると聞いたからだと言う。
ちなみに、そのオオタはその国立大学の野球部出身だということやった。
その国立大学に入学したら楽しく野球ができるかどうかについての真偽は分からんが、その大学のチームは地域の大学野球でも最下位に位置する弱小チームやったから、照れ隠しでそう言うたのやないかという気がする。
もっとも、その国立大学に入学するために勉強しすぎて運動神経をどこかに置き忘れてしまったような連中が集まったチームやさかい、本当にそうなのかも知れんがな。
少し言いすぎかも知れんが。
それと、もう一つ、マサトはそのオオタを慕っているということもあるのか、将来はその某大手スポーツ店に就職したいということもあったようや。
ちなみに、その某大手スポーツ店に就職するには大学卒というのが条件で、国立大学卒やとかなり有利になるとオオタに言われたことも影響しとるようや。
理由が何であれ、勉強したいというのであれば、どんな応援でもするとマナブはマサトに言った。
それでさっそく、近所の進学塾に通うことをマサトに勧めた。
今まで勉強は、どちらかと言うと嫌いで自分からするなどというのは聞いたこともなかったから、無理に塾に通わせるということもしなかった。
それには「うつ病」の者に、頑張れ、頑張れというのは控えた方がええと医師に釘を刺されていたから、よけいやった。
今なら、自らの意志で勉強したいということやから、そう言うのも意味があるとマナブは思った。
その塾は科目毎の選択制になっているので、まずは赤点を取った科目、数学1と数学Aの2つのコースを選択させることにした。
それには、数学は国立大学の入試では国語、英語と並んで重要度が高く、他の科目のように記憶に頼って一夜漬けが効かんということがあるからや。
また、中学時代休みがちやったということもあり、特に数学に関してはあまり勉強ができてないということもあった。
数学というのは分かるところまで遡って勉強し直さなければ、その先の分からない教科でもある。
その塾では分かるところから遡って教えて貰えるということやったから、まずそれを選択したというわけや。
それに、他の教科なら何とか教えてやれることもあるかも知れんが、高校を卒業して20年近くになるマナブにとって高校の数学など分かるはずもないというのもあった。
教えてやりたくても教えられないと。
ただ、気がかりなのは、その不得手な科目を最初に選択させて長続きするのかということやった。
誰でも嫌なことは続けられんさかいな。しかし、国立大学を受験するのなら、その数学は必修科目で避けられんから、嫌でも勉強するしかない。
それでケツを割るようなら、どうしようもない。賭だった。
ところが、その心配は杞憂に終わった。
その塾に申し込んだのは夏休みが始まってすぐやったが、マサトは精力的に通うようになり、ついには数学自体が面白いとまで言うようになった。
そして、二学期の中間試験。
数学1が65点、数学Aが55点だった。これだけを聞くと大したことはないように思うが、一学期の期末では、それそれ28点、25点やったから、大変な進歩ということになる。
それにつれて、他の教科も軒並み点数が伸びているという。
勉強には波及効果というのがあり、一科目でも得意分野があると、それにつれて他の成績が良くなるというのは、ありがちなことではある。
本題の事件は、そういうときに起こった。
ある日、その高校での数学の授業時間になっても担当教師が教室に現れないということがあった。
教室内は、ほぼ自習、自由時間の様相が強くなったということで、生徒たちは思い思いのことをしていた。
そのとき、マサトは何を思ったか、近くのクラスメイトに「先生を呼んでくる」と言って教室を出て職員室にまで、その数学の担当教師を呼びに行ったという。
その数学の担当教師は大事な会議が長引いたということやった。
まあ、これも変な言い訳ではあるがな。教師は授業をすることが仕事のはずや。
教師として、それ以上に大事な事というのはないのと違うやろうか。また、担当する授業があると知って、そんな会議に教師をその時間まで拘束したらあかんわな。
もし、どうしても、その会議で担当教師が必要で行けないというのなら誰か別の教師に代役を頼むなり、伝言を依頼するなりして、生徒たちに知らせるべきではないのか。
自習なら、自習していろと。
少なくとも、授業に来ないからという理由で生徒が呼びに行くという状況になるまで放置するというのは、教師として、また学校のあり方として問題ありと言われても仕方ない。
マサトから、その話を聞いたマナブは、そう思った。
「せやけど、どうして、お前が、その先生を呼びに行ったんや?」
こういう場合、クラス委員あたりが教師を呼びに行くのが普通やないかとマナブは考えたから、そう聞いた。
また、マナブが学生のときやったら、教師が来なければ「ラッキー」と考えるのにという思いもあったからや。
何もマサトがそうする必要はなかったのやないかと。
すると、マサトは一言。
「どうしても数学の授業が受けたかったからや」と言う。
これを聞いたマナブは、我が子ながら感動したと話す。あの勉強嫌いだったマサトが、そこまでになったのかと。
マサトが職員室から帰ると、マサトの机の上に置いてあった筆箱の中身がすべて下にぶちまけられていたという。
明らかに、誰かが意図的にしたことだとマサトは考えた。そうでなければ、そんな散らかり方はしないと。
その刹那、中学時代の嫌な記憶が甦ったいう。またイジメかと。
マサトは、そのことを担任の教師に伝えたが、それきり何もなく、その日の授業が終わった。
マナブが会社から帰ると、マサトが妙にしょげているので不審に思い、問い質すと、そういうことやったというのが分かった。
「それで、その先生は、その日のホームルームでも何も言わんかったのか?」
「うん」
普通、生徒から、そういう嫌がらせがあったと聞かされれば、生徒にその真偽くらいは聞くものや。
ホームルームで、皆の前で、その話があってしかるべきやないやろうか。
マナブは、なぜそうしないのかということが知りたくて、まだ午後6時前くらいだったということもあり、すぐに学校に問い合わせ、その担任教師を呼んでほしいと電話口に出た人間に依頼した。
すると、その担任教師はすでに帰宅したという。代わりに学年主任の教師がいるからというので、その教師に代わって貰った。
マサトの件は、その学年主任の教師には伝わってなかったので、一から説明しなければならなかった。
話を聞き終わった後、その学年主任の教師が、「ちょっと待ってほしい」と言ったので、待つことにした。
おそらく、今から、その担任教師に事情を確認するつもりなのやろうと思う。
30分ほどして、その学年主任の教師から電話がかかってきた。
その学年主任の教師の説明だと、筆箱の中身が散らばったのは、たまたま偶然、そこに通りかかった生徒が触れて落としただけのことだったと、それを見ていた生徒が、そう証言したという。
マサトの言うような悪質なイジメではないと分かったから、そのままにしたということやった。
普段は大人しく誰とも争うことが嫌いなマナブが、その話を聞いてキレた。
「それはおかしいでしょ。もし、そうだったと言うのなら悪質なイジメがあった以上に深刻な問題ですよ」
「どういうことか、良く分かりませんが……」
「だってそうでしょ。わざとしゃなく誤って筆箱を落としたと言うのなら、普通はそれを拾い上げて元の場所に戻しますよ。また、それを見ていた生徒は誤って落としたと知りながら、なぜその生徒に何も言わなかったのですか?」
「……」
「不注意で落としたこと自体は仕方ないかも知れませんが、誤ってしたことはちゃんと元通りに直すのが当たり前でしょ。また、それを見ていて、そんなことがありましたよ、と言って、ほっておいた無関心さは一体何なんですか?」
マナブは少し興奮気味にまくしたて、さらに続けた。
「また、それが事実なら、その他の多くの生徒たちも、それを目撃していたはずではないですか。そして、結果としてマサトが教室に帰ってくるまで、その状態になったまま放置して見て見ぬフリをしたことになります」
「……」
「さらに最悪なのは、それを問題なしとした教師です。イジメがあったか、なかったか、そんなことばかりにこだわるのじゃなく、むしろ、教室にいたすべての生徒たちの無責任さ、無関心さに対して注意するべきではありませんか?」
「お父さんの言われることは良く分かりました。こちらでも明日、ちゃんと調べてご報告しますので」
学年主任の教師は話を中断しようとしたが、マナブは構わず続けた。
「明らかに、その二人の生徒たちは嘘をついているとしか私には思えません。私はマサトから聞いた状況を再現して検証しましたが、マサトの持っている筆箱を誤って触れて床に落としたくらいで中身が散乱することは絶対にありませんよ。イジメからかどうかは分かりませんが、明らかにその行為はわざとしたことで意図的なものだと確信しています」
「……」
「誤解しないで頂きたいのですが、私はその生徒を責めるつもりはありませんので。私は、その生徒がそうした理由は何となく分かるような気がします。私が、その生徒と同じ立場だったら、同じようなことをしたか、マサトにいらんことをするなと言って教師を呼びに行くのを止めていたかも知れません」
「……」
「授業がなくてラッキーというのは誰もが考えることで、それが気に入らないということでマサトの筆箱を落として散らかしたという方が自然だと思います。また、その方がまだ救われます。そうだと言われれば、私もここまで剥きにはなりません」
「……」
「そうではなく、本当にその事実があってクラス中が見て見ぬフリをした、無関心だった、それで良しとする体質がクラス、学校にあるというのなら、その方がよほど問題で怖いことだと思いますよ」
「分かりました。お父さんの言われるとおりだと思います。先ほども申しましたように明日もう一度、事情を確かめてお知らせしますので」
「ぜひ、そうしてください。最後に一言。これだけは分かってやってください。うちのマサトはご存知のように、けっして勉強のできる奴ではありません。一学期の数学のテストでは赤点を取っているくらいですからね。その生徒が数学の勉強がしたいという、ただそれだけの理由で先生を呼びに行ったわけです。それがどれほどのことか先生にならお分かりになられるでしょう? そのことを汲んでやってください」
「分かりました」
それで、その電話は切れた。
マナブは必死だった。マサトを以前のような状態に絶対にさせてはいけない。
それには、その話を聞いた後、ポツリと「学校なんか面白くない」と言い出したからや。
ここは何としても、マサトを守る。
そのためなら、学校側からどれだけ嫌われようが、モンスター・ペアレンツやと思われようが構わない。言うべきことは言うと。
そのメールの最後に、「こんな私の考えはどう思われますか。忌憚のないご意見をお聞かせください」と締められていた。
「どうですか」と、ハカセ。
「このお父さんの言われるのは筋が通っているし、子を守る親の気持ちが良く伝わってくる」
ワシも人の親やから、その気持ちは良く分かる。問題提起のされ方もええ。
世の中に蔓延している無責任さの原因の一端を垣間見たような気がするしな。
また最近の傾向なのか、教師もイジメというと敏感になり、その一点だけに気持ちが集中するようや。
そのためイジメがあったか、なかったかが最重要課題になるわけや。そして、イジメではないという生徒の証言が得られれば、それで安心するようなところがある。
それ以上、踏み込むことは避けたい。そういう心理が働いて、そういうことになったのやないかと思う。
ただ、その是非ということになると難しい面もあるし、冒頭でも言うたように、そうあるべきやと押しつけることもできんとは思うがな。
救いのない言い方かも知れんが、分からん者に何を説いても分からんということや。
逃げる者に、こっちを向け、待てと言うても無駄というのと同じことでな。
どんなに正しいことであっても、間違いであっても、その人間がそうしようと考えん限り、実行されることはないさかいな。
最後にワシからのアドバイスとしてマサトが『学校なんか面白くない』と言うたことについて、一言、言うとく。
幸い、マサトは『数学自体が面白いとまで言うようになった』ということやから、本人はもう分かっとると思うが、勉強してテストの点が良くなる毎に、その面白さというのが増していくはずや。
その面白さを増やして、それを楽しめばええ。そうすればさらに大きな喜びが得られるはずや。
学校が面白くないと言っても、それは休憩時間のほんの10分程度のそういった同級生たちとの付き合いでの話やと思う。
当たり前やが、学校という所は大半が授業時間なわけや。
その時間を自分で面白いと捉えれば、僅か10分程度の嫌な時間なんかどうということはないはずや。
もしかしたら、僅か10分程度の嫌な時間すら貴重な勉強時間やと考えて、そういう嫌な連中は相手にせず、勉強に没頭すれば、それが楽しい時間になるかも知れんしな。
極端な話やが、こういうのがある。
昔、ある国で奴隷が過酷な重労働を課せられていた。しかし、その中で嫌な顔をせず、むしろ楽しそうにその重労働に励む奴隷がいた。
同じ奴隷仲間が、その奴隷に「お前さん、どうしてこんな重労働なのに、そんなに楽しそうしていられるんだい」と不審に思いそう尋ねた。
すると、その奴隷は「重労働といっても、それは起きている間のことだけで、寝てしまえばオレはいつも王様になっているからそれでいいのさ。つまり人生の半分は苦労して、半分は楽をしていると思えば、それでチャラさ」と言って笑ったという。
この話の教訓は、人は気持ちの持ち方次第で、状況など、どうとでも変わるということや。
どんなに辛い状況でも、問題ない、楽しいと思えばそう思えるし、どんなに恵まれていても、つまらない、面白くないと考えれば、そうなるもんやと。
どうせなら、どんなことでも楽しい、面白いと考えな損やわな。
そう、そのマサトに伝えてあげてほしいと思う。
読後感想 感動と考えました
投稿者 Sさん 投稿日時 2011.11.1 PM 2:20
解決方法はわかりませんが、表面的だけでも強くなってほしい、と考えます。弱い者には、ますますいじめが起こります。
また、学校も、ことなかれで、放置している例もあるかと。
万一でも、自殺などがおきたとき、悲しむのは親です。
方法論まではわかりませんが、できたらこのようなハカセの文章を学校などで閲覧してほしい、と感じました。
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