メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第180回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2011.11.18
■新聞の実像 その4 不祥事に泣くのはいつも営業の現場
先週の金曜日の11月11日、前代未聞の記者会見が開かれた。
その記者会見とは、プロ野球界の名門チーム巨人の清武球団代表兼GMが、親会社であるY新聞の渡辺会長に反旗を翻したというものや。
その背景には中期的なビジョンを描く清武代表と、低迷の責任を問う渡辺会長との確執があったとされとる。
両者ともチームを強くしたいという思いが同じやというのは分かる。
清武代表は2004年に就任して以来、その手腕を発揮し、07年からリーグ3連覇を果たしたという実績を根拠に、今後も自らの方針を押し進めようとしていた。
一方、渡辺会長の方は2年連続で3位に終わり、日本シリーズ進出もならなかったという現実に我慢ならず現場介入をしようとした。
それが、ヘッドコーチの人選問題に発展し、両者が相譲らず対立した。
それはどこにでもありがちな内部での意見の相違やと思う。
それを立場が弱いと自覚している清武代表が、世間に向かって記者会見するしか方法がないと判断して、公の場でその不満をぶちまけたというのが、騒動の真相のようや。
これに関して複数の読者から「この問題についてゲンさんはどう思われますか」という質問が寄せられてきた。
一人の方の質問だけだったらサイトのQ&Aで回答しても良かったのやが、複数おられたということもあり、このメルマガ誌上の方が、まとめて話せると思ったので急遽、そうさせて頂くことにしたわけや。
その答えは一言で言えば、「ふざけるな」や。しょうもないことで何を揉めとんねんと言うしかない。
そんなことは誰も知らんところで勝手にやってくれと言いたい。関係のない人たちを巻き込むなと。
実際、その報道のおかげで数千、数万という人たちの生活まで脅かされかねん状況が生まれとるさかいな。
単に球団がどうの、ファンがどうのというレベルをはるかに飛び越えとるわけや。
それがなぜかということまで掘り下げて報道する媒体は日本には皆無やさかい、ワシらがそうするしかないと考えたということもある。
おそらく、通常の報道機関ではこれからワシが話すことなど気がつくことすらないやろうしな。
Y新聞と系列のテレビ局以外のマスコミが取った街頭アンケートでは、大多数が清武代表に同情的な結果になっとる。
どうやら、清武代表も世論の後押しを期待して、その会見に踏み切ったと思われるフシがある。
それには、日頃からY新聞渡辺会長の評判の悪さがあるさかい、記者会見で訴えかければ世論の同情を集めることで、状況を変えられる可能性があると踏んだと考えられる。
それが狙いだったとすれば、ある程度は図に当たったと言える。
あるいは、単に堪忍袋の緒が切れただけのことかも知れんがな。
いずれにしても思慮が足らなさすぎたと、ワシには思える。
ワシらは、今まで、このメルマガやサイトを始めて7年数ヶ月の間、悪辣非道な犯罪を犯した人間以外、名指しで批判したことはない。
それはしないでおこうと厳に戒めてきたつもりや。
しかし、今回はその禁を破らせて貰う。
そうすることで、ワシらが批判を受けることになるかも知れんが、それでも敢えて声を大にして言わせて頂く。
清武代表のやり方は間違っていたと。あんな会見などするべきではなかったと。
その理由を今から言う。
清武氏の言うてることは一見、もっともなように見えて、まるで筋が通っていない。
表向きは「人事介入は人権侵害」、「コンプライアンス(法令順守)を要求する」と言うとるが、それはおかしい。
どこの企業でもトップによる100パーセント出資の子会社の人事介入など普通にあることや。
清武氏は球団は独立した企業やと言うが、100パーセント出資の子会社を独立した会社とは言わん。
Y新聞本社から見れば、球団は上下関係のはっきりした、ただの傘下企業の一つにすぎんということになる。
そういう所では親会社の意向が重視されるのは当然やと思う。事実、その役員のほぼ大半はY新聞本社からの出向で占められとる。
その傘下企業のナンバー2が、親会社のトップに対して「人事介入は人権侵害」、「コンプライアンス(法令順守)を要求する」と言うなどということは普通はあり得んことやと考えるがな。
口を出すなと言う方が、おかしいというのが一般常識でもある。
清武氏は、名目上、渡辺氏が球団内での立場が平の取締役ということになっとるさかい、そう言う発言になったようやが、その前に渡辺氏は親会社の歴然としたトップなのは間違いないわけや。
どちらの地位、立場が優先されるかは誰にでも簡単に分かることやわな。
渡辺氏は今まで、そういった人事に口出すようなことを繰り返してきていて、球団内部では、それを容認してきたという今までの経緯がある。
もっとも、それを苦々しく思っていた人物はいたのかも知れんが、それが表に出ることはなかった。
清武氏自身、その渡辺氏に清武球団代表兼GMという役職を与えられたと聞く。
つまり、清武氏の言うところの「人事介入は人権侵害」、「越権行為」のおかげで今の地位に就いたとも言えるわけや。
その本人が、それを指摘するというのは自身の現在の立場そのものを否定することになるのやないかな。
しかも、清武氏は「コンプライアンス(法令順守)」に反する事と決めつけとるが、ご本人はどうなのかという問題もある。
清武氏の会見が球団に所属する社員全員の意見を代弁したものやったら、まだそう言うても納得できる。
球団職員、選手みんなのために身を捨てる覚悟で巨大な権力に立ち向かっているのであれば、賞賛に値する行為やと言えんこともない。
しかし、その翌日、直属の上司である桃井オーナー兼球団社長が東京都内の球団事務所で会見し、「(球団人事は)鶴の一声で渡辺会長が決めたことではない」と、清武代表の見解を否定したという報道があった。
監督にも「残念だ」と一蹴されとる。また、誰をコーチとして招聘するかという内部機密に属することまで暴露しとる。
そうであるなら、清武氏の取った行動こそ「越権行為」そのもので、「コンプライアンス(法令順守)」に反する事と言えるのやないやろうか。
見方に寄れば、渡辺氏を恐れてそういう発言をしたという風に受け取る人がいるかも知れんが、桃井氏の、
『コーチ人事などに関し、10月20日に渡辺会長の了承を得たことは認めつつも、「(その後)クライマックスシリーズで敗れ、見直しが必要という判断だったと思う」と説明。自身のオーナー職を解く案についても「2年連続で優勝を逃し、私もけじめをつけないといけない」と話した』
という報道発表があったが、その方が、はるかに筋が通っていると感じる。
加えて、報道では、清武氏の横暴ぶりに社内で反感を持っている人間の方が多いということや。
実際、球団関係者の誰一人として清武氏に同調、もしくは助け船を出すような発言は、匿名であっても聞こえてこんしな。
会見で名指しされた現コーチや招聘を要請されるはずだった人物もええ迷惑やったと考える。
両者ともイメージダウンは避けられそうもないしな。
清武氏の主張の中に、
『渡邉氏は11月4日夜、記者団に「俺は何にも報告聞いていない。俺に報告なしに、勝手にコーチの人事をいじくるというのは、そんなことありうるのかね。俺は知らん。責任持たんよ。」という発言をされています。
しかし、それは全く事実に反することです。もし、私と桃井オーナーが書類を持参して報告したことに対し、自分が了承したことを全く忘れておられるということなら、渡邉氏は任に堪えないということにもなりかねません』
というのがある。
コーチ人事に関して10月20日に渡辺氏の了承を得たというのは本当のようや。渡辺氏も、そのときまではそのつもりやったのやろうと思う。
しかし、その後クライマックスシリーズで敗れ、見直しが必要という判断があったというのは、それはそれで納得できる。
10月20日の時点とは事情が変わったと言えば、そのとおりや。
巨人という球団は昔から優勝を逃せば責任を取らせるという方針で何人もの監督やコーチの首をすげ替えてきたという歴史がある。
あの長嶋氏や王氏といえども例外ではなかった。
それからすれば、クライマックスシリーズで勝ち上がり、日本シリーズで優勝することが、コーチ留任の条件やったというのは十分考えられることや。
クライマックスシリーズが始まる前に、そういう通告はできんと考えて清武氏の案を了承したというのは、ある意味、渡辺氏の温情、気を遣ったためだったと考えることもできる。
それで発憤して勝ってくれればええと。
ワシの個人的な意見やが、チームの総括とか来年の方針とかというのは、すべての日程が終わった後にするべきやと考えるがな。
そうであるなら、その終了時の結果で判断されるということになるから、渡辺氏のクライマックスシリーズで敗れ、見直しが必要になったという判断も、あながち間違いだったとは言えんのやないかと思う。
2年も連続で優勝できんようなスタッフでは来年も心許ないから、急遽、体制を変更しようというのは野球に限らず、どんなスポーツの世界にもあり得ることや。
勝負は、その結果がすべてということになるさかいな。負けたら一切の言い訳は許されん。そういう世界やないのかと思う。
清武氏は11月11日が、そのコーチとの契約日だったことが記者会見を開いた理由の一つだと言っていたが、そんなことこそ、ファンとは何の関係もない内輪の話や。
その日に、そのコーチと契約しようがしまいがファンには何の関わり合いもないことやさかいな。
プロ野球全体で、その日がコーチの契約日になっていると言うのならまだしも、自分たちで勝手にその日を設定しただけの話で、そんなものはいくらでも先延ばしにできたことやと思う。
そのコーチの生活を守ることが最重要課題の人権問題やと言うのなら、もっと他にもそれについて考えなあかんことがあるのやないかな。
おそらく、そんなことがあると気にも留めることもなく、清武氏も含めた球団トップは毎年、冷徹に遂行してきているはずや。
当たり前の事として。
それは選手の戦力外通告というやつや。
その対象になった選手に対して、ある日突然、球団の都合だけで、そう通告して一方的に契約を解除しとる。
選手のその後の人生など考えることなどは、ほとんどない。
路頭に迷おうが、どうしようが、関係ないで済ませてきたはずやろう。
その点は、ワシら拡張員の世界にも共通するところがあるさかい、文句を言うても仕方のないことやという捉え方をしとるがな。
事実、本人も含めてそれを誰も理不尽やとは考えてないと思う。そういう世界に生きていると認識しとるはずや。
それは監督、コーチも同じで、プロ野球の現場に身を置く人間とすれば、いつ何時、その責任を取らされ解雇されるかも知れんというくらいは、皆覚悟しとるはずやと思うがな。
まあ、そうは言うても清武氏が、そのコーチを是が非とも庇いたいという気持ちがあると言うのなら、それはそれでええ。
ワシが口を挟む問題やないとは思う。
ただ、それを理由に、あんな会見を開くのだけは止めてほしかった。
渡辺氏がコーチ陣の見直しを前提に、「俺は何にも報告聞いていない。俺に報告なしに、勝手にコーチの人事をいじくるというのは、そんなことありうるのかね。俺は知らん。責任持たんよ。」という発言を11月4日にしたということなら、それはそれで辻褄の合うことやと思う。
事実、清武氏は渡辺氏に反旗を翻して、意向を無視しようとしていたわけやさかいな。
渡辺氏としては面白くなかったやろうというのは容易に推察できる。
清武氏の10月20日の時点での合意事項に拘る理由の方が解せんと言うしかない。
桃井オーナー兼球団社長も10月20日の約束は過去のことで、その後、見直しが必要と認めとるわけやしな。
これは、どう見ても自身の意見が聞き届けられないことへの怒りによる清武氏の独断専行と言うしかないことや。
日本シリーズというプロ野球最大のイベント前に記者会見をしたということ自体も、口では渡辺氏のしていることを「ファンをも裏切る暴挙」と攻撃しとるが、一番ファンをないがしろにして愚弄しとるのは清武氏自身やないかと思う。
本当に野球ファンのことを考えとるのなら、野球界のことを考えるのなら、せめて日本シリーズが終わった後にするくらいの配慮を示してしかるべきや。
清武氏ほどの立場の人なら、こんな記者会見をすれば大事(おおごと)になるのは分かり切った話で、日本シリーズどころではなくなるくらいのことが予想できんはずがない。
その程度の配慮すらできん人やったのかと思う。
極めつけは、その記者会見で泪を浮かべてたことや。
言うとくが、ワシらを含めた、ええ歳をしたオッサンの泪なんかに誰も同情はせんで。悔し涙にしても見苦しすぎる。
清武氏のしたことで泣きたい人は他にナンボでもいとるんやで。そんなことは考えたこともないやろうと思うが。
ワシらは二人とも阪神タイガースのファンやから、はっきり言うてジャイアンツの内輪揉めなど、どうでもええ。
一野球ファン、阪神タイガースファンという立場なら、アホなことやっとんなと笑って見ていられる。
他人の泥仕合、揉め事ほど面白いものはないさかいな。ナンボでも好きにやってくれで済ませられる。
しかし、新聞業界、とりわけ営業する者の立場で考えると、とてもそんなことは言ってられないという気になる。
複数の業界関係者の方々から異口同音に、勧誘に行った先で、
「Y新聞? あのナベツネがオーナーの新聞か。前から相当にえぐいとは思うてたけど、あんな告発をされるような新聞なんかいらん」
と言われて、まるで仕事にならん状態やという。
また、あるY紙の販売店では、
「Y新聞を取っていることだけでも恥ずかしいから嫌だ。止めたい」
「おい、このY新聞、どうなっているんだ。他の新聞では一面で報じられているのに、ほとんど何も書いてないじゃないか。こんな新聞はいらん」
と言われ、解約希望者が続出しとるという話も聞く。
これに似た構図は、過去にも幾度かあった。
それは新聞社が不祥事を起こしたときに良く起こる現象や。
つまり、今回のことは、まさしく新聞社の不祥事として多くの新聞読者が捉えとるということになる。
いつものことやが、新聞社の不祥事のケツを拭かされるのは現場の人間と相場が決まっている。
今までのように一過性の問題なら、まだ救われる。
ある程度の時が経てば収まるさかいな。
しかし、この問題はお互いが一歩も引かんという姿勢がミエミエやから、いつ収束するのか先がまったく見えない。
おそらくは、Y新聞本社の意向で、清武氏の球団代表兼GMの解任、左遷ということになるのやろうと思う。
そうなったらなったで清武氏も黙ってない可能性がある。
会見の場に弁護士を同席させたのは、訴訟沙汰も辞さずという気持ちの表れ以外の何ものでもないと考えるさかいな。
立場の弱い雇われ人が、こういう非常手段を取るのは「辞職覚悟」でというのが普通やが、清武氏はそれをせず、今の立場のまま居座ると広言しとる。
最悪、裁判沙汰にまで発展しても構わんと。とことん闘う意志があると。
そうなれば、この泥仕合は延々と続くことが予想される。
その期間、巨人の人気だけやなく、Y新聞の購読部数が減り続けるのは必至やという気がする。
清武氏は、それで一体何を得ようとしたいのやろうか。渡辺氏が球団に対して口出しせんようになればええのか。思いどおりになれば、それでええのか。
しかし、例えそうなったとしても、現在のY新聞のイメージダウンの回復はおぼつかんと考えるがな。
そして、それは単にY新聞離れだけに止まらず、新聞業界全体の評判すら落としかねん事態を招く可能性すらある。
それでなくとも、この業界は現在厳しい状況にあるのに、そうなったら堪ったもんやない。
業界全体が大打撃を受けるのは、ほぼ間違いない。
ワシが、「数千、数万という人たちの生活まで脅かされかねん状況が生まれとる」と言う所以や。
Y新聞の二千数百店舗の販売店とその従業員、および新聞拡張団とその拡張員たちの生活が、それになる。
たった一人の人間の鬱憤晴らしのために、そうなるというのは、あまりにもバカげている。
名指しで批判したくもなるということや。
ただ、そうは言うても清武氏も、まさかワシが言うことまでのことは考えてなかったとは思う。
清武氏もY新聞の人間やから、Y新聞が衰退することなど望んでないはずや。
今からでも、まだ遅くはないさかい、その愚に気がついたら、是非とも大人の対応をして貰いたいものやと切に願う。
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