メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第196回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2012. 3. 9


■悪質と言われる新聞勧誘は、なぜなくならないのか?


古い読者の方から情報が寄せられた。


すでにご存知かと思いますが、ついにというか、表に出てきましたね。

http://www.kokusen.go.jp/mimamori/mj_mailmag/mj-shinsen131.html より引用


断っているのに帰ってくれない!新聞勧誘


新聞の勧誘員が家に来た。「今取っている新聞で不満はないから」と断って、ドアを閉めようとしたが無理やり玄関に入ってきた。

何度も断っているのに「何で断るんだ!」と怒っているような口調で言われたかと思うと、今度は「頼むからお願いします!お願いします!」と泣き落としのように頼み込まれたりしてあまりにしつこいので、仕方なく3カ月間の購読契約をしてしまった。

やはり2紙も必要ないので解約したい。(80歳代 女性)


ひとこと助言

○新聞の勧誘員から強引に購読を勧められたという相談が寄せられています。

○事例の他にも、購読開始時期が「1年後の○月から」といった数カ月〜数年先の契約をさせられるケースも目立っています。

認知症の高齢者などの場合、配達が始まって初めて契約していたことに周囲が気づくこともありました。

○訪問販売でクーリング・オフができる期間は契約書を受け取ってから8日間です。それを過ぎると、「○年○月〜○年○月」などと期間が決まっている購読契約は途中でやめることが難しいので、注意が必要です。

○ドアを開ける前に業者名と用件を聞き、必要なければきっぱりと断りましょう。

○困ったときは、お住まいの自治体の消費生活センター等にご相談ください。


リーフレット(注1.巻末参考ページ参照)まで作られているのが、ちょっと衝撃でした。

悪徳業者ではなくて、正真正銘の新聞セールスマン(販売店)の一部がやっていることだと捉えると、何とも悲しい話ですよね。


というものや。

ここのところ、サイトのQ&Aでも、その手の相談がなかったから、何で今頃になってという思いもあったが、国民生活センターが、こういうのを出すというのは、そこそこの件数があるからやろうと思う。

『何度も断っているのに「何で断るんだ!」と怒っているような口調で言われたかと思うと、今度は「頼むからお願いします!お願いします!」と泣き落としのように頼み込まれた』という行為について、「悪い」と断じられると反論はできん。

ワシらも過去に嫌というほど「あかんことや」と言及してきとるさかいな。その対処法やアドバイスも事案毎に数多くしてきた。

ただ、悪いと言うだけでは国民生活センターと同じにしかならんので、ここでは、なぜ悪質と言われる新聞勧誘がなくならないのかについて話してみたいと思う。

どんな行為にも、それなりの理由と事情がある。

こういうことをする勧誘員は、おしなべて追い詰められた状況に置かれている者が大半やと思う。

こういうことが好きでやっている者は少ない。契約を上げられない人間に限って、そうする。

なぜ契約が上げられないのか。その人間に能力がないと言うてしまえば、それまでやが、もっと深いところに原因が潜んでいる。

その闇は深い。

新聞拡張団であれ、新聞販売店であれ、社員教育に力を入れている所には、その手の勧誘員は少ない。

営業の指導なりバックアップなりがあるし、禁止行為についてもちゃんと教えるからや。

問題は、旧態依然とした感覚から抜け切れない新聞拡張団や新聞販売店が人材を雇用する際、大した指導や教育をすることなく現場に送り出して、すぐに結果を求めるところにある。

それには、教えるだけの能力がないということもあるが、新聞拡張団や新聞販売店の中には新聞勧誘というのは未だに「押し売り営業」やと思い込んでいる者が多いためやと考えられる。

普通に勧誘してたんでは契約は取れないから、どんなことをしてでも契約を取ってこいと言って送り出す。できなければ厳しい叱責と仕置きが待っていると脅して。

それと、営業員は使い捨てという感覚が強いから、営業員をきつく責めることなど何とも考えていないといういうのもある。

そういう新聞拡張団や新聞販売店で仕事をされている現役の勧誘員たちは「契約を上げないと人間のクズのように言われます」、「人間扱いされません」と口揃えて嘆く。

その手の相談があれば、いくらこの仕事難の時代であろうと、そんな所で仕事を続けていてもロクなことはないから辞めた方がええとアドバイスしとる。

なぜなら、こういう行為をすることに悩んで相談して来られる人は、まだ救われるからや。

こうするのが仕方ないとか、やむを得ないと考えるようになるともう遅い。

こういうことを続けているうちに、本当に勧誘はこうしなければ契約を上げられないと思い込むようになってしまう。

つまり、自分自身の中で、何が良い事で何が悪い事かの判断すらつかんようになってしまうわけや。

旧態依然としたやり方しか知らん新聞拡張団や新聞販売店に勤めるようになった者の多くが、営業のやり方も満足に知らないうちに「押し売りしてでも契約を上げてこい」と言って送り出されるのやという。

せめて、勧誘営業の現実である、「まともに話を聞いて貰えるのは1割程度」という認識さえあれば、断られると次に行こうかと考えられるから、1件の契約に拘るケースは少なくて済む。

しかし、行った先の客10割から契約を得よう、得なければならないという考えになる者は、自然に『「何で断るんだ!」と怒っているような口調』になり、『「頼むからお願いします!お願いします!」と泣き落とし』のような卑屈とも思える態度に出てしまうのやと思う。

指導力のない拡張団に限って「どんな客からでも契約は取れる」と教える。契約が取れないのは、お前の押しが弱いからだと責める。

その責めが嫌さに、客を泣かせてでも契約を取ろうとする。

そして、こういう苦情が表面化するわけや。

悲しいことやが、客を泣かせてでも契約を取ろうとする場合、その標的は高齢者や若者の中で気の弱い者を攻めろと教えとるという。

今回のケースも被害者は、80歳代の女性ということやったから、その条件に合うとる。

つまり、彼らにとっての勧誘とは勧誘弱者を探し出すということを意味するわけや。

もう、こうなると営業でも何でもなくなる。

形こそ勧誘やが、やっていることは空き巣狙いが、忍び込みやすい家を物色しとるのと何ら変わらない。

空き巣は留守宅に忍び込み、悪辣な勧誘員は弱者に襲いかかるという違いはあるが。

そこまで堕ちた者を救う手立てはない。また、そんな連中がワシらにアドバイスを求めてくることもない。

ただ、そういうやり方でも、『あまりにしつこいので、仕方なく3カ月間の購読契約をしてしまった』というように、実際にその場で契約になるから、いつまで経っても、こんなやり方がなくならんのやろうと思う。

こんなことが続くようやと過去の法律が、そうやったように、そのうち「高齢者への勧誘禁止」てな事態になりかねん。

実際、2009年12月1日に施行された、『特定商取引に関する法律』の改正法で、新聞の高齢者への勧誘禁止が論議されたことがあったさかいな。

その折り、日本新聞協会販売委員会の委員長が出した意見書の中に、


1.法改正の趣旨は、悪質事業者から高齢者などを保護することであるはずだが、勧誘を拒絶する消費者に対する勧誘の禁止および勧誘意思の確認義務が、すべての訪問販売に導入されることになれば、営業活動の自由が侵害される恐れがある。

規制強化は本来の趣旨に限定し、悪質事業者の違法な行為自体を取り締まれば足りるものであり、通常の営業行為は規制すべきでない。

入り口の段階で、幅広く営業行為に規制の網をかけることは、過剰な規制につながる。

2.新聞は、極めて公共性の高い商品であり、広く読まれ普及することによってその公共的役割を果たすことができる。

その普及の方法については、これまで訪問販売を主体にし、94%という世界的にみても最高水準の戸別配達率を達成してきた。

こうした新聞の公共的役割を妨げるような過度な規制はすべきではない。

一方、消費者からの苦情については、各社ごとに苦情・相談窓口を設置し、解決している。

また、特定商取引法の指定商品として、新聞セールス近代化センターを設立し、悪質セールスの排除に努めるなど、自主的な改善努力を積み重ねてきた経緯があることも、ぜひご理解いただきたい。

3.新聞は公益的な商品であり、商品自体に欠陥はない。このような商品と、布団やリフォームなどの悪質業者が販売する商品を同一視するのか。

再勧誘の禁止と拒絶意思の確認という二つの入り口規制を、すべての商品に一律に適用するのか。

4.消費者が勧誘を拒絶する旨の意思表示をした場合、勧誘が禁止されるということだが、新聞の場合、「今、○○新聞を取っていますので、△△新聞はいりません」「新聞は読んでいません」と、断られるところから勧誘が始まる。

こうした規定が導入されれば、本来自由な営業活動まで規制されることになり、過剰規制にならないか。

5.全国で5千万部を超える新聞が発行されており、極端に言えば、その数だけ訪問活動が行われている。

例えば、1月から3月まで3か月の新聞購読契約がある場合、新聞購読が始まって1か月が経過した2月には、契約期間が切れた後の4月以降の購読継続の勧誘が行われている。

消費者からのクレームは多いかもしれないが、新聞の勧誘は分母が大きい。

東京都の消費生活センターに寄せられる新聞勧誘の苦情件数は、絶対数でいえばまだ大きいが、4パーセント減少している。

6.新聞は業界内で様々な努力を続けてきており、新聞セール近代化センターの設置や、自主ルールである公正競争規約を運用している。

また、社の取り組みとして読者センターを設置し、読者からの苦情・トラブルなどについて365日24時間体制で受け付け、解決している。

問題とされている悪質業者と違い、すべての新聞社が一切問題から逃げない姿勢をとっている。そのことを評価してほしい。

7.勧誘ではない通常の訪問は、規制の対象となるのか。

「新聞購読をお願いします」と言えば勧誘だが、「1週間試読紙を読んで、現在購読中の新聞と比べるアンケートにご協力お願いします」という一般の訪問を、勧誘と区別することができないのではないか。

8.新聞の持つ公共性ゆえに、再販制度と特殊指定が認められている。

2005年7月には文字・活字文化振興法が制定された。活字文化の普及に新聞の勧誘は不可欠である。

特定商取引法改正が、活字文化の普及・推進の足かせになることがないよう要望したい。

9.新聞は店頭に品揃えをして顧客を待つものではない。

世界に誇るべき戸別配達制度が維持されているのは、訪問販売があってのものである。

新聞の発行部数および普及度の高さも、この戸別配達制度があるからであり、今回の法改正が、世界に誇るべき戸別配達制度の崩壊につながりかねないという危惧をいだいている。

新聞の果たしている公共的な役割を含めて、今回の法改正では新聞業界の意見を十分に反映させるよう、小委員会での審議に臨んでほしい。


という内容のものやった。

必死の抗弁という感じやが、取り敢えず、その具申が通ったのか、新聞の高齢者への勧誘禁止は改正法には盛り込まれなかった。

しかし、その結果、こういう問題が数多く起きれば抗弁が意味を持たんようになる。

『消費者からの苦情については、各社ごとに苦情・相談窓口を設置し、解決している』

『特定商取引法の指定商品として、新聞セールス近代化センターを設立し、悪質セールスの排除に努めるなど、自主的な改善努力を積み重ねてきた経緯があることも、ぜひご理解いただきたい』

『問題とされている悪質業者と違い、すべての新聞社が一切問題から逃げない姿勢をとっている。そのことを評価してほしい』

と広言しとるにも関わらず、高齢者を対象とした悪質と思われる事案が増えることで、業界の自浄作用がまったく機能していないと証明するような形になるさかいな。

昔から新聞社には規制すれば事足りるという考えが根強いが、それでは、解決などできるわけがない。

もっと、根本の部分での解決が必要になる。

1.新聞社による営業マニュアル、指針というものが一切示されていない。

やったらあかんという事は多いが、このように営業しなさいという類のものがない。

業界で統一された公式な営業マニュアル、指針がないというのは、言うて悪いが新聞業界くらいなものやと思う。

どんな業界でも営業マニュアルくらいは存在する。

そういった営業マニュアルが作れんのやったら、僭越ながらワシらに頼めばいくらでも作る。

事実、このメルマガやサイトでも数多く新聞勧誘の営業法について語っとる。

数多くの新聞拡張団や新聞販売店の方々には、新聞勧誘の営業法について質問なり相談があれば助言は惜しまず続けとるしな。

ただ、残念なことに、そういう悪質な勧誘行為をしとる輩に限って、ワシらのサイトには寄りつかんということがある。

ワシらは悪いことは悪いと平気でづけづけと指摘するさかい居心地が悪いのやろうな。

つまり、このサイトを見て頂いておられるのは、真っ当な勧誘員さんたちだけで、それでは、いつまで経っても悪質な勧誘員たちに気づきなど生まれることはない。

やはり新聞社が本気で、営業マニュアル、指針の作成に取り組まんことには、いつまで経っても同じ事の繰り返しにしかならんと思う。

営業マニュアル、指針がないということ自体、恥やという感覚にならなあかんのやけどな。

2.現場の勧誘員たちの環境が、まったく変わっていない。

通常、どの業界の営業員も身分保障というものがあるが、新聞の勧誘員には、そういうものは、ほとんどない。

せめて、最低賃金程度の保証と社会保険などの厚生福利さえあれば、無理な勧誘に走る者は少なくなるはずやと考えるのやけどな。

やむを得ずやるという切羽詰まった事情が解消されるからや。

実際、そういうものが保証されている新聞拡張団や新聞販売店では悪質な勧誘員は少ない。

『新聞は公益的な商品であり、商品自体に欠陥はない。このような商品と、布団やリフォームなどの悪質業者が販売する商品を同一視するのか』と、日本新聞協会販売委員会の委員長は言われるが、

『新聞は公益的な商品であり、商品自体に欠陥はない』という商品を売る勧誘員たちと、『布団やリフォームなどの悪質業者』の販売員たちと待遇的には、何も変わらんというのが現実なわけや。

同じ待遇やから同じことをしてもええとは言わんが、似たような状況に置かれれば、似たような事をしてしまうのも事実としてある。

はっきり言うて、新聞拡張団の中には悪質訪問業者に引けを取らんくらい悪質な会社が存在するのは間違いない。

公表することはないが、ワシらのもとには嫌というほど、その手の情報が寄せられてくるから分かる。

人知れず、それに対するアドバイスもしとるがな。

もっと言えば、そういう悪質訪問業者に引けを取らんくらい悪質な新聞拡張団の連中が悪質な勧誘をしとると言うても過言やないということや。

なぜ、そういうことになるのか。

それは新聞社各社が昔から持っている幻想とも言える「部数至上主義」があるからやと思う。

部数を獲得することが、すべてに優先するという考え方や。

部数を獲得できない拡張団や販売店は、例え経営的に問題がなくても廃業に追い込む。

そうなりたくない拡張団や販売店は、配下の勧誘員に「どんなことをしてでも契約を取ってこい」と煽る。

甘い顔を見せれば我が身が危ないさかい、それこそ必死で勧誘員たちの尻を叩くわけや。

叩かれた勧誘員たちは、その勧誘のやり方すら満足に分からず、言われるままに弱者と呼ばれる人たちから無理に契約を取ろうとやっきになる。

完全な負のスパイラルが出来上がってしもうとるわけや。

ここで、新聞社が「部数至上主義」の旗を降ろすだけで事態は、かなり違うてくるのは間違いないと思う。

拡張団や販売店も廃業に押し込まれる心配も消え、勧誘員たちも先を見据えた勧誘に切り替えることができるはずや。

突き詰めて考えれば、すべての元凶は「部数至上主義」にあると言える。

この「部数至上主義」の考え方が功を奏してきたのは、まだ新聞の普及率がそうでもなかった30年以上も前の話で、確実に部数が下降傾向にある今は、それではあかんというのは誰が考えても分かりそうなことやと思うがな。

事ここに至っては新聞部数の減少は止まらない。止めようがない。

少子高齢化で人口そのものが減少し続ける限りは、当然、新聞の部数も減り続ける。

長引く景気低迷が続くことで、買い控えからの新聞部数減少というのも今後しばらくは続くと予想される。

新聞価値の下落というのも大きい。ネット社会では、新聞を購読していなくても新聞記事を入手することができる。

そういうシステムを他でもない新聞社自らが構築してしもうとるわけや。

売れもせん電子新聞なんかに力を入れているのもそうで、結局は自分で自分の首を絞めとるとしかワシには思えんのやけどな。

加えて、報道の危うさというのも、ここ1年ほど目立ってきた。

その最たるものは原発報道や消費税増税に関するものやが、それについては、長くなるのでまた別途話すことにする。

ここでは、新聞の報道に対する信用に揺らぎが生じているということが分かって貰えればええ。

新聞社はそれにまだ気付いてないようやがな。

ここに新聞勧誘のさらなる悪評が高まってくれば法律の改正以上に、新聞の再販制度そのものにまで話が及ぶような気がする。

そんな悪質な勧誘しかできん新聞を法律で保護する必要があるのかと。

新聞の再販制度がなくなれば新聞は終わる。それは新聞社のみならず、業界人すべての共通した認識やと思う。

つまり、法律で守って貰えな新聞の存在すら危ういのが実状なわけや。

このままでは、それが現実のものになるかも知れんということや。

その元凶である「部数至上主義」に新聞社が拘り続ける限りは、近い将来、新聞終焉の日が訪れるのは間違いないとワシらは見とる。

もっとも、危機的状況にあるという認識に欠けている限りは、いくらワシらが声を大にして言うても「馬耳東風」にしかならんやろうがな。

何でもそうやが、手は打てるときに打っておかなあかんのやけどな。



参考ページ

注1.見守り新鮮情報 第131号


ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集 電子書籍版パート 
2011.4.28
販売開始 販売価格350円
 

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