メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー
第201回 ゲンさんの新聞業界裏話
発行日 2012.4.13
■新聞がおかしい その1 危険な新聞社同士の関係
最近、新聞社同士が敵対しているとしか受け取れない新聞記事が増えたように思う。
その典型的なのが、3月15日付けのA新聞で報じられた、
巨人、6選手に契約金36億円 球界申し合わせ超過
http://www.asahi.com/national/update/0315/TKY201203140797.html より引用
プロ野球・読売巨人軍が、球界で申し合わせた新人契約金の最高標準額(1億円プラス出来高払い5千万円)を超える契約を多数の選手と結んでいたことが、複数の関係者証言とA新聞が入手した内部資料から明らかになった。
14日現在で確認できたのは、1997〜2004年度に6選手と結んだ計36億円の契約で、このうち計27億円が最高標準額を超過する内容だった。
読売巨人軍はA新聞の取材に対し、「個別の選手の契約は申し上げられない。標準額は07年までは上限ではなく、超えても構わないというのがプロ野球全体の理解のはず。ルール違反ではない」と話している。
プロ野球では93年のドラフトから、社会人と大学の選手が入団する球団を選べる逆指名制度を導入。
これに伴い、球団間の争奪戦で契約金が高騰するのを避けるため、新人選手の契約金の最高標準額を1億円と12球団で申し合わせた(翌年から1億円プラス出来高払い5千万円)。
巨人軍の複数の内部資料や関係者証言によると、97〜00年のドラフトの逆指名制度と、01〜04年の自由獲得枠で入団した選手のうち6選手について、最高標準額を超過する契約金額となっていた。
……………………………………………………………………………………………
という記事やと思う。
一方のY新聞は、すぐさま反論記事を掲載した。
巨人、契約金でA新聞に反論…97〜04年6選手
http://www.yomiuri.co.jp/sports/npb/news/20120315-OYT1T00093.htm より引用
読売巨人軍は14日、A新聞から選手の契約金などに関する取材を受けたことに対し、反論の文書を作り、同日公表した。
A新聞社の取材は、1997年から2004年に入団した6人の選手の契約金が、プロ野球界で申し合わせた最高標準額を逸脱している、などとするものだった。
これに対し巨人軍は「最高標準額は上限ではなく緩やかな目安であり、78年から07年まで30年近くそのように認識され、用いられてきた」と説明。
さらに01年6月18日にはプロ野球実行委員会が「(最高標準額は)標準額であり、上限ではない。プロである限り、新人選手といえども、優秀とだれもが評価する選手には、その評価に見合った契約金、年俸が提示されていい、というのが12球団の一致した考えである」との合意を文書にまとめたことをA新聞に伝えた。
この時の文書はまた、公正取引委員会が「契約金に上限を設け、制約しても社会的影響は少ないとの意見があるかもしれないが、それは12球団がカルテルを組み、入り口を閉めたことになり、認められない」との考えを示したことを紹介。
そのうえで「独禁法に触れる恐れがある限り、上限を設けない方がいい、というのが当時の判断だった。その判断はいまもって変わってはいない」と記していた。
プロ野球界では07年になって新人選手の契約金に上限を設けることが議論され、同年11月、契約金額は1億円、出来高払いは契約金の50%を上限とすることが決まった。
A新聞が問題にした6選手は、いずれも緩やかな目安だった時期の入団であることから、巨人軍では「球界のルールに反しておらず、税務申告も適正に行っており、社会的に非難されるものではない」としている。
この記事を掲載後、巨人側はA新聞に抗議し、謝罪を要求するが一蹴されている。
これによりA新聞対Y新聞の全面戦争に発展していくことが業界内では危惧されている。
この両者の主張に関して言えば、『球界で申し合わせた新人契約金の最高標準額(1億円プラス出来高払い5千万円)』というのを破った巨人側の方に非があると思う。
なぜなら、その当時から現在に至るまでの新聞記事のすべてで、プロ野球選手の新人契約金は最高標準額される1億円プラス出来高払い5千万円以内と掲載され続けてきたからや。
ワシも含めて多くの野球ファンは、その記述を信じたはずや。それ以上は、もう貰えんようになったんやなと。そういう取り決めになたんやなと。
それはY新聞であっても、A新聞であっても同じやった。
他の全国紙、地方紙、スポーツ紙を問わず、プロ野球選手の新人契約金額の発表はすべて横並びで同じ内容の記事や。
もし、『(最高標準額は)標準額であり、上限ではない。プロである限り、新人選手といえども、優秀とだれもが評価する選手には、その評価に見合った契約金、年俸が提示されていい、というのが12球団の一致した考えである』ということに正当性があり、それ以上の契約金を支払っていても問題ないというのなら、
Y新聞がそれまで、新人の契約金額を『1億円プラス出来高払い5千万円以内』と掲載してきた記事、すべてが嘘やったということになる。
新聞社が何より戒めなあかんことは『嘘の記事』を書くことや。
今、その正当性を主張するのなら『1億円プラス出来高払い5千万円』という記事は書かずに、当時から現在に至るまでの期間、新人に対する正味の契約金を公表して、堂々とそれを書けば済んだ問題やったと思う。
少なくともY新聞社は巨人軍というプロ野球球団を子会社に持っているわけやから、当然、その事情はすべて知っていたはずや。
反論記事を書いたことが、それを証明しとる。
それからすれば、今回のような新聞記事には『1億円プラス出来高払い5千万円』と書いたが、実際には『(最高標準額は)標準額であり、上限ではない』から、契約金を陰でいくら渡してもええというのでは言い訳にすらなっていないと考えるがな。
これは誤報というより、知って敢えてそのように記述していたわけやから、捏造記事に属するものやと言われても仕方ないやろうと思う。
まあ、そこまで厳しい論調は、新聞やテレビ、ネット上のどこにもないがな。
他の新聞社は公には、「その事実を知らんかった」と言うても通る。多くの新聞社は基本的には球団発表を信じて書いたということになるさかいな。
苦しい言い訳は『公正取引委員会が「契約金に上限を設け、制約しても社会的影響は少ないとの意見があるかもしれないが、それは12球団がカルテルを組み、入り口を閉めたことになり、認められない」との考えを示したことを紹介』という記事にも表れている。
これに関して、公正取引委員会の見解は、
巨人契約金問題 公正取引委員会は独禁法違反なしの見解
http://www.sponichi.co.jp/baseball/news/2012/03/29/kiji/K20120329002930190.html より引用
巨人の契約金が最高標準額を超過していたと朝日新聞が報じた問題に関連し、12球団で契約金の上限を設定し制限することについて、公正取引委員会は28日、「(カルテルを禁じる)独禁法にはただちに違反しない」との見解を示した。
定例記者会見で山本和史事務総長が答えた。公取委によると、球界側から1994年に新人選手の契約金に条件を設けることについて相談があり、「球団と選手との間には労働契約があるとみられ、ただちに独禁法には違反しない」と口頭で回答。
山本事務総長は「現在もその認識は変わっていない」としている。
ということや。
それには、Y新聞に記載されていた『公正取引委員会が「契約金に上限を設け、制約しても社会的影響は少ないとの意見があるかもしれないが、それは12球団がカルテルを組み、入り口を閉めたことになり、認められない」との考えを示した』という記述どころか、
『公取委によると、球界側から1994年に新人選手の契約金に条件を設けることについて相談があり、「球団と選手との間には労働契約があるとみられ、ただちに独禁法には違反しない」と口頭で回答』したとある。
これはY新聞の記事とは正反対の記述や。どちらかが嘘をついているか、間違っていることになる。
残念やが、このケースは、どう見ても今回の騒動でY新聞側が狼狽えて、正しい認識ができんまま世間への説得力を高めようとして、事実を曲解して、もしくは誤って書いたとしか考えられん。
公正取引委員会がでたらめを言う理由は何もないさかいな。法的な見解から言うても公正取引委員会の言うてることの方が正しい。
ただ、A新聞が今頃になって何でこんな記事を書く必要があったのかがワシには分からん。
倫理的な問題はあるかも知れんが、Y新聞の行為は法律に照らせば違法とまでは言えんものや。A新聞も『違法性がある』とまでは言及してないさかいな。
こんな記事を掲載すれば確実にY新聞の信用と巨人の人気が落ちる、打撃があるやろうということくらいは誰にでも分かるはずや。
その意図がなければ、こんな記事は掲載できんと思う。
この記事の舞台となった1997年〜2004年頃までのA新聞とY新聞の関係やったら、お互い熾烈な拡張競争を繰り広げていたから、相手を蹴落としたくてそうしたというのなら、まだ分からんでもない。
しかし、その頃も、それ以前も、今回のように同業者である新聞社を貶めるような記事の掲載はしてなかった。
そのためのネタはナンボでもあったにも関わらずにな。
もっとも、明らかな誤報記事、捏造記事はたまに双方で掲載することはあったが、それであってもお互いの立場に考慮した記事に終始していた。
また、そういう場合は反論などせず、謝罪して一件落着というのが多かった。
良きにつけ悪しきにつけ、新聞業界はお互いの醜聞は、なるべく暴かないという姿勢に終始していたはずや。
2008年1月31日から、A新聞とY新聞はN新聞を含めた3社で「あらたにす」(注1.巻末参考ページ参照)というインターネット上のサイトが始まっていた。
それが、今年の2012年2月末で閉鎖された。前年の2011年11月30日に閉鎖が告知されていたというが、あまりにも急な解消劇やった。
その理由については何も触れられていない。
表向きはアクセス数が当初の予定より伸びなかったからやということやが、閉鎖されてすぐ今回のような事が起きると裏で何かあったのやないかと勘ぐりたくもなる。
当初、この全国紙3社が結びついたのは、この3社で全国紙のシェアの8割以上を確保しとるから、全国紙の独占を押し進めようという計画のもとに始められたものやと思う。
これは、勧誘業界にも大きく影響していて、そのためにA新聞とY新聞は共同で「金券廃止」の方向に傾いていったと思われる。
A新聞とY新聞の関東での「金券廃止」は2007年4月からということになっとるが、実際には2008年1月31日から、全国的にもその動きが顕著になってきたと言われている。
もっとも、それが徹底されていたかどうかは各地それぞれに問題があって、必ずしも足並みが揃うとるということでもないがな。
そのグループから弾かれたM新聞、S新聞は「金券廃止」など関係なく続けとるということもあり、対抗上止められんというA新聞とY新聞の販売店もあると聞くさかいな。
それ以降、M新聞、S新聞では、それまでになかったようなA新聞とY新聞の不正記事を公然と掲載するようになった。
最近では、サイトのQ&Aで取り上げた『NO.1117 強引な勧誘での逮捕者が出た事件について』(注2.巻末参考ページ参照)というのがある。
その報道記事や。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120220/crm12022020080019-n1.htm より引用
新聞販売店代表ら逮捕 特商法違反容疑で 京都府警
2012.2.20 20:08
大学生に対する新聞購読の契約に際してクーリングオフ(契約解除)に関する書類を渡さなかったり、強引な勧誘をしたりしたとして、京都府警は20日、特定商取引法違反(不備書面の交付など)の疑いで、京都市北区のY新聞K販売店経営、T容疑者(52)=同市上京区=と従業員の男ら3人の計4人を逮捕した。T容疑者は容疑を認めている。
Y新聞大阪本社広報宣伝部は「当社と取引関係にある販売店の代表と従業員らが逮捕されたことを重く受け止めます。販売店に対しては、より一層の法令遵守と従業員教育の徹底を求めていきます」とコメントした。
また、A新聞に対しては、
A新聞記者を逮捕 妻殴った疑い 千葉
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/event/crime/554912/ より引用
妻を殴ってけがをさせたとして、千葉県警行徳署は5日、傷害の疑いで、千葉市緑区おゆみ野中央、A新聞社国際編集部記者、N容疑者(35)を逮捕した。
逮捕容疑は昨年12月31日午後4時ごろ、千葉県市川市の当時の自宅マンションで、同居していた妻(37)の顔を平手で殴りけがをさせたとしている。
同署によると「もめごとはあったが、殴っていない」と容疑を否認している。2人は事件後に別居し、妻が今年3月中旬に被害届を出した。
A新聞社広報部は「逮捕を重く受け止める。事実確認を急ぎ、厳正に対処する」としている。
というのがある。
いずれも、この程度と言えば語弊があるかも知れんが、昔ではあまり考えられんかった類の報道やと思う。
こういうのは、今までなら週刊誌が扱うレベルのものやった。それが、今や週刊誌よりも早く新聞記事になっとる。
もちろん、A新聞とY新聞もやられっぱなしというわけやない。
このメルマガでも取り上げた『第8回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■MDN醜聞の波紋』(注3.巻末参考ページ参照)ではM新聞に対して、A新聞、Y新聞とも相当辛辣な論調を繰り返していたさかいな。
S新聞に対しても『S新聞の報道』(注4.巻末参考ページ参照)と題されたウィキペディアのページにもあるとおり他の新聞社から叩かれていることも多い。
もともとS新聞社は新聞業界でも異端的な存在で、1社だけ購読料を安くしたり、他の全国紙に先駆けて夕刊の前面廃止を宣言したりということをしてきた。
電子版で新聞を発行したのも最初なら、カラー版の新聞を発行したのも最初や。
また、新聞各社が申し合わせている新聞休刊日を廃止するという方針を打ち出したことがあったが、これは新聞協会の強固な反対で撤回しとる。
そのため他紙から攻撃されることも多い。その内容の大半は、そうされても仕方のないものでS新聞も謝罪しとる事案が多いがな。
ここでは、それらについての引用記事がネット上で探せなかったので掲載できんかったが。
全国紙に限って言えば、「あらたにす」グループとM新聞、S新聞といった関係やったのが、今や「あらたにす」の解消により、すべての全国紙がバラバラの状況になっていて、昔の単なる競争相手という域を越えた険悪な状態になりつつあると言える。
これに加えて、地方紙と全国紙との争いというのもある。
一般の人の中には全国紙の方が規模が上で優勢やと考えておられる人が多いかも知れんが、関東、関西地方を除けば、ほとんどの地方では、地方紙の方が圧倒的シェアを獲得しとる場合が多い。
ワシが数年前、東海地方でY新聞の拡張していたときには、そのシェアは5%前後しかなく、当会地域でシェア80%強のブロック紙C新聞の足下にも及ばん存在やった。
そういうケースやと地方紙は遠慮なく全国紙を叩くというのが往々にして起こる。
これに関しては今に始まったことやなく昔から、そういう構図はあった。
地方紙にとって全国紙と仲良うしても、あまりメリットはないと考えとるようやさかいな。
ただ、全国紙が一枚岩のようになっていたから、新聞業界が結束して見えたわけやが、それもここに来て怪しくなったと言うしかない状況にある。
これは、今後、ワシら勧誘の現場でも大きな問題になっていくような気がする。
新聞業界で統率が取れていたからこそ、『新聞インフォメーション・センター』も機能していたわけやが、業界内で亀裂が生じれば、当たり前やが業界全体がおかしくなる。
最も危惧されるのが、6年前にメルマガ『第85回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞特殊指定について』(注5.巻末参考ページ参照)で、話した問題やと思う。
公正取引委員会が、新聞特殊指定の見直しを検討しているということで、当時の新聞業界は大騒ぎになった。
読者の方々にも、それついてのご意見を多数寄せて頂いた。
このときは、新聞業界が一丸となって一大キャンペーンを張り、当時の政府にも強く働きかけ、結局、「先送り」という形で事なきを得たが、もう一度、それと同じ事態になると今度は難しいのやないかという気がする。
新聞特殊指定の見直しは、そのまま新聞の再販制度廃止にもつながりかねんことや。
現在、新聞が現状で何とか踏ん張れとるのは、その新聞の再販制度に守られとるからやと言うても過言やないと思う。
その再販制度がなくなれば、新聞社自身も認めとるように新聞の没落は免れん。
何でもそうやが団結してこそ力が結集されるわけで、バラバラになってお互いがいがみ合うとるような業界に明日などない。
そのことを新聞各社に自覚して欲しいもんやと切に願う。
誤解せんといて欲しいが「臭い物に蓋をしろ」と言うてるわけやないで。
不正や不法行為は例え同業者の新聞社同士であっても暴くというのは、公明正大さをアピールできるから、むしろ推奨したいくらいなものや。
ただ、それはお互いがその非に気づくことが先決で、そういう報道をされた場合は、変なプライドは捨てて素直に謝罪して、「以後気をつけます」と言うべきやと思う。
冒頭の件なら、Y新聞の反論を見ても、その報道自体は事実のようやから、「申し合わせを破ったことに対して謝罪します」で済む話やないかと。
それを揉め事に発展させても当事者同士はむろんのこと、新聞業界全体として得られるものは何もないと考えるがな。
今回の件以外でも、その報道姿勢に疑問を感じるようなケースが、ここ最近増えてきとると思うので、おいおい、それらについても触れるつもりや。
そうすることが新聞業界のためになると信じて。
参考ページ
注1.あらたにす
注2.NO.1117 強引な勧誘での逮捕者が出た事件について
注3.第8回 ゲンさんの新聞業界裏話 ■MDN醜聞の波紋
注4.S新聞の報道
注5.第85回 新聞拡張員ゲンさんの裏話 ■新聞特殊指定について
ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集 電子書籍版パート1
2011.4.28 販売開始 販売価格350円
書籍販売コーナー 『新聞拡張員ゲンさんの新聞勧誘問題なんでもQ&A選集』好評販売中