メールマガジン・ゲンさんの新聞業界裏話・バックナンバー

第217回 ゲンさんの新聞業界裏話

発行日 2012.8. 3


■新聞の怪談 その4 孤独な地縛霊


暑い。

長い梅雨が明けたと思うたら、いきなりの猛暑がやってきた。

去年からの節電が定着したためか、喫茶店やパチンコ屋、コンビニや書店、スーパーなど、どこに飛び込んでも涼しいと感じることがなくなった。

営業員にとっては過酷な環境になったと言える。

汗をかきながら叩いていても、以前までなら「キンキンに冷えた喫茶店やコンビニに飛び込めば息が吹き返せる」と思え、それまではと頑張れたが、今はそれがない。

僅かに涼しいかなと感じる程度で、「冷房による寒さ感」、「ひんやり感」といったワシら営業員にとっての救いは、もう過去の話になったと言うしかない。

そのせいかどうかは分からんが、サイトへも勧誘の途中から「熱中症になりそうです」という悲痛なメールを送って来られる方がいる。

「どうにかして欲しい」と。

そう言われる気持ちは分からんでもないが、ワシらに言われてもどうにもできん。

ワシらに限らず自然の前では人間など、あまりにも無力やさかいな。

同じ無駄な願いをするのなら「神様」に頼む方が、まだマシやという気がする。

ワシらに言われても「そんなこと知りまへんがな」となるだけやし、その言い方次第では角が立って嫌われることにもなりかねん。

神様なら無視されても誰も怒ることはないやろうがな。

いずれにしても、なるようにしかならん。自然には逆らわず、すべてを受け入れて生きる。人にできるのは、それくらいやと思う。

もっとも、そのメールを送って来られた方も、ワシらに何とかできるとは考えとらんやろうがな。

ただ、その愚痴を聞いて欲しいだけやと思う。

ハカセは、それが分かるから、敢えて分かりきったことでも「大変ですね。水分を十分補給されて、あまり無理をなさらず頑張ってください」と返信しとるのやという。

それで救われるのなら、それで良いと。

この暑さ何とかすることはできんでも、今年も恒例になっている「怪談話」くらいはできる。

それで身体の芯から震え上がって貰って、例え一時でも、この暑さを忘れて頂ければと思う。

良う考えたら、昔から、こういった怪談話が延々と語り続けられとるのは、多分に暑さ対策という意味合いがあってのことやないかという気がする。

話を聞くだけで「寒く」なれるというのは、ある意味、究極のエコやさかいな。

昔から夏場に怪談話が多いのは、それで説明がつく。

そして、その怪談話は新聞配達にも多い。

丑三つ刻というのがある。

江戸時代から語り継がれている古典的な怪談話で最も幽霊の出る時刻が、それやと言われている。

現代の時間で言うと、およそ午前2時から2時半頃になる。一般的には朝刊の配達が開始される時間帯が、その頃になる。

何でそんなアバウトな時間になるのかと言えば、江戸時代の時間が「不定時法」というもので決められとるからや。

この「不定時法」とは、太陽の動きをもとに決められ、日の出と日没を堺に1日を昼と夜に別け、それぞれをさらに6等分し、十二支の干支名がつけられた時刻で表せたものをいう。

昼と夜の時間がまったく同じなら、一刻は2時間ということになって問題はない。

しかし、当然のことながら季節により日の出、日没時刻が変化するから同じ時刻名であっても、実際には同じ時間ではないということになるわけや。

つまり、現代の1時間が江戸時代では、その季節毎に1時間未満であったり1時間以上であったりしたということやな。

まあ、そんなウンチクはさておき、幽霊の出没時刻と言われている丑三つ刻というアバウトな時間帯が、新聞の配達時間と重なるということが分かって貰えれば、それでええ。

そのために、新聞配達には怪談話が昔から豊富にあるのやと。

メルマガやサイトへも、時折、そういったものが送られてくる。

今回も、その中の一つをする。


ショウヘイは気の弱い、人と話すことが苦手な新聞配達員やった。

そもそも新聞配達員になろうと思ったのは、対人関係に患わされずに済むと考えたからやった。

学生時代から集団生活に馴染めず、いつも孤立していた。性格も大人しく目立たない。

かといって、いじめを受けたといった経験があるわけではない。

いじめを受けるほど人から相手にされなかった、存在感がなかったと言った方が正しいのかも知れない。

好きで孤独になっているつもりはないが、気がつけば、なぜかいつも一人になっていた。

しかし、ショウヘイは、それが嫌とか苦痛だと感じたことはなかった。

むしろ、そうなることで安心できた。

そんな状態やったから、仕事は何をしても長続きしなかった。

職場の上司の指示を無視できるほどショウヘイは気は強くはないが、人と話すことが苦手という意識が強すぎるためか、上司が何か言おうとすると、すぐその場を逃げようとする。

それを上司は無視された。シカトされたと勘違いして怒る。

「バカやろう。上の者の指示くらい、ちゃんと聞け」と。

上司の言っていることの方が正しいというのはショウヘイにも分かるが、そう怒鳴られると、もうそこで仕事はできない。する気になれない。

すぐに辞めた。そういうのが何度も続いた。

仕事をすること自体が嫌いなわけではない。生活をするためには仕事をして稼がねばならないのは当たり前だとも思っている。

新聞配達員を選んだのは、そんな時で、何となく自分に合いそうに思えたからやという。

深夜に新聞を配達するだけやから、特に誰かと接触する必要もないと。

やり始めると、その予想どおりやったと知った。

配達時間は午前2時すぎからで、勤め先のオオタ新聞販売店に行くと、専業員たちが、折り込みチラシなどを入れて配達準備を終えて待ってくれている。

何も言わず、それを自分専用にあてがわれたバイクに積み込み配達する。2時間ほどで終わると、バイクを所定の所に片付けて帰るだけや。

誰かに患わされるようなことは、殆どなかった。

ショウヘイは、初めて自分に合う仕事を見つけられたと喜んだ。

その仕事を手放したくなかったので、誤配や不配などは極力しないように細心の注意をはらっていたし、急に休んだり遅刻したりということもまったくなかった。

朝の挨拶こそ、初めはぎこちなかったが、今では顔見知りで親切な人たちばかりということが分かっているためか、自然に「お早うございます」という言葉が口をついて出るまでになった。

新聞販売店では、早朝時、この挨拶くらいしか交わす言葉を必要としない。

配達指示書は、いつも新聞の上にあり、誰かが特に口うるさく指示するということもない。

皆、それを見て、黙々と配達準備を終えて販売店を飛び出す。

それぞれが自分の仕事を早く終わらせことしか考えてないから、あまりのんびり会話する気にはなれないのやろうと思う。

3ヶ月ほど経ったある日、ショウヘイの気真面目さを買った店長のタカサキが、「どや専業(正社員)にならへんか」と誘った。

給料は現在の3倍近くになるという。それ自体は悪い話ではない。

ただ、話を聞けば専業には集金業務と勧誘業務があるという。そうなると人と接触することが多くなる。

それはできないと思ったショウヘイは専業の話を断る代わりに、朝の配達部数を増やして貰えるよう進言した。

ショウヘイは200部程度配達していた。それを倍の400部でも構わないと。

そうすれば、現在手取りで8万円ほど貰っているのが倍の16万円ほどになる。ショウヘイにとっては、それで十分やった。
 
時間的にも、今まで配っていた地区は2時間以内で配り終えられるから、午前6時までに終わらせる事というオオタ新聞販売店で決められている配達終了時間内には余裕で終わらせられると踏んだということもある。

しかし、その選択がショウヘイにとっては、ちょっとした誤算になった。

ショウヘイはそれまで第5区を受け持っていたので、その隣、第6区の配達を希望した。

それについては店長のタカサキも喜んだ。渡りに船だと。

第6区のアルバイトの配達員は、ここ最近、なぜか皆、1ヶ月も経たずに辞めていくからやった。

ショウヘイも、そのことを知っていた。だからこそ、その地域を配りたいと進言したわけや。

ショウヘイが所属しているオオタ新聞販売店では紙受け時間、つまり新聞社の印刷工場から新聞が運ばれて来るのは午前1時すぎ。

ショウヘイはその時間に店に入って、他の専業たちと同じように折り込みチラシなどを入れて配達準備をする。

店長のタカサキの計らいで紙受けをして1時間程度余分に仕事をすれば月2万円別に手当をつけると言われたこともあるが、何より自分で配達準備をするわけやから、その分早く済ませて配達できるというメリットがある。

ショウヘイにとっては、そのことの方が有り難かった。

そこまでは何の問題もなかった。

問題は、新しく始めた第6区の配達区域に入ってから起こった。

第6区にある商店街に入ると他紙のバイク音が聞こえてきた。

それ自体は珍しいことではない。同時刻に同じような地域を配達する他紙の新聞配達員と、かち合うこともある。

「ヤマモト販売店か」

ショウヘイは、そのバイク音を聞いて、そう判断した。

新聞販売店により使っているバイクが違うというのは業界では、ありがちなことである。

たいていの新聞販売店では専属のバイク販売店兼修理屋というのがある。

同じバイク販売店でバイクを買うことがないわけではないが、なぜかその方が少ない。

バイク販売店の多くは専属のメーカーのバイクだけを売っている。バイク音が違う一番大きな要因はそれや。

少し配達に慣れた者なら、そのバイク音を聞くだけで、どこの新聞販売店のバイクかが分かる。

さらにベテランになれば、そのバイク音で、同じメーカーのバイクであっても、どこの新聞販売店の誰が乗っているバイクかまで分かるという。

同じメーカーのバイクでも年式や排気量の違いというのもあるし、それに乗る運転手の癖などの違いで見当がつくと。

さすがにショウヘイは、新聞配達員を始めてまだ3ヶ月ほどやったから、そこまでは判別できんかったが、ヤマモト新聞販売店の配達員が乗っているバイク音ということは分かった。

商店街を配達している時、ショウヘイはそのヤマモト新聞販売店の配達員が乗っていると思われるバイク音が、ずっと聞こえ続けていた。

ショウヘイは仕方のないことだとは思っていたが、あまり気持ちのいいものではなかった。

落ち着かない。

まるでお互いが競争でもしているかのような感じやったからや。

お互い別々の家に配達するわけやから、別に競争する必要はないが、気分としてどうしてもそうなりやすい。

結局、その商店街を過ぎると、そのバイク音はしなくなった。

「明日から配達の時間帯を変えよう」

そう、ショウヘイは思った。

いつものように第5区から配り始めて第6区に移ったが、それを逆にすればヤマモト新聞販売店の配達員とは配達の時間帯が違うはずやから、かち合うことはないと。

翌日、ショウヘイは予定どおり、第6区から配達を始めることにした。

そして、その商店街に差しかかった。

午前2時30分頃。

今日は大丈夫やと思うていたが、しばらくすると、またバイク音が聞こえてきた。

昨日と同じ、ヤマモト新聞販売店のものや。

そんなバカなと、ショウヘイは思った。

もし、そうなら、そのヤマモト新聞販売店の配達員も配達の時間帯を変えたことになる。

そんな偶然があるのか。

「待てよ……」

ショウヘイは、別の可能性を考えた。

それはヤマモト新聞販売店とは別の店の配達員が乗っているバイクではないかいうことや。

ショウヘイがヤマモト新聞販売店のバイクやと思うたのは、そのメーカー独特の排気音のためで、他の店がたまたま、そのメーカーのバイクを持っているという可能性も考えられないではない。

ショウヘイは、それを確かめるために、配達しながら、そのバイクの主を捜した。

音よりも相手を見て確認した方が早い。

音のする方向に向かったり、待ち受けたりしたが、その日は、ついにその配達員と出会うことはなかった。

ショウヘイに限らず、人は一度気になると、なかなかそのことから離れられなくなる。

是か非でも、その正体が知りたいと思う。

翌日も同じように、その商店街で先回りして待った。

しばらくすると、また同じバイク音がする。そのバイク音のする方向にバイクを走らす。

何度も、それを繰り返したが見つからない。

「声はすれども姿は見えず、ほんにおまえは屁のようだ」というのが昔からの講談や落語にあるが、そんな冗談の一つも言いたくなる。

しかし、それが冗談では済まない事やと知った。

そういうのが続くと少し気味が悪くなって、さすがに人と話すことが苦手なショウヘイでも、そのことを店長のタカサキに話さずにはいられなくなった。

ただ、そんな話をしても「そんなバカなことはない」と一蹴されるのは覚悟していた。

ショウヘイが逆の立場で同じような話を聞かされれば、間違いなく「何かの思い違い」、「たたまそうなっただけ」だと考えるはずだからだ。

少なくとも、まともには取り合わない。

ところが、その意に反して店長のタカサキから返ってきた言葉は、「お前もか」やった。

「どういうことです?」

「実はな……」

ショウヘイが、オオタ新聞販売店に勤め出す少し前、ヤマモト新聞販売店のイワミという男が、その商店街の中にある電柱に激突して死んだという事故があったという。

警察では単独の自損事故として扱われた。

当日、同じ時間帯に、その商店街で配達していたオオタ新聞販売店にミヤタという配達員がいた。

そのミヤタの話によると、イワミは配達時、良くミヤタのバイクをつけ回し、楽しんでいたと言う。タチの悪い男やったと。

その日、あまりにも、それが続くので腹を立てたミヤタが「いい加減にしろ!!」と怒鳴ったらしい。

すると、そのイワミは血相を変えて「何やと、この糞ガキ!! 殺(い)て、もうたらぁ!!」と、喚きながら追いかけて来た。

ミヤタは、そのイワミの血相に恐怖を覚え、その辺りの配達は後回しにして逃げ出したという。

後ろから、猛烈な勢いでイワミがバイクを飛ばして追いすがって来ていたため、ミヤタは逃げるのに必死になって、後ろを振り返る余裕がなかった。

どうも事故は、その時に起きたらしい。

ミヤタが、その事故があったらしいと気がついたのは、配達しそこなった、その辺りに新聞を配りに戻った時やった。

その時には、まだ電柱の横に壊れたバイクが放置されていた。電柱とその道路周辺に夥しい血が飛び散った跡が鮮明に残っていた。

朝の5時という早い時間にもかかわらず、近所の住人たちが数人出て来て屯(たむろ)していた。

その住人たちの話から、どうもイワミらしい男が運転を誤り、電柱に激突して大怪我をしたと知った。近所の人の通報で救急車で運ばれたと。

正直、ミヤタは「ざまあみろ、自業自得や」と思ったという。

その日の夕刊の配達時に、そのイワミが死んだと聞かされた。

大怪我程度なら、どんな怪我であろうと「自業自得」として、ほっておいてもどうということはなかったが、死んだとなると話は違ってくる。

イワミが暴走運転をした原因の一端がミヤタにもあるのは確かで、このまま警察に黙っているのは、まずいのではないかと考え、店長のタカサキに相談した。

「どうしましょうか」と。

「直接、その事故に関わっとらんのやったら、ほっとけ。イワミが事故を起こしたことすら知らんかったのなら、よけいや」と、店長のタカサキは言った。

ミヤタの話を聞けば、イワミは逆ギレして追いかけ回し、挙げ句に自爆しただけのことで、典型的な自業自得や。

ただでさえ、オオタ新聞販売店とヤマモト新聞販売店は仲が悪い。敬遠の仲と言うてもええ。

しよっちゅうトラブルを起こして睨み合っている。

それがあるために、イワミという配達員もミヤタに対してそういう行為に及んだと考えられる。

そんな状態で、わざわざ、火に油を注ぐような話をする必要はない。

ワシもタカサキの意見に賛成や。

どう見てもミヤタに責任のあるような話やない。

それに、警察が自損事故で片付けて終わっているところへ、そんな話を持ち込んでも、仕事の手間が増えるだけのことにしかならず、嫌な顔をされるのがオチやと思う。

これが第三者を巻き込んだ事故やというのならともかく、そうではない単純な自損事故の背景などに興味を示して調べ直す警察など、まず存在しない。

「前方不注意による追突」で適当に事故処理されて終わるのが普通や。実際にも事故の直接の原因はそれに間違いないやろうしな。

ミヤタが『このまま警察に黙っているのは、まずいのやないか』と気に病む必要はないということや。

「分かりました」

ミヤタも、それでいくらか気が楽になったという。

その翌日、ミヤタは、その商店街で、イワミが乗っていたバイク音が聞こえてきた。

最初は、ヤマモト新聞販売店の誰かが死んだイワミの代わりに配達しているのやろうと思ったが、よくよく考えて直してみると、イワミのバイクは壊れていて走れるような状態ではなかった。

あんな状態では修理する方が高くつくはずやから、おそらくは廃棄処分されとるはずや。

しかし、聞こえてくるのは間違いなくイワミのバイク音や。

ミヤタは、この道、10年のベテランで、バイクの音を聞いただけで、どこの販売店の誰が乗っているかは、だいたい見当がつく。

もちろん、その相手を知っているという前提での話やがな。

ミヤタは、念のために昨日、イワミが事故を起こしたという現場に向かった。

そこに行けば、ひょっとしたら、例のバイクが、まだ放置されたままかも知れないと考えたからや。

そうなら、単なるミヤタの聞き間違えで済む。昨日の今日やから、同じようなバイク音が、そう聞こえただけやと。

その現場に行って、ミヤタは凍りついた。

そこには、バイクに跨ってミヤタを凝視している異様な男がいた。

イワミやった。顔中血だらけになっているが、あのミヤタに間違いない。

「うわーっ!!」

ミヤタは、わけも分からず、そう叫んで逃げ出し、そのまま店を辞めてしまった。

店長のタカサキは、ミヤタは自分のせいでイワミが死んだと思い込むあまり、罪の意識に囚われすぎてしまい、そんなまぼろしを見たのやろうと思った。

しかし、その後、第6区を受け持った数人の配達員たちが皆、1ヶ月も持たず
辞めて行った。

その多くが、ショウヘイと同じようにバイク音に追いかけられたとか、イワミの亡霊を見たというものやった。

店長のタカサキは、そんな与太話は信じてなかった。

幽霊などいるわけがない。誰かがタチの悪い噂を流していたずらでもして楽しんでいるのやろうと思った。

おそらく、ヤマモト新聞販売店の連中や。連中なら、そのくらいはやりかねん。

ただ、これだけ続くというのは、単にいたずらしていると片付けるのも、どうかとは考えるようになった。

もし、いたずらをしているとなると、ショウヘイの場合、前日は午前4時頃で、次の日は午前2時30分頃に待ち受けてなあかんことになる。

そこまでするというのも考え辛いし、何よりショウヘイが自分で勝手に変えた配達順路をどうしてヤマモト新聞販売店の配達員が知っていたのかという問題もある。

あり得ないことや。

そして、真面目なショウヘイの言うことやから、おそらく、そのとおりのことが起こっているのも間違いないと思われる。

「そうですか。そんなことがあったんですか」と、ショウヘイ。

「どうする? 6区の配達は辞めとくか?」と、ヤマモト。

このまま、無理に第6区の配達を押しつけてショウヘイに店を辞められては、元も子もなくなると考えたから、そう提案した。

「いえ、僕も幽霊なんか信じていませんから、しばらく様子を見てみます」とショウヘイが言った。

そのショウヘイから、ワシらにメールが届けられた。


お久しぶりです。

あれから、すぐに例の商店街で、イワミ氏と思われる亡霊? を見かけました。

事情を知っていたからかも知れませんが、僕はそれほど怖いとは感じませんでした。

生きていた頃のイワミ氏だったら追いかけられて怖い思いをしたかも知れませんが、その亡霊? は、その場でただバイクに跨って、じっとこちらを見ているだけで、一向に動く気配がありません。

襲っても来ません。

本当に霊になっているのだとしたら地縛霊ということになるのでしょうが、それはそれで気の毒なような気さえします。

僕は、今まで生きていてもずっと孤独だったということもあり、生きている亡霊、地縛霊だったような気がします。

それでも、今のイワミ氏のようにその場に佇むことしかできないより良いです。自由に動き回れますし、今は働く喜びにも浸れています。

今こうしてゲンさんやハカセさんたちともコンタクトを取ることもできます。店長やお店の人達も親切にしてくれるので、今は孤独ではありません。

正直言って、初めてイワミ氏の亡霊らしきものを見た時は本当に怖かったですが、すぐに慣れました。というより慣れるようにしました。

本当に霊がいて霊の世界があるのか、ただの錯覚で何かまだ説明のできない現象なのかも知れませんが、世の中には僕などの思いもしない不思議なことがあるものだと思えば納得もできます。

それに、そのことはゲンさんやハカセさん以外には誰も話していません。話しても誰も信じてもらえませんけどね(笑)。

店長には、「あれから何も起きていません」とだけ言っています。

どちらにしても、今は楽しく新聞配達しています。そうできるのは、イワミ氏の亡霊のおかげかも知れないと思うと、最近は感謝すらしているくらいです。

そう思って月に一度の命日に、例の事故のあった電柱の下に小さな花束をそっと置いています。

そのせいかどうかは知りませんが、最近はバイクの音もあまり聞こえなくなり、
イワミ氏の亡霊も見かけなくなりました。

これも霊が癒やされて成仏したためか、単に僕には見えなくなってしまっただけなのかは分かりませんが、何となく淋しい気持ちになっています。

幽霊が見えなくなって淋しいなんて、自分でも変な人間だと思うのですが、ゲンさんやハカセさんは、どう思われますか。

それでは何かあったら、また連絡しますね。


と。

ワシは、こういった幽霊話を紹介する度に、いつも決まって言うことがある。

怪談話には作り話もあれば与太話の類も多い。勘違いや思い違いもある。笑い話になるようなものも多い。

そして、それだけでは説明のつかん話も、また存在すると。

本当のところ事実か事実でないかは当事者にしか分からんと思う。

ワシらは、それが事実やと言われれば「そうか」と頷くし、「そんなのはウソや」と言われれば、その意見も尊重する。

ここに届けられるメールの内容に肯定も否定もしない。

ただ、質問されたら、ワシらなりの返答はするがな。

例えば、このショウヘイのように『幽霊が見えなくなって淋しいなんて、自分でも変な人間だと思うのですが、ゲンさんやハカセさんは、どう思われますか』という質問であれば、


確かに変と言えば変やが、今まで送って来られた幽霊話、ワシが実際に体験した話などを総合すれば、普通では考えられんことが起きとるのは事実やと思う。

人はそれを論理的、合理的に説明することができんさかい、幽霊や神仏といったもので納得しようとするのやないかと考える。

実のところ人類は何でも分かった風に装っているが、本当に解明したと言えるようなものは少ないのやないかと思う。

あんたの話にしても「そんなアホなことがあるかいな」と一笑に伏すのは簡単やが、ワシにはそう言えるだけの根拠は何もないさかい、そういうことがあったと言われれば、「そうか」と答えるしかない。

その話を掲載することで、その判断を読者に委ねるだけや。


と答えることにしている。

それで良ければ、こういった話をお持ちの方はいつでも歓迎するので送って頂けばと思う。


読者感想 四つ葉のクローバーの声が聞こえる少女の話   


投稿者 投稿者 Sさん  投稿日時 2012.8. 3 AM 8:59


さて、怪談話ではなく、科学では説明できない話題です、

関西には【探偵ナイトスクープ】という番組がありまして、常に20%近い視聴率を関西で保持、そのなかの放映です。

五歳くらいの女の子なんですが、公園などで四つ葉のクローバーから、聞こえてくると。


クローバーの密集のなかで、スタスタと四つ葉に近づくと、あったよ、と。

▼探偵!ナイトスクープ 7月27日 動画
http://video.fc2.com/content/20120728BQANB157

この番組は、ヤラセはしません。

他の子どもにも四つ葉を探させても、無理なのです。

四つ葉のクローバーが呼ぶそうです。

科学では説明できないことがあるんだ、と感じた次第でした。


コメント ハカセ


メルマガのご感想、まことにありがとうございました。

私もその動画を見ましたが、驚きました。動画を見る限り、疑う余地はなさそうですね。

やらせがあるとしたら、事前に四つ葉のクローバーの在処を少女に教えておくくらいですが、それにしても10数ヶ所以上、間違いなくその場所を覚えるというのは相当記憶力のある人でも難しいと思います。

もし、仮にそうであったとしたら、それはそれで別の意味ですごいことです。驚異的な記憶力を持った5歳児ということになります。

また、その場合、テレビスタッフは事前にその準備をしなければいけないわけですので、それ相応の手間暇がかかり、仕込むだけでも大変です。

普通、公園でボール遊びをしているだけでも草むらに入り込んだ白いボールを見失い、探し出すのに難儀することがありますからね。

今日びの低予算傾向にあるテレビ局が、そこまでするとも考えにくいですしね。それよりも、事実をそのまま追いかけて、例えだめでも、ごまかした放送をする方が簡単だとテレビ局側は考えるのではないでしょうか。

今日は不調だったとか、ここには四つ葉のクローバーがないから反応できないといった感じで。

以上が、私のやらせの可能性が低いという理由です。

その番組の中で専門家が、「そういうこともあり得る」と言っているところをみると、他にも、そういった不思議な力を持った子供さんがいるのでしょう。

Sさんの仰るとおり「科学では説明できないことがあるんだ」と納得するしかありません。

ただ、その事実があると納得した上でのことですが、その5歳の女の子が「四つ葉のクローバーが呼んでいる」というのは少し違うような気が私にはしています。

もちろん、その5歳の女の子がそう聞こえている、そう感じているのは事実でしょう。それを疑っているわけではありません。

私は、動植物の生態について多少興味があっていろいろ調べることも多いのですが、すべての動植物は自らの命を永らえるため、あるいは種を存続させることのみのために、その生涯を費やします。

そうであるなら、四つ葉のクローバーが少女を呼んでいるというのは、自殺行為になります。少女は、その四つ葉のクローバーをつみ取り傷つけるわけですからね。それで死ぬ個体もあるでしょう。

四つ葉のクローバーにとって、そうされて得るものは何もないと考えます。むしろ、そんな危険な能力を秘めた存在が近づいてくれば、逆に黙ってしまうのが自然ではないでしょうか。

四つ葉のクローバーが幸せを呼ぶというのは人間が勝手に作った妄想で、四つ葉のクローバーたちにとっては、つみ取られることは死を意味します。

つまり、その少女は死をもたらす者でしかないということです。

これは、あくまでも私の仮説なのですが、実際には、その四つ葉のクローバーが呼んでいるのではなく、周りの三つ葉のクローバーたちが呼んでいるのではないでしょうか。

四つ葉のクローバーは、三つ葉のクローバーたちにとっては異端で、本来好ましくない種ではないかと思われます。

自然は異端を極端に嫌います。その異端である四つ葉のクローバーを除外するために、周りの三つ葉のクローバーたちが少女を呼んでいるとした方が納得できそうです。

四つ葉のクローバー1本の周りには、数十、数百本の三つ葉のクローバーがあるわけですから、クローバーと少女の波長が合うとすれば、より数の多い方が、声というか波長が届きやすいと思います。

もちろん、これは私の仮説でしかありませんが。

そして、そうであったとしても、その5歳の少女の特殊能力が存在しているということには疑いの余地はないわけです。

ただ、そういう風に考えると、自然界でも「いじめ」があるということになって、何か釈然としませんがね。

まあ、これは私の戯言として聞き流してください。確たる根拠に基づいて言っていることではありませんから。

それでは、何かありましたら今後ともよろしくお願い致します。


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